特許第5871277号(P5871277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871277
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】内燃機関用オイルリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/06 20060101AFI20160216BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20160216BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20160216BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   F16J9/06 A
   F16J9/20
   F16J9/26 C
   F02F5/00 C
   F02F5/00 301A
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-518280(P2012-518280)
(86)(22)【出願日】2011年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2011058335
(87)【国際公開番号】WO2011152114
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年1月28日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2010/059558
(32)【優先日】2010年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】千葉 篤
(72)【発明者】
【氏名】藤村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】平石 巖
(72)【発明者】
【氏名】梶原 誠人
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−310001(JP,A)
【文献】 特開昭50−069453(JP,A)
【文献】 特開2003−113940(JP,A)
【文献】 特開2002−323133(JP,A)
【文献】 特許第3801250(JP,B2)
【文献】 特開2007−064346(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/151589(WO,A1)
【文献】 特表2003−520931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/00−9/26
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のシリンダ内周壁と摺動する略リング状のオイルリング本体とコイルエキスパンダとからなり、当該オイルリング本体の上側に配置された第1レールの下面側に、シリンダの内周壁より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブの上端部を接続配置し、当該ウェブの下端部を円筒状のシリンダ内周壁と摺動する略リング状のオイルリング本体の下面側に配置された第2レールの上面側に接続配置して一体化したオイルリングであって、
当該オイルリング本体を構成する当該第1レール及び第2レールの摺動方向に沿った垂直断面形状において、第1レール及び第2レールは、各レールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面の当該ウェブに面した側の隅部に凹部段差を有し、
当該凹部段差の壁面が曲率半径0.02mm〜0.08mmの円弧形状面と、当該円弧形状面から当該外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面とを備えると共に、
当該第1レールに備わる当該外周摺動突起と当該第2レールに備わる当該外周摺動突起とが当該ウェブを挟んで対称位置にあることを特徴とする内燃機関用オイルリング。
【請求項2】
前記凹部段差の壁面は、前記円弧形状面から前記外周摺動突起の摺動面に向けて連接した延設平面を備える請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項3】
前記円弧形状面の円弧中心は、前記シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面よりもオイルリングの径方向外側に位置する請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項4】
前記オイルリング本体は、前記凹部段差が形成された外周摺動突起における、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面の隅部に面取り加工を施した請求項1〜請求項のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項5】
前記外周摺動突起は、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面のオイルリング本体軸方向の長さが0.02mm〜0.18mmである請求項1〜請求項のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項6】
前記オイルリング本体は、ステンレス鋼製又はスチール製であり、少なくとも前記外周摺動突起が備える摺動面に、硬質層として窒化処理層、PVD処理層、DLC層から選ばれる1種又は2種以上の層を備える請求項1〜請求項のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれかに記載の内燃機関用オイルリングの製造方法であって、
以下の工程A及び工程Bをこの工程順で備えることを特徴とする内燃機関用オイルリングの製造方法。
工程A: 当該オイルリングを構成するステンレス鋼製又はスチール製の前記オイルリング本体の少なくとも外周摺動面に窒化処理を施す工程。
工程B: 当該オイルリング本体の外周摺動面の周方向の一部領域を研削して当該摺動面の隅部に凹部段差を形成する工程。
【請求項8】
前記工程Bの後、前記オイルリング本体の少なくともシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面に、PVD処理層及び/又はDLC層を形成する請求項に記載の内燃機関用オイルリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、内燃機関に使用されるオイルリングに関する。具体的には、オイルリング本体を構成する上側レール及び下側レールにおける摺動方向に沿った垂直断面形状に特徴を有するオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
近年における自動車用エンジンの性能の向上に伴い、内燃機関に用いられるオイルリングにも、エンジンオイル消費量の低減を満足するものが求められている。そのため、オイルリングの形状等に工夫を施し、例えば、オイルリングにおいて、オイルリング本体の上側レール及び下側レールの少なくとも一方のレールにおける摺動方向に沿った垂直断面形状に特徴を有するオイルリングが存在している。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第3801250号)には、内燃機関用2ピース型組み合わせオイルリングにおいて、ピストン上昇工程時の油かきあげ作用の抑制、または、オイル掻き作用の増幅により、潤滑油消費量を低減させるオイルリングについて開示されている。具体的には、特許文献1には、オイルリング本体10の外周面中央部に突出した1本のレール11を備え、前記レール11の先端部断面の外周形状が、シリンダ内周面40と平行に周接する当たり面14と、その上方に連なって配置され、上から下向きにリング径を拡径させるテーパ面15を備え、又は、レール先端部がシリンダ内周面40に平行な当たり面16を持つような1本のレールを備え、その当たり面幅を0.15〜0.3mmとすることを特徴とするオイルリングが開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特表2003−520931号)には、耐摩耗被膜(5)が形成されている、少なくとも1つのテーパ形状のつば部(2、3)を有する油掻きピストンリング(1)について開示されている。具体的には、特許文献2には、耐摩耗性被膜(5)を有するテーパ形状のつば部(2、3)を少なくとも1つ備えた油掻きピストンリングにおいて、前記つば部(2、3)の前記テーパ形状のリング平面の領域内に、前記耐摩耗性被膜(5)を有し、予め設定可能な半径方向高さ(t)と軸方向幅(h5´)の半径方向の隆起部(6)が備えられていることを特徴とする油掻きピストンリングが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3801250号
