【文献】
藤森実,組換えビフィズス菌製剤を用いた乳癌の腫瘍選択的治療,日本臨牀,2008年 6月,第66巻6号,p. 1211-1218
【文献】
五十君靜信,S-1 遺伝子組換え技術による乳酸菌の新しい機能の開発,日本微生物資源学会誌,2008年 6月 1日,第24巻1号,p. 43
【文献】
松村裕世ら,乳酸菌用分泌発現ベクターの構築(第4報),第24回日本薬学会九州支部大会講演要旨集,2007年11月15日,p. 175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された、ラクトバチルス・カゼイ・KK378(受託番号:NITE BP−654)またはその形質転換菌である、偏性嫌気性乳酸菌。
ラクトバチルス・カゼイ・KK378の形質転換菌が、ラクトバチルス・カゼイ・KJ686(受託番号:NITE BP−615)である、請求項1または2に記載の偏性嫌気性乳酸菌。
ラクトバチルス・カゼイ・KK378(受託番号:NITE BP−654)で機能する発現ベクターであって、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)と、ラクトバチルス由来のs−layer遺伝子プロモーターおよびラクトバチルス由来のPrtP蛋白質分泌シグナルを含む分泌シグナル配列(PslpA−SSprtP)と、1種または2種以上の選択マーカー遺伝子とを含む、発現ベクター。
抗腫瘍活性を有する蛋白質(A)が、インターフェロン(IFN)−α、βおよびγ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−1α、1β、2、3、4、6、7、10、12、13、15および18、腫瘍壊死因子(TNF)−α、リンホトキシン(LT)−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、白血病阻止因子(LIF)、T細胞活性化共刺激因子B7(CD80)およびB7−2(CD86)、キット・リガンドならびにオンコスタチンMからなる群より選ばれる1種のサイトカイン、および/または、エンドスタチン、アンジオスタチン、クリングル−1、2、3、4および5からなる群より選ばれる1種の血管新生抑制物質である、請求項7に記載の発現ベクター。
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質(B)が、シトシンデアミナーゼ、β−グルクロニダーゼおよびニトロリダクターゼからなる群より選ばれる1種である、請求項7または8に記載の発現ベクター。
薬物耐性が、エリスロマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性およびカナマイシン耐性からなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項10に記載の発現ベクター。
好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化されたラクトバチルス・カゼイIGM393由来の偏性嫌気性乳酸菌の作製方法であって、通性嫌気性野生型乳酸菌ラクトバチルス・カゼイIGM393を変異化する工程(1)と、該変異化菌を、嫌気的条件下と好気性条件下で培養して嫌気性条件下でのみ生育する偏性嫌気性の変異化菌を選別する工程(2)とを含む、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法。
さらに、偏性嫌気性変異化菌を、1種または2種以上の選択マーカーを有する嫌気性菌由来の発現ベクターを用いて形質転換する工程(3)と、該形質転換菌を前記選択マーカーにより、前記発現ベクターによる形質転換がなされた形質転換菌を選別する工程(4)とを含む、請求項17に記載の偏性嫌気性乳酸菌の作製方法。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、糖を分解して乳酸を生産することによってエネルギーをつくる細菌の総称で、ラクトバチルス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ラクトコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌などが挙げられる。
一方、細菌は、生育における酸素要求性によって、生育に酸素を必要とする好気性菌と酸素を必要としない嫌気性菌(anaerobe)に大きく分けられ、さらに嫌気性菌は、酸素があると生育できない偏性嫌気性菌(obligatory anaerobe)と、酸素があってもなくても生育できる通性嫌気性菌(facultative anaerobe)とに分けられる。
上記乳酸菌のうち、ビフィドバクテリウム属細菌は偏性嫌気性菌であり、ラクトバチルス属細菌、ラクトコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌などは通性嫌気性菌である。
【0003】
乳酸菌は、従来から食品分野においてよく用いられており、また、最近では腸内細菌叢(フローラ)のバランスを改善することによって、宿主の健康維持促進を図ることができるプロバイオティクスとしての効果が注目されている。
また、医薬品分野における用途についても数多く報告されており、腫瘍治療に関しても、直接的な抗腫瘍剤としてのほか、免疫賦活剤、IgE産生抑制剤、液性免疫回復剤、インターロイキン12産生促進剤などとしての応用が報告されている。
【0004】
例えば、ラクトバチルス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ペディオコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびロイコノストック属細菌から選ばれる1種または2種以上を含む組成物が、免疫賦活作用(抗腫瘍活性)を示すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
その他にも、抗腫瘍剤、IgE産生抑制剤、液性免疫回復剤、インターロイキン12産生促進剤、免疫賦活剤などの腫瘍治療用剤として有用な各種の乳酸菌が報告されている(例えば、特許文献2〜7参照)。
さらに、特にラクトバチルス属細菌について、腫瘍増殖抑制剤あるいは悪性腫瘍再発抑制剤として有用なラクトバチルス属細菌が報告されている(例えば、特許文献8〜11参照)。
【0005】
しかしながら上記のとおり、これらの乳酸菌のうち、ビフィドバクテリウム属細菌以外は比較的酸素濃度の高い環境下でも生育する通性嫌気性菌である。したがって、当然、嫌気的環境下にある腫瘍組織以外の正常組織においても集積、生育する可能性が高く、正常組織における副作用発現が懸念されるものである。
【0006】
一方、偏性嫌気性菌であるビフィドバクテリウム属細菌について、固形腫瘍などの嫌気的環境下にある疾患の治療に用いる方法が提案されている。
例えば、ビフィドバクテリウム属細菌のビフィドバクテリウム・ロンガム菌について、全身投与の静脈内投与においても、正常組織からは速やかに消失し、固形腫瘍部位において特異的に集積、生育することが確認され、固形腫瘍に対する治療への応用が期待されている(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0007】
そして、抗腫瘍効果を発揮させるための活性蛋白質として、抗腫瘍活性を有する5−フルオロウラシル(以下、5−FUという)のプロドラッグ(前駆体)である5−フルオロシトシン(以下、5−FCという)を5−FUに変換する酵素のシトシンデアミナーゼ(以下、CDという)をターゲットとし、これを発現するように形質転換したビフィドバクテリウム・ロンガム菌について、静脈内投与において、腫瘍部位において特異的に集積、生育し、目的の蛋白質を発現することが確認され、正常組織における副作用発現の恐れのない、安全な固形腫瘍の治療剤として大いに期待できることが報告されている(例えば、特許文献2ならびに非特許文献3および4参照)。
【0008】
このことから、本来通性嫌気性菌であるビフィドバクテリウム属細菌以外の乳酸菌についても、ビフィドバクテリウム属細菌のような偏性嫌気性菌に変異化できれば、これらの乳酸菌についても、ビフィドバクテリウム属細菌と同様に、正常組織における副作用発現の恐れのない、安全な固形腫瘍などの嫌気的環境下にある疾患の治療剤として期待できる。
【0009】
しかしながら、これまで本発明の乳酸菌のような、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に人為的に変異化された乳酸菌や、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターによる形質転換が可能な、ビフィドバクテリウム属細菌以外の偏性嫌気性乳酸菌は、全く報告されていない。
【0010】
