(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871370
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】三次元スキャフォルドの製造装置及び三次元スキャフォルドの製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20160216BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
D04H1/728
D01D5/04
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-270360(P2011-270360)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-122098(P2013-122098A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年12月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 2011年9月27日、公益社団法人日本生物工学会主催の「第63回(2011年)日本生物工学会大会」において文書をもって発表(2件)、2011年10月25日、日本人工臓器学会発行の「第49回日本人工臓器学会大会予稿集(第40巻 第2号)」に発表、及び2011年11月19日、日本生体医工学会関東支部主催の「日本生体医工学会関東支部若手研究者発表会2011」において文書をもって発表
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】幡多 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】村井 正広
(72)【発明者】
【氏名】和田 知明
(72)【発明者】
【氏名】野中 一洋
(72)【発明者】
【氏名】舟久保 昭夫
【審査官】
阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02045375(EP,A1)
【文献】
特開2011−214168(JP,A)
【文献】
特開2007−236551(JP,A)
【文献】
特開2006−299459(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0162468(US,A1)
【文献】
特開2008−223186(JP,A)
【文献】
特表2008−517175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00− 18/04
D01D 5/04
A61L 27/00
A61F 2/02− 2/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、
主面および前記主面の一点から立設し前記主面を支持する支持棒を備える複数の陰極板と、
前記ニードル型電極及び前記陰極板の間に電圧を印加する高電圧電源と、
前記複数の陰極板の間にターゲットを配置し、前記ターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段とを有し、
前記複数の陰極板の各主面が略同一平面に属するように等間隔に離間して配置されることを特徴とする三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項2】
前記陰極板の前記主面が円状であることを特徴とする請求項1記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項3】
前記陰極板の前記主面が長方形状であることを特徴とする請求項1記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項4】
前記陰極板の前記主面が略正方形状であることを特徴とする請求項1記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項5】
前記複数の陰極板が、円周上に中心角略60度の等間隔で複数配置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項6】
前記保持手段は、
支持台と、
前記支持台上に立設された支持棒と、
前記支持棒の一端において支持される中心角略90度の円弧状レールと、
前記円弧状レールの一端で支持される半円状レールと、
前記円弧状レール及び前記半円状レール上を移動可能とする駆動手段と、
前記駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒
とを備えることを特徴とする請求項1に記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項7】
前記保持手段は、
支持台と、
前記支持台上に立設された長手方向軸を中心に自転可能な支持棒と、
前記支持棒の一端から連続して円弧を描く中心角略90度の円弧状レールと、
前記円弧状レール上を移動可能とする駆動手段と、
前記駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒
とを備えることを特徴とする請求項1に記載の三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項8】
ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、
離間して配置され互いに対向しあう一対の陰極と、
前記ニードル型電極及び前記陰極の間に電圧を印加する高電圧電源と、
支持台と、前記支持台上に立設された支持棒と、前記支持棒の一端において支持される中心角略90度の円弧状レールと、前記円弧状レールの一端で支持される半円状レールと、 前記円弧状レール及び前記半円状レール上を移動可能とする駆動手段と、前記駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒とを備え、前記一対の陰極の間にターゲットを配置し前記ターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段と
を有することを特徴とする三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項9】
ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、
離間して配置され互いに対向しあう一対の陰極と、
前記ニードル型電極及び前記陰極の間に電圧を印加する高電圧電源と、
支持台と、前記支持台上に立設された長手方向軸を中心に自転可能な支持棒と、前記支持棒の一端から連続して円弧を描く中心角略90度の円弧状レールと、前記円弧状レール上を移動可能とする駆動手段と、前記駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒とを備え、前記一対の陰極の間にターゲットを配置し前記ターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段と
を有することを特徴とする三次元スキャフォルドの製造装置。
【請求項10】
高分子溶液が収容されたニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプを用意し、前記シリンジポンプから離間して、主面および前記主面の一点から立設し前記主面を支持する支持棒を備える複数の陰極板を前記各主面が略同一平面に属するように円周上に等間隔に配置する工程と、
前記複数の陰極板の中心にターゲットを配置し前記ターゲットを自転もしくは移動させる工程と、
前記シリンジポンプと前記陰極板間に高電圧を印加しつつ、高分子を噴霧し、前記ターゲット上にナノオーダーの繊維を紡糸する工程
とを備えることを特徴とする三次元スキャフォルドの製造方法。
【請求項11】
前記陰極板の前記主面が円状であることを特徴とする請求項10記載の三次元スキャフォルドの製造方法。
【請求項12】
前記陰極板の前記主面が長方形状であることを特徴とする請求項10記載の三次元スキャフォルドの製造方法。
【請求項13】
前記陰極板の前記主面が略正方形状であることを特徴とする請求項10記載の三次元スキャフォルドの製造方法。
【請求項14】
前記複数の陰極板が、円周上に中心角60度の略等間隔で複数配置されていることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の三次元スキャフォルドの製造方法。
【請求項15】
前記ターゲットが、アルギン酸ナトリウム溶液をカルシウム水溶液に滴下して得られた三次元形状を供えるゲル状ターゲットであり、前記三次元スキャフォルドを製造後に、前記ターゲットをエチレンジアミン四酢酸(EDTA)に浸し溶解させることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の三次元スキャフォルドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療等に有用な、エレクトロスピニング法を用いた三次元スキャフォルドの製造装置及び三次元スキャフォルドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで身体の一部もしくはその機能が失われた場合の治療法としては、臓器移植や人工臓器移植が主な治療法であった。しかし、臓器移植ではドナー不足や免疫拒絶といった多くの課題の解決が求められていた。一方、人工臓器移植ではより異物感がなく軽量な人工臓器の開発が求められていた。
【0003】
これらの臓器移植に代わる新しい治療法として再生医療が注目されている。再生医療は、体の一部が外傷により死滅(壊死)しまたはガンで正常な臓器や組織の働きが損なわれた際に、自分自身の細胞を用いて、もとの機能を回復させる治療法である。現在の再生医療では平面的な二次元培養から、より生体組織を模倣した三次元培養の研究に注目が集まってきている。また再生医療技術と人工臓器とを組み合わせたハイブリッド型人工臓器の開発にも注目が集まってきている。
【0004】
細胞を増殖し機能させるためには、その足場となるスキャフォルド(細胞足場材料)が重要となる。このような課題に対して、エレクトロスピニング法を用いたいくつかの技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。ここで「エレクトロスピニング法」とは、例えば、高分子溶液が収容されたニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、シリンジポンプから離間された陰極とを用意し、両者間に高電圧を印加しつつ、高分子を噴霧することで陰極(コレクター)上にナノオーダーの繊維を紡糸する方法である。陰極の形状を筒状とし、その長手方向を軸に筒状の陰極を回転させながら繊維を紡糸することで人工血管に応用可能なチューブが形成される。しかし、繊維の配向性を制御することや、また袋状等の三次元スキャフォルドを作製することは困難であった。
