(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
気筒での燃料の燃焼状態を推測する手法の一として、燃焼の際に点火プラグの電極を流れるイオン電流を検出し参照するものが知られている(例えば、下記特許文献を参照)。オーバーリーン等の不良燃焼時には、正常燃焼時と比べてイオン電流のピークが低くなる。また、失火時には、イオン電流が検出されない。イオン電流の推移を計測し、計測値を判定のための閾値と比較することにより、気筒での燃焼が正常であるか否かの判定を下すことが可能である。
【0003】
気筒での燃焼が不良または失火と判定した累積の回数が所定値を超えた暁には、内燃機関の何れかの部位に異常があるものと見なし、その旨をユーザに報知する、具体的にはコックピット内の警告灯(エンジンチェックランプ)を点灯させることが通例である。
【0004】
しかし、イオン電流の計測値が閾値を下回っているからといって、必ずしも燃焼不良または失火を引き起こしているとは限らない。点火プラグの使用期間が長くなるにつれ、点火プラグの電極には燃料成分や潤滑油、添加剤等のデポジットが付着、堆積してゆく。とりわけ、絶縁性の物質を含むデポジットは、イオン電流の検出レベル、即ち点火プラグの電極に流れるイオン電流の量を低減させる電気抵抗のように働く。このため、燃料が適正に燃焼し燃焼室内で相当量のイオンまたはプラズマが発生していても、イオン電流の計測値が判定閾値を超えずに燃焼不良または失火であると誤判定するおそれが高まる。
【0005】
デポジットによる汚染は、点火プラグを清掃したり、交換したりすることで解消が可能である。だが、点火プラグを清掃または交換したとしても、暫くすれば再びデポジットが堆積した状態に戻り、イオン電流の検出レベルが低下する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0012】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。
【0013】
図2に、火花点火用の電気回路を示している。点火プラグ12は、点火コイル14にて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイル14は、半導体スイッチング素子であるイグナイタ13とともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0014】
本実施形態の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0からの点火信号iをイグナイタ13が受けると、まずイグナイタ13が点弧して点火コイル14の一次側に電流が流れ、その直後の点火タイミングでイグナイタ13が消弧してこの電流が遮断される。すると、自己誘導作用が起こり、一次側に高電圧が発生する。そして、一次側と二次側とは磁気回路及び磁束を共有するので、二次側にさらに高い誘導電圧が発生する。この高い誘導電圧が点火プラグ12の中心電極に印加され、中心電極と接地電極との間で火花放電する。
【0015】
ECU0は、燃料の爆発燃焼の際に気筒1の燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、このイオン電流を参照して、燃焼状態の判定を行う。
【0016】
図2に示すように、本実施形態では、火花点火用の電気回路に、イオン電流を検出するための回路を付加している。この検出回路は、イオン電流を効果的に検出するためのバイアス電源部15と、イオン電流の多寡に応じた検出電圧を増幅して出力する増幅部16とを備える。バイアス電源部15は、バイアス電圧を蓄えるキャパシタ151と、キャパシタ151の電圧を所定電圧まで高めるためのツェナーダイオード152と、電流阻止用のダイオード153、154と、イオン電流に応じた電圧を出力する負荷抵抗155とを含む。増幅部16は、オペアンプに代表される電圧増幅器161を含む。
【0017】
点火プラグ12の中心電極と接地電極との間のアーク放電時にはキャパシタ151が充電され、その後キャパシタ151に充電されたバイアス電圧により負荷抵抗155にイオン電流が流れる。イオン電流が流れることで生じる抵抗155の両端間の電圧は、増幅部16により増幅されてイオン電流信号hとしてECU0に受信される。
【0018】
図3に、正常燃焼における、イオン電流(図中実線で示す)及び気筒1内の燃焼圧力(筒内圧。図中破線で示す)のそれぞれの推移を例示している。イオン電流は、点火のための放電中は検出することができない。正常燃焼の場合のイオン電流は、火花点火の終了後、化学反応により、圧縮上死点の手前で減少した後、熱解離によって再び増加する。また、燃焼圧がピークを迎えるのとほぼ同時にイオン電流も極大となる。
【0019】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0020】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0021】
内燃機関の運転制御を司るECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0022】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、燃焼室内での混合気の燃焼に伴って生じるイオン電流を検出する回路から出力されるイオン電流信号h等が入力される。
【0023】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k等を出力する。
