(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、フローティングリングを備えたシール装置として、例えば、
図7に示すものが知られている(以下、「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照。)。この従来技術1は、環状に形成されたフローティングリング35の外周に、半径方向外方へ向かう連結部36が設けられ、この連結部36は、円周方向に180度の間隔をおいて一対設けられ、ケーシング37の溝部38に挿入されてフローティングリング35を回転軸39と同心状に支持するものである。
【0003】
また、フローティングリングを備えたシール装置として、
図8に示すものが知られている(以下、「従来技術2」という。例えば、特許文献2参照。)。この従来技術2は、回転軸40、ポンプ本体41に取り付けられる筒状ケーシング42、ポンプ本体41及び筒状ケーシング42を貫通するように設けられた封液供給口43、筒状ケーシング42の内側に設けられたリテーナ44、このリテーナ44の内側に配設された円環状のフローティングリング45、このフローティングリング45とリテーナ44の間に設けられる回転阻止用ピン46を備え、フローティングリング45の内周面と回転軸40の外周面との隙間aに形成される水膜によってフローティングリング45は回転軸40との接触を回避し、更に、フローティングリング45を軸直角方向に浮動可能に保持して自動調心するようになっている。
【0004】
しかしながら、
図7に示す従来技術1のフローティングリングを備えたシール装置においては、円周方向に180度の間隔をおいて一対設けられた連結部36が、ケーシング37の溝部38に挿入されているため、フローティングリング35が回転されることはないが、回転軸39と同心にフローティングリング35を組立てることが現実的には困難であるため、回転軸39に対してフローティングリング35が偏心状態で組立てられるという問題があった。さらに、回転軸39の撓み等による回転軸39の偏心に対してフローティングリング35が柔軟に追従できないという問題もあった。
また、
図8に示す従来技術2のフローティングリングを備えたシール装置においては、フローティングリング45の内周面と回転軸40の外周面との隙間aに形成される水膜によって、一応、フローティングリング45を自動調心するようになっているが、フローティングリング45の重量よりもフローティングリング45の内周面と回転軸40との間の隙間の小さい部分に発生する動圧が小さい場合、フローティングリング45の内周面と回転軸31との間に形成される隙間aは均一にはならず、偏心した状態で運転されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術1及び従来技術2のように、フローティングリングと回転軸との中心とを一致させることができない場合、フローティングリングと回転軸との接触を防ぐためには両者の隙間を予め大きく設定する必要がある。その結果、隙間の3乗に比例して被密封流体の漏れ量が多くなるという問題があった。
本発明は、フローティングリングを備えたシール装置において、被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝をフローティングリングの内周面に設けることにより、被密封流体の漏れ量を減少させるとともに、該動圧発生溝の発生する動圧を利用して、フローティングリングと回転軸との中心を一致させることができるようにしたシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のシール装置は、第1に、回転軸外周とケーシング内周との間にフローティングリングを備えたシール装置において、フローティングリングの内周面に漏出しようとする被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝を円周方向に複数設けることを特徴としている。
【0008】
また、本発明のシール装置は、第2に、回転軸外周とケーシング内周との間にフローティングリングを備えたシール装置において、フローティングリングの内周面に向けてバリア流体を供給するバリア流体供給孔を設けるとともに、フローティングリングの内周面に漏出しようとする被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝を円周方向に複数設けることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のシール装置は、第3に、第2の特徴において、バリア流体供給孔を円周方向に複数設け、該複数のバリア流体供給孔を接続するようにフローティングリングの内周面に内周溝を設け、該内周溝に接続して動圧発生溝が配設されることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のシール装置は、第4に、第3の特徴において、動圧発生溝が内周溝より被密封流体側に設けられることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第5に、第3の特徴において、動圧発生溝が内周溝より大気側に設けられることを特徴としている。
また、本発明のシール装置は、第6に、第3の特徴において、動圧発生溝が内周溝の被密封流体側及び大気側に設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)フローティングリングを備えたシール装置において、被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝をフローティングリングの内周面に設けることにより、被密封流体の漏れ量を減少させるとともに、動圧発生溝の発生する動圧を利用して、フローティングリングと回転軸との中心を一致させることができる。
