特許第5871339号(P5871339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871339
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 9/02 20060101AFI20160216BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20160216BHJP
   H02G 1/06 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   H01B9/02 A
   H01B7/00 310
   H02G1/06
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-8452(P2014-8452)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-139241(P2015-139241A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2014年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501304803
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・パワーシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小名 哲史
(72)【発明者】
【氏名】眞尾 晶二
(72)【発明者】
【氏名】久万川 欽也
(72)【発明者】
【氏名】皆川 格
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−31421(JP,A)
【文献】 特開2006−156310(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0188095(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/02
H01B 7/00
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準電位点に接続される第1鋼管と、
前記第1鋼管の内部に挿通され、三相交流電力を伝送する第1導電線を有する3本の第1送電ケーブルと、
前記第1鋼管の内部に挿通され、前記基準電位点に接続される帰線ケーブルと
を含み、
前記3本の第1送電ケーブルは、さらに、それぞれ、前記第1導電線を被覆する第1絶縁層と、前記第1絶縁層を被覆する金属層と、前記金属層を被覆する第2絶縁層とを有するとともに、シールドワイヤを有しておらず、
前記3本の第1送電ケーブルは、前記帰線ケーブルの長手方向に沿って、前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされており、
前記金属層は、前記基準電位点に接続される、電力ケーブル。
【請求項2】
前記3本の第1送電ケーブルは、断面視で、前記帰線ケーブルを中心とする3回対称の回転対称な位置関係を保ちながら、前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされる、請求項1記載の電力ケーブル。
【請求項3】
前記3本の第1送電ケーブルは、前記第1絶縁層と前記第2絶縁層との間に前記シールドワイヤを有しない、請求項1又は2記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記金属層は、前記第1絶縁層を包装する金属ラップである、請求項1乃至3のいずれか一項記載の電力ケーブル。
【請求項5】
前記基準電位点に接続され、前記帰線ケーブルの長手方向に沿って、前記3本の第1送電ケーブルとともに前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされる、第2導電線をさらに含む、請求項1乃至4のいずれか一項記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記基準電位点に接続され、前記帰線ケーブルの長手方向に沿って、前記3本の第1送電ケーブルとともに前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされる、3本の第2導電線をさらに含む、請求項1乃至4のいずれか一項記載の電力ケーブル。
【請求項7】
前記3本の第2導電線は、断面視で、前記帰線ケーブルを中心とする3回対称の回転対称な位置関係を保ちながら、前記3本の第1送電ケーブルとともに前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされる、請求項6記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記第2導電線は、金属パイプである、請求項6又は7記載の電力ケーブル。
【請求項9】
前記金属パイプの内部に配設される、光ファイバをさらに含む、請求項8記載の電力ケーブル。
【請求項10】
請求項8記載の電力ケーブルは、第2鋼管と、前記第2鋼管の内部に配設され、前記第1送電ケーブルに接続される第2送電ケーブルと、前記第2鋼管の内部で前記第2送電ケーブルを覆う絶縁油とを含む油浸型ケーブルに接続されており、
前記金属パイプは、前記油浸型ケーブルの前記絶縁油を前記第2鋼管から流出する、又は、前記第2鋼管に流入する、オイルラインに接続される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絶縁体の外周に金属層を設けることなく、最外層に半導電層を形成した電力ケーブルの3条を俵積み配置し、それら3条の電力ケーブルの中心に事故電流帰路用導体を配置して、事故電流帰路用導体と電力ケーブルの半導電層とを電気的に導通するようにしてなる、大容量送電対応型の電力ケーブルがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−180742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の電力ケーブルは、事故電流を流す導体が事故電流帰路用導体のみであるため、事故電流がある程度多い場合には、電力ケーブル又は事故電流帰路用導体の地絡容量を超える電流が流れ、電力ケーブルが破損するおそれがある。
【0005】
そこで、事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の形態の電力ケーブルは、基準電位点に接続される第1鋼管と、前記第1鋼管の内部に挿通され、三相交流電力を伝送する第1導電線を有する3本の第1送電ケーブルと、前記第1鋼管の内部に挿通され、前記基準電位点に接続される帰線ケーブルとを含み、前記3本の第1送電ケーブルは、さらに、それぞれ、前記第1導電線を被覆する第1絶縁層と、前記第1絶縁層を被覆する金属層と、前記金属層を被覆する第2絶縁層とを有するとともに、シールドワイヤを有しておらず、前記3本の第1送電ケーブルは、前記帰線ケーブルの長手方向に沿って、前記帰線ケーブルの周囲に撚り合わされており、前記金属層は、前記基準電位点に接続される。
【発明の効果】
【0007】
事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1の電力ケーブル100を示す図である。
