(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乗客コンベアの移動手摺りを稼動させた状態で、前記移動手摺りの凹部底面を、カメラを用いて撮影し、前記カメラの撮影画像から前記移動手摺りの劣化状態を診断する移動手摺り劣化診断装置において、
前記カメラが固定されると共に前記移動手摺りの凹部内に配置されるカメラ取付機構と、
前記カメラ取付機構を前記凹部底面および凹部両側面に接触した状態で当該凹部の長手方向の軸線に沿って追従させる追従機構と、
一端が前記カメラ取付機構に、他端が前記乗客コンベアを構成する不稼動部品にそれぞれ取り付けられ、前記追従機構による前記カメラ取付機構の追従動作を許容した状態で前記カメラ取付機構を前記不稼動部品に支持させる取付部材と、
を備え、
前記追従機構は、
前記移動手摺りの凹部底面に接触して回転する車輪と、
前記移動手摺りの一方側の凹部側方端部に接触する固定側ガイドと、
前記移動手摺りの他方側の凹部側方端部に弾性力を付与された状態で接触する可動側ガイドと、
を含むことを特徴とする移動手摺り劣化診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る移動手摺り劣化診断装置が取り付けられる乗客コンベアとしてのエスカレーターの概要構成を示す斜視図である。乗客コンベアとしては、エスカレーターの他に例えば移動歩道などもあるが、本実施形態では、エスカレーターを例にとって説明する。
【0013】
同図において、エスカレーター100は、乗客が乗るステップ101と、ステップ101の進行方向と同方向に移動する移動手摺り102を備えている。移動手摺り102は、ステップ101の進行方向に対してステップ101の左右両側に設けられている。
【0014】
移動手摺り102は無端状に構成され、ステップ101の両側にステップ101の移動方向と平行に設けられた欄干103に沿って周回するようになっている。すなわち、移動手摺り102は、欄干103の上方側ではステップ101の進行方向と同方向に移動し、欄干103の端部に至ると円弧状に下方に移動して上下逆の状態でスカートガード等を備えたデッキ104内部に引き入れられる。そして、デッキ104内を通って欄干103の反対端部に至り、上下逆の状態でデッキ104から外部に出て円弧状に上方に移動して欄干103の上方側に戻るという循環をしている。また、デッキ104内部には移動手摺り102を駆動する駆動装置等が設けられている。
【0015】
図2は
図1のエスカレーター100の概略構成を示す図で、側面から見た状態を示す。エスカレーター100は上階の床下と下階の床下に埋め込まれると共にその間に掛け渡されたフレーム105を備えている。そして、上階の床下に設けられた図示しない駆動装置により回転されるスプロケット106と下階の床下に設けられた従動スプロケット107に図示しないチェーンを巻きかけ、そのチェーンに
図1に示す複数のステップ101を無端状に設けている。
【0016】
移動手摺り102は
図2に示すように移動手摺り駆動用のターミナルギア108によって駆動される。ターミナルギア108は図示しない駆動装置によって回転するスプロケット106とチェーン109により連結され、同期回転するようになっている。これによりスプロケット106による駆動力を受けて、移動手摺り102とステップ101は同じ速度で同方向に駆動される。
【0017】
デッキ104およびフレーム105内はエスカレーター100の種々の構成部品が多数配置されており、デッキ104の内部に何らかの装置を取り付けることはスペース的に厳しいが、
図2に示すように移動手摺り102にたるみを持たせた移動手摺りたるみ部Aが存在する。この移動手摺りたるみ部Aは移動手摺り支持ガイド110に支持され、断面凹状の移動手摺り102が移動手摺り102の帆布面である凹部位を上方に向け、その上方にスペースを有する状態となっている。
【0018】