【特許文献2】特表2003−520931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたオイルリングは、オイルリング本体を構成する上側レール及び下側レールの形状では、使用期間が長くなるに従って摺動面積が大きくなりやすく、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力が減少し、オイルの掻き残しが生じてオイル消費量の増大を招きやすい。一般的にオイルリングは、シリンダ内壁面に対する押圧力が摩耗等により減少することでオイル上がりが生じてしまい、エンジンのシリンダ燃焼室側にオイルが侵入することによって、オイルが一緒に燃焼されて黒煙が発生してしまう場合がある。なお、この問題を解消すべく、オイルリングの張力を高くすると、シリンダ内壁面とオイルリングとの間における摩擦が大きくなり過ぎて、ピストンのスムーズな往復運動を阻害することになる。
【0007】
特許文献2に開示されたオイルリングにおいても、特許文献1に記載されたオイルリングと同様に、オイルリング本体を構成する上側レール及び下側レールの形状では、使用期間が長くなるに従って摺動面積が大きくなりやすく、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力が減少し、オイルの掻き残しが生じてオイル消費量の増大を招きやすくなる。そのため、特許文献2に開示のオイルリングでは、オイル消費量の低減を図るのに必ずしも十分であるとは言い難い。更に、特許文献2に開示されている製造方法の場合、上側レール及び下側レールの形状は、摺動部突起を複数の研磨工程を経て形成するものであるため、上側レール及び下側レールの特許文献2に規定する寸法形状に高い精度で形成することが困難である。
【0008】
以上のことから、本件発明は、長期間安定してオイル消費量の低減が図られ、且つ上側レール及び下側レールの形状を低コストで高い精度に形成可能な高品質のオイルリングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、オイルリング本体を構成する上側レール及び下側レールの形状について、所定の条件を満たした形状とすることで、上述した課題を解決するに到った。以下、本件発明に関して説明する。
【0010】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング: 本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、円筒状のシリンダ内周壁と摺動する略リング状のオイルリング本体とコイルエキスパンダとからなり、当該オイルリング本体の上側に配置された第1レールの下面側に、シリンダの内周壁より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブの上端部を接続配置し、当該ウェブの下端部を円筒状のシリンダ内周壁と摺動する略リング状のオイルリング本体の下面側に配置された第2レールの上面側に接続配置して一体化したオイルリングであって、当該オイルリング本体を構成する当該第1レール及び第2レールの摺動方向に沿った垂直断面形状において、第1レール及び第2レールは、各レールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面の当該ウェブに面した側の隅部に凹部段差を有し、当該凹部段差の壁面が曲率半径0.02mm〜0.08mmの円弧形状面と、当該円弧形状面から当該外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面とを備えると共に、当該第1レールに備わる当該外周摺動突起と当該第2レールに備わる当該外周摺動突起とが当該ウェブを挟んで対称位置にあることを特徴とする。
【0011】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記凹部段差の壁面は、前記円弧形状面から前記外周摺動突起の摺動面に向けて連接した延設平面を備えることが好ましい。
【0012】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記円弧形状面の円弧中心は、前記シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面よりもオイルリングの径方向外側に位置することが好ましい。
【0013】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体は、前記凹部段差が形成された外周摺動突起における、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面の隅部に面取り加工を施したことが好ましい。
【0014】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記外周摺動突起は、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面のオイルリング本体軸方向の長さが0.02mm〜0.18mmであることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体は、ステンレス鋼製又はスチール製であり、少なくとも前記外周摺動突起が備える摺動面に、硬質層として窒化処理層、PVD処理層、DLC層から選ばれる1種又は2種以上の層を備えることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法: 本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法は、上述した内燃機関用オイルリングの製造方法であって、以下の工程A及び工程Bをこの工程順で備えることを特徴とする。
【0017】
工程A: 当該オイルリングを構成するステンレス鋼製又はスチール製の前記オイルリング本体の少なくとも外周摺動面に窒化処理を施す工程。
工程B: 当該オイルリング本体の外周摺動面の周方向の一部領域を研削して当該摺動面の隅部に凹部段差を形成する工程。
【0018】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法において、前記工程Bの後、前記オイルリング本体の少なくともシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面に、PVD処理層及び/又はDLC層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、オイルリング本体の形状を本件発明で規定する条件を満足する形状とすることで、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力のばらつきを抑えることができ、長期間安定してオイル消費量を確実に削減できると共に燃費の向上を図ることができるようになる。そして、本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法によれば、オイルリング本体を本件発明で規定する条件を満足する形状に高い精度で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】オイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される内燃機関用オイルリングの斜視図である。
図2】本件発明に係る内燃機関用オイルリングをピストンのオイルリング溝に装着した状態を説明するためにシリンダ軸方向で切断して示した断面図である。