図2】実施の形態1の電力ケーブル100の送電ケーブル120を示す図である。
図3】実施の形態1の電力ケーブル100の地絡容量を示す図である。
図4】比較用の送電ケーブル20とOFケーブル40を示す断面図である。
図5】複数の電力ケーブル100A、100B、100Cをマンホール50A、50B、50Cを介して接続した状態を示す図である。
図6】実施の形態2の電力ケーブル200を示す断面図である。
図7】実施の形態2の電力ケーブル200の地絡容量を示す図である。
図8】複数の電力ケーブル200A、200B、200Cをマンホール250A、250B、250Cを介して接続した状態を示す図である。
図9】既設のPOFケーブルを電力ケーブル200A、200Bに更新した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電力ケーブルを適用した実施の形態について説明する。
【0010】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1の電力ケーブル100を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。なお、図1(A)の斜視図は、電力ケーブル100を長手方向に対して垂直な面に沿って切断した状態を示す。
【0011】
電力ケーブル100は、鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120B、及び帰線ケーブル130を含む。
【0012】
鋼管110は、例えば、鉄製のパイプであり、内部には送電ケーブル120R、120Y、120Bと、帰線ケーブル130とが挿通される。鋼管110は、第1鋼管の一例であり、基準電位点に接続される。実施の形態1では、一例として、鋼管110は接地され、グランド電位に保持される。鋼管110を基準電位に保持するのは、送電ケーブル120に地絡等による事故電流が生じた場合に、鋼管110を事故電流の通流経路にするためである。
【0013】
鋼管110は、未使用の新品の鋼管であってもよいが、既使用の中古の鋼管であってもよい。例えば、既設の電力ケーブルを実施の形態1の電力ケーブル100に交換する場合には、既設の電力ケーブルの鋼管を電力ケーブル100の鋼管110として再利用してもよい。
【0014】
より具体的には、例えば、既設のPOF(Pipe type Oil Filled)ケーブル(油浸型ケーブル)の送電ケーブル及び絶縁油を取り除いて洗浄した鋼管を鋼管110として利用してもよい。実施の形態1では、既設のPOFケーブルの鋼管を鋼管110として利用する形態について説明する。鋼管110の内径は、一例として206mmである。
【0015】
送電ケーブル120R、120Y、120Bは、帰線ケーブル130を中心として、帰線ケーブル130の長手方向に沿って、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされた状態で、鋼管110の内部に挿通される。送電ケーブル120R、120Y、120Bは、三相の交流電力を送電するために用いられ、それぞれ、各相の電力を伝送する。送電ケーブル120R、120Y、120Bは、3本の第1送電ケーブルの一例である。
【0016】
送電ケーブル120R、120Y、120Bは、例えば、それぞれ、赤相、黄相、青相と区別される。送電ケーブル120R、120Y、120Bは、色が異なるが互いに同様の構成を有する。このため、以下の説明において送電ケーブル120R、120Y、120Bを区別しない場合には、単に送電ケーブル120と称す。送電ケーブル120の詳細な構成については、図2を用いて後述する。
【0017】
帰線ケーブル130は、導線131の周囲をジャケット132で被覆したケーブルである。導線131は、金属製であり、例えば、銅線を用いることができる。ジャケット132は、導線131の周囲を覆う絶縁層であり、例えば、XLPE(Cross linked Polyethylene)やPVC(polyvinyl chloride)等である。
【0018】
帰線ケーブル130の導線131は、鋼管110と同様に基準電位点に接続される。実施の形態1では、一例として、帰線ケーブル130の導線131は接地され、グランド電位に保持される。帰線ケーブル130の導線131を基準電位に保持するのは、送電ケーブル120に地絡等による事故電流が生じた場合に、帰線ケーブル130を事故電流の通流経路にするためである。
【0019】
次に、図2を用いて、送電ケーブル120の詳細な構成について説明する。
【0020】
図2は、実施の形態1の電力ケーブル100の送電ケーブル120を示す図であり、(A)は断面図、(B)はトリプレックス構造を示す斜視図である。
【0021】
図2(A)に示すように、送電ケーブル120は、導線121、導線スクリーン122、絶縁層123、絶縁スクリーン124、ベッディング125、金属シース126、及びジャケット127を含む。
【0022】
導線121は、金属製であり、例えば、銅線を用いることができる。
【0023】
導線スクリーン122は、耐熱性のある半導電性のテープや、カーボン粉末を含有する樹脂層とで構成され、導線121の周囲に巻回される。耐熱性のある半導電性のテープとしては、例えば、ナイロンやポリエステルを用いることができ、導体粉末を含有する樹脂層としては、例えば、EEA(Ethylene-Ethylacrylate Copolymer)樹脂を用いることができる。
【0024】
絶縁層123は、導線121を絶縁するために設けられている。絶縁層123は、例えば、XLPE(Crosslinked polyethylene:架橋ポリエチレン)を用いて射出成形で作製することができる。ここでは、絶縁層123としてXLPEを用いる形態について説明するが、耐熱性と絶縁性がある材料であれば、XLPE以外の材料を絶縁層123として用いてもよい。
【0025】
絶縁スクリーン124は、カーボン粉末を含有する樹脂層で構成され、絶縁層123の周囲に巻回される。カーボン粉末を含有する樹脂層としては、例えば、EEA樹脂を用いることができる。
【0026】
ベッディング125は、所謂ベッディングテープであり、絶縁スクリーン124の周囲に巻回される。
【0027】
金属シース126は、ベッディング125の周囲を長手方向に沿って覆う金属テープであり、その金属テープ上の接着層をジャケット126と接合させることを特徴とし、例えば、銅ラミネートを用いることができる。金属シース126は、金属層の一例であり、金属ラップの一例である。
【0028】
金属シース126は、導線121の静電遮蔽と電磁誘導遮蔽を行うとともに、事故電流の通流経路を確保するために設けられている。
【0029】
静電遮蔽とは、導線121に高電圧が印加された場合に、導線121と大地との間の静電容量によって大地側に高電圧が誘起されるのを抑制するために、導線121の周囲を金属部材で覆うことである。
【0030】
電磁誘導遮蔽とは、事故電流が発生した際に、導線121と大地とが閉ループを作ると電磁誘導による磁界が生じるため、磁界の形成を抑制するために、導線121の周囲を金属部材で覆うことである。
【0031】
金属シース126は、導線スクリーン122、絶縁層123、絶縁スクリーン124、ベッディング125を介して導線121の外周を覆っているため、導線121に電流が流れることによって生じる磁界は金属シース126に誘導される電流によってキャンセルされる。
