(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871807
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】ネストロン(NESTORONE(登録商標))を使用する神経保護およびミエリン修復
(51)【国際特許分類】
A61K 31/57 20060101AFI20160216BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20160216BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20160216BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20160216BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160216BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20160216BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20160216BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20160216BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20160216BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
A61K31/57
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/12
A61K9/70 401
A61K9/20
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-535303(P2012-535303)
(86)(22)【出願日】2010年10月19日
(65)【公表番号】特表2013-508379(P2013-508379A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】US2010053201
(87)【国際公開番号】WO2011049948
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年9月5日
(31)【優先権主張番号】61/279,320
(32)【優先日】2009年10月19日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599092479
【氏名又は名称】ザ・ポピュレイション・カウンシル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100179154
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 真衣
(72)【発明者】
【氏名】シトリュック‐ワル,レジーヌ
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハー,マイケル・マリア・ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】ブリントン,ロバータ
(72)【発明者】
【氏名】エレトル,マルティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゴウマリ,アブデルモウマン
(72)【発明者】
【氏名】グエノウン,ラシーダ
【審査官】
井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】
Current Opinion in Pharmacology,2008年,Volume 8, Issue 6,Pages 740-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における、神経変性の処置または脳卒中の処置のための、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を含む組成物であって、前記製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物が、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発し、前記製薬学的に有効な用量が5mg/日以下であり、前記プロゲスチン化合物が16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオンであり、前記処置によりミエリンが再生される組成物。
【請求項2】
前記プロゲスチン化合物が、エストロゲン化合物と組み合わされた、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エストロゲン化合物が、エストラジオールである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記製薬学的に有効な用量が、30μg/日、3〜5mg、または100〜450μg/日の16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記エストラジオールの用量が、10〜150μg/日である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記製薬学的に有効な用量が、前記患者に提供される持続的用量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記製薬学的に有効な用量が、前記患者に提供される断続的用量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記断続的用量が、1週間の前記用量の休薬がその後に続く3週間の前記用量である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記プロゲスチン化合物の前記製薬学的に有効な用量が、経皮用量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、経皮形態で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記経皮形態が、経皮ゲル、経皮溶剤、経皮スプレー、および経皮パッチからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記経皮形態が、膣内錠剤、膣内ゲル、および膣内リングからなる群から選択される経皮製品を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、皮下埋込みの形で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
