特許第5871817号(P5871817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5871817排気ガス浄化用触媒の製造方法および排気ガス浄化装置
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  • 特許5871817-排気ガス浄化用触媒の製造方法および排気ガス浄化装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871817
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化用触媒の製造方法および排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/66 20060101AFI20160216BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160216BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20160216BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   B01J23/66 AZAB
   B01D53/94 241
   F01N3/023 A
   F01N3/035 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-546895(P2012-546895)
(86)(22)【出願日】2011年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2011077577
(87)【国際公開番号】WO2012073975
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-267451(P2010-267451)
(32)【優先日】2010年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】澤田 由希子
(72)【発明者】
【氏名】古谷 健司
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−005580(JP,A)
【文献】 特開2009−255004(JP,A)
【文献】 特開2009−061432(JP,A)
【文献】 特開2009−299521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/023
F01N 3/035
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)銀含有化合物と、セリウム含有化合物と、セリウムを除く希土類元素含有化合物とを、または(B)銀含有化合物と、セリウムおよびセリウムを除く希土類元素含有化合物とを、乳酸の水溶液で溶解して溶液を製造する溶解工程と、
前記溶液を乾燥焼成する乾燥焼成工程とを有することを特徴とする、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と銀および/または銀の酸化物とを含む排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記複合酸化物が、LnCe1−x2−δ(但し、Lnは、セリウムを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは、0<x<0.5であり、δは、酸素欠損量を示し、0<δ<0.25である。)で表される請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項3】
銀含有化合物、セリウム含有化合物、およびセリウムを除く希土類元素含有化合物が、いずれも酢酸塩である請求項1または2に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項4】
セリウムを除く希土類元素がサマリウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥焼成工程の後、さらに解砕・粉砕工程を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥焼成工程における焼成温度が、335〜800℃である請求項1〜5のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項7】
セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物に含まれるセリウムのモル数(Ce)とセリウムを除く希土類元素のモル数(Ln)との和である(Ce+Ln)に対する、銀および/または銀の酸化物に含まれる銀のモル数である(Ag)の比率を、(Ag)/(Ce+Ln)と表すとき、(Ag)/(Ce+Ln)が、1/9〜9/1である請求項1〜6のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項8】
(A)銀含有化合物と、セリウム含有化合物と、セリウムを除く希土類元素含有化合物、または(B)銀含有化合物と、セリウムおよびセリウムを除く希土類元素含有化合物に含まれる、銀のモル数をAg、セリウムのモル数をCe、及びセリウムを除く希土類元素のモル数をLnと表し、乳酸の水溶液に含まれる乳酸のモル数をLaと表すとき、La/(Ag+Ce+Ln)が、10/1〜0.1/1である請求項1〜7のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項9】
銀および/または銀の酸化物に含まれる金属銀の含有率が70〜100モル%である請求項1〜8のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンなどから排出される排気ガスに含まれる浮遊粒子状物質を浄化するための排気ガス浄化用触媒の製造方法および排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル燃料を用いる内燃機関は、ガソリン燃料を用いる内燃機関に比べて熱効率が高いことから省エネルギー型のエネルギー機関として注目されている。
