【実施例】
【0014】
以下、本発明を適用した車両用出力制御装置の実施例について説明する。
実施例において、車両は例えば、スロットルで出力調整を行なうガソリンエンジンを搭載した乗用車等の自動車である。
この車両は、図示しない液圧式のブレーキ装置を備えている。
このブレーキ装置は、ブレーキペダル、マスタシリンダ、ブースタ等を備えている。
ブレーキペダルは、ドライバが下肢で踏み込むことによってブレーキ操作を行なう操作部である。
マスタシリンダは、ブレーキペダルとリンク類で連結され、ブレーキ液圧を発生させるものである。
ブースタは、例えばエンジンの吸気管負圧や、負圧ポンプ等が発生する負圧を利用して、マスタシリンダが発生させたブレーキ液圧を増大させる真空倍力装置である。
ブースタにおいて増大されたブレーキ液圧は、各車輪に設けられたホイルシリンダに供給される。ホイルシリンダは、車輪とともに回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧することによって、制動力を発生させる。
また、ブースタと各ホイルシリンダとの間には、後述する挙動制御装置のハイドロリックコントロールユニットが設けられている。
【0015】
図1は、実施例の車両用出力制御装置の構成を示す模式的ブロック図である。
出力制御装置1は、エンジン制御ユニット10、アクセルペダルセンサ20、挙動制御装置30、ブレーキスイッチ40等を備えて構成されている。
【0016】
エンジン制御ユニット(ECU)10は、図示しないエンジン及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット10は、CPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット10には、エンジンの吸気管路に設けられたスロットルバルブを開閉するスロットルアクチュエータ11が接続されている。
エンジン制御ユニット10は、スロットルアクチュエータ11を制御することによって、エンジンの出力を調節する。
【0017】
アクセルペダルセンサ20は、ドライバが下肢で踏み込むことによってアクセル操作を行なう図示しないアクセルペダルの操作量(踏込量)を検出し、エンジン制御ユニット10に伝達するものである。
エンジン制御ユニット10は、通常の運転時においては、アクセルペダルの踏込量に基づいて目標スロットル開度を設定し、スロットルアクチュエータ11を制御する。
【0018】
挙動制御装置30は、例えば車両にアンダーステアやオーバーステア等の挙動が発生した場合に、各ホイルシリンダに供給されるブレーキ液圧を個別に制御して左右輪の制動力差を生じさせ、挙動を抑制する方向のヨーモーメントを発生させるものである。
挙動制御装置30は、このような各車輪のブレーキ液圧を個別に調節可能なハイドロリックコントロールユニット(HCU)を備えている。
HCUは、フルードを加圧するポンプ、及び、各ホイルシリンダ液圧を調節するソレノイドバルブ等をユニット化して構成されている。
このHCUには、ブースタからのブレーキ液圧を検出する液圧センサが設けられ、液圧センサの検出値はエンジン制御ユニット10に伝達される。
また、挙動制御装置30は、各車輪の車輪速を検出する車速センサが接続されている。
この車速センサが検出した車速信号もエンジン制御ユニット10に伝達される。
【0019】
ブレーキスイッチ40は、ブレーキペダルに設けられ、ブレーキペダルが踏み込まれた場合にオンされるスイッチである。
ブレーキスイッチ40の出力は、エンジン制御ユニット10に伝達される。
【0020】
上述した出力制御装置1は、アクセル操作及びブレーキ操作が同時に行なわれ、かつ所定の条件が充足された場合に、アクセル操作に関わらずエンジンの出力を抑制する出力抑制制御を実行する。
図2は、
図1の車両用出力制御装置におけるアクセル・ブレーキ両踏時の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0021】
<ステップS01:アクセル操作量・車速判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力に基づいてアクセルペダルの踏込量(アクセル操作量)を検出し、これを所定のアクセル閾値と比較する。
また、挙動制御装置30から取得した車速を、所定の車速閾値と比較する。
そして、アクセル操作量がアクセル閾値以上でありかつ車速が車速閾値以上である場合は、ステップS02に進む。
一方、その他の場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0022】
<ステップS02:ブレーキスイッチ判断>