図3】本件発明のオイルリング本体のレール外周面の形状について、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。
図4】本件発明のオイルリング本体の第1レール及び第2レールの外周形状の形成方法を例示した図である。
図5】本件発明のオイルリング本体に形成される凹部段差の壁面の形状を説明するために、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した要部断面図である。
図6】本件発明のオイルリング本体に形成される凹部段差の壁面における円弧形状面の円弧中心位置を説明するために、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した要部断面図である。
図7】本件発明のオイルリング本体の形状パターンを説明するためにオイルリング軸方向で切断して示した断面図である。
図8】本件発明のオイルリング本体の外表面に硬質層を備えた状態をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングの好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながら本件発明をより詳細に説明する。
【0022】
図1は、オイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される内燃機関用オイルリングの斜視図である。図1に示すように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2と、コイルエキスパンダ3とから構成されている。また、当該オイルリング本体2は、その断面が略I形のリングであり、合口部2aを備えている。そして、このオイルリング本体2は、上側の第1レール5と、下側の第2レール6と、これらレールを連結してオイルリング本体2の中間部分に位置するウェブ4とが一体化して構成されている。
【0023】
このオイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6は、内燃機関用オイルリング1の周方向に略円形に形成されている。当該第1レール5及び第2レール6の各々の外周摺動面は、シリンダの内周壁と油膜を介して接触し、ピストン軸方向に摺動する。また、ウェブ4は、図1に示すように内燃機関用オイルリング1の周方向に略円形であって、半径方向に貫通形成されたオイル戻し孔7を備え、且つ、そのオイル戻し孔7が内燃機関用オイルリング1の周方向に複数配置されている。そして、図1に示すように、コイルエキスパンダ3は、螺旋状の形態のスプリングを円弧状としたものである。
【0024】
図2は、本件発明に係る内燃機関用オイルリングをピストンのオイルリング溝に装着した状態を説明するためにシリンダ軸方向で切断して示した断面図である。図2に示すように、オイルリング本体2の外周面側には、第1レール5と第2レール6とウェブ4とにより、オイルリング軸方向断面でみたときに凹字状の外周溝2cが形成されている。また、コイルエキスパンダ3は、シリンダ軸方向断面でみてオイルリング本体2の第1レール5と第2レール6とで形成されるオイルリング本体内周側の略半円状凹部2d内に包み込まれる状態で収容されている。このように、コイルエキスパンダ3は、オイルリング本体2の内周側に安定して配置され、この状態でオイルリング本体2をシリンダ20の内周壁21に対して押圧している。なお、図示はしないが、コイルエキスパンダ3には、当該コイルエキスパンダの合口部を接続し円環状のコイルとするために、当該合口部にジョイント用の芯線が用いられている。
【0025】
参考までに、図2を参照しつつ、内燃機関用オイルリング1のシリンダ内壁面21のオイル掻き落とし機能を順を追って説明する。まず、ピストン10が往復動(図2における矢印方向)する際に、オイルリング本体2の第1レール5及び第2レール6のそれぞれの外周摺動面8,9が、シリンダ20の内周壁21に付着している余分なオイルを掻き落とす。そして、掻き落とされたオイルは、オイルリング本体2の外周溝2c内に一時的に滞留受容された後、オイル戻し孔7とオイルリング溝11内に設けられているオイルドレイン孔12とを通ってピストン10の裏面に流下し、図示せぬオイルパンに戻される。
【0026】
以上に説明した内燃機関用オイルリング1によるシリンダ内壁面21の余分なオイルを掻き落とすに際し、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の摺動方向に沿った垂直断面形状において、第1レール5及び第2レール6は、各レールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起が備える摺動面8,9の当該ウェブに面した側の隅部に凹部段差2bを形成したものである。第1レール5及び第2レール6の外周形状を、例えば図2に示すような形状とすることで、オイルリングを長期間使用したとしても当該第1レール5及び第2レール6の外周摺動面8,9の面積に変化が起こり難く、オイル消費量の増大を抑止する効果を安定して長期間得ることができる。また、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の形状を図2に例示するような形状とすることで、シリンダ内壁面21の余分なオイルを掻き落とす機能と、シリンダ内壁面21の油膜厚さをコントロールする機能との向上及び安定を図ることが可能となる。この結果、内燃機関用オイルリング1は、自身が掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン孔12に逃がすことができ、オイル消費量を低減させることができる。
【0027】
図3は、本件発明のオイルリング本体のレール外周面の形状について、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。図3に示すように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、第1レール5及び第2レール6の外周形状において、シリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起が備える摺動面の当該ウェブに面した側の隅部に凹部段差2bを形成した後の当該凹部段差の壁面の曲率半径Rが0.02mm〜0.08mmの円弧形状を含むことを特徴としたものである。図3(a)には、本件発明のオイルリング本体2を構成する第2レール6に形成される当該凹部段差の壁面に曲率半径Rの円弧形状を含む形状(図3においてaで囲まれた箇所)の要部拡大図が示されている。ちなみに、本件発明のオイルリング本体2は、第1レール5及び第2レール6の外周形状を形成するにあたり、例えば研磨部材や砥石等を用いてこれらを回転させながら第1レール5及び第2レール6に押し当てて研削加工して形成することができる。従って、本件発明のオイルリング本体2は、その形成に際し特別な設備や特別なスキルが不要な簡単な方法でありながらも、高い寸法精度で当該レールの外周形状を形成することができる。
【0028】
ここで、当該凹部段差の壁面に曲率半径Rが0.02mm未満の円弧形状を含む場合、外周摺動突起の付け根部分に応力が集中し、クラックやカケ等が発生しやすくなる。なお、本件発明のオイルリング本体において、外周摺動突起は、第1レール5及び第2レール6の外周に形成される凹部段差2bを除いて、シリンダ内壁面との摺動面を頂とした突起部分をいう。また、砥石等を用いて当該レールの外周形状を形成するにあたって、当該砥石等を長期間使用した場合に当該砥石等の研削部分に摩耗が生じて当該円弧形状の精度維持が困難となる。これは、当該壁面に円弧形状を含む凹部段差を形成するに際し、当該円弧形状は砥石の形状に左右されるものであるからである。従って、当該円弧形状の曲率半径Rが0.02mm未満の場合には、長期間安定して当該レールの品質を維持するための管理等にかかるコストが増大するため好ましくない。一方、当該凹部段差の壁面が曲率半径0.08mmを超える円弧形状を含む場合、当該凹部段差の壁面が略テーパー形状となり、オイルリングの使用期間が長くなるに従って摺動面積が大きくなりやすく、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力が減少し、また、オイルの掻き残しが生じやすくなり、この結果オイル消費量の増大を招きやすくなり好ましくない。ちなみに、当該凹部段差の壁面に含む曲率半径Rは、0.04mm〜0.06mmであることがより好ましい。
