(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の磁性流体シール装置において、前記覆い部は前記突部から前記回転軸の径方向へ飛散する磁性流体がぶつかる位置に設けられることを特徴とする磁性流体シール装置。
請求項1又は請求項2記載の磁性流体シール装置において、前記突部の前記磁性流体膜に対向する面は前記回転軸の外周面に対して90°以下の角度を成していることを特徴とする磁性流体シール装置。
請求項3記載の磁性流体シール装置において、前記回転軸の軸線を含む面で前記突部を切断したときの当該突部の断面形状は三角形であり、当該三角形の頂角は90°以下であることを特徴とする磁性流体シール装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された磁性流体シール装置では、磁路となる部材に磁性流体溜を設け、この磁性流体溜に磁性流体を溜めることにより、回転軸が回転した際の磁性流体の飛散を防止している。また、特許文献2に開示された磁性流体シール装置では、回転軸の外周面に溝を設けたり、回転軸の周囲に在る部材であるスピンドルハブに溝を設け、それらの溝によって磁性流体を捕捉することにより、回転軸が回転したときの磁性流体の飛散を防止している。さらに、特許文献3に開示された磁性流体シール装置では、磁性流体の周囲に設けられた放熱リングやポールピースを壁として機能させて磁性流体の飛散を防止している。しかしながら、上記の各構成では磁性流体の飛散を防止することが不十分であり、磁性流体シール装置の寿命が短かった。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みて成されたものであって、回転軸が回転したときの磁性流体の飛散を非常に簡単な構成によって確実に防止することにより、磁性流体シール装置の寿命を長くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁性流体シール装置は、回転軸の軸方向に沿った一方の領域である第1領域と他方の領域である第2領域との間を封止する磁性流体シール装置において、透磁性材料によって形成されており内周面が前記回転軸の外周面に対して間隙をおいて設けられたポールピースと、該ポールピースと前記回転軸との間の前記間隙に磁界を形成する磁石と、前記第1領域に面して位置しており前記磁界によって前記間隙内に保持された磁性流体膜と、前記第1領域内に在る部分の前記回転軸上に設けられており該回転軸の径方向に突出した突部と、該突部の外周面に対して間隙をおいて設けられており該突部を覆う覆い部とを有し、
前記覆い部及び前記突部は前記磁石の磁極中心線よりも前記回転軸側に在り、前記磁界を形成する磁力線は前記覆い部を通ることを特徴とする。
【0009】
この磁性流体シール装置によれば、回転軸に沿って第1領域及び第2領域の2つの領域が隣接していて、それらの領域内の雰囲気(例えば、気圧状態、塵が存在するか否かの状態)が互いに異なっている場合に、第1領域と第2領域とを磁性流体膜によって封止することにより、それらの領域内の雰囲気が互いに影響し合うことを防止でき、それらの領域内の雰囲気を所望の初期状態に維持できる。
【0010】
また、上記の磁性流体シール装置においては、回転軸上に突部を設けたことにより、磁性流体膜を構成する磁性流体が回転軸に沿って第1領域内へ移動することを、その突部によって阻止できる。また、突部によって移動を阻止された磁性流体が回転軸の回転に応じた遠心力によって回転軸の径方向へ飛散したとしても、その磁性流体が覆い部にぶつかって受け止められて第1領域内へ飛散することが防止される。さらに、覆い部には磁性流体膜の形成に寄与している磁界を形成している磁力線が通っているので、その覆い部によって受け止められた磁性流体はその磁力線に従って移動することにより磁性流体膜へ還流して回収される。こうして磁性流体の回転軸からの飛散が防止され、磁性流体シール装置の寿命を長く保つことができる。また、そのための構成は、突部及び覆い部を設けるだけという、非常に簡単な構成である。
【0011】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記突部の前記磁性流体膜に対向する面は前記回転軸の外周面に対して90°以下の角度を成していることが望ましい。この構成によれば、回転軸の外周面に沿って該回転軸の軸方向へ移動して突部にぶつかった磁性流体が回転軸の回転による遠心力によって外部へ飛散したとき、その飛散の方向を第1領域から離れる方向とすることができ、その結果、飛散した磁性流体の還流、すなわち回収を行い易くできる。
