【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 秋田大会 特別講演 日本化学連合企画講演 依頼講演 第42回石油・石油化学討論会 開催日 平成24年10月11日・12日 刊行物名 秋田大会 特別講演 日本化学連合企画講演 依頼講演 第42回石油・石油化学討論会(講演要旨) 発行日 平成24年10月11日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム支持体の表面の少なくとも一部に陽極酸化によりアルミナ層を形成してなるアルミナ担体の前記アルミナ層に、浸漬法によりヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を含浸させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を経た前記アルミナ担体を焼成して、脱水素触媒を得る焼成工程と、
を備える、脱水素触媒の製造方法。
前記脱水素触媒において、前記アルミナ層を膜厚方向に三等分して表面側から順に第一の領域、第二の領域及び第三の領域としたとき、前記第一の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C1、前記第二の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C2、及び、前記第三の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C3が、下記式(1−1)及び(1−2)の関係を満たす、請求項1に記載の製造方法。
C1>C2 …(1−1)
C1>C3 …(1−2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い脱水素能を長期間維持することが可能な脱水素触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の側面は、アルミニウム支持体の表面の少なくとも一部に陽極酸化によりアルミナ層を形成してなるアルミナ担体の前記アルミナ層に、浸漬法によりヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を含浸させる浸漬工程と、前記浸漬工程を経た前記アルミナ担体を焼成して、脱水素触媒を得る焼成工程と、を備える、脱水素触媒の製造方法に関する。
【0006】
この製造方法においては、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンがアルミナ層に対する吸着性に優れるため、短時間で高担持量の脱水素触媒を製造することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、上記アルミナ層を膜厚方向に三等分して表面側から順に第一の領域、第二の領域及び第三の領域としたとき、上記第一の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
1、上記第二の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
2、及び、上記第三の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
3が、下記式(1−1)及び(1−2)の関係を満たすように、上記アルミナ層に白金を担持させることが好ましい。
C
1>C
2 …(1−1)
C
1>C
3 …(1−2)
【0008】
本発明に係る製造方法では、浸漬工程でヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を用いた浸漬法を採用することで、式(1−1)及び(1−2)を満たすように白金がアルミナ層に担持された脱水素触媒を容易に製造することができる。そして、このように製造された脱水素触媒は、脱水素能に優れ、且つ高い触媒活性を長期間維持することができる。なお、浸漬法とは、アルミナ担体を白金溶液中に浸漬して、アルミナ層に白金溶液を含浸させる担持方法である。
【0009】
本発明の一態様において、上記白金溶液は、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)を含有するものであってよい。白金源がビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)であると、ヘキサヒドロキソ白金(IV)錯体の分解温度の低さに起因して、焼成工程において低い焼成温度(例えば320〜380℃)を選択した場合でも短時間で十分に焼成を完了することができる。そのため、本態様の製造方法によれば、白金の凝集が十分に抑制され、触媒活性に一層優れる脱水素触媒を得ることができる。
【0010】
本発明の一態様において、上記焼成工程における焼成温度は、320〜380℃であることが好ましい。これにより、好適な白金表面積を有し、高い脱水素能をより長期間維持することが可能な脱水素触媒を得ることができる。
【0011】
本発明の一態様において、上記浸漬工程に供する上記アルミナ担体は、上記アルミナ層の比表面積が200m