また、従来の発現ベクターを用いて形質転換された乳酸菌、例えば、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドを用いて形質転換されたビフィドバクテリウム属の乳酸菌においては、菌体内で産生された活性蛋白質が菌体外に分泌されない。このような形質転換により発現させる活性蛋白質が菌体外に分泌されない発現ベクターも、活性蛋白質の種類に応じて産生された活性蛋白質を局所的に作用させる用途などにおいては有用である。しかし、例えば抗腫瘍活性を有するサイトカイン類などの活性蛋白質の発現遺伝子を導入して、さらに産生された活性蛋白質が菌体外に分泌されるように形質転換が可能な発現ベクターが開発できれば、固形腫瘍などの嫌気的環境下にある疾患の治療剤および遺伝子輸送坦体として、治療の目的や症例、発現させる活性蛋白質の種類などに応じた種々の用途に対応することができる偏性嫌気性乳酸菌を作製することが可能となる。
【0011】
しかしながら、これまで本発明の発現ベクターのような、偏性嫌気性乳酸菌において機能し、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入して該活性蛋白質を効率よく産生でき、さらには産生した活性蛋白質を菌体外に分泌するように形質転換が可能な発現ベクターや、該発現ベクターにより形質転換された固形腫瘍などの嫌気的環境下にある疾患の治療剤として有用な偏性嫌気性乳酸菌は、全く報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これまで、ラクトバチルス属細菌、ビフィドバクテリウム属細菌、ペディオコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ロイコノストック属細菌などの乳酸菌が、抗腫瘍剤、IgE産生抑制剤、液性免疫回復剤、インターロイキン12産生促進剤、免疫賦活剤などの腫瘍治療用剤として有用な作用効果を有することは既に知られている。
微生物を悪性腫瘍などの嫌気的環境下にある疾患の疾患治療剤として用いる場合、嫌気的環境下にある腫瘍組織においてのみ抗腫瘍効果を発揮し、嫌気的環境ではない正常組織においては作用効果を発揮させないために、嫌気的環境下にある腫瘍組織に特異的に集積あるいは生着、増殖し、嫌気的環境ではない正常組織では生着、増殖しないような偏性嫌気性菌であることが望ましい。
【0015】
しかしながら、上記乳酸菌の中で、ビフィドバクテリウム属細菌以外の乳酸菌はいずれも偏性嫌気性菌ではなく、好気的環境下においても生育できる通性嫌気性菌である。
したがって、ビフィドバクテリウム属細菌以外の通性嫌気性の乳酸菌を静脈内注射により全身投与した場合は、嫌気的環境下にある腫瘍組織だけでなく、正常組織においても生着、増殖し、正常組織に対する副作用発現の恐れが極めて高い。
【0016】
このため、ビフィドバクテリウム属細菌以外の乳酸菌を抗腫瘍剤として用いる場合は、経口投与または腫瘍内投与もしくは筋肉内投与に限定せざるを得ないため、使用方法に制限があった。さらに、例え経口投与または腫瘍内投与の場合でも、生菌が腸管から血管へ侵入し、または腫瘍組織外へ漏れ出し、その結果、正常組織で生着、増殖し、正常組織に対して副作用を発現する恐れがあった。
このことから、抗腫瘍治療分野において、ビフィドバクテリウム属細菌以外の乳酸菌について、通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された乳酸菌の開発が望まれていた。
【0017】
一方、ビフィドバクテリウム属細菌以外の乳酸菌にも、例えば、ラクトバチルス属細菌の中には、自然発生的な突然変異あるいは進化等により好気的環境下における生育能が極めて低い偏性嫌気性菌(以下、自然変異型偏性嫌気性菌という)が存在することが知られている。例えば、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)JCM 2012
T菌株あるいはラクトバチルス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)などが知られている。
【0018】
乳酸菌における遺伝子組換えベクターは一般に宿主特異性が高く、菌株レベルで検討が必要である。そして、これまでに報告されている、上記ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)JCM 2012
T菌株やラクトバチルス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)などの自然変異型偏性嫌気性菌は、一般的に乳酸菌の遺伝子組み換えに用いられている発現ベクター、例えばpLP401、pLP402、pLP403など(以下、pLP400系ベクターという)が機能することができず、抗腫瘍活性を有する活性蛋白質を発現するように形質転換するためには、新たに該菌株用の発現ベクターの開発を必要とする。したがって、これらの自然変異型偏性嫌気性菌を、嫌気的環境下にある疾患に対する治療剤として有用な遺伝子輸送担体の親菌とすることができなかった。
【0019】
また、これまで、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質の発現遺伝子等を導入した乳酸菌−大腸菌シャトルベクターなどの発現ベクターや、該発現ベクターを用いて形質転換されたビフィドバクテリウム属の乳酸菌は既に知られている。
しかし、従来の発現ベクターは、ブドウ糖を糖源として含む培地においては、導入した活性蛋白質の発現遺伝子による組み替え蛋白質の発現が抑制されるという欠点があった。
さらに、従来の発現ベクターを用いて形質転換されたビフィドバクテリウム属の乳酸菌では、菌体内で産生した活性蛋白質が菌体外に分泌されないため、嫌気的環境下にある疾患の治療の目的や症例によっては、導入した活性蛋白質の発現遺伝子による組み替え蛋白質の効果を十分に発揮できるものではなかった。
このことから、抗腫瘍治療分野において、嫌気性菌において機能し、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入して該活性蛋白質を効率よく産生でき、さらには産生した活性蛋白質を菌体外に分泌するように形質転換が可能な発現ベクターの開発が望まれていた。
【0020】
したがって本発明の課題は、上記の問題点を解消した、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された乳酸菌、さらには嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターによる形質転換が可能な偏性嫌気性に変異化された乳酸菌およびそれらの作製方法、ならびに該偏性嫌気性乳酸菌を有効成分として含有する医薬品組成物を提供することにある。
本発明の課題はまた、上記の問題点を解消した、偏性嫌気性乳酸菌において機能し、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入して該活性蛋白質を効率よく産生でき、さらには産生した活性蛋白質を菌体外に分泌するように形質転換が可能な発現ベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、野生型の乳酸菌を化学的に変異化することにより、通性嫌気性菌から偏性嫌気性菌に変異化できることを見出し、さらに、該変異化乳酸菌にマーカー遺伝子を導入し、該マーカーを指標に形質転換が可能な菌を選別することにより、有用な活性蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターによる形質転換が可能な偏性嫌気性乳酸菌を得られることを見出した。
本発明者らはまた、偏性嫌気性乳酸菌で機能する発現ベクターについても検討を重ね、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)と、ラクトバチルス由来のs−layer遺伝子プロモーターおよびラクトバチルス由来のPrtP蛋白質分泌シグナルからなる分泌シグナル配列(PslpA−SS
prtP)と、1種または2種以上の選択マーカー遺伝子とを含む発現ベクターとすることにより、偏性嫌気性乳酸菌を効率よく形質転換して、良好な蛋白質発現と蛋白質分泌を促進できることを見出した。
そして、上記検討結果に基づきさらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち本発明は、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された、偏性嫌気性乳酸菌に関する。
また本発明は、さらに、発現ベクターによる形質転換が可能である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
さらに本発明は、発現ベクターが、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した発現ベクターである、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
また本発明は、乳酸菌が、ラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌およびラクトコッカス属細菌からなる群より選ばれる1種である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
