(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871447
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】GIP分泌抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/734 20060101AFI20160216BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20160216BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20160216BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
A61K31/734
A23L1/30 Z
A61P1/14
A61P43/00 111
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2008-301016(P2008-301016)
(22)【出願日】2008年11月26日
(65)【公開番号】特開2009-149621(P2009-149621A)
(43)【公開日】2009年7月9日
【審査請求日】2011年9月8日
【審判番号】不服2014-17020(P2014-17020/J1)
【審判請求日】2014年8月27日
(31)【優先権主張番号】特願2007-310998(P2007-310998)
(32)【優先日】2007年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳子
(72)【発明者】
【氏名】下豊留 玲
(72)【発明者】
【氏名】市場 智久
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
前田 佳与子
【審判官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−512306(JP,A)
【文献】
特開平1−281061(JP,A)
【文献】
特開平1−291769(JP,A)
【文献】
特開平1−252260(JP,A)
【文献】
特開平6−253780(JP,A)
【文献】
国際公開第04/69179(WO,A1)
【文献】
国際公開第04/91533(WO,A1)
【文献】
国際公開第03/99335(WO,A1)
【文献】
中国特許出願公開第1597703(CN,A)
【文献】
日本家政学会誌,1993年,44(1),3−9
【文献】
食品衛生学雑誌,1988年,29(4),240−248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/734
A23L 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸カリウムを有効成分とする、消化促進又は胃もたれ改善のための食後GIP分泌抑制剤。
【請求項2】
アルギン酸カリウムの重量平均分子量が10,000〜60,000である請求項1記載の食後GIP分泌抑制剤。
【請求項3】
アルギン酸カリウムの重量平均分子量が10,000〜50,000である請求項1記載の食後GIP分泌抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬又は食品として有用なGIP分泌抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Gastric inhibitory polypeptide(GIP)は、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用を有する消化管ホルモンであり、摂食時、食餌中の脂質等によりその分泌が亢進されることが知られている(非特許文献1〜3)。そのため、GIPの分泌を阻害する物質は、消化促進や胃もたれの改善に有用であると考えられる。これまでの研究によって、GIPの機能を阻害する物質として、3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5−a]ピリミジンー7−オール(BMPP)が知られ、食後GIPの分泌を抑制するものとして、グアガム等が知られている(特許文献1、非特許文献4〜9)。
しかしながら、前者の物質は、in vivoにおけるGIP機能阻害効果が確認されておらず、また後者の物質は脂質摂取時のGIP分泌抑制効果が検討されていないという問題があり、また、胃もたれ改善効果等の点で必ずしも十分なものとはいえない。
【0003】
斯かる状況下、本出願人は、褐藻類に存在する高分子酸性多糖の一つであるアルギン酸のナトリウム塩をマウスに摂取した場合に、食後GIP分泌抑制効果が認められ、食後GIP分泌抑制剤となり得ることを見出し、特許出願している(特許文献2)。
【0004】
一方、アルギン酸カリウムは、食品の増粘剤や歯科印象剤のゲル化剤として広く使用されており、また、体内のナトリウム排出に基づく高血圧抑制作用があることが報告されている(非特許文献10)。
しかしながら、アルギン酸カリウムに極めて優れたGIP分泌抑制作用があることは知られていない。
【特許文献1】国際公開第01/87341号パンフレット
【特許文献2】特開2006−342085号公報
【非特許文献1】J.C.Brownら、Canadian J Physiol Pharmacol 47 : 113-114, 1969
【非特許文献2】J. M. Falkoら、J Clin Endocrinol Metab 41(2) : 260-265, 1975
【非特許文献3】織田敏次ら、消化管 機能と病態、1981年、中外医学社、P205−216