【0012】
次に、前記突部の前記磁性流体膜に対向する面を前記回転軸の外周面に対して90°以下の角度に設定した構成の本発明に係る磁性流体シール装置において、前記回転軸の軸線を含む面で前記突部を切断したときの当該突部の断面形状は三角形であり、当該三角形の頂角は90°以下であることが望ましい。この構成によれば、突部にぶつかった磁性流体が突部の頂点部分を迂回移動して第1領域の内部へ進行することを、より確実に防止できる。
【0013】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記覆い部は前記第1領域内に張り出したポールピースの一部分のうちの前記突部に対向した部分であることが望ましい。このように、覆い部をポールピースの一部分として当該ポールピースと一体に形成すれば、磁性流体シール装置の構造を簡単にでき、且つ小型にできる。
【0014】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記覆い部は、前記磁性流体膜を保持している前記ポールピースの内周先端部分と形状的につながっており、そのつながっている部分は前記突部に対して凹状態となる湾曲面として形成されていることが望ましい。この構成によれば、回転軸の回転による遠心力によって突部から飛散して、さらに覆い部によって受け取られた磁性流体を磁力線によって還流させる際、凹状態の湾曲面に沿ってその還流が行われるので、その還流を円滑且つ安定して行うことができる。
【0015】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記覆い部及び前記突部は前記磁石の磁極中心線よりも前記回転軸側に在る
。これにより、覆い部によって受け取られた磁性流体を磁力線によって正確にポールピースの回転軸側
の先端側、すなわち磁性流体膜が存在する側へ還流させることができる。
【0016】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記回転軸における前記第1領域と前記第2領域との間の部分の外周上に設けられたスリーブをさらに有し、前記突部は前記スリーブの外周上に当該スリーブの一部分として設けられることが望ましい。こうすれば、突部を形成する部材を回転軸ではなくてスリーブとすることができ、さらにポールピースと協働して磁性流体膜を形成する部材を回転軸ではなくてスリーブとすることができる。このため、回転軸の形状及び材質を拘束する条件が少なくなり、回転軸の設計の自由度を高めることができる。
【0017】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記突部は前記回転軸の円周方向の全域に設けられることが望ましい。また、前記覆い部も前記回転軸の円周方向の全域に設けられることが望ましい。これらの構成によれば、磁性流体の第1領域内への飛散を回転軸の円周方向の全域に関して防止できる。
【0018】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置においては、前記回転軸へ向けて突出したポールピース側突部を前記覆い部上にさらに設け、該ポールピース側突部は前記回転軸の軸線方向に沿って前記突部よりも前記磁性流体膜から離れた位置に設けられていることが望ましい。この構成によれば、回転軸の回転による遠心力によって突部から飛散して、さらに覆い部によって受け取られた磁性流体が、その覆い部の表面に沿って移動して第1領域の内部へ入り込むことをポールピース側突部によって阻止でき、その結果、磁性流体の磁性流体膜への還流を促進できる。
【0019】
次に、本発明に係る磁性流体シール装置において、前記第1領域を減圧領域、例えば真空領域とし、前記第2領域を大気圧領域とすることができる。この構成によれば、第1領域内を減圧状態に且つ第2領域を大気圧状態に保持しつつ、第2領域から第1領域へ塵、埃、ゴミ等が侵入することを本磁性流体シール装置によって防止できる。そして、減圧状態且つ無塵状態の下で行わなければならない処理、例えば回転対陰極を用いたX線発生処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る磁性流体シール装置においては、回転軸上に突部を設けたことにより、磁性流体膜を構成する磁性流体が回転軸に沿って第1領域内へ移動することを、その突部によって阻止できる。