(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記集束点は、前記被検査材の中心及び前記一次元アレイ型超音波探触子の中心を通る直線上に位置するように決定されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する複数の振動子は略円弧状に配列され、その円弧の中心が前記被検査材の中心よりも前記各一次元アレイ型超音波探触子から離間した位置となるように前記各一次元アレイ型超音波探触子は配置され、
前記集束点は、前記被検査材の中心よりも前記各一次元アレイ型超音波探触子に近い位置となるように、且つ、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する振動子のうち両端に位置する振動子から前記集束点に向かう超音波の偏角が該両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内となるように決定されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の超音波探傷装置。
前記被検査材がその長手方向に搬送される際の該被検査材の断面の位置変動に応じて前記各一次元アレイ型超音波探触子の位置を変動させることで、前記各一次元アレイ型超音波探触子と前記被検査材との相対的な位置関係を一定に保持する追従機構を更に備えることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の超音波探傷装置。
【背景技術】
【0002】
丸棒鋼や丸鋼片の超音波探傷としては、全断面における表面近傍のきず(方向性きずを含む)及び内部きずを検出可能なことが望まれている。また、幅が数百μm程度の微小なきずを検出できるような高いきず検出能が要求され、なお且つ、高い生産性を確保するために高速探傷も同時に要求されている。
また、丸棒鋼は、最終製品として使用されることは稀で、引き続き二次加工、三次加工を経て最終製品に成形される場合が多い。このため、丸棒鋼できずが検出された場合に、表面近傍のきずであれば表面を研削し、研削で除去できない中心近傍のきずあれば廃却処分にする。また、丸鋼片の場合には、中心近傍にきずが検出されても中心を刳り抜き、その後製管に用いることができる場合もある。このように、きずが検出された場合であっても一律に廃却処分にする必要がないため、きずの位置を高精度に特定できることが求められる。
【0003】
図1は、通常の超音波探触子を用いた従来の丸棒鋼の超音波探傷方法を説明する説明図である。
図1(a)は断面図を、
図1(b)は斜視図を示す。
図1に示すように、従来の丸棒鋼の超音波探傷方法では、時計回り方向及び反時計回り方向にそれぞれ斜めに超音波を入射し、丸棒鋼Bの表面近傍領域S1、S2を斜角探傷で探傷するための超音波探触子1A、1Bと、丸棒鋼Bの内部領域I1を垂直探傷で探傷するための超音波探触子1Cとを組み合わせて探傷している。
時計回り方向及び反時計回り方向に超音波を入射するのは、丸棒鋼Bの表面近傍に面状の方向性きずが傾いて(丸棒鋼Bの表面の法線方向に対して傾いて)存在する場合、その方向性きずの面の方向と直交する方向に近い方の超音波伝搬方向を有する斜角探傷でエコー強度が高くなるからである。すなわち、方向性きずの面の方向がどのような方向であろうとも一定のエコー強度が得られるように、時計回り方向及び反時計回り方向の双方向から超音波を入射している。
【0004】
そして、従来の丸棒鋼の超音波探傷方法では、超音波探触子1A〜1Cを丸棒鋼Bの周方向に相対的に回転させる(
図1に示す例では、超音波探触子1A〜1Cを丸棒鋼Bの周方向に回転させている)ことで超音波探触子1A〜1Cに対向する方向の丸棒鋼Bの断面全体を探傷すると共に、丸棒鋼Bを長手方向に直進させることで、丸棒鋼Bの全長に亘る全断面の探傷を行っている。
上記従来の方法では、丸棒鋼Bの外径が変わる毎に、所定のきず検出能を確保するために超音波探触子の位置や傾きを微調整する煩雑な作業が必要である。また、超音波探触子の回転機構を有するため、高頻度にメンテナンスが必要となる。このように、上記従来の方法では、オペレーションの負荷が高くなるという問題がある。
【0005】
丸棒鋼の製造に高い生産性が要求される場合、探傷速度がボトルネックになるのを避けるため、探傷速度の向上が求められる。探傷速度の向上のためには丸棒鋼の搬送速度を高速化する必要がある一方で、探傷性能を維持する観点からは、丸棒鋼の長手方向の探傷ピッチを変えず、また周方向の探傷ピッチも変えずに探傷を行う必要がある。そのためには、超音波探触子の回転速度と超音波送受信の繰り返し周波数とを増加させる必要があるが、超音波探触子の回転速度を増加させれば回転装置の負荷が増加する問題や、繰り返し周波数を増加させるとゴーストエコー(残響エコー)が生じる問題があるため、探傷速度の向上には限界があった。
【0006】
上記従来の超音波探傷方法の問題点に鑑み、近年、一次元アレイ型超音波探触子を用いた超音波探傷方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の超音波探傷方法は、電子走査式のアレイ探触子(フェイズドアレイ探触子)を用い、複数の励起素子(振動子)からなる同時制御エレメント群を位相制御することで該同時制御エレメント群から送信される超音波を所定の屈折角に偏向させ、位相制御のパターンを変えながら電子走査させることで丸棒鋼の探傷を行っている。
しかしながら、特許文献1に記載の超音波探傷方法は、表面きずを検出対象としており、内部きずを検出することは考慮されていない。また、たとえ、特許文献1に記載の超音波探傷方法を表面きず及び内部きずの双方に適用することを考えたとしても、送信及び受信の両方についての位相整合による超音波ビームの集束できず検出能を高めているため、一度の送受信で高検出能にて探傷できる領域が狭い。従って、丸棒鋼の一断面内の広範囲の領域を探傷可能にするには多くの回数の超音波の送受信が必要となる。丸棒鋼の生産性を高めるために探傷速度を上げる、すなわち丸棒鋼の搬送速度を上げる場合、長手方向の探傷ピッチを維持するためには超音波送受信の繰り返し周波数を増加させる必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の装置では、前述のように、同一断面内でも多くの超音波の送受信回数が必要な上、更に繰り返し周波数を増加させる事は、ゴーストエコー(残響エコー)の発生を招くため、探傷速度の向上には限界がある。
【0007】
また、一次元アレイ型超音波探触子を用いてより高速な探傷を実現する方法として、特許文献2に記載の方法が提案されている。この方法によると、少なくとも2回の超音波の送受信で略円柱材の断面の広い範囲を探傷可能であると考えられる(特許文献2の請求項8)。
特許文献2に記載の方法は、一次元アレイ型超音波探触子が具備する全振動子で一度に受信した波形データを元にして一部の特定の振動子群を選択し、該振動子群を構成する各振動子の受信波形データの位相をずらしながら加算することで新たな合成波形を生成し、この合成波形にゲートを設定することで探傷を行っている。上記合成波形を生成する際には、選択された振動子群において、仮想的な超音波の受信ビームを想定し、その仮想ビームの焦点にあるきずからのきず信号又は仮想ビームの範囲内にあるきずからのきず信号が高くなるように、各振動子の受信波形データの位相を調整して加算している。