【非特許文献4】Gagenby S Jら、Diabet Med. 1996 Apr; 13(4):358-64
【非特許文献5】Ellis PRら、Br J Nutr. 1995 Oct;74(4):539-56
【非特許文献6】Simoes Nunes Cら、Reprod Nutr Dev. 1992;32(1):11-20
【非特許文献7】Morgan LMら、Br J Nutr. 1990 Jul;64(1):103-10
【非特許文献8】Requejo Fら、Diabet Med. 1990 Jul;7(6):515-20
【非特許文献9】Morganら、Br J Nutr. 1985 May;53(3):467-75
【非特許文献10】辻啓介ら、日本家政学会誌、Vol.39 No.3 Page.187-195 (1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医薬又は食品として有用なGIP分泌抑制剤を提供すること関する。
【0006】
本発明者らは、アルギン酸又はその塩のGIP分泌抑制作用について更に検討したところ、アルギン酸のカリウム塩が、アルギン酸ナトリウムと比較して、食後のGIP分泌を著しく抑制し、消化促進や胃もたれ改善により有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、アルギン酸カリウムを有効成分とする食後GIP分泌抑制剤に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のGIP分泌抑制剤を用いれば、食後のGIPを減少させ、消化吸収を促進することができ、胃もたれの改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
アルギン酸は、全ての褐藻類に細胞壁間物質として分布するウロン酸(D−マンヌロン酸とL−グルロン酸)を主要構成糖とする高分子酸性多糖(分子量:数万〜数十万)であり、1構成単位に1つのカルボキシル基を持つ。アルギン酸カリウムは、斯かるアルギン酸のカルボキシル基にカリウムイオンが結合して塩を形成したものである。
本発明において用いられるアルギン酸カリウムとしては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で測定した重量平均分子量が、60,000以下、好ましくは10,000〜60,000、より好ましくは20,000〜60,000、さらに好ましくは20,000〜50,000である低分子アルギン酸カリウムである。特に、本発明の食後GIP分泌抑制剤を経口用液体製剤の形態で用いる場合には、製造面、及び飲用時の喉ごし、ぬるつき、嚥下のしやすさなどから、その粘度が低い方が好ましく、斯かる場合には、重量平均分子量が10,000〜50,000の低粘度のアルギン酸カリウムを用いるのが好ましく、10,000〜40,000のアルギン酸カリウムを用いるのがより好ましく、10,000〜30,000のアルギン酸カリウムを用いるのがさらに好ましい。
【0010】
本発明のアルギン酸カリウムは、加圧加熱分解(特開平6-7093号公報)、または酵素分解(特開平2-303468号公報、特開平3-94675号公報、特開平4-169189号公報、特開平6-245767号公報、特開平6-217774号公報)などの方法により製造することができる。すなわち、例えば、原料となる高分子量アルギン酸カリウムや高分子量アルギン酸を、加圧加熱分解、常圧加熱分解、酵素分解等によって所望の分子量に低分子化し、必要に応じて中和、脱水、凍結乾燥することにより得ることができる。分子量の調整は、例えば、加熱分解では、反応pH、反応温度、反応時間等を制御することにより行うことができる。
【0011】
斯くして得られる本発明のアルギン酸カリウムは、後記実施例に示すように、糖質、脂質、蛋白質を同時摂取した後の血中GIPが少ないというGIP分泌抑制効果を有し、しかもその効果は、アルギン酸ナトリウムと比較してGIP分泌量が約半分と遥かに優れている。
従って、本発明のアルギン酸カリウムは、食後のGIPを減少させ、消化吸収を促進させるなどの効果を発揮し得る、より有用な食後GIP分泌抑制剤となり得、食後GIP分泌抑制剤を製造するために使用することができる。
【0012】
本発明の食後GIP分泌抑制剤は、食品や医薬品等としてアルギン酸カリウムを単体でヒト及び動物に投与できる他、各種食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、胃酸分泌抑制、消化促進、胃もたれ改善等の改善のために用いられるものである旨の表示を付した美容食品、病者用食品、特定保健用食品等の食品に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0013】
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のアルギン酸カリウムに、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0014】
上記各製剤中に配合されるべきアルギン酸カリウムの配合量は、通常0.01−100重量%、好ましくは0.1−80重量%とすることができるが、固形製剤とする場合には、1−50重量%とするのがより好ましく、液体製剤とする場合には、0.1−20重量%とするのがより好ましい。
【0015】
本発明の食後GIP分泌抑制剤又は食品の投与量(有効摂取量)は、アルギン酸カリウムとして、一日当り0.001g/kg体重以上とするのが好ましい。特に、0.01−1.0g/kg体重とするのがより好ましい。
【実施例】
【0016】
製造例(1)重量平均分子量1.8万程度のアルギン酸カリウムの調製
