【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
本発明は、Rag2遺伝子及びJak3遺伝子をともに欠損した免疫不全マウスから樹立された胚性幹細胞であり、この胚性幹細胞から、肝臓がヒト化されたマウスを確立したというものである。
本発明においては、免疫不全マウスから採取した胚をGSK3阻害剤及びMEK阻害剤の存在下で培養することにより、ES細胞を樹立することに成功した。
Rag2及びJak3を欠損したBALB/cマウス(BALB/c;Rag2−/−;Jak3−/−: 「BRJマウス」という)は、T細胞、B細胞、NK細胞及びNKT細胞を欠損し、BALB/cの遺伝的背景を有する免疫不全マウスである。このマウスにヒトの細胞を移植すると、その細胞はマウス体内で生着するため、作製されたマウスは、細胞レベルではヒト化されたマウスということになる。
しかしながら、このようなヒト化マウスは、宿主であるマウス由来の細胞が残存するため、臓器がヒト由来のものにすべて置き換わったわけではなく、当該臓器の機能解析や研究を行う上では必ずしも最適化されたマウスであるとは限らない。また、最適化マウスを作製するには、種々の遺伝子改変を行う必要があるが、マウス個体を用いて行うことはできない。
そこで本発明においては、100%の細胞がヒト化された肝臓を有するマウスを樹立するため、ヒト化に最適の遺伝子改変マウスを樹立する。この遺伝子改変マウスは、個体発生の初期からヒト化を目指すべく鋭意検討を行った結果、BRJマウスより胚性幹細胞(以下「ES細胞」という)を樹立することに成功した。そのES細胞を用いてキメラマウスを作製し、生殖系列に伝わる生殖キメラマウスの作製にも成功した。次に、長期間にわたり肝臓機能を維持させるとともに安全性を確認するため、ヒト正常肝臓を有するマウスを樹立する。さらに、肝臓疾患を有するヒト患者と同じ症状の疾患モデルを樹立するとともに病態を解析するために、ヒト変異肝臓を持つマウスを樹立する。さらに、汎用性の高い新規治療法を開発するためにヒト疾患に対し最適化されたモデルマウスを樹立する。
2.BRJマウスの作製
使用される免疫不全マウスは、Rag2遺伝子及びJak3遺伝子がともにノックアウトされたマウスであり、すでに確立されたマウスである(Ono A,Hattori S,Kariya R,Iwanaga S,Taura M,Harada H,Suzu S,Okada S.Comparative study of human hematopoietic cell engraftment into BALB/c and C57BL/6 strain of rag−2/jak3 double−deficient mice.J Biomed Biotechnol 2011:539748,2011)。
このマウスはRag2遺伝子欠損マウスとJak3遺伝子欠損マウスとの交配により得ることができる。
Rag(Recombination activating gene)2遺伝子は、未熟なリンパ球に発現して免疫グロブリン遺伝子及びT細胞受容体の再構成に必須の機能を有し、T細胞及びB細胞の成熟に不可欠の遺伝子である。
このRag2遺伝子がノックアウトされたマウスの作製手法、及び当該遺伝子についての詳細は、Shinkai Y.et al.,Cell.1992 Mar 6;68(5):855−67、Chen J.et al.,Curr Opin Immunol.1994 Apr;6(2):313−9などに記載されているが、一般には当分野において周知の方法、例えば、ターゲッティングベクターを用いる方法により、作製することができる(Capecchi,M.R.,Science,(1989)244,1288−1292)。この方法は、マウスES細胞におけるRag2遺伝子とターゲッティングベクター上の遺伝子との相同組換えを利用したものである。
Jak3(Janus kinase 3)は、非受容体型チロシンキナーゼであり、IL−2、IL−4、IL−7、IL−9、IL−15及びIL−21受容体に共通する共通γ鎖の細胞内領域に会合して共通γ鎖を介したシグナルを細胞内に伝達するという機能を有するタンパク質である。共通γ鎖、Jak3を介するシグナルはNK細胞に必須のシグナルであるので、この経路が傷害されるとNK細胞が欠損することになる。すなわち、Jak3遺伝子をノックアウトすると、NK活性を消失させることができる。
Jak3遺伝子及び共通γ鎖遺伝子についての詳細は、Park SY.et al.,Immunity.1995 Dec;3(6):771−82、Suzuki K.et al.,Int Immunol.2000 Feb;12(2):123−32などに記載されており、これらの文献を参照して、Jak3遺伝子が欠損し、NK活性が消失したマウスを得ることができる。
なお、Rag2欠損(−/−)マウス及びJak3欠損(−/−)マウスは、熊本大学生命資源研究・支援センターから入手することもできる。これらのマウスと、市販のBALB/cマウスとを戻し交配することにより、Balb/cマウスと同一系統の遺伝的背景を有するBALB/c Rag2欠損(−/−)マウス及びBALB/c Jak3欠損(−/−)マウスをそれぞれ得ることができる。
Rag2遺伝子及びJak3遺伝子の両者が欠損したダブルノックアウトマウスの作製は、まず、BALB/c Rag2欠損マウスとBALB/c Jak3欠損マウスとを交配してF1を得、次にF1同士を交配してF2マウスを得る。そして、この中からRag2欠損(−/−)及びJak3欠損(−/−)の両欠損マウス(BRJマウス)を選択すればよい。BRJマウスの選択手法として、例えばRag2およびJak3の両方の遺伝子を欠損していることをPCR法またはサザンブロット法で確認することができる。
3.ES細胞の樹立
本発明のES細胞は、上記のようにして得られたBRJマウスから採取した胚をGSK3阻害剤及びMEK阻害剤の存在下で培養することにより、得ることができる。
まず、受精後のBRJ雌マウスから受精卵又は2細胞期胚を培養することにより得るか、あるいは胚盤胞を直接得る。受精は自然交配、または体外受精法による。体外受精では、メスマウスを過剰排卵させ得た卵子と、オスマウスから採取した精子とを培養することにより行う。