しかしながら、実際に前記振動子群を構成する各振動子で受信されるエコーには、振動子単体での超音波の指向角が広いことや、微小なきずから反射されるエコーは円筒波として拡散しながら伝搬することから、仮想ビームの範囲外にあるきずからのエコーも含まれてしまう。このため、各振動子の受信波形データを加算して生成される合成波形には、仮想ビームの範囲外にあるきずからのきず信号も含まれので、この合成波形上のきず信号の情報からきずの発生位置を特定することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、一次元アレイ型超音波探触子を用いて、丸棒鋼など略円柱状の被検査材を高速で且つ高精度に超音波探傷する装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、略円柱状の被検査材の側面に対向して配置され、該被検査材の周方向に沿って配列された複数の振動子を具備する複数の一次元アレイ型超音波探触子と、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する前記各振動子からの超音波の送受信を制御すると共に、前記各振動子でがエコーを受信して出力する探傷信号を処理してきずを検出する信号処理手段とを備え、前記信号処理手段は、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する全ての振動子から送信した超音波が予め決定された前記被検査材中の1点に集束しその後拡散して伝搬するように、前記各振動子から送信する超音波の位相を制御し、前記各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号に対して、前記集束点を仮想音源とみな
し、前記各振動子に設定された遅延時間と、前記各振動子から前記被検査材の探傷領域内の任意の位置まで及び前記任意の位置から前記各振動子までの超音波の各路程を前記被検査材又は接触媒質での超音波の音速で除した時間の総和とを加算することで、前記各振動子が出力する探傷信号において前記任意の位置からのエコーに相当する信号の位置を推定する開口合成処理を施すことにより、前記各一次元アレイ型超音波探触子毎に該各一次元アレイ型超音波探触子に対向する方向の前記被検査材の断面について開口合成像を生成し、前記生成した開口合成像に基づき、前記被検査材のきずを検出することを特徴とする超音波探傷装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、一次元アレイ型超音波探触子が具備する全ての振動子から送信した超音波が予め決定された被検査材中の1点に集束しその後拡散して伝搬することになる。このため、集束点より先の超音波の伝搬領域に全振動子からの超音波の送信エネルギーを効率良く行き亘らせることができ、この伝搬領域にあるきずからのエコー強度を高め、ひいてはきずの検出能を高めることが可能である。
また、集束点の位置に応じて集束点より先の超音波の伝搬領域が決まるため、集束点の位置を適切に決定することにより、少ない超音波の送受信回数で広範囲の伝搬領域、換言すれば広範囲の探傷領域(
図1を参照して説明した通常の超音波探触子を用いた従来の斜角探傷領域及び垂直探傷領域と同等乃至それ以上の探傷領域)を確保でき、その結果、高速に探傷することが可能である。
さらに、本発明によれば、前記集束点を仮想音源とみなす開口合成処理を施すことにより、一次元アレイ型超音波探触子に対向する方向の被検査材の断面について開口合成像が生成される。開口合成像を生成するには、原理上、音源の位置及びエコーの受信位置の空間座標が必要であるが、前記集束点を仮想音源とみなすことで探傷信号に開口合成処理を施すことが可能である。本発明では、生成した開口合成像に基づき被検査材のきずを検出するため、きずの発生位置を精度良く特定可能である。
したがって、本発明によれば、丸棒鋼や丸鋼片などの略円柱状の被検査材を高速で且つ高精度に超音波探傷することが可能である。
【0012】
好ましくは、前記集束点は、前記被検査材の中心及び前記一次元アレイ型超音波探触子の中心を通る直線上に位置するように決定される。
【0013】
斯かる好ましい構成によれば、集束点より先の超音波の伝搬領域が被検査材の中心を基準として対称となるため、一回の超音波の送受信で広範囲の探傷領域を確保し易いという利点がある。
【0014】
しかしながら、本発明は、これに限るものではなく、複数の集束点に順次超音波を集束させ、各集束点毎に生成した複数の開口合成像を重ね合わせて探傷すること、換言すれば、集束点の数に対応する複数回の超音波の送受信を行う構成とすることも可能である。
すなわち、前記集束点は、前記被検査材中の複数の異なる点に位置するように決定されており、前記信号処理手段は、前記各集束点に順次超音波が集束するように、前記各振動子から送信する超音波の位相を制御し、前記各集束点毎に生成した複数の前記開口合成像を重ね合わせ、前記重ね合わせた開口合成像に基づき、前記被検査材のきずを検出する構成とすることも可能である。
なお、各集束点毎に生成した複数の開口合成像を重ね合わせるとは、例えば、複数の開口合成像の対応する画素の中で最も濃度の高い画素の濃度を、重ね合わせた後の開口合成像の画素の濃度として採用することを意味する。
【0015】
好ましくは、
前記各一次元アレイ型超音波探触子の探傷条件は互いに同一であり、前記各一次元アレイ型超音波探触子から送信した超音波の前記集束点より先の伝搬領域
のうち、前記被検査材の底面エコーが生じる領域を除く領域を重ね合わせたときに、該重ね合わせた領域が前記各一次元アレイ型探触子に対向する方向の前記被検査材の断面を網羅するように、前記一次元アレイ型超音波探触子の個数、配置位置及び前記集束点の位置が決定される。
【0016】
斯かる好ましい構成によれば、各一次元アレイ型超音波探触子から送信した超音波の集束点より先の伝搬領域を重ね合わせた領域、換言すれば、全ての一次元アレイ型超音波探触子によって得られる探傷領域が被検査材の断面を網羅するため、被検査材に発生するきずを漏れなく検出することが可能である。
【0017】
好ましくは、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する複数の振動子は略円弧状に配列され、その円弧の中心が前記被検査材の中心よりも前記各一次元アレイ型超音波探触子から離間した位置となるように前記各一次元アレイ型超音波探触子は配置され、前記集束点は、前記被検査材の中心よりも前記各一次元アレイ型超音波探触子に近い位置となるように、且つ、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する振動子のうち両端に位置する振動子から前記集束点に向かう超音波の偏角が該両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内となるように決定される。
【0018】
斯かる好ましい構成によれば、各一次元アレイ型超音波探触子が具備する複数の振動子が略円弧状に配列され、その円弧の中心が前記被検査材の中心よりも各一次元アレイ型超音波探触子から離間した位置となるように各一次元アレイ型超音波探触子が配置される。換言すれば、各一次元アレイ型超音波探触子が被検査材に対して同心に配置されるのではなく、これよりも被検査材に近い位置に配置されるため、送信される超音波のエネルギーのロスを少なくできると同時に、受信するエコーのエネルギーのロスも少なくできる。このため、きずからのエコー強度を高め、ひいてはきずの検出能を高めることが可能である。
また、上記の好ましい構成によれば、超音波の集束点は、被検査材の中心よりも各一次元アレイ型超音波探触子に近い位置となるように決定される。このため、集束点より先の超音波の伝搬領域、換言すれば探傷領域を広範囲に確保することが可能である。