【0032】
また、金属シース126は、事故電流の通流経路を確保するために、鋼管110及び帰線ケーブル130(図1(A),(B)参照)と同様に基準電位点に接続される。実施の形態1では、一例として、金属シース126は接地され、グランド電位に保持される。金属シース126は基準電位に保持されるため、送電ケーブル120に地絡等による事故電流が生じた場合に、事故電流の通流経路として機能する。
【0033】
ジャケット127は、金属シース126の周囲を覆う絶縁層であり、例えば、ポリエチレン(polyethylene)である。ジャケット127の外周は、送電ケーブル120R、120Y、120Bでは、例えば、それぞれ、刻印などで赤相、黄相、青相に区別される。
【0034】
また、以上のような構成を有する送電ケーブル120R、120Y、120B(図1(A)、(B)参照)は、図2(B)に示すように、帰線ケーブル130を中心として、帰線ケーブル130の長手方向に沿って、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされる。このような3本の送電ケーブル120R、120Y、120Bを撚り合わせた構造をトリプレックス構造(Triplex formation)と称す。
【0035】
送電ケーブル120R、120Y、120Bのトリプレックス構造は、断面視で、帰線ケーブル130を中心とする3回対称の回転対称な位置関係を保ちながら、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされる構造である。トリプレックス構造は、送電ケーブル120R、120Y、120Bの長手方向における伸縮が少なく、後述するマンホール内での固定が容易になる構造である。なお、断面視における3回対称の回転対称な位置関係とは、完全な3回対称の回転対称な位置関係に限らず、送電ケーブル120R、120Y、120Bの撚り合わせにおけるばらつき等による位置ずれが生じていても、断面視における3回対称の回転対称な位置関係が保たれているものとして取り扱う。
【0036】
実施の形態1では、帰線ケーブル130の外周に沿って、トリプレックス構造の送電ケーブル120R、120Y、120Bを配置した状態で、鋼管110(図1(A),(B)参照)の内部に送電ケーブル120R、120Y、120B及び帰線ケーブル130を配置している。
【0037】
以上のような実施の形態1の電力ケーブル100は、送電ケーブル120R、120Y、120B(図1(A),(B)参照)で三相交流電力を伝送する。定格容量は、一例として、250MVA(138kV,1045A)である。ただし、この定格容量は一例に過ぎず、敷設条件(温度や鋼管の埋設深さ)によって変わるものである。
【0038】
電力ケーブル100は、一例として、長さが487.68m(1600フィート)であり、複数の電力ケーブル100を直列に接続して用いる。この場合に、各電力ケーブル100の送電ケーブル120R、120Y、120Bは、同じ色同士のものが接続される。送電ケーブル120R、120Y、120Bについて、同じ色同士のものを接続するとは、同じ色の送電ケーブル120R、120Y、120Bの導線121同士を接続することである。また、この場合に、送電ケーブル120R、120Y、120Bの金属シース126については、相隣接する電力ケーブル100同士において、同じ色の金属シース126同士を接続してもよいし、各電力ケーブル100において金属シース126を接地してもよい。
【0039】
また、電力ケーブル100は、既設の直列接続された複数の電力ケーブルのうちの一部を交換する際に、交換用の新たな電力ケーブルとして用いることができる。例えば、直列接続された既設の複数の電力ケーブルのうちのある1本の電力ケーブルを交換する場合に、電力ケーブル100を用いてもよい。この場合に、取り除かれる電力ケーブルが鋼管110と同様の鋼管を有し、内部に送電ケーブル120R、120Y、120B及び帰線ケーブル130を挿通可能である場合には、取り除かれる電力ケーブルの鋼管を鋼管110として用いることができる。
【0040】
また、上述の場合には、電力ケーブル100の送電ケーブル120R、120Y、120Bの導線121を電力ケーブル100の両端にある既設の電力ケーブルの対応する相(同じ色の相)の送電ケーブルの導線と接続すればよい。また、この場合に、送電ケーブル120R、120Y、120Bの金属シース126は、接地すればよい。
【0041】
ここで、電力ケーブル100の鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120Bの金属シース126、及び帰線ケーブル130の地絡容量について検討する。電力ケーブル100は、送電ケーブル120R、120Y、120Bで絶縁破壊が発生すると、絶縁破壊が生じた電力ケーブル100に含まれる金属シース126又は帰線ケーブル130が溶断して、事故電流が鋼管110に流れる場合がある。
【0042】
このような場合には、絶縁破壊の生じた電力ケーブル100の鋼管110から、直列接続された隣接する電力ケーブル100の鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130に事故電流が流れる。
【0043】
従って、電力ケーブル100の鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130は、それぞれ、ある程度の(少なくとも事故電流の分流比以上の)地絡容量を有することが必要であり、地絡容量は、事故電流の通流経路になり得る鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130が流し得る電流量で決まる。
【0044】
なお、絶縁破壊が生じた電力ケーブル100の金属シース126又は帰線ケーブル130が溶断せずに、絶縁破壊が生じた電力ケーブル100においても、事故電流が鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130を通流経路として流れる場合がある。
【0045】
しかしながら、このような場合でも隣接する電力ケーブル100の鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130に事故電流が流れるため、絶縁破壊の生じた電力ケーブル100に隣接する電力ケーブル100の鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130がそれぞれ流し得る事故電流の電流量に基づいて地絡容量を評価する。
【0046】
図3は、実施の形態1の電力ケーブル100の地絡容量を示す図である。ここでは、比較用の電力ケーブルとして、実施の形態1の電力ケーブル100から帰線ケーブル130を取り除いた電力ケーブルを用いる。以下、実施の形態1の電力ケーブル100及び比較用の電力ケーブルに流れる電流量を地絡容量と比較する。なお、図3に示す電流値の単位はkA(キロアンペア)である。
【0047】
ここで用いる鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130の地絡容量は、それぞれ、鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130が所定の断面積を有し、0.25秒間にわたって電流が流れるという前提条件の下で、一例として算出した値である。
