(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定側に固定される円環状の固定環と、回転軸とともに回転する円環状の回転環とが対向して各摺動面を相対回転させることにより、当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において、
前記固定環または前記回転環の摺動面のいずれか一方には、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロックが被密封流体収容空間と連通するように形成され、前記被密封流体収容ブロックは前記被密封流体を収容できるように前記摺動面と段差を有して凹状をなしており、
前記複数の被密封流体収容ブロックのそれぞれの底部には、前記固定環と前記回転環との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部が形成され、
前記ポンピング部は、一方の方向の回転において、前記被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と前記被密封流体を前記被密封流体収容空間に吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部を備え、
前記被密封流体収容ブロックが形成された前記摺動面の前記被密封流体側と反対側のシールダム部に、流体力学的な動的潤滑膜を形成すると共に潤滑液を供給するためのディンプルが複数配置されていることを特徴とする摺動部品。
前記複数のディンプルは、前記固定環と前記回転環の相対的回転中心に中心点を有する仮想円周上に並ぶように配置されていることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
前記複数のディンプルは、前記固定環と前記回転環の相対的回転中心に中心点を有する、径の異なる複数の仮想円周上に、それぞれ複数並ぶように配置されていることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
前記複数のディンプルは、前記固定環と前記回転環の相対的回転方向に周回する仮想的な渦巻き線上に並ぶように配置されていることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の問題を解決するためになされたものであって、静止時に漏れず、回転初期を含み回転時には流体潤滑で作動するとともに漏れを防止し、密封と潤滑を両立させることのできる摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、固定側に固定される円環状の固定環と、回転軸とともに回転する円環状の回転環とが対向して各摺動面を相対回転させることにより、当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において、
前記固定環または回転環の摺動面のいずれか一方には、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロックが被密封流体収容空間と連通するように形成され、
前記複数の被密封流体収容ブロックの底部には、固定環と回転環との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部が形成され、
前記複数の被密封流体収容ブロックの底部に形成されるポンピング部は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部と被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部を備え、
前記被密封流体収容ブロックが形成された摺動面の被密封流体側と反対側のシールダム部に複数のディンプルが配置されていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、前記複数のディンプルは、固定環と回転環の相対的回転中心に中心点を有する仮想円周上に並ぶように配置されていることを特徴としている。
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1の特徴において、前記複数のディンプルは、固定環と回転環の相対的回転中心に中心点を有する、径の異なる複数の仮想円周上に、それぞれ複数並ぶように配置されていることを特徴としている。
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1の特徴において、前記複数のディンプルは、固定環と回転環の相対的回転方向に周回する仮想的な渦巻き線上に並ぶように配置されていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし4のいずれかの特徴において、前記複数のディンプルは、シールダム部のうち限られた領域内に設けられることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし5のいずれかの特徴において、前記複数のディンプルの中には、固体潤滑剤が埋設されていることを特徴としている。
また、本発明の摺動部品は、第7に、第6の特徴において、前記固体潤滑剤が、PTFE、MoS
2、WS