ただし、前記集束点は、各一次元アレイ型超音波探触子が具備する振動子のうち両端に位置する振動子から前記集束点に向かう超音波の偏角が該両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内となるように決定される。すなわち、各一次元アレイ型超音波探触子の配置位置は被検査材に近ければ近いほど良いというわけではなく、集束点の位置が各一次元アレイ型超音波探触子に近ければ近いほど良いというわけでもない。この理由は以下の通りである。
各一次元アレイ型超音波探触子が具備する各振動子は、振動子単体でも指向性を有する、すなわち、振動子単体から送信する超音波の指向角の範囲外では、超音波の送信エネルギーが微弱である。このため、仮に、ある振動子から集束点に向かう超音波の偏角(当該振動子から集束点に向かう超音波の伝搬経路と当該振動子の振動子面の法線とが成す角)が、当該振動子の指向角の範囲外であるならば、当該振動子は、位相制御によって超音波を集束点に集束させることで得られるバーチャルプローブとしての総合的なエネルギー向上に殆ど寄与しなくなると考えられる。振動子から集束点に向かう超音波の偏角は、各一次元アレイ型超音波探触子の両端に位置する振動子が最も大きくなり、各一次元アレイ型超音波探触子の配置位置が被検査材に近ければ近いほど、また集束点の位置が各一次元アレイ型超音波探触子に近ければ近いほど大きくなる。従って、全ての振動子を上記バーチャルプローブとしての総合的なエネルギー向上に寄与させるには、上記好ましい構成のように、各一次元アレイ型超音波探触子が具備する振動子のうち両端に位置する振動子から前記集束点に向かう超音波の偏角が該両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内となるように、前記集束点を決定する必要がある。
なお、上記の好ましい構成によれば、被検査材の外径が変化した場合であっても、一次元アレイ型超音波探触子を交換することなく、その配置位置及び集束点位置を上記のように決定することで、異なる外径の被検査材に対して同一の一次元アレイ型超音波探触子を用いることが可能である。このため、メンテナンス性に優れた超音波探傷装置が提供される。
【0019】
好ましくは、前記信号処理手段には、複数の位置に同一寸法の人工きずを設けた前記被検査材と同種の参照材について予め取得した
各人工きずに対応する画素領域の濃度のみを示す離散的な濃度分布を各人工きずに対応する画素領域以外の画素領域に対して補間して得られる前記参照材についての開口合成像の
連続的な濃度分布に基づき決定された、前記被検査材についての開口合成像の補正分布が記憶されており、 前記信号処理手段は、前記補正分布に基づき前記被検査材についての開口合成像を補正し、該補正後の開口合成像に基づき、前記被検査材のきずを検出する。
【0020】
位相制御により集束、拡散させた超音波の音圧は、一次元アレイ型超音波探触子や被検査材の仕様等の影響を受けて、振動子の配列方向及び超音波の伝搬方向に一定ではなく変化する(分布が生じる)ため、同一寸法のきずであっても、その発生位置に応じてきずからのエコー強度が異なるものと考えられる。この音圧分布の影響や、開口合成処理の条件等に応じて、開口合成像において同一寸法のきずに対応する画素領域の濃度は、場所によって異なるものと考えられる。
従って、上記の好ましい構成のように、複数の位置に同一寸法の人工きずを設けた参照材について予め取得した開口合成像の濃度分布に基づき、被検査材についての開口合成像の補正分布(同一寸法の人工きずについては同等の画素濃度が得られるように、開口合成像の各画素の濃度に乗算するゲインや加算するオフセットが各画素毎に記憶されたもの)を決定・記憶し、この補正分布に基づき被検査材についての開口合成像を補正すれば、探傷領域内のいずれの位置にきずが発生したとしても、一様な評価が可能である。
【0021】
本発明で得られる開口合成像には、何らの処理も行わなければ、被検査材の底面エコー(超音波の入射側とは反対側の被検査材表面から反射するエコー)に相当する画素領域が含まれることになる。開口合成像に底面エコーに相当する画素領域が存在すると、この底面エコーをきずとして誤って検出するおそれがある。このため、この底面エコーに相当する画素領域は、開口合成像を生成する前、あるいは、開口合成像を生成した後に除去することが好ましい。
すなわち、好ましくは、前記信号処理手段は、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する前記各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号から、前記被検査材の底面エコーに相当する信号を除去し、該底面エコーに相当する信号を除去した後の探傷信号に基づき前記開口合成像を生成し、該生成した開口合成像に基づき前記被検査材のきずを検出するか、又は、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する前記各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号に基づき生成した前記開口合成像から、前記被検査材の底面エコーに相当する画素領域を除去し、該底面エコーに相当する画素領域を除去した開口合成像に基づき前記被検査材のきずを検出する。
【0022】
斯かる好ましい構成によれば、底面エコーに相当する画素領域をきずとして誤って検出するおそれがなくなる。
なお、底面エコーに相当する信号又は画素領域は、開口合成像を生成する前であれば探傷信号の一定の位置(時点)に、開口合成像を生成した後であれば開口合成像内の一定の位置に出現することが予め予測できるため、この予測した位置の信号又は画素領域を除去すればよい。
【0023】
好ましくは、本発明に係る超音波探傷装置は、前記被検査材がその長手方向に搬送される際の該被検査材の断面の位置変動に応じて前記各一次元アレイ型超音波探触子の位置を変動させることで、前記各一次元アレイ型超音波探触子と前記被検査材との相対的な位置関係を一定に保持する追従機構を更に備える。
【0024】
斯かる好ましい構成によれば、被検査材を長手方向に搬送する際に被検査材の断面に位置変動が生じたとしても、各一次元アレイ型超音波探触子と被検査材との相対的な位置関係が一定に保持される。このため、決定した超音波の集束点の位置が変動することなく、狙い通りの超音波の伝搬領域、換言すれば、狙い通りの探傷領域を得ることが可能である。
【0025】
また、前記課題を解決するため、本発明は、略円柱状の被検査材の側面に対向して、該被検査材の周方向に沿って配列された複数の振動子を具備する複数の一次元アレイ型超音波探触子を配置し、前記各一次元アレイ型超音波探触子が具備する前記各振動子から送信した超音波が予め決定された前記被検査材中の1点に集束しその後拡散して伝搬するように、前記各振動子から送信する超音波の位相を制御し、前記各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号に対して、前記集束点を仮想音源とみな
し、前記各振動子に設定された遅延時間と、前記各振動子から前記被検査材の探傷領域内の任意の位置まで及び前記任意の位置から前記各振動子までの超音波の各路程を前記被検査材又は接触媒質での超音波の音速で除した時間の総和とを加算することで、前記各振動子が出力する探傷信号において前記任意の位置からのエコーに相当する信号の位置を推定する開口合成処理を施すことにより、前記各一次元アレイ型超音波探触子毎に該各一次元アレイ型超音波探触子に対向する方向の前記被検査材の断面について開口合成像を生成し、前記生成した開口合成像に基づき、前記被検査材のきずを検出することを特徴とする超音波探傷方法としても提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、一次元アレイ型超音波探触子を用いて、丸棒鋼など略円柱状の被検査材を高速で且つ高精度に超音波探傷することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、被検査材が丸棒鋼である場合を例に挙げて説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る超音波探傷装置の概略構成を示す図である。