閉経後女性における、神経変性の処置または脳卒中の処置のための、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を含む組成物であって、前記製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物が、前記閉経後女性のミエリンを再生するのに十分な用量で、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発し、前記プロゲスチン化合物が16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオンであり、前記組成物が所定の用量の天然エストラジオールと同時に提供される組成物。
【請求項15】
患者の多発性硬化症、アルツハイマー病、およびパーキンソン病からなる群から選択される病態に示される神経変性の処置のための、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を含む組成物であって、前記製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物が、ミエリンを再生し、前記病態の再発を予防または低減するのに十分な用量で、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発し、前記プロゲスチン化合物が16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオンである組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2009年10月19日出願の米国仮特許出願第61/279,320号に係る出願日の利益を主張し、その開示を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、ミエリン変性および神経変性の予防の分野に関する。より詳細には、本発明は、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、およびパーキンソン病(PD)などの疾患、ならびに脳卒中の変性性の態様の予防または処置に関する。
【背景技術】
【0003】
多発性硬化症(MS)は、男性の2倍以上の女性が罹患する中枢神経系(CNS)の進行性および身体障害性の疾患である(1〜4)。MSでは神経細胞損傷が早期に始まり(5)、急性軸索傷害が活動性の脱髄中に既に存在することがエビデンスから示唆されている。しかし、MSで再ミエリン化が起こり(6、7)、それが軸索消失からの保護を示すことが知られている(8)。実際、重大な軸索損傷は、再ミエリン化されたプラークにおいて観察することができない(5)。軸索は、MSが進行するにつれて再ミエリン化を受けにくくなる。さらに、脳卒中は、神経細胞損傷もまねく脳血管障害である。一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)の実験モデルでは、閉塞によって誘導された梗塞体積は、対照の無傷マウスよりもプロゲステロン受容体欠乏マウス(PRノックアウトマウス)での方がはるかに大きかった。
【0004】
神経細胞損傷はまた、脳卒中など他の状況で起こる可能性もある。脳卒中は、脳細胞への血液供給の中断から生じる脳血管事象である。すなわち、神経細胞は、酸素およびグルコースの欠乏に対するその感受性、ならびに梗塞部位からの神経組織損傷の進行性拡散のために破壊される可能性がある。したがって、脳卒中患者に、神経細胞の破壊からの保護と病変の拡散回避との両方、ならびに損傷を受けた組織の再生支援のための処置を施す懸命の努力がなされている。プロゲステロンは、以前に、効率的な神経保護剤であることが確認されている。実際、病変発生後、プロゲステロン自体は、脳細胞での産生速度が高まる。プロゲステロン処置はまた、脳卒中の動物モデルにおいて脳虚血後に病変サイズを減少させるのに有効であることが分かっており(18)、脳動脈閉塞後に虚血性脳損傷を抑制することが分かっている(19)。
【0005】
ネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンは、脳において増殖効果および神経保護効果を及ぼすことが分かっている(20、21)。
【0006】
再発寛解型MSの患者の約3分の2は、出産可能年齢の女性である(9)。妊娠中に生じるレベルなどの高レベルの女性ステロイドは、MSの女性の症状の寛解に関与する可能性があることが知られている。これは、特に、エストロゲンおよびプロゲステロン(PROG)のレベルがピークに達する妊娠第三期中に当てはまり、一方、産褥期に再発割合が増加する(9)。
【0007】
MSの女性は、妊娠期、産褥期、または閉経期に関連するMS症状の変化を経験する。スウェーデンで実施された研究(10)では、面接調査した148人のMS女性の40%が、閉経期に関連するMS症状の悪化を報告し、若い女性の4分の1以上が、妊娠中に症状が軽減したことを報告した。3人に1人の女性が分娩後の症状の増加を報告しており、これは、性ステロイドが疾患を保護(妊娠中に高レベルで存在したとき)、または悪化(分娩後または閉経期に減少したとき)させる役割を果たしていることを示唆していた。
【0008】
また、MSなどの病態に有効な処置方針には、不可逆的な軸索消失を予防するために軸索脱髄を回復に向かわせる治療剤が包含されなければならない。エストロゲンおよびプロゲステロンの女性ホルモンは、MSおよび神経保護に対して有益な効果を有する可能性がある。
【0009】
多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、およびパーキンソン病(PD)を包含するいくつかのCNS疾患の神経変性過程は、神経炎症ならびに神経変性を伴い、閉経後の女性ではその頻度が増加する。同様の神経変性過程はまた、脳卒中患者、または脳血管事象の影響を受けた人々にも存在する。
【0010】
グルタミン酸損傷の48時間前に17β−E2およびプロゲスチンを単独および組合せで用いて処置した初代海馬神経細胞培養物では、エストラジオール、プロゲステロン、および19−ノルプロゲステロンは、単独または組合せで、グルタミン酸毒性からの保護を示した。対照的に、酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)は、グルタミン酸毒性からの保護を示さなかった。MPAは、効果がない神経保護剤であるだけでなく、同時投与すると、エストロゲン誘導性の神経保護を減弱させた(11)。これらの結果は、ホルモン療法に適切な分子を選択することによる、閉経期および老齢期中の神経機能の維持、ならびにアルツハイマー病などの神経変性疾患からの保護に重要な意味を有する可能性がある。
