特許第5871383号(P5871383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871383
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20160216BHJP
   F16F 9/06 20060101ALI20160216BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20160216BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20160216BHJP
   F16C 29/02 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   F16F9/32 R
   F16F9/32 H
   F16F9/06
   B62K25/08 C
   F16C33/10
   F16C29/02
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-74397(P2012-74397)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204696(P2013-204696A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】小倉 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】中野 崇彬
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大祐
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−307247(JP,A)
【文献】 特公昭42−017785(JP,B1)
【文献】 特開2004−278543(JP,A)
【文献】 特開2010−164167(JP,A)
【文献】 実開昭63−154815(JP,U)
【文献】 特開2004−036684(JP,A)
【文献】 実開平04−028243(JP,U)
【文献】 実開昭59−183551(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
B62K 25/08
F16C 29/02、33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブと、このアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブと、上記アウターチューブと上記インナーチューブの重複部の間に形成されて潤滑液を保持する筒状隙間と、上記アウターチューブの内周に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接する外側軸受と、上記アウターチューブの上記外側軸受よりも外気側の内周に上記外側軸受と直列に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接し上記筒状隙間の外気側開口を塞ぐオイルシールと、上記インナーチューブの外周に保持されるとともに上記外側軸受の反オイルシール側に設けられて上記アウターチューブの内周面に摺接する内側軸受とを備えている懸架装置において、
上記筒状隙間には、上記外側軸受の反オイルシール側に配置される摺動隙間と、上記外側軸受と上記オイルシールとの間に配置され連通路を介して上記摺動隙間と連通する液溜室とが形成されており、
上記摺動隙間であって上記外側軸受と上記内側軸受との間には、潤滑液が収容されるとともに、この潤滑液を保持することが可能な潤滑液保持手段が設けられ、
上記潤滑液保持手段の軸方向長さは、上記外側軸受と上記内側軸受とが最も接近したときの上記外側軸受と上記内側軸受との間の距離に設定される
ことを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
上記潤滑液保持手段は、上記インナーチューブの外周或いは上記アウターチューブの内周に設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
上記潤滑液保持手段が、ネット若しくは多孔質体からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の懸架装置。
【請求項4】
記潤滑液保持手段は、上記インナーチューブの外周面及び、若しくは上記アウターチューブの内周面において、上記外側軸受及び上記内側軸受が摺接しない位置に形成される一つ以上の凹部からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の懸架装置。