【0024】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、トルクコンバータ7のロックアップを行うか否か、自動変速機8、9の変速比といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、kを出力インタフェースを介して印加する。
【0025】
以降、気筒1における燃焼状態の判定、並びに内燃機関のダイアグノーシスに関して詳述する。本実施形態のECU0は、各気筒1毎に、燃焼の機会が訪れる都度、その燃焼が正常に行われたか否かを判定する。
【0026】
燃焼の正否の判定手法は、幾つか考えられる。基本的には、膨張行程に伴い気筒1の燃焼室内で発生し、当該気筒1の点火プラグ12の電極を流れる、イオン電流の検出信号hを参照して判定を行う。即ち、
図3に例示しているように、ECU0は、点火後の燃焼期間において、イオン電流信号hが判定閾値を上回っている期間T(クランク角度(CA)または時間)の長さを計測し、その長さがある下限値よりも長ければ正常燃焼と判定する一方、下限値よりも短ければ不良燃焼または失火と判定する。
【0027】
判定閾値の大きさは、内燃機関の運転領域、つまりエンジン回転数及び/または要求負荷(気筒1に充填される吸気量、燃料噴射量)の多寡に応じて変動し得る。例えば、ECU0のメモリには、エンジン回転数及び/または要求負荷等と、これに対応する判定閾値との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在のエンジン回転数及び/または要求負荷等をキーとして当該マップを検索し、対応した判定閾値を知得する。そして、その判定閾値を用い、期間Tの演算を行う。
【0028】
ところが、常に
図3に示したようなイオン電流信号hの波形を得られるとは限らない。点火プラグ12の電極には、その使用期間が長くなるにつれて、デポジットが徐々に付着、堆積してゆく。デポジットとして、燃料や潤滑油に添加された添加剤等に由来した二酸化ケイ素のような絶縁性の物質が多量に付着すると、点火プラグ12の中心電極と接地電極とが恒常的に絶縁してしまう。さすれば、気筒1の燃焼室内に燃焼に起因したイオンまたはプラズマが発生しているにもかかわらず、電極間にイオン電流が流れないようになる。
【0029】
窮極的には、
図4に例示するように、電流信号hが判定閾値を上回ることがない、または電流信号hが判定閾値を上回る期間Tが常に短い「下限張り付き」の状況に陥る。この「下限張り付き」は、気筒1の燃焼室内で不良燃焼または失火した場合の他、
図2に示している火花点火用の回路またはイオン電流検出用の回路の何れかの部位で断線した場合や、インジェクタ11またはイグナイタ13が故障した場合等にも起こる。
【0030】
気筒1における燃焼不良または失火が疑われる事象、即ち、イオン電流信号hが判定閾値を上回らないかイオン電流信号hが判定閾値を上回る期間Tが下限値よりも短いことをECU0が検知したとしても、それが必ず燃焼不良または失火であることを意味してはいない。イオン電流信号hを参照して燃焼不良または失火であると複数回判定した場合であっても、気筒1における点火、そして内燃機関の運転に支障はないことが多い。故に、即時に内燃機関を検査する必要性は乏しい。
【0031】
これに対し、内燃機関のクランクシャフトの回転速度を参照して、燃焼の正否を判定することもできる。具体的には、回転速度を示唆するパラメータとして、クランクシャフトが所定角度(例えば、30°CA)回転するのに要した時間を反復的に計測し、その計測された回転速度が、何れかの気筒1の膨張行程に起因して増速する回転速度の予想値と比較して所定以上遅くなった場合に、当該気筒1にて不良燃焼または失火したものと判断する。
【0032】
気筒1における燃焼不良または失火が疑われる事象、即ち、クランクシャフトの実測回転速度が予想よりも遅くなった(気筒1における膨張行程を経たにもかかわらず増速しない)ことをECU0が検知したときには、内燃機関の運転に支障を来すほどの重篤な問題が発生している蓋然性が高い。故に、即時に内燃機関を検査する必要がある。
【0033】
他の手法として、各気筒1における圧縮行程ないし膨張行程に亘る期間の燃焼室内温度及び/または燃焼室内圧力を計測して、燃料不良または失火の有無を判定することも既知である。燃焼室内温度及び/または燃焼室内圧力が、要求負荷(吸気量及び燃料噴射量)から予想される値を下回るならば、不良燃焼または失火と判定する。
【0034】
図5及び
図6に、本実施形態のECU0がプログラムに従い実行する、燃焼状態判定処理の手順の例を示している。
図5及び
図6に示す手順は、各気筒1毎に個別に実行するものである。
【0035】
ECU0は、対象の気筒1の膨張行程中において、イオン電流信号hが判定閾値を上回る期間Tを計測する(ステップS1)。そして、この期間Tの長さが正常範囲内にあるか否かを判断する。期間Tがある下限値以上かつある上限値以下であるならば、当該気筒1の膨張行程における燃焼は正常であったと判定される。
【0036】
期間Tが下限値を超えて短い場合には(ステップS2)、当該気筒1において燃焼不良または失火が発生したと判定して、ECU0のメモリまたはCPUのレジスタに記憶保持している、失火検知回数のカウンタを増加させる(ステップS3)。
【0037】
しかして、失火検知回数のカウンタが所定値以上となっているならば(ステップS4)、そのときの内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータを取得する(ステップS5)。内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータの例としては、以下を挙げることができる。