図2(a)は一次元アレイ型超音波探触子の配置図を、
図2(b)は超音波探傷装置全体の概略構成を一部透視して表す図を示す。
図2(a)の左側の図は被検査材の長手方向から見た図を、右側の図は被検査材の長手方向に直交する方向から見た図を示す。なお、
図2(b)では、1つの一次元アレイ型超音波探触子のみを図示している。
図2に示すように、本実施形態に係る超音波探傷装置100は、被検査材Bの側面に対向して配置され、該被検査材Bの周方向に沿って配列された複数の振動子を具備する複数の一次元アレイ型超音波探触子(以下、適宜、「アレイ探触子」と略称する)10(10A〜10F)と、各一次元アレイ型超音波探触子10が具備する各振動子からの超音波の送受信を制御すると共に、各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号を処理してきずを検出する信号処理手段20とを備えている。
【0029】
本実施形態の各一次元アレイ型超音波探触子10が具備する振動子は、周波数が10MHzで、個数が64個であり、0.32mmピッチで、曲率半径が35mmの略円弧状に配列されている。そして、6つのアレイ探触子10A〜10Fが、被検査材Bの周方向に略60度ピッチで配置されている。各アレイ探触子10A〜10Fは、被検査材Bの同一断面に沿って配置されているのではなく、被検査材Bの長手方向にそれぞれずれた断面に沿って配置されている。
【0030】
信号処理手段20は、一次元アレイ型超音波探触子を用いた一般的な超音波探傷装置でも慣用されているパルサー、レシーバー、増幅器、A/D変換器、メモリなどを具備し、以下の処理を行うように構成されている。すなわち、信号処理手段20は、各アレイ探触子10が具備する全ての振動子から送信した超音波が予め決定された被検査材B中の1点に集束しその後拡散して伝搬するように、各振動子から送信する超音波の位相を制御する。また、信号処理手段20は、各振動子がエコーを受信して出力する探傷信号に対して、前記集束点を仮想音源とみなす開口合成処理を施すことにより、各アレイ探触子10毎に該各アレイ探触子10に対向する方向の被検査材Bの断面について開口合成像を生成し、生成した開口合成像に基づき、被検査材Bのきずを検出する。より具体的には、例えば開口合成像を所定のしきい値で2値化して、きずに相当する画素領域を抽出し、必要に応じて更にノイズ除去のための適宜の画像処理を施してきずを検出する。
【0031】
なお、本実施形態のアレイ探触子10は、接触媒質としての水が溜められた水槽30内に配置されている。水槽30には、被検査材Bの搬入口31及び搬出口32が設けられており、これら搬入口31及び搬出口32の開口部には、被検査材Bの断面形状に変形可能で、水槽30外への水の流出を抑制するためのゴム板33が取り付けられている。被検査材Bは長手方向に搬送され、搬入口31から水槽30内に侵入し、アレイ探触子10で探傷された後、搬出口32から搬出される。アレイ探触子10での探傷は、被検査材Bの先頭から後尾まで、所定のピッチ毎に繰り返される。
水槽30の前後には被検査材Bの振動を抑制しながら長手方向に搬送するためのピンチロール40が設置されている。また、水槽30内には、アレイ探触子10と被検査材Bとの相対的な位置関係を一定に保持する追従機構50が設けられている。この追従機構50は、被検査材Bがその長手方向に搬送される際の被検査材Bの断面の位置変動に応じてアレイ探触子10の位置を変動させることで、アレイ探触子10と被検査材Bとの相対的な位置関係を一定に保持するものである。追従機構50の具体的な構成例については後述する。
【0032】
以下、上記の構成を有する超音波探傷装置100を用いた超音波探傷方法の具体例について説明する。
【0033】
図3は、本実施形態の1つの一次元アレイ型超音波探触子を用いて生成した開口合成像の一例を示す。
図3(a)は超音波探傷の状況を説明する説明図を、
図3(b)は生成した開口合成像を所定のしきい値で2値化した画像を示す。
図3(a)に示すように、本例では、被検査材Bの内部及び表面近傍の複数の位置(計10箇所)に人工きずDとして内径0.3mmの横穴を加工し、アレイ探触子10が具備する振動子が配列されている円弧の垂直2等分線Lが被検査材Bの中心Cを通るように、被検査材Bの側面にアレイ探触子10を対向配置した。そして、信号処理手段20により、アレイ探触子10が具備する全ての振動子から送信した超音波が被検査材B中の1点(円弧の垂直2等分線Lから図の左側にずれた位置)Fに集束しその後拡散して伝搬するように、各振動子から送信する超音波の位相を制御した。そして、各振動子から出力される探傷信号に開口合成処理(開口合成処理の具体的な内容については後述する)を施し、開口合成像を生成した。
【0034】
図3(b)に示すように、幾何学的に算出される超音波の伝搬領域(
図3(a)でハッチングを施した領域)に存在する人工きずDについては、底面エコーに相当する画素領域に重畳される人工きずD(時計の6時の位置を0°とし、被検査材Bの中心Cに対して時計回りに−、反時計回りに+の角度をとった場合に、0°の位置に存在する表面近傍のきず)と、底面エコーに相当する画素領域に近接する人工きずD(−30°及び+30°の位置に存在する表面近傍のきず)とを除き、人工きずDに相当する画素領域を2値化で検出できている(S/N>20dB以上)。
【0035】
図3(b)に示す結果では、被検査材Bのおよそ左半分の領域しか探傷できていないが、信号処理手段20によって、垂直2等分線Lに対して集束点Fと対称となる点に超音波を集束させて開口合成像を生成すれば、被検査材Bのおよそ右半分の領域についても探傷可能である。
図4は、本実施形態に係る1つの一次元アレイ型超音波探触子を用いて生成した開口合成像の他の例を示す。
図4(a)は超音波探傷の状況を説明する説明図を、
図4(b)は生成した開口合成像を所定のしきい値で2値化した画像を示す。具体的には、
図4(a)に示すように、前述した集束点Fに超音波を集束させて開口合成像を生成し、次に垂直2等分線Lに対して集束点Fと対称となる点F’に超音波を集束させて開口合成像を生成し、これらの2つの開口合成像を重ね合わせた(2つの開口合成像の対応する画素のうち濃度の高い方の画素の濃度を、重ね合わせた後の開口合成像の画素の濃度として採用した)。
【0036】
図4(b)に示すように、幾何学的に算出される超音波の伝搬領域(
図4(a)でハッチングを施した領域)に存在する人工きずDについては、底面エコーに相当する画素領域に重畳される人工きずD(0°の位置に存在する表面近傍のきず)と、底面エコーに相当する画素領域に近接する人工きずD(−30°及び+30°の位置に存在する表面近傍のきず)とを除き、人工きずDに相当する画素領域を2値化で検出できている(S/N>20dB以上)。すなわち、
図1を参照して説明した従来の斜角探傷領域及び垂直探傷領域と同等乃至それ以上の探傷領域を、集束点Fに集束させる超音波の送受信と集束点F’に集束させる超音波の送受信との計2回の超音波の送受信で確保できることが分かる。
なお、
図4に示すアレイ探触子10では、底面エコーに相当する画素領域に重畳される人工きずD(0°の位置に存在する表面近傍のきず)と、近接する人工きずD(−30°及び+30°の位置に存在する表面近傍のきず)とを検出できないものの、前述のように、本実施形態の超音波探傷装置100は、6つのアレイ探触子10A〜10Fが被検査材Bの周方向に略60°ピッチで配置されているため、いずれかのアレイ探触子で上記の各人工きずDを検出できると考えられる。