【0048】
鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130の地絡容量は、それぞれ、60(kA)、15.6(kA)、15.3(kA)である。なお、鋼管110の地絡容量の算出値は60(kA)以上であったが、ここでは60(kA)として取り扱う。また、金属シース126については、送電ケーブル120R、120Y、120Bのそれぞれの地絡容量があり、それぞれ、金属シース126(R)、126(Y)、126(B)と記す。
【0049】
このように、鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130は、0.25秒の期間までであれば、それぞれ、60(kA)、15.6(kA)、15.3(kA)の電流を流すことができる。
【0050】
以下では、鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130が上述のような地絡容量を有する場合に、送電ケーブル120R、120Y、120Bに、60(kA)の電流を0.25秒流し、送電ケーブル120Rに事故電流が生じたこととする。以下では、事故電流が発生した相を事故相と称す。
【0051】
実施の形態1の電力ケーブル100の鋼管110に流れる電流は17.9(kA)であり、事故相の金属シース126(R)に流れる電流は、15.0(kA)であった。また、事故相以外の金属シース126(Y)、126(B)に流れる電流は、ともに8.2(kA)であり、帰線ケーブル130に流れる電流は15.3(kA)であった。
【0052】
従って、鋼管110、金属シース126(R)、126(Y)、126(B)、及び帰線ケーブル130に流れる電流は、地絡容量以下の電流量であり、実施の形態1の電力ケーブル100は、事故電流の十分な通流経路を確保できていることが分かった。
【0053】
これに対して、帰線ケーブル130を含まない比較用の電力ケーブルの送電ケーブル120R、120Y、120Bに、60(kA)の電流を0.25秒流し、送電ケーブル120Rに事故電流が生じた場合に、鋼管110に流れる電流は23.4(kA)であり、事故相の金属シース126(R)に流れる電流は、18.4(kA)であった。また、事故相以外の金属シース126(Y)、126(B)に流れる電流は、ともに11.9(kA)であった。
【0054】
従って、比較用の電力ケーブルでは、事故相の金属シース126(R)に流れる電流が地絡容量を超えており、事故電流の十分な通流経路を確保できていないことが分かった。
【0055】
以上、実施の形態1によれば、帰線ケーブル130を中心として、帰線ケーブル130の長手方向に沿って、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされるトリプレックス構造の送電ケーブル120R、120Y、120Bを含むことにより、事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブル100を提供することができる。
【0056】
また、送電ケーブル120R、120Y、120Bは、上述のように、導線121、導線スクリーン122、絶縁層123、絶縁スクリーン124、ベッディング125、金属シース126、及びジャケット127を含む。
【0057】
例えば、既設の電力ケーブルを実施の形態1の電力ケーブル100に交換する場合に、既設の電力ケーブルの送電ケーブルがシールドを含む場合がある。ここで、図4を用いて、比較用の送電ケーブルについて説明する。
【0058】
比較用の送電ケーブル20とOFケーブル40を示す断面図である。図4(A)に示す送電ケーブル20の断面は、図2(A)の送電ケーブル120の断面に対応する。
【0059】
送電ケーブル20は、導線21、導線スクリーン22、絶縁層23、絶縁スクリーン24、ベッディング25、シールド30、金属シース26、及びジャケット27を含む。比較用の送電ケーブル20の導線21、導線スクリーン22、絶縁層23、絶縁スクリーン24、ベッディング25、金属シース26、及びジャケット27は、それぞれ、実施の形態1の送電ケーブル120の導線121、導線スクリーン122、絶縁層123、絶縁スクリーン124、ベッディング125、金属シース126、及びジャケット127に対応するため、詳細な説明は省略する。
【0060】
送電ケーブル20のジャケット27の外径は、送電ケーブル120のジャケット127の外径と等しい。送電ケーブル20は、ベッディング25と金属シース26との間にシールド30を含むため、導線21のサイズは、送電ケーブル120の導線121よりも小さい。
【0061】
シールド30は、金属素線の部材であり、金属シース26とともに接地電位(基準電位)に保持される。金属素線の部材は、例えば、直径約1mm程度の多数の導線をペディング25に巻き付けた構成を有する。シールド30は、導線21の静電遮蔽と電磁誘導遮蔽を行うとともに、事故電流の通流経路を確保するために設けられている。
【0062】
また、図4(B)に示すPOFケーブル用のOFケーブル40は、導線41、導線スクリーン42、絶縁層43、絶縁スクリーン44、ベッディング45を含む。
【0063】
OFケーブル40は、導線41、導線スクリーン42、絶縁層43、絶縁スクリーン44、ベッディング45は、それぞれ、実施の形態1の送電ケーブル120の導線121、導線スクリーン122、絶縁層123、絶縁スクリーン124、ベッディング125に対応するため、詳細な説明は省略するが、OFケーブル40では導線スクリーン42、絶縁層43、絶縁スクリーン44、ベッディング45は紙で構成されている。既設POF線路ではOFケーブル40が鋼管内に敷設されているが、鋼管が実施の形態1の送電ケーブル120の金属シース126、及びジャケット127の役割を果たし、鋼管内には絶縁油が充填されている。
【0064】
実施の形態1の送電ケーブル120では、金属シース126によって十分な静電遮蔽の特性を担保し、また、金属シース126と帰線ケーブル130で十分な電磁誘導遮蔽の特性を担保する。このため、例えば、既設のPOFケーブルが鋼管110の内部にOFケーブル40を含む構造を有する場合に、例えば改修工事において、3本に束ねた送電ケーブル20を含む構造ではなく、鋼管110を再利用して、鋼管110の内部に送電ケーブル120R、120Y、120B及び帰線ケーブル130を挿通させることにより、電力ケーブル100を敷設することができる。
【0065】
この場合に、送電ケーブル120は送電ケーブル20と等しい外径を有するが、送電ケーブル120はシールド30を含まないため、導線121の直径を導線21の直径よりも大きくすることができ、送電容量を向上させることができる。
【0066】
また、このような既設の電力ケーブルがPOFケーブルである場合には、絶縁油を用いずに環境への適合性の高い電力ケーブル100に更新することができ、送電容量の向上と環境適合性とを両立することができる。
【0067】
ここで、図5を用いて、複数の電力ケーブル100をマンホールを介して接続する形態について説明する。
【0068】
図5は、複数の電力ケーブル100A、100B、100Cをマンホール50A、50B、50Cを介して接続した状態を示す図である。図5には複数の電力ケーブル100A、100B、100Cを示すが、これらはすべて上述の電力ケーブル100と同一のものである。以下では、電力ケーブル100A、100B、100Cを特に区別しない場合には単に電力ケーブル100と称す。
