特許第5871241号(P5871241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871241切削装置、試料採取システム、試料採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871241
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】切削装置、試料採取システム、試料採取方法
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20160216BHJP
   B23B 51/04 20060101ALI20160216BHJP
   B23B 47/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   B28D1/14
   B23B51/04 S
   B23B47/00 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-140168(P2013-140168)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-13394(P2015-13394A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】海藤 ひろみ
【審査官】 福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−201107(JP,A)
【文献】 特公平03−017036(JP,B2)
【文献】 特開昭61−251742(JP,A)
【文献】 特開昭60−100737(JP,A)
【文献】 特開平06−159895(JP,A)
【文献】 特開2012−002169(JP,A)
【文献】 特開平02−136061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/00− 7/04
B23B 51/00−51/14
B23B 35/00−49/06
E21B 25/00
G01N 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削対象物から円柱状の試料を採取するための切削装置であって、
ハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、
基部が前記回転軸に装着され、前記基部から筒状に延びる筒状ビット部を有する切削ビットと、
前記回転軸を回転駆動させる駆動源と、
前記回転軸および前記切削ビットの前記基部を貫通して、前記切削装置の上部から前記筒状ビット部内まで連通した貫通部と、
を備え、
前記貫通部に中空の管体が挿通可能とされ
前記貫通部の内周面に、前記回転軸よりも熱伝導率の低い材料から形成されたリング状の管体支持部材が設けられていることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記管体支持部材により、前記管体が前記回転軸に対し、前記回転軸の中心軸方向に相対移動可能に支持されていることを特徴とする請求項に記載の切削装置。
【請求項3】
前記管体は、先端部が前記基部から前記筒状ビット部内に突出するよう配置されていることを特徴とする請求項又はに記載の切削装置。
【請求項4】
切削対象物から円柱状の試料を採取する試料採取システムであって、
前記切削対象物に対して接近・離間する方向に相対移動可能に設けられたハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、
基部が前記回転軸の先端部に装着され、前記基部から筒状に延びる筒状ビット部を有する切削ビットと、
前記回転軸を回転駆動させる駆動源と、
前記切削ビットの前記筒状ビット部内に、外部の液化冷媒供給源から供給される液化冷媒を送り込む冷媒供給管と、
を備えていることを特徴とする試料採取システム。
【請求項5】
前記冷媒供給管の先端部に、前記液化冷媒を前記筒状ビット部の内周壁面に掛ける液化冷媒案内部が形成されていることを特徴とする請求項に記載の試料採取システム。
【請求項6】
前記液化冷媒案内部として、前記冷媒供給管の前記先端部が、前記筒状ビット部の内周壁に向けて湾曲または折曲して設けられていることを特徴とする請求項に記載の試料採取システム。
