特許第5871457号(P5871457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871457
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】生体接着チューブ
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/00 20060101AFI20160216BHJP
   A61F 2/848 20130101ALI20160216BHJP
【FI】
   A61L31/00 B
   A61F2/848
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-212795(P2010-212795)
(22)【出願日】2010年9月22日
(65)【公開番号】特開2012-65825(P2012-65825A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森下 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】早場 亮一
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−245699(JP,A)
【文献】 特表2002−509010(JP,A)
【文献】 特開2008−125523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00
A61F 2/848
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性材料からなる管状の基台と、
生体適合性材料からなり、前記基台の外周面から突出して形成される複数の柱形状の突出部と、を有し、
前記複数の柱形状の突出部は、前記基台に対して同一方向に傾斜して形成されており、
前記複数の柱形状の突出部を生体組織に接触させることでファンデルワールス力により生体組織に接着される生体接着チューブ。
【請求項2】
前記突出部は、前記基台の面に1μmあたり1個以上形成され、長さが1μm〜500μm、最大外径が5nm〜1μmである、請求項1に記載の生体接着チューブ。
【請求項3】
前記基台および突出部の少なくとも一方は、生分解性高分子である、請求項1または請求項2に記載の生体接着チューブ。
【請求項4】
前記基台および突出部は生分解性高分子であり、前記基台は前記突出部よりも早く分解されて消滅する構成を有する、請求項3に記載の生体接着チューブ。
【請求項5】
前記生分解性高分子は、ポリ乳酸、ポリ乳酸ステレオコンプレックス、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリカプロラクトンからなる群から選択された1種以上である、請求項3または請求項記載の生体接着チューブ。
【請求項6】
前記基台は、多孔体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体接着チューブ。
【請求項7】
前記基台および突出部の少なくとも一方は、生理活性物質を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体接着チューブ。
【請求項8】
前記基台は、複数のスリットを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体接着チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織に接着されるシートに関し、特に、体腔内に接着可能な医療用のチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
体腔内で用いられる治療用デバイスとして、例えば血管内に留置される管状のステントが知られている(例えば、特許文献1参照)。ステントを使用する際には、通常、患者の脚や腕の血管に小さな切開を施してイントロデューサーシース(導入器)を設置し、イントロデューサーシースの内腔を通じて、ガイドワイヤーを先行させつつ縮径された状態のステントをバルーンカテーテル等により血管内に挿入させた後、目的の位置でバルーン等により拡張させて血管内に留置する。ステントは、血管内に留置されることで、血管の狭窄部を内側から支えたり、動脈瘤の入り口を塞いだりする。
【0003】
このようなステントは、血管内における留置状態を維持するために、拡張した状態で血管に対して径方向へ作用するラジアルフォースを及ぼす。
【0004】
