(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る画像記録装置1の構成を示す図である。画像記録装置1は、印刷用紙である記録媒体9上にインクの微小液滴を吐出することにより、複数の記録媒体9上にカラー画像を順次記録する枚様式の印刷装置(いわゆる、インクジェットプリンタ)である。
【0019】
図1に示すように、画像記録装置1は、複数の記録媒体9を
図1中の(+Y)方向である移動方向に移動する移動機構2、移動機構2による搬送途上の記録媒体9に向けてインクの微小液滴を吐出する吐出ユニット3、移動機構2に記録媒体9を供給する供給部51、印刷終了後の記録媒体9を移動機構2から受け取る排出部52、並びに、これらの機構を制御する制御部4を備える。吐出ユニット3は、移動機構2の上方((+Z)側)に配置され、図示省略のフレームに固定される。
【0020】
移動機構2は、複数のステージ21と、環状のガイド22と、ベルト駆動機構23とを備える。複数のステージ21は、それぞれが1枚のシート状の記録媒体9を吸着保持する。ガイド22は、複数のステージ21が接続されたベルトを内部に備え、複数のステージ21を案内する。ベルト駆動機構23は、ガイド22内のベルトを
図1中における反時計回りに移動させることにより、記録媒体9を保持するステージ21を吐出ユニット3の下方(すなわち、(−Z)側)において(+Y)方向に移動する。
【0021】
図2は吐出ユニット3を示す底面図である。吐出ユニット3は、それぞれが互いに異なる色のインクを記録媒体9に向けて吐出する複数(本実施の形態では、4個)の吐出部であるヘッド31を備え、これらのヘッド31は同様の構造を有する。複数のヘッド31はY方向(すなわち、移動方向)に配列されて吐出ユニット3の取付部30に取り付けられる。各ヘッド31は、記録媒体9の移動方向であるY方向に垂直なX方向に配列される複数の吐出口を有する。なお、複数の吐出口は、必ずしもX方向に配列される必要はなく、Y方向に対して交差する方向に配列されていればよい。
【0022】
各ヘッド31の各吐出口から吐出されるインクの微小液滴のサイズは切替可能であり(すなわち、異なる量の微小液滴を吐出可能であり)、液滴のサイズが切り替えられることにより、当該液滴が記録媒体9上に着弾することにより記録媒体9上に形成されるドットのサイズも切り替えられる。本実施の形態では、インクの微小液滴のサイズが、ヘッド31から吐出可能な最大サイズである「大サイズ」、および、大サイズよりも小さく、ヘッド31から吐出可能な最小サイズである「小サイズ」の2種類の間で切り換えられることにより、記録媒体9上に形成されるインクのドットが「大ドット」および「小ドット」の間で切り換えられる。
【0023】
図3は、記録媒体9の一部を示す図である。
図3中では、記録媒体9上に設定された複数の記録画素95(以下、単に「画素95」という。)を細線にて示す。また、
図3では、大サイズの液滴により形成される大ドット96、および、小サイズの液滴により形成される小ドット97も併せて描いてる。
図3に示すように、小サイズのインクの微小液滴、すなわち、吐出ユニット3のヘッド31から吐出される複数サイズのインクの微小液滴のうち最小サイズのインクの微小液滴により記録媒体9上に形成されるドットの幅は、X方向およびY方向のそれぞれにおいて、画素95の幅よりも大きい。
【0024】
図2中の最も(−Y)側のヘッド31はK(ブラック)の色のインクを吐出し、Kのヘッド31の(+Y)側のヘッド31はC(シアン)の色のインクを吐出し、Cのヘッド31の(+Y)側のヘッド31はM(マゼンタ)の色のインクを吐出し、最も(+Y)側のヘッド31はY(イエロー)の色のインクを吐出する。なお、吐出ユニット3では、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト等の他の色用のインクジェットヘッド等も設けられてよい。
【0025】
画像記録装置1では、X方向に関し、各ヘッド31が記録媒体9上の記録領域の全体に亘って(本実施の形態では、記録媒体9のX方向の全体に亘って)設けられる。そして、制御部4の本体制御部41(