また、突部によって移動を阻止された磁性流体が回転軸の回転に応じた遠心力によって回転軸の径方向へ飛散したとしても、その磁性流体が覆い部によって受け止められて第1領域内へ飛散することが防止される。さらに、覆い部には磁性流体膜の形成に寄与している磁界を形成するために磁力線が通っているので、その覆い部によって受け止められた磁性流体はその磁力線に従って移動することにより磁性流体膜へ還流して回収される。こうして、磁性流体が回転軸から飛散することによってその磁性流体の量が減少することが防止され、磁性流体シール装置の寿命を長く保つことができる。また、そのための構成は、突部及び覆い部を設けるだけという、非常に簡単な構成である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る磁性流体シール装置を実施形態に基づいて説明する。本実施形態では、磁性流体シール装置をX線発生装置である回転対陰極X線管を構成する構成要素として用いた場合を例示する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0023】
図4は、本発明に係る磁性流体シール装置を用いたX線発生装置としての回転対陰極X線管を示している。
図1は、本発明に係る磁性流体シール装置の一実施形態を示している。
図3は、
図1において矢印Zbで示す部分を拡大して示している。
【0024】
図4において、回転対陰極X線管1は、例えば銅又は銅合金によって形成されたケーシング2と、このケーシング2の右側壁に支持されたターゲットユニット3とを有する。ターゲットユニット3は、軸線X1を中心とする略円筒形状のハウジング4を有する。このハウジング4も、例えば銅又は銅合金によって形成されている。ハウジング4はケーシング2の右側壁に任意の締結手法によって固着されている。この締結手法としては、例えばボルト又はネジを用いた方法、圧入を用いた方法等が考えられる。ハウジング4とケーシング2との間はシール材であるOリング5によって気密に密閉されている。
【0025】
ケーシング2及びハウジング4によって囲まれた第1領域A1は図示しない減圧手段、例えばロータリーポンプ及び/又はターボ分子ポンプによって真空に近い減圧状態(例えば10
−3Pa以下の気圧状態)に減圧される領域である。また、ケーシング2及びハウジング4の外側の領域である第2領域A2は大気圧領域である。
【0026】
ハウジング4の内部には、第1領域A1から順に、磁性流体シール装置7、第1軸受8、ダイレクトドライブ装置9、及び第2軸受10が設けられている。第1軸受8及び第2軸受10はいずれも回転軸受である。回転軸受は、例えばラジアル軸受が使用できる。軸受8,10は、軸線X1を中心とする円筒形状である回転軸としての第1内管12を軸線X1を中心として回転自在に支持している。第1内管12は、例えば非透磁性材料である真ちゅうによって形成されている。なお、本明細書において「非透磁性材料」は磁力線を通さない材料、すなわち磁石によって磁化されない材料のことである。また、「透磁性材料」は磁力線を通すことができる材料、すなわち磁石によって磁化され得る材料のことである。
【0027】
ダイレクトドライブ装置9は、第1内管12の外周面に固着されたロータ13と、ハウジング4の内周面に固着されステータ14とを有する。このステータ14は、第1内管12に固着されたロータ13に対して間隙をおいて設けられている。ステータ14は通電によって回転磁界を形成し、その回転磁界によってロータ13及びそれに固着された第1内管12が一体となって軸線X1を中心として回転する。この回転の速度は、例えば6,000rpmである。
【0028】
第1内管12の第1領域A1内に在る先端部分は半径方向へ広がって、矢印B方向から見て略円形状になっている。この第1内管12の先端円形状部分がターゲット底部15を構成している。そして、このターゲット底部15の外周側面に対陰極であるターゲット16が固着されている。ターゲット16は軸線X1を中心とする有底円筒形状、すなわちカップ形状となっている。ターゲット16は、熱伝導率の高い材料(例えばCu(銅))によってカップ状の基部を形成すると共に、その基部における円筒状側面部分の表面に適宜の物質によってX線発生帯を形成することによって作製されている。X線発生帯は、イオンプレーティング、メッキ、焼き嵌め、その他適宜の成膜手法によって適宜の物質を基部の円周方向に帯状に成膜することによって形成されている。X線発生帯を形成する物質としては、例えばCu(銅)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、Co(コバルト)等が挙げられる。X線発生帯を形成する物質を適宜に選定することにより、そのX線発生帯から発生されるX線の波長、すなわちエネルギを所望の値に設定することができる。
