(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871816
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】インスリン受容体基質1(IRS1)タンパク質SRM/MRMアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20160216BHJP
G01N 27/48 20060101ALI20160216BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 D
G01N27/48 A
G01N33/68ZNA
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-546213(P2012-546213)
(86)(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公表番号】特表2013-515271(P2013-515271A)
(43)【公表日】2013年5月2日
(86)【国際出願番号】US2010061909
(87)【国際公開番号】WO2011087862
(87)【国際公開日】20110721
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】61/289,382
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505343745
【氏名又は名称】エクスプレッション、パソロジー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EXPRESSION PATHOLOGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド、ビー.クリッツマン
(72)【発明者】
【氏名】トッド、ヘンブロー
(72)【発明者】
【氏名】シーノ、ティパランビル
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/002946(WO,A1)
【文献】
特開2006−105699(JP,A)
【文献】
特表2008−521907(JP,A)
【文献】
特表2006−519996(JP,A)
【文献】
特表2011−510306(JP,A)
【文献】
Zhengping Yi et al.,"Quantification of Phosphorylation of Insulin Receptor Substrate-1 by HPLC-ESI-MS/MS",Journal of the American Society for Mass Spectrometry,Elsevier Inc.,2006年 4月,Vol. 17, No. 4,pp. 562-567
【文献】
戸辺 一之, 門脇 孝,「インスリン受容体基質を介するシグナル伝達異常とインスリン抵抗性」,医学のあゆみ,医歯薬出版株式会社,2000年 7月29日,Vol. 194, No. 5,pp. 423-430
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/48
G01N 33/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリン固定した組織のヒト生物検体中のインスリン受容体基質1(IRS1)タンパク質のレベルの測定方法であって、前記ヒト生物検体から調製したタンパク質消化物中のIRS1フラグメントペプチドの量の質量分析による検出および/または定量;ならびに前記検体中のIRS1タンパク質のレベルの計算を含み;さらに前記IRS1フラグメントペプチドが配列番号70または配列番号76であり、かつ前記レベルが相対的レベルまたは絶対的レベルである、方法。
【請求項2】
前記IRS1フラグメントペプチドが配列番号76である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IRS1フラグメントペプチドの量の検出および/または定量の前に、前記タンパク質消化物を分画するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質消化物がプロテアーゼ消化物を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織がパラフィン包埋組織である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組織が腫瘍から入手される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記IRS1フラグメントペプチドを定量することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記IRS1フラグメントペプチドの定量が、1つの生物検体中の前記IRS1フラグメントペプチドの量を、異なる、別の生物検体中の同じIRS1フラグメントペプチドの量と比較することを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記IRS1フラグメントペプチドの定量が、既知量の添加内部