また、起動時の動的安定性を良好にすることができる。
(2)回転軸の回転中においてフローティングリングと回転軸の中心を一致させることができるため、フローティングリングの内周面と回転軸の外周面との隙間を小さく設定することができ、シール装置のシール性の向上を図ることができる。また、流体膜厚さを平均に増加させることができるため、フローティングリングの内周面と回転軸の外周面との接触の危険性を低減することができる。
(3)上記(1)に加えて、フローティングリングの内周面に向けてバリア流体を供給するバリア流体供給孔を設けることにより、バリア流体が逆方向の動圧発生溝と相乗的に作用し、漏出しようとする被密封流体をより効率よく上流側に押し戻すため、被密封流体の漏れ量を一層減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るシール装置を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0014】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施の形態1に係るシール装置を模式的に示した正面断面図であって、回転軸の回転によりフローティングリングが上方に持ち上げられた状態にある。
図1において、ケーシング1の孔2内を貫通するようにしてポンプ等の回転軸3が配設されており、右側が被密封流体側(高圧側)、左側が大気側(低圧側)である。ケーシング1の内周面と回転軸3の外周面との間には半径方向の隙間δが設けられており、この隙間δをシールするため、回転軸3の外周を囲むように中空円筒状のフローティングリング5が設けられる。また、ケーシング1内には、前記フローティングリング5を収容する円筒状の空間4が設けられており、この空間4の径及び幅は、フローティングリング5の外径及び幅よりも大きい。さらに、フローティングリング5の内径は回転軸3の外径よりもわずかに大きく設定されており、フローティングリング5が半径方向に一定の範囲で移動可能となっている。フローティングリング5の内周面9には、後述するように、被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝8が設けられている。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態1に係るシール装置を模式的に示した側面図であって、回転軸が回転を始めた状態を示している。
図2において、フローティングリング5の外周面の左側面には回止ピン6が半径方向外方に突出するように設けられ、該回止ピン6は、ケーシング1の円筒状の空間4から半径方向外方に設けられた溝7内に遊嵌され、フローティングリング5の回転を防止するようになっている。回止ピン6はフローティングリング5の円周方向において1個所設けられる。回止ピン6の位置は、回転軸3の回転方向を反時計方向にあるとき、回転軸3の中心Oを原点とするX−Y座標系において、第2及び第3象限に位置しておればよく、特に
図2の位置に限定されるものではない。また、回り止め手段としてはピンに限らず、要は、ケーシング1に係止されてフローティングリング5の回転を防止する機能を有するものであればよい。
【0016】
図2に示すように、回転軸3が反時計方向に回転している状態にあるとき、回転軸3とフローティングリング5との間に介在する被密封流体の隙間Sにおけるくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力が発生する。このとき、フローティングリングの重量>回転軸3とフローティングリング5とのくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力、の関係にある場合、フローティングリング5の中心は回転軸3の中心より下方にある。
逆に、フローティングリングの重量<回転軸とフローティングリングとのくさび効果でフローティングリングを持ち上げる力、の関係にある場合には、フローティングリング5の中心は回転軸3の中心より上方にある。
このような状態においては、回転軸外周とフローティングリング内周との間に介在する流体膜が局所的に薄くなるため、回転軸3の異常振動など不安定な挙動を起こしたときにフローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面とが接触する危険がある。このような危険を避けるためには、フローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面との隙間を予め大きく設定する必要がある。しかし、この隙間を大きくすると、この隙間からの被密封流体の漏れ量が隙間の3乗に比例して多くなるという問題がある。
【0017】
本発明は、
図1及び
図2に示すように、回転軸3の回転時において、被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝8をフローティングリング5の内周面9に設けることにより、被密封流体の漏れ量を減少させるとともに、該動圧発生溝8の発生する動圧を利用して、フローティングリング5と回転軸3との中心を一致させることができるようにしたものである。
【0018】
図3は、実施の形態1に係るフローティングリング5の内周面9に設けられた動圧発生溝の例を示した図である。