【0005】
一方、特許文献1には、陰極として、絶縁体であるガラスプレートの両端に、離間して平行に2枚のコレクター電極が設けられたエレクトロスピニング法を用いたナノファイバーの集積方法が開示されている。特許文献1に開示された発明によれば、繊維の配向性の向上は期待される。しかしながら、ガラスプレート上に繊維が紡糸される構造を取るため、シート状の繊維を紡糸できたとしても、三次元スキャフォルドを作製することは困難であった。
【0006】
そのため、三次元構造の繊維性スキャフォルド作製に有用な、三次元スキャフォルドの製造装置及び三次元スキャフォルドの製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−274487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、三次元構造の繊維性スキャフォルド作製に有用な、三次元スキャフォルドの製造装置及び三次元スキャフォルドの製造方法を提供することを要旨とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
(イ)ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、 主面および主面の一点から立設し主面を支持する支持棒を備える複数の陰極板と、(ハ)ニードル型電極及び陰極板の間に電圧を印加する高電圧電源と、(ニ)複数の陰極板の間にターゲットを配置し、ターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段とを有し、複数の陰極板の各主面が略同一平面に属するように等間隔に離間して配置される三次元スキャフォルドの製造装置を要旨とする。
【0010】
本発明の第2の態様は、
(イ)ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、(ロ)離間して配置され互いに対向しあう一対の陰極と、(ハ)ニードル型電極及び陰極の間に電圧を印加する高電圧電源と、(ニ)支持台と、支持台上に立設された支持棒と、支持棒の一端において支持される中心角略90度の円弧状レールと、円弧状レールの一端で支持される半円状レールと、円弧状レール及び半円状レール上を移動可能とする駆動手段と、駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒とを備え、一対の陰極の間にターゲットを配置しターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段とを有する三次元スキャフォルドの製造装置を要旨とする。
【0011】
本発明の第3の態様は、
(イ)ニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプと、(ロ)離間して配置され互いに対向しあう一対の陰極と、(ハ)ニードル型電極及び陰極の間に電圧を印加する高電圧電源と、(ニ)支持台と、支持台上に立設された長手方向軸を中心に自転可能な支持棒と、支持棒の一端から連続して円弧を描く中心角略90度の円弧状レールと、円弧状レール上を移動可能とする駆動手段と、駆動手段上に設けられた、ターゲットを保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒とを備え、一対の陰極の間にターゲットを配置しターゲットを自転もしくは移動可能に保持する保持手段とを有する三次元スキャフォルドの製造装置を要旨とする。
【0012】
本発明の第4の態様は、(イ)高分子溶液が収容されたニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプ、各陰極板がその主面の一点から立設した支持棒で支持され各陰極板側面中の直線が略同一平面に属するように離間して配置される
複数の陰極板をシリンジポンプから離間して配置する工程と、(ロ)
複数の陰極板の中心にターゲットを配置しターゲットを自転もしくは移動させる工程と、(ハ)シリンジポンプと陰極間に高電圧を印加しつつ、高分子を噴霧し、ターゲット上にナノオーダーの繊維を紡糸する工程とを備える三次元スキャフォルドの製造方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三次元構造の繊維性スキャフォルド作製に有用な、三次元スキャフォルドの製造装置及び三次元スキャフォルドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る三次元スキャフォルドの製造装置の概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る三次元スキャフォルドの製造装置の概略図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の変形例に係る三次元スキャフォルドの製造装置の概略図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る三次元スキャフォルドの製造装置の概略図である。
【
図5】
図5(a)は第2実施形態における略正方形状の陰極板の上面図、
図5(b)はその側面図、
図5(c)は配置状態を示し、
図5(d)は陰極板間の等電位線及び電気力線を示す。
【
図6】
図6は、第2実施形態の変形例に係る三次元スキャフォルドの製造装置の概略図である。