2、グラファイトまたはBNの中から選択されるものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)上記第1の特徴により、静止時には、固定環及び回転環の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面、特に、シールダム部により漏れを防止することによりシール性が維持されるとともに、起動時には、被密封流体収容ブロック内の空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、シールダム部に複数のディンプルが配置されていることと相俟って摺動面の摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部を備えた被密封流体収容ブロック内に被密封流体を取り込み、この被密封流体を摺動面を介して分離された位置にある吐出ポンピング部を備えた被密封流体収容ブロックに送り込み、吐出ポンピング部の作用により該被密封流体収容ブロックからこの被密封流体を被密封流体側に戻すものであるため、摺動面の潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。
さらに、シールダム部には全周にわたって複数のディンプルが配置されているため、流体力学的な動的潤滑膜(被密封流体による膜)が形成され、また、ディンプルから潤滑液(被密封流体)が供給されるため、シールダム部に潤滑液(被密封流体)による膜が安定的に形成され、よって、摺動摩耗を抑制することができる。
【0012】
(2)上記第2〜第4の特徴により、回転環及び固固定環の回転中心の周りを周回するように被密封流体の膜が形成されるため、被密封流体の径方向への流れを遮断することができ、シール機能を一層向上させることができる。
(3)上記第5の特徴により、荷重支持領域を確保することができる。
【0013】
(4)上記第6及び第7の特徴により、万一、シールダム部の潤滑膜の形成が不十分で貧潤滑状態となり固定環及び回転環の摺動面が直接接触するような事態になった場合でも、ディンプル内の固体潤滑剤によってシールダム部の摩耗が低減され、シール機能を長期間にわたり維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本実施形態においてはメカニカルシールを構成する回転環及び固定環が摺動部品である場合を例にして説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0016】
図1は、一般産業機械用のメカニカルシールの一例を示す正面断面図である。
図1のメカニカルシールは摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであって、被密封流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の固定環6とが、この固定環6を軸方向に付勢するベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環6との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
回転環3及び固定環6は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、摺動材料にはメカニカルシール用摺動材料として使用されているものは適用可能である。SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボンなどを焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC−TiC、SiC−TiNなどがあり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン、などが利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料なども適用できる。
【0017】
図2は、ウォータポンプ用のメカニカルシールの一例を示す正面断面図である。
図2のメカニカルシールは摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする冷却水を密封する形式のインサイド形式のものであって、冷却水側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の固定環6とが、この固定環6を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング8及びベローズ9によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環6との互いの摺動面Sにおいて、冷却水が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
【0018】
〔実施形態1〕
図3は、
図1及び2のメカニカルシールにおいて、固定環6及び回転環3の摺動面のうち、径方向の幅が小さい固定環6の摺動面Sに被密封流体収容ブロック、ポンピング部及び複数のディンプルが配置されたシールダム部が形成される場合の実施形態1を示す平面図である。
