(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871658
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】前込め式砲弾の抽出装置
(51)【国際特許分類】
F41A 35/00 20060101AFI20160216BHJP
B01J 7/02 20060101ALI20160216BHJP
F41F 3/058 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
F41A35/00
B01J7/02 Z
F41F3/058
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2012-43110(P2012-43110)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-178063(P2013-178063A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】兼近 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康仁
【審査官】
黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03093034(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01712872(EP,A1)
【文献】
特開2006−335447(JP,A)
【文献】
米国特許第05941752(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41A 17/00, 35/00
B01J 7/02
F41F 3/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前込め式で砲腔に装填した砲弾を抽出する装置であって、
分離膜によって内部空間を二分した収容器と、収容器の一方の空間に収容したガス発生剤と、収容器の他方の空間に収容され且つガス発生剤を溶解して化学反応によりガスを発生させる開始剤と、収容器の一方の空間と砲腔の底部とを接続するガスホースを備え、
収容器の分離膜が、人為的な外力により破壊可能であることを特徴とする前込め式砲弾の抽出装置。
【請求項2】
ガス発生剤が、粉末であって、収容器を人為的に圧縮することにより分離膜を破壊することを特徴とする請求項1に記載の前込め式砲弾の抽出装置。
【請求項3】
ガス発生剤が、所定形状に固形化してあり、このガス発生剤を人為的に破砕することにより分離膜を破壊することを特徴とする請求項1に記載の前込め式砲弾の抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砲に対して前込め式で装填(砲口装填)した砲弾を外部に抽出するのに用いられる前込め式砲弾の抽出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前込め式の砲弾としては、例えば非特許文献1に記載されているように、迫撃砲が周知である。従来、このような前込め式砲弾において、装填後に不発射が発生した場合には、その砲弾を外部に抽出するために、砲弾を把持する器具やガスボンベを備えた抽出装置を使用していた。
【0003】
砲弾を把持する器具は、把持用の爪部を有すると共に、ロープが連結してあり、砲腔内に入れて砲弾の頭部を爪部で把持した後、ロープを牽引して砲弾を外部に引き上げるものである。また、ガスボンベは、砲の底部に高圧ガスを供給し、その圧力により砲弾を外部に押出すものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】『最新防衛技術大成』R&Dプランニング、昭和60年2月11日、第186頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような従来の前込め式砲弾の抽出装置において、砲弾を把持する器具を備えたものでは、砲弾の頭部を把持する作業や砲弾を引き上げる作業において着火する可能性が零ではないので、安全上の問題点があった。これに対して、ガスボンベを備えたものでは、安全性は向上するものの、装備全体が大型化するという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、安全性の確保と装備の小型軽量化の両立を実現することができる前込め式砲弾の抽出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前込め式砲弾の抽出装置は、前込め式で砲腔に装填した砲弾を抽出する装置であって、分離膜によって内部空間を二分した収容器と、収容器の一方の空間に収容したガス発生剤と、収容器の他方の空間に収容され且つガス発生剤を溶解して化学反応によりガスを発生させる開始剤と、収容器の一方の空間と砲腔の底部とを接続するガスホースを備え、収容器の分離膜が、人為的な外力により破壊可能である構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