ディーゼル機関は、熱効率が高いが、その排気ガスにカーボン、炭化水素、サルフェートなどからなる、粒径が10μm以下であるような微小な浮遊粒子状物質(Particulate Matter(PM))を多く含んでいる。浮遊粒子状物質は、大気汚染の主要因と考えられており、また発ガン性や喘息などの疾病との因果関係も指摘されている人体にとって有害物質であって、大気中に放出する前に無害化する処理が必要である。
【0003】
浮遊粒子状物質を浄化するために、一般的にDPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれるセラミックス製のフィルターなどの捕集装置が用いられている。捕集装置により捕集された浮遊粒子状物質は、捕集装置内で燃焼されることにより無害の気体に変化し浄化される。
【0004】
浮遊粒子状物質中の主成分であるカーボンを燃焼させるには、少なくとも600℃程度の高温状態にまで加熱することが必要である。このような高温状態を実現するためには、捕集装置に断熱機構を組み込む必要が生じ、捕集装置が大型になるために、自動車などの移動体に捕集装置を実装する点では不利である。加えて、そのような高温状態を作り出すためには過剰なエネルギーを必要とするため、エネルギーの有効利用という観点からも不利である。そのため、より低い温度において、浮遊粒子状物質を燃焼することができる方法が求められている。
【0005】
通常、DPFは、フィルター内部に例えば白金その他の貴金属を含む酸化触媒層を担持することにより形成し、比較的低温で、浮遊粒子状物質を燃焼せしめることができる構造になっている。
従来、このような酸化触媒に関しては、多くの提案がされている。例えばセリアと銀からなる触媒を用いることが提案されている。(特許文献1および特許文献2参照)
【0006】
銀と、サマリウムをドープした複合酸化物であるセリアとからなる排気ガス浄化用触媒は、セリア中のセリウムイオンCe4+の一部をセリウムイオンよりも価数の低いサマリウムイオンSm3+で置換したものである。この置換により酸素サイトに欠損が生じるために、セリアより高い酸素イオン伝導度を有する。この高い酸素イオン伝導度のために、サマリウムをドープしたセリアと銀とからなる排気ガス浄化用触媒のカーボン燃焼開始温度は低温化が期待される。
【0007】
特許文献3には、少なくともセリウムを含む複合酸化物と、銀を含む金属または銀化合物とを含む排気ガスの浄化用触媒において、複合酸化物が、セリウムとLn(Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホロミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、イットリウムおよびスカンジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)からなる蛍石型結晶構造を有する複合酸化物であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒が記載されている。
【0008】
特許文献3で開示されているAg/Ce0.8Sm0.22−δの製造方法は、炭酸セリウムと炭酸サマリウムからなる懸濁液に、炭酸アンモニウムとクエン酸を加え、70℃〜80℃の温度で反応させ、さらに炭酸銀とクエン酸を投入し、反応した後、この懸濁液を乾燥させて、乾燥物を焼成するというものである。この製造方法により得られたAg/Ce0.8Sm0.22−δとカーボンブラックとの混合物のDTA(示差熱分析)ピーク温度Tmは、335℃であった。このDTAピーク温度は低いものであったが、実際に触媒として使用する場合にはDTAピーク温度よりも、むしろカーボン燃焼開始温度の方が重要であり、カーボン燃焼開始温度が250℃より低いセリウムを除く希土類元素をドープしたセリアと銀および/または銀の酸化物とからなる排気ガス浄化用触媒とその製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本特開2007−296518号公報
【特許文献2】日本特開2007−315328号公報
【特許文献3】日本特開2010−005580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、カーボン燃焼開始温度の低い、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と、銀および/または銀の酸化物とからなる排気ガス浄化用触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような課題を達成するために鋭意検討したところ、乳酸を使用した製造方法で製造した、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と、銀および/または銀の酸化物とからなる排気ガス浄化用触媒が、低いカーボン燃焼開始温度を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は以下の要旨を有する。
1.(A)銀含有化合物と、セリウム含有化合物と、セリウムを除く希土類元素含有化合物とを、または(B)銀含有化合物と、セリウムおよびセリウムを除く希土類元素含有化合物とを、乳酸の水溶液で溶解して溶液を製造する溶解工程と、前記溶液を乾燥焼成する乾燥焼成工程とを有することを特徴とする、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と銀および/または銀の酸化物とを含む排気ガス浄化用触媒の製造方法。
2.前記複合酸化物が、LnCe1−x2−δ(但し、Lnは、セリウムを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは、0<x<0.5であり、δは、酸素欠損量を示し、0<δ<0.25である。)で表される上記1に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