【0069】
また、図5では、電力ケーブル100の鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120Bの導線121と金属シース126、及び帰線ケーブル130のみを示す。送電ケーブル120R、120Y、120Bの導線121及び金属シース126は、それぞれ、導線121R、121Y、121B及び金属シース126R、126Y、126Bと区別して記す。
【0070】
なお、導線121R、121Y、121B及び金属シース126R、126Y、126Bをそれぞれ区別しない場合には単に金属シース126及び帰線ケーブル130と称す。
【0071】
また、マンホール50A、50B、50Cは、互いに等しい構造を有するため、特に区別しない場合には単にマンホール50と称す。
【0072】
マンホール50は、筐体51、ジョイント52R、52Y、52B、ケーブル54、54A、55R、55Y、55B、56R、56Y、56Bと、例えば接続箇所としてリンクボックス53を含む。
【0073】
筐体51は、例えば、コンクリート製の筐体であり、相隣接する電力ケーブル100同士を接続する接続部(ジョイント52R、52Y、52B、リンクボックス53、ケーブル54、54A、55R、55Y、55B、56R、56Y、56B)を収納する。
【0074】
ジョイント52Rは、接続部57A、絶縁部57B、及び接続部57Cを有する。これは、ジョイント52Y及び52Bも同様である。接続部57A及び57Cは、金属製の接続用の部材であり、相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの導線121R同士を接続するが、相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの金属シース126同士は接続しない。相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの金属シース126同士は、ジョイント52Rの内部では、絶縁部57Bによって絶縁されている。
【0075】
ジョイント52Rの接続部57Aにはケーブル55Rが接続され、接続部57Cにはケーブル56Rが接続される。ケーブル55R及び56Rはリンクボックス53の接続部53Aを介して接続されている。なお、リンクボックス53の接続部53Aは接地されており、金属シース126は、リンクボックス53の接続部53Aを介して接地電位に保持されている。
【0076】
このようなジョイント52Rの構成は、ジョイント52Y及び52Bにおいても同様であり、上述の説明における添え字のアルファベットをRからY又はBに置き換えた構成を有する。
【0077】
リンクボックス53は、接地電位に保持される接続部53Aを有する。接続部53Aは、上述したケーブル55R、55Y、55Bとケーブル56R、56Y、56Bとをそれぞれ接続するとともに、接地電位に保持する。また、接続部53Aには、ケーブル54から分岐するケーブル54Aが接続されており、鋼管110及び帰線ケーブル130を接地電位に保持する。
【0078】
ケーブル54は、相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの鋼管110同士を接続する。また、ケーブル54には帰線ケーブル130も接続されている。このため、ケーブル54は、相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの帰線ケーブル130同士も接続する。
【0079】
ケーブル54の途中からは、ケーブル54Aが分岐しており、ケーブル54Aは、リンクボックス53の接続部53Aに接続されている。リンクボックス53の接続部53Aは接地電位に保持されるため、鋼管110及び帰線ケーブル130は、リンクボックス53の接続部53Aを介して接地電位に保持される。
【0080】
ケーブル55Rは、ジョイント52Rの接続部57Aとリンクボックス53の接続部53Aとの間を接続する。ケーブル56Rは、ジョイント52Rの接続部57Cとリンクボックス53の接続部53Aとの間を接続する。ケーブル55R及び56Rは、接続部53Aを介して互いに接続されるとともに、接地電位に保持される。
【0081】
このようなケーブル55R及び56Rの構成は、ケーブル55Y及び56Yとケーブル55B及び56Bにおいても同様であり、上述の説明における添え字のアルファベットをRからY又はBに置き換えた構成を有する。
【0082】
なお、以上では、相隣接する電力ケーブル100A及び100Bの接続関係について説明したが、相隣接する電力ケーブル100B及び100Cの接続関係も同様であり、相隣接する2つの電力ケーブル100同士はマンホール50によって同様に接続される。
【0083】
以上のように直列的に接続される電力ケーブル100A、100B、100Cにおいて、例えば、電力ケーブル100Aの導線121Rを含む送電ケーブル120R(図1(B)参照)で絶縁破壊が発生したとする。
【0084】
このような場合には、送電ケーブル120Rで生じた事故電流は、電力ケーブル100Aの金属シース126R又は帰線ケーブル130を介して鋼管110に流れ、ケーブル54を介して矢印Aのように流れ、矢印Bで示すように一部はケーブル54を経て電力ケーブル100Bの鋼管110及び帰線ケーブル130に流れ、残りはケーブル54Aを介して接続部53Aに流入する。接続部53Aに流入した電流は、ケーブル56R、56Y、56Bを介して、電力ケーブル100Bの金属シース126R、126Y、126Bに流れる。
【0085】
以上のようにして、電力ケーブル100Aの送電ケーブル120Rにおける絶縁破壊で生じた事故電流は、電力ケーブル100Aの鋼管110を流れ、ケーブル54、54A、56R、56Y、56Bを介して、電力ケーブル100Bの鋼管110、金属シース126R、126Y、126B、及び帰線ケーブル130に分流される。
【0086】
図3を用いて説明したように、電力ケーブル100の鋼管110、金属シース126(126R、126Y、126B)、及び帰線ケーブル130は、事故電流に対して十分な容量の通流経路を構築する。
【0087】
このため、送電ケーブル120の絶縁破壊による事故電流が発生しても、鋼管110、金属シース126(126R、126Y、126B)、及び帰線ケーブル130を流れる電流がそれぞれの地絡容量を超えることを抑制でき、事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブル100を提供することができる。
【0088】
<実施の形態2>
図6は、実施の形態2の電力ケーブル200を示す断面図である。図6に示す実施の形態2断面は、図1(B)に示す電力ケーブル100の断面に対応する断面である。
【0089】
電力ケーブル200は、鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120B、帰線ケーブル130、及び3本のパイプ241、242、243を含む。電力ケーブル200は、実施の形態1の電力ケーブル100にパイプ241、242、243と光ファイバ244、245、246を追加した構成を有する。その他の構成は、実施の形態1の電力ケーブル100と同様であり、同様の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