【0011】
プロゲステロン受容体(PR)の発現および神経前駆細胞増殖の調節は、成体ラット脳に由来するNPCを使用して調査された。プロゲステロン媒介性の神経前駆細胞(NPC)増殖、および有糸分裂細胞周期遺伝子の同時調節は、哺乳類の脳の神経形成を促進させるための潜在的な新規の治療標的である(12)。
【発明の概要】
【0012】
本発明によれば、今回、上記目的およびその他の目的は、患者の神経変性を処置する方法であって、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を用いて患者を処置するステップを含み、製薬学的に許容される用量が5mg/日以下であり、それによって神経変性が予防または低減される方法の発見によって実現された。好ましい一実施形態では、ネストロン(Nestorone(登録商標))の製薬学的に有効な投与は、100〜450μg/日を含む。好ましくは、製薬学的に有効な用量は、患者に提供される持続的用量を含む。しかし、別の一実施形態では、製薬学的に有効な用量は、患者に提供される断続的用量を含む。好ましくは、断続的用量は、1週間の上記用量の休薬がその後に続く3週間の上記用量を含む。
【0013】
本発明の方法の一実施形態によれば、この方法は、エストロゲン化合物を用いて患者を同時に処置するステップを包含する。好ましくは、エストロゲン化合物は、エストラジオールを含み、好ましい一実施形態では、エストラジオールは、約10〜150μg/日を含む。
【0014】
本発明の方法の別の一実施形態によれば、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物は、経皮剤形を含む。
【0015】
本発明の方法の別の一実施形態によれば、プロゲスチン化合物は、ネストロン(Nestorone(登録商標))、18−メチルネストロン(Nestorone(登録商標))、酢酸ノメゲストロール、トリメゲストン、ノルゲスチメート、ジエノゲスト、ドロスピレノン、酢酸クロルマジノン、プロメゲストン、レトロプロゲステロン、および17−ヒドロキシプロゲステロンからなる群から選択される。好ましい一実施形態では、プロゲスチン化合物は、酢酸ノメゲストロールを含み、その製薬学的に有効な用量は、2.5〜5mg/日を含む。別の一実施形態では、プロゲスチン化合物は、トリメゲストンを含み、その製薬学的に有効な用量は、約0.5〜1mg/日を含む。別の一実施形態によれば、プロゲスチン化合物は、ジエノゲストを含み、その製薬学的に有効な用量は、約2〜3mg/日を含む。別の一実施形態によれば、プロゲスチン化合物は、ドロスピレノンを含み、その製薬学的に有効な用量は、約3mg/日を含む。別の一実施形態では、プロゲスチン化合物は、酢酸クロルマジノンを含み、その製薬学的に許容される用量は、約5mg/日を含む。
【0016】
本発明の方法の別の一実施形態によれば、処置するステップは、経皮ゲル、経皮溶剤、経皮スプレー、および経皮パッチからなる群から選択される経皮形態で所定の用量を提供するステップを含む。別の一実施形態では、方法は、膣内錠剤、膣内ゲル、および膣内リングからなる群から選択される経皮形態で所定の用量を提供するステップを含む。
【0017】
本発明の方法の別の一実施形態によれば、方法には、皮下埋込みを含む処置が包含される。
【0018】
本発明によれば、閉経後女性の神経変性を処置する方法であって、閉経後女性の神経変性を予防または軽減するのに十分な用量で、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を用いて閉経後女性を処置するステップと、天然エストラジオールの所定の用量を同時に提供するステップとを含む方法を提供する。本発明のこの方法の好ましい一実施形態では、プロゲスチン化合物は、ネストロン(Nestorone(登録商標))を含み、好ましくは、約100〜450μg/日の量で提供される。好ましい一実施形態では、エストラジオールは、約10〜150μg/日の量で提供される。
【0019】
本発明のこの方法の一実施形態では、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物は、経皮ゲル、経皮溶剤、経皮スプレー、経皮パッチ、膣内錠剤、膣内ゲル、および膣内リングからなる群から選択される経皮剤形を含む。
【0020】
本発明によれば、患者の多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、および脳卒中からなる群から選択される病態に示される神経変性を処置する方法であって、アンドロゲン受容体と相互作用するが、アンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する、製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を用いて患者を処置するステップを含み、製薬学的に有効な用量が5mg/日以下であり、それによって神経変性が予防または低減される方法を提供する。好ましくは、プロゲスチン化合物は、ネストロン(Nestorone(登録商標))を含む。別の一実施形態では、プロゲスチン化合物は、18−メチルネストロン(Nestorone(登録商標))、酢酸ノメゲストロール、トリメゲストン、ノルゲスチメート、ジエノゲスト、ドロスピレノン、酢酸クロルマジノン、プロメゲストン、レトロプロゲステロン、および17−ヒドロキシプロゲステロンからなる群から選択される。
【0021】
本発明によれば、組織培養および動物モデルでの予備研究から、ネストロン(Nestorone(登録商標))(NES)、19−ノルプロゲステロン由来の合成プロゲスチンを包含するが、アンドロゲン、エストロゲン、またはグルココルチコイドの作用を有さない特定のクラスのプロゲスチン化合物が、in vitroモデルにおいて、例えば、プロゲステロン、ならびにある種の他のプロゲスチン化合物と比較して、再ミエリン化により大きな有益な効果を有することが示された。様々なプロゲスチンの効果を比較するバイオアッセイがある。ネストロン(Nestorone(登録商標))は、アンドロゲンまたはエストロゲンの作用をまったく有さず、また、投与量が治療量の2000倍の場合を除いて、グルココルチコイド効果を発現しない。レボノルゲストレルやMPAなどの他のプロゲスチンは、アンドロゲン応答を誘導し、MPAは、アンドロゲンおよびグルココルチコイドの応答を誘導し、ノルエチノドレルおよびノルエチステロンは、アンドロゲンおよびエストロゲンの応答を引き起こす。さらに、最近の研究では、NESはまた、神経前駆細胞の増殖を刺激し、この場合も、プロゲステロン自体よりもさらに高く刺激することが示されている。