【請求項7】
前記液化冷媒案内部として、前記冷媒供給管の前記先端部に対向して、前記筒状ビット部の中心軸に直交するプレート状のガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項に記載の試料採取システム。
【請求項8】
請求項に記載の試料採取システムを用いた試料採取方法であって、
前記駆動源により前記回転軸とともに前記切削ビットを回転させつつ、前記ハウジングを前記切削対象物に接近させる工程と、
前記冷媒供給管から前記筒状ビット部内に前記液化冷媒を送り込み、前記切削対象物の少なくとも一部を冷凍固化させながら、前記切削ビットにより前記切削対象物を切削する工程と、
を備えることを特徴とする試料採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円柱状の試料を採取するのに用いる切削装置、試料採取システム、試料採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋蔵されている鉱物資源や、天然ガス等の炭化水素系資源の調査のため、岩盤や岩塊から試料コアを採取し、この試料コアからさらに円柱状の試料を採取することがある。
このような試料の採取は、円筒状の切削ビットを切削装置の先端に装着し、切削ビットをその中心軸周りに回転させながら岩盤や岩塊から採取した試料コアに押し付け、この試料コアを切削していくことによって行われる。
また、コンクリートなどの人工物でも、たとえばアルカリ度などの組成分布を測定するために同様の処理が行われることがある。
【0003】
ところで、上記切削ビットのような切削刃で切削を行う際には、切削対象との摩擦によって温度上昇する切削刃の冷却作用、切削対象との摩擦を軽減する潤滑作用、切削対象を切削することによって生じた切り粉の排出作用を得るために、水や油を切削刃と切削対象との間に供給することが広く行われている。
【0004】
特許文献1には、さらに高い冷却作用を得るため、中空状のドリルビットを通してドリルビット先端部に液化ガスを供給する構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ビットを先端に有する工具と回転軸とが円筒状に設けられて、回転軸内に、液体窒素やドライアイスを通したり、圧縮ガスを断熱膨張させることで、工具やモータを冷却する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−237214号公報
【特許文献2】特開2002−51586号公報(段落0063)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、岩盤や岩塊から切り出した試料コア等の切削対象から、円筒状の切削ビットでさらに分析用の円柱状の試料を採取する場合に、水や油を用いると、切削対象が砂岩等のもろいものである場合に、水や油が切削対象に浸透し、切削時に切削対象自体が崩れてしまい、試料が採取できないことがある。
また、水や油を切削対象中に浸透すると、サンプルによっては水や油によって試料に含まれる成分が溶解し、内部組成が変わってしまうという問題もある。例えばコンクリートの組成分布を調査する場合、水によるアルカリ分の溶解により特に表面や切削部の組成が変化してしまう恐れがある。
【0008】
これに対し、特許文献1,2のように、液化ガス、液体窒素、ドライアイス等を用いることによって、上記したような問題は回避可能となっている。
しかし、液化ガス、液体窒素、ドライアイス等の極低温の媒体をドリルビットや工具、回転軸に通すと、ドリルビットや回転軸を回転自在に支持する軸受等が凍結してしまい、損傷してしまうことも考えられる。そこで、これらの部品を、極低温に耐えうるものとしなければならず、その結果、装置コストの上昇を招く。
そこでなされた本発明の目的は、切削対象物から試料を確実に採取するとともに、切削装置の高コスト化を抑えることのできる切削装置、試料採取システム、試料採取方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、切削対象物から円柱状の試料を採取するための切削装置であって、ハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、基部が前記回転軸に装着され、前記基部から筒状に延びる筒状ビット部を有する切削ビットと、前記回転軸を回転駆動させる駆動源と、前記回転軸および前記切削ビットの前記基部を貫通して、前記切削装置の上部から前記筒状ビット部内まで連通した貫通部と、を備え、前記貫通部に中空の管体が挿通可能とされ、前記貫通部の内周面に、前記回転軸よりも熱伝導率の低い材料から形成されたリング状の管体支持部材が設けられていることを特徴とする。