また、ステントは、一旦留置されると、取り出されることなく血管内に存在し続けることになる。しかしながら、血管内に異物であるステントが存在すると、ステントが原因となって血栓が生じる可能性があるため、抗血栓療法として抗血小板薬を服用し続けなければならない。ステントに薬物を含ませた薬物溶出ステントも存在するが、薬物が溶出する期間は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−131672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、生体への影響を低減させて安全性を向上できる生体接着チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の生体接着チューブは、生体適合性材料からなる管状の基台と、生体適合性材料からなり、前記基台の外周面から突出して形成される複数の柱形状の突出部と、を有し、前記複数の柱形状の突出部は、前記基板に対して同一方向に傾斜して形成されており、前記複数の柱形状の突出部を生体組織に接触させることでファンデルワールス力により生体組織に接着される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る生体接着チューブは、筒状の基台の外周面に複数の突出部が形成されているため、体腔内の生体組織に接触させることでファンデルワールス力により接着させることができる。また、ファンデルワールス力により接着されるため、接着状態を保持するための他の構成が不要であり、生体に対してラジアルフォースを作用させる必要もないため、生体への影響を低減させて安全性を向上できる。
【0009】
前記突出部が、前記基台の面に1μmあたり1〜1000、好ましくは50〜100個以上形成され、長さが1〜500μm、好ましくは10〜50μm、最大外径が5nm〜1μm、好ましくは100nm〜500nmであれば、生体組織に対して良好な接着力を発揮できる。
【0010】
前記基台および突出部の少なくとも一方が、生分解性高分子であるようにすれば、接着された生体接着チューブが時間の経過とともに分解されてなくなるため、抗血小板薬の服用期間を低減することができる。
【0011】
前記基台および突出部が生分解性高分子であり、前記基台が前記突出部よりも早く分解されて消滅する構成を有するようにすれば、突出部による接着力を失う前に基台が分解されてなくなるため、基台が剥がれることを抑制できる。
【0012】
前記生分解性高分子が、ポリ乳酸、ポリ乳酸ステレオコンプレックス、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリカプロラクトンからなる群から選択された1種以上であれば、生体接着チューブが生体組織に接着された後、良好に分解される。
【0013】
前記基台が多孔体であるようにすれば、貼り付けられた生体組織の再生を促し、生体接着チューブが迅速に生体組織に覆われるようにすることができる。
【0014】
基台および突出部の少なくとも一方が、生理活性物質を含むようにすれば、接着された生体組織の治療を行ったり、適用部位の閉塞等を抑制することができる。
【0015】
前記基台が、複数のスリットを有するようにすれば、適用される体腔の内径に応じて、基台の径を拡大させて接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る生体接着チューブを示す斜視図である。
図2】実施形態に係る生体接着チューブの接着面の一部を示す部分拡大斜視図である。
図3】実施形態に係る生体接着チューブの接着面の一部を示す部分拡大断面図である。
図4】生体接着チューブの他の例を示す接着面の部分拡大断面図である。
図5】実施形態に係る生体接着チューブが接着される際を示す部分拡大断面図である。
図6】生体接着チューブの更に他の例を示す斜視図である。
図7】生体接着チューブの更に他の例を示す斜視図である。
図8図7に示す生体接着チューブを拡張させた際を示す斜視図である。
図9】チューブ接着用デバイスを示す平面図である。
図10図9の10−10線に沿う断面図である。
図11】チューブ接着用デバイスを血管に挿入した際を示す断面図である。
図12】チューブ接着用デバイスのホールド部により生体接着チューブを病変部に仮止めした際を示す断面図である。
図13】チューブ接着用デバイスのバルーンにより生体接着チューブを病変部に接着させた際を示す断面図である。
図14】チューブ接着用デバイスのホールド部を収縮させた際を示す断面図である。
図15】生体接着チューブを製造するための金型を示す部分拡大断面図である。
図16】金型に材料を流し込んだ際を示す部分拡大断面図である。
図17】生体接着チューブを金型から取り外す際を示す部分拡大断面図である。
図18】生体接着チューブの更に他の例を示す接着面の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
本発明の実施の形態に係る生体接着チューブ10は、生体組織Mの特に管腔の内壁面に接着される柔軟な医療用の管体であり、接着面に別途の接着剤を適用することなしに、気体中および液体中のいずれにおいても接着力を発揮するものである。貼り付けられる生体組織Mは、特に限定されないが、例えば血管、胆管、気管、食道、尿道等の管腔、鼻腔、肺の内部等の病変部等が挙げられる。用途の例として、脆弱化または欠損した血管や心臓等を補強もしくは補填するために病変部を覆うように貼り付けたり、動静脈瘤の入口を塞ぐために貼り付けたり、血管に形成された不安定プラーク(Vulnerable Plaque)内の脂質の血管内への流入を防止する目的で不安定プラークを覆うように貼り付けたりすることが挙げられる。