【0029】
図4は、本件発明のオイルリング本体の第1レール及び第2レールの外周形状の形成方法を例示した図である。ここで、図4(A)は、オイルリング本体2を構成する第1レール5と第2レール6の外周摺動面のウェブ4に面した側に円弧形状を含む凹部段差2bを形成する方法を示している。また、図4(B)は、参考として、オイルリング本体2を構成する第1レール5と第2レール6の外周摺動面のオイルリング本体の上レールの上側面、下レールの下側面に円弧形状を含む凹部段差2bを形成する方法を示している。図4に示すように、本件発明のオイルリング本体2は、第1レール5及び第2レール6の外周摺動面に対して、例えば回転する砥石等の本件発明に規定する当該円弧状形状の曲率半径Rが形成されている部分を押し当てて研削加工することで当該レール5,6の外周形状を形成することができる。図4(A)には、金属板50の両面に砥石40を設け、当該砥石40部分をレール5,6に押し当てることで一工程で当該レール5,6に凹部段差2bを形成する加工例が示されている。なお、本件発明のオイルリング本体2を形成するに際し、レール5,6に押し当てる砥石40は、図4(A)に示した金属板50の両面に設けたものに限定されるものではなく、全体を砥石40のみで構成されたものとしても良い。本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、オイルリング本体の外周形状をこのように加工工程数も少なく、簡単な方法で形成可能であるため、コストパフォーマンスに優れたオイルリングの提供を可能とする。
【0030】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6のシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面が、円弧形状面から外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面を備えたものである
【0031】
図5は、本件発明のオイルリング本体に形成される凹部段差の壁面の形状を説明するために、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した要部断面図である。なお、図5には、図3においてaで囲まれた箇所が例示されている。本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、図5(A)に示すように、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面が、円弧形状面から外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面Cを備えることで、オイルリング自身が掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン孔に逃がすことができ、オイル消費量を低減させることができる。
【0032】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6のシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面が、円弧形状面から外周摺動突起の摺動面8、9に向けて連接した延設平面を備えることが好ましい。
【0033】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、図5(B)に示すように、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面が、円弧形状面から当該外周摺動突起の摺動面8、9に向けて連接した延設平面Sを備えることで、当該外周摺動突起の摺動面積に変化が起こりにくくなる。その結果、例えオイルリングの使用期間が長くなったとしても、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力の減少を抑制することが可能となり、オイルリング自身によるオイル掻き落とし性能を長期間持続させることができる。
【0034】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、図5(C)に示すように、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面が、円弧形状面から外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面Cを備え、且つ、円弧形状面から当該外周摺動突起の摺動面8、9に向けて連接した延設平面Sを備えることもできる。本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2に形成される凹部段差の壁面を図5(C)に示す形状とすることで、オイル消費量の低減効果をより発揮することができる。
【0035】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の、少なくとも一方のレールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面における円弧形状面の円弧中心が、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9よりもオイルリングの径方向外側に位置することが好ましい。
【0036】
図6は、本件発明のオイルリング本体に形成される凹部段差の壁面における円弧形状面の円弧中心位置を説明するために、当該オイルリング本体をオイルリング軸方向で切断して例示した要部断面図である。なお、図6には、図3においてaで囲まれた箇所の要部断面が例示されている。図6に示されるように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の外周摺動突起に備わる摺動面8、9の隅部に形成される凹部段差の壁面における円弧形状面の円弧中心(図中O)が、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9(図中F)よりもオイルリング1の径方向外側(図中矢印方向)に位置することで加工量を少なくすることができ、加工に用いる研磨部材や砥石等の寿命を長くすることができる。更に、オイルリング本体2における第1レール5及び第2レール6の外周摺動部分の形状を図6に示す形状にすることで、オイルリング本体2の耐久性を向上させると共に、オイル消費量の低減を図ることができる。
【0037】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2が、凹部段差が形成された外周摺動突起における、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9の隅部に面取り加工を施したことが好ましい。
【0038】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、図5に示すように、オイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6の外周摺動突起に備わる摺動面の隅部に形成される凹部段差が形成された外周摺動突起における、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9の隅部に面取り加工を施すことで、PVD、DLC等の硬質皮膜を形成する際に摺動面端部にカケ等が発生するのを抑制することができる。また、当該外周摺動突起のシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9の隅部に面取り加工を施すことで、シリンダ内壁面との摺動摩擦を低減させると共に、オイルコントロール性能の向上を図ることができる。
【0039】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、第1レール5と第2レール6の外周摺動突起における、シリンダ内壁面と摺動接触する摺動面8、9のオイルリング本体軸方向の長さL(図3(a)参照のこと。)が0.02mm〜0.18mmであることが好ましい。ここで、当該オイルリング本体軸方向の長さLが0.02mm未満の場合、当該オイルリング本体のシリンダ内壁面に対する押圧力が増大して、オイルリングのオイルコントロール機能の向上が図れず、また、シリンダ内壁面に対する攻撃性が増大するため好ましくない。一方、当該オイルリング本体軸方向の長さLが0.18mmを超える場合、当該オイルリング本体のシリンダ内壁面に対する押圧力が低下して、シリンダ内壁面における余分なオイルを掻き取る機能を十分に発揮することができず好ましくない。