パイプ241、242、243は、断面視で相隣接する送電ケーブル120R、120Y、120Bの間に配設され、送電ケーブル120R、120Y、120Bと同様に、長手方向にわたって撚り合わされる。
【0091】
より具体的には、パイプ241は、送電ケーブル120Yと120Bとの間に配設された状態で、送電ケーブル120Yと120Bの外周に沿って長手方向にわたって撚り合わされる。
【0092】
同様に、パイプ242は、送電ケーブル120Bと120Rとの間に配設された状態で、送電ケーブル120Bと120Rの外周に沿って長手方向にわたって撚り合わされる。また、パイプ243は、送電ケーブル120Rと120Yとの間に配設された状態で、送電ケーブル120Rと120Yの外周に沿って長手方向にわたって撚り合わされる。
【0093】
パイプ241、242、243は、トリプレックス構造で帰線ケーブル130の周囲に、同じくトリプレックス構造で撚り合わされる送電ケーブル120R、120Y、120Bとともに、撚り合わされる。
【0094】
パイプ241、242、243のトリプレックス構造は、帰線ケーブル130を中心とする3回対称の回転対称な位置関係を保ちながら、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされる構造である。
【0095】
パイプ241、242、243は、第2導電線の一例であり、基準電位点に接続される。実施の形態2では、一例として、パイプ241、242、243は接地され、グランド電位に保持される。パイプ241、242、243を基準電位に保持するのは、送電ケーブル120に地絡等による事故電流が生じた場合に、パイプ241、242、243を事故電流の通流経路にするためである。
【0096】
パイプ241、242、243は、互いに同様の構成を有する。パイプ241、242、243は、それぞれ、パイプ部241A、242A、243Aの外周をジャケット241B、242B、243Bで覆ったものである。
【0097】
パイプ部241A、242A、243Aは、長手方向に沿って中空であり、実施の形態2では、一例としてアルミニウム製である。しかしながら、パイプ部241A、242A、243Aは、アルミニウム以外の金属製のパイプであってもよい。
【0098】
ジャケット241B、242B、243Bは、それぞれ、パイプ部241A、242A、243Aの周囲を覆う絶縁層であり、例えば、ポリエチレンである。
【0099】
また、パイプ部241A、242A、243Aの内部には、それぞれ、光ファイバ244、245、246が挿通されている。光ファイバ244、245、246は、例えば、光ファイバ部244A、245A、246Aの周囲をプラスチックパイプ244B、245B、246Bで覆ったものを用いることができる。この場合に、例えば、光ファイバ部244A、245A、246Aとしてはエアブロウンファイバを用いることができ、プラスチックパイプ244B、245B、246Bとしては、エアブロウンファイバ用パイプを用いることができる。
【0100】
このようにパイプ部241A、242A、243Aの内部に光ファイバ244、245、246を配設することにより、パイプ241、242、243は、事故電流の通流経路として用いるほかに、光ファイバ244、245、246による情報通信網を兼ねるように構成することができる。
【0101】
パイプ241、242、243は、送電ケーブル120R、120Y、120B、帰線ケーブル130とともに鋼管110の内部に挿通されるため、帰線ケーブル130を中心とした径方向において、送電ケーブル120R、120Y、120Bよりも外側に出ないように調整された直径を有することが好ましい。
【0102】
また、複数の電力ケーブル200同士を接続する際には、各電力ケーブル200のパイプ241、242、243を互いに接続するか、もしくは、光ファイバ244、245、246の内部にプラスチックパイプ244B、245B、246Bを引き通すことにより、光ファイバ部244A、245A、246Aの敷設を実現することができる。
【0103】
ここで、電力ケーブル200の鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120Bの金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243の地絡容量について検討する。電力ケーブル200は、送電ケーブル120R、120Y、120Bで絶縁破壊が発生すると、絶縁破壊が生じた電力ケーブル200に含まれる金属シース126、帰線ケーブル130、又はパイプ241、242、243が溶断して、事故電流が鋼管110に流れる場合がある。
【0104】
このような場合には、絶縁破壊の生じた電力ケーブル200の鋼管110から、隣接する電力ケーブル200の鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243に事故電流が流れる。
【0105】
従って、電力ケーブル200の鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243は、それぞれ、ある程度の地絡容量を有することが必要であり、地絡容量は、事故電流の通流経路になり得る鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243がそれぞれ流し得る電流量で決まる。
【0106】
なお、絶縁破壊が生じた電力ケーブル200の金属シース126、帰線ケーブル130、又はパイプ241、242、243が溶断せずに、絶縁破壊が生じた電力ケーブル200においても、事故電流が鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243を通流経路として流れる場合がある。
【0107】
しかしながら、このような場合でも隣接する電力ケーブル200の鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243に事故電流が流れるため、絶縁破壊の生じた電力ケーブル200に隣接する電力ケーブル200の鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243がそれぞれ流し得る事故電流の電流量に基づいて地絡容量を評価する。
【0108】
図7は、実施の形態2の電力ケーブル200の地絡容量を示す図である。ここでは、実施の形態2の電力ケーブル200に流れる電流量を地絡容量と比較する。なお、図7に示す電流値の単位はkA(キロアンペア)である。
【0109】
ここで用いる鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243の地絡容量は、それぞれ、鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243が所定の断面積を有し、0.25秒間にわたって電流が流れるという前提条件の下で、一例として算出した値である。
【0110】
鋼管110、金属シース126、及び帰線ケーブル130の地絡容量は、それぞれ、60(kA)、15.6(kA)、15.3(kA)であり、これは実施の形態1で図3に示した値と等しい。また、パイプ241、242、243の地絡容量は、すべて20(kA)である。
【0111】
このように、鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243は、0.25秒の期間までであれば、それぞれ、60(kA)、15.6(kA)、15.3(kA)、20(kA)の電流を流すことができる。