・出荷時若しくは前回の検査(メンテナンス)時からの累積走行距離。走行距離は、オドメータまたはトリップメータから知得することができ、車速センサを介して検出した車速を時間積分して算出することもできる
・出荷時若しくは前回の検査時からの内燃機関の累積稼働時間(または、気筒1における燃焼の累積回数、クランクシャフトの累積回転回数)
・出荷時若しくは前回の検査時からの累積トリップ回数。1トリップは、イグニッションスイッチのONによる機関の始動からイグニッションスイッチのOFFによる機関の停止までの期間
累積走行距離、累積稼働時間または累積トリップ回数等は、例えば、サービスマン等が点検整備を行う際にECU0に何らかの操作を行い、または何らかの指令信号を入力することでリセットされる。
【0038】
その上で、内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータが所定条件を満足している、例えば、出荷時若しくは前回の検査時からの累積走行距離、累積稼働時間または累積トリップ回数等が所定以上である場合に(ステップS6)、内燃機関に異常がある旨を出力する(ステップS7)。
【0039】
ステップS6では、出荷時若しくは前回の検査時からある程度以上長い期間が経過しているか否かを判断している。出荷時には、点火プラグ12を含めた内燃機関の各部は新品である。また、前回の検査時には、点火プラグ12が清掃または交換されているであろう。出荷時若しくは前回の検査時から経過した期間が短い場合には、点火プラグ12の電極の汚損も少なく、敢えてこれを清掃したり交換したりする必要はないと考えられる。
【0040】
翻って、出荷時若しくは前回の検査時からの経過期間が長い場合には、点火プラグ12の電極の汚損が著しく火花点火に支障を来しているおそれがあり、あるいは、点火プラグ12以外の部位に何らかの故障が生じているおそれがある。よって、ステップS7にて、異常の旨をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で報知し、内燃機関の検査を促す。例えば、車両のコックピット内に設けられた警告灯を点灯させたり、ディスプレイに警告を表示させたり、ブザーまたはスピーカから警告音を音声出力させたりする。
【0041】
加えて、ステップS7では、失火検知回数のカウンタ値や、そのときの内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータ、そのときの日時のタイムスタンプ等の情報をECU0のメモリに書き込んで記憶保持させる。この情報は、事後の検査や修理の作業における異常の原因の究明の助けとなる。
【0042】
さらに、ECU0は、イオン電流信号hを参照する上述の手法以外の判定手法を用いて、気筒1における燃焼不良または失火が発生したか否かを判定する。例えば、対象の気筒1の膨張行程中において、クランクシャフトの回転速度(クランクシャフトが所定角度回転するのに要した所要時間)を計測し(ステップS8)、その回転速度が予想範囲内にあるか否かを判断する。クランクシャフトの回転速度の実測値が予想値を上回っているか、予想値から実測値を減算した差分が所定未満であるならば、当該気筒1の膨張行程における燃焼は正常であったと判定される。
【0043】
予想値から実測値を減算した差分が所定以上である場合には(ステップS9)、当該気筒1において燃焼不良または失火が発生したと判定する。そして、ECU0のメモリまたはCPUのレジスタに記憶保持している、失火検出回数のカウンタを増加させる(ステップS10)。このカウンタは、イオン電流信号hを参照した失火検知回数のカウンタ(ステップS3でインクリメントし、ステップS4で参照するもの)とは別個のカウンタとしてもよいし、同じカウンタとしてもよい。
【0044】
しかして、失火検知回数のカウンタが所定値以上となっているならば(ステップS11)、そのときの内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータを取得する(ステップS12)。そして、内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータが所定条件を満足している、例えば、出荷時若しくは前回の検査時からの累積走行距離、累積稼働時間または累積トリップ回数等が所定以上である場合に(ステップS13)、内燃機関に異常がある旨を出力する(ステップS14)。
【0045】
ステップS12にて取得するパラメータは、ステップS5にて取得するパラメータと同種のものであってもよく、別種のものであってもよい。また、ステップS13における所定条件は、ステップS6における所定条件と同じであってもよく、ステップS6における所定条件とは異なっていてもよい。
【0046】
本実施形態では、内燃機関の気筒1における燃焼不良または失火が疑われる事象を検知するとともに、当該事象を検知したときの内燃機関の稼働期間の長さを示すパラメータを知得し、前記パラメータが所定条件を満足している場合に、内燃機関に異常がある旨を出力することを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成したため、燃焼不良または失火をもたらすような内燃機関の異常の有無の判断の精度をより高めることができる。
【0047】
本実施形態によれば、真に必要な頻度で点検整備を実施することが可能となる。並びに、ユーザ毎の特性(例えば、車両の運転の頻度、走行距離等)の違いを加味して精確な判断を下すことができる。
【0048】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。