【0019】
生体接着チューブ10は、図1〜3に示すように、管状の基台12の外周面に、ナノオーダーの微細な突出部13が複数突出して形成されている。微細な突出部13が形成される接着面11(外周面)を生体組織Mに密着させて、反対面側から別途のデバイス等により押圧することで、微細な突出部13と生体組織Mの間のファンデルワールス力を利用して、別途の接着剤を使用することなしに、付着状態を維持することが可能である。すなわち、生体接着チューブ10は、微細な突出部13を複数設けて接着面11の表面積を増加させることで、接着対象に対する接着状態を維持できる大きさのファンデルワールス力を生じさせるものである。
【0020】
基台12の厚さBは、生体組織Mの適用部位や用途に応じて適宜設計されることが好ましいが、例えば3μm〜3000μmであり、より好ましくは、30μm〜300μmである。
【0021】
基台12の軸方向長さLは、特に限定されず、適用される生体組織Mの病変部の広さに応じて適宜変更されることが好ましいが、例えば5mm〜50mmである。
【0022】
基台12の外径Gは、特に限定されず、適用される生体組織Mの病変部の広さに応じて適宜変更されることが好ましいが、例えば1mm〜5mmである。
【0023】
基台12の軸方向長さLおよび外径Gは、例えば大きさの異なる複数の生体接着チューブ10を予め作製しておくことで選択的に変更可能としたり、または大きな生体接着チューブ10を任意の長さに切断することで、任意に変更可能とすることができる。
【0024】
突出部13は柱形状(本実施形態では円柱形状)で形成される。突出部13の最大外径Dは、5nm〜1μmであり、より好ましくは、0.1μm〜0.5μmである。突出部13の高さHは、1μm〜500μmであり、より好ましくは、10μm〜50μmである。突出部13のピッチPは、0μm〜1μmであり、より好ましくは、0.05μm〜 0.5μmである。なお、上記の最大外径とは、突出部13の延在方向(突出方向)と直交する断面における最も長い部位の長さを表し、必ずしも断面が円形でなくても用いられ得る。
【0025】
突出部13は、1μmあたり1個以上形成され、より好ましくは、1μmあたり50個以上形成される。突出部13が上記のような形状および寸法であれば、気体中および液体中のいずれにおいても、ファンデルワールス力によって接着力を発揮することが可能である。
【0026】
突出部13の配置パターンは、特に限定されず、本実施形態では規則的に配置されるが、不規則に配置されてもよい。
【0027】
突出部13は、本実施形態では基台12から垂直に延びて形成されるが、図4に示す他の例のように、基台12に対して傾斜して形成されてもよい。傾斜角度Xは、0度〜60度とすることができ、好ましくは0度〜30度である。
【0028】
また、全ての突出部13がかならずしも同一方向に延びて形成されなくてもよく、例えば基台12の接着面11の部位に応じて、突出部13が異なる方向へ傾斜してもよい。
【0029】
複数の突出部13が同一方向(同一傾斜角度)に延びている場合、生体組織Mに接着させた際に、図5に示すように、突出部13が一方向に並びやすいため、基台12の一方の端から一方向(図5中の矢印参照)に引っ張ることで、容易に剥がすことが可能となる。特に、本実施形態に係る生体接着チューブ10は、別途の接着剤を用いずに貼り付けられるため、剥がした後に再び張り直すことが可能である。また、前述したように突出部13を傾斜させて同一方向へ延びるように設けることで(図4参照)、貼り付けた際に突出部13を同一方向へより並びやすくすることができ、より剥がしやすくすることができる。
【0030】
また、突出部13が、基台12の接着面11の部位に応じて異なる方向へ傾斜している場合には、接着させた際に、突出部13が部位によって異なる方向に傾斜するため、剥がれ難くなり、不用意に剥がれることが望ましくない部位や、不規則に力が作用する部位に適用する際に有効である。
【0031】
また、突出部13は、円柱形状に限定されず、例えば断面が多角形の柱形状であってもよい。また、突出部13は、基台12と連結される基端部から先端部までが、かならずしも同一断面でなくてもよく、例えば、先端部の断面を基端部よりも大きくしたり、または小さくすることもできる。
【0032】
そして、基台12および突出部13は、いずれも生体適合性材料により形成されており、望ましくは、少なくとも一方が生分解性高分子により形成されている。また、基台12および突出部13の少なくとも一方に、免疫抑制剤や抗がん剤等の生理活性物質が含まれてもよい。
【0033】
上記生分解性高分子としては、例えば、生体安定性が高いものが好ましく、例えばポリ乳酸、ポリ乳酸ステレオコンプレックス、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−アミノ酸、コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ポリカプロラクトンからなる群から選択された少なくとも1種のものであることが好ましく、生体内で分解することを考慮すると医学的に安全なものが好ましい。その中で最も好ましいものとして、ポリ乳酸が最適に用いられる。