次に、採取した胚盤法または内部細胞塊を、動物細胞の培養用培地中、GSK−3阻害剤及びMEK阻害剤の存在下で約1〜3週間、好ましくは14−18日培養する。
GSK−3(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3)は、セリン/スレオニンプロテインキナーゼであり、グリコーゲンの産生やアポトーシス、幹細胞の維持などにかかわる多くのシグナル経路に作用する酵素である。GSK−3阻害剤としては、CHIR99021(入手先:和光純薬)、6−Bromoindirubin−3−oxime(BIO)(入手先:和光純薬)などが挙げられる。GSK−3阻害剤の培地中への添加量は、0.1〜10μM(マイクロモラー)、好ましくは0.3〜3μMである。GSK−3阻害剤の培地中への添加時期は特に限定されるものではないが、胚盤法の培養開始時から添加することが好ましい。
MEK阻害剤は、MAP Kinase Kinase(MEK)活性を阻害し、ERK1/ERK2の活性化を抑制するプロテインキナーゼ阻害剤である。MEK阻害剤としては、例えばPD0325901(入手先:和光純薬)、U0126(入手先:Promega)などが挙げられる。PD0325901阻害剤の培地中への添加量は限定されるものではなく、例えば3μMである。
培養条件は限定されるものではなく、例えば約37℃、5%CO
2の雰囲気中で行う。継代培養は3〜4日間隔で、マウス胚繊維芽細胞(MEF)フィーダー上又はコラゲナーゼIでコーティングしたプレート上で行ってもよい。
培地としては、例えばGMEM培地(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、DMEM(ダルベッコの改変イーグル培地)、RPMI1640培地培地などが挙げられる。培養培地には、KSR(Knockout Serum Replacement)、ウシ胎児血清(FBS)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、β−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、グルタミン酸、ピルビン酸ナトリウム及び抗生物質(例えばペニシリン、ストレプトマイシン等)などから選択し、適宜添加することができる。
所定期間培養後、EDTA又はコラゲナーゼIVを含む培地でインキュベートすることによりES細胞を回収する。回収されたES細胞は、必要によりフィーダー細胞の存在又は非存在下で培養することにより複数回継代することもできる。なお、フィーダー不含条件での内部細胞塊の培養は、MEFで馴化された培地中で行なうことができる。
培養されたES細胞は、一般にそれらのマーカー遺伝子を用いて同定することができる。ES細胞のマーカー遺伝子としては、例えばOct3/4、アルカリ性ホスファターゼ、Sox2、Nanog、GDF3、REX1、FGF4などが挙げられる。マーカー遺伝子又は遺伝子産物の存在は、PCRやウエスタンブロッティング等の任意の手法により検出すればよい。
また、本発明のES細胞が目的のものであるか否かは、BALB/cであるかどうかをSNPマーカーの検出により、Rag2欠損およびJak3欠損であるかどうかは、PCRまたはサザンブロット法による解析により確認することもできる。例えば、マウスのSNPのデータベースがhttp://www.broadinstitute.org/snp/mouseに公表されており、このデータベースを用いてSNP情報を照合すればBALB/cであることを確認でき、Rag2およびJak3遺伝子が欠損していれば、本発明のES細胞であると判断する。
このようにして得られたES細胞は、「BRJ8」と称し、2012年3月23日付(受領日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)にブダペスト条約に基づき国際寄託した。その受領番号は、「NITE ABP−1297」である。
上記ES細胞の詳細情報は以下の通りである。
GSK阻害剤およびMEK阻害剤によるES細胞の樹立法については既に論文が公表されているが、得られたES細胞は、元の系統の遺伝的性質を受け継いでおり、それぞれ特有の特徴を含んでいる。免疫不全マウスは種々の系統が存在するが、もともとの遺伝的背景に加え、それぞれ異なった遺伝子変異を有しているので、系統ごとに固有の特徴を有している。例えば、報告のあるNOGマウスは、NOD系統に、SCIDおよびIL2 receptorのcommon gamma(IL2R−γ)遺伝子の欠損を持つものである。NODマウスは、もともと補体を欠損している。SCIDの原因遺伝子は、Prkdc(DNA−dependent protein kinase,catalytic subunit)であり、この遺伝子は、免疫グロブリン遺伝子やT細胞リセプターの再構成に必要な遺伝子である。従って、この遺伝子に変異があると、Bリンパ球やTリンパ球ができなくなる。また、IL2R−γはIL−2,IL−4,IL−7,IL−9,IL−15及びIL−21などのインターロイキンのリセプターを構成する共通の分子である。従って、この分子が欠損すると、これらのインターロイキンを介したシグナルが伝わらなくなり、免疫応答ができなくなる。総合すると、補体、Bリンパ球、Tリンパ旧の欠損に加えて、マクロファージや樹状細胞の機能低下もみられ、免疫不全状態がより重症となる。しかし、重度の免疫不全であることから正常マウスでは全く問題にならない日和見感染病原体ですら場合によって致死的に働いたり、胸腺腫が高率に起こる。
一方、BRJマウスは、BALB/cマウスという系統にRag2およびJak3の遺伝子が欠損したものであり、移植した細胞の生着率が良いことで知られている。Rag2はPrkdcと同様に免疫グロブリン遺伝子やT細胞リセプターの再構成に必要な遺伝子で、また、Jak3はIL2R−γの下流に存在する遺伝子であり、従って、これらの遺伝子の欠損により重症の免疫不全状態となる。ただし、BRJは飼育および繁殖が比較的容易である。