図3において、固定環6は、シールリングと呼ばれ、多くは、カーボン(軟質材料)から形成される。この固定環6の摺動面Sには、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロック10が、摺動面Sの径方向の一部であって被密封流体収容空間と外周側12を介して直接連通するように形成されている。
なお、被密封流体側が回転環3及び固定環6の内側に存在するアウトサイド形のメカニカルシールの場合、被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の一部であって被密封流体収容空間と内周側を介して直接連通するように形成すればよい。
被密封流体収容ブロック10の径方向の幅aは、摺動面Sの径方向の幅Aのおよそ1/3〜2/3であり、また、被密封流体収容ブロック10の周方向の角度範囲bは、隣接する被密封流体収容ブロック10、10間に存在する摺動面の角度範囲Bと同じかやや大きく設定される。
【0019】
メカニカルシールを低摩擦化させるためには、被密封流体の種類、温度などによるが、通常、摺動面間に0.1μm〜10μmほどの液膜が必要である。この液膜を得るために、上記したように、摺動面Sに、円周方向に独立した複数の被密封流体収容ブロック10が配置され、該複数の被密封流体収容ブロック10の底部には、固定環6と回転環3との相対回転摺動によりポンピング作用を生起するポンピング部11が形成されている。該ポンピング部11は、被密封流体を吸い込む方向に作用する吸入ポンピング部11aと被密封流体を吐き出す方向に作用する吐出ポンピング部11bとを備えている。
【0020】
ポンピング部11の各々には、後記する
図5において詳細に説明するように、相互に平行で一定のピッチの複数の線状の凹凸(本発明においては、「線状の凹凸の周期構造」ともいう。)が形成され、該線状の凹凸の周期構造は、例えば、フェムト秒レーザにより形成される微細な構造である。
なお、本発明において「線状の凹凸」には、直線状の凹凸の他、直線状の凹凸形成の過程で出現される多少彎曲された凹凸、または曲線状の凹凸も包含される。
【0021】
前記被密封流体収容ブロック10が形成された摺動面の被密封流体側と反対側である内周側は静止時において漏れを発生させないためのシールダムとして機能する必要がある。このシールダム機能を奏するシールダム部13は被密封流体(潤滑性流体)が十分には行きわたらない部分であるため貧潤滑状態となり摩耗が発生し易い。シールダム部13の摩耗を防止し、摺動摩擦を低減させるため、本発明においては、シールダム部13に複数のディンプル14が配置されている。
【0022】
図4は、
図3の被密封流体収容ブロック、ポンピング部及び複数のディンプルが配置されたシールダム部を説明するものであって運転時の状態を示しており、
図4(a)は要部の拡大平面図、
図4(b)は
図4(a)のX−X断面図である。
図4において、固定環6は実線で、また、相手側摺動部材である回転環3は二点差線で示されており、回転環3はR方向に回転する。
図4(a)に示すように、複数の被密封流体収容ブロック10は、円周方向において隣接する被密封流体収容ブロック10と摺動面Sにより分離され、また、大気側とも摺動面Sにより非連通となっている。また、
図4(b)に示すように、被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の一部に形成されており、被密封流体を収容できるように凹状をなし、摺動面Sと段差を有し、被密封流体収容空間とは外周側12を介して直接連通している。このため、静止時には、固定環6及び回転環3の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面によりシール性が維持されるとともに、起動時においては、
図4(a)において二点差線の矢印で示すように、被密封流体収容ブロック10へ被密封流体の取り込みが行われるようになっている。
さらに、
図4(a)に示すように、ポンピング部11に形成される線状の凹凸は、摺動面Sの摺動方向、換言すれば摺動面Sの回転接線方向に対して所定の角度θで傾斜するように形成される。所定の角度θは、摺動面Sの回転接線に対して内径方向及び外径方向の両方向において各々10°〜80°の範囲であることが好ましい。
【0023】
複数の被密封流体収容ブロック10の各々におけるポンピング部11の線状の凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、全て同じであってもよいし、ポンピング部11ごとに異なっていてもよい。しかし、この傾斜角度θに応じて摺動面Sの摺動特性が影響を受けるので、要求される潤滑性や摺動条件等に応じて、適切な特定な傾斜角度θに各ポンピング部11の凹凸の傾斜角度を統一するのが安定した摺動特性を得るために有効である。
【0024】
従って、摺動面Sの回転摺動方向が一方向であれば、複数のポンピング部11の各々における線状の凹凸の回転接線に対する傾斜角度θは、最適な特定の角度に規定される。
【0025】
また、摺動面Sの回転摺動方向が正逆両方向であれば、一方の方向の回転の際に適切な摺動特性となる第1の角度で回転接線に対して傾斜する線状の凹凸を有する第1のポンピング部と、それとは反対方向の回転の際に適切な摺動特性となる第2の角度で回転接線に対して傾斜する線状の凹凸を有する第2のポンピング部とを混在させることが望ましい。そのような構成であれば、摺動面Sが正逆両方向に回転する際に、各々適切な摺動特性を得ることができる。