このような構成を有するエスカレーター100に対して、本実施形態に係る移動手摺り劣化診断装置はエスカレーター100を構成する不稼動部品であるフレーム105に取り付けられ、デッキ104およびフレーム105内を移動してくる移動手摺り102の復路側の移動手摺りたるみ部Aで移動手摺り102の劣化診断のための計測を行う。
【0019】
図3は本実施形態に係る移動手摺り劣化診断装置をエスカレーター100に取り付けた状態を示すエスカレーターの要部斜視図である。同図に示すように、移動手摺り劣化診断装置1は、エスカレーター100の移動手摺り102を稼動させた状態で、移動手摺り102の凹部102h内の帆布面を、カメラ2を用いて撮影し、カメラ2の撮影画像をデータ処理装置10に送る。データ処理装置10では、送られてきたカメラ2の撮影画像から移動手摺り102の劣化状態を診断する。
【0020】
このような移動手摺り劣化診断装置1は、移動手摺り102の状態を撮影するカメラ2と、カメラ2が固定されると共に移動手摺り102の凹部102h内に配置されるカメラ取付機構3と、一端がカメラ取付機構3に取り付けられると共に他端がフレーム105に取り付けられる取付部材としてのアーム型ブラケット4とを備えている。
【0021】
本実施形態の移動手摺り劣化診断装置1は、診断測定において、
図3に示すように移動手摺り劣化診断装置1のカメラ2を、接続線によりPCなどのデータ処理装置10に接続して相互に通信を行うようにし、カメラ2の撮影動作や撮影された画像の蓄積等をデータ処理装置10で行う。そして、カメラ2を移動手摺り102の裏面の凹部底面102aの帆布面に設置して撮影を行い、その画像1枚ごとに帆布の劣化損傷状態をデータ処理装置10のプログラムによりソフト的に劣化あるいは正常品の判定を行うようにしている。
【0022】
図3に示した例では、移動手摺り劣化診断装置1とデータ処理装置10はケーブル10aによって接続され、データが送信されるが、無線で送信するようにすることもできる。また、移動手摺り102の劣化あるいは正常品の判定はプログラムで行うのではなく、撮影された画像を保守員が確認して判断するようにしてもよい。
【0023】
図4は
図3に示したカメラおよびカメラ取付機構を示す上面図、
図5は
図4において矢印B方向から見たカメラおよびカメラ取付機構の側面図、
図6は
図3における移動手摺り劣化診断装置を移動手摺りの凹部に取り付けた状態を示す図である。
【0024】
図4ないし
図6において、カメラ取付機構3は、移動手摺り102の凹部底面102aを回動する第1ないし第4の車輪5a,5b,5c,5dと、移動手摺り102の一方側の凹部側方端部(以下、第1の端部と称す。)102bに接触する第1および第2の固定側ガイド6a,6bと、移動手摺り102の他方側の凹部側方端部(以下、第2の端部と称す。)102cに圧接する第1および第2の可動側ガイド7a,7bとを備え、これらはカメラ取付機構3の筐体8に固定されている。
【0025】
筐体8は板材により断面L字状に形成された第1および第2の車輪固定ブラケット8a,8bと、筐体本体8cと、カメラ照明装置取付部材8dとから構成されている。第1ないし第4の車輪5a〜5dは、車軸によって第1および第2の車輪5a,5b、第3および第4の車輪5c,5dがそれぞれ連結されており、この車軸を支える部材がそれぞれ第1および第2の車輪固定ブラケット8a,8bに固定されている。同様に、第1および第2の固定側ガイド6a,6bと、第1および第2の可動側ガイド7a,7bもそれぞれ第1および第2の車輪固定ブラケット8a,8bにそれぞれ固定されている。
【0026】
カメラ2は、
図5および
図6に示すようにカメラ2の撮影レンズ部分2aが移動手摺り102の凹部底面102aに対向した状態でカメラ照明装置取付部材8dを介して筐体本体8cに固定されている。さらに、筐体本体8cには
図4に示すようにカメラ2の周囲を囲むように円環状に形成された照明装置9がカメラ照明装置取付部材8dを介して取り付けられている。この照明装置9には多数のLEDライト9aが照明装置9に沿って撮影レンズ部分2aの回りに円環状に配置されている。