【0029】
第1領域A1内の適所、
図4では第1領域A1の下部に、陰極であるフィラメント17が設けられている。このフィラメント17はターゲット16の側面部分の一部分に対向して設けられている。このフィラメント17は通電によって発熱して熱電子を放出する。放出された熱電子はターゲット16の側面に衝突する。このようにフィラメント17からの電子が衝突するターゲット16上の領域がX線焦点であり、このX線焦点に電子が衝突したときにこのX線焦点からX線が発生する。X線焦点の大きさは、軸線X1に対して直角の方向からの平面視で長方形状であり、
図4の奥行き方向(図の紙面垂直方向)が1mm程度で横方向(図の左右方向)が10mm程度の長方形状である。X線焦点の大きさがこのように1mm×10mm程度であるとき、上記のX線発生帯の軸線X1に沿った幅は13mm程度に設定される。
【0030】
一般に、フィラメント17の近傍には電子の進行方向を制御するためのウエネルトが設けられるが、
図4ではそのウエネルトの図示を省略している。また、ケーシング2の壁のうちターゲット16上のX線焦点に近い位置にある壁にはX線取出し窓19が設けられ、ターゲット16から発生したX線がこの窓19を通して外部に取り出される。通常、X線の取出し角度γは6°である。X線取出し用窓19は、X線を透過できると共に真空状態と大気圧状態との間で損傷しない程度の機械的強度を持った材料、例えばBe(ベリリウム)によって形成される。
【0031】
軸受8,10によって回転自在に支持された第1内管12の内部に、円筒形状の第2内管20が回転不能状態、すなわち固定状態で設けられている。第2内管20は、例えば、ステンレス鋼や真ちゅうによって形成されている。第2内管20の第1領域A1側の先端部分は半径方向へ広がって、矢印B方向から見て略円形状になっている。この第2内管20の先端円形状部分は、ターゲット16とターゲット底部15とによって囲まれた空間内でそれらから離れて配置されて、仕切り板25を構成している。仕切り板25とターゲット16とによって形成される空間及び仕切り板25とターゲット底部15とによって形成される空間は、それぞれ、後述する冷却水のための通路を形成し、この通路を流れる冷却水によってターゲット16が内部から冷却される。
【0032】
第2内管20の第2領域A2側の先端部には開口22が設けられ、ハウジング4における対応する後端部分に設けられた通水口23がその開口22に連通している。一方、ハウジング4の後端部分における通水口23と反対側には排水口24が設けられており、この排水口24は第1内管12と第2内管20との間の間隙である通水路に連通している。通水口23には図示しない冷却水供給装置の冷却水通水路が接続されており、通水口23を介してその冷却水通水路から第2内管20の内部へ冷却水が供給される。供給された冷却水は、順に、第2内管20の内部において第1領域A1側へ向けて流れ、ターゲット16と仕切り板25との間を流れ、ターゲット底部15と仕切り板25との間を流れ、第1内管12と第2内管20との間の空間を流れ、そして排水口24から外部へ流れ出て回収される。
【0033】
以上の構成から成る回転対陰極X線管1においては、ケーシング2とハウジング4とで囲まれる空間、すなわちフィラメント17及びターゲット16の周囲空間がターボ分子ポンプ等といった減圧手段によって減圧されて、略真空状態である10
−3Pa以下まで高精度に減圧される。この減圧の理由は、例えば、放電の発生を防止したり、フィラメントの酸化を防止したり、できるだけ低いフィラメント温度で電子を放出させる等のためである。さらに、ダイレクトドライブ装置9によって駆動されて第1内管12及びそれと一体なターゲット16が、例えば6,000rpmの高速度で回転する。さらに、ターゲット16の内部に冷却水が流される。ターゲット16を回転させるのは、ターゲット16の外周全面に均等にX線焦点の熱負荷を負担させるためである。また、ターゲット16の内部に冷却水を流すのは、電子の衝突によって発熱するターゲット16が異常高温にならないようにするためである。
【0034】