【0026】
さらに具体的には、摺動面Sが正逆両方向に回転する場合には、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとの各線状の凹凸の傾斜角度θは、回転接線に対して対称となるような角度となるように形成しておくのが好適である。
また、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に配置されるように形成するのが好適である。
図3及び
図4に示す摺動面Sは、そのような摺動面Sが両方向へ回転する場合に好適な摺動面Sの構成である。
なお、吸入ポンピング部11aと吐出ポンピング部11bとは、摺動面Sの周方向に沿って交互に配置されなくてもよく、例えば、吸入ポンピング部11aが2個、吐出ポンピング部11bが1個の割合で配置されても、あるいは、逆の割合で配置されてもよい。
【0027】
相互に平行で一定のピッチの複数の線状の凹凸を精度よく所定のピッチで配置した構造(線状の凹凸の周期構造)であるポンピング部11は、例えば、フェムト秒レーザを用いて、摺動面Sの所定の領域に厳密に区画分けされ、さらに各区画において線状の凹凸の方向を精度よくコントロールして形成される。
加工しきい値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを基板に照射すると、入射光と基板の表面に沿った散乱光又はプラズマ波の干渉により、波長オーダーのピッチと溝深さを持つ線状の凹凸の周期構造が偏光方向に直交して自己組織的に形成される。この時、フェムト秒レーザをオーバーラップさせながら操作を行うことにより、その線状の凹凸の周期構造パターンを表面に形成することができる。
【0028】
このようなフェムト秒レーザを利用した線状の凹凸の周期構造では、その方向性の制御が可能であり、加工位置の制御も可能であるため、離散的な小区画に分けて各区画ごとに所望の線状の凹凸の周期構造の形成ができる。すなわち、円環状のメカニカルシール摺動材の摺動面を回転させながらこの方法を用いれば、摺動面に選択的に微細な周期パターンを形成することができる。そしてまたフェムト秒レーザを利用した加工方法では、メカニカルシールの潤滑性向上及び漏洩低減に有効なサブミクロンオーダーの深さの線状の凹凸の形成が可能である。
【0029】
前記被密封流体収容ブロック10及び線状の凹凸の周期構造の形成は、フェムト秒レーザに限らず、ピコ秒レーザや電子ビームを用いてもよい。また、前記被密封流体収容ブロック10及び線状の凹凸の周期構造の形成は、線状の凹凸の周期構造を備えた型を用いて円環状のメカニカルシール摺動材の摺動面を回転させながらスタンプ又は刻印することにより行われてもよい。
さらに、前記被密封流体収容ブロック10の形成は、エッチングで行い、その後、フェムト秒レーザなどにより被密封流体収容ブロック底部に線状の凹凸の周期構造を形成させてもよい。さらに、フェムト秒レーザなどにより、摺動面に線状の凹凸の周期構造のみ形成させ、その後、線状の凹凸の周期構造が形成されていない摺動面にメッキあるいは成膜を行うことで、被密封流体収容ブロック10を形成させてもよい。
【0030】
一方、シールダム部13は摺動面Sの一部を構成し、摺動面Sと面一をなすもので、複数の被密封流体収容ブロック10の形成された区域より内周側の摺動面Sがシールダム部13となる。このシールダム部13には、摩耗を防止し、摺動摩擦を低減させるため、複数のディンプル14が配置されている。
これら複数のディンプル14は、流体力学的な動的潤滑膜(被密封流体による膜)を形成し、また、ディンプル14から潤滑液(被密封流体)を供給するものであり、シールダム部13に、複数のディンプル14を設けることによって、シールダム部13に潤滑液(被密封流体)による膜を安定的に形成させ、摺動摩耗を抑制するものである。
複数のディンプル14の作製は、摺動材として適した材料で固定環6を成形した後に、レーザ、ブラスト、スタンプ(型成形)により行われてもよく、また、固定環6を所定の割合で多数の気孔を有するポーラスな摺動材、例えば、カーボン、SiC、超硬合金で作製することでシールダム部13に気孔が形成されるようにしてもよい。
【0031】
ところで、シールダム部13には、シール性能を維持するという本来の役割がある。そのためには、漏れ方向、すなわち摺動面における径方向への被密封流体の流れを遮断しなければならない。
径方向への被密封流体の流れを遮断するためには、ディンプル14は、回転方向に対して隣り合う2つのディンプル14のうち回転方向の上流側のディンプル14内に静止時に封じ込められていた被密封流体が、摺動時に回転方向の下流側に形成する膜の範囲内に、前記2つのディンプル14のうち回転方向の下流側のディンプル14が存在する位置関係となるように配置されていると好都合である。
一例として、複数のディンプル14は、回転環3及び固固定環6の回転中心に中心点を有する仮想円周上に並ぶように配置されているとよい。
これにより、各ディンプル14を繋ぐように、被密封流体の膜が形成されるので、回転環3及び固固定環6の摺動部に、回転環3及び固固定環6の回転中心の周りを周回するように被密封流体の膜が形成され、被密封流体の径方向への流れが遮断される。
【0032】