図4参照)により吐出ユニット3と移動機構2とが制御され、記録媒体9が、吐出ユニット3の複数のヘッド31に対向する位置を1回だけ通過することにより、記録媒体9への画像の記録が完了する。換言すれば、画像記録装置1では、記録媒体9に対するシングルパス印刷が行われる。
【0026】
制御部4は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶するROM、および、各種情報を記憶するRAMをバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムの構成となっている。
図4は、制御部4の機能を示すブロック図である。
図4では、制御部4に接続される画像記録装置1の構成の一部を併せて示す。制御部4は、上述の本体制御部41と、各種演算を行う演算部42とを備える。
【0027】
演算部42は、画像メモリ421と、複数のマトリクス記憶部422(SPM(Screen Pattern Memory)とも呼ばれる。)と、比較器423(ハーフトーン化回路)とを備える。画像メモリ421は、外部から入力されるカラーの元画像のデータ(以下、「元画像データ」という。)を記憶する。複数のマトリクス記憶部422は、複数の色成分に対応する閾値マトリクスがそれぞれ記憶されるメモリである。比較器423は、元画像データと閾値マトリクスとを色成分毎に比較する比較部である。なお、当該比較部はソフトウェアにて実現されてもよい。
【0028】
各マトリクス記憶部422には、大ドット用の閾値マトリクスである大ドット用マトリクス811と、小ドット用の閾値マトリクスである小ドット用マトリクス813とが記憶される。大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813はそれぞれ、不規則に配置されるドットの個数を変更することにより階調を表現するFM(Frequency Modulated)スクリーニングに用いられる閾値マトリクスである。
図4では1つのマトリクス記憶部422に記憶される大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813を図示しているが、他の色成分のマトリクス記憶部422にもそれぞれ、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813が記憶される。以下の説明では、大ドット用マトリクス811と小ドット用マトリクス813とをまとめて「マトリクスセット」とも呼ぶ。
【0029】
本体制御部41は、吐出制御部411と、移動制御部412とを備える。移動制御部412は、演算部42からの出力に基づいて、移動機構2による記録媒体9の吐出ユニット3に対する相対移動を制御する。吐出制御部411は、演算部42からの出力に基づいて、記録媒体9の相対移動に同期して吐出ユニット3の複数の吐出口からのインクの吐出を制御する。
【0030】
次に、画像記録装置1による画像記録について
図5を参照しつつ説明する。なお、
図5は1枚の記録媒体9に注目した画像記録の流れを示している。以下の説明ではブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの4つの色成分に対してそれぞれ準備されるマトリクスセットのうち一の色成分のマトリクスセットのみに注目するが、他の色成分のマトリクスセットについても同様の処理が行われる。
【0031】
画像記録装置1にて画像記録が行われる際には、まず、比較器423において、元画像データが示す各画素の画素値と、マトリクスセットの大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813が有する閾値とが比較されることにより、元画像がハーフトーン化され(すなわち、網掛け処理が行われ)、画像記録に用いられるハーフトーン画像データが生成される(ステップS11)。
【0032】
ここで、元画像のハーフトーン化(網点化)について説明する。
図6は、元画像および閾値マトリクスを抽象的に示す図である。
図6ではマトリクスセットの1つの閾値マトリクスを符号81にて示している。閾値マトリクス81では、記録媒体9の幅方向に対応する行方向(
図6中にてx方向として示す。)、および、移動方向に対応する列方向(
