特許第5871682号(P5871682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871682
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】車両の車体補強構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   B62D25/20 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-70127(P2012-70127)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-199255(P2013-199255A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】中島 慶太
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−095482(JP,U)
【文献】 特開昭63−097473(JP,A)
【文献】 特開2003−205868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるロッカ部材の前端部又は後端部の一方又は両方に車両上方に延びる延長部を設け、該延長部を車両上下方向に延びるピラー部材の下端部に溶接部を介して接合した車両の車体補強構造において、
前記延長部及びピラー部材は、車幅方向外側に位置するアウタパネルと内側に位置するインナパネルとを中空状をなすように接合したものであり、
前記延長部とピラー部材との溶接部内に、前記延長部及びピラー部材のアウタパネルとインナパネルとを橋渡しするようにバルク部材を挿入配置し、
該バルク部材は、前記延長部内から少なくとも前記溶接部まで延設されている
ことを特徴とする車両の車体補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体補強構造において、
前記延長部又は前記ピラー部材の一方又は両方の、インナパネル又はアウタパネルの一方又は両方に、車両前後方向に延びる凹状又は凸状のビード部を形成し、
該ビード部を前記バルク部材に溶接部を介して接合した
ことを特徴とする車両の車体補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッカ部材の上方延長部をピラー部材の下端部に溶接接合した車両の車体補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前後方向に延びるロッカ部材と車両上下方向に延びるピラー部材との接合部の補強構造として、従来例えば特許文献1に開示されているものがある。この従来構造では、ロッカ部材の前端部に車両上方に延び、かつ上端を封じてなる延設部を設け、該延設部を前記ピラー部材の下端部に位置させて互いに重ねて溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平1−95482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来構造においては、前記延設部の上端が封じられている部分が水平方向のバルク部材として機能するので、車両前後方向における荷重に対する剛性を向上できる。しかし車幅方向の荷重に対しては、前記バルク部材が無い部分において、ピラー部材のインナパネルとアウタパネルが近接又は離間するいわゆるマッチ箱変形を起こし、ピラー部材が車幅方向内側に倒れるのを防止できない。
【0005】
前記内倒れの防止対策として、ロッカ部材,ピラー部材等の板厚を上げたり、水平方向のバルク部材の数を増やしたりした場合、重量,コストの増加を招くと共に、生産性が低下する問題が発生する。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、ロッカ部材,ピラー部材等の板厚を上げたり、水平方向のバルク部材の数を増やしたりすることなく、ピラー部材の内倒れに対する剛性を向上できる車両の車体補強構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両前後方向に延びるロッカ部材の前端部又は後端部の一方又は両方に車両上方に延びる延長部を設け、該延長部を車両上下方向に延びるピラー部材の下端部に溶接部を介して接合した車両の車体補強構造において、
前記延長部及びピラー部材は、車幅方向外側に位置するアウタパネルと内側に位置するインナパネルとを中空状をなすように接合したものであり、
前記延長部とピラー部材との溶接部内に、前記延長部及びピラー部材のアウタパネルとインナパネルとを橋渡しするようにバルク部材を挿入配置し、
該バルク部材は、前記延長部内から少なくとも前記溶接部まで延設されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両の車体補強構造において、
前記延長部又は前記ピラー部材の一方又は両方の、インナパネル又はアウタパネルの一方又は両方に、車両前後方向に延びる凹状又は凸状のビード部を形成し、