また、他の例として、複数のディンプル14は、回転環3及び固固定環6の回転中心に中心点を有する、径の異なる複数の仮想円周上に、それぞれ複数並ぶように配置されてもよい。
これにより、被密封流体の膜が同心的に複数形成される。従って、摺動面に安定的に被密封流体による膜が形成され、かつ被密封流体の径方向への移動を抑制することができる。
【0033】
さらに他の例として、複数のディンプル14は、回転環3及び固固定環6の回転方向に周回する仮想的な渦巻き線上に並ぶように配置されているとよい。
これにより、渦巻状に、被密封流体の膜が形成される。また、回転方向に応じて、被密封流体が渦巻き形状に沿って流れるポンピング作用を生じさせることができる。従って、被密封流体を密封領域側に戻すようにポンピング作用を生じさせることで、密封性能をより高めることができる。
【0034】
また、複数のディンプル14は、シールダム部13のうちの限られた領域内に設けられるとよい。
すなわち、ディンプル14を複数設けると、荷重支持領域が減少するため、かかるディンプル14を配置する領域を摺動面のうちの限られた領域とすることで、荷重支持領域を確保することが可能となる。
【0035】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得るものである。
【0036】
各ディンプル14の形状の例としては、円,楕円,矩形を挙げることができる。
また、各ディンプル14の深さについては、その幾何学的形状に起因した流体力学的動圧発生作用が生じない程度(あるいは生じたとしても無視できる程度)に深いのが望ましい。例えば、各ディンプル14が円形のもので構成される場合、その深さは30〜50μm,径は60〜80μmが望ましい。
【0037】
図5は、
図3及び
図4の被密封流体収容ブロック、ポンピング部及び複数のディンプルが配置されたシールダム部を説明するもので、被密封流体側から見た斜視図である。
固定環6と回転環3との摺動面間には、
図4(b)に示すように、回転初期から運転時において、厚さ0.1μm〜10μmの液膜hが形成されるが、その場合、ポンピング部11において、凹凸の頂点を結ぶような仮想平面をとると、該仮想平面は液膜hに応じて摺動面Sよりd1=0.1h〜10h低く設定され、仮想平面が摺動面Sと段差d1を形成する形状となっている。この段差d1により形成された被密封流体収容ブロック10内の空間に被密封流体が取り込まれ、十分な液膜が形成される。しかし、十分な液膜を形成するだけでは圧力差により漏れが発生することになる。このため、被密封流体収容ブロック10の底部には、被密封流体が大気側に漏れないように液体の流れを生起させるポンピング部11が形成されているのである。
フェムト秒レーザによる場合には、まず、被密封流体収容ブロック10が形成され、その後続いて、ポンピング部11が形成される。
また、凹凸の頂点と底部との深さd2は、d2=0.1h〜10hの範囲が望ましい。
ポンピング部11の線状の凹凸のピッチpは、被密封流体の粘度に応じて設定されるが、0.1μm〜100μmが望ましい。被密封流体の粘度が高い場合、溝内に流体が十分に入り込めるようにピッチpを大きくした方がよい。
【0038】
複数の被密封流体収容ブロック10の形成された区域より内周側のシールダム部13には、摩耗を防止し、摺動摩擦を低減させるための複数のディンプル14が配置されている。複数のディンプル14は、回転環3及び固固定環6の回転中心に中心点を有する、径の異なる複数の仮想円周上に、それぞれ複数並ぶように配置されている。ディンプル14は潤滑液(被密封流体)を溜めそして供給する役割を持っている。
このように、被密封流体と直接連通するように摺動面Sの外周側に設けられた被密封流体収容ブロック10の区域より内周側(大気側)には、全周にわたって複数のディンプル14が配置されたシールダム部13が形成されているため、静止時には、シールダム部13において固定環6及び回転環3の摺動面間が固体接触状態となり漏れを防止する一方、回転時においては、シールダム部13のディンプル14により潤滑膜が形成される。
【0039】
〔実施形態2〕
図6は、
図1及び2のメカニカルシールにおいて、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が小さい方の固定環の摺動面に被密封流体収容ブロック、ポンピング部及び複数のディンプルが配置されたシールダム部が形成される場合の実施形態2を説明するもので、被密封流体側から見た斜視図である。
図6において、シールダム部13に配置された複数のディンプル14の中には、それぞれ固体潤滑剤15が埋設されている。その際、固体潤滑剤15の表面が摺動面Sと同じ面になるように設けられる。このため、万一、シールダム部13の潤滑膜の形成が不十分で貧潤滑状態となり固定環6及び回転環3の摺動面が直接接触するような事態になった場合でも、ディンプル14内の固体潤滑剤15によって摺動面の摩耗を防止することができる。
固体潤滑剤15の埋設は、液体状態の固体潤滑剤をディンプル14の部分に塗布などし、乾燥固化させたり、固体潤滑剤をディンプル14の部分に直接こすり付けたり、あるいは、固体潤滑剤をディンプル14の部分にスパッタなどでコーティング後、余分な部分を研磨したりして行うことができる。
【0040】
固体潤滑剤15としては、PTFE、MoS
2、WS
2、グラファイトまたはBN等から選択されるのが望ましい。
【0041】