【0040】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、第1レール5に備わる外周摺動突起と第2レール6に備わる外周摺動突起とがウェブ4を挟んで対称位置にあることを特徴とする。なお、本件発明のオイルリング本体において外周摺動突起は、上述したように、シリンダ内壁面との摺動面を頂とした突起部分であって、第1レール5及び第2レール6の外周に形成される凹部段差2bを除いた部分をいう。図7(A)は、本件発明のオイルリング本体の形状パターンを説明するためにオイルリング軸方向で切断して示した断面図であり、図7(B)は、参考としてのオイルリング本体の形状パターンを説明するためにオイルリング軸方向で切断して示した断面図である。図7(A)及び図7(B)には、第1レール5に備わる外周摺動突起と第2レール6に備わる外周摺動突起とがウェブ4を挟んで対称位置にあるオイルリング本体2の形状を例示している。図7(A)及び図7(B)に示したようなオイルリング本体2の形状の場合、オイルリング1をピストンに組み付けた際に、上下誤って組み付ける恐れが生じない。また、図7(A)及び図7(B)に示すような、第1レール及び第2レールの外周形状(凹部段差2b)を形成するに際し、図4(A)又は図4(B)に示したように砥石を用いた場合、砥石側の形状を複雑化させることがなく一工程で加工できるため、オイルリング本体2を低コストで形成可能となる。
【0041】
また、参考までに、図7(C)及び図7(D)には、第1レール5に備わる外周摺動突起と第2レール6に備わる外周摺動突起とがウェブ4を挟んで非対称位置にある場合を示す。この場合も、第1レール及び第2レールの外周形状(凹部段差2b)を形成するに際して砥石を用いた場合、砥石側の形状を複雑化させることがなく一工程で加工できるため、オイルリング本体2を低コストで形成可能となる。
【0042】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2が、ステンレス鋼製又はスチール製であり、少なくとも外周摺動突起が備える摺動面に、硬質層として窒化処理層、PVD処理層、DLC層から選ばれる1種又は2種以上の層を備えることが好ましい。
【0043】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2が、ステンレス鋼製又はスチール製であることが、耐久性の面からみて好ましい。ちなみに、ステンレス鋼とは、鉄−クロム合金を基本としたものである。そして、ステンレス鋼は、耐食性や加工性等の性質を向上させるために、ニッケルやモリブデン等が添加され、鉄−クロム系と、鉄−クロム−ニッケル系とに大別される。一方、スチールとは、鉄と炭素を基本とした合金のことである。例えば、本件発明のオイルリング本体をステンレス鋼製とする場合には、8Cr鋼、13Cr鋼、18Cr鋼等を好適に用いることができる。また、本件発明のオイルリング本体をスチール製とする場合には、SK材(工具鋼)、SWRH等を好適に用いることができる。参考までに、本件発明のオイルリング本体に好適に用いられる材質、及びその組成を以下に示しておく。但し本件発明のオイルリング本体の材質は、これら材質に限定されるものではない。
【0044】
本件発明のオイルリング本体は、8Cr鋼を用いることができる。この8Cr鋼は、炭素0.6〜0.8質量%、ケイ素0.15〜0.35質量%、マンガン0.20〜0.40質量%、クロム7.00〜9.00質量%、リン0.04質量%以下、硫黄0.03質量%以下、残部鉄及び不可避不純物の組成のものをいう。
【0045】
本件発明のオイルリング本体は、13Cr鋼を用いることができる。この13Cr鋼は、炭素0.6〜0.7質量%、ケイ素0.25〜0.5質量%、マンガン0.20〜0.50質量%、クロム13.0〜14.0質量%、モリブデン0.2〜0.4質量%、リン0.03質量%以下、硫黄0.03質量%以下、残部鉄及び不可避不純物の組成のものをいう。
【0046】
本件発明のオイルリング本体は、17Cr鋼を用いることができる。この17Cr鋼は、炭素0.80〜0.95質量%、ケイ素0.35〜0.5質量%、マンガン0.25〜0.40質量%、クロム17.0〜18.0質量%、モリブデン1.00〜1.25質量%、リン0.04質量%以下、硫黄0.04質量%以下、バナジウム0.08〜0.15質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成のものをいう。
【0047】
本件発明のオイルリング本体は、SK材(SK5相当材)を用いることができる。このSK材(SK5相当材)は、炭素0.79〜0.86質量%、ケイ素0.15〜0.35質量%、マンガン0.30〜0.60質量%、リン0.03質量%以下、硫黄0.03質量%以下、残部鉄及び不可避不純物の組成のものをいう。
【0048】
本件発明のオイルリング本体は、SWRH(SWRS77B相当材)を用いることができる。このSWRH(SWRS77B相当材)は、炭素0.75〜0.80質量%、ケイ素0.12〜0.32質量%、マンガン0.60〜0.90質量%、リン0.025質量%以下、硫黄0.025質量%以下、銅0.2質量%以下、残部鉄及び不可避不純物の組成のものをいう。
【0049】
図8は、本件発明のオイルリング本体の外表面に硬質層を備えた状態をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。ここで、図8(A)は、オイルリング本体2の摺動面にのみ硬質層30を備えた状態を示したものである。また、図8(B)は、オイルリング本体2の全周面に硬質層31を備え、オイルリング本体2の摺動面に備わる当該硬質層31の上に更に硬質層30を備えた状態を示したものである。例えば、図8(B)において、硬質層31を窒化処理層とし、硬質層30をPVD処理層又はDLC層とすることができる。
【0050】
また、図8(C)は、硬質層30が外周摺動面以外の外周面にも形成されているのが示されている。ここで、図8(C)においても、硬質層30を例えばPVD処理層又はDLC層として考えることができる。図8(C)に示す如く、例えば、母材上に窒化処理を施さずに直接硬質層30(PVD処理層又はDLC層)を形成しても良い。また、図8(D)は、オイルリング本体2の全周面に硬質層31を備え、更に外周摺動面以外の外周面の上にも更に硬質層30を備えた状態を示したものである。例えば、図8(D)においても、硬質層31を窒化処理層とし、硬質層30をPVD処理層又はDLC層とすることができる。図8(C)及び図8(D)に示す如く、硬質層30を外周摺動面以外の外周面にも形成した場合には、工程を複雑化させずに製造コストを低減させることができる。
【0051】
また、図8(E)は、硬質層30が外周摺動面以外の外周面にも形成され、当該硬質層30の上に更に硬質層32を備えた状態を示したものである。例えば、図8(E)において、硬質層30をPVD処理層とし、硬質層32をDLC層とすることができる。また、図8(F)は、オイルリング本体2の全周面に硬質層31を備え、更に当該硬質層31の上であって外周摺動面以外の外周面の上にも更に硬質層30を備え、当該硬質層30の上に更に硬質層32を備えた状態を示したものである。例えば、図8(E)において、硬質層31を窒化処理層とし、硬質層30をPVD処理層とし、硬質層32をDLC層とすることができる。図8(E)及び図8(F)に示す如く、PVD処理層の上にDLC層を形成することで、オイルリングのシリンダに対する初期なじみ性を向上させることができる。
【0052】
図8に示すように、本件発明のオイルリング本体2には、少なくともレール部の外周摺動面に、窒化処理層、CrNやCrNや、Cr、CrN、CrN等の混合物からなるPVD処理層(Physical Vapor Deposition Film)、DLC層(Diamond Like Carbon Film)から選ばれる1種又は2種以上の層を備えることで、更に耐摩耗性の向上が図られると共に、フリクションの低減を図ることができる。なお、当該オイルリング本体のレール部の摺動面にPVD処理層やDLC層を備える場合は、これら層の内側に窒化処理層を備えると飛躍的に耐摩耗性能が向上するため更に好ましい。
【0053】