【請求項5】
上記アウターチューブと上記インナーチューブとからなる懸架装置本体内に気体を圧縮しながら封入し、上記懸架装置本体を常に伸長方向に附勢する懸架ばねとして機能させる
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、懸架装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車や自動二輪車等の輸送機器においては、車体と車輪との間に懸架装置を介装し、この懸架装置で路面凹凸による衝撃が車体に伝達されることを抑制している。
【0003】
そして、上記懸架装置は、車体を弾性支持する懸架ばねと、減衰力を発生する緩衝器とを並列に備えており、上記懸架ばねで路面凹凸による衝撃を吸収し、この衝撃吸収に伴う伸縮運動を上記緩衝器で抑制している。
【0004】
例えば、自動二輪車等の鞍乗型車両において前輪を懸架する懸架装置は、フロントフォークと称されており、アウターチューブと、このアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブとからなる懸架装置本体を備え、この懸架装置本体内に上記懸架ばねや上記緩衝器を収容している。
【0005】
また、上記フロントフォークにおいては、懸架装置本体内に気体を圧縮しながら封入し、懸架装置本体の圧縮量に応じた反力を生じさせ、エアばねとして機能させているものが知られている(特許文献1)。
【0006】
そして、上記フロントフォークは、アウターチューブとインナーチューブの重複部の間に形成される筒状隙間内に潤滑液を貯留するとともに、アウターチューブの開口端部内周に環状のオイルシールを保持させ、このオイルシールを潤滑液の液膜を介してインナーチューブに摺接させることで、上記気体を懸架装置本体内に密閉している。
【0007】
また、上記フロントフォークが過酷な環境下で使用され、泥水を被ってインナーチューブに摺接するオイルシールの内周面に異物が挟まれたり、オイルシールが摺接するインナーチューブの外周面が飛び石等により疵付いたりして潤滑液漏れが発生した場合には、アウターチューブから露出するインナーチューブの外周面を潤滑液が伝い落ちてくるため、このことが潤滑液漏れを使用者に知らせる警告となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−164167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のフロントフォークのように、懸架装置本体内に気体を圧縮しながら封入し、エアばねとして機能させている場合には、以下の不具合を指摘される虞がある。
【0010】
即ち、上記フロントフォークが過酷な環境下で使用されて潤滑液漏れが発生し、アウターチューブから露出するインナーチューブの外周面を潤滑液が伝い落ちている期間(以下、警告期間という)中に、異物の除去やオイルシール交換、疵の修復等の対応がされず、筒状隙間の潤滑液が無くなった場合には、オイルシールの内周面で潤滑不足となって機密性が低下し、懸架装置本体内に圧縮されていた気体が一気に漏れ、フロントフォークの反力が著しく低下する虞がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、フロントフォーク(懸架装置)が過酷な環境下で使用され、インナーチューブに摺接するオイルシールの内周面に異物が挟まれたり、オイルシールが摺接するインナーチューブの外周面が飛び石等により疵付いたりして潤滑液漏れが発生した場合にも、筒状隙間内に潤滑液を長く留めて警告期間を延ばし、使用者が異物の除去やオイルシール交換、疵の修復等の対応をするための時間を確保することが可能な懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、アウターチューブと、このアウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブと、上記アウターチューブと上記インナーチューブの重複部の間に形成されて潤滑液を保持する筒状隙間と、上記アウターチューブの内周に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接する外側軸受と、上記アウターチューブの上記外側軸受よりも外気側の内周に上記外側軸受と直列に保持されて上記インナーチューブの外周面に摺接し上記筒状隙間の外気側開口を塞ぐオイルシールと、上記インナーチューブの外周に保持されるとともに上記外側軸受の反オイルシール側に設けられて上記アウターチューブの内周面に摺接する内側軸受とを備えている懸架装置において、上記筒状隙間には、上記外側軸受の反オイルシール側に配置される摺動隙間と、上記外側軸受と上記オイルシールとの間に配置され連