さらに本発明は、乳酸菌が、ラクトバチルス属細菌である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
【0023】
また本発明は、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)からなる群より選ばれる1種である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
【0024】
さらに本発明は、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・カゼイである、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
また本発明は、ラクトバチルス・カゼイが、ラクトバチルス・カゼイ・KK378(
受託番号:NITE BP−654)またはその形質転換菌である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
さらに本発明は、ラクトバチルス・カゼイ・KK378の形質転換菌が、ラクトバチルス・カゼイ・KJ686(
受託番号:NITE BP−615)である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
また本発明は、ラクトバチルス・カゼイ・KK378の形質転換菌が、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474である、前記偏性嫌気性乳酸菌に関する。
【0025】
さらに本発明は、偏性嫌気性乳酸菌で機能する発現ベクターであって、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)と、ラクトバチルス由来のs−layer遺伝子プロモーターおよびラクトバチルス由来のPrtP蛋白質分泌シグナルを含む分泌シグナル配列(PslpA−SS
prtP)と、1種または2種以上の選択マーカー遺伝子とを含む、発現ベクターに関する。
また本発明は、偏性嫌気性乳酸菌が、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された偏性嫌気性乳酸菌である、前記発現ベクターに関する。
さらに本発明は、分泌シグナル配列(PslpA−SS
prtP)の下流に、さらに所望の蛋白質発現遺伝子を含む、前記発現ベクターに関する。
また本発明は、所望の蛋白質が、抗腫瘍活性を有する蛋白質(A)、および/または、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質(B)である、前記発現ベクターに関する。
【0026】
さらに本発明は、抗腫瘍活性を有する蛋白質(A)が、インターフェロン(IFN)−α、βおよびγ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−1α、1β、2、3、4、6、7、10、12、13、15および18、腫瘍壊死因子(TNF)−α、リンホトキシン(LT)−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、白血病阻止因子(LIF)、T細胞活性化共刺激因子B7(CD80)およびB7−2(CD86)、キット・リガンドならびにオンコスタチンMからなる群より選ばれる1種のサイトカイン、および/または、エンドスタチン、アンジオスタチン、クリングル−1、2、3、4および5からなる群より選ばれる1種の血管新生抑制物質である、前記発現ベクターに関する。
【0027】
また本発明は、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質(B)が、シトシンデアミナーゼ、β−グルクロニダーゼおよびニトロリダクターゼからなる群より選ばれる1種である、前記発現ベクターに関する。
さらに本発明は、選択マーカー活性が、薬物耐性、栄養要求性および培地選択性からなる群より選ばれる1種または2種以上である、前記発現ベクターに関する。
また本発明は、薬物耐性が、エリスロマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性およびカナマイシン耐性からなる群より選ばれる1種または2種以上である、前記発現ベクターに関する。
さらに本発明は、選択マーカー遺伝子が、ラクトバチルス由来のエリスロマイシン耐性遺伝子および大腸菌由来のアンピシリン耐性遺伝子から選ばれる1種または2種である、前記発現ベクターに関する。
また本発明は、プラスミドpLPD8sまたはこれに任意の蛋白質発現遺伝子をさらに導入したものである、前記発現ベクターに関する。
【0028】
さらに本発明は、前記いずれかの発現ベクターで形質転換された、偏性嫌気性乳酸菌に関する。
また本発明は、前記いずれかの偏性嫌気性乳酸菌の1種または2種以上を有効成分として含有する、医薬組成物に関する。
さらに本発明は、前記偏性嫌気性乳酸菌を有効成分として含有する医薬組成物と、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質(B)によって抗腫瘍物質に変換される抗腫瘍物質前駆体を有効成分として含有する医薬組成物とを、組み合わせてなる抗腫瘍剤に関する。
【0029】
また本発明は、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育するように通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された偏性嫌気性乳酸菌の作製方法であって、通性嫌気性野生型乳酸菌を変異化する工程(1)と、該変異化菌を、嫌気的条件下と好気性条件下で培養して嫌気性条件下でのみ生育する偏性嫌気性の変異化菌を選別する工程(2)とを含む、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
さらに本発明は、さらに、偏性嫌気性変異化菌を、1種または2種以上の選択マーカーを有する嫌気性菌由来の発現ベクターを用いて形質転換する工程(3)と、該形質転換菌を前記選択マーカーにより、前記発現ベクターによる形質転換がなされた形質転換菌を選別する工程(4)とを含む、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
【0030】
また本発明は、変異化が、変異原物質による化学的変異化である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
さらに本発明は、変異原物質が、ニトロソグアニジン誘導体である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
また本発明は、変異原物質が、N−メチル−N’−ニトロ−ニトロソグアニジン(MNNG)である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
さらに本発明は、前記いずれかに記載の発現ベクターを用いる、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
また本発明は、通性嫌気性野生型乳酸菌が、ラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌およびラクトコッカス属細菌からなる群より選ばれる1種である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
さらに本発明は、通性嫌気性野生型乳酸菌が、ラクトバチルス属細菌である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
【0031】
また本発明は、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)からなる群より選ばれる1種である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
さらに本発明は、ラクトバチルス属細菌が、ラクトバチルス・カゼイである、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
また本発明は、ラクトバチルス・カゼイが、ラクトバチルス・カゼイ・IGM393である、前記偏性嫌気性乳酸菌の作製方法に関する。
【0032】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、嫌気的環境下にある腫瘍組織等に特異的に生着して菌が生育するのに対し、好気的環境下にある正常組織からは速やかに消失して生育しないかまたは生育率が極めて低いため、当該疾患部位以外の組織または臓器に対しては作用せず、嫌気的環境下にある疾患部位にだけ作用させることができるものであり、悪性腫瘍等の嫌気的環境下にある疾患の治療剤、当該疾患に有用な蛋白質を発現できる遺伝子輸送担体微生物およびその親菌として極めて有用なものである。
【0033】