アルギン酸K(キミカアルギン K-ULV Lot.6K17001:株式会社キミカ)を2%溶液に調整し、塩酸を加えてpH4に調整し、120℃、25分間加圧加熱分解した。その後、水酸化カリウムを加えてpH7になるように中和した。そして、80%エタノール溶液になるように、エタノールを加えて沈殿させた。その後、遠心分離(3000rpm, 10min)により、沈殿物を回収後、乾燥して調製した。後述の方法にて重量平均分子量の計測を行ったところ、17,951であった。
【0017】
製造例(2)重量平均分子量5万程度のアルギン酸カリウムの調製
アルギン酸(ダックアシッドA Lot.X-2702:株式会社紀文フードケミファ)を5%溶液に調整し、100℃、45分間加熱分解した。その後、水酸化カリウムを加えてpH7になるように中和した。その後、80%エタノール溶液になるように、エタノールを加えて沈殿させた。その後、遠心分離(3000rpm, 10min)により、沈殿物を回収後、乾燥して調製した。後述の方法にて重量平均分子量の計測を行ったところ、52,163であった。
【0018】
製造例(3)重量平均分子量2.5万程度のアルギン酸カリウムの調製
アルギン酸(ダックアシッドA、Lot.X-2702:株式会社紀文フードケミファ)を5%溶液に調整し、100℃、120分間加熱分解した。その後、水酸化カリウムを加えてpH7になるように中和した。その後、80%エタノール溶液になるように、エタノールを加えて沈殿させた。その後、遠心分離(3000rpm, 10min)により、沈殿物を回収後、乾燥して調製した。後述の方法にて重量平均分子量の計測を行ったところ、25,801であった。
【0019】
製造例(4)重量平均分子量1.2万程度のアルギン酸カリウムの調製
アルギン酸(ダックアシッドA、Lot.X-2702:株式会社紀文フードケミファ)を5%溶液に調整し、100℃、120分間加熱分解した。その後、水酸化カリウムを加えてpH4に調整し、100℃、540分間加熱分解をした。その後、水酸化カリウムを加えてpH7になるように中和した。その後、80%エタノール溶液になるように、エタノールを加えて沈殿させた。その後、遠心分離(3000rpm, 10min)により、沈殿物を回収後、乾燥して調製した。後述の方法にて重量平均分子量の計測を行ったところ、12,471であった。
【0020】
アルギン酸の平均分子量の測定(重量平均分子量測定法)
アルギン酸の重量平均分子量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定する。
アルギン酸(塩)を0.1g取り、蒸留水で0.1%溶液になるように定容して得られたものをHPLC用分析試料とする。
HPLC操作条件は以下の通りである。分子量算出用の検量線には、標準プルラン(昭和電工(株)製 Shodex STANDARD P-82)を用いる。HPLC用分析試料をHPLCに100μL注入し、得られたクロマトチャートより、試料中のアルギン酸の重量平均分子量を算出する。
<HPLC操作条件>
カラム:(1)Super AW-L(ガードカラム):東ソー(株)製
(2)TSK-GEL Super AW4000(GPC用カラム):排除限界分子量4×10
5PEO/DMF、長さ15cm,内径6mm、東ソー(株)製
(3)TSK-GEL Super AW2500(GPC用カラム):排除限界分子量2×10
3PEO/DMF、長さ15cm,内径6mm、東ソー(株)製
上記カラムはAW-L,AW4000,AW2500の順で連結する。
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
移動相:0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.6mL/min
注入量:100μL
【0021】
試験例1 アルギン酸カリウムのGIP上昇抑制効果(1)
1-1 試験試料
アルギン酸カリウム(アルギン酸K)として、重量平均分子量59,474(Lot.6K17001:株式会社キミカ)と平均分子量17,951の試料を用いた。比較対照のアルギン酸ナトリウム(アルギン酸Na)として平均分子量58,000(Lot.5N162:株式会社キミカ)の試料を用いた。
【0022】
1-2 試験動物
10週齢の雄性マウスC57BL/6J Jcl(日本クレア)を用いた。各群N=4とした。
【0023】
1-3 経口投与サンプルの調製と投与量
グルコース(関東化学製)とトリオレイン(Glyceryl trioleate: Sigma製)をレシチン(卵製)(和光純薬)とアルブミン(ウシ血清由来)(Sigma製)を用いて乳化し、乳液を調製した。この乳液に、上述の試験試料を添加し、最終濃度が試験試料5(w/w)%、グルコース5(w/w)%、トリオレイン5(w/w)%、乳化剤(レシチン0.2(w/w)%、アルブミン1.0(w/w)%)となるよう、経口投与試験サンプルを調製した。なお、経口投与コントロールサンプルは、経口投与試験サンプルから試験試料を除いたものを経口投与試験サンプルと同様な方法により調製した。動物に投与された各成分の量は下表のとおりである。
【0024】
【表1】
【0025】
1-4 経口投与試験
一晩絶食させたマウスをジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈よりヘパリン処理ヘマトクリット毛細管(VITREX製)を用い、初期採血を行った。その後、経口投与サンプルを経口ゾンデ針にて経口投与し、10分、30分、1時間、2時間後にジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈より採血を行った。