これらの結果から、患者の神経変性を処置する方法であって、神経変性を予防または低減するのに十分な用量で、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答をまったく誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する、所定の用量のプロゲスチン化合物を用いて患者を処置するステップを含む方法の発見が導き出された。この実施形態に関して、患者は、男性または女性の患者を含むことができる。さらに、本発明によれば、患者の神経変性を処置する方法は、神経変性を予防または低減するのに十分な用量で、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答をまったく誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する製薬学的に有効な用量のプロゲスチン化合物を、エストロゲン化合物と併せて用いて患者を処置するステップを含む。この実施形態では、患者は、好ましくは女性患者である。本発明の特定のプロゲスチン化合物は、広範な用量で、すなわち、患者の吸収する量が、埋込体などの使用によってわずか約30μg/日から、錠剤などの使用によって約5mg/日まで、または他のこうした手段で3〜5mgまでの広い範囲で、ゲル、パッチ、女性用膣内リングなどを包含する、経口と非経口の両方の様々な方法で適用することができる。同様に、エストロゲンの場合、送達される量は、1日あたりわずか1μgから最高で約2,000μgの範囲とすることができる。また、約100〜400μg/日のNESと、エストロゲン、特に、ゲル製剤での50〜150μg/日のエストラジオールとを一緒に1日投与量として包含する閉経療法の処置は、神経変性および/またはミエリン変性の予防または低減を予想外に向上させるとも考えられている。この処置はまた、これらの組成物を含有する膣内リングを使用するなど経膣的に行うことができる。送達は、持続的、または逐次的、例えば3週間持続送達した後1週間送達を停止する逐次送達のどちらでもよい。
【0022】
これらの処置が、閉経後女性に適用できるだけでなく、MS、AD、PDなどの病態の神経変性および脳卒中に関連する神経変性を予防または低減する処置に有用となり得ることがさらに発見された。
【0023】
本発明の主な対象は、男性と女性の両患者の神経変性またはミエリン変性を処置する方法に関する。これは、主に、神経変性を予防または低減するために、10〜450μg/日、最高で5mg/日以下の投与レベルで、製薬学的に有効な用量のネストロン(Nestorone(登録商標))などの特定のプロゲスチンでこれらの患者を処置するステップを含む。
【0024】
しかし、本発明の一実施形態では、本発明は、具体的には女性患者を対象とする。この処置の一態様では、プロゲスチンをエストラジオールなどのエストロゲン化合物と組み合わせて、一般に、神経変性の予防もしくは低減および/またはミエリン修復の両方を、避妊またはホルモン療法と共に行うようにする。したがって、出産年齢の若い閉経前女性に関しては、MS、AD、PD、脳卒中などの神経変性病態の有無にかかわらず、避妊が確実にされ、一方、閉経後女性では、この場合も、これらの神経変性障害の有無にかかわらず、ホルモン療法処置も行うことができる。したがって、これらの組成物の組合せは、避妊および/またはホルモン療法処置に加えて、出産可能年齢または閉経後または産褥期中の女性におけるMSの再発を予防または低減するのに使用することができる。
【0025】
好ましい一実施形態では、これは、プロゲスチン、例えば上述のもの、好ましくはネストロン(Nestorone(登録商標))を、最も好ましくは膣内リングの形で投与して上述の特定の1日投与量の形でこの組成物を投与することによって実施される。
【0026】
閉経後女性の場合、本発明の一実施形態では、本発明の化合物を、この場合も好ましくはネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンとエストラジオールとの両方の組合せを包含する経皮ゲルの形で投与する。このように、この方法は、MS、AD、PD、および脳卒中などのこれらの医学的状態の臨床状況にある神経変性を予防または処置できることが期待される。好ましくは、ネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンの1日投与量は、この場合もこうした閉経後女性において関連するエストロゲン療法の有無にかかわらず、100〜450μg/日の範囲となる。プロゲスチンの投与は、神経増殖への十分な効果を可能にし、子宮内膜剥離を誘導させるために、持続的に、または処置しない期間を順次入れることで断続的に実施することができる。
【0027】
一方、出産年齢にある若い閉経前女性の処置に関して、一実施形態では、本発明は、好ましくは膣内リングの形で、1日投与量として約200μg/日の割合で、ネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンを持続して長期投与することを提供する。この場合も、MSなどの神経変性病態の処置の有無にかかわらず、これによって確実に避妊される。さらに、ネストロン(Nestorone(登録商標))などの化合物自体の強力な抗排卵作用を考えると、これらの投与の長期実施は、妊娠の予防、ならびにMSの再発予防に適している。したがって、本発明によれば、神経保護の性質を有するこれらのプロゲスチンを含有しない現在のエストロゲン−プロゲスチン避妊薬のすべてとは対照的に、ほとんどの女性で使用される、さらなる健康上の利益を有する新規な避妊薬を開示する。
【0028】
本発明の一態様の好ましい一実施形態によれば、約1mg〜4.5mgの経皮適用用ネストロン(Nestorone(登録商標))(10%吸収として、約100〜450μg/日のネストロン(Nestorone(登録商標)))を含有する経皮適用のための、好ましくはゲルの形の1日投与量のネストロン(Nestorone(登録商標))を包含し、単独で与えることができ、または、好ましくは使用前に、閉経療法のために、0.5〜1.5mg、すなわち、50〜150μg/日の経皮適用用エストラジオールと組み合わせることができる組成物を提供する。膣内リングを使用する好ましい一実施形態では、ネストロン(Nestorone(登録商標))の1日投与量は、単独でも、または好ましくは10〜50μg/日の投与量のエストラジオールとの組合せでも、約100〜300μg/日である。この実施形態では、これらの投与は、持続的に、または逐次的に、例えば、3週間投与し、1週間投与しない治療計画などで適用することができる。
【0029】
本発明の別の一実施形態によれば、閉経後女性を、神経変性障害の有無にかかわらず、神経前駆細胞増殖を誘導させるのに十分な用量で、ネストロン(Nestorone(登録商標))などの上述のプロゲスチンを含む1日投与量単位を提供することによって処置し、神経前駆細胞増殖を誘導させることができる。