この切削装置によれば、駆動源により回転軸を回転駆動させることによって切削ビットを回転させながら、切削対象物を切削することで、切削対象物に円筒状の切り込みを形成することができる。貫通部には、中空の管体を挿通させることができる。この中空の管体に、液化窒素、液化アルゴン等の液化冷媒の供給源を接続し、この供給源から液化冷媒を供給すると、切削ビット内に液化冷媒を送り込むことができる。この液化冷媒により、切削ビット内で切削対象物が冷却され、冷凍固化する。また、液化冷媒により、切削ビットと切削対象物との間の潤滑、切削対象物の切削によって生じる切り粉の排出、切削ビットの冷却が行われる。
また、液化冷媒が通る中空の管体が貫通部に挿通されることで、回転軸が液化冷媒に直接接触して冷却されることがなく、回転軸の周囲の軸受等の部品の温度低下を抑えることができる。これにより、軸受等に極低温に対応可能な高価な部品を用いることなく、装置コスト上昇を抑えることができる。
さらに、貫通部の内周面に、回転軸よりも熱伝導率の低い材料から形成されたリング状の管体支持部材が設けられているので、管体を貫通部内で支持しつつ、管体を通る液化冷媒から回転軸への伝熱をさらに抑えることができる。
【0011】
本発明においては、前記管体支持部材により、前記管体が前記回転軸に対し、前記回転軸の中心軸方向に相対移動可能に支持されているようにしてもよい。
これにより、液化冷媒の供給源に接続される管体は固定状態のまま、ハウジング、回転軸、および切削ビットを切削対象物に接近させて切削を行うことができる。
【0012】
本発明においては、前記管体は、先端部が前記基部から前記筒状ビット部内に突出するよう配置されているようにしてもよい。
これにより、切削ビットの基部を介して回転軸側が液化冷媒によって冷却されるのを抑えることができる。
【0013】
本発明は、切削対象物から円柱状の試料を採取する試料採取システムであって、前記切削対象物に対して接近・離間する方向に相対移動可能に設けられたハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、基部が前記回転軸の先端部に装着され、前記基部から筒状に延びる筒状ビット部を有する切削ビットと、前記回転軸を回転駆動させる駆動源と、前記切削ビットの前記筒状ビット部内に、外部の液化冷媒供給源から供給される液化冷媒を送り込む冷媒供給管と、を備えていることを特徴とする。
この試料採取システムによれば、駆動源により回転軸を回転駆動させることによって切削ビットを回転させながら、切削対象物を切削することで、切削対象物に円筒状の切り込みを形成することができる。冷媒供給管に、液化冷媒供給源から切削ビットの筒状ビット部内に液化冷媒を供給することによって、切削ビット内で切削対象物が冷却され、冷凍固化する。また、液化冷媒により、切削ビットと切削対象物との間の潤滑、切削対象物の切削によって生じる切り粉の排出、切削ビットの冷却が行われる。
また、冷媒供給管を通して液化冷媒を送り込むことによって、回転軸が液化冷媒に直接接触して冷却されることがなく、回転軸の周囲の軸受等の部品の温度低下を抑えることができる。
【0014】
本発明においては、前記冷媒供給管の先端部に、前記液化冷媒を前記筒状ビット部の内周壁面に掛ける液化冷媒案内部が形成されているようにしてもよい。
これにより、筒状ビット部の内周面に沿って液化冷媒を流すことができる。
【0015】
また、本発明においては、前記液化冷媒案内部として、前記冷媒供給管の前記先端部が、前記筒状ビット部の内周壁に向けて湾曲または折曲して設けられているようにしてもよい。
これにより、筒状ビット部の内周面に沿って液化冷媒を流すことができる。
【0016】
本発明においては、前記液化冷媒案内部として、前記冷媒供給管の前記先端部に対向して、前記筒状ビット部の中心軸に直交するプレート状のガイド部材が設けられているようにしてもよい。
これによっても、ビット部の内周面に沿って液化冷媒を流すことができる。
【0017】