ここで、窒化処理層は、その形成に際し、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、浸硫窒化等のあらゆる窒化処理方法を採用することが可能である。オイルリング本体2は、窒化処理を施すことで外表面を硬化させて耐久性を向上させることができる。これは、最近の自動車用内燃機関の高速、高負荷化により、オイルリング本体2についてもより高い耐摩耗性が要求されている背景があるためである。オイルリング本体2は、その材質に鉄鋼材料が用いられた場合、オイルリング本体2に窒化処理を施すことでクロムや鉄と反応して作られる窒化物からなる極めて硬い窒化処理層を備えることとなる。すなわち、オイルリング本体2は、その表面に窒化処理層を備えることで、耐摩耗性及びシリンダに対する耐スカッフ性に優れたものとなり、より過酷な状況下での使用に耐え得る内燃機関用オイルリングを提供することが可能となる。このときの窒化処理層は、オイルリング本体の表面全体に備えても良く、シリンダ内壁面と摺動接触するオイルリング本体の摺動面に対してのみ備えても良い。以上に述べてきた窒化処理層の表面には、物理蒸着(PVD)等の手法を用いて、更に硬質層を備えることも耐摩耗性等の特性を向上させる上で好ましい。
【0054】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2におけるシリンダ内壁面21との摺動面にDLC層を備えることも好ましい。このDLC層は、上述のオイルリング本体2の窒化処理層を備えた摺動面の最外層に設けても、その窒化処理層を省略して当該摺動面の上に直接備えても構わない。このDLC層は、TiN、CrN等の耐摩耗性の硬質皮膜材と比べ、摩擦係数が低い低摩擦材料として知られており、当該摺動面の表面にDLC層を備えることで、フリクションの低減が図られ、シリンダへの馴染み性を飛躍的に向上させ得る。
【0055】
なお、図8(B)、図8(D)、図8(F)に示すオイルリング本体2には、レール部外周に形成される凹部段差2b部分を除いた外周表面に硬質層31の形成がされている。これは、オイルリング本体2の外周表面に硬質層31として例えば窒化処理層を形成後、砥石により当該オイルリング本体の外周摺動突起が備える摺動面の隅部に凹部段差2bを形成しているためである。図8(B)、図8(D)、図8(F)に示すように、オイルリング本体2に当該凹部段差2bを形成する場合に、例えば予め硬質層として窒化処理層を形成しておくことで、砥石等による研削加工の際、より高い精度で当該凹部段差2bを形成することができる。なお、オイルリング本体2に当該凹部段差2bを形成するに際し、予め窒化処理層を形成しておく場合、当該凹部段差2bに含まれる曲率半径Rが大きくなるにつれて当該オイルリング本体2の表面に形成された窒化処理層の失われる範囲が大きくなる。しかし、本件発明のオイルリング本体2の場合、外周摺動突起が備える摺動面の隅部に当該凹部段差2bを形成するため、外周摺動面に形成される窒化処理層が完全に失われることがなく、オイルリング本体2の耐摩耗性に影響は生じない。
【0056】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法: 本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法は、上述した本件発明に係る内燃機関用オイルリングの製造方法であって、以下の工程A及び工程Bをこの工程順で備えることを特徴とするものである。
【0057】
工程A: 当該オイルリングを構成するステンレス鋼製又はスチール製の前記オイルリング本体の少なくとも外周摺動面に窒化処理を施す工程。
工程B: 当該オイルリング本体の外周摺動面の周方向の一部領域を研削して当該摺動面の隅部に凹部段差を形成する工程。
【0058】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1の製造方法は、上記工程A及び工程Bをこの工程順で備えることで、内燃機関用オイルリング1の外周摺動面の周方向の一部領域を研削する際の加工精度の向上を図ることができる。従って、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1の製造方法によれば、オイルリング本体2を本件発明で規定する条件を満足する形状に高い精度で製造することが可能となるため、フリクション性能と、耐久性能と、オイル消費性能とのトータルバランスに関して優れたオイルリングを提供することができる。
【0059】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1の製造方法は、上記工程Bの後、オイルリング本体2の少なくともシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面に、PVD処理層及び/又はDLC層を形成することが好ましい。
【0060】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1の製造方法によれば、オイルリング本体2の外周摺動面の周方向の一部領域を研削した後に、摺動面にPVD処理層等の硬質層を形成することで、当該オイルリング本体2の耐久性を向上させることができる。従って、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1の製造方法によれば、オイルリング本体2の少なくともシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面に、PVD処理層及び/又はDLC層を形成することで、ピストンに対する追従性を損なわず、また、オイルリング溝11との繰り返し接触にも長期間耐え得るオイルリング1の提供が可能となる。
【0061】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
実施例1では、排気量が10000cc、シリンダボア径が125mmの6気筒ディーゼルエンジンの実機試験を行い、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状の相違がオイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。なお、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で100時間行った。そして、用いるピストンリングは、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本からなる組合せとした。このときのトップリングは、17Cr鋼からなる軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.6mmのものにガス窒化処理を施し、更に外周摺動面にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた。セカンドリングは、10Cr鋼からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが4.5mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。オイルリングは、13Cr鋼からなり、軸方向高さ3.5mm、径方向厚さ2.35mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた(図8(D)参照のこと。)。
【0063】
ここで、トップリングを構成する17Cr鋼は、炭素0.90質量%、ケイ素0.40質量%、マンガン0.30質量%、クロム17.5質量%、モリブデン1.10質量%、バナジウム0.12質量%、リン0.02質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるJIS規格のSUS440B材に相当するものである。
【0064】
また、セカンドリングを構成する10Cr鋼は、炭素0.50質量%、ケイ素0.20質量%、マンガン0.30質量%、クロム10.2質量%、リン0.02質量%、硫黄0.02質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるものである。
【0065】
また、オイルリング本体を構成する13Cr鋼は、炭素0.65質量%、ケイ素0.38質量%、マンガン0.35質量%、クロム13.50質量%、モリブデン0.3質量%、リン0.01質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるJIS規格のSUS410材に相当するものである。