以上の条件の下、フィラメント17に通電が成されて当該フィラメント17から電子が放出され、その電子がターゲット16のX線発生帯に衝突してX線焦点を形成し、X線発生帯を形成する物質の材質に応じた特性X線がそのX線焦点から発生し、同時に各種の波長成分を含む連続X線がそのX線焦点から発生する。発生したX線Rは図示しないスリットによってX線取出し窓19から取出し角度γ=6°でケーシング2の外部へ取り出される。取り出されたX線Rは、X線回折装置、蛍光X線分析装置、XAFS測定装置、X線応力測定装置、その他のX線分析装置において測定対象である試料に照射される。その際、X線Rは必要に応じて、モノクロメータによる単色化、コリメータによる平行ビーム化等といった各種のX線光学要素による処理を受ける。
【0035】
次に、磁性流体シール装置7について説明する。磁性流体シール装置7は、回転軸である第1内管12の回転を許容しつつ、当該磁性流体シール装置7に関して一方の領域である第1領域A1を当該第1領域A1に隣接する他方の領域である第2領域A2から隔絶して真空状態且つ無塵状態に保持する。つまり、磁性流体シール装置7は、第1内管12の回転を許容しつつ、第1領域A1と第2領域A2との間を封止して第1領域A1を密閉している。
【0036】
磁性流体シール装置7は、
図1に示すように、例えば真ちゅうによって形成された円筒形状の外枠27と、その外枠27の内周面に接触して設けられた透磁性ステンレスによって形成された3個の環状(すなわちリング状)のポールピース28と、各ポールピース28の間に設けられた2つの環状の磁石29と、第1内管12の外周面に固着されたスリーブ30とを有する。スリーブ30は透磁性ステンレスによって形成されており、圧入その他の嵌め込み手法によって第1内管12に対して位置移動しないように当該第1内管12の外周面に固着されている。
【0037】
本実施形態では、スリーブ30は第1内管12と一体であって回転軸の一部分であると考える。つまり、スリーブ30と言った場合には回転軸である第1内管12を指し示すことがある。スリーブ30は磁性流体シール装置7に対して好適な材質で好適な形状に形成される。このため、第1内管12の形状及び材質は磁性流体シール装置7とは無関係に自由に選定できる。つまり、スリーブ30を用いることにより、回転軸である第1内管12の設計の自由度を高めることができる。なお、場合によっては、スリーブ30を用いることなく、第1内管12の外周面に対して磁性流体シール装置7を直接に設けることもできる。
【0038】
各ポールピース28の内周面は平らな平面ではなく、鋭角的に尖った複数の環状の尖端部が第1内管12の軸線X1の方向に沿って並んだ形状になっている。つまり、各ポールピース28の内周面は山部である尖端部と谷部とが交互に連続する凹凸形状に形成されている。矢印Zbで示す部分の拡大図である
図3に示すように、各尖端部の先端とスリーブ30の外周面との間には間隙dが形成されている。
【0039】
2つの磁石29のうちの第1領域A1側の磁石は、
図2に示すように、第1領域A1側の側面がN極となり、反対側(第2領域A2へ向いた側)の側面がS極となるように着磁されている。また、2つの磁石29は一対の磁石として配置されている。それらの磁石29は磁力的に互いに反発する向きに配置されている。すなわち、それらの磁石29の磁石極性(N極及びS極)は、例えば
図2に示すように、一方の磁石29のS極と他方の磁石29のS極とが互いに向かい合っている。
【0040】
なお、第1領域A1側の磁石29を、第1領域A1側がN極となり、第2領域A2側がS極となるように配置し、そして、2つの磁石29のN極同士が互いに向かい合うように配置することもできる。
【0041】
磁石29の磁力線はN極とS極との磁力中心線M0を境としてスリーブ30側とその反対側の2つの領域に分かれて分布している。スリーブ30側に分布する磁力線は、N極から出た後、N極側ポールピース28、スリーブ30、及びS極側ポールピース28を経由して、S極へ入る磁気閉回路を構成する。ポールピース28とスリーブ30との間には適量、例えば100〜200μl(マイクロリットル)の磁性流体が充填されている。この磁性流体は、例えば、マグネタイト等といった強磁性の固体微粒子を分散媒であるベースオイルの中に界面活性剤を用いて安定に分散させたコロイド溶液である。この磁性流体はポールピース28の尖端部とスリーブ30との間を通る磁力線に沿った領域に集まって磁性流体膜31を形成する。
【0042】
磁性流体膜31は、
図1において、3個のポールピース28の内周面上の複数の尖端部とスリーブ30の外周面との間に形成されている。これらの磁性流体膜31は第1内管12及びスリーブ30が一体に回転する際、磁力によってポールピース28に吸着した状態でスリーブ30と擦れ合う。これらの磁性流体膜31の働きにより、真空状態である第1領域A1が封止、すなわち密閉され、大気圧領域である第2領域A2から隔絶される。さらに、大気圧領域である第2領域内には塵、埃、ゴミ等といった不要な微細物が存在するが、磁性流体膜31はそれらの不要微細物が第1領域A1内へ侵入することを防止して、第1領域A1を無塵で清浄な状態に保持する。その結果、