予備実験において、従来使用されるGMEM−KSR培地を用いてES細胞の樹立を試みたが、増殖の非常に悪い株しか樹立できず、この株を用いてキメラマウスを作製しても50%程度のキメリズムしか得られず、germlineにも寄与しなかった。これに対し、本発明においては、ESの未分化状態維持のために有効とされるGSK3のインヒビターとMEKのインヒビターを培地に加えることで、目的とするES細胞を樹立することができた。本発明のES細胞は、増殖力が高く、キメリズムも高い。その理由は、従来法を用いて作製されたES細胞と比較して、未分化状態をよく保っているからである。ES細胞の分化に働く重要なシグナルの一つは、FGF4からFGFリセプターを介するERK/MEKの経路である。すなわち、ERKは分化のシグナルとして働く。また、GSK−3はβ−カテニンをリン酸化することでWntシグナルを刺激し、分化を誘導する。従って、強力なMEKインヒビターであるPD0325901とGSK3インヒビターの2つのインヒビター(2i)を用いることにより、本発明のES細胞は分化を抑制し多分化能を維持することができる。
4.遺伝子改変
ヒト化に最適の遺伝子改変マウスを樹立するには、成体になったマウスではなく、ES細胞の段階で内在遺伝子をヒト型に置換するか、あるいはヒト遺伝子をES細胞に導入した後、その遺伝子改変及び/又は遺伝子導入ES細胞からマウスを作出する必要がある。
そこで本発明において、ES細胞に目的の遺伝子を導入し、あるいはES細胞に内在する遺伝子をヒトの遺伝子に置き換えるため、バクテリオファージ由来の組換えシステムであるCre−loxPシステム、ビブリオ菌由来の組換えシステムであるVCre−Vloxシステム、Creのホモログを利用した組換えシステムであるDre/roxシステム、あるいはこれらの組換えシステムを改変したシステムによる相同組み換えを利用する。
1oxP(locus of crossing(X−ring)over,P1)は34塩基(5’−ATAACTTCGTATAGCATACAT TATACGAAGTTAT−3’)からなる配列であり(配列番号1)、5’末端から13塩基(逆反復配列1という)、及び3’末端から13塩基の配列(逆反復配列2という)が、それぞれ逆反復配列を構成し、「GCATACAT」により示される8塩基のスペーサーと呼ばれる配列が上記逆反復配列1及び2に挟まれている(
図1)。「逆反復配列」とは、スペーサーを境界として一方の側の配列が、他方の側の配列と、互いに向き合う方向に相補的であるような配列を意味する。
Cre(causes recombination)とは、遺伝子組換えを起こさせる組換え酵素(リコンビナーゼともいう)を意味し、上記反復配列を認識し、スペーサー部の「cataca」を粘着末端とする切断様式で切断する。
ところで、バクテリアの中では、2カ所の1oxP間で組換えが起こり、挿入または削除反応が起こる(
図1)。哺乳類細胞で挿入反応を起こすことができれば、後に任意の遺伝子を挿入できるので、応用性は格段に広がる。哺乳類細胞では核が大きいため、一旦削除されたloxPを持つ環状DNAは拡散してしまい、挿入反応は殆ど観察されない。
そこで、本発明者は、挿入反応を起こすために1oxP配列に変異を導入し、一旦遺伝子がゲノムに挿入されると挿入された遺伝子は削除できない(ゲノムから脱離しない)ようにすることを考え、このため複数種類の変異型1oxP(lox66、lox71、lox511、lox2272)を設計した(
図1)。これらの変異型1oxPは公知である(WO01/005987号公報、特開2007−100号公報)。
また本発明においては、Vloxと呼ばれるシステムも利用することができる。Vloxとはビブリオ菌由来の組換えシステムであるVCre−Vloxであり(Suzuki,E.,Nakayama,M.VCre/VloxP and SCre/CloxP:new site−specific recombination systems for genome engineering.Nucleic Acid Res.2011,1−11)、Vlox43L、Vlox43R、Vlox2272などが利用可能である(
図1)。
1oxP及び変異型1oxP並びにVloxシステムの塩基配列を以下に示す(
図1)。
さらに本発明においては、Dre/roxシステムを採用することができる(
図2)。
Dreとは、D6−部位特異的DNAリコンビナーゼであり、下記rox部位の配列を認識する酵素である(Sauer,B.and McDermott,Nucic Acid.Res.32:6086−6095,2004)。このリコンビナーゼ及びrox認識配列を利用した組換えシステムをDre/roxシステムと呼ぶ。このシステムはCre−loxシステムと密接に関係しているが、認識するDNA特異性が異なっている。
lox及びroxの塩基配列を以下に示す(
図2)。
本発明においては、前記の通りヒト正常肝臓を有するマウスを樹立することを目的としており、さらに、肝臓疾患モデルマウスを樹立することも目的とする。そこで、本発明においてはマウス肝細胞の細胞質において毒素を発現させてマウス肝細胞死を誘導できるよう、ES細胞に遺伝子操作を行う。また、ヒト正常肝臓を有するマウスを作出するにはヒト肝細胞を移植して増殖させる必要があることから、ES細胞において、マウス成長ホルモン遺伝子をヒトの成長ホルモン遺伝子で置換する。また、薬物代謝などの機能を解析するため、マウス薬物代謝酵素遺伝子をヒトの薬物代謝酵素遺伝子で置換する。
肝細胞死を導入したマウスは肝機能を消失するので、このマウスは肝臓障害モデルとして利用できるほか、ヒト正常肝細胞を移植することで、肝臓がヒト化されたマウスを得ることができる。
図3は、マウス成長ホルモン(GH)遺伝子をヒトGH遺伝子に置換するための相同組み換えベクターの構築図である。
また、
図4は、薬物代謝酵素遺伝子であるCyp遺伝子をヒトCyp遺伝子に置換するための相同組み換えベクターの構築図である。
マウス遺伝子から上記ヒト遺伝子への置換は、WO01/005987号公報に記載の遺伝子トラップ法に準じて行なうことができる。例えば、前記の通り作製されたベクターを用い、2段階の遺伝子トラップを行う。
第1段階は通常の遺伝子トラップ法である。この通常の遺伝子トラップでは、ES細胞に前記トラップベクターを導入し、ES細胞内に本来的に存在する内在性遺伝子をトラップする。これにより、ES細胞中の内在性遺伝子は破壊される。次に、ヒト遺伝子をプラスミド(置換ベクター)上でlox配列(例えば1ox66等)の下流につなぎ、第2段階の遺伝子トラップを行う(
図3、4)。