該ビード部を前記バルク部材に溶接部を介して接合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る車体補強構造によれば、バルク部材を、剛性の高いロッカ部材内から該ロッカ部材とピラー部材との溶接部まで延設したので、ピラー部材に作用する車幅方向の荷重は勿論、車両前後方向の荷重についてもロッカ部材でも受け止めることができ、その分、ピラー部材に作用する荷重を減少させることができ、その結果、ピラー部材の変形を効果的に抑制することができる。
【0010】
また前記バルク部材を、ロッカ部材及びピラー部材のアウタパネルとインナパネルとを橋渡しするように設けたので、車幅方向の荷重によって、インナパネルとアウタパネルとが近接又は離間するマッチ箱変形を抑制でき、その結果、ピラー部材の内倒れを効果的に抑制することができる。
【0011】
さらにまた、前記バルク部材は、ロッカ部材とピラー部材との接合部を補強しているので、この接合部を起点とする変形を効果的に抑制できる。
【0012】
上述の効果をロッカ部材やピラー部材の板厚を上げることなく、また水平方向のバルク部材の数を増やすことなく実現できるので、重量,コストの低減、生産性の向上において有益である。
【0013】
また、請求項2の発明では、インナパネル又はアウタパネルに、車両前後方向に延びる凹状又は凸状のビード部を形成したので、このビード部により、車両前後方向の荷重をより一層確実に受け止めることができ、また前記ビード部を前記バルク部材に溶接したので、バルク部材をインナパネル又はアウタパネルにより一層強固に固定でき、その結果、ピラー部材の変形防止に大きな効果がある。
【0014】
このように、車幅方向の荷重による内倒れを防止するためのバルク部材を溶接固定するビード部の形成方向を工夫するだけで、車両前後方向の荷重による変形についても確実に抑制でき、重量,コストの低減、生産性の向上においてさらに有益である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る車体補強構造が採用された車体の車両左斜め前方から見た斜視図である。
図2】前記補強構造を構成するロッカパネルとフロントピラーとの接合部の車両左斜め後方から見た斜視図である。
図3】前記補強構造の断面背面図(図2のIII-III線断面図)である。
図4】前記接合部を車室内右斜め前方側から見た斜視図である。
図5】前記補強構造の断面平面図(図3のV-V線断面図)である。
図6】前記補強構造の断面平面図(図3のVI-VI線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図において、1はルーフパネルを有しないオープンタイプの自動車の車体である。この車体1は、車幅方向左,右側部にて車両前後方向に延びる左,右のロッカパネル(ロッカ部材)2,2と、該ロッカパネル2の前端部に接合され、上方に延びる左,右のフロントピラー(ピラー部材)3,3と、前記ロッカパネル2の後部に接合され、上方に延びる左,右のセンタピラー4,4とを有する。また前記、左,右のセンタピラー4の後方には左,右のリヤフェンダ5,5が配設され、該リヤフェンダ5,5間にはバックパネル6が配設されている。また、7a,7bはフロントフロア,リヤフロアである。
【0018】
前記ロッカパネル2は、車幅方向外側に配置された横断面ハット形状のロッカアウタパネル2aと、車幅方向内側に配置された横断面ハット形状をなすロッカインナパネル2bとを閉断面を形成するように突き合わせ、それぞれのフランジ部2c,2dをスポット溶接により結合したものである。
【0019】
前記フロントピラー3は、車幅方向外側に配置された横断面ハット形状のピラーアウタパネル3aと、車幅方向内側に配置された横断面ハット形状をなすピラーインナパネル3bとを閉断面を形成するように突き合わせ、それぞれのフランジ部3c,3dをスポット溶接により結合したものである。
【0020】
そして前記ロッカパネル2の前端部には延長部10が上方に延びるように一体形成されている。この延長部10は、車両側方視で、その前壁部10aは略L字形状をなし、後壁部10bは略円弧状をなす箱状体である。前記延長部10は、車幅方向外側に位置する横断面ハット形状の延長アウタパネル11と、車幅方向内側に位置する横断面ハット形状の延長インナパネル12とを箱体をなすように突き合わせ、それぞれのフランジ部11a,12aをスポット溶接により結合したものである。
【0021】
ここで前記延長アウタパネル11は延長インナパネル12より上方に長く形成されており、該延長アウタパネル11の上端部11bは延長インナパネル12の上端部12bより高所に位置している。
【0022】
一方、前記フロントピラー3の、ピラーインナパネル3bはピラーアウタパネル3aより下方に長く形成されており、ピラーインナパネル3bの下端部3eはピラーアウタパネル3aの下端部3fより低所に位置している。
【0023】
そして前記ピラーインナパネル3bの下端部3eは前記延長インナパネル12の上端部12bと重ね合わされ、両者はスポット溶接により結合されている。