【0037】
図5は、本実施形態に係る1つの一次元アレイ型超音波探触子を用いて生成した開口合成像の他の例を示す。
図5(a)は超音波探傷の状況を説明する説明図を、
図5(b)は生成した開口合成像を所定のしきい値で2値化した画像を示す。
図5(a)に示すように、本例でも、
図3、
図4を参照して説明した例と同様に、被検査材Bの内部及び表面近傍の複数の位置に人工きずDとして内径0.3mmの横穴を加工し、アレイ探触子10が具備する振動子が配列されている円弧の垂直2等分線Lが被検査材Bの中心Cを通るように、被検査材Bの側面にアレイ探触子10を対向配置した。そして、信号処理手段20により、アレイ探触子10が具備する全ての振動子から送信した超音波が被検査材Bの中心C及びアレイ探触子10の中心を通る直線(すなわち、円弧の垂直2等分線L)上の点FCに集束しその後拡散して伝搬するように、各振動子から送信する超音波の位相を制御した。そして、各振動子から出力される探傷信号に開口合成処理を施し、開口合成像を生成した。
【0038】
図5(b)に示すように、幾何学的に算出される超音波の伝搬領域(
図5(a)でハッチングを施した領域)に存在する人工きずDについては、底面エコーに相当する画素領域に重畳される人工きずD(0°の位置に存在する表面近傍のきず)と、底面エコーに相当する画素領域に近接する人工きずD(−30°及び+30°の位置に存在する表面近傍のきず)とを除き、人工きずDに相当する画素領域を2値化で検出できている(S/N>20dB以上)。すなわち、
図1を参照して説明した従来の斜角探傷領域及び垂直探傷領域と同等乃至それ以上の探傷領域を、1回の超音波の送受信のみで、つまり集束点FCに集束させる超音波の送受信のみで確保できることが分かる。
なお、
図5に示すアレイ探触子10では、底面エコーに相当する画素領域に重畳される人工きずD(0°の位置に存在する表面近傍のきず)と、近接する人工きずD(−30°及び+30°の位置に存在する表面近傍のきず)とを検出できないものの、前述のように、本実施形態の超音波探傷装置100は、6つのアレイ探触子10A〜10Fが被検査材Bの周方向に略60°ピッチで配置されているため、いずれかのアレイ探触子で上記の各人工きずDを検出できると考えられる。
図10は、6つのアレイ探触子の探傷領域を重ね合わせた領域の一例を示す図である。
図10(a)は何れか1つのアレイ探触子(
図5に示すアレイ探触子と同じ条件のもの)の探傷領域(ハッチを施した領域)を、
図10(b)は全てのアレイ探触子の探傷領域を重ね合わせた領域(ハッチを施した領域)を示す。
図10(b)に示すように、全てのアレイ探触子10の探傷領域を重ね合わせた領域は、被検査材Bの断面を網羅するため、被検査材Bに発生するきずを漏れなく検出することが可能である。
【0039】
図5に示す開口合成像には、前述のように、底面エコーに相当する画素領域が含まれる。開口合成像に底面エコーに相当する画素領域が存在すると、この底面エコーをきずとして誤って検出するおそれがある。このため、この底面エコーに相当する画素領域は、除去することが好ましい。具体的には、健全な(きずの無い)被検査材を用いて開口合成像を生成し、この開口合成像の中で底面エコーに相当する画素領域(及びその近傍の画素領域)を特定する。そして、この特定した画素領域を実際の被検査材を用いて得られた開口合成像(本実施形態では、開口合成像の2値化画像)から一律に除去することが考えられる。本実施形態に係る信号処理手段20は、好ましい構成として、以上に述べた底面エコーに相当する画素領域を除去する処理を実施するように構成されている。
【0040】
図6は、
図5(b)に示す開口合成像の2値化画像から、底面エコーに相当する画素領域を除去した後の画像を示す。
図6に示すように、除去後の2値化画像には、底面エコーに相当する画素領域が含まれていないため、除去後の2値化画像に基づき被検査材Bのきずを検出すれば、底面エコーに相当する画素領域をきずとして誤って検出するおそれがなくなる。
【0041】
本実施形態の信号処理手段20は、開口合成像を生成した後に底面エコーに相当する画素領域を除去しているが、本発明はこれに限るものではなく、信号処理手段20が、開口合成像を生成する前に、探傷信号から底面エコーに相当する信号を除去する構成を採用することも可能である。
【0042】
図7は、開口合成像を生成する前に底面エコーに相当する信号を除去する処理を説明する説明図である。
図7(a)は超音波探傷の状況を説明する説明図を、
図7(b)は底面エコーに相当する信号を除去する前のBスコープ表示(上段)、Aスコープ表示(中段)及び開口合成像の2値化画像(下段)を、
図7(c)は底面エコーに相当する信号を除去した後のBスコープ表示(上段)、Aスコープ表示(中段)及び開口合成像の2値化画像(下段)を示す。
図7(b)及び(c)の上段に示すBスコープ表示は、アレイ探触子10が具備する64個の振動子のそれぞれから出力される探傷信号を横軸に並べて表示したものである。
図7(b)及び(c)の中段に示すAスコープ表示は、上段のBスコープ表示のAA線に沿ったAスコープ表示である。
図7(b)のBスコープ表示又はAスコープ表示から分かるように、底面エコーに相当する信号の強度は大きく、その出現位置(時点)も安定している。このため、例えば、Bスコープ表示を2値化して底面エコーに相当する信号の出現位置を検出し、検出した位置より少し手前の位置(時点)を基準にして、この基準時点よりも伝搬時間の遅い信号成分を一律に除去する(
図7(c)のBスコープ表示又はAスコープ表示参照)。そして、底面エコーに相当する信号を除去した後の探傷信号に基づき開口合成像を生成すれば(
図7(c)の開口合成像の2値化画像参照)、この開口合成像には底面エコーに相当する画素領域が含まれないため、底面エコーに相当する画素領域をきずとして誤って検出するおそれがなくなる。−30°の位置に存在する表面近傍の人工きずD1、−90°の位置に存在する表面近傍の人工きずD2のみを検出可能である。
【0043】
以下、本実施形態の信号処理手段20が実行する開口合成処理について説明する。
図8は、本実施形態の信号処理手段が実行する開口合成処理の内容を説明する説明図である。
図8(a)は超音波探傷の状況及び超音波の伝搬経路を説明する図を、
図8(b)は各振動子に設定される遅延時間を、
図8(c)は32番目の振動子から出力される探傷信号を示す。
図8(a)に示すように、アレイ探触子10が具備する64個の振動子のうち端から数えて32番目の振動子(その振動子をch32、その振動子の位置をXとする)から出力される探傷信号において、人工きずD2のきずエコーに相当する信号の位置を推定する場合、以下に述べる超音波の伝搬経路を考える。すなわち、振動子位置Xから送信された超音波は集束点FCに向かって進行するが、被検査材Bと接触媒質との境界においてスネルの法則を満足する入射点Iを通過し(XからIまでの路程はW
32X−I)、入射点Iから集束点FCに到達する(IからFまでの路程はW
32I−FC)。次に、集束点FCから超音波が送信されたとみなされる(集束点FCが仮想音源とみなされる)ため、集束点FCから人工きずD2に超音波が伝搬し(FCからD2までの路程はW
32FC−D2)、人工きずD2で反射したエコーは、被検査材Bと接触媒質との境界上の放出点Oを通過し(D2からOまでの路程はW
32D2−O)、放出点Oから32番目の振動子の位置Xに到達する(OからXまでの路程はW
32O−X)。なお、放出点Oの位置はスネルの法則を満足する位置とする。
【0044】
従って、振動子ch32から出力される探傷信号において観測される人工きずD2のきずエコーの伝搬時間T
32D2(