第2段階の遺伝子トラップでは、1ox66の下流に連結されたヒト遺伝子(hGH、hCyp等)をES細胞に導入する。これにより、第1段階で導入されたトラップベクターの1ox71部位が、第2段階で導入したベクターのlox66との間で組換えを起こし、「(lox71/66)−(ヒト遺伝子)−(loxP)」で構成されるカセットを含む改変した遺伝子を導入できる。なお、ヒト遺伝子とloxPとの間には、ピューロマイシン耐性遺伝子(puro)を連結することができる。
この方法によれば、内在性マウス遺伝子をヒト遺伝子で置換することができる。
図3及び4に置換アレルの図を示す。
ここで、
図3及び4において、Ex1、Ex2、Ex3及びEx4は、それぞれマウス成長ホルモン遺伝子およびマウスCyp3a13遺伝子のエキソン1〜4を表し、pAはポリA配列を表し、FrtはFLPの認識部位、PGK−neoはPGKプロモーターが連結されたネオマイシン耐性遺伝子、P−puroは、PGKプロモーターが連結されたピューロマイシン耐性遺伝子を表す。
5.キメラマウスの作製
キメラマウスの作製は標準的な方法で行うことができる。
まず、上記樹立されたES細胞、又は遺伝子が導入若しくは置換されたES細胞を、8細胞期胚と凝集させるか、あるいは胚盤法に注入する。このようにして作製された胚をキメラ胚というが、このキメラ胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラマウスを作製する。
例えば、キメラ胚の作製は、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、所定日数後に卵管又は子宮から初期発生胚を回収する。回収した胚に、ES細胞を凝集または注入し、キメラ胚を作製する。
ここで、「胚」とは、個体発生における受精から出生までの段階の個体を意味し、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、桑実期胚、胚盤胞などを包含する。8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目にそれぞれ卵管又は子宮から初期発生胚を回収することができる。
ES細胞と胚を用いて集合体を作製する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公知手法を用いることができる。「集合体」とは、ES細胞及び胚が同一空間内に集まって形成する集合体を意味し、ES細胞が胚に注入された形態、胚を個々の細胞にばらして、ES細胞とともに凝集する形態のいずれをも意味する。
マイクロインジェクション法を採用する場合は、回収した胚に、ES細胞を注入して細胞の集合体を作製する。また、凝集法を採用する場合は、ES細胞を、透明帯を除去した正常胚にふりかけて凝集させればよい。
一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内に移植し、その後出産させることによりキメラマウスを作製することができる。
このようなキメラマウスの中から、ES細胞移植胚由来の雄マウスを選択する。選択した雄のキメラマウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統の雌マウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、ES細胞に由来するマウスの被毛色が現れることにより、多能性幹細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。
6.ヒト化マウスの作製
(1)ヒト化に最適の遺伝子改変マウスの作製
遺伝子が導入又は置換されたES細胞を用いて樹立されたトランスジェニックマウス、すなわち遺伝子改変マウスは、後述するとおり、100%ヒト化した肝臓を持つマウスの樹立のための基本となるマウスである。
拒絶反応の回避のためには、NOJマウスのES細胞又はBRJマウスのES細胞を用いる。
(i)NOJ(NOD/SCID/Jak3−/−)マウス:C3,T,B,NK,NKT欠損
NOJマウスの作製は、NODマウスとSCIDマウスを交配し、NODの遺伝的背景にSCID遺伝子変異を導入する。さらに、Jak3欠損マウスとも交配することにより、NODの遺伝的背景にSCIDおよびJak3遺伝子欠損を持つマウス(NOJマウス)が得られる。このマウスでは、補体であるC3が欠損し、またT細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞も欠損しているマウスである。
(ii)BRJ(BALB/c;Rag2−/−;Jak3−/−)マウス:T,B,NK,NKT欠損
本発明においては、上記NOJマウスのほかにBRJマウスを使用することができる。BRJマウスは、BALB/cマウスの遺伝的背景にRag2およびJak3遺伝子欠損を導入したマウスであり、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞が欠損している。NOJマウスと比較し、繁殖が容易で、多数のマウスを生産できる。
(2)肝臓障害モデルマウスの作製
肝臓障害モデルマウスは、抗エストロゲン剤の投与により、毒素を発現させてマウス肝細胞を除去する(死滅させる)ことで、肝機能が失われた障害モデルマウスを作製することができる。
マウス肝細胞の死滅のために、また、マウス肝細胞の細胞質においてDre−ER
T2を発現させるために、以下のコンストラクト1及び2を作製する。Dre−ER
T2とは、Dre組換え酵素遺伝子と、ほ乳類体内で産生されるエストロゲンが結合しないように改変した変異型エストロゲンレセプター遺伝子とを連結したベクターである。
コンストラクト1:
CAG−ATG−rox−EGFP−rox−DT−A
コンストラクト2:
SAP−Dre−ER
T2
コンストラクト1は、CAGプロモーターの直下に、(i)ATG、(ii)roxで挟まれたEGFP、及び(iii)DT−A(diphtheria toxin fragment A)を接続したものである。
EGFPの開始コドンとrox上流のATGはフレームが合うように設計する。また、DT−Aの開始コドンは除去し、rox上流のATGとフレームが合うように設計する。
コンストラクト2は、肝細胞特異的な血清アミロイドP成分(serum amyloid P component:SAP)のプロモーター直下に、Dre−ER