図4のフィラメント17とターゲット16との間で異常な放電が発生することを防止でき、X線の発生を長期間にわたって安定して行うことができる。
【0043】
図3において、減圧状態且つ清浄状態である第1領域A1に最も近いポールピース28aの尖端部とスリーブ30との間に形成された磁性流体膜31aを形成する磁性流体は、第1領域A1と第2領域A2との圧力差によって磁性流体膜31aから噴出して第1領域A1内へ飛散することがある。また、磁性流体は、スリーブ30が回転したときに遠心力を受け、スリーブ30から飛散することがある。この飛散を放置すると、磁性流体膜31aを形成する磁性流体が減少して所望の封止機能を達成できなくなって磁性流体シール装置の寿命が尽きることになる。磁性流体の飛散の程度が大きければ、磁性流体シール装置の寿命が短くなる。本実施形態では、このような磁性流体の飛散を防止して磁性流体シール装置の寿命を長くするために、以下の構成を採用している。
【0044】
第1領域A1内に在る部分のスリーブ30上に断面三角形状の突部33が円周方向の全域にわたって設けられている。この突部33は、スリーブ30の径方向に突出する突部である。さらに、その突部33の外周面に対して間隙を隔てて覆い部34が設けられている。覆い部34も円周方向の全域にわたって設けられている。覆い部34はポールピース28aを第1領域A1の方向へ膨出させる(すなわち張り出させる)ことにより、ポールピース28aと一体に形成されている。覆い部34は、スリーブ30上の突部33の磁性流体膜31に対向する面の面内を通る線の延長部分L0と交差する状態に配置されて、突部33の外周面を間隔をおいて覆っている。
【0045】
覆い部34には、磁石29によって形成される磁界を形成する磁力線M1が通る状態となっている。つまり、覆い部34は磁石29の磁界が及ぶ領域内に設けられている。また、突部33及び覆い部34は磁石29の磁極中心線M0よりもスリーブ30に近い側(従って第1内管12(
図1参照)に近い側)に設けられている。また、突部33の磁性流体膜31に対向する面とスリーブ30の外周面との成す角度αはα=90°に設定されている。この角度は0°<α≦90°内の任意の角度に設定することもできる。さらに、断面三角形状の突部33の頂角βは0°<β≦90°内の任意の角度に設定されている。
【0046】
覆い部34は、磁性流体膜31aを保持しているポールピース28aの内周先端部分である尖端部分と形状的につながっており、そのつながっている部分はスリーブ30側の突部33に対して凹状態となる湾曲面、例えば円弧面、楕円の一部の面,長円の一部の面として形成されている。
【0047】
また、覆い部34を形成しているポールピース28aの第1領域A1側の角部40には丸み、すなわちR(アール)、すなわち湾曲が形成されている。この丸みを設けたことにより、角部40に磁力が集中してしまうことを防止でき、その結果、磁性流体が角部40に集まってしまうことを防止できる。
【0048】
本実施形態では、スリーブ30側の突部33と、それに対向して設けられたポールピース28a側の覆い部34と、その覆い部34を磁石29の磁力線領域に置くこと、との協働により、スリーブ30の回転時における磁性流体の飛散を防止するのであるが、そのことを理解し易くするために、まず、突部33及び覆い部34が無い状態における磁性流体の挙動について説明する。
【0049】
図8に示す磁性流体シール装置107は、
図1に示した磁性流体シール装置7からスリーブ30側の突部33及びポールピース28aの側面部分に設けた覆い部34を除去した構造を示している。
図8において
図1と同じ符号は同じ部材を示している。
図9(a)は
図8において矢印Zhで示す部分を拡大して示している。
図9(b)は
図9(a)の磁石29によって形成される磁界の磁束密度の分布をシミュレーションソフトによって求めた結果を示している。
図9(b)において濃淡階調表示の濃い領域は磁束密度が高いことを示し、濃淡階調表示の薄い領域は磁束密度が低いことを示している。
【0050】
図9(b)において、第1領域A1に近いポールピース28a内の磁束密度分布を観察すると、内周面先端の尖端部で最も高く、段部Dよりも少し内周側の矢印Cで示す領域で低くなり、段部Dの周辺では尖端部程ではないが再び高くなっている。
図10(a)及び
図10(b)は