エンジン制御ユニット10は、ブレーキスイッチ40の状態を確認し、ブレーキスイッチ40がオンである場合は、ステップS03に進む。
一方、ブレーキスイッチ40がオフである場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0023】
<ステップS03:スロットル開度検出>
エンジン制御ユニット10は、スロットルアクチュエータ11への制御指令値に基づいて、スロットルバルブの開度を検出する。
その後、ステップS04に進む。
【0024】
<ステップS04:ブレーキ液圧検出>
エンジン制御ユニット10は、挙動制御装置30から、ブレーキ液圧を取得する。
その後、ステップS05に進む。
【0025】
<ステップS05:ブースタ負圧推定>
エンジン制御ユニット10は、ステップS03において検出したスロットル開度、及び、ステップS04において取得したブレーキ液圧を用いて、ブレーキブースタの負圧室内の圧力(ブースタ負圧)を推定する。
ブースタ負圧の推定は、大気圧に基づいて設定されるイニシャル設定値を基に、スロットル開度から求められるエンジンの負圧状況、ブレーキ液圧等を用いて補正を行なうことによって行なう。この補正は、実験から得られた特性を用いた算出式によって行なうことができる。
【0026】
<ステップS06:ブレーキ踏力推定>
エンジン制御ユニット10は、ステップS04で取得したブレーキ液圧、及び、ステップS05で推定したブースタ負圧を用いて、ドライバによるブレーキペダルへの操作力であるブレーキ踏力の推定を行なう。
図3は、ブレーキ踏力とブレーキ液圧との相関を示すグラフである。
図3において、横軸はブレーキ液圧を示し、縦軸はブレーキ踏力を示している。
図3に示すように、ブレーキ踏力とブレーキ液圧との相関はブースタ負圧によって異なり、ブレーキ液圧が同じであっても、ブースタ負圧によってブレーキ踏力は異なることがわかる。
エンジン制御ユニット10は、このようなブースタ負圧が異なる場合のブレーキ液圧とブレーキ踏力との相関をデータベース化して保持し、このデータベースから現在のブレーキ液圧及びブースタ負圧に対応するブレーキ踏力を読み出すことによって、ブレーキ踏力の推定を行なう。
その後、ステップS07に進む。
【0027】
<ステップS07:推定ブレーキ踏力判断>
エンジン制御ユニット10は、ステップS06において推定したブレーキ踏力が所定のブレーキ閾値以上であるか否かを判断する。
このブレーキ閾値は、最初にブレーキ操作が行なわれ、続いてアクセル操作が行なわれた場合に用いられるB−Aブレーキ閾値、及び、最初にアクセル操作が行なわれ、続いてブレーキ操作が行なわれた場合に用いられるA−Bブレーキ閾値が設けられている。
A−Bブレーキ閾値は、B−Aブレーキ閾値よりも小さく設定される。
また、車両の走行速度が比較的低速である場合には、アクセルペダル及びブレーキペダルが意図的に同時に踏まれることが想定される場面(登坂走行における一時停止からの発進時など)があり、本実施例においては、車速が低くなるほど各ブレーキ閾値を高く設定することで、低速域において出力抑制制御が介入しにくいようにしている。
これによって、不要な出力抑制制御の介入を防止し、ドライバの意思を反映して車両の安全性を確保できる。
推定されたブレーキ踏力が該当するブレーキ閾値以上である場合は、ステップS08に進む。
一方、ブレーキ踏力がブレーキ閾値未満である場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
なお、本実施例においては、以上説明した構成によって、ブースタ負圧が変化した場合であっても、常にほぼ一定のブレーキ踏力(ペダル操作力)で制御介入することが可能となっている。
ここで、一定のブレーキ閾値に対応するブースタ負圧毎のブレーキ液圧を表1に示す。
【表1】
表1に示すように、ブレーキ閾値に対応するブレーキ液圧は、ブースタ負圧の増加に伴い増加することがわかる。
【0028】
<ステップ08:所定時間経過判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセル操作量がアクセル閾値以上であり、かつ推定されたブレーキ踏力がブレーキ閾値以上である状態の経過時間が、所定のディレイ時間(例えば2秒程度)以上である場合は、ステップS09に進み、所定時間未満である場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
なお、ディレイ時間は、アクセル操作量が大きくブースタ負圧に余裕がない場合には、短縮され、アクセル操作量が小さくブースタ負圧に余裕がある場合には延長されるように設定される。
また、推定されたブレーキ踏力が強い場合には、車両を停止させようとするドライバの意図がより強いものとみなせることから、ディレイ時間は、推定されたブレーキ踏力の増加に応じて短縮される。