図3(a)(b)において、フローティングリング5の右側が被密封流体側(高圧側)、左側が大気側(低圧側)であり、回転軸3は矢印の方向に回転する。
図3(a)では、フローティングリング5の内周面9の被密封流体側(高圧側)の約半分に、大気側(低圧側)に漏出しようとする被密封流体を上流側に押し戻すように作用する動圧発生溝8(以下、「逆方向の動圧発生溝」といい、これと逆の場合を「順方向の動圧発生溝」という。)が円周方向の全周にわたって複数設けられている。
また、
図3(b)では、フローティングリング5の内周面9の全幅にわたって、大気側(低圧側)に漏出しようとする被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝8が円周方向の全周に複数設けられている。
本例では、逆方向の動圧発生溝8は、回転軸3の回転方向に沿うように大気側から被密封流体側に向かって約45°で傾斜した形状をなし、円周上に等配で設けられている。
なお、動圧発生溝7は、円周方向に非等配でもよく、その角度、数、幅及び深さも適宜設定されればよい。
【0019】
大気側に漏出しようとする被密封流体は、逆方向の動圧発生溝8に流入し、該動圧発生溝8の傾斜にしたがい上流側に押し出されるようにして一部の流体が矢印のように戻されるため、大気側に漏出する量は減少する。その際、逆方向の動圧発生溝8により発生される動圧がフローティングリング5を回転軸3の中心と同心になるように作用する。すなわち、フローティングリング5の内周面9と回転軸3の外周面との間に発生する動圧は、隙間の小さい部分において高く、隙間の大きい部分では低いため、隙間を均一にするように作用し、その結果、フローティングリング5の中心を回転軸3の軸心と同心にするものである。
今、フローティングリング5の重量をW、回転軸3とフローティングリング5との隙間Sのくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力をF1、及び、逆方向の動圧発生溝8で発生する動圧によりフローティングリング5を移動させる力をF2とし、それぞれの作用点における回止ピン6からのX方向の距離をL1、L2、L3とした場合、
W・L1=F1・L2+F2・L3
となるように逆方向の動圧発生溝8で発生する動圧による力F2を設定すれば、フローティングリング5の中心と回転軸3の中心とは一致する。したがって、フローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面との隙間を小さく設定することができ、シール装置のシール性を向上させることができる。また、流体膜厚さを平均に増加させることができるため、フローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面との接触の危険性を低減することができる。
【0020】
例えば、フローティングリング5の重量が大きくそのモーメントW・L1が、回転軸3とフローティングリング5との隙間Sのくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力によるモーメントF1・L2及び動圧発生溝8で発生する動圧によりフローティングリング5を移動させる力によるモーメントF2・L3を上回る場合は、回転軸3の中心Oを原点とするX−Y座標系において、フローティングリング5の内周面9の第1象限、または、第1及び第2象限に位置する動圧発生溝8を深くしたり、密にしたりしてF2を上方に向けて生じるようにすればよい。
逆に、回転軸3とフローティングリング5との隙間Sのくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力によるモーメントF1・L2及び動圧発生溝8で発生する動圧によりフローティングリング5を移動させる力によるモーメントF2・L3がフローティングリング5の重量によるモーメントW・L1を上回る場合は、フローティングリング5の内周面9の第4象限、または、第3及び第4象限に位置する動圧発生溝8を深くしたり、密にしたりしてF2を下向きに作用するようにすればよい。
【0021】
〔実施の形態2〕
図4は、本発明の実施の形態2に係るシール装置を模式的に示した正面断面図であって、回転軸の回転によりフローティングリングが上方に持ち上げられた状態にある。
図4において、ポンプ本体10と回転軸11との間には円筒状のケーシング12が配設され、円筒状のケーシング12はポンプ本体10との間にOリング13を介してボルト14により固定されている。円筒状のケーシング12の内周面と回転軸11の外周面との間に隙間δが設けられる。円筒状のケーシング12の内周面側には、中空円筒状の空間15が形成されており、該空間15の軸方向の中心に位置してケーシング12の半径方向の外方から内方に向かってバリア流体Aを供給するバリア流体供給孔16が設けられている。
中空円筒状の空間15内の両側にはリテーナリング17、17が設けられ、その間に位置してフローティングリング18が配設されている。
図4において、右側が被密封流体側、左側が大気側であり、圧力関係は、バリア流体Aの圧力>被密封流体の圧力>大気の圧力、という関係にある。
【0022】
フローティングリング18にはバリア流体供給孔20が半径方向の外方から内方に向かって円周方向に複数設けられ、フローティングリング18の内周面19に設けられた内周溝21に接続されている。また、フローティングリング18の内周面19には、後述するように、被密封流体をより効率よく上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝8が設けられている。