T2を接続したものである。
これらのコンストラクト1及び2を本発明のES細胞に共導入することにより、タモキシフェン投与後部位特異的組み換えがおこり、肝細胞特異的にジフテリア毒素が発現して細胞死を誘導することができる。
すなわち、非ステロイド性の抗エストロゲン剤として、例えばタモキシフェン(Tamoxifen)は、エストロゲンレセプターに、エストロゲンと競合的に結合し、抗エストロゲン作用を示すことによって抗腫瘍活性を有する物質である。Dre−ER
T2を発現させたヒト化マウスにタモキシフェンを投与すると、タモキシフェンによりDre−ER
T2が核に移行する。2つのrox間における組換えが起こり、ジフテリアトキシン遺伝子のプロモーターが機能する。これにより、毒素DT−Aが発現し、マウスの肝細胞が死滅する(
図5)。
タモキシフェンの投与回数及び投与時期は、肝細胞を死滅できる限り特に限定されるものではないが、例えば以下のように行なう。
タモキシフェンをエタノール溶解し、その溶液をsun flower oil(S5007,Sigma)で希釈し、濃度を7mg/mlに調整する。この溶液を用いて、成体に105mg/kg body weightになるように4日間連続腹腔内投与する。
(3)肝細胞がヒト肝細胞に置換されたヒト化マウスの作製
肝細胞がヒト肝細胞に置換されたマウスは、上記の通り抗エストロゲン剤の投与によりマウス肝細胞を除去するとともに、ヒト肝細胞をマウスに移植することにより、肝細胞がヒト肝細胞に置換されたヒト化マウスを得ることができる。
ヒト正常肝臓を持つマウスを樹立することは、長期間に渡る肝臓機能の維持と、安全性を確認するために必要である。
(i)マウス成長ホルモン遺伝子がヒト遺伝子に置換されたES細胞の作製
移植後のヒト肝細胞が増殖できるようにするために、マウス成長ホルモン遺伝子をES細胞の段階でヒト遺伝子に置換する。
具体的には、前記の通りES細胞の遺伝子置換を2つのステップで行う。
第1のステップにおいて、SAP−Dre−ER
T2およびCAG−rox−EGFP−rox−DT−Aを導入したBRJ ES細胞(BRJ ES:SAP−Dre−ER
T2;CAG−rox−EGFP−rox−DT−Aとよぶ)を用いて相同組換えを行い、マウス成長ホルモン遺伝子を開始コドンのところで破壊するとともに、この領域にlox71−PGK−neo−loxPが組込まれたES細胞(BRJ ES::SAP−Dre−ER
T2;CAG−rox−EGFP−rox−DT−A;Gh
neo)を樹立する。
第2のステップにおいて、このES細胞と置換ベクターを用い、neo遺伝子の代わりにヒト成長ホルモン遺伝子cDNAが組込まれたES細胞(BRJ ES:SAP−Dre−ER
T2;CAG−rox−EGFP−rox−DT−A;Gh
hGH)を樹立できる。
このようにして樹立されたES細胞を用いて、ヒト成長ホルモンを産生するマウスを得ることができる。
(ii)マウス肝細胞及び未分化肝細胞の除去
タモキシフェンの投与回数及び投与時期は上記と同様である。
(iii)移植するヒト肝細胞の作製
移植するヒト肝細胞は、iPS細胞から誘導することができる。
ヒト肝細胞は、ヒトiPS細胞から、支持細胞や細胞外マトリックスを用いて効率的な内胚葉及び肝臓分化誘導方法を確立することができる。
iPS細胞は、Oct、Sox、Klf、Myc、Nanog、Linなどのファミリーメンバーを含む3〜6個の転写因子(核初期化因子)をコードする遺伝子を体細胞に導入することにより誘導することができる(Takahashi,K.,et al.Induction of pluripotent stem cells from fibroblast cultures.Nat.Protoc.2,3081−9(2007);Fusaki N,Ban H,Nishiyama A,Saeki K,Hasegawa M.Efficient induction of transgene−free human pluripotent stem cells using a vector based on Sendai virus,an RNA virus that does not integrate into the host genome.Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.2009;85(8):348−62.)。
Octファミリーメンバーとしては、例えばOct3/4、Oct1A、Oct6などが挙げられ、Oct3/4が好ましい。
Sox(SRY関連HMGボックス)ファミリーメンバーとしては、例えばSox1、Sox2、Sox3、Sox7、Sox15などが挙げられ、Sox2が好ましい。
Klf(Kruppel様因子)ファミリーメンバーとしては、例えばKlf1、Klf2、Klf4、Klf5などが挙げられ、Klf4が好ましい。
Mycファミリーメンバーとしては、c−Myc、N−Myc、L−Mycなどが挙げられ、c−Mycが好ましい。
Nanogは、胚盤胞の内部細胞塊で最も高く発現し、分化細胞では発現しないホメオボックスタンパク質である。
Linファミリーメンバーとしては、例えば未分化ヒトES細胞のマーカーであるLin28が挙げられる。
より具体的には、転写因子としては、Oct3/4、Sox2、Klf4及びc−Mycの組み合わせが好ましいが(Takahashi,K.and Yamanaka,S.,Cell 126,663−676(2006))、その他にも、Oct3/4、Sox2及びKlf4の組み合わせ、あるいはOct3/4、Sox2、Klf4及びL−Mycの組合せも使用することができる。
体細胞としては、例えば皮膚細胞、肝臓細胞、繊維芽細胞、リンパ球などが挙げられる。
体細胞への遺伝子導入法は、例えばリポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルスベクターによる導入などが挙げられ、特に限定されるものではない。ウイルスベクターとしては、例えばレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスなどが挙げられる。市販のベクター、例えばセンダイウイルス(DNAVEC)を利用することもできる。