【0027】
第1および第2の固定側ガイド6a,6bと、第1および第2の可動側ガイド7a,7bは、カメラ2による撮影画像での移動手摺り102の長手方向への軸線(
図4の矢印Bと平行な軸線)Xの位置が撮影画像によって大きく異なることがないよう、移動手摺り102の
図5における左右方向(矢印C方向)の挙動に対して、カメラ取付機構3を追従させるためのものである。
【0028】
第1および第2の固定側ガイド6a,6bは筐体8に対して軸が固定されており、移動手摺り102の第1の端部102bに接触して回転するローラからなる。第1および第2の可動側ガイド7a,7bはそれぞれ一端が第1および第2の軸71a,71bを中心として回転可能に固定され、他端に第3および第4の軸71c,71dがそれぞれ固定された第1および第2のローラ保持部材72a,72bと、前記第3および第4の軸71c,71dに回転可能に保持された第1および第2のローラ73a,73bと、第1および第2のローラ73a,73bを第1および第2の軸71a,71bを中心としてそれぞれ第1および第2の固定側ガイド6a,6bから離れる方向に扇形状に回転させる力を付与する第1および第2のバネ74a,74bとから構成されている。なお、第1の固定側ガイド6aと第1の可動側ガイド7aの第1のローラ73a、第2の固定側ガイド6bと第2の可動側ガイド7bの第2のローラ73bが前記
図4の矢印Bと平行であって、前記第1および第2の端部102b,102c間の中央を通る軸線Xを挟んでほぼ対称な位置に配置されている。
【0029】
このように構成されたカメラ取付機構3は、移動手摺り102の凹部102hに装着されたとき、
図5に示すように、第1および第2の固定側ガイド6a,6bが第1の端部102b側に、第1および第2の可動側ガイド7a,7bが第2の端部102c側に、それぞれ第1および第2のバネにより弾性的に加圧された状態となっている。そのため、移動手摺り102が移動すると、第1および第2のローラ73a,73bが移動手摺り102の第2の端部102cに圧接された状態で回転する。そして、この押圧力によって第1および第2の可動側ガイド7a,7bはカメラ取付機構3を第1および第2の固定側ガイド6a,6bの方向へ移動させようとする。
【0030】
しかし、第1および第2の固定側ガイド6a,6bは移動手摺り102の第1の端部102bに接触し、位置が規制されているため、カメラ取付機構3は第1および第2の固定側ガイド6a,6bの方向へ移動することはない。その結果、カメラ取付機構3は移動手摺り102の左右方向への挙動に追従することになる。従ってカメラ2による撮影視野2bは移動手摺り102の軸線Xから大きく外れて動くことはない。
【0031】
また、
図5および
図6に示すように移動手摺り102の凹部底面102aを回動する第1ないし第4の車輪5a〜5dは、カメラ2およびカメラ取付機構3の自重により常に移動手摺り102の凹部底面102aに接触した状態を保ち、これにより移動手摺り102の軸線Xに対する上下方向(
図5および
図6における上下の方向)の挙動にカメラ取付機構3を追従させる。従ってカメラ2と移動手摺り102の凹部底面102aとの間の距離の変化が抑制され、視野2bの範囲が大きく変化することはない。すなわち、撮影画像の縮尺が撮影画像ごとに大きく変化することもなくなる。なお、カメラ2およびカメラ取付機構3の自重が軽く、常に移動手摺り102の凹部底面102aに接触した状態を保持することが難しければ、錘を付加して接触状態を保持できるようにする。
【0032】
このように本実施形態では、上下左右の動きに対してカメラ取付機構3が追従し、移動手摺り102との相対位置、特に軸線Xを基準とした相対位置ができるだけ同一の位置となるように両者の相対位置が規定される。そのため、移動手摺り102に膨らみや縮み、亀裂など激しい劣化が生じた場合でも常にほぼ一定の範囲で撮影することができる。これにより画像を用いた診断の精度を向上させることができる。