【0030】
本発明はまた、明らかに、患者の神経変性またはミエリン変性を処置するために男性と女性の両方に一般的に適用される。したがって、この方法は、神経変性を予防または低減するために、製薬学的に有効な用量、好ましくは5mg/日以下の本発明のプロゲスチン、好ましくはネストロン(Nestorone(登録商標))を用いて患者を処置することを包含する。好ましい一実施形態では、利用されるネストロン(Nestorone(登録商標))の量は、1日投与量として100〜300μg/日、好ましくは約200μg/日となる。
【0031】
これらの投与量のネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンを投与する方法は、例えば、非経口投与を含むことができる。非経口投与には、ゲル、スプレー、経皮パッチによる経皮投与、または膣内リングもしくは埋込体の形での経皮投与が包含され得る。本発明の経口で活性なプロゲスチンの経口投与は、錠剤、カプセル剤、カシェ剤、糖衣錠、丸剤、ペレット、顆粒剤、散剤、液剤、乳剤、懸濁剤などの形で行うことができる。
【0032】
本発明に従って使用することができる特定のプロゲスチン化合物に関しては、ネストロン(Nestorone(登録商標))ならびに18−メチルネストロン(Nestorone(登録商標))、酢酸ノメゲストロール、トリメゲストンなどのプロゲスチン、ならびにノルゲスチメート、ジエノゲスト、ドロスピレノン、酢酸クロルマジノン、プロメゲストン、レトロプロゲステロン、および17−ヒドロキシプロゲステロンなどの非アンドロゲンプロゲスチンが包含され得る。したがって、一般に、本発明の方法は、神経変性および/もしくはミエリン変性の予防もしくは低減、ならびに/またはMS、AD、PD、もしくは脳卒中などの病態の処置に利用することができる。
【0033】
上述のように、本発明によるプロゲスチンの1日投与量は、アンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン誘導性の生物学的応答を誘発するように選択される。
【0034】
本発明の好ましい一実施形態によれば、神経保護の性質を有するこうしたプロゲスチンを含有しない現在のエストロ−プロゲスチン避妊薬のすべてとは対照的に、ほとんどの女性で使用される、さらなる健康上の利益を有する新規な避妊薬を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ネストロン(Nestorone(登録商標))とプロゲステロンとの比較、および投与量依存的なミエリン形成の促進を示すグラフ図である。
【
図2】ネストロン(Nestorone(登録商標))、リゾレシチン、およびRU486によるミエリン形成の比較を示すグラフ図である。
【
図3】前駆細胞の増殖に対するプロゲスチンの効果を示すグラフ図である。
【
図4】前駆細胞の増殖に対する様々なプロゲスチンを示すグラフ図である。
【
図5】様々なプロゲスチンの神経保護効果を示すグラフ図である。
【
図6A】NPC再生に関するノルゲスチメートとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図6B】NPC再生に関するネストロン(Nestorone(登録商標))とプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図6C】NPC再生に関するノルエチノドレルとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図6D】NPC再生に関するノルエチンドロンとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7A】神経保護効果に関するネストロン(Nestorone(登録商標))とプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7B】神経保護効果に関するノルエチノドレルとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7C】神経保護効果に関するレボノルゲストレルとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7D】神経保護効果に関するノルゲスチメートとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7E】神経保護効果に関する酢酸メドロキシプロゲステロンとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図7F】神経保護効果に関するノルエチンドロンとプロゲステロンとの比較を示すグラフ図である。
【
図8A】様々なプロゲスチンによるNPC増殖の細胞生存率の比較を示すグラフ図である。
【
図8B】様々なプロゲスチンによるNPC増殖の細胞生存率の比較を示すグラフ図である。
【
図8C】様々なプロゲスチンによるNPC増殖の細胞生存率の比較を示すグラフ図である。
【
図9A】様々なプロゲスチンのPCNA発現を示すグラフ図である。
【
図9B】TUNEL陽性細胞のパーセントを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、最も詳細には、ある種のプロゲスチンの特定の性質の発見に基づくものである。最も詳細には、これらのプロゲスチン化合物は、神経変性を予防または低減するのに十分な用量で、それでも用量は5mg/日以下であるが、アンドロゲン受容体と相互作用することなく、かつアンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発する。したがって、これらのプロゲスチンには、ネストロン(Nestorone(登録商標))、18−メチルネストロン(Nestorone(登録商標))、酢酸ノメゲストロール、トリメゲストン、ノルゲスチメート、ジエノゲスト、ドロスピレノン、酢酸クロルマジノン、プロメゲストン、レトロプロゲステロン、および17−ヒドロキシプロゲステロンが包含される。したがって、このクラスのプロゲスチンは、アンドロゲン受容体と相互作用し、効果を示すのに5mg/日超、一般に最高で10mg/日、またはそれ以上の用量を必要とするプロゲステロンおよびレボノルゲストレルを除外する。本発明のプロゲスチン化合物にはまた、アンドロゲンまたはグルココルチコイドの生物学的応答を誘導することなく、プロゲステロン受容体との結合を生じさせ、プロゲステロン受容体誘導性の生物学的応答を誘発するプロゲスチン化合物が包含され得る。
【0037】