ベクターを用いる場合、導入する遺伝子が発現し得るように、プロモーター及びエンハンサーなどの調節配列と機能し得る形で連結することもできる。プロモーターとしては、例えばCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなどがある。これらのベクターはさらに、薬剤耐性遺伝子(例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等)などのポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカー(例えば、ジフテリア毒素Aフラグメント遺伝子またはチミジンキナーゼ遺伝子など)、IRES(internal ribosome entry site)、ターミネーター、複製起点などを含めることができる。
体細胞(例えば、0.5×10
4〜5×10
6細胞/100mmディッシュ)を、約37℃にて、MEFフィーダー上またはフィーダー不含の条件で、上記核初期化因子を含むベクターをトランスフェクトして培養すると、約1〜4週間後にiPS細胞が誘導される。
培地としては、例えばGMEM培地(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、DMEM(ダルベッコの改変イーグル培地)、RPMI1640培地、OPTI−MEMI培地などが挙げられる。培養培地には、KSR(Knockout Serum Replacement)、ウシ胎児血清(FBS)、activin−A、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、レチノイン酸、デキサメサゾン、β−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、グルタミン酸、ピルビン酸ナトリウム及び抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシンなど)などから選択し、適宜添加することができる。
所定期間培養後、ES細胞の培養のときと同様に、EDTA又はコラゲナーゼIVを含む培地でインキュベートすることにより細胞を回収する。フィーダー不含条件では、細胞をマトリゲルコーティングプレート上、MEFで馴化された培地中で行なうことができる。
iPS細胞からヒト肝細胞へは、3つの段階を経て分化誘導するのが一般的である。原則として、
(a)多能性幹細胞から内胚葉系への誘導、
(b)内胚葉系から未熟肝細胞への誘導、及び
(c)未熟肝細胞から成熟肝細胞への誘導である。
上記(a)においてはactivin AやWntシグナルが、(b)においてはFGFやBMPが、そして(c)においてはHepatocyte growth factor、Oncostatin、Dexamethasoneが重要と考えられている。
但し、上記(b)及び(c)のステップは適宜DMSOやレチノイン酸、FGF4やhydrocortisoneおよびに代替することが可能である。
ヒト肝細胞の移植時期は、胎生15.5日目、または生後8週前後の成体マウスである。
ヒト肝細胞の移植細胞数は、10
5から10
6個であることが好ましい。
ヒト肝細胞の移植ルートは、胚の場合は卵黄嚢静脈(yolk sac vessel)から注入して移植する(
図6、7)。成体の場合は、脾臓内に注入する。
(iv)ヒト肝細胞の増殖
マウス成長ホルモン遺伝子がヒト成長ホルモン遺伝子に置換されたES細胞を用いて樹立されたマウスは、ヒト成長ホルモンを産生することができる。このヒト成長ホルモンが、移植したヒト肝細胞に働き、その成長を促し、正常なサイズのヒト肝臓を持つヒト化肝臓マウスを樹立できる。
マウス肝細胞がすべて(100%)ヒト肝細胞に置き換わったことの確認、すなわちマウス肝細胞が存在しないことの確認は、マウス肝臓で発現する遺伝子の発現をRT−PCR法等により解析することで行なうことができる。
(4)ヒト化肝臓マウスの評価
肝臓がヒト化されたことは、以下の事項を単独で又は適宜組み合わせて検査することで確認することができる。
(i)肝機能の検証
肝機能を検証するための検査項目としては、例えば以下の項目が挙げられる。検査期間は限定されるものではないが、1年以上行なうことが好ましい。
タンパク関連:総タンパク、ALB,TTT,ZTT,CRP,Haptoglobin,C3,C4
非タンパク性窒素成分:全ビリルビン,直接ビリルビン
糖質:グルコース
脂質:トリグリセリド、総コレステロール、 HDL−コレステロール、LDL−コレステロール、ApoAI ApoCII
酵素:乳酸脱水素酵素(LDH)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST(GOT))、アラニンアミノ基転移酵素(ALT(GPT))、γ−グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、クレアチンキナーゼ(CK)、アルカリホスファターゼ(AP)、アミラーゼ(AML)
その他:カルシウム、Fe、無機リン酸
ICG検査:インドシアニン・グリーン(ICG)を経静脈的に投与し、血中のICG濃度を経時的に測定し、肝臓の色素排泄機能を検査する。ICGは血中のリポ蛋白に結合して肝に輸送され、類洞を通過する間に肝細胞に摂取され、抱合を受けることなく胆汁に排泄されるので、肝細胞ではなく、肝臓全体の臓器としての機能を解析できる。
CT検査:肝臓の形態的な変化を検査する。
(ii)薬物代謝
PCR array法を用いて、以下の薬物代謝関連酵素を解析する
・チトクローム P450:CYP11A1,CYP11B1,CYP11B2,CYP17A1,CYP19A1,CYP1A1,CYP1A2,CYP1B1,CYP21A2,CYP24A1,CYP26A1,CYP26B1,CYP26C1,CYP27A1,CYP27B1,CYP2A13,CYP2R1,CYP2S1,CYP2B6,CYP2C18,CYP2C19,CYP2C8,CYP2C9,CYP2D6,CYP2E1,CYP2F1,CYP2W1,CYP3A4,CYP3A43,CYP3A5,CYP3A7,CYP4A11,CYP4A22,CYP4B1,CYP4F11,CYP4F12,CYP4F2,CYP4F3,CYP4F8,CYP7A1,CYP7B1,CYP8B1.