本発明は、上記した試料採取システムを用いた試料採取方法であって、前記駆動源により前記回転軸とともに前記切削ビットを回転させつつ、前記ハウジングを前記切削対象物に接近させる工程と、前記冷媒供給管から前記筒状ビット部内に前記液化冷媒を送り込み、前記切削対象物の少なくとも一部を冷凍固化させながら、前記切削ビットにより前記切削対象物を切削する工程と、を備えることを特徴とする。
この試料採取方法によれば、切削ビット内で切削対象物が冷却され、冷凍固化するので、切削対象が崩れるのを防いで試料を確実に採取できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切削対象物から試料を確実に採取するとともに、切削装置の高コスト化を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態にかかる試料採取システムの構成を示す立断面図である。
図2図1に示した試料採取システムで切削対象物を切削している状態を示す立断面図である。
図3図1に示した試料採取システムで切削対象物の切削が完了した状態を示す立断面図である。
図4】本実施形態にかかる試料採取システムの他の例を示す立断面図である。
図5】本実施形態にかかる試料採取システムのさらに他の例を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明による切削装置、試料採取システム、試料採取方法を実施するための形態を説明する。しかし、本発明はこの実施形態のみに限定されるものではない。
図1は、本実施形態にかかる試料採取システムの構成を示す立断面図である。図2は、図1に示した試料採取システムで切削対象物を切削している状態を示す立断面図である。図3は、図1に示した試料採取システムで切削対象物の切削が完了した状態を示す立断面図である。
図1に示すように、試料採取システム10は、切削装置20と、切削装置20に液体窒素等の液化冷媒を供給する液化冷媒供給装置60と、を備えている。
【0021】
切削装置20は、基台21と、切削装置本体30と、を備えている。
基台21は、その上面に切削対象物100を載置できるようになっている。基台21の上方には、プレート状のステージ23が基台21の上面21aと平行に配置されている。このステージ23は、基台21から直交して上方に延びるガイド支柱24に沿って移動自在に設けられている。ステージ23は、不図示のステージ駆動機構によってガイド支柱24に沿って移動し、これによって、基台21に対して接近・離間する方向に昇降可能とされている。
【0022】
切削装置本体30は、ステージ23に支持されたハウジング31と、ハウジング31に回転自在に支持され、先端部に切削ビット50が着脱自在に装着される回転軸32と、回転軸32を回転駆動させるモータ(駆動源)33と、を備えている。
【0023】
ハウジング31は、上下方向に延びる中心軸Cに沿って連続する筒状をなしている。ハウジング31の上下方向中間部の外周面には、外周側に張り出すフランジ部31fが形成されている。ハウジング31は、ステージ23に形成された貫通孔23hに挿入され、フランジ部31fがステージ23の上面23aに突き当たり、下端部31cがステージ23よりも下方に突出した状態で設けられ、さらに図示しない複数のボルトなどからなる連結手段で、ステージ23とハウジング31は固定される。
【0024】
また、ハウジング31の内周面の上部と下部には、円環状の軸受37,37の外輪37a,37aが嵌め込まれている。上下の軸受37,37間には、筒状のスペーサ34Sが設けられている。このスペーサ34Sにより、上下の軸受37,37の間隔が一定に保持されている。
さらに、ハウジング31の上部開口31a、下部開口31bには、中央部に貫通孔35h,36hが形成された上部キャップ35,下部キャップ36が取り付けられている。上部キャップ35,下部キャップ36が上下の軸受37,37に突き当たることで、軸受37,37の上下方向における位置が固定されている。
【0025】
回転軸32は、上下方向に延びる中心軸Cに沿って連続し、ハウジング31内の軸受37,37の内輪37b,37bに嵌め込まれることにより、ハウジング31の中心軸C周りに回動自在に支持されている。この回転軸32は、その下端部が、下部キャップ36の貫通孔36hを通してハウジング31の下方に突出する長さを有している。