【0066】
実施例1のオイルリングは、オイルリング本体を構成する第1レール及び第2レールの外周摺動突起に備わる摺動面の隅部(オイルリング本体の外周溝に面した側)に凹部段差が形成され(図7(A)参照のこと。)、当該凹部段差の壁面が円弧形状面から外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面を備え、更に、当該円弧形状面の円弧中心がシリンダ内壁面と摺動接触する摺動面よりもオイルリングの径方向外側に位置した形状を備えたものである(図5(A)又は図6参照のこと。)。なお、当該円弧形状面は、曲率半径が0.06mmに形成されている。そして、実施例1のオイルリングの外周摺動突起には、摺動面の隅部にバフを用いて面取り加工を施した後にCrNからなるPVD処理層を形成し、最終的な仕上げとしてラッピング研磨を行った。
【0067】
以上に示した実施例1の条件のオイルリングを用いて、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を表1に示す。表1における「フリクション指数」は、オイルリングのフリクション性能を図る指標であり、従来相当品(以下に示す比較例1)を用いた場合のフリクションを基準「1」として、これに対する相対比で表示している。また、表1における「耐久性」は、試験時間(100時間)経過後のオイルリング本体の外周摺動突起摩耗量が、2μmを超えた場合を×、2μm未満の場合を△、1μm未満の場合を○とした。また、表1における「オイル消費量比」は、試験時間(100時間)経過後の従来相当品(以下に示す比較例1)を用いた場合のオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。そして、表1に示す結果より、実施例1のオイルリングによれば、「フリクション指数」が0.5となり、「耐久性」が○となり、「オイル消費量比」が1となった。
【実施例2】
【0068】
実施例2では、実施例1と同じエンジンを用い、また、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状の相違がオイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。そして、用いるピストンリングは、実施例1と同様に、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本からなる組合せとした。このときのトップリングは、実施例1と同様に、17Cr鋼からなる軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.6mmのものにガス窒化処理を施し、更に外周摺動面にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた。また、セカンドリングに関しても、実施例1と同様に、10Cr鋼からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが4.5mmのものを用いた。そして、オイルリングに関しては、13Cr鋼からなり、軸方向高さ3.5mm、径方向厚さ2.35mmのものにガス窒化処理を施して研削加工を行ったものを用いた。すなわち、実施例2のオイルリングは、実施例1と異なりPVD処理を施さないものである。なお、実施例2で用いるトップリング、セカンドリング、及びオイルリング本体の組成は、実施例1と同様である。
【0069】
実施例2のオイルリングは、オイルリング本体を構成する第1レール及び第2レールの、少なくとも一方のレールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面の隅部(オイルリング本体の外周溝に面した側)に凹部段差が形成され(図7(A)参照のこと。)、当該凹部段差の壁面が円弧形状面から外周摺動突起の摺動面に向けて連接した延設平面を備えたものである(図5(B)参照のこと。)。なお、当該円弧形状面は、曲率半径が0.03mmに形成されている。そして、実施例2のオイルリングの外周摺動突起には、摺動面の隅部にバフを用いて面取り加工を施し、最終的な仕上げとしてラッピング研磨を行った。
【0070】
以上に示した実施例2の条件のオイルリングを用いて、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を表1に示す。表1における「フリクション指数」、「耐久性」、及び「オイル消費」に関する表示に関しては、実施例1で説明した通りである。そして、表1に示す結果より、実施例2のオイルリングによれば、「フリクション指数」が0.5となり、「耐久性」が△となり、「オイル消費量比」が1となった。
【実施例3】
【0071】
実施例3では、実施例1と同じエンジンを用い、また、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状の相違がオイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。そして、用いるピストンリングは、実施例1と同様に、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本からなる組合せとした。このときのトップリングは、実施例1と同様に、17Cr鋼からなる軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.6mmのものにガス窒化処理を施し、更に外周摺動面にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた。また、セカンドリングに関しても、実施例1と同様に、10Cr鋼からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが4.5mmのものを用いた。また、オイルリングに関しても、実施例1と同様に、13Cr鋼からなり、軸方向高さ3.5mm、径方向厚さ2.35mmのものにガス窒化処理を施して研削加工を行った後にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた(図8(D)参照のこと。)。なお、実施例3で用いるトップリング、セカンドリング、及びオイルリング本体の組成は、実施例1と同様である。
【0072】
実施例3のオイルリングは、オイルリング本体を構成する第1レール及び第2レールの外周摺動突起に備わる摺動面の隅部(オイルリング本体の外周溝に面した側)に凹部段差が形成され(図7(A)参照のこと。)、当該凹部段差の壁面が円弧形状面から外周摺動突起の摺動面に向けて連接した延設平面を備えたものである(図5(B)参照のこと。)。なお、当該円弧形状面は、曲率半径が0.04mmに形成されている。そして、実施例3のオイルリングの外周摺動突起には、摺動面の隅部にバフを用いて面取り加工を施し、最終的な仕上げとしてラッピング研磨を行った。
【0073】
以上に示した実施例3の条件のオイルリングを用いて、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を表1に示す。表1における「フリクション指数」、「耐久性」、及び「オイル消費量比」に関する表示に関しては、実施例1で説明した通りである。そして、表1に示す結果より、実施例3のオイルリングによれば、「フリクション指数」が0.5となり、「耐久性」が○となり、「オイル消費量比」が1となった。
【0074】
(参考例1)
参考例1では、実施例1と同じエンジンを用い、また、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状の相違がオイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。そして、用いるピストンリングは、実施例1と同様に、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本からなる組合せとした。このときのトップリングは、実施例1と同様に、17Cr鋼からなる軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.6mmのものにガス窒化処理を施し、更に外周摺動面にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた。また、セカンドリングに関しても、実施例1と同様に、10Cr鋼からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが4.5mmのものを用いた。また、オイルリングに関しても、実施例1と同様に、13Cr鋼からなり、軸方向高さ3.5mm、径方向厚さ2.35mmのものにガス窒化処理を施して研削加工を行った後にPVD処理を施したものを用いた(図8(D)参照のこと。)。なお、参考例1で用いるトップリング、セカンドリング、及びオイルリング本体の組成は、実施例1と同様である。