【0033】
また、カメラ2と照明装置9およびカメラ2により撮影される撮影部位の相対位置が互いに固定された状態で、照明装置9がカメラ取付機構3に取り付けられているので、カメラ2および照明装置9と対象物である移動手摺り102との距離を常にほぼ一定にして撮影を行うことができる。その結果、対象物の輝度むらを抑え、精度の高い劣化判定を行うことが可能となる。
【0034】
図7はアーム型ブラケット4の正面図、
図8はアーム型ブラケット4の連結部11とアーム部13の連結部分を示す上面図、
図9はアーム型ブラケット4の固定部12とアーム部13の連結部分を示す上面図である。
【0035】
図7に示すようにアーム型ブラケット4は、連結部11、固定部12およびアーム部13から基本的に構成されている。連結部11はアーム部13の一端に設けられ、固定部12はアーム部13の他端に設けられている。アーム部13は連結部11を介してカメラ取付機構3に取り付けられ、固定部を介してフレーム105に取り付けられる。
【0036】
アーム部13は、第1ないし第3のアーム16,17,18を備え、第1のアーム16の連結部11側に第1の回転部14が、第3のアームの固定部12側に第2の回転部15がそれぞれ設けられている。第1のアーム16は一端で連結部11と接続され、他端で第2のアーム17の一端と接続されている。第2のアーム17は一端で第1のアーム16の他端と接続され、他端で第3のアーム18の一端と接続されている。第3のアームは一端で第2のアーム17の他端と接続され、他端で固定部12と接続されている。
【0037】
第2のアーム17は、断面コの字状に形成され、コの字状上下部が第1のアーム16の上下端部と摺動するようになっている。また、その長手方向に沿って長穴17aが形成されている。そして、第1のアーム16の他端側に設けられた穴と第2のアーム17に設けられた長穴17aに、ともにネジ19を挿通して共締めすることにより固定することができる。このように形成された第1のアーム16と第2のアーム17は、ネジ19を緩めることでネジ19の軸が長穴17aに沿って移動し、ネジ19を締めるとその位置で第1のアーム16と第2のアーム17の相対位置が固定される。これにより第1のアーム16と第2のアーム17の2つのアームによる長さを長穴17aの範囲で変更することができる。
【0038】
同様に、第3のアーム18も断面コの字状に形成され、コの字状上下部が第2のアーム17の上下端部と摺動するようになっている。また、その長手方向に沿って長穴18aが形成されている。そして第2のアーム17の他端側に設けられた穴と第3のアーム18に設けられた長穴18aに、ネジ20を挿通して共締めすることにより固定することができる。従って第2のアーム17と第3のアーム18も、第1のアーム16と第2のアーム17と同様に、ネジ20を緩めることによってネジ20の軸が長穴18aに沿って移動し、ネジ20を締めるとその位置で第2のアーム17と第3のアーム18の相対位置が固定される。これにより第2のアーム17と第3のアーム18の2つのアームによる長さを長穴18aの範囲で変更することができる。
【0039】
このように第1ないし第3のアーム16,17,18を構成しているので、アーム部13は、その長さが長穴17a,18aの両者の範囲で可変となっている。このような構成により、様々な形態のエスカレーター100にあわせてアーム部13の長さを調整して取り付けることができる。これにより移動手摺り劣化診断装置1の汎用性を向上させることが可能となる。
【0040】
また、第1の回転部14の一端側は、
図7に矢印Dで示すように、第1のアーム16の側面に対して垂直に設けられた第1の軸14aに関して所定範囲回転可能に第1のアーム16の一端側に取り付けられている。第1の回転部14の他端側は、