しかも驚くべき事に、本発明の偏性嫌気性乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌は、菌自体が抗腫瘍効果を示すものであった。
したがって、本発明の偏性嫌気性乳酸菌を有効成分として含有させることにより、静脈注射などの全身投与においても正常組織への副作用発現の恐れがなく、投与方法の制限のない、極めて安全で、且つ、使いやすい抗腫瘍剤を製造することができる。
【0034】
また、本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、該乳酸菌で機能する、任意の活性蛋白質発現遺伝子を組み込んだ発現ベクターを用いて形質転換することにより、任意の活性蛋白質を発現できる遺伝子輸送担体を作製することができる。このようにして作製された遺伝子輸送担体は、菌自体が有する抗腫瘍効果に加え、活性蛋白質による作用効果との複合的、且つ、相乗的な効果が期待できるものであり、更に優れた抗腫瘍剤となり得るものである。
【0035】
さらに、本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、後述する本発明の発現ベクター、例えば、大腸菌−ラクトバチルス菌シャトルベクターであるpLPD8s、あるいはこれに任意のタンパク発現遺伝子を導入したベクター、例えばヒトIL−2産生遺伝子を導入したベクターであるpLPD8s::hIL−2などによる形質転換が可能であり、これらの本発明の発現ベクターで形質転換した形質転換菌は、従来の発現ベクターにより形質転換されたビフィドバクテリウム属細菌とは異なり、発現遺伝子によって産生有用な活性蛋白質を菌体外に分泌することができる。したがって、これらの本発明の発現ベクターに所望のタンパク質発現遺伝子を組み込んで形質転換することにより、任意の活性蛋白質を菌体外に分泌する遺伝子輸送担体を作製することができる。
【0036】
ここで前述のとおり、乳酸菌における遺伝子組換えベクターは一般的に宿主特異性が高く、これまでに報告されている自然変異型偏性嫌気性菌は、乳酸菌の遺伝子組み換えに用いられる一般的な発現ベクター、例えばpLP400系ベクターが機能することができず、該菌株用の特別の発現ベクターの開発を必要とする。これに対して、本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、自然変異型偏性嫌気性菌と異なり、乳酸菌の遺伝子組み換えに用いられる一般的な発現ベクターが機能することができる。
すなわち、本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、本来具有していた一般的な発現ベクターによって形質転換できるという機能を保持したまま、通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化されたものであり、この点に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下にある動物組織内で生育できるという特性を有するものである。さらには、発現ベクターによる形質転換が可能という特性をも有し得るものである。
また、本発明の発現ベクターは、偏性嫌気性乳酸菌および通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された偏性嫌気性乳酸菌において機能し、良好な蛋白質発現と蛋白質分泌を促進することが可能であるという特性を有するものである。
したがって、本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、悪性腫瘍等の嫌気的環境下にある疾患の治療剤として、また、当該疾患の治療剤として有用な任意の遺伝子輸送担体の親菌として極めて有用なものであり、さらに本発明の発現ベクターは、当該治療剤および遺伝子輸送担体を作製するための発現ベクターとして、極めて有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された乳酸菌は、非病原性で、且つ、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低いという特性を有するものであり、さらには、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターにより形質転換することができるという特性をも有し得るものである。上記特性を有する乳酸菌であれば、特に限定されず、どのような種、株も含まれる。
【0040】
本発明の通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された乳酸菌の形質転換に用いる発現ベクターは、変異化乳酸菌の中で機能する発現ベクターであれば特に制限されず、乳酸菌由来のプラスミド、乳酸菌由来のプラスミドまたはその一部および大腸菌由来のプラスミドまたはその一部との融合プラスミド、乳酸菌−大腸菌シャトルベクターなどの嫌気性菌由来のプラスミドなどが挙げられる。具体的には、後述する乳酸菌−大腸菌シャトルベクターであるpLPD8s、およびこれに任意のタンパク発現遺伝子を導入したベクター、例えばヒトIL−2産生遺伝子を導入したベクターであるpLPD8s::hIL−2などを挙げることができる。
【0041】
本発明の通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された乳酸菌としては、プロバイオティクスとして用いられている各種乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)などのラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などのストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのエンテロコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などのラクトコッカス属細菌などを挙げることができる。これらの乳酸菌の中で、ラクトバチルス属細菌がとくに好ましい。ラクトバチルス属細菌の中では、ラクトバチルス・カゼイが最も好ましく、具体的には、ラクトバチルス・カゼイ・KK378(
受託番号:NITE BP−654)などが挙げられる。
【0042】
また、本発明の通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化され、さらに形質転換された偏性嫌気性乳酸菌としては、例えば、上記の各種偏性嫌気性乳酸菌を形質転換した偏性嫌気性乳酸菌が挙げられ、具体的には、ラクトバチルス・カゼイ・KK378の形質転換菌であるラクトバチルス・カゼイ・KJ686(
受託番号:NITE BP−615)およびラクトバチルス・カゼイ・KJ474などが挙げられる。
【0043】
本発明の発現ベクターは、偏性嫌気性乳酸菌の中で機能する、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)と、ラクトバチルス由来のs−layer遺伝子プロモーターおよびラクトバチルス由来のPrtP蛋白質分泌シグナルを含む分泌シグナル配列(PslpA−SS
prtP)と、1種または2種以上の選択マーカー遺伝子とを含む発現ベクターであれば特に制限されないが、形質転換効率等の観点から、乳酸菌由来のプラスミド、乳酸菌由来のプラスミドまたはその一部および大腸菌由来のプラスミドまたはその一部との融合プラスミド、乳酸菌−大腸菌シャトルベクターなどに、上記の遺伝子を導入した発現ベクターが挙げられる。
具体的には、乳酸菌−大腸菌シャトルベクターであるpLPD8s、およびこれに任意のタンパク発現遺伝子を導入したベクター、例えばヒトIL−2産生遺伝子を導入したベクターであるpLPD8s::hIL−2などを挙げることができる。
【0044】
pLPD8sは、従来から嫌気性菌の形質転換に利用されているpLP402を改良したベクターである。
pLP402は、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)と、ラクトバチルス由来のエリスロマイシン耐性遺伝子(Em
r)と、大腸菌由来のアンピシリン耐性遺伝子(Amp
r)と、α−アミラーゼ遺伝子プロモーター領域および分泌シグナル配列(Pamy−SSamy)、ならびに任意挿入遺伝子発現配列(BamHI−gene X−XhoI)を具有するベクターで、ラクトバチルス属細菌の形質転換によく用いられているベクターであるが、ブドウ糖を糖源として含む培地においては、組み替え蛋白の発現が抑制されるという欠点があった。
【0045】
pLPD8sは、pLP402が具有するα−アミラーゼ遺伝子プロモーター領域および分泌シグナル配列(Pamy−SSamy)、ならびに任意挿入遺伝子発現配列(BamHI−gene X−XhoI)を除去して、それに替えて、Lactobacillus brevis由来のプロモーターおよびL. casei PrtP遺伝子由来の分泌シグナル配列(PslpA−SSprtP)を挿入したものである。これにより、ブドウ糖を糖源として含む培地においても組み替え蛋白の発現が抑制されず、良好な蛋白質発現と分泌を促進することができる。