また、上部キャップ35と、回転軸32には、その中央に上下方向に連続するチューブ挿通孔38A,38Bが貫通形成されている。チューブ挿通孔38A,38Bには、後述する冷媒供給チューブ61が挿通される。チューブ挿通孔38A,38Bには、ナイロン樹脂等、回転軸32よりも摩擦係数および熱伝達率の低い材料からなる円筒状のパイプガイド(管体支持部材)39が必要に応じて設けられている。
【0026】
以下の駆動機構は、上述の通り、回転軸32内に連続するチューブ挿入孔38A,38Bを形成し、かつ、回転軸32を回転させるものであれば特に限定されるものではない。
たとえば回転軸32において、ハウジング31よりも下方に突出した部分には、従動プーリ40が設けられている。
回転軸32を回転駆動させるモータ33は、ステージ23上において、回転軸32の中心軸Cに直交する方向にオフセットして、ハウジング31に隣接した位置に固定されている。モータ33の駆動軸33sは、ステージ23に形成された貫通孔23iを通してステージ23の下方に突出している。駆動軸33sには、円板状の駆動プーリ41が設けられている。
そして、回転軸32の従動プーリ40と、モータ33の駆動プーリ41との間には、駆動ベルト42が架け渡されている。このようなモータ33、駆動プーリ41、従動プーリ40、駆動ベルト42からなる駆動機構において、モータ33を作動させると、モータ33の駆動軸33sの回転が駆動プーリ41、駆動ベルト42、従動プーリ40を介して回転軸32に伝達され、回転軸32が中心軸C周りに回転駆動される。
このように、回転軸32の中心軸から側方にオフセット配置し、回転軸32を駆動させる動力源を設けることで、回転軸32内にチューブを挿通する構造を容易に実現できる。
【0027】
また、回転軸32の下端部(先端部)には、切削ビット50を装着するビット装着部45が設けられている。ビット装着部45は、所定の規格に対応した形状を有したチャックや、ネジ部によって形成することができる。このビット装着部45には、切削ビット50の頭部(基部)51を装着するための装着凹部45aが形成されている。この装着凹部45aには、回転軸32のチューブ挿通孔38Bの下端部が開口している。
【0028】
切削ビット50は、装着凹部45aに嵌まり込むチャックやネジ部を有した頭部51と、頭部51から円筒状に延びる筒状ビット部52とを有している。
ここで、頭部51は、その外形形状が、チャックやネジ部を有した装着凹部45aに嵌まり込むよう形成されている。筒状ビット部52は、頭部51の下端部に一体に形成された円板状のプレート部52aと、プレート部52aの外周部から、頭部51とは反対側に延びる円筒状の周壁部52bと、周壁部52bの先端部に周方向に連続して形成された切削刃部52cと、を有している。プレート部52aおよび周壁部52bは、その外径が、頭部51および回転軸32よりも大きくなるよう形成されている。
また、切削ビット50の頭部51には、切削ビット50を装着凹部45aに装着した状態で一端がチューブ挿通孔38Bに連続し、他端が筒状ビット部52内に臨むよう、ビット側チューブ挿通孔44が形成されている。
【0029】
このようにして、切削装置本体30には、上部キャップ35と回転軸32に貫通形成されたチューブ挿通孔38A,38Bと、切削ビット50の頭部51に形成されたビット側チューブ挿通孔44とによって、上下方向に貫通するチューブ挿通部(貫通部)46が形成されている。
【0030】
液化冷媒供給装置60は、チューブ挿通部46に挿通された冷媒供給チューブ(中空の管体、冷媒供給管)61と、液化冷媒を貯蔵した液化冷媒供給源62と、液化冷媒供給源62と冷媒供給チューブ61とを連結する連結配管63と、連結配管63に設けられた開閉バルブ64と、を備えている。冷媒供給チューブ61は、上下方向に所定長を有した、例えば断面円形の鋼製チューブからなり、チューブ挿通部46を貫通し、その先端部61bが、切削ビット50の筒状ビット部52の内方に突出し、上端部61aが回転軸32よりも上方に突出するよう設けられている。
ここで、冷媒供給チューブ61は、チューブ挿通孔38A,38B内において上下に設けられたパイプガイド39,39により、上下方向に相対移動可能であるとともに、中心軸C周りに相対回動自在な状態で支持されている。この冷媒供給チューブ61は、不図示のステー等を介して、基台21に固定的に設けられている。つまりステージ23とともに、切削装置本体30のハウジング31、回転軸32、モータ33が昇降・回転しても、冷媒供給チューブ61はこれらと一体には昇降・回転せず、固定されている。このため、冷媒供給チューブ61は、前記のパイプガイド39により、回転軸32の昇降による上下方向への相対移動と、回転軸32の相対回転とを許容できる構成となっている。