図8における矢印Eに従ってポールピース28aの側面を示している。
図10(a)は回転軸を挿入していない状態を示しており、
図10(b)は回転軸である第1内管12及びスリーブ30を挿入した状態を示している。
【0051】
図10(a)において、ポールピース28aの側面の中央付近に磁性流体Gを滴状に付着させた。
図10(a)では回転軸12,30を挿入していないため、磁性流体Gは付着させた場所に留まっている。次に、
図10(b)に示すように回転軸12,30を挿入したところ、留まっていた磁性流体Gが磁束密度の高いポールピース尖端部、すなわちシール部へ流れて移動した。次に、
図11(a)はポールピース28aの段部に少しの磁性流体Gを滴状に付着させた状態を示している。
図11(b)は磁性流体Gの付着量を増加させた状態を示している。増量した磁性流体Gは、
図9(b)における段部Dの外側の磁力線に吸引されて
図11(b)に示すように外周方向へ流れ出した。
【0052】
以上の観察から次のことが理解される。
図8において、第1領域A1と第2領域A2との圧力差によってシール部から噴出した磁性流体はスリーブ30の外周面に付着する。その磁性流体は回転による遠心力によって径方向の外方へ飛散する。
図8に示す構造においては、飛散する磁性流体はポールピース28aの外周の段部Dまで飛ばされるので、その磁性流体は
図11(b)に示すようにシールに寄与しない外周部分へ流れ出てしまう。仮に、飛散した磁性流体がポールピース28aの中央部分(
図10(a)参照)又はそれよりも先端寄りの部分に留まれば、その磁性流体は磁力線の働きによってポールピース尖端部(すなわちシール部)の方向へ還流してシール部へ戻る。
【0053】
本実施形態において、
図3に示すようにスリーブ30側に突部33を設け、その突部33に対向して覆い部34をポールピース28a側に設けた構成は、以上の観察に基づいて採用された構成である。詳しく説明すれば、第1内管12(
図1参照)と共にスリーブ30が回転すると、
図3において第1領域A1に面する磁性流体膜31aを通して第1領域A1への微量気体の漏れが繰り返して起こる。このとき、流出気体と共に磁性流体も第1領域A1内へ流入してしまう。この流入の頻度はスリーブ30の回転速度が大きいほど高くなる。
【0054】
第1領域A1内へ移動した磁性流体は第1領域A1の奥へ移動することなく、突部33の磁性流体膜31a側の面にぶつかってそこに付着する。この磁性流体はスリーブ30の回転に伴った遠心力に従って突部33の外方へ飛び出した後、ポールピース28a側の覆い部34にぶつかってそこに付着する。この覆い部34には磁石29から出てポールピース28aの尖端部分に向かう磁力線M1が形成されているので、この覆い部34に付着した磁性流体は第1領域A1へ向かうことなく、磁力線に従ってポールピース28aの尖端部分、すなわちシール部へ還流移動して、再びシール材として利用される。このため、スリーブ30の回転を長期間にわたって継続させても磁性流体は減少することがなく、所望のシール機能を安定して保持できる。こうして、磁性流体シール装置の寿命を長く保持できる。
【0055】
(第2の実施形態)
図5は、本発明に係る磁性流体シール装置の他の実施形態を示している。
図5において、先の実施形態である
図3の実施形態と同じ部材は同じ符号によって示しており、それらの部材についての説明は省略する。この実施形態が
図3に示した先の実施形態と異なる点は、覆い部34を形成しているポールピース28aの第1領域A1側の端部すなわち角部40に丸みを付けること無く、角部40を角度がほぼ90°である鋭角的に形成したことである。ここで鋭角的とは、丸み形状に比べて角部が形成されていることが認識される状態のことであり、従って、90°よりも大きな角度であることもある。
【0056】
この実施形態においても、スリーブ30すなわち回転軸である第1内管12(
図1参照上)に突部33を設けたことにより、磁性流体膜31を構成する磁性流体が第1内管(回転軸)12に沿って第1領域A1内へ移動することを、その突部33によって阻止できる。また、突部33によって移動を阻止された磁性流体が第1内管(回転軸)12の回転に応じた遠心力によって第1内管(回転軸)12の径方向へ飛散したとしても、その磁性流体が覆い部34によって受け止められて第1領域A1内へ飛散することが防止される。
【0057】