【0046】
本発明の発現ベクターが機能する偏性嫌気性乳酸菌および本発明の発現ベクターにより形質転換された偏性嫌気性乳酸菌としては、プロバイオティクスとして用いられている各種乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)などのラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などのストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)およびエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのエンテロコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などのラクトコッカス属細菌等を、通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化した偏性嫌気性乳酸菌が挙げられる。
【0047】
さらに、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)およびビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)などのビフィドバクテリウム属細菌等の偏性嫌気性乳酸菌を挙げることができる。
これらの乳酸菌の中で、通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化されたラクトバチルス属細菌およびビフィドバクテリウム属細菌がより好ましい。ラクトバチルス属細菌の中では、ラクトバチルス・カゼイがとくに好ましく、具体的には、ラクトバチルス・カゼイ・KK378(
受託番号:NITE BP−654)などが挙げられる。ビフィドバクテリウム属細菌の中では、ビフィドバクテリウム・ロンガムがとくに好ましい。
【0048】
また、本発明の発現ベクターが具有する遺伝子がコードする、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質としては、各種固形腫瘍治療に有用な活性蛋白質として、抗腫瘍活性を有する蛋白質、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質などを挙げることができ、虚血性疾患治療に有用な活性蛋白質として、血管新生促進活性を有する蛋白質などを挙げることができる。
【0049】
抗腫瘍活性を有する蛋白質としては、例えば、サイトカイン類が挙げられ、具体的には、インターフェロン(IFN)−α、βおよびγ、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−1α、1β、2、3、4、6、7、10、12、13、15および18、腫瘍壊死因子(TNF)−α、リンホトキシン(LT)−β、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、白血病阻止因子(LIF)、T細胞活性化共刺激因子B7(CD80)およびB7−2(CD86)、キット・リガンド、オンコスタチンM等が挙げられる。
また、エンドスタチン、アンジオスタチン、クリングル−1、2、3、4および5等の血管新生抑制物質が挙げられる。
【0050】
抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質としては、5−フルオロシトシン(以下、5−FCという)を抗腫瘍活性物質の5−フルオロウラシル(以下、5−FUという)に変換する酵素のシトシン・デアミナーゼ(以下、CDという)、各種抗腫瘍物質のグルクロナイドを抗腫瘍物質に変換する酵素のβ-グルクロニダーゼ、抗腫瘍物質前駆体のCB1954を抗腫瘍物質に変換する酵素のニトロリダクターゼなどを挙げることができる。
なお、相乗効果が期待できる場合には、上記の抗腫瘍活性を有する蛋白質および/または抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を、2種以上組み合わせて導入してもよい。
【0051】
また、血管新生促進活性を有する蛋白質としては、各種増殖因子、例えば、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、内皮細胞増殖因子(ECGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)などを挙げることができる。なお、相乗効果が期待できる場合には、これらの活性蛋白質をコードする遺伝子を2種以上組み合わせて導入してもよい。
【0052】
本発明の発現ベクターに具有させる選択マーカーとしては、発現ベクターが機能していることを確認できるものであれば特に制限されず、例えば、薬剤耐性、栄養要求性および培地選択性などを挙げることができるが、操作の利便性や確実な選別などの観点から、エリスロマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、ネオマイシン耐性およびカナマイシン耐性などの薬剤耐性がより好ましい。
また、本発明の発現ベクターは、これらの選択マーカーの中から選ばれる少なくとも1種を有していればよい。
【0053】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌は、通常の、変異化技術、遺伝子転換技術およびクローニング技術等を組み合わせる事により作製することができる。
すなわち、野生型乳酸菌を変異化する操作(1)と、
該変異化菌を、嫌気的条件下と好気性条件下で培養して嫌気性条件下でのみ生育する偏性嫌気性の変異化菌を選別する操作(2)とを行うことにより、
好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く、嫌気的環境下で生育する偏性嫌気性乳酸菌を作製することができる。
さらに、前記偏性嫌気性変異化菌を、1種または2種以上の選択マーカーを有する発現ベクターを用いて形質転換する操作(3)と、
該形質転換菌を前記選択マーカーにより、前記発現ベクターによる形質転換がなされた形質転換菌を選別する操作(4)とを行うことにより、
嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターによる形質転換が可能である、偏性嫌気性乳酸菌を作製することができる。
【0054】
操作(1)の変異化方法は、変異化を行うことにより、野生型乳酸菌が有している、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターによる形質転換が可能であるという特性を保持させたまま、野生型乳酸菌が有していない、好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く嫌気的環境下で生育するという特性を付与できる方法であればどのような変異化方法でもよく、化学的変異化、放射線照射などが挙げられるが、操作の利便性や、各々の特性を発現させる部位を事前に特定することなく、同時に複数の部位を変異化することができるなどの観点から、変異原物質による化学的変異化が好ましい。
化学的変異化に用いる変異原物質としては、上記特性を具有させる変異原物質であれば特に限定されないが、ニトロソグアニジン誘導体が好ましく、具体的には、N−メチル−N’−ニトロ−ニトロソグアニジン(MNNG)などが挙げられる。
【0055】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌作製に用いる野生型乳酸菌は、非病原性の乳酸菌であれば特に限定されず、どのような種、株であってもよい。好気的環境下では生育しないかまたは生育率が極めて低く嫌気的環境下で生育するという特性と、嫌気的環境下にある疾患の治療に有用な活性を有する蛋白質の発現遺伝子を導入した嫌気性菌由来のプラスミドなどの発現ベクターにより形質転換が可能であるという特性については、そのいずれかまたはその両方の特性を持たないもののいずれであってもよい。
【0056】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌作製に用いる野生型乳酸菌としては、プロバイオティクスとして用いられている乳酸菌、例えばラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・デルブレッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)などのラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などのストレプトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)などのエンテロコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などのラクトコッカス属細菌などを挙げることができる。