標準ペプチドに対する比較により、生物検体中の前記IRS1フラグメントペプチドの量を測定することを含み、ここで生物検体中の前記IRS1フラグメントペプチドが同じアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドに対し比較され、かつ、前記内部標準ペプチドが同位体で標識したペプチドである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質消化物中の前記IRS1フラグメントペプチドの量の検出および/または定量により、修飾または非修飾IRS1タンパク質の存在および被験者の癌との関連性が示される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記IRS1フラグメントペプチドの量、または前記IRS1タンパク質のレベルの前記検出および/または定量結果と、診断上の癌の病期/グレード/状態とを関連付けるためのデータを提供することをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記IRS1フラグメントペプチドの量、または前記IRS1タンパク質のレベルの前記検出および/または定量結果の、診断上の癌の病期/グレード/状態に対する関連付けのためのデータが、他のタンパク質由来の他のタンパク質またはペプチドの量の検出および/または定量と組み合わされて、多項目同時測定により、診断上の癌の病期/グレード/状態に関する追加の情報を提供するためのものである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年12月22日出願の「インスリン受容体基質1(IRS1)タンパク質SRMアッセイ」の題目の米国特許仮出願第61/289,382号(発明者DavidB.Krizman)の利益を主張し、その全内容が本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
緒言
インスリン受容体タンパク質基質1(IRS1と呼ばれる)のサブシーケンス由来の特異的ペプチドが提供される。各ペプチドに対するペプチド配列およびフラグメント/遷移イオンは、質量分析ベース選択反応モニタリング(SRM)(多重反応モニタリング(MRM)とも呼ばれる)アッセイでは特に有用で、この分析は、SRM/MRMと呼ばれる。IRS1タンパク質のSRM/MRM定量分析用として、ペプチドの使用の情報について記載する。
【0003】
このSRM/MRMアッセイを使って、IRS1タンパク質由来の1つ以上の特異的ペプチドの相対的または絶対的定量値を測定することができ、従って、生物検体から得た所与のタンパク質調製物中のIRS1タンパク質の量を質量分析により測定する手段を提供することができる。
【0004】
さらに具体的には、SRM/MRMアッセイで、患者組織検体、例えば、ホルマリン固定癌患者組織、から得た細胞より調製した複合タンパク質ライセート検体中のこれらのペプチドを直接測定可能である。ホルマリン固定組織からタンパク質検体を調製する方法は、米国特許出願第7,473,532号に記載されている。この特許の内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。米国特許出願第7,473,532号に記載の方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville、MD)から入手可能であるLiquid Tissue(登録商標)試薬およびプロトコルを使って都合よく行うことができる。
【0005】
最も広範にまた便利に入手できる癌患者組織由来の組織の形は、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織である。外科的採取組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、世界中でこれまで最もよく行われている癌組織検体保存方法であり、標準的病理学実践のための認められた方法である。ホルムアルデヒドの水溶液は、ホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、ホルムアルデヒドの飽和水溶液(約40容量%または37重量%に相当)から構成され、酸化および重合の度合いを制限するための少量の安定剤、通常はメタノール、を含む。組織を保存する最もよく用いられ方法は、水性のホルムアルデヒド(通常、10%中性緩衝ホルマリンと命名されている)中に全組織を長時間(8時間〜48時間)浸漬し、続いて、室温での長期貯蔵のために、固定全組織をパラフィンワックス中に包埋することである。従って、ホルマリン固定癌組織を分析する分子分析方法が、最も受け入れられ、また、頻繁に使用されている癌患者組織の分析方法であると思われる。
【0006】
SRM/MRMアッセイの結果は、組織(生物検体)を採取し保存した患者または被験者の特定の組織検体(例えば、癌組織検体)内のIRS1タンパク質の正確で精密な定量値を関連付けるために使用可能である。これは、癌に関する診断情報を提供するだけでなく、医師または他の医療従事者の患者に対する治療の適切な判断を可能とする。患部組織または他の患者の検体中のタンパク質発現レベルに関する、診断上また治療上で重要な情報を提供するこのアッセイは、コンパニオン診断アッセイと名付けられている。例えば、このようなアッセイは、癌の病期または程度を診断するように設計可能であり、患者が最も反応しそうな治療薬を決定できる。