図8に矢印Eで示すように、第1のアーム16の側面に対して平行に設けられた第2の軸14bに関して所定範囲回転可能に連結部11に取り付けられている。このように第1および第2の軸14a,14bは第1の回転部14において互いに直交する向きに設けられている。これにより、アーム部13は連結部11に対して移動手摺り102の凹部底面102aに対してほぼ平行な方向とほぼ垂直な方向に所定範囲で回転することが可能であり、カメラ取付機構3は移動手摺り102の傾きに対しても2軸方向で追従することができる。
【0041】
同様に、第2の回転部15の一端側は、
図7に矢印Fで示すように、第3のアーム18の側面に対して垂直に設けられた第3の軸15aに関して所定範囲回転可能に第3のアーム18の他端側に取り付けられている。第2の回転部15の他端側は、
図9に矢印Gで示すように、第3のアーム18の側面に対して平行に設けられた第4の軸15bに関して所定範囲回転可能に固定部12に取り付けられている。このように第3および第4の軸15a,15bは固定部12において互いに直交する向きに設けられている。これにより、アーム部13は固定部12に対して2軸方向で追従することができる。
【0042】
このように、カメラ固定機構3とアーム型ブラケット4の連結部分が上下左右に自由に動き、さらにエスカレーター100のフレーム105に固定した固定部12との連結部分においても上下左右に自由に動くので、移動手摺り劣化診断装置1のフレーム105への取り付け精度をさほど考慮する必要がなく、作業性も向上する。
【0043】
図10は
図7の連結部11を拡大して示す左側面図である。同図に示すように、連結部11は上面に備えられた板状の部材11cから第2の車輪固定ブラケット8a,8bの側部をスライド可能に保持する第1および第2の支え板11a,11bを備えている。また、連結部11には固定ピン21が設けられている。固定ピン21は下方に向かって弾性力が付与されており、通常時は連結部11の板状の部材11cの下面から固定ピン21の軸部21aの先端が突出するようになっている。
【0044】
図4に示すように、第1および第2の車輪固定ブラケット8a,8bにはそれぞれ軸部21aを挿入可能な第1および第2の挿入孔22a,22bが設けられている。カメラ取付機構3と連結部11の連結は、例えば、
図6に示すように連結部11と第2の車輪固定ブラケット8bを連結する場合、下記の工程により行われる。
【0045】
すなわち、
・連結部11の板状の部材11cと第1および第2の支え板11a,11bとの間の空間11dに第2の車輪固定ブラケット8bを挿入する。
【0046】
・第1および第2の支え板11a,11bに第2の車輪固定ブラケット8bの側部を保持させた状態でスライドして挿入して行く。
【0047】
・固定ピン21の軸部21aと第2の車輪固定ブラケット8bの端部が干渉したら固定ピン21を引き上げる。
【0048】
・固定ピン21を引き上げた状態で、第2の車輪固定ブラケット8bをさらに挿入し、固定ピン21の引き上げを解除する。
【0049】
・固定ピン21の引き上げを解除した状態で、第2の車輪固定ブラケット8bをさらに挿入する。そして、固定ピン21の軸部21aが第2の車輪固定ブラケット8bの第2の固定ピン挿入孔22bの位置に達すると、固定ピン21が弾性力により固定ピン挿入孔22bに挿入されて第2の車輪固定ブラケット8bが連結部11に固定される。
【0050】
・この固定動作により、カメラ取付機構3と連結部11の連結が完了する。
【0051】
なお、連結部11との連結は第2の車輪固定ブラケット8bのみならず、第1の車輪固定ブラケット8aに対しても同様の手順で行うことができる。このように、カメラ取付機構3の左右端のどちら側にもアーム型ブラケット4を固定することができる。このように車輪固定ブラケット8a,8bをスライドさせて連結部11に固定するという構造を採ることにより、エスカレーター100のデッキ104内という狭い場所でもカメラ固定機構3の固定作業を容易に行うことができる。
【0052】
図11は固定部12の固定状態を示す図で、同図(a)はL鋼のフレーム105に固定した状態を、同図(b)はU鋼のフレーム105に取り付けた国定した状態をそれぞれ示す側面図である。