【0112】
以下では、鋼管110、金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243が上述のような地絡容量を有する場合に、送電ケーブル120R、120Y、120Bに、60(kA)の電流を0.25秒流し、送電ケーブル120Rに事故電流が生じたこととする。以下では、事故電流が発生した相を事故相と称す。
【0113】
実施の形態2の電力ケーブル200の鋼管110に流れる電流は8.4(kA)であり、事故相の金属シース126(R)に流れる電流は、10.4(kA)であった。また、事故相以外の金属シース126(Y)、126(B)に流れる電流は、ともに4.4(kA)であり、帰線ケーブル130に流れる電流は9.0(kA)であった。これらの電流量は、実施の形態1の電力ケーブル100における各電流量よりも低下している。これは、パイプ241、242、243を追加したことの効果であると考えられる。
【0114】
また、パイプ241、242、243に流れる電流は、それぞれ、4.6(kA)、12.6(kA)、11.6(kA)であった。パイプ241、242、243に流れる電流に分布が生じたのは、事故相との位置関係によるものと思われるが、いずれの電流も地絡電流(20(kA))を大きく下回っている。
【0115】
従って、鋼管110、金属シース126(R)、126(Y)、126(B)、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243に流れる電流は、地絡容量以下の電流量であり、実施の形態2の電力ケーブル200は、事故電流の十分な通流経路を確保できていることが分かった。
【0116】
以上、実施の形態2によれば、帰線ケーブル130を中心として、帰線ケーブル130の長手方向に沿って、帰線ケーブル130の周囲に撚り合わされるトリプレックス構造の送電ケーブル120R、120Y、120B及びパイプ241、242、243を含むことにより、事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブル200を提供することができる。
【0117】
また、パイプ241、242、243は、事故電流の通流経路として用いるほかに、内部空間を利用して、光ファイバ244、245、246を通して情報通信網を兼ねることができる。なお、パイプ241、242、243の内部に光ファイバ244、245、246(光ファイバ部244A、245A、246Aとプラスチックパイプ244B、245B、246B)を配設することなく、空洞にしておいてもよい。
【0118】
また、光ファイバ244、245、246を利用して、例えば、OPTHERMO(オーピサーモ:登録商標)による、光ファイバ温度分布計測システム(Fiber-Optic Distributed Temperature Sensing System:DTS)を構築してもよい。この光ファイバ温度分布計測システムは、光ファイバ244、245、246そのものを温度センサとして、数十kmにわたる光ファイバに沿った温度分布をリアルタイムに測定することができる。
【0119】
また、例えば、既設のPOFケーブルを電力ケーブル200に更新する場合に、1又は複数の電力ケーブル200の一端又は両端に、POFケーブルを接続する場合には、パイプ241、242、243の内部に光ファイバ244、245、246(光ファイバ部244A、245A、246Aとプラスチックパイプ244B、245B、246B)を配設せずに、パイプ部241A、242A、243Aの内部空間を絶縁油の流路として利用してもよい。隣接するPOFケーブルの絶縁油をパイプ部241A、242A、243Aの内部に流すことにより、絶縁油の流路を構築することができる。この構成については、図9を用いて後述する。また、パイプ241、242、243の内部に冷却用の液体(例えば、水)を流すことにより、送電ケーブル120の冷却を行ってもよい。このように、光複合・冷却・油通路としての機能をそれぞれパイプ241、242、243に持たせてもよい。
【0120】
ここで、図8を用いて、複数の電力ケーブル200をマンホールを介して接続する形態について説明する。
【0121】
図8は、複数の電力ケーブル200A、200B、200Cをマンホール250A、250B、250Cを介して接続した状態を示す図である。図8には複数の電力ケーブル200A、200B、200Cを示すが、これらはすべて上述の電力ケーブル200と同一のものである。以下では、電力ケーブル200A、200B、200Cを特に区別しない場合には単に電力ケーブル200と称す。
【0122】
また、図8では、電力ケーブル200の鋼管110、送電ケーブル120R、120Y、120Bの導線121と金属シース126、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243のみを示す。
【0123】
マンホール250は、実施の形態1のマンホール50のジョイント52R、52Y、52Bをジョイント252R、252Y、252Bに置き換えたものである。その他の構成は、実施の形態1のマンホール50と同様であるため、同様の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0124】
ジョイント252R、252Y、252Bは、互いに同様の構成を有するため、ここでは、ジョイント252Rについて説明する。
【0125】
ジョイント252Rは、接続部57A、絶縁部57B、接続部57C、及び突起部58A、58Bを有する。接続部57A、絶縁部57B、接続部57Cの構成は、実施の形態1のジョイント52Rの接続部57A、絶縁部57B、接続部57Cと同様である。
【0126】
突起部58A、58Bは、それぞれ、接続部57A、57Cに設けられている。突起部58A、58Bは、それぞれ、接続部57A、57Cから外側に突出しており、接続部57A、57Cと同様に金属製である。
【0127】
接続部57A、57Cには、それぞれ、電力ケーブル200Aのパイプ241と、電力ケーブル200Bのパイプ241とが接続される。これにより、パイプ241は接地電位に保持される。
【0128】
このようなジョイント252Rの構成は、ジョイント252Y及び252Bにおいても同様である。ジョイント252Yは、電力ケーブル200Aのパイプ241と、電力ケーブル200Bのパイプ241とを接続する。ジョイント252Bは、電力ケーブル200Aのパイプ241と、電力ケーブル200Bのパイプ241とを接続する。
【0129】
なお、以上では、相隣接する電力ケーブル200A及び200Bの接続関係について説明したが、相隣接する電力ケーブル200B及び200Cの接続関係も同様であり、相隣接する2つの電力ケーブル200同士はマンホール250によって同様に接続される。
【0130】
以上のように直列的に接続される電力ケーブル200A、200B、200Cにおいて、例えば、電力ケーブル200Aの導線121Rを含む送電ケーブル120R(図6(B)参照)で絶縁破壊が発生したとする。
【0131】