【
図7】
図7(a)は第2実施形態の変形例における略円形の上面図、
図7(b)はその側面図、
図7(c)は配置状態を示し、
図7(d)は陰極板間の等電位線及び電気力線を示す。
【
図8】
図8(a)は実験の状態を示し、
図8(b)は配向角度の基準を示す。
【
図9】
図9(a)(b)は、第2実施形態により得られたスキャフォルドの繊維の配向性を示す。
【
図10】
図10(a)(b)は、第2実施形態の変形例により得られたスキャフォルドの繊維の配向性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
[第1実施形態]
図1に示すように、実施形態にかかる三次元スキャフォルドの製造装置1は、ニードル型電極2aが先端に取り付けられたシリンジポンプ2と、離間して配置され互いに対向しあう一対の陰極3a,3bと、ニードル型電極2a及び陰極3a,3bの間に電圧を印加する高電圧電源5と、一対の陰極3a,3bの間にターゲット9を配置しターゲット9を自転もしくは移動可能に保持する保持手段8とを有する。
【0017】
保持手段8は、支持台81と、支持台81上に立設された支持棒82と、支持棒82の一端において支持される中心角略90度の円弧状レール84と、円弧状レール84の一端で支持される半円状レール88と、円弧状レール84及び半円状レール88上を移動可能とする駆動手段85と、駆動手段85上に設けられたターゲット9を保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒86とを備える。
【0018】
図2に示すように、駆動手段85は、仮想線で示すように、半円状レール88上を180度回転し、円弧状レール84上を90度回転する。また保持棒86は長手方向軸を中心に180度回転する。なお、支持棒82は長手方向軸を中心に180度回転し、長手方向に上下動可能に構成してもよい。
【0019】
紡糸に使用される高分子としては、特に制限はなく、従来よりエレクトロスピニング法により紡糸可能であることが知られたものを用いることができる。例えば、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン66、ナイロン4,6、ポリカプロラクタム、アラミド、ポリエーテルウレタン、ポリビニルアルコール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリペプチド、タンパク質、コールタールピッチ、石油ピッチ、導電性高分子など溶剤に溶解する種々の高分子が挙げられる。
【0020】
三次元スキャフォルドという用途を考慮すると、生体適合性に優れた高分子を用いることが好ましい。例えば、セグメント化ポリウレタン(SPU)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ乳酸等を用いることが好ましい。その他にも、例えば天然高分子と合成高分子、ポリγグルタミン酸(PGA)、ポリ乳酸・グリコール酸(Copoly lactic acid/glycolic acid(PLGA))、ポリカプロラクトン、コラーゲン、アルギン酸を用いることができる。
【0021】
上述の高分子を溶解して紡糸溶液を形成するために用いられる溶媒としては、従来よりエレクトロスピニング法において用いられているものを使用することができる。例えば、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸等の揮発性の比較的高いものを用いることができる。これらの他にも、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、アセトニトリル(AN)等の揮発性が相対的に低いものを用いることもできる。これらの溶媒は、用いられる高分子の溶解性を考慮して、適宜のものを選択して用いることができる。またこれら溶媒は、1種単独で用いられてもよいし、必要に応じ2種以上が併用されてもよい。さらに、紡糸溶液の電気特性を改善するために、水、水酸化ナトリウム溶液、塩化リチウム溶液などの電解質を添加してもよい。
【0022】
また電極の材質としては導電性を有するものであれば特に制限なく種々のものを用いることができる。例えば銅、アルミニウム等を用いることができる。
【0023】
ターゲット9としては、三次元スキャフォルドを作製中に所定の形状を保持でき、また三次元スキャフォルドの作製後に、三次元スキャフォルドの損傷を与えることなく、ターゲットのみを溶解(熔解)できるものであれば特に制限されるものではない。ターゲット9としては、例えば、アルギン酸ナトリウム溶液をカルシウム水溶液に滴下し、任意のサイズ・形状のゲル状のターゲットを用いることができる。
【0024】
図1の三次元スキャフォルドの製造装置1の使用方法と併せて、三次元スキャフォルドの製造方法について説明する。
【0025】
(イ)高分子溶液が収容されたニードル型電極2aが先端に取り付けられたシリンジポンプ2を用意し、シリンジポンプ2から離間して、互いに対向しあう一対の陰極3a,3bを配置する。具体的には
図1に示す三次元スキャフォルドの製造装置1を用意する。またターゲット上に堆積させる高分子として、例えば医療用材料として広く用いられているセグメント化ポリウレタン(SPU)を用意する。
【0026】
(ロ)ターゲット9を作製する。具体的にはアルギン酸ナトリウム溶液をカルシウム水溶液に滴下し、任意のサイズ・形状のゲル状のターゲットを加工作製する。ここではゲル状ビーズ(球体)とする。そして作製したターゲット9を