【0053】
同図に示すように固定部12は、アーム部連結部材23、固定部本体24および固定ハンドル25から構成されている。アーム部連結部材23には回転部15が底面に固定され、固定部本体24は断面がコの字状に形成されている。固定ハンドル25は、固定部本体24と対向する一方の面に挿通されたネジ軸26を有する。このネジ軸26は、固定ハンドル25を回転させることにより進退させ、固定部本体24の対向する他方の面との間にフレーム105を挟んでアーム型ブラケット4の他端をフレーム105に取り付けるためのものである。
【0054】
アーム部連結部材23と固定部本体24はネジによって回転可能または固定することが可能な回転軸27によって互いに回転可能に連結されている。この回転軸27はネジを緩めると固定部本体24がアーム部連結部材23に対して回転可能となり、ネジを締め付けると固定部本体24とアーム部連結部材23の相対位置が固定される。
【0055】
エスカレーター100のフレーム105としては、I鋼、L鋼、H鋼、U鋼等様々な形態の鋼材が用いられる。しかし、本実施形態における固定部12は、アーム部連結部材23の姿勢を保持したまま、回転軸27のネジを緩めて、固定部本体24の姿勢を90度回転させることが可能であり、回転させて変更した位置は、回転軸27のネジを締め付けることにより固定される。このように、鋼材の形状に合わせて固定部12をフレーム105に取り付けることができるので、鋼材の形状を選ぶ必要がなく、汎用性に優れたものとなっている。
【0056】
このように構成したアーム型ブラケット4は、カメラ取付機構3が移動手摺り102の左右方向および上下方向への移動に追随して動いた際に、第1の回転部14の第1の軸14aおよび第2の回転部15の第3の軸15a回りの回転動作によって上下方向の動きに追従し、また、第1の回転部14の第2の軸14bおよび第2の回転部15の第4の軸15b回りの回転動作によって左右方向の動きに追従する。すなわち、カメラ取付機構3は、アーム型ブラケット4を介してフレーム105に連結された状態のまま移動手摺り102の移動に追従する。言い換えれば、アーム型ブラケット4は、アーム型ブラケット4に対するカメラ取付機構3の左右方向回動および上下方向の回動を許容した状態で、カメラ取付機構3をフレーム105に連結し、前記軸線Xに沿った位置で測定を可能にしている。
【0057】
以上のように本実施形態に係る移動手摺り劣化診断装置1では、エスカレーター100を稼動させた状態で手摺り102を撮影しても、移動手摺り102の上下左右の動きに追従してカメラ取付機構3が動くことができる。これにより、カメラ2によって撮影される撮影範囲がほぼ一定となり、正常品と劣化品を同じ大きさ、縮尺および撮影環境で比較することが可能となり、劣化状態の判別が容易となる。
【0058】
以上のように構成された移動手摺り劣化診断装置1は、以下のような手順で設置される。基本的には、本実施形態における移動手摺り劣化診断装置1は、カメラ2が固定された状態のカメラ取付機構3とアーム型ブラケット4を予め分離させておき、それぞれをセットして行く過程で互いを連結するようにしている。
【0059】
まず、カメラ2が固定されているカメラ取付機構3を撮影対象である移動手摺り102の凹部102h内に入れ、カメラ取付機構3を凹部102hに入れた状態で移動手摺り102上に乗せる。
【0060】
カメラ取付機構3が撮影対象である移動手摺り102の凹部102h内に入れられた状態では、カメラ取付機構3は第1および第2の固定側ガイド6a,6b、第1および第2の可動側ガイド7a,7bは、第1および第2のバネ74a,74bによって外側に付勢された弾性力でしっかりと移動手摺り102の第1および第2の端部102b,102cに保持されている。これにより、カメラ取付機構3は移動手摺り102の左右の動きに追従する。
【0061】