通路を介して上記摺動隙間と連通する液溜室とが形成されており、上記摺動隙間であって上記外側軸受と上記内側軸受との間には、潤滑液が収容されるとともに、この潤滑液を保持することが可能な潤滑液保持手段が設けられ、上記潤滑液保持手段の軸方向長さは、上記外側軸受と上記内側軸受とが最も接近したときの上記外側軸受と上記内側軸受との間の距離に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、潤滑液保持手段に潤滑液が保持されているため、従来の懸架装置よりも筒状隙間内に潤滑液を長く留めて、警告期間を延ばし、使用者が異物の除去やオイルシール交換、疵の修復等の対応をするための時間を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの主要部の左半分を部分的に切り欠いて示す正面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの外側軸受を示す平面図である。
図3】本発明の他の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの主要部の左半分を部分的に切り欠いて示す正面図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークの変形例の主要部を部分的に切り欠いて示す正面図である。
図5図4のXX線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る懸架装置は、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に出没可能に挿入されるインナーチューブ2と、上記アウターチューブ1と上記インナーチューブ2の重複部の間に形成されて潤滑液を保持する筒状隙間3と、上記アウターチューブ1の内周に保持されて上記インナーチューブ2の外周面に摺接する外側軸受4と、上記アウターチューブ1の上記外側軸受4よりも外気側の内周に上記外側軸受4と直列に保持されて上記インナーチューブ2の外周面に摺接し上記筒状隙間3の外気側開口を塞ぐオイルシール50とを備えている。
【0017】
そして、上記筒状隙間3には、上記外側軸受4の反オイルシール側(反外気側)に配置される摺動隙間30と、上記外側軸受4と上記オイルシール50との間に配置され連通路Lを介して上記摺動隙間30と連通する液溜室31とが形成されており、上記摺動隙間30には、潤滑液が収容されるとともに、この潤滑液を保持することが可能な潤滑液保持手段6が設けられている。
【0018】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係る懸架装置は、自動二輪車等の鞍乗型車両において、その前輪を懸架するフロントフォークであり、図示しないが、アウターチューブ1が車体側ブラケットを介して車体側のステアリングシャフトに連結されるとともに、インナーチューブ2が車輪側ブラケットを介して前輪の車軸に連結される倒立型フロントフォークである。
【0019】
さらに、上記アウターチューブ1と上記インナーチューブ2とで懸架装置本体Fを構成し、この懸架装置本体Fの図1中上下の開口が、図示しないキャップ部材及び上記車輪側ブラケットで塞がれている。また、懸架装置本体Fにおいて、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間に形成される筒状隙間3の外気側開口がシール部材5で塞がれている。このため、懸架装置本体F内が外気側と区画され、懸架装置本体F内に作動液や気体を密閉することができる。
【0020】
また、上記懸架装置本体Fにおいて、アウターチューブ1及びインナーチューブ2の内側には、緩衝器Dが収容されるとともに、この緩衝器Dの外側にリザーバRが形成されている。そして、このリザーバRには、緩衝器Dの温度補償や体積補償をするための作動液が貯留されるとともに、その液面を介して上側に気体が圧縮されながら封入されている。
【0021】
さらに、上記リザーバRは、懸架装置本体Fの伸縮に応じて膨縮することから、リザーバR内に封入される気体は、懸架装置本体Fの圧縮量に応じた反力を発生し、懸架装置本体Fを常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持する懸架ばね(エアばね)として機能する。このため、本実施の形態に係るフロントフォークは、金属製のコイルスプリングからなる懸架ばねを廃して軽量化されている。尚、本実施の形態において、上記作動液は、水、水溶液、油等の液体であり、上記気体は、窒素等の不活性ガスである。
【0022】