2/g以上であり、上記アルミナ層が有する全細孔のうち、孔径が1〜10nmである細孔の割合が60%以上であることが好ましい。このようなアルミナ担体を用いることで、触媒活性に一層優れる脱水素触媒が得られる。
【0012】
本発明の第二の側面は、アルミニウム支持体の表面の少なくとも一部に陽極酸化によりアルミナ層を形成してなるアルミナ担体に、白金を担持してなる脱水素触媒であって、上記アルミナ層を膜厚方向に三等分して表面側から順に第一の領域、第二の領域及び第三の領域としたとき、上記第一の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
1、上記第二の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
2、及び、上記第三の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
3が、下記式(1−1)及び(1−2)の関係を満たす、脱水素触媒に関する。
C
1>C
2 …(1−1)
C
1>C
3 …(1−2)
【0013】
このような脱水素触媒は、環状炭化水素から水素及び芳香族化合物を生成する脱水素反応の反応効率に優れるとともに、高い触媒活性を長期間維持することができる。
【0014】
本発明の一態様において、上記アルミナ層における白金質量当たりの白金表面積は140m
2/g以上であることが好ましい。このような脱水素触媒は、高い脱水素能をより長期間維持することができる。
【0015】
本発明の一態様において、上記アルミナ層は、比表面積が200m
2/g以上であることが好ましい。また、上記アルミナ層が有する全細孔のうち、孔径が1〜10nmである細孔の割合は、60%以上であることが好ましい。このようなアルミナ層を有するアルミナ担体に白金を担持して得られる脱水素触媒は、触媒活性に一層優れる。
【0016】
本発明の第三の側面は、上記脱水素触媒を備える脱水素反応装置に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い脱水素能を長時間維持することが可能な脱水素触媒及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0019】
[脱水素触媒]
本実施形態に係る脱水素触媒は、アルミニウム支持体の表面の少なくとも一部に陽極酸化によりアルミナ層を形成してなるアルミナ担体に、白金を担持してなる脱水素触媒である。本実施形態において、アルミナ層を膜厚方向に三等分して表面側から順に第一の領域、第二の領域及び第三の領域としたとき、第一の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
1、第二の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
2、及び、第三の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
3は、下記式(1−1)及び(1−2)の関係を満たす。
C
1>C
2 …(1−1)
C
1>C
3 …(1−2)
【0020】
従来より、支持体であるアルミニウム基板の表面に陽極酸化によってアルミナ層を形成したアルミナ担体に、活性金属を担持させてプレート型触媒とする手法は知られている。しかし、従来のプレート型触媒では、実用に十分な触媒活性を長期間維持することが困難であった。
【0021】
本発明者らは、従来の製造方法で製造したプレート型触媒では、その製造方法に起因して、アルミナ層の厚さ方向の中央部(第二の領域)におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
2及びアルミナ層の厚さ方向の底部(第三の領域)におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
3のうち少なくとも一方が、アルミナ層の表層部(第一の領域)におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
1より大きくなる(C
2>C
1及び/又はC
3>C
1)ことを見出した。そして本発明者らは、質量比C
1、C
2及びC
3を式(1−1)及び(1−2)の関係を満たすようにすることで、高い触媒活性を長期間維持することが可能となることを見出した。
【0022】
すなわち、本実施形態に係る脱水素触媒によれば、後述する特定の製造方法によってアルミナ層に式(1−1)及び(1−2)の関係を満たすように白金を担持することにより、白金の総担持量を増やさなくても、脱水素能を向上させることができるとともに、高い触媒活性を長期間維持することができる。
【0023】
アルミナ層の各領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比は、アルミナ層の断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析して求めることができる。
【0024】
質量比C
1、C
2及びC
3は、下記式(1−3)の関係を満たすことがより好ましい。これにより本発明の効果が一層顕著に奏される。また、このような関係を満たす脱水素触媒は、後述の製造方法によって容易に得ることができる。