【0034】
上記生体適合性材料は、生体適合性を有するものであれば、特に限定されるものではない。上述した生分解性高分子を除く生体適合性材料としては、例えば、テフロン(登録商標)、ポリウレタン、シリコーン等が挙げられる。
【0035】
上記生理活性物質は、生体組織Mに対して作用する物質であれば特に限定されない。特に、生体接着チューブ10を管腔内に留置するために使用する場合には、再狭窄を抑制する効果があるものであることが好ましく、例えば抗がん剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−Co還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質等が挙げられる。
【0036】
前記抗癌剤としては、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート等が好ましい。
【0037】
前記免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ABT−578、AP23573、CCI−779等のシロリムス誘導体、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。
【0038】
前記抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
【0039】
前記抗リウマチ剤としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット等が好ましい。
【0040】
前記抗血栓薬としては、例えば、へパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0041】
前記HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等が好ましい。
【0042】
前記ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。
【0043】
前記カルシウム拮抗剤としては、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0044】
前記抗高脂血症剤としては、例えば、プロブコールが好ましい。
【0045】
前記インテグリン阻害薬としては、例えば、AJM300が好ましい。
【0046】
前記抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。
【0047】
前記抗酸化剤としては、例えば、α−トコフェロールが好ましい。
【0048】
前記GPIIbIIIa拮抗薬としては、例えば、アブシキシマブが好ましい。
【0049】
前記レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0050】
前記フラボノイドとしては、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジンが好ましい。
【0051】
前記カロチノイドとしては、例えば、β―カロチン、リコピンが好ましい。
【0052】
前記脂質改善薬としては、例えば、エイコサペンタエン酸が好ましい。
【0053】
前記DNA合成阻害剤としては、例えば、5−FUが好ましい。
【0054】
前記チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン、スタウロスポリン等が好ましい。
【0055】
前記抗血小板薬としては、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルが好ましい。
【0056】
前記抗炎症薬としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
【0057】
前記生体由来材料としては、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等が好ましい。
【0058】
前記インターフェロンとしては、例えば、インターフェロン−γ1aが好ましい。
【0059】
前記NO産生促進物質としては、例えば、L−アルギニンが好ましい。
【0060】
なお、生理活性物質を一種類の生理活性物質にするか、または二種類以上の異なる生理活性物質を組み合わせるかについては、症例に合わせて適宜選択されるべきものである。
【0061】
本実施形態に係る生体接着チューブ10は、上述のように、複数の突出部13を生体に接触させることでファンデルワールス力により接着されるため、接着状態を保持するための他の構成が不要であり、生体への影響を低減させて安全性を向上できる。特に、管腔内における通常は強度支持材料であるステントが必要となるような治療において、管の健全な部位への影響を低減できる。すなわち、管腔内にステントを用いると、管腔はステントから径方向のラジアルフォースを受けるが、生体接着チューブ10を用いれば、ラジアルフォースを利用することなしに接着面11自体の接着力で接着できるため、管腔への影響を極力低減できる。