本発明者らは、本発明に関して使用するために非常に好ましいネストロン(Nestorone(登録商標))などのプロゲスチンの現在好ましいいくつかの用量を本明細書で説明している。しかし、こうした有効投与量を送達させるために、これらの各々のプロゲスチンの用量がいくら必要とされるかは、特定の投与経路に応じて、製薬分野の技術の範囲内で日常的な実験によって決定される。しかし、下記に説明するような差異はあるが、本発明のこれらのプロゲスチン化合物のすべては、プロゲステロンなどの化合物の有効用量よりもかなり少ない量である5mg/日以下の用量で効果的に利用できることが分かった。in vivoで投与されるネストロン(Nestorone(登録商標))などのこれらの各々のプロゲスチン化合物の用量は、レシピエントの年齢、性別、健康状態、および体重、同時に行われる処置の種類、もし行われていればその処置の頻度、ならびに所望の薬剤効果の性質に依存する可能性があることを理解されたい。本明細書で提供する有効投与量の範囲は、限定することを意図するものではなく、好ましい用量範囲を表しており、全体的に見て5mg/日以下のより低い用量範囲である。しかし、当業者なら理解し、決定できるように、その全体的な範囲内の最も好ましい用量は、個々の対象に合わせて調整することができる。例えば、Berkowら編、The Merck Manual、第16版、Merck&Co.、Rahway、NJ(1992年);Goodmanら編、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、第8版、Pergamen Press Inc.、Elmsford、NY(1990年);Katzung、Basic and Clinical Pharmacology、Appleton&Lang、Norwalk、CN(1992年);Avery’s Drug Treatment Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics、第3版、ADIS Press Ltd.、Williams&Wilkins、Baltimore、MD(1987年);Ebadi、Pharmacology、Little,Brown&Co.、Boston、MA(1985年);Remington’s Pharmaceutical Services、第17版、Alphonzo R.Genaro、Mack Publishing Company、Easton、PA(1985年)を参照されたい。これらの参考文献は参照することにより全体が本明細書の一部をなすものとする。
【0038】
用量は、投与量漸増試験を使用して、臨床医によって決定され得る。用量が上記の好ましい範囲内にあることを予想することができる。さらに、この考察は本発明の非常に重要なプロゲスチン成分に特に言及しているが、もちろん、これはまた本願のエストロゲン成分にも同等の効力で適用され得る。
【0039】
さらに、用語「製薬学的に有効な」は、対象に所望の変化をもたらすのに十分な量を意味する。量は、特定の薬物の性能、所望の治療効果、および適用方法が意図する処置の提供期間などの要因に応じて変わる。製薬分野の技術者は、標準的な手順に従って薬物の毒性レベルと最小有効投与量のどちらも決定することができる。例えば、適切な剤形は、標準的な分析技術、例えば、分光分析またはラジオイムノアッセイ分析によって、所与の薬物のin vivoでの速度または溶出を測定して、調製することができる。in vitroでの本発明の送達デバイスからの薬物の拡散は、例えば、Chienら、J.Pharm.Sci.、63巻、365頁(1974年)に開示の方法、または米国特許第3,710,795号に記載の方法によって決定することができ、これらの開示は参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0040】
本出願人は、これらの特定のプロゲスチン化合物が、ミエリン形成に関して、また神経変性の処置、具体的には、MS、AD、PD、および脳卒中などの病態の処置に予想外の性質を有する可能性があり、さらに、これらの予想外の性質が、避妊目的に有用であることが知られているこれらの化合物を用いた避妊作用の処置と併せて得られることを発見した。
【0041】
したがって、本発明のプロゲスチン化合物の特定の好ましい使用は、エストロゲン化合物との併用である。当業者は、エストロゲン化合物から、エストロゲンが、エストラジオール、エチニルエストラジオール、エストラジオールスルフィナート、吉草酸エストラジオール、酢酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、エストロン、エストリオール、コハク酸エストリオール、および硫酸エストロンなどの結合型ウマエストロゲンを包含する結合型エストロゲン、17β−エストラジオール硫酸、17α−エストラジオール硫酸、硫酸エキリン、17β−硫酸ヒドロエキリン、17α−硫酸ヒドロエキリン、硫酸エキレニン、17β−硫酸ジヒドロエキレニン、17α−硫酸ジヒドロエキレニン、エステトロール、またはそれらの混合物からなる群から選択され得ることを理解されよう。最も好ましいのは、エストラジオールである。
【0042】
避妊を目的にプロゲスチンをエストロゲンと組み合わせることは広く知られている。実際は、通常、女性の不正出血パターンを発生させることなく、また閉経後の使用のためでもなく、プロゲスチンを単独で使用することはできないため、これらの目的のためにこれらのプロゲスチンをエストロゲンと組み合わせることが必要になった。さらに、本発明の主旨は、本明細書に記載のある種のプロゲスチンが神経保護およびミエリン形成に関して予想外に優れた性質を有し、エストロゲンの添加が必ずしもその目的を支援するものではないという発見に基づいているが、ある種のエストロゲンをこれらのプロゲスチンと組み合わせて使用することにより、神経保護または神経再生およびミエリン修復に関してさらに大きな予想外の結果をもたらすことも可能である。
【0043】
器官型の新生児ラットまたはマウスの小脳のスライス培養物において実施した実験では、プロゲステロンは、軸索ミエリン形成を加速した(13、14)。本発明に従って実施した試験では、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)免疫活性によって測定されたように、プロゲステロン(PROG)とネストロン(Nestorone(登録商標))(NES)の両方が投与量依存的にミエリン形成を促進することが分かった。20μMのNESが50μMのPROGと同じくらい活性があったので、NESはPROGよりも著しく強力であることが分かった(
図1)。また、処置してもPRノックアウトマウスからの小脳スライスでのミエリン形成は増大されなかったので、細胞内のプロゲステロン受容体(PR)がPROGのミエリン形成促進作用を媒介する可能性が示された。
【0044】