【発明の概要】
【0007】
要約
本明細書に記載のアッセイは、IRS1タンパク質由来の特定の非修飾ペプチドの相対的または絶対的量を測定し、また、IRS1タンパク質由来の特定の修飾ペプチドの絶対的または相対的量も測定できる。修飾の例には、ペプチド上に存在するリン酸化アミノ酸残基およびグリコシル化アミノ酸残基が含まれる。
【0008】
IRS1タンパク質の相対的定量レベルは、SRM/MRM法、例えば、異なる検体中の個別のIRS1ペプチドのSRM/MRMシグネチャ(signature)ピーク面積(例えば、シグネチャピーク面積または積分フラグメントイオン強度)を比較することにより、測定できる。あるいは、それ自体の特異的SRM/MRMシグネチャピークをそれぞれ有する、複数のIRS1シグネチャペプチドの複数のSRM/MRMシグネチャピーク面積を比較し、1つ以上の追加のまたは異なる生物検体中にIRS1タンパク質含量を有する1つの生物検体中の相対的IRS1タンパク質含量を測定できる。この方法では、IRS1タンパク質由来の特定の1つ以上のペプチドの量、従って、IRS1タンパク質の量が、同じ実験条件下の2つ以上の生物検体の間における同じ1つ以上のIRS1ペプチドと比較して、測定される。さらに、SRM/MRM法によるそのペプチドのシグネチャピーク面積を、生物検体由来の同じタンパク質調製物内の異なる1つ以上のタンパク質由来の別の異なる1つ以上のペプチドと比較することにより、単一の検体中の所与の1つ以上のIRS1タンパク質由来のペプチドを相対定量することができる。この方法では、IRS1タンパク質由来の特定のペプチドの量、従って、IRS1タンパク質量を、同じ検体内で相対的に測定できる。これらの手法では、生物検体由来のタンパク質調製物中のIRS1ペプチドの容量に対する絶対重量または重量に対する絶対重量のいずれであっても、ピーク面積により求めた量が相互に相対的である検体間および検体内の間の別の1つ以上のペプチドの量に対する、IRS1タンパク質由来の個別の1つ以上のペプチドの定量化が行える。異なる検体間の個別のシグネチャピーク面積に関する相対的定量データは、検体毎に分析したタンパク質の量に正規化される。複数のタンパク質由来の多くのペプチドおよびIRS1タンパク質について、単一の検体中、および/または多くの検体間で同時に相対的定量化を行い、相対的タンパク質の量、他のペプチド/タンパク質と比較して1つのペプチド/タンパク質に対する洞察を得ることができる。
【0009】
IRS1タンパク質の絶対的定量レベルは、例えば、SRM/MRM法により測定でき、この方法では、1つの生物検体内の個別のIRS1タンパク質由来のペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積が、添加内部標準のSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較される。一実施形態では、内部標準は、1つ以上の重同位元素で標識した1つ以上のアミノ酸残基を含む、合成バージョンの正確に同じIRS1ペプチドである。このような同位体標識内部標準を合成し、それにより、質量分析で分析した場合、これは、元のIRS1ペプチドシグネチャピークとは異なる、区別可能で、予測可能かつ一貫したSRM/MRMシグネチャピークを生成し、比較ピークとして使用可能である。従って、生物検体由来のタンパク質調製物中に既知の量の内部標準が添加され、質量分析で分析された場合、元のペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積が内部標準ペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較され、この数値比較は、元の生物検体由来のタンパク質調製物中に存在する元のペプチドの絶対的モル濃度および/または絶対的重量を示す。フラグメントペプチドに対する絶対的データは、検体毎に分析されるタンパク質の量に従って、表示される。単一の検体中、および/または多くの検体間で同時に多くのペプチド、従って、タンパク質に関し、絶対的定量化を行い、個別生物検体および個別検体の全体コホート中の絶対的タンパク質量に対する洞察を得ることができる。
【0010】
SRM/MRMアッセイ法は、例えば、直接的に、ホルマリン固定組織等の患者由来の組織を使って、癌の病期の診断を支援し、また、どの治療薬が患者の治療に対する使用に最も都合が良いかどうかという決定を支援するのに使用できる。手術、例えば、部分または全体腫瘍の治療的除去により、または疑わしい疾患が存在するか否かを判断するために行う生検法により患者から取り出した癌組織を分析し、その患者組織中に1つ以上の特異的タンパク質があるのかどうか、およびどの型のタンパク質なのかを判断する。さらに、1つ以上のタンパク質の発現レベルが測定でき、健康な組織中で見つかった「正常な」または参照レベルと比較できる。健康な組織中で見つかったタンパク質の正常なまたは参照レベルは、例えば、癌を有さない1つ以上の個体の関連する組織由来であってもよい。あるいは、正常なまたは参照レベルは、癌の個体に対し、癌に罹患していない関連する組織の分析から得てもよい。