図6中にてy方向として示す。)に複数の要素が配列されており、元画像70においても行方向および列方向に複数の画素が配列されている。以下の説明では、元画像70は0から255の階調値(すなわち、各画素がとりうる画素値)にて表現されるものとする。
【0033】
元画像70のハーフトーン化の際には、元画像70を、
図6に示すように、同一の大きさの多数の領域に分割してハーフトーン化の単位となる繰り返し領域71が設定される。マトリクス記憶部422は1つの繰り返し領域71に相当する記憶領域を有し、この記憶領域の各アドレス(座標)に閾値が設定されることにより閾値マトリクス81を記憶している。そして、概念的には元画像70の各繰り返し領域71と各色成分の閾値マトリクス81とを重ね合わせ、繰り返し領域71の各画素の画素値と閾値マトリクス81の対応する閾値とが比較される。画素値と閾値との比較は、2種類のドットサイズに対応する2つの閾値マトリクス(すなわち、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813)に対して行われ、これにより記録媒体9上のその画素の位置に描画を行うか否か、および、描画されるドットのサイズが決定される。
【0034】
実際の動作では、
図4の比較器423が有するアドレス発生器からのアドレス信号に基づいて画像メモリ421から元画像70の1つの画素の画素値が読み出される。一方、アドレス発生器では当該画素に対応する繰り返し領域71中の位置を示すアドレス信号も生成され、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813の2つの閾値が特定されてマトリクス記憶部422から読み出される。2つの閾値では、大ドット用マトリクス811の閾値が大きく、小ドット用マトリクス813の閾値が小さい。そして、上記画素値と2つの閾値とが比較器423にて比較されることにより、出力画像であるハーフトーン画像の各画素の位置(すなわち、各描画位置)におけるドットサイズが順次決定される。
【0035】
具体的には、元画像70の画素値(以下、「入力画素値」という。)と大ドット用マトリクス811の閾値とが比較され、入力画素値が閾値よりも大きい場合には、ハーフトーン画像の対応する画素に値「2」が付与される。以下、ハーフトーン画像の画素値を「ハーフトーン画素値」という。入力画素値が大ドット用マトリクス811の閾値
以下の場合には、入力画素値と小ドット用マトリクス813の閾値とが比較される。入力画素値が小ドット用マトリクス813の閾値よりも大きい場合には、ハーフトーン画像の対応する位置にハーフトーン画素値「1」が付与され、閾値以下の場合にはハーフトーン画素値「0」が付与される。
【0036】
画像記録装置1では、最初に印刷される部分の各色成分のハーフトーン画素値の集合であるハーフトーン画像データが生成されると、移動制御部412が移動機構2を駆動することにより記録媒体9の移動方向への移動が開始される(ステップS12)。そして、ハーフトーン画像データの生成に並行して、記録媒体9の移動に同期しつつ吐出ユニット3のヘッド31が吐出制御部411により制御され、複数の吐出口からインクが吐出される(ステップS13)。
【0037】
ハーフトーン画像の各画素のX方向の位置はいずれかの吐出口に対応付けられており、吐出口の下方に到達した記録媒体9上の吐出位置(すなわち、画素の位置)に対応するハーフトーン画素値が「2」である場合には当該吐出位置に大ドットが形成され、「1」である場合には小ドットが形成される。また、ハーフトーン画素値が「0」である場合には当該吐出位置にドットは形成されない。
【0038】
上記印刷動作がブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれに関して行われることにより、記録媒体9上にカラーの元画像を表現するカラーのハーフトーン画像が記録される。既述のように記録媒体9は供給部51により逐次供給されるとともに画像記録後に排出部52に回収され、所望の枚数の記録媒体9上にハーフトーン画像の全体が記録されると、記録媒体9の供給が停止され、画像記録動作が終了する(ステップS14)。
【0039】
次に、マトリクスセットの特性について述べる。