C
1>C
2>C
3 …(1−3)
【0025】
また、質量比C
1、C
2及びC
3は、下記式(1−4)の関係を満たすことがより好ましい。
C
1/(C
1+C
2+C
3)≧0.4 …(1−4)
【0026】
すなわち、脱水素触媒は、質量比C
1が式(1−4)を満たす程、C
2及びC
3に対して大きいことが好ましい。式(1−4)の関係を満たす脱水素触媒は、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0027】
なお、陽極酸化で形成されたアルミナ層は、第一の領域、第二の領域及び第三の領域におけるアルミニウム量に必ずしも大きな差はないため、C
1/(C
1+C
2+C
3)は、白金の総担持量に対する第一の領域における白金の担持量の比に近い値となる。
【0028】
C
1/(C
1+C
2+C
3)は0.8以下であってよく、0.7以下であってもよい。C
1/(C
1+C
2+C
3)が0.8を超える場合は、第一の領域における白金担持量の多さから、第一の領域で白金の凝集が生じ易くなり、総担持量に対する十分な触媒活性が得られ難くなる。なお、C
1/(C
1+C
2+C
3)が0.8を超えるように白金を担持することは、後述の製造方法では困難であるという側面もある。
【0029】
本実施形態に係る脱水素触媒において、アルミナ層における白金質量当たりの白金表面積は、140m
2/g以上であることが好ましい。このような脱水素触媒は、後述する製造方法における焼成工程において、焼成温度を320〜380℃にすることで製造することができる。そして、このような脱水素触媒によれば、高い脱水素能をより長期間維持することができる。また、白金質量当たりの白金表面積は、250m
2/g以下であってよく、200m
2/g以下であってもよい。
【0030】
白金質量当たりの白金表面積は、脱水素触媒における白金の分散度を示す指標であり、実施例に詳述するように、白金を300℃で還元し、その後50℃でCO(一酸化炭素)を吸着させ、白金に吸着したCO量を測定する方法により測定することができる。
【0031】
脱水素触媒における白金の総担持質量は、その用途に応じて適宜変更することができる。例えば、白金の総担持質量は130〜500μg/cm
2とすることができる。
【0032】
アルミナ担体は、例えば、アルミニウム支持体の少なくとも一部の表面に陽極酸化によりアルミナ層を形成して得ることができる。ここで、アルミニウム支持体は必ずしもプレート状(アルミニウム基板等)である必要は無く、適用される水素発生装置の態様に応じて適宜形状を変更することができる。
【0033】
アルミナ層の比表面積は、200m
2/g以上であることが好ましく、210m
2/g以上であることがより好ましい。比表面積の大きいアルミナ層を備えるアルミナ担体を用いることで、脱水素触媒において、白金質量当たりの白金表面積が大きくなる傾向にある。また、本実施形態では、式(1−1)及び(1−2)を満たすように、好ましくは式(1−3)又は(1−4)をさらに満たすように、より好ましくは式(1−3)及び(1−4)をさらに満たすように、アルミナ層に白金が担持されるが、このような比表面積を有するアルミナ層によれば、白金の総担持質量を多くした場合(例えば、230μg/cm
2以上)であっても十分に各式を満たすように白金を担持することができる。なお、アルミナ層の比表面積は、300m
2/g以下であってよく、280m
2/g以下であってもよい。
【0034】
アルミナ層は多孔質であり、その全細孔のうち、孔径が1〜10nmである細孔の割合は、60%以上であることが好ましい。このようなアルミナ層によれば、担持された白金の焼成等による凝集が生じ難くなるため、白金表面積の大きい脱水素触媒が得られ易くなる。この割合は65%以上であることがより好ましく、また90%以下であってよく、85%以下であってもよい。
【0035】
アルミナ層の厚さは、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜45μmであり、さらに好ましくは15〜40μmである。
【0036】
アルミナ層は、非晶質のアルミナ層であることが好ましい。なお、本明細書中、非晶質とは、X線回折分析結果において結晶性を示すピークが得られないことをいう。
【0037】
アルミナ層を形成するための陽極酸化は、公知の方法により実施することができる。陽極酸化の条件は特に限定されないが、例えば、シュウ酸水溶液を処理浴に用いた陽極酸化が好適である。
【0038】
また、アルミナ担体は、陽極酸化後に、熱水処理、焼成等の後処理を経て得られたものであってもよい。
【0039】
具体的には、例えば、0.1〜0.3Mシュウ酸水溶液を処理浴に用いて40〜60℃、30〜50V、1〜2時間の条件でアルミニウム基体の陽極酸化を行い、さらに沸騰純水中に5〜6時間浸漬して熱水処理し、最後に焼成して、アルミナ担体を得ることができる。
【0040】
[脱水素触媒の製造方法]