タンパク質レベルのアッセイ(例えば、IRS1レベル)は、IRS1レベルを採用することにより癌と診断された患者または被験者の癌の病期の診断にも使用可能である。タンパク質またはペプチドのレベルまたは量は、SRM/MRMアッセイにより測定されたタンパク質またはペプチドのモル、質量または重量により表現される量として定義できる。レベルまたは量は、分析ライセート中の全体タンパク質または他の成分のレベルまたは量に対し正規化できる(例えば、タンパク質のマイクロモル/マイクログラムまたはタンパク質のマイクログラム/マイクログラムとして表現)。さらに、タンパク質またはペプチドのレベルまたは量は、容量ベース、例えば、マイクロモルまたはナノグラム/マイクロリットルによる表現に基づいて測定してもよい。SRM/MRMアッセイにより測定されたタンパク質またはペプチドのレベルまたは量は、また、分析した細胞の数で正規化可能である。IRS1に関する情報は、従って、IRS1タンパク質(またはIRS1タンパク質フラグメントペプチド)のレベルを正常組織で観察されるレベルと相互に関連付けることにより癌の病期またはグレードを決定するのを支援するために使用できる。癌の病期および/またはグレード、および/またはIRS1タンパク質の発現特性が解るとすぐに、その情報は、例えば、アッセイされる1つ以上のタンパク質(例えば、IRS1)の異常な発現を特徴とする癌組織を特異的に治療するように開発された治療薬(化学および生物学的)のリストと照合することができる。例えば、IRS1タンパク質またはタンパク質を発現している細胞/組織を特異的に標的にする治療薬のリストを照合するIRS1タンパク質アッセイからの情報は、疾患を治療するための、いわゆるオーダーメイド医療手法を規定する。本明細書記載のアッセイ方法は、患者自信の組織由来のタンパク質の分析を診断と治療決定のソースとして使って、オーダーメイド医療手法の基盤を形成する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
原理的には、例えば、既知の特異性のプロテアーゼ(例えば、トリプシン)で消化されることにより調製される前記IRS1タンパク質由来のいずれの予測されるペプチドも、質量分析ベースSRM/MRMアッセイを使って検体中のIRS1タンパク質の存在量を測定するための代用レポーターとして使用可能である。同様に、前記IRS1タンパク質中で潜在的に修飾されることが解っている部位のアミノ酸残基を含むいずれの予測されるペプチド配列も、また、検体中の前記IRS1タンパク質の修飾の度合いのアッセイに使用できる可能性がある。
【0012】
IRS1フラグメントペプチドは、米国特許第7,473,532号で提供されるLiquid Tissue(登録商標)プロトコルの使用を含む種々の手段で生成可能である。Liquid Tissue(登録商標)プロトコルおよび試薬を使って、組織/生物検体中のタンパク質のタンパク分解性消化により、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から質量分光分析に適したペプチド検体を作ることができる。Liquid Tissue(登録商標)プロトコルでは、組織/生物検体は、長期間の緩衝液中で加熱され(例えば、約80℃〜約100℃で、約10分〜約4時間)、タンパク質架橋の逆転または解放が起こる。採用される緩衝液は、中性の緩衝液(例えば、トリスベース緩衝液、または洗剤含有緩衝液)である。熱処理後、組織/生物検体は、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、およびエンドプロテアーゼLys−Cを含む(これに限定されない)1つ以上のプロテアーゼを使って、前記生物検体の組織と細胞構造を破壊し、前記検体を液化するのに充分な時間(例えば、温度37℃〜65℃で30分〜24時間)処理される。加熱および蛋白質分解の生成物は、可溶性で希釈可能な液体生体分子ライセートである。
【0013】
驚くべきことに、IRS1タンパク質由来の多くの可能性のあるペプチド配列が、質量分析ベースSRM/MRMアッセイでの使用に対し不適切であるか、または効果がないことが明らかになったが、理由はすぐには明らかになっていない。MRM/SRMアッセイに対し最も適したペプチドの予測が可能ではないので、IRS1タンパク質用の信頼できる正確なSRM/MRMアッセイを開発するために、実際のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中で、修飾および非修飾ペプチドを実験的に特定することが必要であった。いかなる理論にも縛られる意図はないが、うまくイオン化せず、または他のタンパク質とは異なるフラグメントを生成しない、また、ペプチドが分離工程中(例えば、液体クロマトグラフィー)で、うまく分解できない、またはガラスまたはプラスチック器具に付着する可能性があるために、一部のペプチドは、例えば、質量分析によって検出することが困難である可能性があると考えられている。
【0014】