上記の構成において、収容器は、樹脂製の袋体等のように変形自在なものを使用することができ、ガス発生剤及び開始剤に対する耐蝕性や、発生するガスの圧力に耐え得る強度を有している。また、分離膜は、例えば樹脂製のものを使用することができ、ガス発生剤及び開始剤に対する耐蝕性を有するものである。さらに、ガス発生剤は、粉末のものや所定形状に固形化したものを用いることができる。他方、開始剤は、主に液体のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前込め式砲弾の抽出装置は、抽出に際して砲弾を直接的に取扱う必要が無いうえに、ガス発生剤と開始剤を用いた使い切り式の装置になるので、安全性の確保と装備の小型軽量化の両立を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の前込め式砲弾の抽出装置の一実施形態を示す説明図である。
【
図2】本発明の前込め式砲弾の抽出装置の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す抽出装置は、前込め式で砲Cに装填した砲弾Sを抽出する装置である。砲Cは、底部が閉塞された砲腔Caを有すると共に、図示しない支持体によって所定角度に支持してあり、砲腔Caの底部には、外部に連通する接続部Cbが設けてある。接続部Cbは、常態において、適宜の栓部材により強固に閉塞してある。砲弾Sは、尾部に装薬が充填してあり、装薬への着火により発射されるのであるが、不発射になった場合に、抽出装置により外部に抽出される。
【0012】
抽出装置は、分離膜1によって内部空間を二分した収容器2と、収容器2の一方の空間2Aに収容したガス発生剤3と、収容器2の他方の空間2Bに収容され且つガス発生剤3を溶解して化学反応によりガスを発生させる開始剤4と、収容器2の一方の空間2Aと砲腔Caの底部とを接続するガスホース5を備えている。
【0013】
収容器2は、樹脂製の変形自在な袋体であって、ガス発生剤3や開始剤4に対する耐蝕性を有すると共に、発生するガスの圧力に耐え得る強度を有している。分離膜1は、例えば、収容器2よりも低強度の樹脂製であって、ガス発生剤3や開始剤4に対する耐蝕性を有すると共に、人為的な外力により破壊可能なものである。
【0014】
ガス発生剤3は、とくに限定されるものではないが、例えば、炭酸水素ナトリウムとクエン酸を混合したもので、この実施形態では粉末である。これに対して、開始剤4は、水であり、ガス発生剤3を溶解して化学反応によりガス(二酸化炭素)を発生させる。ガスホース5は、発生するガスの圧力に耐え得る耐圧ホースであり、砲Cの接続部Cbに接続する。
【0015】
ここで、抽出装置は、砲腔Caから砲弾Sを押出すのに必要なガスの発生量及び圧力に応じて、ガス発生剤3及び開始剤4の種類や量、収容器2における分離膜1の配置すなわち一方及び他方の空間2A,2Bの容積、ガスホース5の口径などを決定する。したがって、抽出装置は、一つの砲弾Sを抽出するだけのガスを発生させる使い切り式の装置であって、非常に小型で且つ軽量である。
【0016】
上記の抽出装置は、砲Cに装填した砲弾Sが不発射になった場合に、砲Cの接続部Cbの栓部材を外してガスホース5を接続し、収容器2を人為的に圧縮することにより分離膜1を破壊する。具体的には、収容器2を踏み付けることにより、ガス発生剤3を介して分離膜1を加圧破壊する。これにより、ガス発生剤3が開始剤4に溶解されて化学反応によりガスが発生し、そのガスをガスホース5から砲腔Caの底部に供給することで、同ガスの圧力により砲弾Sを砲腔Caから押出すことができる。
【0017】
このように、上記の抽出装置は、不発射になった砲弾Sを直接的に取扱う必要が無いうえに、ガス発生剤3と開始剤4を用いた使い切り式の装置であるから、安全性の確保と装備の小型軽量化の両立を実現することができる。ガスボンベを用いた従来の装置に比べれば、複数個の収容器2を用意しておいても装備全体は非常に小型で軽量である。
【0018】
図2に示す抽出装置は、
図1に示すものと同等の構成を備えていると共に、ガス発生剤3が所定形状(図示例では板状)に固形化してあり、このガス発生剤3を人為的に破砕することにより分離膜1を破壊するものとなっている。具体的には、収容器2の外側からガス発生剤3を折るように破砕することで、その破断部分で分離膜1を剪断破壊する。この実施形態の場合も、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0019】
なお、本発明の前込め式砲弾の抽出装置は、その構成が上記各実施形態のみに限定されるものでは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することができる。また、ガス発生剤及び開始剤にあっては、様々な種類のものを採用することが可能であるが、安全性や環境等を考慮すれば、無害のガスを発生させるものが好ましい。
【符号の説明】
【0020】
C 砲
Ca 砲腔
S 砲弾
1 分離膜
2 収容器
2A 一方の空間
2B 他方の空間
3 ガス発生剤
4 開始剤
5 ガスホース