ヘパリン処理ヘマトクリット毛細管で採取した血液は血漿分離まで氷冷下で保存後、11000rpmにて5分間遠心し、血漿を得た。得られた血漿からRat/Mouse GIP(Total)ELISA キット (Linco Research/Millipore co.製、ELISA法)を用いて血中GIP濃度を測定した。
【0026】
1-3 結果
サンプル経口投与後の2時間後までの血中GIP値について、最大値(10分)と初期値の差(Δ値)を算出し、表2に示した。
なお、群間の統計学的有意差については、分散分析によって有意性(P<0.05)が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni/Dunn法)により、アルギン酸Na(平均分子量:58,000)投与群に対するアルギン酸K(平均分子量:59,474)投与群とアルギン酸K(平均分子量:17,951)投与群の間での検定を行ない、有意水準5%未満の場合にはP値、5%以上の場合にはN.S.(Non-Significant)を表記した。
【0027】
【表2】
【0028】
この結果から、アルギン酸K(平均分子量:59,474)及びアルギン酸K(平均分子量:17,951)の最大GIP値は、いずれもアルギン酸Na(平均分子量:58,000)に比べて低く、アルギン酸Kはアルギン酸Naに比べて遙かに食後GIP分泌抑制効果にすぐれることがわかった。
【0029】
試験例2 アルギン酸カリウムのGIP上昇抑制効果(2)
2-1 試験試料
アルギン酸カリウム(アルギン酸K)として、平均分子量12,471、25,801、52,163の試料を用いた。
【0030】
2-2 試験動物
10〜11週齢の雄性マウスC57BL/6J Jcl(日本クレア)を用いた。各群N=6とした。
【0031】
2-3 経口投与サンプルの調製と投与量
トリオレイン(Glyceryl trioleate: Sigma製)をレシチン(卵製)(和光純薬)とアルブミン(ウシ血清由来)(Sigma製)を用いて乳化し、乳液を調製した。この乳液に、上述の試験試料を添加し、最終濃度が試験試料5(w/w)%、トリオレイン5(w/w)%、乳化剤(レシチン0.2(w/w)%、アルブミン1.0(w/w)%)となるよう、経口投与試験サンプルを調製した。なお、経口投与コントロールサンプルは、経口投与試験サンプルから試験試料を除いたものを経口投与試験サンプルと同様な方法により調製した。動物に投与された各成分の量は表3のとおりである。
【0032】
【表3】
【0033】
2-4 経口投与試験
一晩絶食させたマウスをジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈よりヘパリン処理ヘマトクリット毛細管(VITREX製)を用い、初期採血を行った。その後、経口投与サンプルを経口ゾンデ針にて経口投与し、10分、30分、1時間、2時間後にジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈より採血を行った。
ヘパリン処理ヘマトクリット毛細管で採取した血液は血漿分離まで氷冷下で保存後、11000rpmにて5分間遠心し、血漿を得た。得られた血漿からRat/Mouse GIP(Total)ELISA キット (Linco Research/Millipore co.製、ELISA法)を用いて血中GIP濃度を測定した。
【0034】
2-5 結果
サンプル経口投与後の2時間後までの血中GIP値について、最大値(10分)と初期値の差(Δ値)を算出し、表4に示した。
なお、群間の統計学的有意差については、分散分析によって有意性(P<0.05)が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni/Dunn法)により、各投与群の間での検定を行ない、有意水準5%未満の場合にはP値、5%以上の場合にはN.S.(Non-Significant)を表記した。
【0035】
【表4】
【0036】
アルギン酸K(平均分子量:12,471)、アルギン酸K(平均分子量:25,801)及びアルギン酸K(平均分子量:52,163)の最大GIP値は、いずれもコントロール投与群に比べて低かった。また、アルギン酸K(平均分子量:52,163)とアルギン酸K(平均分子量:25,801)及びアルギン酸K(平均分子量:12,471)の間で最大GIP値に差はなく、いずれも食後GIP分泌抑制効果にすぐれることがわかった。
【0037】
試験例3 アルギン酸カリウム(分子量12,000〜60,000程度)の粘度
3-1 試験試料
アルギン酸カリウム(アルギン酸K)として、平均分子量12,471、25,801、59,474の試料を用いた。これらのアルギン酸Kは試験例1および試験例2で用いた試験試料と同一の試験試料である。
【0038】
3-2 粘度測定方法
試験試料の20(w/w)%水溶液を調製し、水溶液の70gを100mlビーカーに入れ、液温25±1℃で粘度を測定した。粘度計には、ハンディ粘度計PM-2B((株)マルコム製、測定範囲0.2〜19.99Pa・S)を用いた。
【0039】
3-3 結果
結果を表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
アルギン酸K(平均分子量:59,474)はアルギン酸Na(平均分子量:58,000)と同程度の粘性を示した。アルギン酸K(平均分子量25,801および12,471)の粘度はいずれもアルギン酸K(平均分子量59,474)に比べ、低かった。
アルギン酸Kなどの粘性のある水溶性食物繊維を用いて経口用液体製剤の形態にするには、粘度が低い方が製造面から都合がよい。また、飲用するときにおいても、喉ごしや、ぬるつき、嚥下のしやすさなどからも、粘度は低い方が好ましい。アルギン酸K(平均分子量25,801および12,471)は低粘度であり、かつ、良好な食後GIP分泌低減作用を有することから液体製剤として用いる場合に適している。