本開示の種々の実施形態(例えば、表1および2)のIRS1ペプチドは、ホルマリン固定癌組織から得た細胞から調製した複合Liquid Tissue(登録商標)ライセート中の全タンパク質のプロテアーゼ消化によるIRS1タンパク質由来であった。別段の指定がなければ、それぞれの例で、プロテアーゼはトリプシンであった。Liquid Tissue(登録商標)ライセートは、次に、質量分析で分析され、質量分析により検出され分析されるIRS1タンパク質由来のペプチドが測定される。質量分析用に好ましい特異的サブセットのペプチドの特定は、次の項目に基づいている;1)タンパク質由来の1つ以上のどのペプチドがLiquid Tissue(登録商標)ライセートの質量分析中にイオン化するかの実験的決定、および2)Liquid Tissue(登録商標)ライセートを調製するのに使用されるプロトコルおよび実験条件に対し生き残るためのペプチドの能力。この後者の特性は、ペプチドのアミノ酸配列のみならず、ペプチド内の修飾アミノ酸残基の修飾された形態で検体調製の間、生き残る能力までも及ぶものである。
【表1】
【表2】
【0015】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)固定組織から直接得た細胞由来のタンパク質ライセートをLiquid Tissue(登録商標)試薬およびプロトコルを使って調製した。この方法は、組織のマイクロダイセクションにより検体チューブ中に細胞を集めた後、細胞をLiquid Tissue(登録商標)緩衝液中で長期間加熱することを伴う。ホルマリン誘導架橋がマイナスの影響を受けるとすぐに、組織/細胞は、例えば、プロテアーゼトリプシン(これに限定されない)等のプロテアーゼを使って予想通りの方式で、完全に消化される。各タンパク質ライセートは、インタクトポリペプチドのプロテアーゼを使った消化により一群のペプチドへと変化する。各Liquid Tissue(登録商標)ライセートを分析し(例えば、イオントラップ質量分析)、複数のペプチドの包括的プロテオミック調査を行った。この場合、各タンパク質ライセート中に存在する全細胞性タンパク質から質量分析により可能な限り多くのペプチドが特定されるように、データを提示した。単一複合タンパク質/ペプチドライセートからできる限り多くのペプチドの特定のための包括的プロファイリングを行うことが可能なイオントラップ質量分析計または別の形式の質量分析計が採用される。しかし、イオントラップ質量分析計は、ペプチドの包括的プロファイリングを行うための質量分析計として最適のタイプであろう。SRM/MRMアッセイの開発および実行を、MALDI、イオントラップ、または三連四重極を含む任意のタイプの質量分析計で行うことができるが、SRM/MRMアッセイ用の最も都合のよい装置プラットフォームは、三連四重極装置プラットフォームであると考えられることが多い。
【0016】
採用された条件下で、単一ライセートの単一MS分析により可能な限り多くのペプチドが特定されるとすぐに、そのペプチドリストは、照合され、ライセートで検出されたタンパク質を測定するために使われる。このプロセスは、複数のLiquid Tissue(登録商標)ライセートに対し繰り返され、ペプチドの非常に長いリストが単一のデータセットにまとめられる。そのタイプのデータセットは、分析された(プロテアーゼ消化後に)生物検体のタイプ中で、具体的には、生物検体のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中で検出可能な、従って、特定のタンパク質、例えば、IRS1タンパク質に対するペプチドを含む、ペプチドを表していると考えることができる。
【0017】
一実施形態では、IRS1受容体の絶対的または相対的量の測定で有用であると特定されたIRS1トリプシン消化ペプチドには、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、次の配列番号のペプチドが含まれる:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号38、配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、配列番号54、配列番号55、配列番号56、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、配列番号61、配列番号62、配列番号63、配列番号64、配列番号65、配列番号66、配列番号67、配列番号68、配列番号69、配列番号70、配列番号71、配列番号72、配列番号73、配列番号74、配列番号75、配列番号76、および配列番号77、これらのそれぞれは表1に挙げられている。これらのペプチドのそれぞれは、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織から調製したLiquid Tissue(登録商標)ライセートの質量分析により検出される。従って、表1のペプチドまたはこれらのペプチドのいずれかの組み合わせのそれぞれ(例えば、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、表1で列挙したこれらのペプチド、および表2にある1つ以上のペプチドとの具体的な組み合わせ)は、ホルマリン固定した患者組織を含むヒト生物検体中のIRS1タンパク質に対する定量的SRM/MRMアッセイでの使用のための候補である。
【0018】