図7では、一様な階調値の元画像を画像記録装置1にて記録する場合の吐出率を縦軸に示しており、横軸は元画像の階調値を示している。上述の吐出率とは、記録媒体9上の単位領域においてインクのドットが付与可能な位置として定義されている位置の個数を基準個数として、単位領域に対して一のヘッド31から実際に吐出されて付与されるドットの個数の基準個数に対する割合を示す値である。吐出率は、階調値が255(すなわち、記録媒体9上に表現可能な最大階調値)である場合には通常100%となり、階調値が0(すなわち、記録媒体9上に表現可能な最小階調値)である場合には0%となる。
【0040】
図7では、大サイズのインクの微小液滴の吐出率を符号A1を付す実線にて示す。以下の説明では、大サイズおよび小サイズのインクの微小液滴の吐出率をそれぞれ「大ドットの吐出率」および「小ドットの吐出率」という。
図7では、また、全サイズのインクの微小液滴の吐出率である合計吐出率、すなわち、大ドットおよび小ドットの吐出率の和を符号A3を付す破線にて示す。後述する
図10および
図11の縦軸および横軸、並びに、実線および破線は、
図7と同様のものを示す。
【0041】
大ドット用マトリクス811の閾値の範囲は64から254であり、小ドット用マトリクス813の閾値の範囲は0から115である。既述のように、マトリクスセットの2つの閾値マトリクスにおいて互いに対応する位置では、小ドット用マトリクス813の閾値よりも大ドット用マトリクス811の閾値の方が大きい。そして、1つの位置に大ドットが形成されると、小ドットは入力画素値が閾値を上回っても描画されない。
【0042】
図7に示すように、元画像の階調値が0から64まで増加するに従って、小ドットのみによる吐出率は、破線A3にて示すように0%から30%まで線形に増加する。階調値が64から115まで増加する際には、合計吐出率は、破線A3にて示すように
30%から45%まで線形に増加し、大ドットの吐出率は実線A1にて示すように0%から45%まで線形に増加する。破線A3と実線A1との差は、小ドットの吐出率に相当し、小ドットの吐出率は、階調値の増加に従って漸次減少する。破線A3にて示すように、階調値が64未満の範囲における合計吐出率の増加率(すなわち、階調値の増加に対する合計吐出率の増加の割合)は、階調値が64以上115未満の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きい。階調値が115から255まで増加する際には、大ドットのみによる吐出率が、実線A1にて示すように45%から100%まで線形に増加する。また、小ドットの吐出率は0%であり、小サイズのインクの微小液滴は吐出されない。
【0043】
マトリクスセットの各ドットサイズに対応する閾値マトリクスが生成される際には、例えば、特開2008−199154号公報に開示された方法にて元となる閾値マトリクスが作成され、閾値の範囲を必要に応じて狭めるとともに最小閾値がそのサイズのドットの出現階調値に合うように各閾値にオフセット値が加えられる。
【0044】
上述の階調値「115」および「64」をそれぞれ、「第1階調値」および「第2階調値」と呼ぶと、画像記録装置1では、上述の特性を有するマトリクスセットがマトリクス記憶部422に記憶されることにより、第1階調値および第2階調値が、実質的に制御部4に記憶される。第1階調値は、画像記録装置1が記録媒体9上に表現可能な最小階調値(0)よりも大きく、かつ、最小階調値(0)と最大階調値(255)との中間に位置する50%階調値(128)以下の範囲で適宜変更されてよい。また、第2階調値は、最小階調値(0)よりも大きく、かつ、第1階調値よりも小さい範囲で適宜変更されてよい。
【0045】
また、大サイズおよび小サイズのインクの微小液滴をそれぞれ、「第1液滴」および「第2液滴」と呼ぶと、画像記録装置1では、本体制御部41により移動機構2およびヘッド31が制御されることにより、最小階調値(0)以上、かつ、第2階調値(64)未満の階調値の範囲において、第2液滴のみが記録媒体9に向けて吐出される。第2階調値(64)以上、かつ、第1階調値(115)未満の階調値の範囲においては、第1液滴および第2液滴が記録媒体9に向けて吐出され、階調値の増加に従って合計吐出率(すなわち、第1液滴の吐出率と第2液滴の吐出率の和)が漸次増大するとともに、合計吐出率に占める第1液滴の吐出率の割合である第1液滴割合が漸次増大する。第1階調値(115)における合計吐出率は50%未満である。そして、第1階調値(115)以上の階調値の範囲において、第1液滴のみが記録媒体9に向けて吐出される。