【0029】
<ステップS09:エンジン出力抑制制御実行>
エンジン制御ユニット10は、ブレーキによる減速を優先するため、エンジンの出力を所定の制御継続時間にわたって抑制するエンジン出力抑制制御を実行する。
エンジン出力の抑制は、スロットルバルブの開度をアクセル操作量に関わらず所定の開度(例えばアイドリング時の開度)まで下げることによって行なう。
図4は、出力抑制制御開始時及び復帰時のアクセル開度の推移を模式的に示す図である。
図4(a)に示すように、出力抑制制御の開始時には、所定の時間をかけて徐々にスロットル開度を実アクセル開度(アクセル操作量に基づいて設定される通常運転時のスロットル開度)から、アイドル時スロットル開度まで変化させる。
また、
図4(b)に示すように、出力抑制制御からの復帰時には、所定の時間をかけて徐々にスロットル開度をアイドル時スロットル開度から実アクセル開度まで変化させる。
また、出力抑制制御中にブレーキ操作が終了した(ブレーキスイッチ40がオフとなった)場合にも制御は終了する。
さらに、所定量以上のアクセル操作(アクセルペダルの動き)を検出した場合にも、ドライバが意図的に(積極的に)アクセル、ブレーキの同時操作を行なっているものとして制御を終了する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0030】
なお、本実施例においては、ブレーキ踏力が弱いドライバや、ブースタ負圧に欠陥が生じた場合であっても、出力抑制制御を行なって車両の安全な停止を可能とするため、ブレーキ操作力がブレーキ閾値以上とならない場合であっても、ブレーキスイッチ40の継続時間をカウントし、一定のカウント時間以上でエンジン出力抑制制御が介入するバックアップ制御を設けている。
【0031】
以上説明したように、本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)アクセル操作量、ブレーキ操作力がともに所定の閾値以上である状態が、所定のディレイ時間以上継続した場合に、出力抑制制御を行うことによって、例えばヒールアンドトー操作や斜面での一時停止時などのように、一時的にアクセル操作、ブレーキ操作が同時に行なわれた場合に、ドライバの意図に反して出力抑制制御が行なわれることを防止することができる。
(2)ブレーキ操作に引き続いてアクセル操作が行なわれた場合には、ドライバによる意図的な操作である可能性が高いものとして、B−Aブレーキ閾値を高く設定することによって、ドライバの意図に反する制御の介入を防止できる。
一方、アクセル操作に引き続いてブレーキ操作が行なわれた場合には、例えばアクセル操作部が固着するなどのトラブルの可能性があるものとして、A−Bブレーキ閾値をB−Aブレーキ閾値に対して低く設定し、出力抑制制御が介入しやすくすることによって、安全性を確保することができる。
(3)出力抑制制御の実行を決定した場合において、推定されたブレーキ踏力が強い場合には、より車両を停止させようとするドライバの意図が強いものとして、出力抑制制御の介入タイミングを早めることによって、ドライバの意図を反映して車両の安全性を確保できる。
また、アクセル操作量が多い場合には、ブースタ負圧に余裕がないものとして、出力抑制制御の介入タイミングを早めることによって、車両の安全性を確保できる。
(4)ブレーキ操作力の推定を、ブレーキ液圧を用いて行なうことによって、挙動制御装置30に一般的に設けられる液圧センサを用いてブレーキ操作力を推定することができ、車両に新たなセンサ類を設ける必要がなく、装置の構成を簡素化することができる。
(5)ブースタ負圧を用いて、ブレーキ液圧に基づいて推定されるブレーキ操作力を補正することによって、ブレーキ操作力の推定精度を向上し、より適切な制御を行なうことができる。
【0032】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例においては、車両の走行用動力は例えばガソリンエンジンであったが、ディーゼルエンジンであってもよい。この場合、出力の抑制は燃料噴射量の低減などによって行なうことができる。また、走行用動力は、他種の内燃機関であってもよい。
また、走行用動力は、例えば電動モータや、エンジン−電動モータのハイブリッドシステムであってもよい。
(2)実施例においては、ブレーキブースタの負圧を推定により求めているが、負圧センサを設けて直接検出してもよい。
(3)ブレーキ操作力の推定は、ブレーキ液圧及びブースタ負圧を用いたものに限らず、他の手法を用いてもよい。例えば、車両の減速度等からブレーキ操作力を推定してもよい。また、ブレーキ操作部に操作力検出用のセンサを設けてもよい。