【0057】
これらの乳酸菌の中では、ラクトバチルス属細菌がとくに好ましい。ラクトバチルス属細菌の中では、ラクトバチルス・カゼイが最も好ましく、具体的には、ラクトバチルス・カゼイIGM393などが挙げられる。
これらの菌は、いずれも市販されているか、または寄託機関から容易に入手することができる。
【0058】
本発明の医薬組成物は、本発明の通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化された偏性嫌気性乳酸菌、または該偏性嫌気性乳酸菌をさらに本発明の発現ベクターなどで形質転換した形質転換偏性嫌気性乳酸菌を含有している限り特に制限はされない。また、本発明の抗腫瘍剤は、本発明の偏性嫌気性乳酸菌または形質転換偏性嫌気性乳酸菌を含有している限り特に制限はされない。
本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤は、本発明の偏性嫌気性乳酸菌および形質転換偏性嫌気性乳酸菌の2種以上を含有していてもよい。
【0059】
さらに、本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤は、本発明の偏性嫌気性菌の生着、生存および増殖を妨げない限り、本発明の偏性嫌気性乳酸菌のほかに任意の成分を含有していてもよい。そのような任意成分として、例えば、薬理学的に許容される担体、希釈剤、懸濁化剤、pH調整剤、凍結保護剤等が挙げられる。また、偏性嫌気性菌の生着、生存および増殖を促進させるために、薬理学的に許容される菌の栄養剤などを含有させても良い。
【0060】
本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の主成分である偏性嫌気性乳酸菌は、極めて安全性が高く、本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の投与量は、投与経路、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択することができ、改善の度合いに応じて適宜増減することもできる。
その投与量の範囲は、腫瘍部位において生育でき、且つ、菌自体が有効な抗腫瘍活性を示すのに十分な量、有効治療量の抗腫瘍活性を有する蛋白質を発現するのに十分な量、または、抗腫瘍物質前駆体を有効治療量の抗腫瘍物質に変換できる量の蛋白質を発現するのに十分な量である限り特に制限はされないが、経済上の観点および副作用の可能な限り回避する観点から、必要な抗腫瘍活性が得られる範囲においてできる限り少ない方が好ましい。
例えば、実際に治療に用いる際には、用いる偏性嫌気性乳酸菌の菌自体が示す抗腫瘍活性、用いる偏性嫌気性乳酸菌が産生する抗腫瘍活性を有する蛋白質の種類、抗腫瘍物質前駆体から変換される抗腫瘍物質の有効治療量、および用いる偏性嫌気性乳酸菌の当該活性蛋白質の産生量などによって、適宜設定する。
【0061】
静脈内注射による全身投与の場合には、特に、菌塊による塞栓等のリスクを低減することが求められるため、できるだけ低濃度の注射剤を複数回に分けて分注するか、または適当な補液で希釈して持続注入することが好ましい。例えば、成人の場合、本発明の偏性嫌気性乳酸菌の菌体を、体重1kg当たり10
6〜10
12cfuを1日1〜3回に分け、好ましくは1〜3日連続して投与する。より具体的には、本発明の偏性嫌気性乳酸菌の菌体を10
4〜10
10cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、または適当な補液で希釈して、好ましくは1日1〜3回に分け、より好ましくは1〜3日連続して投与する。
また、腫瘍組織へ直接投与する局所投与の場合は、腫瘍組織全体への菌体の投与が求められるため、高濃度の注射剤を、できるだけ腫瘍組織の複数個所に投与することが望ましい。例えば、成人の場合、本発明の偏性嫌気性乳酸菌の菌体を、体重1kg当たり10
6〜10
12cfuを1日1回、必要に応じ1〜3日連続して投与する。より具体的には、本発明の偏性嫌気性乳酸菌の菌体を10
4〜10
10cfu/mL含有する製剤を、成人1人あたり1〜1000mLを直接、好ましくは1日1回、必要に応じ1〜3日連続して投与する。
治療期間中に腫瘍組織中の菌が消失していることが確認された場合は、一旦治療を中断して、同様に菌を投与する。
【0062】
本発明の偏性嫌気性乳酸菌が、抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性を有する蛋白質を発現することができる遺伝子を組み込んだ偏性嫌気性乳酸菌の場合、当該偏性嫌気性乳酸菌を活性成分として含有する本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤は、当該偏性嫌気性乳酸菌によって発現される蛋白質によって有効量の抗腫瘍物質に変換できる量の抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて使用することができる。この抗腫瘍物質前駆体は本発明の偏性嫌気性乳酸菌を活性成分として含有する医薬組成物や抗腫瘍剤に含有させてもよいが、当該抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物として、本発明の偏性嫌気性乳酸菌を活性成分として含有する医薬組成物や抗腫瘍剤と組み合わせて用いることが好ましい。
【0063】
抗腫瘍物質前駆体の投与量は、組み合わせて使用する偏性嫌気性乳酸菌の腫瘍組織における生育率、偏性嫌気性乳酸菌の抗腫瘍物質前駆体を抗腫瘍物質に変換する活性蛋白質の産生能および抗腫瘍物質前駆体から抗腫瘍物質への変換効率に応じて適宜選択することができる。また、偏性嫌気性乳酸菌の投与量と同様に、投与経路、疾患の程度、患者の体重、年齢、性別に応じて適宜選択することができ、改善の度合いに応じて適宜増減することもできる。
【0064】
このように、抗腫瘍物質前駆体と組み合わせて本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤を用いる場合、本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の投与方法と、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与方法は同じであっても異なっていてもよく、また、投与も同時であってもよく隔時であってもよいが、抗腫瘍物質前駆体を含有する医薬組成物の投与は、本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の投与後、本発明の偏性嫌気性乳酸菌が腫瘍細胞で十分生育できる時間をおいた後に投与する方が好ましい。
なお、本発明における「XとYと組み合わせてなる」には、XとYを別の形態としたもの、XとYを同一の形態(例えば、XとYを含有する形態)としたもののいずれの場合も含む。また、XとYを別の形態としたものの場合、XとYのいずれもが他の成分をさらに含有している場合も含まれる。
【0065】
本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の剤型は特に制限されないが、例えば、本発明の偏性嫌気性乳酸菌を含有する液剤あるいは固形製剤を挙げることができる。液剤は、本発明の偏性嫌気性乳酸菌の培養液を精製し、これに必要に応じて適当な生理食塩液もしくは補液または医薬添加物を加えてアンプルまたはバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。このような液剤の場合は、そのまま冷蔵保存するか、あるいは適当な凍結保護剤を加えて凍結した後冷凍保存する。
また、固形製剤は、液剤に適当な保護剤を添加してアンプルまたはバイアル瓶などに充填した後凍結乾燥またはL乾燥するか、液剤に適当な保護剤を添加して凍結乾燥またはL乾燥した後これをアンプルまたはバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。
本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤の投与方法としては、非経口投与が好ましく、例えば皮下注射、静脈注射、局所注入、脳室内投与等を行うことができるが、静脈注射が最も好ましい。
【0066】
本発明の医薬組成物や抗腫瘍剤は、嫌気的環境を有する腫瘍、好ましくは各種固形癌に適用できる。固形癌としては、例えば、大腸癌、脳腫瘍、頭頚部癌、乳癌、肺癌、食道癌、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆管癌、膵癌、膵島細胞癌、絨毛癌、結腸癌、腎細胞癌、副腎皮質癌、膀胱癌、精巣癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、卵巣癌、子宮癌、甲状腺癌、悪性カルチノイド腫瘍、皮膚癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部組織肉腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、メラノーマ、扁平上皮癌などが挙げられる。