つづいて、上記懸架装置本体F内に収容される緩衝器Dの構成は、如何なる周知の構成を採用するとしてもよく、詳細に図示しないが、上記緩衝器Dは、懸架装置本体Fの軸心部に起立するシリンダ9と、懸架装置本体Fの伸縮に伴い上記シリンダ9内に出没可能なロッド(図示せず)と、このロッドの先端に保持されて上記シリンダ9の内周面に摺接するピストン(図示せず)とを備えている。そして、上記シリンダ9内には、上記ピストンで区画され作動液で満たされる二つの部屋(図示せず)が形成されている。
【0023】
さらに、上記緩衝器Dは、図示しないが、上記二つの部屋を連通する流路と、この流路を通過する作動液に抵抗を与えるリーフバルブやオリフィス等の減衰力発生手段とを備えている。
【0024】
上記構成を備えることにより、フロントフォークの伸縮時に加圧される一方の部屋の作動液が、上記流路を通過して他方の部屋に移動するため、緩衝器Dは、上記減衰力発生手段の抵抗に起因する減衰力を発生し、フロントフォークの伸縮運動を抑制することができる。
【0025】
つづいて、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間に形成される筒状隙間3には、潤滑液が収容されている。本実施の形態において、この潤滑液は、緩衝器Dにおいて使用される作動液よりも粘度の高い油やちょう度の低いグリスからなるが、緩衝器Dで使用される作動液と同じ液体を使用するとしてもよい。
【0026】
また、上記筒状隙間3には、アウターチューブ1の図1中下端側内周に保持されてインナーチューブ2の外周面に摺接する外側軸受4と、インナーチューブ2の図1中上端側外周に保持されて上記アウターチューブ1の内周面に摺接し上記外側軸受4の反オイルシール側(反外気側)に配置される内側軸受8が設けられている。そして、これら外側軸受4と内側軸受8とでインナーチューブ2を軸支し、アウターチューブ1内へ出没可能としている。
【0027】
さらに、上記筒状隙間3には、上記外側軸受4の反オイルシール側(反外気側)に配置される摺動隙間30と、上記外側軸受4とオイルシール50との間に配置され連通路Lを介して上記摺動隙間30と連通する液溜室31とが形成されている。
【0028】
また、摺動隙間30に潤滑液が貯留されるとともに、連通路Lから液溜室31にかけて潤滑液が満たされている。さらに、上記摺動隙間30は、インナーチューブ2に形成される図示しない孔を介してリザーバR(インナーチューブ2の内側)に連通している。このため、リザーバRの内圧が上記孔を介して筒状隙間3に作用し、筒状隙間3の潤滑液は加圧された状態にある。
【0029】
さらに、上記摺動隙間30における上記外側軸受4と上記内側軸受8との間には、ネットからなる潤滑液保持手段6がインナーチューブ2の外周に巻き付けられた状態に収容されている。尚、この潤滑液保持手段6が、多数の微小空隙を備えたスポンジやフェルト等の多孔質体からなり、微小空隙に潤滑液を保持することができ、吸水性(吸油性)や保水性(保油性)を備えたものであっても良い。
【0030】
また、上記潤滑液保持手段6の軸方向長さは、フロントフォークの最伸張時において、外側軸受4と内側軸受8が最も接近したときの両軸受4,8間の距離以下になるよう設定されている。
【0031】
つづいて、筒状隙間3における外側軸受4とオイルシール50との間に形成される上記液溜室31には、アウターチューブ1の内周に保持されるワッシャ7が配置されている。
【0032】
上記ワッシャ7は、環状に形成されるとともに、図1に示すように、断面逆L字状に形成されており、内周側に突出するストッパ部70と、このストッパ部70の外気側(図1中下側)の外周部に連設される筒部71とからなる。そして、上記ストッパ部70で外側軸受4を下支えしている。また、上記筒部71の内周がストッパ部70の内周よりも大径に形成されていることから、液溜室31の容積を大きくすることができる。
【0033】
さらに、上記ストッパ部70の内周は、上記インナーチューブ2よりも大径に形成されてインナーチューブ2との間に環状の隙間7aを形成している。このため、ワッシャ7で筒状隙間3を区画することがなく、ワッシャ7の内周側を潤滑液が容易に移動することができる。
【0034】
もどって、上記摺動隙間30と上記液溜室31とを連通する連通路Lは、本実施の形態において、外側軸受4に具現化されている。この外側軸受4は、図2に示すように、C環状に形成されて相対向する合口部40,41を備えている。そして、この合口部40,41の間を連通路Lとして機能させ、摺動隙間30に収容される潤滑液を液溜室31側に速やかに移動させる。
【0035】
もどって、上記筒状隙間3の外気側の開口を塞ぐシール部材5は、図1に示すように、環状に形成されており、液溜室側(図1中上側)に配置されるオイルシール50と、このオイルシール50の外気側に直列に配置されるダストシール51とからなる。そして、上記オイルシール5は、内周液溜室側に延びるとともに、外周に取り付けられるガータスプリング52で先端部がインナーチューブ2の外周面に圧接されるオイルシールリップ5aを備えている。また、上記ダストシール51は、内周外気側に延びるとともに、外周に取り付けられるガータスプリング53で先端部がインナーチューブ2の外周面に圧接されるダストシールリップ51aを備えている。