図8(c)参照)は、アレイ探触子10が具備する振動子の中で最も送信時点の早い1番目の振動子ch1及び64番目の振動子ch64の送信時点を原点とすると、振動子ch32の遅延時間t
d32(
図8(b)参照)と、上記の各路程を超音波が伝搬する被検査材B又は接触媒質での音速で除した時間の総和t
XFCD2との和になる。
【0045】
他の振動子についても同様の演算を行えば、各振動子から出力される探傷信号において、被検査材Bの探傷領域内の任意の位置からのエコーに相当する信号の位置を推定できるため、開口合成処理を施すことが可能である。探傷領域内の任意の位置からのエコーに相当する信号の位置を推定した後の処理については、本発明者らが提案した特開2009−236668号公報に記載の処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0046】
ここで、前述のように、位相制御により集束、拡散させた超音波の音圧は、一次元アレイ型超音波探触子や被検査材の仕様等の影響を受けて、振動子の配列方向及び超音波の伝搬方向に一定ではなく変化する(分布が生じる)ため、同一寸法のきずであっても、その発生位置に応じてきずからのエコー強度が異なるものと考えられる。この音圧分布の影響や、開口合成処理の条件等に応じて、開口合成像において同一寸法のきずに対応する画素領域の濃度は、場所によって異なるものと考えられる。
そこで、本実施形態では、好ましい構成として、同一寸法のきずに対応する画素領域の濃度が場所に関わらず略一定となるように、信号処理手段20が被検査材Bについての開口合成像を補正し、該補正後の開口合成像に基づき、被検査材Bのきずを検出する構成を採用している。具体的には、複数の位置に同一寸法の人工きずを設けた被検査材Bと同種(同一材質、同一寸法)の参照材B’についての開口合成像の濃度分布を予め取得し、この濃度分布に基づき被検査材Bについての開口合成像の補正分布を決定する。決定された補正分布は信号処理手段20に記憶される。信号処理手段20は、この記憶された補正分布に基づき被検査材Bについての開口合成像を補正し、該補正後の開口合成像に基づき、被検査材Bのきずを検出する。
【0047】
図9は、被検査材についての開口合成像の補正分布を決定する方法の一例を示す図である。
図9(a)は参照材を超音波探傷する状況を説明する説明図を、
図9(b)は結果的に探傷することになる人工きずの位置を説明する説明図を、
図9(c)は
図9(b)に示す人工きずについて得られる開口合成像を、
図9(d)は参照材についての開口合成像の濃度分布及び被検査材についての開口合成像の補正分布を示す。
まず、
図9(a)に示すように、参照材B’の長手方向及び径方向に異なる複数(
図9に示す例では4つ)の位置に同一寸法の人工きずD1’〜D4’を設ける。そして、参照材B’を周方向に回転させ、所定の回転ピッチ毎(
図9に示す例では30°毎)に各人工きずD1’〜D4’を探傷する(アレイ探触子10の探傷領域から外れる場合は除く)。この際、各人工きずD1’〜D4’の位置に応じて、アレイ探触子10の位置を参照材B’の長手方向に移動させて探傷する。なお、参照材B’を探傷する際、アレイ探触子10と参照材B’との位置関係や集束点の位置などの探傷条件は、被検査材Bを探傷するときの条件と合致させる。
以上の動作により、結果的に探傷することになる人工きずの位置は、
図9(b)に示す計31箇所(人工きずD1’が1箇所、人工きずD2’が12箇所、人工きずD3’が12箇所、人工きずD4’が6箇所)となる。
【0048】
次に、
図9(b)に示す31箇所の各人工きずD1’〜D4’毎に信号処理手段20で生成される開口合成像を重ね合わせて、全ての人工きずD1’〜D4’に対する開口合成像(
図9(c))を生成する。
図9(c)に示す開口合成像は、各人工きずD1’〜D4’に対応する画素領域の濃度のみを示す離散的な濃度分布であるが、バイリニア法やバイキュービック法などの補間法を適用することにより、各人工きずD1’〜D4’に対応する画素領域以外の濃度を推定(補間)し、2次元の連続的な濃度分布(
図9(d))を作成する。
図9(d)に示す参照材B’についての開口合成像の濃度分布は、参照材B’の断面(長手方向に直交する方向の断面)における任意の位置に同一寸法の人工きずを設けた場合に得られる開口合成像の濃度分布を示すことになる。
【0049】
被検査材Bについての開口合成像の補正分布は、上記のようにして作成された参照材B’についての開口合成像の濃度分布に基づき決定される。すなわち、参照材B’についての開口合成像の濃度分布を略均一にすることができるような各画素の補正量(各画素の濃度に乗算すべきゲインや加算すべきオフセット)を算出し、この各画素毎に算出した補正量を被検査材Bについての開口合成像の補正分布としている(
図9(d))。従って、参照材B’についての開口合成像の濃度分布において濃度が高い画素領域には小さい補正量が対応し、濃度が低い画素領域には大きな補正量が対応することになる。
【0050】
前述のように、信号処理手段20は、上記のようにして決定され、記憶された補正分布に基づき被検査材Bについての開口合成像を補正し、該補正後の開口合成像に基づき、被検査材Bのきずを検出する。このため、アレイ探触子10の探傷領域内のいずれの位置にきずが発生したとしても、一様な評価が可能である。
【0051】
本実施形態に係る超音波探傷装置100で被検査材Bに発生するきずを漏れなく検出するには、前述のように、各アレイ探触子10の探傷領域を重ね合わせた領域が被検査材Bの断面を網羅すればよい。具体的には、各アレイ探触子10から送信した超音波の集束点FCより先の伝搬領域を重ね合わせたときに、該重ね合わせた領域が各アレイ探触子10に対向する方向の被検査材Bの断面を網羅するように、アレイ探触子10の個数、配置位置及び集束点FCの位置を決定すればよい。
アレイ探触子10の個数をできるだけ多くすることで、1つのアレイ探触子10が担う探傷領域を狭めれば、きず検出能の向上が期待できるものの、一般的には経済的な理由でアレイ探触子10の個数は制限される。そこで、本実施形態では、アレイ探触子10の個数を6つに制限する一方、1つのアレイ探触子10で広範囲の探傷領域を確保できる(全てのアレイ探触子10によって得られる探傷領域が被検査材Bの断面を網羅する上で1つのアレイ探触子10に必要とされる探傷領域以上の探傷領域を確保できる)ように、なお且つ、1つのアレイ探触子10の探傷領域で一定以上のきず検出能が得られるように、アレイ探触子10の配置位置(被検査材Bとの距離)や集束点FCの位置を決定している。以下、この点について具体的に説明する。
【0052】
図11は、本実施形態に係る1つの一次元アレイ型超音波探触子の配置位置及び集束点の位置の条件を種々変更した場合の、各条件での超音波探傷の状況を説明する説明図である。
図12は、
図11に示す各条件で人工きずを探傷した場合の探傷結果を示す。
<探傷条件A>
前述のように、アレイ探触子10が具備する振動子は、周波数が10MHzで、個数が64個であり、0.32mmピッチで、曲率半径が35mmの略円弧状に配列されている。
図11(a)に示す探傷条件Aでは、振動子が配列されている円弧の中心と、外径18mmの被検査材Bの中心Cとが一致するようにアレイ探触子10を配置した。すなわち、アレイ探触子10を被検査材Bと同心に配置した。このとき、アレイ探触子10と被検査材Bとの距離(水距離)は26mmとなる。そして、アレイ探触子10が具備する各振動子から同時に超音波を送受信し(各振動子の遅延時間を一定にして超音波を送受信し)、集束点FCで超音波を集束させた。この集束点FCは、振動子が配列されている円弧の中心及び被検査材Bの中心Cと一致する。