【0046】
これにより、階調値が最小階調値(0)に近いハイライト領域において、記録媒体9に記録される画像の粒状性を改善することができる。また、記録媒体9上のドットの空間周波数が最大となって筋ムラが生じやすい50%階調値(128)、および、50%階調値(128)よりも大きい階調値の範囲において、ヘッド31から吐出可能な最大サイズのインクの微小液滴のみを使用して画像を記録することにより、インクの微小液滴の着弾位置の不安定性を軽減しつつ筋ムラの発生を抑制することができる。
【0047】
画像記録装置1では、第2階調値(64)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率が、第2階調値(64)以上第1階調値(115)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きいことにより、第1液滴の吐出が開始される第2階調値(64)近傍の階調値の範囲におけるトーンジャンプを抑制することができる。
【0048】
画像記録装置1では、制御部4において、元画像の画素値とマトリクスセットに含まれる閾値マトリクスの閾値とが比較されることにより、吐出ユニット3のヘッド31による全サイズのインクの微小液滴の吐出率が制御される。これにより、複数サイズのインクの微小液滴の吐出率を容易に制御することができる。
【0049】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る画像記録装置の制御部4の機能を示すブロック図である。
図8に示すように、第2の実施の形態に係る画像記録装置では、制御部4の各マトリクス記憶部422に、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813に加えて、中ドット用マトリクス812も記憶される。その他の構成は、
図1および
図2に示す画像記録装置1と同様であり、以下の説明において対応する構成に同符号を付す。
【0050】
第2の実施の形態に係る画像記録装置では、制御部4の吐出制御部411により吐出ユニット3が制御されることにより、各ヘッド31の各吐出口から吐出されるインクの微小液滴のサイズが、最大サイズである「大サイズ」、最小サイズである「小サイズ」、および、大サイズよりも小さく、かつ、小サイズよりも大きい「中サイズ」の3種類の間で切り換えられる。これにより、記録媒体9上に形成されるインクのドットが「大ドット」「小ドット」および「中ドット」の間で切り換えられる。
【0051】
中ドット用マトリクス812は、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813と同様に、不規則に配置されるドットの個数を変更することにより階調を表現するFMスクリーニングに用いられる閾値マトリクスである。以下の説明では、大ドット用マトリクス811、中ドット用マトリクス812および小ドット用マトリクス813をまとめて「マトリクスセット」とも呼ぶ。3つの閾値マトリクスの同じ位置では、大ドット用マトリクス811の閾値が最も大きく、小ドット用マトリクス813の閾値が最も小さい。また、中ドット用マトリクス812の閾値は、大ドット用マトリクス811および小ドット用マトリクス813の両閾値の間の値である。
【0052】
第2の実施の形態に係る画像記録装置による画像記録の流れは、第1の実施の形態とほぼ同様であるため、以下、
図5を参照しつつ説明する。画像記録が行われる際には、まず、
図8に示す比較器423において、画像メモリ421に記憶された元画像データ70(
図6参照)が示す各画素の画素値と、マトリクスセットの大ドット用マトリクス811、中ドット用マトリクス812および小ドット用マトリクス813が有する閾値とが比較されることにより、元画像がハーフトーン化されてハーフトーン画像データが生成される(ステップS11)。
【0053】
元画像のハーフトーン化の際には、上述のように、
図6に示す各繰り返し領域71の各画素の画素値と、3種類のドットサイズに対応するマトリクスセットの3つの閾値マトリクス(すなわち、大ドット用マトリクス811、中ドット用マトリクス812および小ドット用マトリクス813)の閾値とが比較される。これにより記録媒体9上のその画素の位置に描画を行うか否か、および、描画されるドットのサイズが決定される。