同じ動物モデルにおいて、ミエリン形成が完了するまで小脳スライスを培養し、次いで、公知技術(15)を利用して、リゾレシチン(LYSO)と共に一晩インキュベートして、脱髄を生じさせ、続いて、新鮮な培地で20μMのNESと共に3日間インキュベートした(スライスに10%浸透)。スライスをMBPに関して免疫染色した。
図1に示すように、NESは再ミエリン化を生じた。正常なミエリン形成が完了した後、リゾレシチンによって脱髄した後、および20μMのNES、10μMのRU486、またはNES+RU486と共に3日間インキュベートした後、小脳スライスにおけるMBP染色強度を測定した。このモデルでは、RU486がNES活性を抑制するように見えるので、リゾレシチンで脱髄された小脳スライスのNES刺激による再ミエリン化に、典型的なプロゲステロン受容体(PR)が関与する可能性がある(
図2)。
【0045】
上述のin vitro試験によれば、NESのミエリン形成/再ミエリン化作用がプロゲステロン受容体(PR)によって媒介される可能性があることが明らかである。したがって、NESは、PRの強力なアゴニストであり、PRに関連する生物学的応答を誘導するアンドロゲン活性を有さない最も強力なプロゲスチンの1つであり、プロゲステロンよりもさらに良好にミエリン再生を向上させると思われ、これは脱髄に関連する疾患または病態の処置となる可能性がある。
【0046】
閉経後の女性では、神経変性疾患の増加はエストロゲンの欠乏と関係があり、プロゲステロンの役割にはほとんど注意が払われてこなかった。げっ歯類モデルの神経幹細胞の増殖に関する試験から、脳室下帯では、神経幹細胞が急速に分裂し、介在神経細胞になる神経芽細胞を生じさせることが示された。プロゲステロンは、これらの前駆細胞の増殖を増大させる。細胞増殖に関して試験した様々なプロゲスチンのうちで、ネストロン(Nestorone(登録商標))は、プロゲステロンと同じくらい有効、またはプロゲステロンよりさらに有効である。ノルエチノドレルおよびノルゲスチメートはまた、プロゲステロンより増殖性が高かった(
図3)。しかし、他のプロゲスチンは、増殖に関してプロゲステロン(NET、LNG)またはアンタゴニスト(MPA、NETA)ほど有効でなかった(
図4)。
【0047】
CNSの可塑性に対するNESおよび他のプロゲスチンの効果ならびにグルタミン酸毒性に対する神経保護効果も評価した。細胞をグルタミン酸塩に曝露させた後、こうした効果を決定するために、広く受け入れられているアッセイとしてLDHを測定し、神経細胞の生存率を様々なプロゲスチンの作用下で評価した。
図5は、3種のプロゲスチンがプロゲステロンと同等の効果を有し、10 −7MにおいてNESおよびPROGはより高い効果を発揮したが、より低い投与量では、アンドロゲンプロゲスチンであるLNGはPROGよりも活性があることを示している。
【実施例1】
【0048】
ラットの神経前駆細胞(NPC)再生を決定するために、in vitroで試験を行った。5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)化学発光酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)およびその結果を、本明細書の
図6A〜Dに示している。細胞増殖は、BrdUのS期取込みによって決定した。4〜6時間の飢餓(補充なし培地)後、bFGFの存在下または不在下で、P
4または試験プロゲスチンの濃度を変えて、不補充の維持培地においてrNPCに10μMのBrdUを1日間付加した。次いで、先に記載したようにrNPCを処理した(1、14)。ブランク(BrdU付加なし)の値を引いた後、データを、一元配置ANOVA、続いて、ニューマン・クールズのポストホック検定を使用して、分析した。これらの結果は、24時間で、ノルゲスチメートがすべての濃度でプロゲステロンよりも細胞増殖において一層強力であったことを実証している。ネストロン(Nestorone(登録商標))およびプロゲステロンは、それらのEC
100濃度で同等の効果を示した。ノルエチノドレルは、低ナノモル範囲でプロゲステロンと同等の効果を生じたが、高ナノモル範囲ではプロゲステロンよりも著しく効果的であった。ノルエチンドロンは、プロゲステロンおよびレボノルゲストレルほど有効ではなく、酢酸ノルエチンドロンは、増殖に対する効果が最小または無しであり、酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)は、複数の濃度で増殖を著しく抑制した。
【実施例2】
【0049】
神経変性損傷に対する神経保護の比較を行った。興奮毒性のグルタミン酸塩によって誘導された変性からの初代海馬神経細胞の保護に関して、効果を決定した。7日間90ウェル培養プレートでin vitro成長させた海馬神経細胞培養物を、ビヒクルだけまたは試験化合物で前処置し、続いて、先に記載したように200μMのグルタミン酸塩に曝露させた(13)。グルタミン酸塩の曝露後、培養物をHEPES緩衝生理食塩水で洗浄し、試験化合物または組合せを含有する新鮮なNBMと交換した。培養物をインキュベーターに戻し、24時間インキュベートした後、比色LDH放出法を使用して、培地における神経細胞の生存率を分析した。試験したプロゲスチンの各々に関して投与量反応分析を実施した。その結果を
図7A〜Fに示している。神経保護の効率を、以下の通りに計算した。NE=(V
サンプル−V
グルタミン酸塩)/(V
対照−V
グルタミン酸塩)。これから分かるように、ネストロン(Nestorone(登録商標))は、プロゲステロンと同等の神経保護効果を誘導した。ノルエチノドレルは最小有効濃度においてプロゲステロンよりも強力であったが、レボノルゲストレルはプロゲステロンと同等の効果を示した。ノルゲスチメートはプロゲステロンほど強力ではなく、MPAとノルエチンドロンのどちらもプロゲステロンほど強力ではないことが分かった。
【実施例3】
【0050】
in vivo条件に対する上記のin vitro知見の全般的な能力を調査した。卵巣切除した生後3カ月の雌のスプラーグドーリーラットにおいて、様々なプロゲスチンを用いて、ラットのNPC増殖および細胞生存率の分析を実施した。細胞周期タンパク質発現をWesternブロット解析によって決定した。
図8Aに見られる結果から、ネストロン(Nestorone(登録商標))が、タンパク質レベルでのPCNA発現の増加に関してプロゲステロンよりもわずかに優っているように見えることが示された。一方、レボノルゲストレルおよびMPAは、PCNA発現に有意な効果を有さず、CDC2タンパク質発現は、プロゲステロンとネストロン(Nestorone(登録商標))の両方によって有意に増加したが、レボノルゲストレルおよびMPAでは増加しなかった。BrdU+細胞の総数を評価するために、タンパク質分析に使用した対側海馬の半球を準備し、FACS分析で処理した。各海馬ごとにBrdU+細胞の総数を決定し、ビヒクル対照に対して標準化した。その結果を