嫌気的環境下にある他の疾患としては、虚血性疾患、例えば、心筋梗塞または閉塞性動脈硬化症や、バージャー病などの下肢虚血疾患を挙げることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例および試験例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
[実施例1]
偏性嫌気性変異化菌(ラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株)の作製
ラクトバチルス・カゼイ・IGM393を、MRS培地に1:100の濃度になるように加え、37℃で嫌気的条件下に一夜培養し、600nmにおける濁度(OD
600)が約0.1となった時点で培養を停止し、培養液10mlを回転数3000Gで10分間遠心分離にかけ培養細菌を採取した。
培養細菌を約15倍量の0.1Mカリウム・リン酸緩衝液(pH=7)で洗浄し、同量の同緩衝液に懸濁し、該懸濁液に、MNNG(N−メチル−N’−ニトロ−ニトロソグアニジン)170μg/mlを加え、37℃で20分間撹拌した後、直ちに、回転数3000Gで2分間遠心分離にかけ、適量の0.1Mカリウム・リン酸緩衝液(pH=7)で2回洗浄した。
【0069】
該洗浄菌液を0.05%のL−システインを含むMRS培地50mlに懸濁し、37℃で嫌気的条件下に約9時間培養した。
該培養菌液を、0.05%のL−システインを含むMRS培地に、1プレートあたり約300コロニーになるように幡種し、嫌気的条件下に培養した。
各コロニーを各々2枚のプレートに移植し、嫌気的条件下と好気的条件下に分けて培養し、嫌気的条件下でのみ生育したコロニーを選別して、偏性嫌気性に変異化されたラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株(寄託番号:NITE BP−654)を得た。
【0070】
[実施例2]
ラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株の形質転換(1)
(プラスミドベクターpLPEmptyの作製)
図1に示すように、ラクトバチルス属細菌の形質転換に一般に用いられるプラスミドpLP402から、常法によりα−アミラーゼ遺伝子プロモーター領域および分泌シグナル配列(Pamy−SSamy)ならびに任意挿入遺伝子発現配列(BamHI−gene X−XhoI)を除去して、プラスミドベクターpLPEmptyを作製した。
なお、プラスミドベクターpLPEmptyマップ図中の符号の意味は下記のとおりである。
Amp
r:大腸菌由来のアンピシリン耐性遺伝子
Rep:ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子
Em
r:ラクトバチルス由来のエリスロマイシン耐性遺伝子
【0071】
(形質転換)
上記実施例1で得た、偏性嫌気性のラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株に、上記で得たプラスミドベクターpLPEmptyを用いて常法により形質転換を行い、偏性嫌気性菌ラクトバチルス・カゼイ・KJ686(寄託番号:NITE BP−615)を得た。
【0072】
上記で得たラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌株を、エリスロマイシンを添加した培地で培養したところ、当該選択培地で生育できるエリスロマイシン耐性菌であること、すなわち、該エリスロマイシン耐性遺伝子を具有するプラスミドベクターpLPEmptyにより、形質転換されていることが確認された。
上記実施例1および2の結果より、ラクトバチルス・カゼイ・KK378菌が、ラクトバチルス属細菌の形質転換に一般に用いられるプラスミドにより形質転換が可能であるという機能を保持したまま、通性嫌気性から偏性嫌気性に変異化されたものであることが分かる。
【0073】
[実施例3]
プラスミドベクターpLPD8s::hIL−2の作製
実施例2と同様に、
図1に示すように、pLP402から常法によりα−アミラーゼ遺伝子プロモーター領域および分泌シグナル配列(Pamy−SSamy)ならびに任意挿入遺伝子発現配列(BamHI−gene X−XhoI)を除去し、それに替えて、Lactobacillus brevis由来のプロモーターおよびL. casei PrtP遺伝子由来の分泌シグナル配列(PslpA−SSprtP)を挿入して、プラスミドベクターpLPD8sを作製した。
【0074】
別途、ヒト型IL−2(hIL−2)をコードするcDNAを含むプラスミドから、プライマー(CCC CGG ATC CGA GTG CAC CTA CTT CAA GTT C, およびCCC CCT CGA GTC AAG TTA GTG TTG AGA TGA)を用いてPCR法によりヒト型IL−2遺伝子を増幅した。
この遺伝子断片を制限酵素BamHIとXhoIで消化して、ヒト型IL−2遺伝子発現配列(BamHI−IL−2gene−XhoI)を作製し、上記プラスミドベクターpLPD8sの分泌シグナル配列(PslpA−SSprtP)の下流の制限酵素サイトに挿入して、プラスミドベクターpLPD8s::hIL−2を作製した。
【0075】
上記プラスミドベクターpLPD8s::hIL−2の全塩基配列を配列表の配列番号1に示す。また、該pLPD8s::hIL−2中の、ラクトバチルス由来のプラスミド複製蛋白質遺伝子(Rep)の塩基配列を配列表の配列番号2に、Lactobacillus brevis由来のプロモーターおよびL. casei PrtP遺伝子由来の分泌シグナル配列(PslpA−SSprtP)の塩基配列を配列表の配列番号3に、ヒト型IL−2遺伝子発現配列(BamHI−IL−2gene−XhoI)の塩基配列を配列表の配列番号4にそれぞれ示す。
【0076】
[実施例4]
ラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株の形質転換(2)
上記実施例1で得た、偏性嫌気性のラクトバチルス・カゼイ・KK378菌株に、上記実施例3で得たプラスミドベクターpLPD8s::hIL−2を用いて常法により形質転換を行い、ヒト型IL−2発現・分泌株ラクトバチルス・カゼイ・KJ474を得た。
【0077】
[試験例1]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌の偏性嫌気性確認試験
実施例2で得られたラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌を2枚のMRS培地プレートに塗布し、1枚を37℃で嫌気的条件下に、もう1枚を37℃で好気的条件下に、それぞれ3日間培養した。
(結果)
図2に示すとおり、嫌気的条件下で培養したプレートには菌が生育したのに対し、好気的条件下で培養したプレートには菌が全く生育せず、ラクトバチルス・カゼイ・KJ686が偏性嫌気性菌であることが確認された。
【0078】
[試験例2]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌の腫瘍特異集積性確認試験
実施例2で得られたラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌をMRS培地で嫌気的条件下に培養し、この培養菌(5×10
9/0.5mlPBS)を、B16Fメラノーマ担癌マウス4匹に、静脈投与した。4匹中3匹を菌投与96時間後(4日後)に、残り1匹を菌投与168時間後(7日後)にそれぞれ犠牲死させ、腫瘍組織および正常組織(肝臓、肺、腎臓、血液)を摘出してホモジナイズし、各組織抽出液をMRSプレートに塗付し、37℃で、嫌気的条件下に3日間培養した。
【0079】
(結果)
菌投与96時間後(4日後)では、下記表1に示すとおり、3例中2例で腫瘍組織内に菌の生着が確認され、腫瘍内菌数は約7.4×10
5〜1.6×10
6cfu/gであった。なお、3例中1例では正常組織でも菌の存在が確認された。
菌投与168時間後(7日後)では、下記表2に示すとおり、腫瘍組織のみ菌が確認され、腫瘍内菌数は5.2×10
6cfu/gであった。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
[試験例3]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌の抗腫瘍活性試験
ルイス肺カルシノーマ(Lewis lung carcinoma, LLC)細胞(1×10
6/50μl)を、8週齢のC57BL/6マウスの右鼠径部の皮下に移植してLLC担癌C57BL/6マウスを作製した。
腫瘍径が約5mmになったマウス18匹のうち、無作為に選んだ8匹に、実施例2で得られたラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌をMRS培地で嫌気的条件下に培養して得た培養菌(5×10