表1に挙げたIRS1トリプシン消化ペプチドは、前立腺、結腸、および乳房を含む異なるヒト器官の複数の異なるホルマリン固定組織の複数のLiquid Tissue(登録商標)ライセートから検出されたものを含む。これらのペプチドのそれぞれは、ホルマリン固定組織中のIRS1タンパク質の定量的SRM/MRMアッセイのために有用であると考えられる。これらの実験のさらなるデータ分析では、いずれの特定の器官部位由来のいずれの特定のペプチドに対しても、選択性は観察されなかった。従って、それぞれのこれらのペプチドは、任意の生物検体または身体の任意の器官部位に由来する任意のホルマリン固定組織のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中のIRS1タンパク質のSRM/MRMアッセイを行うために適すると考えられる。
【0019】
一実施形態では、表1のペプチドまたはこれらのペプチドの任意の組み合わせ(例えば、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、表1で列挙したこれらのペプチド、および、また、表2に挙げられたペプチドとの具体的な組み合わせ)が、免疫学的な方法(例えば、ウェスタンブロッティングまたはELISA)(これに限定されない)を含む質量分析に依存しない方法、によりアッセイされる。ペプチド(絶対的または相対的)の量に対するどのような情報が得られるかに関わらず、その情報は、本明細書記載のいずれかの方法に採用することができ、被験者の癌の存在を示し(診断)、癌の病期/グレード/状態を決定し、予後を示し、または被検者/患者に対する治療薬または治療法を決定することが含まれる。
【0020】
本開示の実施形態では、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、表1のペプチドを含む組成物が含まれる。一部の実施形態では、組成物は、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、表2のペプチドを含む。ペプチドを含む組成物は、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の同位体で標識したペプチドを含んでもよい。それぞれのペプチドは、
18O、
17O、
34S、
15N、
13C、
2Hまたはこれらの組み合わせからなる群から独立に選択される1つ以上の同位体で標識してもよい。同位体標識していても、していなくても、IRS1タンパク質由来のペプチド含有組成物は、そのタンパク質由来の全てのペプチド(例えば、トリプシン消化ペプチドの完全のセット)を含む必要はない。一部の実施形態では、組成物は、1つ以上の、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、5つ以上の、6つ以上の、8つ以上の、または10以上の、IRS1由来のペプチド、および表1または表2に具体的に挙げられているペプチドを含まない。ペプチド含有組成物は、乾燥または凍結乾燥物質、液体(例えば、水性の)溶液または懸濁液、配列、またはブロットの形であってもよい。
【0021】
SRM/MRMアッセイを行う上での重要な考慮すべきことは、ペプチドの分析に使用する装置のタイプである。SRM/MRMアッセイは、開発および実行をMALDI、イオントラップ、または三連四重極を含む任意のタイプの質量分析計を使って行うことができるが、SRM/MRMアッセイ用の最も都合のよい装置プラットフォームは、三連四重極装置プラットフォームであると考えられることが多い。そのタイプの質量分析計が、細胞内に含まれる全タンパク質由来の1000億の個別ペプチドを含むこともありうる極めて複雑化した単一のタンパク質ライセート内の単離標的ペプチドを分析するための最適の装置であると考えることができる。
【0022】
各IRS1タンパク質由来のペプチドのSRM/MRMアッセイを最も効率よく実施するためには、分析におけるペプチド配列に加えて追加の情報を利用することが望ましい。その追加の情報は、質量分析計(例えば、三連四重極質量分析計を)を操作するために使用して、正しく、的を絞った特異的標的化ペプチドの分析を行うことができ、それにより、アッセイを効率的に行うことが可能となる。
【0023】
通常の標的ペプチドに関する、および特定のIRS1ペプチドに関する追加の情報としては、ペプチドの1つ以上のモノアイソトピック質量、その前駆物質電荷状態、前駆物質m/z値、m/z遷移イオン、および各遷移イオンのイオンタイプを含んでもよい。IRS1タンパク質用のSRM/MRMアッセイを開発するために使用可能な追加のペプチド情報は、表1の一覧中の12のIRS1ペプチドに対する例により示され、これを表2に示す。表2の例で示されるこの12のIRS1ペプチドに対し記載されている類似の追加の情報が、作成され、取得され、さらに表1に含まれる他のペプチドの分析に適用可能である。
【0024】
以下に記載する方法は、1)IRS1タンパク質の質量分析ベースSRM/MRMアッセイ用に使用可能なIRS1タンパク質由来の候補ペプチドを特定する、2)相互に関連付けるために、IRS1タンパク質由来の標的ペプチドのための1つ以上の個別SRM/MRMアッセイを開発する、および3)定量アッセイを癌診断および/または最適治療の選択に適用する、ために使用される。
【0025】
アッセイ方法
1.IRS1タンパク質のためのSRM/MRM候補フラグメントペプチドの特定
a.1つ以上のプロテアーゼ(これには、トリプシンを含んでも含まなくてもよい)を使ってタンパク質を消化して、ホルマリン固定生物検体からLiquid Tissue(登録商標)タンパク質ライセートを調製する。