【0036】
上記構成を備えることにより、シール部材5は、ダストシールリップ51aでインナーチューブ2の外周面に付着した異物を掻き落とし、オイルシールリップ50aの内周面に異物が挟まれたりオイルシールリップ50aの内周面が異物で疵付いたりすることを抑制する。また、シール部材5は、上記オイルシールリップ50aでインナーチューブ2の外周面に付着した潤滑液を掻き落とし、潤滑液が外気側に流出することを阻止するとともに、上記オイルシールリップ50aを潤滑液の液膜を介してインナーチューブ2の外周面に摺接させることで懸架装置本体Fの内部に作動液や気体を密閉し、気密性を保つことができる。
【0037】
次に、本実施の形態に係るフロントフォークの作用効果について説明する。本実施の形態において、摺動隙間30と液溜室31が連通路Lを介して連通されるとともに、潤滑液を収容する摺動隙間30に潤滑液保持手段6が設けられている。また、この潤滑液保持手段6がネットまたは多孔質体からなるため、摺動隙間30内の潤滑液は、その表面張力で上記潤滑液保持手段6に保持される。
【0038】
このため、本実施の形態に係るフロントフォーク(懸架装置)が過酷な環境下で使用され、泥水を被ってインナーチューブ2に摺接するオイルシール50の内周面に異物を噛み込んだり、オイルシール50が摺接するインナーチューブ2の外周面が飛び石等により疵付いたりして潤滑液漏れが発生した場合においても、潤滑液が潤滑液保持手段6に保持されており、移動が抑制されている。
【0039】
したがって、従来のフロントフォークよりも筒状隙間3内に潤滑液を長く留めて警告期間(潤滑液漏れが発生し、アウターチューブ1から露出するインナーチューブ2の外周面を潤滑液が伝い落ちている期間)を延ばし、使用者が異物の除去やオイルシール交換、疵の修復等の対応をするための時間を確保することが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態のように、フロントフォーク(懸架装置)がコイルスプリングからなる懸架ばねを廃して、リザーバ内に圧縮されながら封入される気体を懸架ばねとして機能させる場合、オイルシール50の内周面で潤滑不足となって機密性が低下すると、懸架装置本体(リザーバ)内に圧縮されていた気体が一気に漏れ、フロントフォークの反力が著しく低下する虞があるため、警告期間を延長することが特に有効である。
【0041】
また、本実施の形態においては、潤滑液の粘度が緩衝器Dで使用される減衰力発生用の作動液の粘度よりも高いため、潤滑液漏れの原因となる異物や疵の部分から漏れ出る潤滑液の速度をより低くして、さらに警告期間を延長することが可能となる。
【0042】
また、本実施の形態においては、ネットや多孔質体からなる潤滑液保持手段6を備えているため、潤滑液の粘度が緩衝器Dで使用される減衰力発生用の作動液程度に低くてもよく、この作動液を潤滑液として使用することが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態においては、上記潤滑液保持手段6の軸方向長さが、外側軸受4と内側軸受8が最も接近したときの両軸受4,8間の距離以下に設定されていることから、潤滑液保持手段6が両軸受4,8間で圧縮されて撓み、フロントフォークの伸縮の妨げとなることがない。また、上記潤滑液保持手段6の軸方向長さが、外側軸受4と内側軸受8が最も接近したときの両軸受4,8間の距離に設定されている場合には、いわゆるデッドスペースを最大限に利用して、潤滑液の保持機能をより確保することができる。
【0044】
また、本実施の形態においては、外側軸受4をC環状に形成し、合口部40,41の間を連通路Lとすることから、摺動隙間30と液溜室31とを連通するための構成を簡易にすることが可能となる。
【0045】
次に、本発明の他の実施の形態に係る懸架装置たるフロントフォークについて、図3を参照しながら説明する。本実施の形態においては、潤滑液保持手段の構成が上記一実施の形態と異なり、他の構成及びその作用効果については上記一実施の形態と同様である。したがって、ここでは、主に一実施の形態と異なる構成について説明し、一実施の形態と同様の構成については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0046】