図11(a)に示すように、集束点FCより先の超音波の伝搬領域(幾何学的に算出される伝搬領域)は、時計の6時の位置を0°とし、被検査材Bの中心Cに対して時計回りに−、反時計回りに+の角度をとった場合、およそ−17°〜17°の範囲に亘る。
【0053】
以上に説明した探傷条件Aで、−30°、−45°、−60°、−75°、−90°、−105°の表面近傍の位置に設けた人工きずD(内径0.3mmの横穴)を探傷したところ、
図12に示すように、−30°きず及び−45°きずについてはS/N>10dBで検出できるが、−60°きず、−75°きず、−90°及び−105°きずについては、S/N≦10dBであり、検出能が十分とはいえなかった。
【0054】
<探傷条件B>
前述した探傷条件Aに比べ、集束点FCをアレイ探触子10に近い位置に設定すれば、集束点FCよりも先の超音波の伝搬領域、換言すれば探傷領域を広範囲に確保することができると考えられる。そこで、
図11(b)に示す探傷条件Bでは、振動子が配列されている円弧の垂直2等分線Lに沿って集束点FCの位置をアレイ探触子10に近づけ、被検査材Bの表面下1.8mmの位置に設定した。その他の条件は、探傷条件Aと同一である。
図11(b)に示すように、探傷条件Bでは、集束点FCより先の超音波の伝搬領域は、およそ−80°〜80°の範囲に亘る。
【0055】
以上に説明した探傷条件Bで、探傷条件Aのときと同じ人工きずDを探傷したところ、
図12に示すように、−30°きず、−45°きず、−60°きず及び−75°きずをS/N>10dBで検出できるようになった。
【0056】
<探傷条件C>
前述した探傷条件Bに比べ、集束点FCを更にアレイ探触子10に近い位置に設定すれば、探傷領域をより一層広範囲に確保することができると考えられる。そこで、
図11(c)に示す探傷条件Cでは、集束点FCの位置をアレイ探触子10に更に近づけ、被検査材Bの表面下1.0mmの位置に設定した。その他の条件は、探傷条件A、Bと同一である。
図11(c)に示すように、探傷条件Cでは、集束点FCより先の超音波の伝搬領域は、およそ−104°〜104°の範囲に亘る。
【0057】
以上に説明した探傷条件Cで、探傷条件A、Bのときと同じ人工きずDを探傷したところ、
図12に示すように、−30°きず、−45°きず、−60°きず、−75°きず及び−90°きずをS/N>10dBで検出できるようになったものの、−105°きずについては以前としてS/NdB≦10のままであった。
【0058】
<探傷条件D>
前述した探傷条件Cでは、集束点FCより先の超音波の伝搬領域を広範囲にすることができるものの、きず検出能がより一層高まることが望ましい。
本実施形態のアレイ探触子10は、各振動子から送信する超音波の位相を制御することで、各振動子から拡散して伝搬する超音波の波面を合成し集束点FCに集束させているが、拡散による広がりが小さいうちに集束させることで、送信される超音波のエネルギーのロスを少なくし、被検査材B内での超音波の音圧を高めることができると考えられる。すなわち、アレイ探触子10を被検査材Bに近い位置に配置することで、送信される超音波のエネルギーのロスを少なくできると考えられる。一方、きずからのエコーもほぼ円筒波、球面波として拡散しながら伝搬するため、アレイ探触子10を被検査材Bに近い位置に配置することで、受信するエコーのエネルギーのロスを少なくできると考えられる。従って、アレイ探触子10を被検査材Bに近い位置に配置すれば、送信される超音波のエネルギーのロスを少なくできると同時に、受信するエコーのエネルギーのロスも少なくできる結果、きずからのエコー強度が高まり、ひいてはきずの検出能が高まることが期待できる。
そこで、
図11(d)に示す探傷条件Dでは、前述した探傷条件Cに比べ、アレイ探触子10を被検査材Bに近づけて、アレイ探触子10と被検査材Bとの距離(水距離)を17mmとした。また、探傷条件Cと同等の探傷範囲を確保するために、集束点FCの位置を被検査材Bの表面下1.7mmの位置に設定した。その他の条件は、探傷条件A〜Cと同一である。
図11(d)に示すように、探傷条件Dでは、集束点FCより先の超音波の伝搬領域は、およそ−104°〜104°の範囲に亘り、探傷条件Cと同等である。
【0059】
以上に説明した探傷条件Dで、探傷条件A〜Cのときと同じ人工きずDを探傷したところ、
図12に示すように、−30°きず、−45°きず、−60°きず、−75°きず、−90°きず及び−105°きずの全てをS/N>10dBで検出できるようになった。
【0060】
<探傷条件E>
前述した探傷条件Dよりも更にきず検出能を高めるため、
図11(e)に示す探傷条件Eでは、前述した探傷条件Dよりも更にアレイ探触子10を被検査材Bに近づけて、アレイ探触子10と被検査材Bとの距離(水距離)を7mmとした。また、探傷条件C、Dと同等の探傷範囲を確保するために、集束点FCの位置を被検査材Bの表面下3.1mmの位置に設定した。その他の条件は、探傷条件A〜Dと同一である。
図11(e)に示すように、探傷条件Eでは、集束点FCより先の超音波の伝搬領域は、およそ−104°〜104°の範囲に亘り、探傷条件C、Dと同等である。
【0061】
以上に説明した探傷条件Eで、探傷条件A〜Dのときと同じ人工きずDを探傷したところ、
図12に示すように、−30°きず、−45°きず、−60°きず及び−75°きずについてはS/N>10dBで検出できるものの、−90°きず及び−105°きずについてはS/N≦10dBであった。
−90°きず及び−105°きずについてS/N≦10dBとなるのは、以下のような理由であると考えられる。
【0062】
アレイ探触子10が具備する各振動子は、振動子単体でも指向性を有する、すなわち、振動子単体から送信する超音波の指向角の範囲外では、超音波の送信エネルギーが微弱である。このため、仮に、ある振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角(当該振動子から集束点FCに向かう超音波の伝搬経路と当該振動子の振動子面の法線とが成す角)が、当該振動子の指向角の範囲外であるならば、当該振動子は、位相制御によって超音波を集束点FCに集束させることで得られるバーチャルプローブとしての総合的なエネルギー向上に殆ど寄与しなくなることが原因と考えられる。
図13は、矩形振動子の幅方向の指向角を説明する説明図である。R/Dテック社刊「Introduction to Phased Array Ultrasonic Technology Applications R/D Tech Guideline」第48〜50頁によれば、振動子から送信される超音波の中心音圧から−6dB低下する領域の稜線が振動子面の法線と成す角度をγ
(−6dB)Wとすると、この角度(指向角)は、以下の式(1)で表される。
γ
(−6dB)W=arcsin(0.44λ/W) ・・・(1)
ここで、λは超音波の波長を、Wは振動子の幅を意味する。
上記の式(1)に基づき、本実施形態のアレイ探触子10が具備する振動子の指向角を計算すると、約13.8°になる。
【0063】
図14は、
図11に示す探傷条件D、Eにおける、振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角と、振動子から送信する超音波の指向角との関係を説明する説明図である。
図14(a)は探傷条件Dにおける関係を、
図14(b)は探傷条件Eにおける関係を示す。
図14(a)に示すように、探傷条件Dの場合は、アレイ探触子10の両端に位置する振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角が両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内になっている。これに対し、探傷条件Eの場合は、アレイ探触子10の両端に位置する振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角が両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲外になっている。