【0031】
冷媒供給チューブ61は、その上端部61aに接続された連結配管63を介して、液化冷媒を貯蔵したボンベやタンク等の液化冷媒供給源62に接続されている。本実施形態において、液化冷媒供給源62には、液化冷媒として、液化窒素または液化アルゴンが貯蔵されている。
連結配管63には、開閉バルブ64が備えられており、液化冷媒供給源62からの液化冷媒の供給を断続できるようになっている。
【0032】
次に、上記したような構成からなる試料採取システム10における切削対象物100からの試料切り出し方法について説明する。
試料採取システム10において、切削対象物100から試料を切り出すには、まず、基台21上に切削対象物100とベース板110を固定保持手段(図示せず)でセットする。このとき、ステージ23は上昇させておき、切削ビット50を切削対象物100の切削位置の上方に退避させておく。冷媒供給チューブ61は、例えば先端部61bを切削対象物100に近付けた状態で固定しておく。
【0033】
次いで、モータ33を作動させることによって、回転軸32とともに切削ビット50を中心軸C周りに回転駆動させる。
また、開閉バルブ64を開き、液化冷媒供給源62から連結配管63を介し、冷媒供給チューブ61の先端部61bから、液化冷媒を切削ビット50の筒状ビット部52の内方に噴出させる。液化冷媒の噴出は、切削刃部52cを切削対象物100に近付けてから行うとよい。
そして、ステージ23を下降させていき、切削ビット50の切削刃部52cで切削対象物100を切削する。このとき、切削装置本体30およびモータ33がステージ23とともに下降するのに対し、冷媒供給チューブ61は下降しない。
【0034】
図2に示すように、切削刃部52cを回転させながら下降させていくことによって、切削対象物100には、円筒状の切れ目101が形成されていく。
このとき、切削ビット50内に噴出される液化冷媒により、切削ビット50の内方の切削対象物100が冷却される。液化冷媒に、極低温の液化窒素を用いることによって、切削中に、切削対象物100が冷凍されて固化する。溢れ出た液化冷媒と切りくずはオイルパン様のガイド手段111で周囲への散乱を防止し、排出口112よりバキュームで吸い取る。
なお、液化冷媒はコストおよび温度から、通常液体窒素を用いるが、用途によっては液体アルゴンやヘリウムを用いることを妨げるものではない。
【0035】
図3に示すように、切削刃部52cが切削対象物100の上面に接触してから下方に所定寸法下降した時点で、ステージ23を上昇させ、切削ビット50の切削刃部52cを切れ目101から引き抜く。
そして、モータ33の作動を停止し、回転軸32および切削ビット50の回転を停止させる。これとともに、開閉バルブ64を閉じ、液化冷媒の切削ビット50内への噴出を停止させる。
【0036】
しかる後、切削対象物100において、円筒状に形成された切れ目101の下方の部分を抜き取ることによって、円柱状の試料102が採取できる。
【0037】
上述したようにして、切削ビット50の内方に液化冷媒を供給することにより、切削対象物100を冷凍固化させて、切削中に崩れたり、切削対象物100に含まれる水溶性の高いものが溶解するのを防ぐことができ、円柱状の試料102を確実に採取することができる。
【0038】
また、回転軸32を回転駆動させるモータ33を、回転軸32とは同軸上に配置せずに、回転軸32の側方に配置する構成としたことで、チューブ挿通孔38A,38Bおよびビット側チューブ挿通孔44からなるチューブ挿通部46を形成し、ここに冷媒供給チューブ61を挿通させることが可能となっている。そして、液化冷媒は、ステンレス製の冷媒供給チューブ61を通るため、回転軸32や軸受37が直接冷却されず、これらが凍結するのを抑えることができる。これにより、切削装置本体30の損傷を防ぎ、切削装置本体30の信頼性を向上させるとともに、軸受37の凍結を抑えて、軸受37の部品コスト上昇を抑えることができる。
加えて、冷媒供給チューブ61は、回転軸32よりも熱伝達率の低い材料からなるパイプガイド39を介してハウジング31に支持されている。このため、冷媒供給チューブ61内の液化冷媒の熱がハウジング31側に伝わりにくく、この点においても、回転軸32や軸受37の凍結を確実に防ぐことができる。