本実施形態に係る脱水素触媒の製造方法は、アルミニウム支持体の表面の少なくとも一部に陽極酸化によりアルミナ層が形成してなるアルミナ担体の該アルミナ層に、浸漬法によりヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を含浸させる浸漬工程と、浸漬工程を経たアルミナ担体を焼成して、脱水素触媒を得る焼成工程と、を備える。
【0041】
本実施形態に係る製造方法においては、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンがアルミナ層に対する吸着性に優れるため、短時間で高担持量の脱水素触媒を製造することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る製造方法は、アルミナ層の第一の領域、第二の領域及び第三の領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比C
1、C
2及びC
3が、上述の式(1−1)及び(1−2)の関係を満たすように(好ましくは式(1−3)又は(1−4)の関係をさらに満たすように、より好ましくは式(1−3)及び(1−4)の関係をさらに満たすように)実施することができる。そしてこのような製造方法によれば、上述の実施形態に係る脱水素触媒を容易に且つ効率良く得ることができる。以下、上述の実施形態に係る脱水素触媒を得るための各工程について、詳細に説明する。
【0043】
(浸漬工程)
浸漬工程では、アルミナ担体のアルミナ層に、浸漬法によりヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を含浸させる。
【0044】
ここで、従来のプレート型触媒に活性金属を担持させる方法としては、例えば、プレート型担体の担持層上に、所定量の活性金属含有溶液を滴下させる滴下法が挙げられる。このような滴下法では、滴下する溶液の量により、活性金属の担持質量を容易に調整することができるという利点がある。
【0045】
しかし、本発明者らの知見によれば、本実施形態に係るアルミナ層への白金の担持に際して、このような滴下法を行うと、アルミナ層の中央部(第二の領域)及び底部(第三の領域)に多くの白金が担持され、アルミナ層の表層部(第一の領域)には十分な白金担持量が得られず、質量比C
2及びC
3の少なくとも一方が質量比C
1より大きくなる。
【0046】
また、従来、触媒担体に白金を担持させる際に用いられる白金溶液としては、入手の容易さ、取扱いの容易さの観点から、ヘキサクロロ白金(IV)酸塩、テトラアンミン白金(II)塩等の白金源を含有する白金溶液の利用が一般的である。
【0047】
しかし、本発明者らの知見によれば、本実施形態に係るアルミナ層への白金の担持に際して、このような白金溶液を用いると、浸漬法では、アルミナ層に対して十分な担持質量が得られ難い。そのため、十分な担持質量を確保するために、複数回の浸漬法の実施が必要となる場合がある。そして、複数回の浸漬法を実施した結果得られる脱水素触媒では、アルミナ層の中央部(第二の領域)及び底部(第三の領域)に多くの白金が担持され、アルミナ層の表層部(第一の領域)には十分に白金が担持されず、質量比C
2及びC
3の少なくとも一方が質量比C
1より大きくなる。
【0048】
本実施形態に係る製造方法では、アルミナ担体のアルミナ層に、浸漬法によりヘキサヒドロキソ白金(IV)酸イオンを含有する白金溶液を含浸させる浸漬工程によって、式(1−1)及び式(1−2)の関係を満たすように白金を担持させることができる。
【0049】
浸漬工程において、アルミナ層の表層部(第一の領域)における白金担持量を多くする観点から、浸漬法の実施回数は1回であることが好ましい。なお、浸漬法は、白金溶液中にアルミナ担体を浸漬し、所定時間後引き上げることによって行われる。
【0050】
浸漬工程では、白金溶液中の白金濃度を変更することで、アルミナ層への白金担持量を調整することができる。白金溶液中の白金濃度は、例えば、1〜100g/Lであることが好ましい。
【0051】
浸漬工程において、アルミナ担体の白金溶液への浸漬時間は、必要な白金担持量に応じて適宜変更できるが、例えば1〜60秒とすることができる。浸漬時間を1秒より短くすると、工業的に脱水素触媒を製造する際に白金担持量の制御が困難となる傾向がある。一方、浸漬時間を60秒より長くすると、経済的に不利となる。
【0052】
白金溶液は、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸塩を含有する溶液ということもできる。ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸塩としては、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸ナトリウム、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸カリウム等が挙げられ、これらのうち、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)が好ましい。なお、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)は、(H
3NCH
2CH
2OH)
2[Pt(OH)
6]で表される化合物である。
【0053】
ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)によれば、ヘキサヒドロキソ白金(IV)錯体の分解温度が低いため、後述する焼成工程で従来の焼成温度より低い焼成温度(例えば320〜380℃)を選択した場合でも、短時間で十分に焼成を完了することができる。
【0054】
浸漬法では、アルミナ担体を白金溶液中に浸漬させる。アルミナ担体は酸化されていないアルミニウム基体部分を有しているため、白金溶液は、当該アルミニウム基体部分を侵食しないpHであることが望ましい。すなわち、白金溶液のpHは、6〜12であることが好ましく、7〜11であることがより好ましい。また、白金溶液のpHが8〜10.5であると、アルミナ層に対して白金が担持されやすくなるという効果も奏される。
【0055】
白金溶液は、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸塩により上述のpHが達成されることが好ましい。例えば、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)水溶液は、pH9〜10.5であるため、白金溶液として特に好適に用いることができる。
【0056】
(焼成工程)
焼成工程では、上記浸漬工程を経たアルミナ担体を焼成して脱水素触媒を得る。なお、通常、アルミナ担体は、アルミナ層に含浸させた白金溶液の溶媒を乾燥除去した後、焼成工程に供される。
【0057】
焼成温度は、好ましくは250〜400℃であり、より好ましくは320〜380℃である。
【0058】
本実施形態の製造方法では、浸漬工程により、アルミナ層の表層部(第一の領域)に多くの白金が担持されている。そのため、焼成によって表層部における白金の凝集が生じやすい。焼成温度を上記の好適な範囲とすることで、表層部における白金の凝集を十分に抑制することができる。特に、焼成温度を320〜380℃とすることにより、白金の白金表面積が140m
2/g以上である脱水素触媒を容易に得ることができる。
【0059】
焼成時間は、好ましくは10〜120分であり、より好ましくは20〜60分である。
【0060】
[脱水素反応装置]
本実施形態に係る脱水素反応装置は、上述の実施形態に係る脱水素触媒を備える。
【0061】
脱水素反応装置は、脱水素触媒が上述の実施形態に係る脱水素触媒であること以外は、公知の構成を有するものであってよい。
【0062】
例えば、脱水素反応装置は、脱水素触媒の一方面側に原料化合物を流通させる原料化合物流路と、脱水素触媒の他方面側に高温ガスを流通させる高温ガス流路と、を備えるものであってよい。また、脱水素反応装置は、原料化合物流路又は高温ガス流路と脱水素触媒とが交互に設けられた多層構造を有していてもよい。
【0063】
脱水素反応装置に供される原料化合物としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、デカリン、1−メチルデカリン、2−メチルデカリン、2−エチルデカリン等の環状炭化水素が挙げられる。
【0064】
脱水素反応装置における脱水素反応の条件は、原料化合物の種類、脱水素反応装置の構成等に応じて適宜変更できる。例えば、原料化合物がメチルシクロヘキサンである場合、反応温度は250〜400℃とすることができる。
【0065】
本実施形態に係る脱水素反応装置は、上述の脱水素触媒を備えるものであるため、長期間に亘って高い脱水素能で、原料化合物の脱水素反応を実施することができる。そのため、本実施形態に係る脱水素反応装置は、燃料電池自動車に水素を供するための水素ステーション等への利用に好適である。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
(製造例1:アルミナ担体の製造)
アルミニウム板(厚さ0.05cm、6cm×6cm)に対して、0.1〜0.3Mシュウ酸水溶液中、40〜60℃、30〜50V、1〜2時間の条件で陽極酸化を行った。次いで、沸騰純水中に5〜6時間浸漬して熱水処理し、最後に500℃で3時間の条件で焼成して、アルミニウム板の両面上に厚さ15〜30μmのアルミナ層が形成されたアルミナ担体を得た。
【0069】
アルミナ担体のアルミナ層について、RINT2500(リガク社製)を用いたX線解析分析を行ったところ、結晶性を示すピークは得られなかった。
【0070】
また、アルミナ担体のアルミナ層における細孔径分布を、窒素吸着法により測定した。測定の結果、アルミナ層の平均細孔径は10nmであり、全細孔のうち孔径が1〜10nmである細孔が占める割合は73%であった。
なお、測定条件は下記のとおりとした。
装置:BELSORP−MAC−2(日本ベル社製)
圧力センサー:133kPa(精度±0.5%FS),1.33kPa(精度±0.5%R),0.0133kPa(精度±0.12%R)
圧力分解能::1.6×10
−6Pa
空気恒温槽温度:−40℃
排気系:耐食性ダイアフラムポンプ+ターボ分子ポンプ
到達真空度:6.7×10
−7Pa
比表面積:0.01m
2/g以上(N
2使用時)
細孔径分布:0.35〜200nm
測定部電気炉:RT〜450℃
【0071】
また、アルミナ担体のアルミナ層の比表面積を、窒素ガス吸着量測定の方法で測定したところ、比表面積は233m