【0062】
なお、貼り付けられた生体接着チューブ10は、貼り付けられる部位にもよるが、例えば血管の内壁に接着された場合、時間の経過とともに、生体組織Mにより覆われて埋没することになる。
【0063】
また、基台12および突出部13を生分解性高分子により作製することで、接着された生体接着チューブ10が時間の経過とともに分解されて消滅するため、例えば血管の内壁に接着された場合に、異物の存在による血栓の発生を抑えるための抗血小板薬の服用期間を短縮させることができる。
【0064】
また、基台12および突出部13を生分解性高分子とし、基台12が突出部13よりも早く分解されて消滅する構成とすれば、突出部13が分解されて消滅することで接着力を失う前に、基台12が剥がれることを抑制できる。このように、基台12を突出部13よりも早く分解させるには、例えば基台12と突出部13で分解時間の異なる生分解性高分子を適用することで実現でき、例えば突出部13をポリカクロラクトンおよびその誘導体により形成し、基台12をポリ乳酸およびその誘導体により形成することができる。
【0065】
また、図6に示す生体接着チューブの他の例のように、基台12に貫通孔14を多数形成し、基台12を多孔体とすることで、生体組織Mに貼り付けた後にも貫通孔14から栄養分が生体組織Mに供給されて生体組織Mの再生が促進され、生体接着チューブ10がより迅速に生体組織Mに覆われるようにすることができる。基台12に形成される貫通孔14の最大外径は、0.1μm〜100μmであり、より望ましくは、0.5μm〜20μmである。
【0066】
また、基台12および突出部13の少なくとも一方が、生理活性物質を含むことで、適用された病変部の治療を行ったり、または体腔内に設置された場合の適用部位の閉塞等を抑制することができる。
【0067】
また、図7に示す生体接着チューブの更に他の例のように、基台12に、軸方向へ延びる複数のスリット17を形成し、図8に示すように、径方向へ変形しつつ拡張可能とすることもできる。スリット17は、予め貫通して形成されるか、または内側からの押し広げる圧力によって初めて貫通する程度の深さの溝で形成されてもよい。また、スリット17には、拡張させる前の形状を保持するために部分的に切り離されていない部位が各々のスリット17の途中に形成されてもよく、この場合、内側からの押し広げる圧力によって切り離されてスリット17が広がる構成となる。
【0068】
次に、本実施形態に係る生体接着チューブ10を、血管の欠損等である病変部Aまで搬送して貼り付けるためのチューブ接着用デバイス20について説明する。
【0069】
チューブ接着用デバイス20は、図9,10に示すように、内部にガイドワイヤルーメンL1が形成される長尺な内側チューブ21と、内側チューブ21の外側に配置される外側チューブ22と、外側チューブ22の基端に設けられるハブ23と、外側チューブ22の先端部に設けられて自己拡張可能な環状のホールド部24と、ホールド部24の内部に設けられた拡張可能なバルーン25と、外側チューブ22およびホールド部24の外側を覆う外シース26と、を有している。
【0070】
外側チューブ22と内側チューブ21の間には、バルーン25を拡張・収縮させるために流体が流通可能な媒体用ルーメンL2が、バルーン25の内部と流体密に連通して形成されている。
【0071】
バルーン25は、拡張しない状態では、内側チューブ21の外周に収縮または折り畳まれているが、媒体用ルーメンL2を介して外部の流体供給装置27からバルーン25内へ膨張用流体が注入されることで、拡張する構造となっている。
【0072】
内側チューブ21および外側チューブ22の構成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、一般的なプラスチックである熱可塑性樹脂や、ゴムなどの熱硬化性樹脂または熱架橋性樹脂を用いる事ができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステルやそれらをハードセグメントとしたポリエステルエラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンおよびポリオレフィンエラストマー、メタロセン触媒を用いた共重合体ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、PVDC、PVDFなどのビニル系ポリマー、ナイロンを含むポリアミドおよびポリアミドエラストマー(PAE)、ポリイミド、ポリスチレン、SEBS樹脂、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン(POM)、ポリビニルアルコール(PVA)、フッ素樹脂(ETFE、PFA、PTFE)、エチレン−酢酸ビニルケン化物、エチレン−コポリ−ビニルアルコール、エチレンビニルアセテーテート、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテート、ビニルポリスルホン、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などの各種熱可塑性樹脂やその高分子誘導体のほか、加硫ゴム、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、二液反応性ポリウレタン樹脂などの熱硬化または架橋性樹脂が挙げられる。さらに、上記の熱可塑性樹脂及び熱硬化・架橋性樹脂のうちいずれかを含むポリマーアロイも利用可能であり、成形材料として溶媒に樹脂を溶解した樹脂溶液を用いてもよい。この外側チューブ22の外径は0.5〜5mm、好ましくは1〜3 mmである。