本実施の形態において、摺動隙間30内に設けられる潤滑液保持手段6Aは、上記アウターチューブ1の内周面において、外側軸受4及び内側軸受8が摺接しない位置に形成される複数のディンプル状の凹部からなる。尚、本実施の形態における潤滑液保持手段6Aは、同じくアウターチューブ1の内周面において外側軸受4及び内側軸受8が摺接しない位置に形成される螺旋状の一つの凹部からなるとしてもよく、アウターチューブ1の内周面の表面積を増すことができる限りにおいて、凹部の形状、数、深さ、幅等を適宜変更することができ、例えば、ローレット加工を施すことで形成されていてもよい。
【0047】
つまり、本実施の形態においては、一実施の形態と同様に、摺動隙間30と液溜室31が連通路Lを介して連通されるとともに、摺動隙間30に潤滑液保持手段6Aが設けられている。また、上記潤滑液保持手段6Aがアウターチューブ1の内周面に設けられる一つ以上の凹部からなり、アウターチューブ1の内周面の表面積が従来のフロントフォークよりも大きく、潤滑液がその表面張力で摺動隙間30に保持され易い。
【0048】
このため、本実施の形態に係るフロントフォーク(懸架装置)が過酷な環境下で使用され、泥水を被ってインナーチューブ2に摺接するオイルシール50の内周面に異物を噛み込んだり、オイルシール50が摺接するインナーチューブ2の外周面が飛び石等により疵付いたりして潤滑液漏れが発生した場合においても、潤滑液が潤滑液保持手段6Aに保持されており、移動が抑制されている。
【0049】
したがって、本実施の形態においても一実施の形態と同様に、従来のフロントフォークよりも筒状隙間3内に潤滑液を長く留めて警告期間(潤滑液漏れが発生し、アウターチューブ1から露出するインナーチューブ2の外周面を潤滑液が伝い落ちている期間)を延ばし、使用者が異物の除去やオイルシール交換、疵の修復等の対応をするための時間を確保することが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態においては、潤滑液保持手段6Aがアウターチューブ1の内周面において、外側軸受4と内側軸受8が摺接しない位置に形成されることから、フロントフォークの円滑な伸縮の妨げとなることがない。
【0051】
また、本実施の形態においては、一つ以上の凹部からなる潤滑液保持手段6Aを備えているため、潤滑液の粘度が緩衝器Dで使用される減衰力発生用の作動液程度に低くてもよく、この作動液を潤滑液として使用することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0053】
例えば、上記実施の形態に係る懸架装置が、自動二輪車等の鞍乗型車両における前輪を懸架するフロントフォークであるとしたが、鞍乗型車両における後輪用のリアクッションユニットや、自動車等他の輸送機器用の懸架装置であるとしても良い。
【0054】
また、上記各実施の形態において、C環状に形成される外側軸受4の合口部40,41の間が、摺動隙間30と液溜室31とを連通する連通路Lとして機能するが、上記の限りではなく、例えば、図4,5に示すように、外側軸受4を保持するアウターチューブ1の内周面に軸方向に沿って形成され円周方向に並べて配置される複数の溝10を設け、この溝10と外側軸受4との間を上記連通路Lとして機能させるとしてもよい。尚、この場合においては、上記溝10を通過する潤滑液を潤滑液保持手段側に移動させるため、ワッシャ7のストッパ部70に径方向に沿う切欠きを設けることが好ましい。尚、図4中には、一実施の形態の変形例を示すが、他の実施の形態についても、同様に変形することが可能である。
【0055】
また、上記一実施の形態において、インナーチューブ2の外周に潤滑液保持手段6が巻き付けられているが、アウターチューブ1の内周に潤滑液保持手段6が貼り付けられていてもよく、摺動隙間30内に配置されていれば、アウターチューブ1やインナーチューブ2に固定されていなくても良い。
【0056】
また、同じく上記一実施の形態において、潤滑液保持手段6が伸縮可能な場合には、潤滑液保持手段6の一方側が内側軸受8に連結され、他方側が外側軸受4に連結されて、潤滑液保持手段6がフロントフォークの伸縮に伴い伸縮可能であるとしてもよい。
【0057】
また、上記他の実施の形態において、摺動隙間30に設けられる潤滑液保持手段6Aをアウターチューブ1の内周面に形成しているが、摺動隙間30に設けられる潤滑液保持手段6Aがインナーチューブ2の外周面において、外側軸受4及び内側軸受8が摺接しない位置に形成されるとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
F 懸架装置本体
L 連通路
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
3 筒状隙間
4 外側軸受
5 シール部材
6,6A 潤滑液保持手段
7 ワッシャ
8 内側軸受
10 溝
30 摺動隙間
31 液溜室
40,41 合口部
50 オイルシール
51 ダストシール
52,53 ガータスプリング
70 ストッパ部
71 筒部
図1
図2
図3
図4
図5