このような場合には、送電ケーブル120Rで生じた事故電流は、電力ケーブル200Aの金属シース126R、帰線ケーブル130、又はパイプ241、242、243を介して鋼管110に流れ、ケーブル54を介して矢印Aのように流れ、矢印Bで示すように一部はケーブル54を経て電力ケーブル200Bの鋼管110及び帰線ケーブル130に流れ、残りはケーブル54Aを介して接続部53Aに流入する。接続部53Aに流入した電流は、ケーブル56R、56Y、56Bを介して、電力ケーブル200Bの金属シース126R、126Y、126Bとパイプ241、242、243とに流れる。
【0132】
以上のようにして、電力ケーブル200Aの送電ケーブル120Rにおける絶縁破壊で生じた事故電流は、電力ケーブル200Aの鋼管110を流れ、ケーブル54、54A、55R、55Y、55B、56R、56Y、56Bを介して、電力ケーブル200Bの鋼管110、金属シース126R、126Y、126B、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243に分流される。
【0133】
図7を用いて説明したように、電力ケーブル200の鋼管110、金属シース126(126R、126Y、126B)、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243は、事故電流に対して十分な容量の通流経路を構築する。実施の形態2の電力ケーブル200は、実施の形態1の電力ケーブル100に比べて、事故電流の通流経路の容量が約50%増大している。
【0134】
このため、送電ケーブル120の絶縁破壊による事故電流が発生しても、鋼管110、金属シース126(126R、126Y、126B)、帰線ケーブル130、及びパイプ241、242、243を流れる電流がそれぞれの地絡容量を超えることを抑制でき、事故電流の十分な通流経路を確保した電力ケーブル200を提供することができる。
【0135】
なお、以上では、パイプ241、242、243を用いる形態について説明したが、パイプ241、242、243の代わりに、導線を用いてもよい。また、パイプ241、242、243は、いずれか1本又は2本であってもよい。
【0136】
ここで、図9を用いて、既設のPOFケーブルを電力ケーブル200に更新する場合に、複数の電力ケーブル200の両端のPOFケーブルの絶縁油をパイプ241、242、243の内部に流すことにより、絶縁油の流路を構築する形態について説明する。
【0137】
図9は、既設のPOFケーブルを電力ケーブル200A、200Bに更新した状態を示す図である。図9では、電力ケーブル200A、200Bについては、説明の便宜上、1本の送電ケーブル120と1本のパイプ241と鋼管110のみを示す。
【0138】
また、POFケーブル70A、70B、70C、70Dは、3本のOFケーブル40を鋼管110の内部に挿通して、鋼管110の内部に絶縁油を充填したものである。OFケーブル40は、図4(B)に示す比較用のOFケーブル40である。図9では、説明の便宜上、各POFケーブル70A、70B、70C、70Dについて、鋼管110と1本のOFケーブル40を示す。また、POFケーブルでは、鋼管110はオイルラインとしての機能を担うため、鋼管110をオイルラインとして取り扱う。
【0139】
図9(A)では、POFケーブル70AのOFケーブル40とPOFケーブル70BのOFケーブル40との間に、ジョイント80A及び80Cを介して、電力ケーブル200A、200Bの送電ケーブル120が接続されている。POFケーブル70BのOFケーブル40の右側には、ジョイント80D及び80Eを介して、POFケーブル70C及び70DのOFケーブル40が接続されている。なお、電力ケーブル200A、200Bの送電ケーブル120同士はジョイント80Bによって接続されている。
【0140】
また、POFケーブル70Aの鋼管110、電力ケーブル200A、200Bのパイプ241、POFケーブル70B、70C、70Dの鋼管110は、継ぎ手72を介して接続されている。なお、パイプ241については、実際には、パイプ241のパイプ部241Aが鋼管110と接続される。また、実際には、3本のパイプ241、242、243のパイプ部241A、242A、243Aがある。3本のパイプ部241A、242A、243Aは、継ぎ手72で合流して、鋼管110に接続される。なお、継ぎ手72はジョイント80A及び80Cの一部であってもよい。
【0141】
また、POFケーブル70Aの左側には終端部90Aが接続され、POFケーブル70Dの右側には終端部90Bが接続されている。また、POFケーブル70Aの鋼管110にはオイル供給装置90Eが接続され、POFケーブル70Dの鋼管110には、オイル供給装置90Fが接続される。
【0142】
ジョイント80Bは、図8に示すマンホール250A〜250Cと同様の接続部である。また、終端部90A、90Bは、電力の供給先又は供給元に接続されるとともに、オイル供給装置に接続されて、POFケーブル70A〜70Dの内部にある絶縁油の圧力等の管理及び調整を行う。
【0143】
電力ケーブル200A、200Bを敷設する前は、POFケーブル70Aと70Bとの間にも同様の2つのPOFケーブルが存在していたが、図9(A)に示すように、電力ケーブル200A、200Bに更新されている。
【0144】
このような場合に、電力ケーブル200A、200Bのパイプ241をPOFケーブル70Aと70Bの鋼管110に接続すれば、電力ケーブル200A、200Bへの更新と、両側にあるPOFケーブル70Aと70Bの間における絶縁油の流通を両立することができる。
【0145】
また、図9(B)では、終端部90Aには、POFケーブル70A、ジョイント80A、電力ケーブル200A、ジョイント80B、電力ケーブル200B、ジョイント80C、及び電力ケーブル270Eが接続されている。電力ケーブル270Eは、絶縁油を用いないドライ型の電力ケーブルであり、鋼管110がない場所、又は、鋼管110の内部に敷設しない場所に設置した線路を示す。
【0146】
また、ジョイント80Cからは、オイルライン90Cが分岐しており、既設のオイル供給装置90Dに接続されている。
【0147】
図9(B)は、更新前にはPOFケーブル70Aの右側に複数のPOFケーブルとオイル供給装置90Dと電力ケーブル270Eが接続されていた電力伝送システムのPOFケーブル70A以外のPOFケーブルを電力ケーブル200A、200Bに更新し、既設のオイル供給装置90Dに再接続したものである。
【0148】
図9(B)に示す電力伝送システムでは、電力は、終端部90Aと電力ケーブル270Eとの間で伝送され、POFケーブル70Aの鋼管110の絶縁油は、電力ケーブル200A、200Bのパイプ241と、オイルライン90Cとを介して、オイル供給装置90Dによって圧力等の管理及び調整が行われる。
【0149】
以上、実施の形態2の電力ケーブル200は、パイプ241、242、243を絶縁油の流路として利用することにより、既設のPOFケーブルの一部分の更新に利用することができる。
【0150】
以上、本発明の例示的な実施の形態の電力ケーブルについて説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0151】
100 電力ケーブル
110 鋼管
120R、120Y、120B 送電ケーブル
121 導線
122 導線スクリーン
123 絶縁層
124 絶縁スクリーン
125 ベッディング
126 金属シース
127 ジャケット
130 帰線ケーブル
200 電力ケーブル
241、242、243 パイプ
244、245、246 光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9