【0073】
バルーン25の構成材料としては、例えばポリエチレン及びイオノマーと、低分子ポリスチレン及び任意にポリプロピレンと混合されたエチレン−ブチレン−スチレン・ブロック・コポリマー(Ethylene−butylene−styrene block copolymers)、前記のポリマーのエチレン及びブチレンをブタジエンまたはイソプレンと置換した類似する混合材、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、(コ)ポリエステル、ポリアミド及びポリアミドエラストマー、熱可塑性ゴム、シリコンポリカーボネート・コポリマー、エチレンビニル・アセテート・コポリマー等が使用できる。バルーン25の寸法は、使用する部位にも依存し、特に限定されないが、拡張時に、0.5〜50mm、好ましくは1〜5mm程度となることが好ましい。
【0074】
外シース26は、外側チューブ22および収縮した状態のホールド部24を内部に収容可能な構造を備えている。外シース26は、ホールド部24に保持された生体接着チューブ10が張り付かないよう、ファンデルワールス力が小さくファンデルワールス力によって接着し難い材料により形成されており、例えばPTFE製である。この外シース26の外径は1〜10mm、好ましくは2〜4mmである。
【0075】
ホールド部24は、網目状の弾性材料を筒状に形成し、弾性的に収縮して外シース26内に収まり、外シース26が後退することで外シース26の拘束が開放されて弾性的に自己拡張可能となっている。なお、ホールド部24の構造は、かならずしも網目状でなくてもよく、自己拡張可能であり、かつ生体接着チューブ10を保持できれば、特に限定されない。ホールド部24の材料は、弾性的に収縮、拡張可能であれば特に限定されないが、例えばステンレスや超弾性合金(例えば、Ni−Ti合金)等により形成される。
【0076】
次に、前述したチューブ接着用デバイス20により、生体接着チューブ10を血管内に搬送して病変部Aに接着させる手順を説明する。
【0077】
まず、縮径させたホールド部24の外周面に、生体接着チューブ10を接着面11を外側にして配置させた後、ホールド部24を外シース26内に収容し、ホールド部24と外シース26の間に生体接着チューブ10を格納する。このとき、生体接着チューブ10は、折り畳まれる等して実際の径よりも小さくなっている。また、生体接着チューブ10は、ホールド部24の網目の隙間に一部が挟まる等して、ホールド部24に保持されていることが好ましい。または、生体接着チューブ10が、微弱な接着力の接着剤により、ホールド部24の外周面に接着されてもよい。生体接着チューブ10の接着面11は、外シース26の内側面に接するが、外シース26はPTFE製であり、生体接着チューブ10の接着面11は接着されない。
【0078】
次に、患者の脚や腕の血管に小さな切開を施してイントロデューサーシースを設置し、イントロデューサーシースの内腔を通じて、X線監視下のもと、ガイドワイヤーWを目的位置まで先行させる。そして、ガイドワイヤーWをチューブ接着用デバイス20のガイドワイヤルーメンL1内に挿通し、チューブ接着用デバイス20をガイドワイヤーWに沿って移動させる。このとき、生体接着チューブ10はホールド部24と外シース26の間に収容されたまま搬送される。そして、図11に示すように、ホールド部24に保持された生体接着チューブ10が、血管の病変部Aの近傍まで搬送された後、チューブ接着用デバイス20の挿入を停止させる。この後、図12に示すように、ホールド部24に保持された生体接着チューブ10が血管内に露出するまで、外シース26を手元側から牽引して後退させる。これにより、外シース26の拘束から開放されたホールド部24が自己拡張機能により拡張し、ホールド部24の外周面に保持された生体接着チューブ10が血管の病変部Aを覆うように仮止めされる。この後、流体供給装置27(図9参照)から媒体用ルーメンL2を介してバルーン25内へ膨張用流体を注入し、図13に示すように、バルーン25を拡張させる。これにより、ホールド部24によって接着面11が病変部Aへ接するように配置された生体接着チューブ10が、ホールド部24よりも強い押圧力によって押し付けられて、病変部Aを覆うようにしてファンデルワールス力によって血管壁に接着される。なお、ステントを血管内に留置する場合、バルーン内の圧力は一般的に8〜10atm程度となるが、本実施形態に係る生体接着チューブ10を接着させるには1〜2atm程度の圧力で接着可能であり、血管の過拡張を抑制できる。
【0079】