移動手摺り102の形状が左右方向に膨らんだり縮んだりした場合は、第1および第2のバネ74a,74bによって付勢された第1および第2の可動側ガイド7a,7bが外側または内側に扇形に開閉し、移動手摺り102の第1および第2の端部102b,102cから離れることなく、移動手摺り102の左右の動きに追従する。
【0062】
また、第1ないし第4の車輪5a〜5dが、移動手摺り102の凹部底面102aの表面を捉えて移動手摺り102の上下の動きに追従する。これら第1ないし第4の車輪5a〜5dは前述のようにカメラ取付機構3の自重で移動手摺り102に接した状態となるが、カメラ取付機構3の自重が軽い場合は、車輪固定ブラケット8aおよび8bに錘を取り付け、必ず第1ないし第4の車輪5a〜5dが移動手摺り102の凹部底面102aに接触するようにする。
【0063】
次に、アーム型ブラケット4の連結部11とカメラ取付機構3を固定ピン21で固定して連結する。そしてカメラ取付機構3を乗せた移動手摺り102とエスカレーター100のフレーム105との位置関係により、移動手摺り102とフレーム105が近い位置にある場合は、第1のアーム16、第2のアーム17、第3のアーム17の長さをスライドさせて短くして使用し、移動手摺り102とフレーム105とが遠い位置にある場合は、第1のアーム16、第の2アーム17、第3のアーム18を伸ばして使用する。これらの長さ調整は、状況に応じて適宜行われる。例えば、第1のアーム16、第2のアーム17だけ伸ばして使用し、第3のアーム18は第2のアーム17に重ねて短くした状態でネジ20によってネジ止めして使用することも可能である。
【0064】
このように、移動手摺り102とフレーム195の位置関係によりアーム部13の長さを調整し、アーム型ブラケット4の他端側に備えられた固定部12によってエスカレーター100のフレーム105にアーム型ブラケット4を固定する。
【0065】
エスカレーター100の移動手摺り102が周回しているデッキ104内およびフレーム105内はとても狭い場所であり、カメラ2やアーム型ブラケット4などを連結したまま取り付け作業を行おうとすると、移動手摺り劣化診断装置1のエスカレーター100内への挿入や設置作業の作業性が悪く、取り付けが難しい。しかし、このように予め分離していたカメラ取付機構3とアーム型ブラケット4を、エスカレーター100にセットしながら連結するように構成すると、狭い場所でも各部材を挿入し易く、使い勝手が向上し、作業効率も向上する。
【0066】
診断対象となる移動手摺り102は、フレーム105より上の位置にある場合、あるいはフレーム105より下の位置にある場合など、設置状態によって様々な形態が存在するが、第1の回転部14と第1のアーム16、および第2の回転部15と第3のアーム18は、第1および第3の軸14a,15aを中心に上下方向(矢印D方向およびF方向)に回転するため、カメラ取付機構3は移動手摺り102の上に乗った状態を保つことができる。また、フレーム105と移動手摺り102とが左右どちら側にあっても、第1の回転部14と連結部11、および第2の回転部15と固定部12は、第2および第4の軸14b,15bを中心に左右方向に回転(矢印E方向およびG方向)するため、カメラ取付機構3が移動手摺り102の上に乗った状態を保つことができる。
【0067】
このように移動手摺り劣化診断装置1は、カメラ取付機構3を移動手摺り102の上に乗せた状態で、アーム部13によってエスカレーター100のフレーム105に固定することができるので、
図3に示したように移動手摺り102、フレーム105および移動手摺り支えガイド110の間の狭い隙間120にも設置することが可能である。そして、エスカレーター100を稼動させて撮影する場合でも、ステップ101の可動領域に干渉せずに移動手摺り102が上下左右に動いた場合でも、同じ大きさ、縮尺および撮影環境で撮影することができる。
【0068】