b.イオントラップタンデム質量分析計を用いて、Liquid Tissue(登録商標)ライセート中の全タンパク質フラグメントを分析し、IRS1タンパク質由来の全フラグメントペプチドを特定する。この場合、個別フラグメントペプチドは、どのペプチド修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化、も含まない。
c.イオントラップタンデム質量分析計を用いて、Liquid Tissue(登録商標)ライセート中の全タンパク質フラグメントを分析し、ペプチド修飾、例えば、リン酸化またはグリコシル化残基を有するIRS1タンパク質由来の全フラグメントペプチドを特定する。
d.完全長IRS1完全タンパク質から特異的消化方法により生成された全ペプチドを測定することは可能ではあるが、SRM/MRMアッセイの開発に使用される好ましいペプチドは、ホルマリン固定生物検体から調製される複合Liquid Tissue(登録商標)タンパク質ライセートで直接質量分析により特定されるものである。
e.ホルマリン固定生物検体由来のLiquid Tissue(登録商標)ライセートの分析を行う場合、患者組織中で特異的に修飾され(リン酸化された、グリコシル化された、等)、質量分析計中でイオン化され、検出されるペプチドは、IRS1タンパク質のペプチド修飾をアッセイするための候補ペプチドとして特定される。
2.IRS1タンパク質由来のフラグメントペプチドの質量分析アッセイ
a.Liquid Tissue(登録商標)ライセート中で特定された個別フラグメントペプチドのための三連四重極質量分析計を使ったSRM/MRMアッセイがIRS1タンパク質由来のペプチドに適用される。
i.最適クロマトグラフィー条件のためのフラグメントペプチドに対する最適保持時間の決定。使用されるクロマトグラフィーには、これに限定されないが、ゲル電気泳動法、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、または逆相高速液体クロマトグラフィー、が含まれる。
ii.各ペプチドに対するSRM/MRMアッセイを開発するために、ペプチドのモノアイソトピック質量、各ペプチドに対する前駆物質電荷状態、各ペプチドに対する前駆物質m/z値、各ペプチドに対するm/z遷移イオン、および各フラグメントペプチドに対する各遷移イオンのイオンタイプの測定を行う。
iii.次に、(i)および(ii)からの情報を使って、三連四重極質量分析計によりSRM/MRMアッセイを行うことができる。この場合、各ペプチドは、三連四重極質量分析計で行われる独特のSRM/MRMアッセイを明確に規定する特徴的かつ固有のSRM/MRMシグネチャピークを有する。
b.SRM/MRM質量分析における固有のSRM/MRMシグネチャピーク面積の関数として、検出されるIRS1タンパク質のフラグメントペプチドの量が、特定のタンパク質ライセート中の相対的および絶対的量のタンパク質を表すことができるように、SRM/MRM分析を行う。
i.相対的定量は、下記により行うことができる:
1.1つのホルマリン固定生物検体由来のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中で検出された所与のIRS1ペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積を、少なくとも第二、第三、第四、またはそれを超えるホルマリン固定生物検体由来の少なくとも第第二、第三、第四、またはそれを超えるLiquid Tissue(登録商標)ライセート中の同じIRS1フラグメントペプチドの同じSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することにより、IRS1タンパク質の増加または減少を測定する。
2.1つのホルマリン固定生物検体由来のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中で検出された所与のIRS1ペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積を、異なる、別の生物学的ソース由来の他の検体中の他のタンパク質由来のフラグメントペプチドから生成したSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することにより、IRS1タンパク質の増加または減少を測定する。この場合、2検体間のペプチドフラグメントに対するSRM/MRMシグネチャピーク面積比較は、各検体で分析されたタンパク質の量に正規化されている。
3.IRS1タンパク質のレベルの変化を、種々の細胞性条件下でそれらの発現レベルを変化させない他のタンパク質のレベルに正規化するために、所与のIRS1ペプチドに対するSRM/MRMシグネチャピーク面積を、ホルマリン固定生物検体由来の同じLiquid Tissue(登録商標)ライセート内の異なるタンパク質由来の他のフラグメントペプチドからのSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することにより、IRS1タンパク質の増加または減少を測定する。
4.これらのアッセイは、IRS1タンパク質の非修飾フラグメントペプチドおよび修飾フラグメントペプチドの両方に対し適用可能である。この場合、修飾には、これに限定されないが、リン酸化および/またはグリコシル化が含まれ、また、修飾ペプチドの相対的レベルは、非修飾ペプチドの相対的量測定と同じ方法で測定される。