・アルコールデヒドロゲナーゼ:ADH1A,ADH1B,ADH1C,ADH4,ADH5,ADH6,ADH7,DHRS2,HSD17B10(HADH2).
・エステラーゼ:AADAC,CEL,ESD,GZMA,GZMB,UCHL1,UCHL3.
・アルデヒドデヒドロゲナーゼ:ALDH1A1,ALDH1A2,ALDH1A3,ALDH1B1,ALDH2,ATDH3A1,ALDH3A2,ALDH3B1,ALDH3B2,ALDH4A1,ALDH5A1,ALDH6A1,ALDH7A1,ALDH8A1,ALDH9A1.
・フラビン含有モノオキシゲナーゼ:FMO1,FMO2,FMO3,FMO4,FMO5.
・モノアミンオキシゲナーゼ:MAOA,MAOB.
・プロスタグランジン−エンドペリオキシドシンターゼ:PTGS1,PTGS2.
・キサンチンデヒドロゲナーゼ:XDH.
・ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ:DPYD.
(iii)肝細胞機能のin vitroでの検証
肝細胞は、内胚葉由来であるので、内胚葉系および肝細胞で発現する遺伝子の経時的な発現、グリコーゲンの蓄積、チトクローム酵素の発現等を調べることで、ヒト肝臓の機能を有するか否かを検証することができる。
内胚葉系および肝細胞で発現する遺伝子の経時的な発現は、Oct3/4,T,Gsc,Mixl1,Foxa2,Hex,Hnf4a,Hnf6,Afp,Alb,Ttr,αAT等で検証できる。その検証手法は、例えば一般的なノザンブロット法、RT−PCR法、ウエスタンブロット法である。
肝細胞の分泌能力は、ALB,transferrin,alphal−antitrypsin,fibrinogenの培養液中の濃度測定で検証できる。その検証手法は、例えば一般的なウエスタンブロット法あるいはEIA(enzyme−immuno assay)法である。
グリコーゲンの蓄積は、PAS(periodic acid−Schiff)染色で検証できる。過ヨウ素酸はグルコース残基を選択的に酸化してアルデヒドを生成し、シッフ試薬によって赤紫色に変色する。
チトクローム酵素の発現は、主要な5つであるCYP3A4,CYP1A2,CYP2C9,CYP2C19及びCYP2D6の解析で検証できる。その検証手法は、例えば一般的なノザンブロット法、RT−PCR法、ウエスタンブロット法である。
(5)ヒト患者由来の肝細胞により置換された肝臓疾患モデルマウスの作製
本発明のマウスに、ヒト患者由来の肝細胞を移植するとともに、抗エストロゲン剤を投与してマウス由来肝細胞を除去することにより、ヒト肝臓疾患モデルマウスを得ることができる。
ヒト変異肝臓を持つマウスを樹立することは、ヒト患者と同じ症状の疾患モデルの樹立と病態解析のために必要である。そして、ヒト疾患最適化モデルが樹立され、汎用性の高い新しい治療法を開発するために利用することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、iPS細胞からの肝細胞の誘導、ヒト家族性アミロイドポリニューロパチーの患者、ヒトプロピオン酸血症の患者からのiPS細胞の樹立、誘導したヒト肝細胞を用いてのマウスへの移植実験等に関して、倫理委員会、動物実験委員会、第2種組換えDNA実験安全委員会に申請し、すべて認可された。
【実施例2】
【0010】
マウス肝細胞死の誘導
(1)マウス肝細胞死の誘導のためのコンストラクトの作製
肝細胞を特異的に死滅できる遺伝子改変マウスを作製するため、2種類のコンストラクトを作製した。
コンストラクト1(CAG−ATG−rox−EGFP−rox−DT−A)はCAG promoterの直下に、ATG、roxで挟まれたEGFP、及びDT−A(diphtheria toxin fragment A)を接続している。
EGFPの開始コドンとrox上流のATGはフレームが合うように設計した。また、DT−Aの開始コドンは除去しrox上流のATGとフレームが合うように設計した。
コンストラクト2(SAP−DreER
T2)は肝細胞特異的な血清アミロイドP成分(serum amyloid P component:SAP)のプロモーター直下にDre−ER
T2を接続している。加えて、SAP promoterの上流にはpuromycin耐性遺伝子を接続している。
具体的手法は以下の通りである。
(1−1)コンストラクト1
コンストラクト1は、以下のように作製した。
(i)p6SEAZをPstI、pSP−rox2をKpnIで制限酵素処理し、T4 Polymerase(TaKaRa)でブラントエンドにした。その後、EcoRIで制限酵素処理を行い、ライゲーションし、pSP−rox−EGFP−roxを作製した。
(ii)pSP−rox−EGFP−roxとpBSK−atg−rox2(合成DNA,Biomatik社)をEcoRIとSmaIで制限酵素処理を行い、ライゲーションし、pBSK−atg−rox−EGFP−roxを作製した。