【0054】
実際の動作では、まず、元画像の画素値である入力画素値と大ドット用マトリクス811の閾値とが比較され、入力画素値が閾値よりも大きい場合には、ハーフトーン画像の対応する画素にハーフトーン画素値「3」が付与される。入力画素値が大ドット用マトリクス811の閾値
以下の場合には、入力画素値と中ドット用マトリクス812の閾値とが比較される。入力画素値が中ドット用マトリクス812の閾値よりも大きい場合には、ハーフトーン画像の対応する位置にハーフトーン画素値「2」が付与される。入力画素値が中ドット用マトリクス812の閾値
以下の場合には、入力画素値と小ドット用マトリクス813の閾値とが比較される。入力画素値が小ドット用マトリクス813の閾値よりも大きい場合には、ハーフトーン画像の対応する位置にハーフトーン画素値「1」が付与され、閾値以下の場合にはハーフトーン画素値「0」が付与される。
【0055】
画像記録装置では、最初に印刷される部分のハーフトーン画像データが生成されると、本体制御部41の移動制御部412により移動機構2が制御され、記録媒体9の移動方向への移動が開始される(ステップS12)。そして、ハーフトーン画像データの生成に並行して、記録媒体9の移動に同期しつつ複数の吐出口からインクが吐出される(ステップS13)。このとき、記録媒体9上の吐出位置(すなわち、画素の位置)に対応するハーフトーン画素値が「3」である場合には当該吐出位置に大ドットが形成され、「2」である場合には中ドットが形成され、「1」である場合には小ドットが形成される。また、ハーフトーン画素値が「0」である場合には当該吐出位置にドットは形成されない。
【0056】
上記印刷動作がブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれに関して行われることにより、記録媒体9上にカラーの元画像を表現するカラーのハーフトーン画像が記録される。そして、所望の枚数の記録媒体9上にハーフトーン画像の全体が記録されると、記録媒体9の供給が停止され、画像記録動作が終了する(ステップS14)。
【0057】
次に、第2の実施の形態に係るマトリクスセットの特性について述べる。
図9では、一様な階調値の元画像を画像記録装置にて記録する場合の吐出率を縦軸に示しており、横軸は元画像の階調値を示している。
図9では、大ドットの吐出率を符号A1を付す実線にて示し、大ドットの吐出率と中ドットの吐出率(すなわち、中サイズのインクの微小液滴の吐出率)との和を、符号A2を付す一点鎖線にて示す。また、全サイズのインクの微小液滴の吐出率である合計吐出率、すなわち、大ドット、中ドットおよび小ドットの吐出率の和を符号A3を付す破線にて示す。後述する
図12ないし
図14の縦軸および横軸、並びに、実線、一点鎖線および破線は、
図9と同様のものを示す。
【0058】
図9に示すように、大ドット用マトリクス811の閾値の範囲は75から254であり、中ドット用マトリクス812の閾値の範囲は51から102である。また、小ドット用マトリクス813の閾値の範囲は0から102である。既述のように、マトリクスセットの3つの閾値マトリクスにおいて互いに対応する位置では、小ドット用マトリクス813の閾値よりも中ドット用マトリクス812の閾値の方が大きく、中ドット用マトリクス812の閾値よりも大ドット用マトリクス811の閾値の方が大きい。そして、1つの位置に大ドットが形成されると、小ドットおよび中ドットは入力画素値が閾値を上回っても描画されず、1つの位置に中ドットが形成されると、小ドットは入力画素値が閾値を上回っても描画されない。
【0059】
元画像の階調値が0から51まで増加するに従って、小ドットのみによる吐出率は破線A3にて示すように0%から30%まで線形に増加する。階調値が51から75まで増加する際には、合計吐出率(小ドットおよび中ドットの吐出率の和)は破線A3にて示すように30%から38%まで線形に増加し、中ドットの吐出率は一点鎖線A2にて示すように0%から30%まで線形に増加する。破線A3と一点鎖線A2との差は、小ドットの吐出率に相当し、小ドットの吐出率は、階調値の増加に従って漸次減少する。破線A3にて示すように、階調値が51未満の範囲における合計吐出率の増加率は、階調値が51以上75未満の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きい。