2/gであった。
【0072】
(実施例1)
製造例1で得られたアルミナ担体を、ビス(エタノールアンモニウム)ヘキサヒドロキソ白金(IV)水溶液(白金濃度:25g/L)に10秒間浸漬させた後、120℃、10分の条件で乾燥した。次いで、270℃、20分の条件で焼成して、脱水素触媒A−1を得た。
【0073】
(比較例1)
製造例1と同様の方法で得られたアルミナ担体を、テトラアンミン白金硝酸溶液(白金濃度:53g/L)に2時間浸漬させた後、120℃、10分の条件で乾燥した。焼成後、再度、テトラアンミン白金硝酸溶液(白金濃度:53g/L)に2時間浸漬させ、120℃、10分の条件で乾燥し、300℃、20分の条件で焼成して、脱水素触媒B−1を得た。
【0074】
実施例1及び比較例1で得られた脱水素触媒を、以下の方法で評価した。
【0075】
(白金担持量の測定)
1cm
2の脱水素触媒を1N硝酸に140℃、30分の条件で浸漬して、アルミナ層を溶解させ、残ったアルミニウム板を取り出した。アルミナ層が溶解した溶液に、塩酸を硝酸の3倍量追加し140℃で1時間加熱し、次いで、硫酸(濃硫酸:水=1:1)を添加して、300℃で1時間加熱した。この溶液を乾固し、乾固物に1N硝酸を添加して140℃で20分加熱した後、水で総量50mLになるよう希釈して、測定サンプルを得た。
【0076】
得られた測定サンプルをICP−AES(プラズマ発光分光分析装置)を用いて測定し、白金質量を測定した。測定条件は下記のとおりとした。
装置:SPS3000(SII社製)
高周波出力:1.3kw
プラズマガス量:1.6L/分
観測高さ:12mm
定量法:Y内標準測定法
測定波長
Pt:214.423nm
Y :371.030nm
【0077】
評価の結果、脱水素触媒A−1及び脱水素触媒B−1の白金担持量はいずれも150μg/cm
2であった。
【0078】
(アルミナ層断面の白金分布分析)
脱水素触媒の断面について、SEM−EDS装置(JSM−6300F、日本電子社製)を用いたEDX定量分析(加速電圧:15kV、無蒸着、倍率:2000)を行い、アルミナ層の厚さを三等分して表面側から第一の領域、第二の領域及び第三の領域として、各領域におけるアルミニウム原子に対する白金原子の質量比(C
1、C
2及びC
3)を評価した。評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
(触媒活性の測定)
4cm×2cmの脱水素触媒の両面上にメチルシクロヘキサン(以下、場合により「MCH」という。)を流通させて、メチルシクロヘキサンの脱水素反応を行った。反応条件は、反応温度330℃、メチルシクロヘキサン流量0.4ml/minとした。
【0081】
1時間毎に流通後のガスを冷却して液体として回収し、GC分析を行った。液体中のメチルシクロヘキサンとトルエンの含有量比から、メチルシクロヘキサンの転化率を求めた(トルエン量(mol%)をメチルシクロヘキサン転化率とした。)。
【0082】
各時間ごとの評価結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
(実施例2〜7)
焼成温度を、250℃(実施例2)、300℃(実施例3)、330℃(実施例4)、350℃(実施例5)、370℃(実施例6)又は400℃(実施例7)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして脱水素触媒を作製した。
【0085】
得られた脱水素触媒について、以下の方法で白金の白金表面積(金属分散度)を測定した。また、実施例5及び7で得られた脱水素触媒について以下の方法で触媒活性を測定した。
【0086】
(白金表面積の測定)
5mm角の脱水素触媒を、測定セルに4cm
3詰めた。次いで試料を測定装置(BEL−METAL)に取り付け、Heガスでパージした。He流通下、20分で300℃まで昇温し、300℃に到達後、15分保持した。次いで、ガスをH
2に切り替え、20分流通させて還元処理を行った。次いで、ガスをHeに切り替え、15分流通させてパージした。He流通下で50℃まで降温した後、50℃で15保持した。次いで、CO吸着を行い、CO吸着の結果から、白金の白金表面積を評価した。
【0087】
評価結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
(触媒活性の測定)
4cm×4cmの脱水素触媒の両面上にメチルシクロヘキサン(以下、場合により「MCH」という。)を流通させて、メチルシクロヘキサンの脱水素反応を行った。反応条件は、反応温度330℃、メチルシクロヘキサン流量0.2ml/minとした。反応開始から1時間後、流通後のガスを冷却して液体として回収し、GC分析を行った。液体中のメチルシクロヘキサンとトルエンの含有量比から、メチルシクロヘキサンの転化率を求めた(トルエン量(mol%)をメチルシクロヘキサン転化率とした。)。
【0090】
この測定を3回行い、各回ごとの転化率を求めた。また、3回目の測定後、空気中、300℃、1時間の条件で熱処理をして触媒上のコークを除去し、さらに上記測定を3回行い、各回ごとの転化率を求めた。結果を表4に示す。
【0091】
【表4】