8/100μl)を静脈投与した(菌投与群)。また、残り10匹を無処置(対照群)とした。
試験開始日(菌投与日)から毎日、腫瘍の大きさを計測し、腫瘍の大きさが試験開始時(菌投与時)の腫瘍の大きさの約20倍を超えるときを終点として、それぞれの群について同日に全て犠牲死させ、腫瘍の大きさを計測した。更に腫瘍組織および正常組織(肝臓、肺)を摘出してホモジナイズし、各組織抽出液をMRSプレートに塗付し、37℃で、嫌気的条件下に3日間培養した。
【0083】
(結果)
試験開始時(菌投与時)の腫瘍の大きさを1としたときの腫瘍の増大率(倍)を指標にしたグラフ(
図3)に示すとおり、対照群(無処置)では、試験開始後7日で約9倍、12日で約23倍にまで腫瘍が増大したのに対し、菌投与群では、菌投与後7日目では約5倍、12日目では約11倍程度であり、17日目で約20倍に到達し、菌投与による明らかな腫瘍増殖抑制効果が確認された。
また、
図4に示すとおり、菌投与後17日目の時点で菌は腫瘍組織にのみ集積しており、正常組織(肺および肝臓)には全く集積していないことが確認された。
【0084】
[試験例4]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌のヒト型IL−2産生能確認試験
実施例4で得られた、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌のIL−2産生能を以下のようにして確認した。
ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌を5μg/mlエリスロマイシン添加MRS液体培地中、37℃で24時間培養した。培養液1mlを1.5mlマイクロチューブに移し、13,000rpmで2分間遠心分離し、上清0.5mlを新しいマイクロチューブに移した。
培養上清に冷アセトンを1ml加え、混合した後、13,000rpmで30分間遠心分離し、上清を完全に除去した。
沈殿物を50μ
LのSDS−PAGEサンプルバッファーに溶解し(10倍濃縮サンプル)し、サンプル溶液を得た。
サンプル溶液10μ
LをSDS−PAGE(ゲル濃度15%)に供し、電気泳動終了後、タンパク質をニトロセルロース膜へエレクトロブロッティングにより転写した。
このニトロセルロース膜上のタンパク質に対し、ビオチン化抗ヒトIL−2抗体を1次抗体とし、抗ヤギHRP2次抗体を結合させ、写真用フィルムを感光させた。
なお、ヒト型IL−2遺伝子を導入していないラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌をネガティブコントロールとして、同時に試験した。
【0085】
(結果)
図5に示すとおり、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌の培養上清の電気泳動により、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌がヒトIL−2を産生していることが確認された。
なお、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌の産生タンパク質と標品のヒトIL−2の分子量の差は、KJ474菌が発現するIL−2のN末端側にPrtP分泌シグナル配列由来のペプチドが付加されていることによる。
【0086】
[試験例5]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌のヒト型IL−2産生量の定量
−80℃で凍結保存したラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌を37℃で暖め、その5μ
Lを4mlの5μg/mlエリスロマイシン添加MRS液体培地中、嫌気環境下で37℃、24時間培養を行った。
更にその5μ
Lを4mlの5μg/mlエリスロマイシン添加MRS液体培地に加えて嫌気環境下で37℃、24時間培養を行った後、培養液を12000rpm、3分間遠心をかけて培養上清を取り出して−80℃にて保存した。
この培養液を10万倍希釈して100μ
Lを5μg/mlエリスロマイシン添加MRS寒天培地に塗布し、嫌気環境下で37℃、3日間培養した後コロニー数をカウントした結果、4.8×10
8cfu/mlであった。
R&D Systems社 DuoSet ELISA development Human DY202 kitを用いてヒトIL−2の定量を行った。
培養上清を1000倍希釈してELISAを施行したところ、80.3pg/mlとの結果を得た。これより実際のヒトIL−2産生量は、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌培養液中の菌数を4.8×10
8cfu/mlとして、希釈倍数を1000倍として換算すると80.3ng/mlと計算される。
【0087】
[試験例6]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌産生ヒト型IL−2の生物学的活性の評価
IL−2依存性マウスT細胞(CTLL−2)を用いてIL−2の生物学的活性の評価を行った。
96ウェルのプレートにCTLL−2 1×10
4/100μ
L取り、PBS(−)と0.1%BSAを加えて全量を112.5μ
Lとした。ここにR&D SYSTEMS社からの遺伝子組換えヒトIL−2(製品番号202−IL)を1.5ng/mlで加え、このIL−2の代わりにラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌(2.9×10
9cfu)培養上清(10倍濃縮)を加えたものとでCTLL−2の増殖率を比較した。なお、CTLL−2の細胞数は色素MK400を用いてWST−1にて測定した。
【0088】
その結果、遺伝子組換えヒトIL−2(製品番号202−IL)1.5ng/mlを添加したものは約1.32倍に増殖し、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌培養上清(10倍濃縮)を添加したものは約1.52倍に増殖した。
増殖率、菌数および濃縮率より、ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌が産生するヒトIL−2の生物学的活性を元にヒトIL−2としての力価を換算すると、以下のように計算される。
KJ474菌産生 hIL−2 1ng = rhIL−2 3.6×10
−4ng
KJ474菌 1×10
9c.f.u. = rhIL−2 6.0×10
−4ng
【0089】
[試験例7]
ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌の抗腫瘍活性試験
試験例3と同様に、ルイス肺カルシノーマ(Lewis lung carcinoma,LLC)細胞(1×10
6/50μl)を、8週齢のC57BL/6マウスの右鼠径部の皮下に移植してLLC担癌C57BL/6マウスを作製した。
腫瘍径が約5mmになったマウス18匹のうち、無作為に選んだ8匹に、実施例2で得られたラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌をMRS培地で嫌気的条件下に培養して得た培養菌(5×10
8/100μl)を静脈投与した(菌投与群)。また、残り10匹を無処置(対照群)とした。
試験開始日(菌投与日)から毎日、腫瘍の大きさを計測し、腫瘍の大きさが試験開始時(菌投与時)の腫瘍の大きさの約20倍を超えるときを終点として、それぞれの群について同日に全て犠牲死させ、腫瘍の大きさを計測した。更に腫瘍組織および正常組織(肝臓、肺)を摘出してホモジナイズし、各組織抽出液をMRSプレートに塗付し、37℃で、嫌気的条件下に3日間培養した。
【0090】
(結果)
試験開始時(菌投与時)の腫瘍の大きさを1としたときの腫瘍の増大率(倍)を指標にしたグラフ(
図6)に示すとおり、対照群(無処置)では、試験開始後7日目で約9倍、12日で約23倍に腫瘍が増大したのに対し、菌投与群では、菌投与後7日目では約6倍、12日目では約12倍程度であり、17日目で漸く約23倍に到達し、菌投与による明らかな腫瘍増殖抑制効果が確認された。
なお、前述のラクトバチルス・カゼイ・KJ686菌の抗腫瘍活性試験の結果と、上記ラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌の抗腫瘍活性試験の結果とを比較すると、その効果に明確な差が認められなかった。これは、ヒト型IL−2の発現遺伝子を導入して形質転換したラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌をマウスに投与して試験を行ったため、産生されたヒト型IL−2がマウスの細胞性免疫系などに対して十分に機能することができず、免疫系の活性化などによる抗腫瘍効果が得られなかったためと考えられる。したがって、ヒト型IL−2の発現遺伝子を導入して形質転換したラクトバチルス・カゼイ・KJ474菌をヒトに投与することにより、より明確で高い抗腫瘍効果が期待できるものと考えられる。