【0060】
階調値が75から102まで増加する際には、合計吐出率(小ドット、中ドットおよび大ドットの吐出率の和)は破線A3にて示すように38%から40%まで線形に増加し、中ドットと大ドットの吐出率の和も一点鎖線A2にて示すように30%から40%まで線形に増加する。また、大ドットの吐出率も実線A1にて示すように0%から40%まで線形に増加する。破線A3と一点鎖線A2との差は、小ドットの吐出率に相当し、小ドットの吐出率は、階調値の増加に従って漸次減少する。一点鎖線A2と実線A1との差は、中ドットの吐出率に相当し、中ドットの吐出率も、階調値の増加に従って漸次減少する。階調値が75以上102未満の範囲では、各階調値における中ドットの吐出率は、小ドットの吐出率よりも大きい。破線A3にて示すように、階調値が51以上75未満の範囲における合計吐出率の増加率は、階調値が75以上102未満の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きい。
【0061】
階調値が102から255まで増加する際には、大ドットのみによる吐出率が、実線A1にて示すように40%から100%まで線形に増加する。また、小ドットおよび中ドットの吐出率は0%であり、小サイズおよび中サイズのインクの微小液滴は吐出されない。
【0062】
上述の階調値「102」「75」および「51」をそれぞれ、「第1階調値」「第2階調値」および「第3階調値」と呼ぶと、画像記録装置1では、上述の特性を有するマトリクスセットがマトリクス記憶部422に記憶されることにより、第1階調値、第2階調値および第3階調値が、実質的に制御部4に記憶される。第1階調値は、最小階調値(0)よりも大きく、かつ、50%階調値(128)以下の範囲で適宜変更されてよい。また、第2階調値は、最小階調値(0)よりも大きく、かつ、第1階調値よりも小さい範囲で適宜変更されてよく、第3階調値は、最小階調値(0)よりも大きく、かつ、第2階調値よりも小さい範囲で適宜変更されてよい。
【0063】
また、大サイズ、中サイズおよび小サイズのインクの微小液滴をそれぞれ、「第1液滴」「第2液滴」および「第3液滴」と呼ぶと、画像記録装置1では、最小階調値(0)以上、かつ、第3階調値(51)未満の階調値の範囲において、第3液滴のみが記録媒体9に向けて吐出される。第3階調値(51)以上、かつ、第2階調値(75)未満の階調値の範囲においては、第2液滴および第3液滴が記録媒体9に向けて吐出され、階調値の増加に従って合計吐出率(すなわち、第2液滴の吐出率と第3液滴の吐出率の和)が漸次増大するとともに、合計吐出率に占める第2液滴の吐出率の割合である第2液滴割合が漸次増大する。
【0064】
また、第2階調値(75)以上、かつ、第1階調値(102)未満の階調値の範囲において(すなわち、第1階調値未満の一部の階調値の範囲において)、第1液滴、第2液滴および第3液滴が記録媒体9に向けて吐出され、階調値の増加に従って合計吐出率(すなわち、第1液滴、第2液滴および第3液滴の吐出率の和)、並びに、第1液滴割合が漸次増大する。第1階調値(102)における合計吐出率は50%未満である。そして、第1階調値(102)以上の階調値の範囲において、第1液滴のみが記録媒体9に向けて吐出される。
【0065】
これにより、第1の実施の形態と同様に、階調値が最小階調値(0)に近いハイライト領域において、記録媒体9に記録される画像の粒状性を改善することができる。また、50%階調値(128)以上の階調値の範囲において、ヘッド31から吐出可能な最大サイズのインクの微小液滴のみを使用して画像を記録することにより、インクの微小液滴の着弾位置の不安定性を軽減しつつ筋ムラの発生を抑制することができる。
【0066】
第2の実施の形態に係る画像記録装置では、第2階調値(75)以上、かつ、第1階調値(102)未満の階調値の範囲において、第2液滴割合が第3液滴割合(すなわち、合計吐出率に占める第3液滴の吐出率の割合)よりも大きい。これにより、筋ムラの発生をさらに抑制することができる。
【0067】