上記のように、探傷条件Eの場合は、超音波の偏角が指向角の範囲外になっている振動子が存在し、当該振動子はバーチャルプローブとしての総合的なエネルギー向上に殆ど寄与しなくなるため、探傷条件Dの場合に比べてきず検出能が低下するのだと考えられる。
【0064】
以上に説明した探傷条件A〜Eでの探傷結果より、アレイ探触子10が具備する複数の振動子が略円弧状に配列されている場合、その円弧の中心が被検査材Bの中心Cよりもアレイ探触子10から離間した位置となるようにアレイ探触子10を配置し、超音波の送受信におけるエネルギーのロスを少なくして、きずからのエコー強度を高めるのが好ましいことが分かる。また、集束点FCは、被検査材Bの中心よりもアレイ探触子10に近い位置に決定して、集束点FCより先の超音波の伝搬領域、換言すれば探傷領域を広範囲に確保するのが好ましいことがわかる。ただし、集束点FCは、アレイ探触子10が具備する振動子のうち両端に位置する振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角が該両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内となるように決定するのが好ましいことが分かる。
上記のようにアレイ探触子10の配置位置や集束点FCの位置を決定することで、探傷領域ときず検出能とをバランス良く確保することが可能である。
【0065】
本実施形態の被検査材Bである丸棒鋼の製造ラインにおいては、一般的に外径の種々異なる製品が製造されるため、超音波探傷も各外径に対応する必要がある。この際、アレイ探触子10やアレイ探触子10のホルダーを交換する等のいわゆる段取り替え作業は極力簡便な方が望ましい。前述した本実施形態におけるアレイ探触子10の配置位置や集束点FCの位置の決定方法に従えば、被検査材Bの外径が変化した場合であっても、アレイ探触子10を交換することなく、異なる外径の被検査材Bに対して同一のアレイ探触子10を用いて、探傷領域ときず検出能とをバランス良く確保することが可能である。
【0066】
図15は、本実施形態のアレイ探触子10を用いて、外径36mmの被検査材(丸棒鋼)Bを超音波探傷する状況を説明する説明図である。
図15に示すように、アレイ探触子10と被検査材Bとの距離(水距離)を13mmとし、集束点FCの位置を被検査材Bの表面下3mmの位置に設定すれば、集束点FCより先の超音波の伝搬領域は、前述の探傷条件Dと同程度である−107.7°〜107.7°の範囲に亘り、なお且つ、アレイ探触子10の両端に位置する振動子から集束点FCに向かう超音波の偏角を、両端の振動子から送信する超音波の指向角の範囲内にすることができる。
【0067】
以下、前述した追従機構50の具体例について説明する。
図16は、本実施形態の追従機構の概略構成を示す図である。
図16(a)は左側面図を、
図16(b)は一部を断面で表した正面図を、
図16(c)は右側面図を示す。
図16(d)は倣いプレートが移動する状態を示す右側面図である。
図16に示すように、本実施形態の追従機構50は、倣いプレート51と、水槽30(
図2参照)内の所定の位置に固定されたベースプレート52とを備えている。また、追従機構50は、倣いプレート51に取り付けられた探触子高さ調整機構(昇降シリンダー)53を備えており、この探触子高さ調整機構53にアレイ探触子10が取り付けられている。さらに、追従機構50は、ベースプレート52に取り付けられた倣いプレート保持機構54を備えている。本実施形態では、4つの倣いプレート保持機構54が備えられている。各倣いプレート保持機構54は、固定部541及びローラ部542を具備している。固定部541はベースプレート52に固定されている。ローラ部542は、バネ(図示せず)を介して固定部541に取り付けられており、当該バネの弾性力により、固定部541と対向する方向(図中矢符Aの方向)に倣いプレート51を押圧している。4つの倣いプレート保持機構54の各ローラ部542がそれぞれ倣いプレート51を押圧することで、倣いプレート51は各ローラ部542によって保持された状態でベースプレート52に取り付けられている。ただし、ローラ部542の位置は、前記バネが伸縮することにより、固定部541と対向する方向(図中矢符Aの方向)に移動自在であるため、ローラ部542によって保持された倣いプレート51も、ベースプレート52に沿って移動自在である(
図16(d)参照)。
【0068】
また、本実施形態の追従機構50は、倣いプレート51に取り付けられたコンロッド55と、コンロッド55に連結された倣いローラリンク機構56と、倣いローラリンク機構56に取り付けられた倣いローラ57とを備えている。本実施形態では、3つの倣いローラ57が備えられている。3つの倣いローラ57は、それぞれ被検査材Bの側面に接触するように位置決めされている。
【0069】
以上の構成を有する追従機構50によれば、被検査材Bが長手方向に搬送される際に被検査材Bの断面の位置が左右上下(斜めも含む)に変動すると、被検査材Bの側面からの押圧力によって、被検査材Bの側面に接触する倣いローラ57の位置も被検査材Bの位置変動に追従して変動することになる。この倣いローラ57の位置変動は、倣いローラリンク機構56、コンロッド55、倣いプレート51、探触子高さ調整機構53に順次伝搬し、最終的にアレイ探触子10に伝搬する。すなわち、被検査材Bの位置変動に追従して、アレイ探触子10の位置も変動することになる。このため、アレイ探触子10と被検査材Bとの相対的な位置関係を一定に保持することが可能である。
図16に示す例では、アレイ探触子10が具備する振動子が配列されている円弧の垂直2等分線が被検査材Bの中心を通る位置関係が保持される。
【0070】
図17は、被検査材の外径が変化した場合における本実施形態の追従機構の状態を示す図である。
図17(a)は被検査材の外径が最小である場合の追従機構の状態を、
図17(b)は被検査材の外径が最大である場合の追従機構の状態を示す。
図17に示すように、被検査材Bの外径に応じてコンロッド55を昇降させることにより、倣いローラリンク機構56を駆動し、倣いローラ57の位置を被検査材Bの外径に応じた適切な位置に変更することが可能である。また、
図17では図示を省略しているが、コンロッド55を昇降させることで倣いローラ57の位置を変更すると共に、探触子高さ調整機構53を昇降させることでアレイ探触子10の位置も被検査材Bの外径に応じた適切な位置に変更すればよい。
【0071】
図18は、本実施形態の追従機構の配置例を示す模式図である。本実施形態では、
図2を参照して説明したように、6つのアレイ探触子10A〜10Fが、被検査材Bの周方向に略60度ピッチで配置されている。各アレイ探触子10A〜10Fは、被検査材Bの同一断面に沿って配置されているのではなく、被検査材Bの長手方向にそれぞれずれた断面に沿って配置されている。このため、本実施形態では、
図18(a)に示すように、各アレイ探触子10A〜10F毎に1つの追従機構50で計6つの追従機構50が設けられている。ただし、本発明はこれに限るものではなく、
図18(b)に示すように、例えば、アレイ探触子10A、10C、10Eが被検査材Bの同一断面に沿って配置され、アレイ探触子10B、10D、10Fが前記断面とは異なる同一断面に沿って配置されている場合には、各断面毎に計2つの追従機構50を設ければよい。この場合、各追従機構50で3つのアレイ探触子10を追従させることになるため、前述した探触子高さ調整機構53を各追従機構50に3つずつ設ければよい。