このように、被密封流体と直接連通するように摺動面Sの外周側に設けられた被密封流体収容ブロック10の区域より内周側(大気側)には、全周にわたって複数のディンプル14が配置されたシールダム部13が形成され、各ディンプル14には、固体潤滑剤15が埋設されているため、静止時には、シールダム部13において固定環6及び回転環3の摺動面間が固体接触状態となり漏れを防止する一方、回転時において、万一、シールダム部13の潤滑膜の形成が不十分で貧潤滑状態となり固定環6及び回転環3の摺動面が直接接触するような事態になった場合には、ディンプル14内の固体潤滑剤15によって摺動面の摩耗を防止することができる。
【0042】
なお、
図5及び
図6において、ポンピング部11は、円周方向及び径方向において、軸と直交する面と平行に形成されているが、円周方向または/及び径方向において、必要に応じて、任意に傾斜させることができる。例えば、
図3に示すようにポンピング部11が形成される場合、吸入ポンピング部11aは、径方向内側に向かって次第に低くなるように形成されて被密封流体を吸い込み易くし、吐出ポンピング部11bは、径方向内側に向かって次第に高くなるように形成されて被密封流体を吐出し易くすることが考えられる。
【0043】
上記のように、静止時には、固定環6及び回転環3の摺動面間は固体接触状態となるため、円周方向に連続した摺動面S、特に、シールダム部13により漏れを防止することによりシール性が維持されるとともに、起動時には、被密封流体収容ブロック10内の空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができ、シールダム部13に複数のディンプルが配置されていることと相俟って摺動面Sの摺動トルクを低くし摩耗を低減することができる。さらに、運転時には、吸入ポンピング部11aを備えた被密封流体収容ブロック10内に被密封流体を取り込み、この被密封流体を摺動面Sを介して分離された位置にある吐出ポンピング部11bを備えた被密封流体収容ブロック10に送り込み、吐出ポンピング部11bの作用により該被密封流体収容ブロック10からこの被密封流体を被密封流体側に戻すものである(
図4(a)の二点差線で示す矢印参照。)。このような被密封流体の流れを通じて、摺動面Sの潤滑性を確保するとともに、漏れを防止し、シール性を保つことができる。さらに、ポンピング部11の線状の凹凸の頂点を結ぶ仮想平面が摺動面Sより低く設定され、仮想平面が摺動面Sと段差d1を有する形状となっていることにより、起動時に段差d1により形成された空間に被密封流体を取り込むことによってすばやく潤滑流体膜を形成することができる。
さらに、シールダム部13には全周にわたって複数のディンプル14が配置されているため、シールダム部13に潤滑膜が形成されるものであり、また、各ディンプル14に固体潤滑剤15が埋設される場合には、万一、シールダム部13の潤滑膜の形成が不十分で貧潤滑状態となり固定環6及び回転環3の摺動面が直接接触するような事態になった場合でも、ディンプル14内の固体潤滑剤15によってシールダム部13の摩耗が低減され、シール機能を長期間にわたり維持することができる。
【0044】
〔実施形態3〕
図7は、
図1及び2のメカニカルシールにおいて、固定環及び回転環の摺動面のうち、径方向の幅が大きい回転環の摺動面に被密封流体収容ブロック、ポンピング部及び複数のディンプルが配置されたシールダム部が形成される場合の一実施形態示すもので、摺動面に直交する面で切断した断面図である。
図7において、回転環3は、メイティングリングと呼ばれ、多くは、SiC(硬質材料)から形成される。この回転環3の摺動面Sに、円周方向に分離された複数の被密封流体収容ブロック10が形成されている。これら複数の被密封流体収容ブロック10は、摺動面Sの径方向の外方及び内方を残して一部に形成され、かつ、被密封流体収容ブロック10の被密封流体側の一部が相対する固定環6の摺動面Sで覆われないように形成されるものである。このため、静止時のシール性が維持されるとともに、起動時においては、被密封流体収容ブロック10へ被密封流体が取り込まれるものである。
【0045】
回転環3の摺動面Sの被密封流体収容ブロック10の区域より内周側(大気側)には、複数のディンプル14が配置されたシールダム部13が形成されている。
回転環3の摺動面Sの被密封流体収容ブロック10の機器より内周側の全部に複数のディンプルを形成してもよいが、本例では、固定環6と摺動する部分のみに複数のディンプル14を形成している。
なお、これら複数のディンプル14には、図示しないが、実施形態2と同様、固体潤滑剤15を埋設してもよいことはもちろんである。
本実施形態3においても、実施形態1と同様、複数のディンプル14によりシールダム部13に潤滑膜が形成される。また、実施形態2と同様、複数のディンプル14に、固体潤滑剤15を埋設した場合には、万一、シールダム部13が潤滑膜の形成が不十分で貧潤滑状態となり固定環6及び回転環3の摺動面が直接接触するような事態になった場合でも、ディンプル14内の固体潤滑剤15によってシールダム部13の摩耗が低減され、シール機能を長期間にわたり維持することができる。
【0046】
なお、被密封流体側が回転環3及び固定環6の内側に存在するアウトサイド形のメカニカルシールの場合は、被密封流体収容ブロック10の径方向内側の一部が相対する固定環6の摺動面により覆われないように配置すればよい。