図8Bに示しており、これは、ネストロン(Nestorone(登録商標))が、Brd+細胞数においてプロゲステロンよりもわずかに優って、有意な増加を示し、レボノルゲストレルが、プロゲステロンと同等であり、MPAが、in vivoでの細胞増殖に有意な効果を有さなかったことを実証するものである。細胞生存率を測定するために、ミトコンドリア機能の促進、およびミトコンドリアの酸化的リン酸化経路のATP合成酵素複合体Vのαサブユニット(CVα)の酸化的障害の発現の低減に関して、Westernブロット解析で評価した。
図8Cに示した結果は、ネストロン(Nestorone(登録商標))がプロゲステロンおよびレボノルゲストレルよりもさらに大きくCVA発現を増加させたが、MPAは、この場合も、CVα発現レベルに有意な効果を及ぼさなかったことを実証している。
【実施例4】
【0051】
Bax、すなわち、チトクロムCやBcl−2などのアポトーシス因子を放出するミトコンドリアへの翻訳によるアポトーシスメディエーターの発現レベルを決定するのに、Westernブロット解析を使用して、アポトーシスに対する様々なプロゲスチンの効果を試験した。in vivoでのアポトーシス活性の指標として、BaxとBcl−2の比を使用した。得られた結果は、プロゲステロンおよびネストロン(Nestorone(登録商標))の両方が、Bax/Bcl−2発現比に効果を有さず、レボノルゲストレルおよびMPAが、その比を有意に増加させて、アポトーシス促進効果を示したことを実証していた。
【実施例5】
【0052】
また、in vitroでの神経形成および細胞生存率に対する17β−エストラジオール(E
2)と様々なプロゲスチンとの組合せの影響も行った。したがって、卵巣切除した若い雌のスプラーグドーリーラットを、6グループに分け、E
2単独、またはプロゲスチンのうちの1種と組み合わせたE
2を注射した。Westernブロット解析およびフローサイトメトリーのために、24時間後に海馬を単離して、細胞生存率および神経形成のそれぞれに対する処置の影響を決定した。PCNAの発現レベルを評価して、神経形成に必要な細胞周期への侵入に対する処置化合物の影響を決定した。その結果は、ネストロン(Nestorone(登録商標))+E
2が最大のPCNA発現および神経前駆細胞増殖を誘導することを実証していた(
図9Aを参照)。
【0053】
重要なことには、エストラジオールと組み合わせたネストロン(Nestorone(登録商標))は、TUNEL陽性細胞、アポトーシスに対するマーカーの増加がないことから明らかなように、神経前駆細胞死を増加させなかった。対照的に、エストラジオールと組み合わせたMPAとレボノルゲストレルのどちらも、TUNEL陽性細胞の増加から明らかなように、アポトーシスを有意に増加させた(
図9Bを参照)。上述のように、MPAとレボノルゲストレルの両方は、細胞増殖を増加させた。
【0054】
本発明は、神経再生を刺激し、MSまたはADなどの神経変性障害、ならびに脳卒中をできる限り抑制し、回復に向かわせる方法を提供する。
【0055】
提案する方法は、膣内リングまたは膣内ゲルで、単独で、またはエストラジオールと組み合わせて投与される約100〜450μg/日の投与量のNESを用いてミエリン変性を回復に向かわせるステップを含む。
【0056】
本発明の別の一実施形態では、NES、またはアンドロゲンもしくはグルココルチコイドの性質を有さないプロゲスチンを、ホルモン療法および神経変性の実行可能な予防として低い投与量のエストロゲンを受ける閉経後女性に投与する。
【0057】
本発明は、NESが、プロゲステロンよりも神経前駆細胞の刺激ならびにミエリンの再生に活性があるという発見に関する。本発明のさらに中心となる態様は、プロゲステロン受容体に結合でき、PR誘導性の生物学的応答を誘導できる薬剤が、出産可能年齢の女性ならびに閉経後の女性にとって、神経変性を予防または回復に向かわせるのに有効となるであろうということである。
【0058】
用語「ネストロン(Nestorone(登録商標))」(NES)は、強力なプロゲステロンおよび抗排卵の作用を及ぼし、かつ治療レベルでのアンドロゲンまたはエストロゲンまたはグルココルチコイドの作用を有さない19−ノルプロゲステロン誘導体を指す(16)。具体的には、これは、16−メチレン−17α−アセトキシ−19−ノルプレグナ−4−エン−3,20−ジオンを指し、以前はST1435と呼ばれていた。
【0059】
本明細書では、用語「DDU」は、1日投与量単位を指し、このDDUは、経口活性な他の19−ノルプロゲステロン誘導体(NESではない)の場合は経口製剤、または膣内製剤(ゲルもしくはリング)、または経皮製剤(ゲル、スプレー)の形をとる。
【0060】
本明細書で使用する用語「避妊薬」は、妊娠の可能性を予防または低減するために投与される薬物を指す。
【0061】
本発明は、プロゲステロンがミエリン修復を刺激するという事実に基づいている。これらの効果は、プロゲステロン受容体(PR)によって媒介される。本発明は、NESが、避妊効果も発揮する投与量で、PROGよりも活性があり、ミエリンを再生できることを明らかにしている。
【0062】
本発明はまた、神経組織の前駆細胞が、プロゲステロンと共に、さらに、より低い投与量でより高い活性を示すNESと共に培養されると、増殖することも明らかにしている。
【0063】
また、プロゲステロン、およびいくつかのプロゲスチン、特にNES、またノルゲスチメート(非アンドロゲン性ゴナン)、およびノルエチノドレル(エストロゲン活性を有するエストランプロゲスチン)は、前駆細胞増殖を刺激する。
【0064】
ミエリン刺激ならびに神経再生に対するNESの優れた効果に基づいて、多発性硬化症および神経変性障害の医学的状態を改善させると同時に、出産年齢の女性の避妊または閉経期の女性のホルモン療法を提供することが、本発明の目的である。
【0065】
本明細書において本発明を特定の実施形態に関して説明してきたが、これらの実施形態が本発明の原理および適用の単なる例示であることを理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、例示の実施形態に多くの変更を行うことができ、他の配置を考案することができることを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本出願で開示する神経変性またはミエリン形成の処置方法は、ネストロン(Nestorone(登録商標))などの特定のプロゲスチン単独の、またはそれをエストラジオールなどのエストロゲンと組み合わせた非経口剤形の形において特に有用である。この組成物は、ゲル、液剤、スプレー、もしくはパッチなどの経皮製品の形で、または膣内リングの形で使用され、患者が神経変性を低減するのにこのように使用することができ、エストロゲンと組み合わせると、避妊および/またはホルモン補充療法に使用することもできる。
【0067】
[参考文献]
【表1A】
【表1B】
【表1C】