図1に示すように陰極3a,3b間に設置する。
【0027】
(ハ)一対の陰極3a,3bの間にターゲット9を配置しターゲット9を自転もしくは移動させる。そして、一対の陰極3a,3b間で配向される繊維性スキャフォルドをターゲット9で巻き取る。その際、自転しながら移動させることもできる。
【0028】
(ニ)シリンジポンプ2と陰極間3a,3bに高電圧を印加しつつ、高分子を噴霧し、ターゲット9上にナノオーダーの繊維を紡糸する。スピニング条件としては、印加電圧を12〜18kv、ターゲット速度を30〜300rpm、シリンジ速度0.1〜0.15mm/min、
図1においてAで表される電極間距離を100〜300mm、
図1においてBで表される陰極間距離を30〜160mm、堆積時間を3〜60分とすることが好ましい。ゲルビーズを自転させながら繊維を巻き取る他に、ゲルビーズを陰極間において任意の方向及び角度で移動させることでゲルビーズ表面にむらなく繊維が堆積される。
【0029】
(ホ)その後、繊維性スキャフォルドを堆積させたアルギン酸ゲルビーズをエチレンジアミン四酢酸(EDTA)に浸し、ターゲットであるゲルビーズのみを崩壊させる。
【0030】
以上により、任意の形状をした三次元スキャフォルドが作製される。
【0031】
第1実施形態に準じて、スピニング条件として、印加電圧を15kv、ターゲット速度を100rpm、シリンジ速度を0.15mm/min、電極間距離(A)を200mm、陰極間距離(B)を50mm、蓄積時間を5分として三次元繊維性スキャフォルドを作製した。その結果、ビーズ(球体)状の三次元繊維性スキャフォルドが作製された。またビーズ(球体)のターゲットに代えて、ミニカーの形状を模したターゲットを用いたことを除き、同様の条件で実験をしたところ、それらの複雑な形状を備える三次元繊維性スキャフォルドが形成されることが確認された。
【0032】
従来のエレクトロスピニング法では、陰極と繊維性スキャフォルドを堆積させるターゲット(コレクター)が同一のものであった。即ち、陰極とコレクターは同一平面上に配置されていた。そして堆積させた繊維性スキャフォルドは陰極から剥離することにより得ていた。そのため、陰極形状に起因したシート状やチューブ状のスキャフォルドしか作製することができなかった。
【0033】
しかし、第1実施形態によれば、陰極が離間して配置された一対の陰極3a,3bからなることから、陰極3a,3b間に配置したターゲット9を任意の方向及び角度で設置回転させることができる。そのため、袋状などのより複雑な三次元構造をした繊維性スキャフォルドを作製することが可能である。またターゲット9は、サイズや形状が任意に加工でき、しかも所定の溶液に溶解可能な材料、例えばゲル等で作製される。そのため一連の工程が終わった後に、ターゲット9を溶液処理等により溶解させることのみで、堆積させた繊維スキャフォルドを損傷させることなく三次元構造をそのまま維持した状態で回収することが可能である。
【0034】
[第1実施形態の変形例]
保持手段8は、
図1に示すものに限定されない。例えば、保持手段8として、
図3に示すような、支持台81と、支持台81上に立設された長手方向軸を中心に自転可能な支持棒82と、支持棒82の一端から連続して中心角略90度の円弧を描く円弧状レール89と、円弧状レール89を移動可能とする駆動手段85と、駆動手段85上に設けられた、ターゲット9を保持し長手方向軸を中心に自転可能な保持棒86とを備える保持手段8Aとしてもよい。
【0035】
[第2実施形態]
図4に示すように、第2実施形態に係る三次元スキャフォルドの製造装置1Bは、ニードル型電極2aが先端に取り付けられたシリンジポンプ2と、主面および主面の一点から立設し主面を支持する支持棒94を備える複数の陰極板95(95a…95f)と、ニードル型電極2及び陰極板95の間に電圧を印加する高電圧電源5とを有する。複数の陰極板95a…95fの各主面は、略同一平面に属するように等間隔に離間して配置されている。
【0036】
陰極板95(95a…95f)は長方形状の陰極板である。ここで「長方形」とは4つの内角がすべて直角の四辺形をいい、正方形も含まれる概念である。なお、
図4には長方形の具体例として略正方形状が例示されているが、略正方形状に限定されるものではない。また、発明の理解を容易にする目的で図示は省略されているが、
図3に示すような、ターゲット9を自転もしくは移動可能に保持する保持手段8Aをさらに備え、ターゲット9が
図4の陰極板95の間(略中心部)に配置される。
【0037】
図5(a)に示すように、陰極板95a…95fは、円周上に中心角略60度の等間隔で複数配置されている。陰極板面積(S)を10〜30cm
2とした場合、陰極板間距離(E)を3〜16cm、電極間距離(A)を10〜30cmとすることが好ましい。陰極板面積(S)と、電極間距離(A)及び陰極板間距離(E)は相対的な関係にある。そのため陰極板面積(S)、電極間距離(A)及び陰極板間距離(E)のそれぞれの値が前述の下限値未満もしくは上限値を超えた場合、電気力線が形成されにくくなり、三次元スキャフォルドの生産性が低下する傾向があるからである。陰極板95a…95fの1辺の長さ(C)は4〜7.5cmが好ましい。具体的な陰極板95a…95fの主面の寸法としては、4×2.5cm、4×5.0cm、4×7.5cm等が挙げられる。なお、各陰極板95a…95fの寸法は完全同一である必要はないが、略同一であることが好ましい。
【0038】