フローティングリング18は、例えば、円周方向に二つ割りに構成し、図示しないボルトにより一体的に固定するようにしてもよい。また、フローティングリング18には、実施の形態1の場合と同様に、回止めピンが設けられ、回止めピンがケーシング12の溝に遊嵌してフローティングリング18の回転を防止するようになっている。
【0023】
回転軸3が回転している状態にあるとき、回転軸3とフローティングリング18との間に介在する被密封流体の隙間Sにおけるくさび効果によりフローティングリング18を持ち上げる力が発生する点は実施の形態1と同じであり、本実施の形態2においても、回転軸3の回転時において、漏出しようとする被密封流体を上流側に押し戻すように作用する逆方向の動圧発生溝8をフローティングリング18の内周面19に設けることにより、被密封流体の漏れ量を減少させるとともに、該逆方向の動圧発生溝8の発生する動圧を利用して、フローティングリング18と回転軸3との中心を一致させることができるようにしている。
【0024】
図5は、実施の形態2に係るフローティングリングの内周面に設けられた逆方向の動圧発生溝の例を示した図である。
図5(a)(b)(c)は、フローティングリング18の内周面19に設けられた内周溝21より被密封流体側に内周溝21に連続するようにして逆方向の動圧発生溝8が設けられた例を示している。本例では、逆方向の動圧発生溝8は円周方向に等配に設けられ、バリア流体供給孔20は動圧発生溝8の近傍に設けられている。
図5(a)では、逆方向の動圧発生溝8は回転軸3の回転方向に沿うように大気側から被密封流体側に向かって傾斜した平行四辺形の形状をなし、円周上に等配で設けられている。
図5(b)の逆方向の動圧発生溝8は、内周溝21側から先端に向けて先細の三角形の形状している点で
図5(a)と相違しているがその他の点は同じである。
図5(c)の逆方向の動圧発生溝8は、内周溝21側から先端側の途中まで回転軸3の回転方向に沿うように大気側から被密封流体側に向かって傾斜し、先端側は回転軸3の回転方向に並行な形状となっている。
【0025】
今、回転軸3が矢印の方向に回転し、バリア流体供給孔20からバリア流体Aが供給されると、高圧のバリア流体Aは内周溝21からその両側に流れるが、その際、逆方向の動圧発生溝8に流入するバリア流体Aは被密封流体側に向かって流され、漏出しようとする被密封流体を矢印の方向に押し戻す。同時に、漏出しようとして逆方向の動圧発生溝8に流入する被密封流体も矢印の方向に押し戻される。その際、逆方向の動圧発生溝8により発生される動圧がフローティングリング18を回転軸3の中心と同心となるように作用する。
【0026】
図5(d)は、フローティングリング18の内周面に設けられた内周溝21より大気側に内周溝21に連続するようにして逆方向の動圧発生溝8が設けられた例を示している。本例では、逆方向の動圧発生溝8は円周方向に等配に設けられ、バリア流体供給孔20は動圧発生溝8の近傍に設けられている。逆方向の動圧発生溝8は回転軸3の回転方向に沿うように大気側から被密封流体側に向かって傾斜した平行四辺形の形状をなし、円周上に等配で設けられている。
本例の場合も、回転軸3が矢印の方向に回転し、バリア流体供給孔20からバリア流体Aが供給されると、高圧のバリア流体Aは内周溝21からその両側に流れるが、その際、逆方向の動圧発生溝8に流入するバリア流体Aは被密封流体側に向かって流され、漏出しようとする被密封流体を矢印の方向に押し戻す。同時に、漏出しようとして逆方向の動圧発生溝8に流入する被密封流体も矢印の方向に押し戻される。
【0027】
図5(e)は、フローティングリング18の内周面に設けられた内周溝21の両側に内周溝21に連続するようにして逆方向の動圧発生溝8が設けられた例を示している。本例では、逆方向の動圧発生溝8は回転軸3の回転方向に沿うように大気側から被密封流体側に向かって傾斜した平行四辺形の形状をなし、内周溝21の被密封流体側及び大気側の動圧発生溝8は円周方向に位相をずらすようにして、それぞれ円周上に等配で設けられ、バリア流体供給孔20は左右の動圧発生溝8の間に位置して設けられている。
本例の場合、回転軸3が矢印の方向に回転し、バリア流体供給孔20からバリア流体Aが供給されると、高圧のバリア流体Aは内周溝21からその両側に流れるが、その際、両側の逆方向の動圧発生溝8に流入するバリア流体Aは被密封流体側に向かって流され、漏出しようとする被密封流体を矢印の方向に押し戻す。同時に、漏出しようとして逆方向の動圧発生溝8に流入する被密封流体も矢印の方向に押し戻される。
【0028】
図6は、回転軸とフローティングリングの同軸度を示したもので、(a)は本発明に係る逆方向の動圧発生溝を設けたフローティングリングの半径方向の移動履歴、(b)は本発明の動圧発生溝とは反対方向の順方向の動圧発生溝を設けたフローティングリングの半径方向の移動履歴を示すものである。
図6において、実線はX方向の移動量を、破線はY方向の移動量を示す。
図6(b)の順方向の動圧発生溝を設けた場合、フローティングリングは、起動時においてY方向に大きく移動し、その後もY方向にやや大きく偏心したままの状態でいるのがわかる。定常時の偏心率は無次元数で表した場合5.1と大きい。
これに比べて、
図6(a)の本発明に係る逆方向の動圧発生溝を設けた場合、フローティングリングは、起動時においてX及びY方向にわずかに移動するが、その後は、ほぼ中心の近傍に位置しているのがわかる。定常時の偏心率は無次元数で表した場合2.1であった。
以上の結果から、順方向の動圧発生溝を設けた場合には、偏心率が大きく、問題があるのに対し、本発明に係る逆方向の動圧発生溝を設けた場合、起動時の動的安定性がよく、偏心率も小さく、回転軸とフローティングリングの同軸度が良好であることがわかる。