なお、本実施形態においては取付部材としてアーム型ブラケット4を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、カメラ取付機構3が移動手摺り102の動きに追随して動くことを阻害することなく、カメラ取付機構3を移動手摺り102の凹部102hの内面に乗せた状態で、エスカレーター100の所定位置に配置しておくことのできる部材であれば、紐やチェーンなどで構成してもよい。
【0069】
また、本実施形態ではアーム型ブラケット4をフレーム105に固定する例を挙げて説明したが、取付部材の他端側を固定する部材としては、乗客コンベアの不稼動な部材であって、取付部材を取り付けることによって乗客コンベアの駆動が妨げられるものでないような部材であればよい。
【0070】
さらに、本実施形態では、エスカレーターを例にとっているが、移動歩道を含む公知の乗客コンベア全般に適用できることは言うまでもない。
【0071】
以上のように、本実施形態によれば、次のような効果を奏する。
【0072】
1)移動手摺り劣化診断装置1は、上下左右方向に可動な状態でフレーム105に取り付けられるので、設置には特別な調整が不要であり、作業性の向上を図ることができる。
【0073】
2)移動手摺り劣化診断装置1は、移動手摺り102の上下左右の動きに追従するので、カメラ2の撮影範囲は軸線Xから大きく外れてしまうことが無く、カメラ2の撮影レンズ部分2aと移動手摺り102の撮影対象である底面102aの帆布との距離もほぼ一定に保持される。その結果、正常品移動手摺りと劣化品移動手摺りを同じカメラと移動手摺りの相対位置で比較することが可能となる。これにより、劣化診断の判定精度を上げることができる。その際、移動手摺り102はエスカレーター100が稼動している間に上下左右に微小に移動するが、カメラ取付機構3は前記移動に追従するので、劣化判定を行うためにカメラ2の画角範囲内の所定の大きさに帆布面が収まる。そこで、帆布面の中心と画像の中心とが合致する位置にカメラ2を設置しておけば、同一条件で撮影を続けることが可能となり、結果として、診断の精度を上げることができる。
【0074】
3)カメラ2および照明装置9のLEDライト9aをカメラ取付機構3に取り付けるので、カメラ2およびLEDライト9aと移動手摺り102の撮影対象である底面102aの帆布との距離がほぼ一定に保持され、カメラ2によって撮影された画像の輝度むらを抑えることが可能となる。その結果、劣化診断の判定精度を上げることができる。
【0075】
4)カメラ取付機構3はフレーム105に固定されたアーム部13の連結部11に連結するだけでよいので、エスカレーター100のデッキ104内という狭い場所でも、非常に簡単に設置することができる。
【0076】
5)撮影位置と帆布の距離がほぼ一定の状態で撮影するので、精度の高い劣化判定が可能となり、適切な周期での移動手摺り102の交換や点検時期の設定を行うことができる。
【0077】
なお、特許請求の範囲における乗客コンベアは例えば本実施形態ではエスカレーター100に、移動手摺りは符号102に、凹部は符号102hに、凹部底面は符号102aに、カメラは符号2に、移動手摺り診断装置は移動手摺り診断装置1(およびデータ処理装置10)に、カメラ取付機構は符号3に、軸線は符号Xに、追従機構は第1および第2の固定側ガイド6a,6b、第1および第2の可動側ガイド7a,7b、並びに第1ないし第4の車輪5a,5b,5c,5dに、不稼動部品はフレーム105に、取付部材はアーム型ブラケット4に、車輪は第1ないし第4の車輪5a,5b,5c,5dに、一方側の凹部側方端部は第1の端部102bに、固定側ガイドは符号6a,6bに、他方側の凹部側方端部は第2の端部102cに、可動側ガイドは符号7a,7bに、照明装置は符号9に、乗客コンベアの本体内部は移動手摺り102、フレーム105および移動手摺り支えガイド110の間の狭い隙間120に、連結部は符号11に、固定部は符号12に、複数の部材は、第1ないし第3のアーム16,17,18に、固定部材はネジ19,20に、それぞれ対応する。
【0078】
さらに、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。