(iii)pBSK−atg−rox−EGFP−roxとP71hAXC−DTをBamHIとPstIで制限処理を行い、ライゲーションし、pBSK−atg−rox−EGFP−rox−DT−Aを作製した。
(iv)pCAGGS−EGFPをKpnIで、pBSK−atg−rox−EGFP−rox−DT−AをSpeIで制限酵素処理し、T4 Polymerase(TaKaRa)でブラントエンドにした。その後、HindIIIで制限酵素処理を行い、ライゲーションをしCAG−atg−rox−EGFP−rox−DT−Aを作製した。
(1−2)コンストラクト2
コンストラクト2は、以下のように作製した。
(i)pkSAP−DrePPをtemplateとし、開始コドンからストップコドン手前までをPCRで増幅した。Reverse PrimerにはBamHIsiteを付加した。
pGEM−T Easy Vectorと上記のPCR産物をライゲーションし、T easy−Dreを作製した。
(ii)pkSAP−DrePPとT easy−DreをSalIとEcoRIで制限酵素処理をし、ライゲーションを行い、T Easy SAPを作製した
(iii)前記T Easy DreとT easy−SAPをSacIIとNotIで制限酵素処理をし、ライゲーションを行い、T easy−SAP−Dreを作製した。
(iv)T Easy−SAP−DreとpkSA−CremER
T2PPを用いて、BamHIとNotIで制限酵素処理し、ライゲーションを行い、T easy−SAP−DremER
T2を作製した。
(v)pkSAP−DrePPとT easy−SAP−DremER
T2をSalIとNotIで制限酵素処理し、ライゲーションを行い、pKSAP−DreER
T2を作製した。
(vi)pKSAP−DreERT2をSpeIで、pFPacpaF2をKpnIで制限酵素処理を行い、T4 polymerase(TaKaRa)でブラントエンドにした。その後、pKSAP−DreER
T2をSalI、pFPacpaF2をXhoIで制限酵素処理を行い、ライゲーションをしPuro−SAP−DreER
T2を作製した。
(2)エストロゲン受容体遺伝子及びジフテリアトキシン遺伝子のES細胞への導入
ヒト遺伝子を挿入時に、効率よく発現させるための条件検討を行った(Li,Z.et al.,Transgenic Res.20:191−200,2011.DOI 10.1007/s11248−010−9389−22)。
PGK−puromycinカセット及びIRESの有無により、どの組み合わせのときが最も発現効率が良いかを解析した。
相同組換えベクターを用いて、通常の方法(Zhao,G.,Li,Z.,Araki,K.,Haruna,K.,Yamaguchi,K.,Araki,M.,Takeya,M.,Ando,Y.and Yamamura,K.Inconsistency between hepatic expression and serum concentration of transthyretin in mice humanized at the transthyretin locus.Genes Cells 13:1257−1268,2008.)によりあらかじめマウスtransthyretin(Ttr)遺伝子の第1エクソンを破壊した。このとき第1エクソンのATGが破壊され、その部分にlox71−PGK−beta−geo−loxP−poly A−lox2272が組込まれた標的組換えクローンを得た。
次いで、2種類の置換ベクターを作製した。置換ベクター1は、lox66−hTTR cDNA−polyA−Frt−PGK−puro−Frt−loxPを含んでいる。置換ベクター2は、lox66−IRES−hTTR cDNA−polyA−Frt−PGK−puro−Frt−loxPを含んでいる。これらの置換ベクターをそれぞれ標的組換えクローンに、Cre発現ベクターとともに電気穿孔法にて導入した。
その結果、lox71/66−hTTR cDNA−polyA−Frt−PGK−puro−Frt−loxPクローン(I(−)P(+)と略称)及びlox71/66−IRES−hTTR cDNA−polyA−Frt−PGK−puro−Frt−loxPクローン(I(+)P(+)と略称)を得た。この2つのクローンはいずれもPGK−puroを持つが、I(−)P(+)はIRESを持っていない。
この2つのクローンにCAG−FLPを電気穿孔法にて導入し、Frt間のPGK−puroを削除し、I(−)P(−)およびI(+)P(−)クローンを作製した。
上記4つのESクローンからマウスを作製し、発現解析を行ったところ、I(−)P(+)での発現が最も高く、I(−)P(−),I(+)P(+),I(+)P(−)の順に発現が低下することが分かった。また、I(−)P(+)の場合は、肝臓でのヒトTTR(トランスチレチン)の発現は、コントロールマウスにおけるマウスTtr(トランスチレチン)の発現レベルとほぼ同じであることが分かった。
その結果、PGK−puromycinが存在し、IRESが存在しない組み合わせが、挿入したヒト遺伝子の発現効率が最も良いことを明らかにした。