【0039】
さらに、液化冷媒により、切削ビット50の冷却作用、切削ビット50と切削対象物との間の潤滑作用、切り粉の排出作用も得られる。
【0040】
(その他の実施形態)
なお、本発明の切削装置、試料採取システム、試料採取方法は、図面を参照して説明した上述の各実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、冷媒供給チューブ61の先端部61bから、液化冷媒を切削ビット50内に噴出するようにしたが、図4に示すように、液化冷媒案内部80として、先端部61bを切削ビット50の周壁部52bの内周面に向けて湾曲または折曲させて設けてもよい。これにより、冷媒供給チューブ61の先端部61bから、液化冷媒がビット50の周壁部52bに向けて噴出される。
すると、液化冷媒は、回転する切削ビット50の周壁部52bの全周に掛けられつつ周壁部52bに沿って下方に流れ、切削ビット50がより効率良く冷却されるとともに、液化冷媒により切削対象物100の切れ目101の外周側から冷凍固化させることができる。したがって、切削対象物100から採取される試料102の外周部を確実かつ効率良く冷却することができる。
【0041】
また、図5に示すように、冷媒供給チューブ61の先端部61bを下方に向けつつ、先端部61bの鉛直下方に、液化冷媒が切削ビット50の周壁部52bに向けて流れるように、液化冷媒案内部80として、冷媒供給チューブ61および切削ビット50の中心軸Cに直交するプレート状のガイド部材70を設けるようにしてもよい。これによっても、冷媒供給チューブ61の先端部61bから噴出された液化冷媒は、回転する切削ビット50の周壁部52bの全周に掛けられつつ周壁部52bに沿って下方に流れるようになる。このような構成においても、切削対象物100から採取される試料102の外周部を確実かつ効率良く冷却することができる。
【0042】
これ以外にも、例えば冷媒供給チューブ61の先端部を複数に分岐させたり複数の開口を形成してこれらを切削ビット50の周壁部52bに向ける等、適宜の構成の液化冷媒案内部80により、液化冷媒を切削ビット50の周壁部52bに向けて案内するようにしてもよい。
【0043】
上記実施形態においては、回転軸32をモータ33によって一方向にのみ回転させるようにしたが、モータ33の制御により、回転軸32および切削ビット50の回転方向を一方向と他方向とに切り替えるようにしてもよい。
また、モータ33の回転を、従動プーリ40、駆動プーリ41、駆動ベルト42を介して回転軸32に伝達するようにしたが、これに限らず、ギヤ(歯車)等を介して伝達するようにしてもよい。
【0044】
また、冷媒供給チューブ61を、回転軸32および切削ビット50に対して上下方向に相対移動自在に支持するようにしたが、例えば、連結配管63を、可撓性を有する材料で形成するようにすれば、冷媒供給チューブ61を、回転軸32および切削ビット50に対して固定的に設け、これらと一体に移動するようにすることもできる。
冷媒供給チューブ61を液化冷媒供給装置60から分離して切削装置20に含めた構成としてもよい。
【0045】
さらに、上記実施形態で説明した試料採取システム10の一連の動作は、試料採取システム10をオペレータが手動操作することによって実施してもよいし、試料採取システム10の制御部(不図示)に予め記憶されたコンピュータプログラムに基づいて自動的に実施されるようにしてもよい。
加えて、上記実施形態では、試料採取システム10において、基台21上にセットした岩塊を切削対象物100として、円柱状の試料102を採取するようにしたが、地盤を形成する岩盤を切削対象物100として、上記切削装置20により円柱状の試料102を採取するようにしてもよい。
また、切削対象物100の種類については、何ら限定するものではない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 試料採取システム
20 切削装置
31 ハウジング
32 回転軸
33 モータ(駆動源)
39 パイプガイド(管体支持部材)
46 チューブ挿通部(貫通部)
50 切削ビット
51 頭部(基部)
52 筒状ビット部
61 冷媒供給チューブ(中空の管体、冷媒供給管)
70 ガイド部材
80 液化冷媒案内部
100 切削対象物
図1
図2
図3
図4
図5