また、覆い部34には磁性流体膜31の形成に寄与している磁界を形成するために磁力線が通っているので、その覆い部34によって受け止められた磁性流体はその磁力線に従って移動することにより、磁性流体膜へ還流して回収される。こうして、磁性流体が第1内管(回転軸)12から飛散することによってその磁性流体の量が減少することが防止され、磁性流体シール装置の寿命を長く保つことができる。さらに、以上のような作用効果を得るための構成は、受部33及び覆い部34を設けるだけという、非常に簡単な構成である。
【0058】
(第3の実施形態)
図6は本発明に係る磁性流体シール装置のさらに他の実施形態を示している。
図6において、先の実施形態である
図3の実施形態と同じ部材は同じ符号によって示しており、それらの部材についての説明は省略する。この実施形態が
図3に示した先の実施形態と異なる点は、ポールピース28a側の覆い部34の第1領域A1側の端部すなわち角部40にポールピース側突部35Aを設けたことである。このポールピース側突部35Aはスリーブ30の軸線方向(
図6の左右方向)に沿ってスリーブ側突部33よりも磁性流体膜31aから離れた位置に設けられている。
【0059】
ポールピース側突部35Aの表面は丸み、すなわちR(アール)、すなわち湾曲を有している。また、ポールピース側突部35Aの第2領域側(すなわち第1領域A1と反対側)の面は覆い部34の表面に対しても丸みを持っている。つまり、ポールピース側突部35Aそれ自身の表面及びポールピース側突部35Aの周辺には、角度が急激に変化する部分、すなわち鋭角的な角部が存在しないようになっている。このような構成のポールピース側突部35Aを設けたことにより、覆い部34に付着した磁性流体が第1領域A1へ移動することを、より確実に防止できる。
【0060】
(第4の実施形態)
図7は本発明に係る磁性流体シール装置のさらに他の実施形態を示している。
図7において、先の実施形態である
図3の実施形態と同じ部材は同じ符号によって示しており、それらの部材についての説明は省略する。この実施形態が
図3に示した先の実施形態と異なる点は、ポールピース28a側の覆い部34の第1領域A1側の端部、すなわち角部40にポールピース側突部35Bを設けたことである。このポールピース側突部35Bはスリーブ30の軸線方向(
図7の左右方向)に沿ってスリーブ側突部33よりも磁性流体膜31aから離れた位置に設けられている。ポールピース側突部35Bの第2領域側(すなわち第1領域A1と反対側)の面は覆い部34の表面に対して略90°の角度を成している。ポールピース側突部35Bを設けたことにより、覆い部34に付着した磁性流体が第1領域A1へ移動することを防止できる。なお、ポールピース側突部35Bの第2領域側の面の覆い部34の表面に対する角度は90°以下としても良い。
【0061】
本実施形態では、ポールピース側突部35Bの表面の全体が丸みを帯びているのではなく、角度が急激に変化する部分、すなわち丸みよりは鋭角的な角部が存在している。このため、
図6に示した実施形態に比べれば、角部40に磁力が集中する程度が高くなるおそれがある。しかしながら、本実施形態の場合でも、スリーブ30側に突部33を設け、それを覆う覆い部34をポールピース28側に設け、その覆い部34に磁性流体膜31aへ向かう磁力線を形成するようにしたので、磁性流体膜31aから分離して覆い部34へ付着した磁性流体の分離物を磁性流体膜31aへ還流させるという作用効果を得ることができる。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限られることなく、種々に改変可能である。
例えば、本発明の磁性流体シール装置は回転対陰極X線管に限られず、シール機能を必要とする種々の機器、例えば磁気ディスク装置に適用できる。
図1のスリーブ30側の突部33は第1内管12の外周面に直接に形成しても良い。ポールピース28a側の覆い部34はポールピース28aと別体に設けても良い。
【実施例1】
【0063】
図3に示す実施形態において主要部材の寸法を次のように規定した。
(1)覆い部34のポールピース28a本体部からの膨出長さL1を2mm〜4mmの範囲内に設定した。
(2)突部33の磁性流体膜31aに対向する面のスリーブ30表面に対する角度αを90°とした。
(3)突部33の頂角βを0°〜90の範囲内に設定した。
(4)突部33のスリーブ30の外周面からの高さH0を1mm〜2mmの範囲内に設定した。
(5)覆い部34の表面のスリーブ30の外周面からの高さH1を2mm〜4mmの範囲内に設定した。
以上の条件の下、回転対陰極X線管によってX線を発生させたところ、磁性流体シール装置による所望のシール機能を長期間にわたって保持できた。すなわち、磁性流体シール装置の寿命を長くすることができた。