【0075】
参考例1のオイルリングは、オイルリング本体を構成する第1レール及び第2レールの外周摺動突起に備わる摺動面の隅部(オイルリング本体の上下面側)に凹部段差が形成され(図7(B)参照のこと。)、当該凹部段差の壁面が、円弧形状面から外周摺動突起の側壁側に向けて連接した延設曲面を備え、且つ、円弧形状面から当該外周摺動突起の摺動面に向けて連接した延設平面を備えたものである(図5(C)参照のこと。)。なお、当該円弧形状面は、曲率半径が0.07mmに形成されている。そして、参考例1のオイルリングの外周摺動突起には、摺動面の隅部にバフを用いて面取り加工を施し、最終的な仕上げとしてラッピング研磨を行った。
【0076】
以上に示した参考例1の条件のオイルリングを用いて、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を表1に示す。表1における「フリクション指数」、「耐久性」、及び「オイル消費量比」に関する表示に関しては、実施例1で説明した通りである。そして、表1に示す結果より、参考例1のオイルリングによれば、「フリクション指数」が0.5となり、「耐久性」が○となり、「オイル消費量比」が1となった。
【比較例】
【0077】
[比較例1]
比較例1は、実施例との対比用として用いる。比較例1では、実施例1と同じエンジンを用い、また、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、比較例1のピストンリングは、実施例1と同様に、トップリング、セカンドリング、及びオイルリングの3本からなる組合せを採用し、全て同じ断面形状及び材質のリングを用いた。このときのトップリングは、実施例1と同様に、17Cr鋼からなる軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.6mmのものにガス窒化処理を施し、更に外周摺動面にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた。また、セカンドリングに関しても、実施例1と同様に、10Cr鋼からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが4.5mmのものを用いた。また、オイルリングに関しても、実施例1と同様に、13Cr鋼からなり、軸方向高さ3.5mm、径方向厚さ2.35mmのものにガス窒化処理を施して研削加工を行った後にPVD処理(Cr−N系)を施したものを用いた(図8(D)参照のこと。)。なお、比較例1で用いるトップリング、セカンドリング、及びオイルリング本体の組成は、実施例1と同様である。
【0078】
比較例1のオイルリングは、オイルリング本体を構成する第1レール及び第2レールの摺動方向に沿った垂直断面形状において、当該第1レール及び第2レールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起に備わる摺動面の隅部に、凹部段差を形成しない従来品に相当するものである。なお、比較例1のオイルリングの外周摺動突起には、摺動面の隅部にバフを用いて面取り加工を施し、最終的な仕上げとしてラッピング研磨を行った。
【0079】
以上に示した比較例1の条件のオイルリングを用いて、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を、実施例と併せて表1に示す。表1における「フリクション指数」、「耐久性」、及び「オイル消費量比」に関する表示に関しては、実施例1で説明した通りである。そして、表1に示す結果より、比較例1のオイルリングによれば、「フリクション指数」が1.0となり、「耐久性」が○となり、「オイル消費量比」が1となった。
【0080】
[実施例と参考例と比較例との対比]
実施例と参考例と比較例との対比: 以下に示す表1には、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状がそれぞれ異なる、実施例1〜実施例3、参考例1、比較例1について、オイルリングの特性(フリクション性能、耐久性能、オイル消費性能)を確認するために行った試験の結果を示している。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、「オイル消費量比」に関しては、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールの形状がそれぞれ異なる、実施例1〜実施例3、参考例1、比較例1が皆同じ数値「1」となった。すなわち、ディーゼルエンジンの実機試験を全負荷(WOT)で100時間行った場合に、実施例1〜実施例3、参考例1、比較例1の各オイルリングの形状及び表面処理条件によって、オイル消費量に差が生じない結果が得られた。しかし、表1より、「耐久性」に関しては、用いるオイルリング本体の上側レール及び下側レールにおいて、ガス窒化処理を施して研削加工を行っただけの実施例2よりも、ガス窒化処理を施して研削加工を行った後にPVD処理を施した実施例1、実施例3、参考例1及び比較例1の方が優れる結果が得られた。また、表1より、「フリクション指数」に関しては、比較例1が「1.0」であるのに対し実施例1〜実施例3及び参考例1が「0.5」となり、比較例1のオイルリングを用いるよりも実施例1〜実施例3及び参考例1のオイルリングを用いる方がフリクション性能に優れる結果が得られた。以上の結果より、実施例1〜実施例3及び参考例1のオイルリングは、従来相当品である比較例1のオイルリングに比べてオイルリングの特性である、フリクション性能と、耐久性能と、オイル消費性能とのトータルバランスに関して優れたものであることが実証された。
【0083】
以上のことから、内燃機関用オイルリングは、オイルリング本体の形状を本件発明で規定する条件を満足する形状とすることで、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力のばらつきを抑えることができ、長期間安定してオイル消費量を確実に削減できると共に燃費の向上を図ることができるようになることが分かった。
【0084】
以上に説明してきたように、本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、オイルリング本体を構成する当該第1レール及び第2レールの摺動方向に沿った垂直断面形状において、少なくとも一方のレールは、当該レールのシリンダ内壁面と摺動接触する外周摺動突起が備える摺動面の隅部に凹部段差を形成し、当該凹部段差の壁面が曲率半径0.02mm〜0.08mmの円弧形状面を備えることによって、長期間安定してオイル消費量の低減化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、あらゆる内燃機関に適用可能なものであり、このオイルリングを用いることで、内燃機関の駆動時のオイル消費量の低減化、及び、オイルリング自身の耐摩耗性能の向上を図ることができる。また、本件発明のオイルリング本体は、その形状を形成するに際し、上側レール及び下側レールの形状を低コストで高い精度に形成可能である。従って、自動車用内燃機関に本件発明に係る内燃機関用オイルリングを用いることで、高品質のオイルリングを低価格で提供可能となり好ましい。
【符号の説明】
【0086】
1 内燃機関用オイルリング
2 オイルリング本体
2a 合口部
2b 円弧形状を含む凹部段差
2c 外周溝
2d 略半円状凹部
3 コイルエキスパンダ
4 ウェブ
5 第1レール
6 第2レール
7 オイル戻し孔
8 外周摺動面(第1レール側)
9 外周摺動面(第2レール側)
10 ピストン
11 オイルリング溝
12 オイルドレイン孔
20 シリンダ
21 シリンダ内周壁
R 円弧形状の曲率半径
L レール摺動面のオイルリング本体軸方向の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8