図5(b)に示すように、各陰極板95e,95bの主面が略同一平面に属するように、陰極板間距離(E)をおいて離間して配置される。陰極板95a、95c、95d、95fのそれぞれの主面についても同様に、陰極板95e、95bの主面と略同一平面に属するように配置される。支持棒94e、94bの長さ(F)は8〜12cmが好ましく、具体的には10cm程度とすることができる。
図5(c)は使用の状態を示す図である。
図5(d)に示すように、一対の陰極板状の電極95a、95d間では、図面の縦方向に等電位線、横方向に電気力線が形成される。陰極板95b、95e間、陰極板95c、95f間においても同様である。
【0039】
第1実施例と同様にして、陰極板95a…95f間に高電圧を印加しつつ、高分子を噴霧することで、任意の形状をした三次元スキャフォルドが作製される。
【0040】
[第2実施形態の変形例]
第2実施形態においては、陰極板95の形状を略正方形状の陰極板とした。しかし、陰極板の形状は略正方形状の陰極板に限定されることはなく、
図6に示すように円形の陰極板96(96a…96f)としても構わない。なお、上述の第2実施形態と同様の理由により、陰極板面積(S)を10〜30cm
2とした場合、陰極板間距離(E)を3〜16cm、電極間距離(A)を10〜30cmとすることが好ましい。
【0041】
図7(a)に示すように,陰極板96a…96fは、円周上に中心角60度の略等間隔で配置される。
図7(b)に示すように各陰極板96e,96bの主面が略同一平面に属するように、陰極板間距離(E)をおいて離間して配置される。一対の陰極板96a,96d間では、
図7(d)に示すように、図面の縦方向に等電位線、横方向に電気力線が形成される。陰極板96b、96e間,陰極板96c、96f間においても同様である。
【0042】
繊維の配向性を確認するために、第2実施形態およびその変形例について、以下のような実験を行った。まず
図4に示す装置を用意した。そして、スピニング条件として、印加電圧を17kv、シリンジ速度0.15mm/min、電極間距離200mm、陰極板間距離50mm、蓄積時間15分の条件で
図8(a)に示すように、陰極板95間に配向した繊維をガラス基材に付着させた。その際、スイッチングの影響をみるために、蓄積時間中に電圧を継続して印加し続けた場合(
図12において「SW全てON」と表示)と、5分毎に電圧を印加した場合(
図12において「SW切換え」と表示)とに分けて実験を行った。その後、付着した繊維をCCDカメラ付光学顕微鏡により、ガラス基材表面の画像を取得した。そして、
図8(b)に示す配向角度の基準に基づいて、その取得画像を元に繊維本数と配向角度の分布を算出し評価した。継続的に印加した場合の結果を
図9(a)に、5分毎に印加した場合を
図9(b)に示す。また
図6に示す装置についても同様の実験を行った。継続的に印加した場合の結果を
図10(a)に、5分毎に印加した場合を
図10(b)に示す。これらの結果から繊維の配向性を制御できることが確認された。継続して電圧を印加し続けるよりも、時間間隔をおいて電圧をかけたほうが繊維の配向性を制御し易いことが分かった。また
図6の主面が円形の陰極板96a…96fを用いたほうが、
図4の主面が正方形状の陰極板95を用いるよりも繊維の配向性を制御しやすいことが分かった。
【0043】
上述の結果を、繊維配向角頻度分布図として
図11に、繊維配向角頻度分布のデータを
図12に示す。
図12に示されるように、設定配向角度に対して、±10度であった繊維の割合は、円形の陰極板96a…96fで、5分毎に印加(SW切り替え)した場合95%であった。また回転速度によっても配向角度が異なることが分かった。よって、ターゲットの形状に応じて巻き取り速度と配向角度を制御することが好ましいことがいえた。
【0044】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、ターゲット9としては、所定の形状を氷等で作製してもよい。そして、三次元スキャフォルドが作製された後にターゲットとしての氷等を熔解させても構わない。但し、ターゲットとして氷を使用する場合、三次元スキャフォルドの作製中の温度管理が難しくなるので、常温で作業ができるターゲットを用いることが好ましい。
【0045】
実施形態において説明した構成を一部に含むシステムとしても使用することができる。また三次元スキャフォルドを中心に説明したが、本実施形態により製造される加工物は、三次元スキャフォルドに限定されることなく、それと同様の用途に用いられるものに、本実施形態を適用することができる。
【0046】
他にも、三次元スキャフォルドの製造方法の(イ)工程において、高分子溶液が収容されたニードル型電極が先端に取り付けられたシリンジポンプ2を用意し、シリンジポンプ2から離間して、主面および主面の一点から立設し主面を支持する支持棒94を備える複数の陰極板95(もしくは96)を各主面が略同一平面に属するように円周上に等間隔に配置するようにしてもよい。具体的には
図1の三次元スキャフォルドの製造装置1に代えて、
図4の三次元スキャフォルドの製造装置1Bまたは
図6の三次元スキャフォルドの製造装置1Cを用いても構わない。
【0047】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0048】
1、1A,1B,1C…三次元スキャフォルドの製造装置
2a…ニードル型電極
2…シリンジポンプ
3a,3b…陰極
5…高電圧電源
8…保持手段
81…支持台
82…支持棒
84…円弧状レール
88…半円状レール
85…駆動手段
86…保持棒
9…ターゲット
95、96…陰極板