ii.所与のペプチドの絶対的定量は、個別の生物検体中の所与のフラグメントIRS1タンパク質由来のペプチドのSRM/MRMシグネチャピーク面積を、生物検体由来のタンパク質ライセート中に添加された内部フラグメントペプチド標準のSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することにより行うことができる。
1.内部標準は、標識した合成バージョンのフラグメントIRS1タンパク質由来の参照されるペプチドである。この標準は、既知量で検体中に添加され、SRM/MRMシグネチャピーク面積が、生物検体中の内部フラグメントペプチド標準および元のフラグメントペプチドの両方に対し、別々に測定され、その後、両ピーク面積が比較される。
2.これは、非修飾フラグメントペプチドおよび修飾フラグメントペプチドに適用でき、この場合、修飾には、これに限定されないが、リン酸化および/またはグリコシル化が含まれ、また、絶対的レベルの修飾ペプチドは、絶対的レベルの非修飾ペプチドの測定と同じ方法で測定可能である。
3.フラグメントペプチド定量化の癌診断および治療への適用
a.IRS1タンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対的および/または絶対的定量化を行い、癌の分野で十分理解されている、IRS1タンパク質発現と患者腫瘍組織中の癌の病期/グレード/状態の間の、以前測定されている関連性が確認されることを証明する。
b.IRS1タンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対的および/または絶対的定量化を行い、異なる治療戦略から来る臨床的転帰との相関を証明する。この場合、この相関は、この分野ですでに証明されているか、または患者およびこれらの患者由来の組織のコホート全体の相関調査により将来証明可能である。以前確立された相関関係または将来得られる相関関係がこのアッセイにより確認されるとすぐに、本アッセイ方法は、最適治療戦略の決定に使用可能である。
【0026】
表2に示す情報によると、三連四重極質量分析計によるIRS1タンパク質の定量化のためのSRM/MRMアッセイを開発する必要がある。これらIRS1ペプチドの特異的および固有の特性は、イオントラップおよび三連四重極質量分析計の両方を使って、全IRS1ペプチドの分析により開発された。その情報には、ペプチドのモノアイソトピック質量、その前駆物質電荷状態、前駆物質m/z値、前駆物質の遷移m/z値、および特定された各遷移のイオンタイプが含まれる。その情報は、各および全候補SRM/MRMペプチドに対し、ホルマリン固定組織由来のLiquid Tissue(登録商標)ライセート中で直接的に実験により測定されなければならない;理由は、興味深いことに、本明細書に記載のSRM/MRMを使って、必ずしも全てのIRS1タンパク質由来のペプチドが、このようなライセート中に検出されるとは限らないからであり、検出されなかったIRS1ペプチドが、ホルマリン固定組織由来Liquid Tissue(登録商標)ライセート中で直接にペプチド/タンパク質を定量するのに使用するSRM/MRMアッセイを開発するための候補ペプチドと考えられることはあり得ないことを示している。
【0027】
この情報を利用することにより、定量的なSRM/MRMアッセイは、IRS1タンパク質に対して開発され得、ホルマリン固定患者由来の組織の分析に基づく組織中のIRS1タンパク質評価により、特定の各患者に関する診断、予後、および治療関連情報を提供することができる。一実施形態では、本開示は、生物検体中のIRS1タンパク質のレベルの測定方法が記載され、これには、質量分析を使って前記生物検体から調製されたタンパク質消化物中の1つ以上の修飾または非修飾IRS1フラグメントペプチドの量の検出および/または定量;および前記検体中の修飾または非修飾IRS1タンパク質のレベルの計算が含まれ;ここで前記レベルは、相対的レベルまたは絶対的レベルである。関連実施形態では、1つ以上のIRS1フラグメントペプチドの定量化には、既知量の添加内部標準ペプチドと比較することによる、生物検体中の各IRS1フラグメントペプチドの量の測定が含まれ、ここで、生物検体中の各IRS1フラグメントペプチドが同じアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される。一部の実施形態では、内部標準は、同位体標識した内部標準ペプチドで、
18O、
17O、
34S、
15N、
13C、
2Hまたはこれらの組み合わせから選択される1つ以上の安定重同位体を含む。
【0028】
本明細書に記載の生物検体(またはその代替物としてのフラグメントペプチド)中のIRS1タンパク質のレベルを測定する方法は、患者または被験者の癌の診断指標として使用可能である。一実施形態では、IRS1タンパク質のレベルの測定結果は、組織中に認められるIRS1受容体のレベルと正常および/または癌性または前癌性組織で認められるタンパク質のレベルを関連付ける(例えば、比較する)ことにより診断上の癌の病期/グレード/状態を判定するために採用可能である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]