次に、流体供給装置27により媒体用ルーメンL2を介してバルーン25内から膨張用流体を排出してバルーン25を収縮させた後、図14に示すように、外シース26を前進させてホールド部24を縮径させつつ外シース26内に収容する。この後、チューブ接着用デバイス20を血管内から抜去し、手技が完了する。
【0080】
本実施形態のチューブ接着用デバイス20によれば、生体接着チューブ10を外周面に保持した拡大収縮が可能なホールド部24を、収縮させた状態で外シース26内に収容しているため、目的位置まで生体接着チューブ10を容易に搬送することができる。更に、外シース26を軸方向へ移動させることで、ホールド部24が自己拡張機能により拡張するため、ホールド部24の外周面に保持された生体接着チューブ10をデバイスの手元側の操作で容易に生体に貼り付けることができる。また、バルーン25が設けられているため、手元側の操作で生体接着チューブ10をより確実に生体に接着させることができる。
【0081】
また、バルーン25が、ホールド部24の内部で拡大収縮が可能であるため、ホールド部24により生体接着チューブ10を生体組織Mに仮止めした状態のまま、バルーン25により押圧して確実に生体組織Mに接着させることができる。なお、バルーン25は、かならずしもホールド部24の内部で拡大収縮可能でなくてもよく、例えば、ホールド部の内部にバルーンを軸方向へ進退動可能に配置して、バルーンをホールド部よりも先端側に移動させて外シースから露出させた状態で、拡大収縮可能とすることもできる。また、ホールド部24のみで生体接着チューブ10を生体組織Mに強固に接着可能であれば、バルーン25を設けずにホールド部24のみの構成でもよい。また、ホールド部24を設けずに、バルーン25のみで搬送しつつ接着させることも可能である。また、本実施形態では、ホールド部24には1つの生体接着チューブ10のみを配置しているが、ホールド部24の外周面に軸方向に並ぶように複数の生体接着チューブ10を設置し、外シース26により1つずつ血管内に露出させることで、複数の生体接着チューブ10を血管内の複数の病変部Aに順次留置することもできる。
【0082】
次に、生体接着チューブ10の製造方法の一例について説明する。
【0083】
まず、シリコンウェーハ上に支持したポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)に、電子線リソグラフィによって数100nmオーダーの孔状の微細パターン31を形成して、金型30を作製する(図15参照)。微細パターン31の形状は、作製する生体接着チューブ10の接着面11の突出部13を転写した形状に一致するように決定される。
【0084】
次に、基台12および突出部13の材料として上記した生分解性高分子(または生体適合性材料)を、0.01〜10重量%となるように溶媒に溶かしてゾル相とする。溶媒には、クロロホルム等を適用できる。
【0085】
次に、金型30の微細パターン31が形成された面を上方へ向けて水平とし、図16に示すように、ゾル相となった材料Zを当該金型30に流し込み、材料を微細パターン31に入り込ませ、さらに基台12の厚さBに対応する厚さ分流し込む。この後、金型30を室温〜40度に加熱して、溶媒を揮発させ材料Zを凝固させる。なお、基台12および突出部13で異なる材料を適用する場合には、ゾル相となった材料を金型30に流し込み、材料Zを微細パターン31に入り込ませた後、異なる材料を溶媒に溶かして所定厚さ分流し込むことで製造可能である。また、材料が熱可塑性の場合には、加熱して溶融させた後に金型30に流し込み、冷却して凝固させる。
【0086】
材料Zが凝固した後、図17に示すように、凝固して形成された平板状のシートSを金型30から取り外す。この後、シートSを、所定の大きさに切断した後に、突出部13が外側となるように管状に湾曲させ、重なる部位を圧着や生分解性高分子(または生体適合性材料)からなる接着剤により接合することで、基台12の外周面に複数の突出部13が形成された生体接着チューブ10が得られる。
【0087】
なお、数100nmオーダーのパターンの加工には、前述の方法だけでなく、例えばナノインプリント、ソフトリソグラフィ、微細なバイト(例えばダイヤモンドバイト)を用いた形削り等も適用可能であり、生体接着チューブ10の形状、寸法、材料等の条件に応じて、適宜選択することが好ましい。
【0088】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、突起部の形状は、ファンデルワールス力により接着可能であれば、上記の形態に限定されず、図18のように、基台12上に形成される複数の凸部15の各々から、複数の突出部16が突出して形成される形態であってもよい。また、突出部を、円錐形状や角錐形状とすることもでき、角錐形状であれば、微細なバイトによって縦横に溝を形成することで容易に作製できる。
【0089】
また、突出部を生体接着チューブ10の内側面、または両側面に形成することもできる。
【符号の説明】
【0090】
10 生体接着チューブ、
11 接着面、
12 基台、
13,16 突出部、
14 貫通孔、
B 基台の厚さ、
D 突出部の最大外径、
H 突出部の高さ。
図1
図2
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