【0024】
同様に、前記ピラーアウタパネル3aの下端部3fは前記延長アウタパネル11の上端部11bと重ね合わされ、両者はスポット溶接により結合されている。
【0025】
前記ロッカパネル2に形成された前記延長部10と前記フロントピラー3との接続部内に、バルク部材13が、前記延長部10及びフロントピラー3の、それぞれのアウタパネル11,3aとインナパネル12,3bとを車幅方向に橋渡しするように挿入配置されている。このバルク部材13は鋼板製で、接合フランジ部13a,13bを有する横断面略コ字形状をなし、前記延長部10の底部から前記延長アウタパネル11の上端部11bとフロントピラー3のピラーアウタパネル3aの下端部3fとの溶接部を跨ぐように延びている。
【0026】
前記バルク部材13の車幅方向外側の接合フランジ部13aは、図3に×印で示すように、前記延長アウタパネル11にスポット溶接され、またその上端部13a′は、延長アウタパネル11及びピラーアウタパネル3aに三枚重ねでスポット溶接されている。
【0027】
一方、前記バルク部材13の車幅方向内側の接合フランジ部13bの下端部13b′′は延長インナパネル12の上端部12b付近にスポット溶接されている(図3の×印参照)。また前記接合フランジ部13bの上部13b′は、前記ピラーインナパネル3bの下端部付近に形成されたビード部3gに、該ビード部3gに形成された貫通孔3hを介してガス溶接等で固定されている。
【0028】
前記ビード部3gは、前記ピラーインナパネル3bの下部に、車両前後方向に延びるように、かつ前記バルク部材13側に突出するように2組形成されており、該ビード部3gは前記バルク部材13の接合フランジ部13bに当接している。
【0029】
本実施例に係る車体補強構造によれば、バルク部材13を、剛性の高いロッカパネル2に一体形成された略L字形状の延長部10の底部から該延長部10とピラーアウタパネル3aとの溶接部まで延設したので、フロントピラー3に作用する車幅方向の荷重は勿論、車両前後方向の荷重についてもロッカパネル2でも受け止めることができる。従ってその分、フロントピラー3に作用する荷重を減少させることができ、その結果、フロントピラー3の車幅方向及び前後方向の変形を効果的に抑制することができる。
【0030】
また前記バルク部材13を、ロッカパネル2の延長部10及びフロントピラー3のそれぞれのアウタパネル11,3aとインナパネル12,3bとを車幅方向に橋渡しするように設けたので、車幅方向の荷重によって、前記インナパネル12,3bとアウタパネル11,3aとが近接又は離間するのを抑制してフロントピラー3の内倒れを効果的に抑制することができる。
【0031】
さらにまた、前記バルク部材13は、ロッカパネル2の延長部10とフロントピラー3との接続部を補強しているので、この接続部を起点とする変形を効果的に抑制できる。
【0032】
上述の効果をロッカパネル2やフロントピラー3の板厚を上げることなく、また水平方向のバルク部材の数を増やすことなく実現できるので、重量,コストの低減、生産性の向上において有益である。
【0033】
さらにまた、ピラーインナパネル3bに、車両前後方向に延び、バルク部材13側に突出するビード部3gを形成したので、このビード部3gにより、車両前後方向の荷重をより一層確実に受け止めることができ、また前記ビード部3gを前記バルク部材13に溶接したので、バルク部材13をピラーインナパネル3bにより一層強固に固定でき、その結果、フロントピラー3の変形防止に大きな効果がある。
【0034】
このように、車幅方向の荷重による内倒れを防止するためのバルク部材13をピラーインナパネル3bに溶接固定するためのビード部3gの形成方向を車両前後方向とするだけで、車両前後方向の荷重よる変形についても確実に抑制でき、重量,コストの低減、生産性の向上においてさらに有益である。
【0035】
上述の補強構造は、ルーフパネルを備えていないため、ピラー部材の内倒れ変形に弱いオープンカーに特に有用である。
【0036】
なお、前記実施例では、ピラーインナパネル3bにビード部3gを設けたが、このビード部はアウタパネル側に設けても良く、またインナパネル,アウタパネルの両方に設けても良い。
【0037】
また前記実施例では、ビード部をバルク部材側に突出する凹状に形成したが、ビード部をバルク部材の反対側に突出する凸状に形成することも可能である。この場合は、バルク部材にこのビード部側に突出する突条を形成し、該突条とビード部とを溶接することとなる。
【0038】
さらにまた、前記実施例では、ロッカパネルとフロントピラーとの接続部の補強構造を説明したが、本発明は、ロッカパネルとセンタピラーとの接続部の補強についても適用できる。
【符号の説明】
【0039】
2 ロッカパネル(ロッカ部材)
2a ロッカアウタパネル
2b ロッカインナパネル
3 フロントピラー(ピラー部材)
3a ピラーアウタパネル
3b ピラーインナパネル
3g ビード部
10 延長部
11 延長アウタパネル
12 延長インナパネル
13 バルク部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6