また、第3階調値(51)以上第2階調値(75)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率が、第2階調値(75)以上第1階調値(102)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きいことにより、第1液滴の吐出が開始される第2階調値(75)近傍の階調値の範囲におけるトーンジャンプを抑制することができる。さらに、第3階調値(51)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率が、第3階調値(51)以上第2階調値(75)未満の階調値の範囲における合計吐出率の増加率よりも大きいことにより、第2液滴の吐出が開始される第3階調値(51)近傍の階調値の範囲におけるトーンジャンプを抑制することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0069】
例えば、
本発明に関連する技術に係る画像記録装
置のマトリクスセットでは、
図10に示すように、第2階調値(64)以上第1階調値(115)未満の階調値の範囲における合計吐出率A3が、50%未満の一定の値であってもよい。また、
第1の実施の形態に係る画像記録装置1のマトリクスセットでは、図11に示すように、第1階調値(115)未満の階調値の範囲における合計吐出率A3は、元画像の階調値の増加に従って線形に増加してもよい。
【0070】
本発明に関連する技術に係る画像記録装置のマトリクスセットでは、
図12に示すように、第3階調値(51)以上第1階調値(102)未満の階調値の範囲における合計吐出率A3が、50%未満の一定の値であってもよい。また、
第2の実施の形態に係る画像記録装置のマトリクスセットでは、図13に示すように、第1階調値(102)未満の階調値の範囲における合計吐出率A3、および、大ドットの吐出率と中ドットの吐出率との和A2は、元画像の階調値の増加に従って線形に増加してもよい。
【0071】
さらに、
図14に示すように、中ドットの吐出率(一点鎖線A2と実線A1との差)が0%となる第1階調値(102)よりも小さい階調値(88)において、小ドットの吐出率(破線A3と一点鎖線A2との差)が0%となってもよい。
図14に示す例では、階調値75以上88未満において(すなわち、第1階調値未満の一部の階調値の範囲において)、第1液滴、第2液滴および第3液滴が記録媒体9に向けて吐出され、階調値の増加に従って合計吐出率および第1液滴割合が漸次増大し、また、第2液滴割合が第3液滴割合よりも大きい。これにより、上記と同様に、筋ムラの発生を抑制することができる。
【0072】
第1および第2の実施の形態に係る画像記録装置のマトリクスセットでは、最大階調値よりも小さい階調値において合計吐出率が100%となってもよく、最大階調値における合計吐出率が100%未満であってもよい。
【0073】
閾値マトリクスによるハーフトーン化には、規則的に配列されたドットの集合であるクラスタの大きさを変えることにより階調を表現するAM(Amplitude Modulated)スクリーニングが用いられてもよい。あるいは、誤差拡散方式により元画像がハーフトーン化されてもよい。
【0074】
画像記録装置では、吐出ユニット3の各ヘッド31が吐出可能なインクの微小液滴のサイズの数は2または3に限定されず、4以上であってもよい。また、画像記録装置における元画像データの生成および印刷動作は並行して行われる必要はなく、本体制御部41内に十分大きなメモリを設けることが可能であれば、元画像全体のハーフトーン画像データの生成が完了してから画像記録動作が開始されてもよい。
【0075】
上述の画像記録装置では、記録媒体9が吐出ユニット3に対してY方向に相対的に移動するのであれば、例えば、停止している記録媒体9の上方にて、吐出ユニット3が移動機構2によりY方向に移動してもよい。画像記録装置の構造は、例えば、インターレス印刷を行う画像記録装置に適用されてもよく、また、長尺状のロール紙に画像を記録する画像記録装置に適用されてもよい。記録媒体9は、印刷用紙以外にフィルムや金属薄板等であってもよい。
【0076】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。