3.銀含有化合物、セリウム含有化合物、およびセリウムを除く希土類元素含有化合物が、いずれも酢酸塩である上記1または2に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
4.セリウムを除く希土類元素がサマリウムである上記1〜3のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
5.前記乾燥焼成工程の後、さらに解砕・粉砕工程を有する上記1〜4のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
6.前記乾燥焼成工程における焼成温度が、335〜800℃である上記1〜5のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
7.セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物に含まれるセリウムのモル数(Ce)とセリウムを除く希土類元素のモル数(Ln)との和である(Ce+Ln)に対する、銀および/または銀の酸化物に含まれる銀のモル数である(Ag)の比率を、(Ag)/(Ce+Ln)と表すとき、(Ag)/(Ce+Ln)が、1/9〜9/1である上記1〜6のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
8.A)銀含有化合物と、セリウム含有化合物と、セリウムを除く希土類元素含有化合物、または(B)銀含有化合物と、セリウムおよびセリウムを除く希土類元素含有化合物に含まれる、銀のモル数をAg、セリウムのモル数をCe、及びセリウムを除く希土類元素のモル数をLnと表し、乳酸の水溶液に含まれる乳酸のモル数をLaと表すとき、La/(Ag+Ce+Ln)が、10/1〜0.1/1である上記1〜7のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
9.銀および/または銀の酸化物に含まれる金属銀の含有率が70〜100モル%である上記1〜8のいずれか1つに記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る製造方法によれば、カーボン燃焼開始温度の低い排気ガス浄化用触媒を提供することができる。この排気ガス浄化用触媒をDPFに使用することにより、より低い温度において、浮遊粒子状物質を燃焼することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1および比較例1におけるTG曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と、銀および/または銀の酸化物とを含有する排気ガス浄化用触媒の製造方法および排気ガス浄化装置に関するものである。以下に、その製造方法について説明する。
【0016】
本発明に係る製造方法の原料となる粉末は、以下のような銀含有化合物、セリウム含有化合物、セリウムを除く希土類元素含有化合物、セリウムおよびセリウム以外の希土類元素含有化合物である。
銀含有化合物は、銀を含む酸化物、硝酸塩、炭酸塩または酢酸塩などである。
セリウム含有化合物は、セリウムを含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩またはアルコキシドなどである。
セリウムを除く希土類元素含有化合物は、セリウムを除く希土類元素を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩またはアルコキシドなどである。
セリウムおよびセリウム以外の希土類元素含有化合物は、セリウムと、セリウム以外の希土類元素とを含有する、酸化物、硝酸塩、炭酸塩または酢酸塩などの化合物である。
ここで、セリウムを除く希土類元素とは、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)およびスカンジウム(Sc)のことをいう。
セリウムを除く希土類元素としては、サマリウムまたはガドリニウムが好ましく、サマリウムが特に好ましい。
【0017】
また、本発明に係る製造方法の原料は、銀と、セリウムと、セリウムを除く希土類元素の3元素をそれぞれ別々に含有する化合物でもよく、さらには銀と、セリウムと、セリウムを除く希土類元素のうち、任意の2種類以上の元素を同時に含有する化合物であってもよい。
【0018】
原料は1つの元素につき酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩およびアルコキシドなどから選ばれた任意の1種以上の化合物を元素源として選択することができる。水に対する溶解性が高いこと、焼成による有機成分の除去が容易であることから、原料としては酢酸塩が特に好ましい。
【0019】
まず、銀とセリウムとセリウムを除く希土類元素とが目的の組成になるように原料粉末を秤量する。
一方、乳酸を量り採り、水に溶解させる。乳酸の量は、銀とセリウムとセリウムを除く希土類元素の組成比にもよるが、これらの化合物が完全に溶解するのに足りる量であればよい。具体的には、通常、乳酸は、原料粉末中の金属元素のモル数の合計量、すなわち、銀のモル数と、セリウムのモル数と、セリウムを除く希土類元素のモル数との合計量に対して0.1〜10倍のモル量を使用するのが好ましい。
具体的には、(A)銀含有化合物と、セリウム含有化合物と、セリウムを除く希土類元素含有化合物、または(B)銀含有化合物と、セリウムおよびセリウムを除く希土類元素含有化合物に含まれる、銀のモル数をAg、セリウムのモル数をCe、及びセリウムを除く希土類元素のモル数をLnと表し、乳酸の水溶液に含まれる乳酸のモル数をLaと表すとき、La/(Ag+Ce+Ln)が、10/1〜0.1/1であるのが好ましく、なかでも10/1〜0.5/1であるのが好ましく、特に5/1〜2/1であるのが好ましい。
【0020】
0.1〜10倍のモル量であると、比較的短時間で原料粉末を完全に乳酸を含む水溶液に溶解することができる。なお、本発明では必要に応じて、原料粉末の溶解性に悪影響を与えることがなく、かつ、焼成により消失する有機または無機の化合物、例えば他の酸やアルカリ、溶解性改善剤、粘性調整剤などを乳酸水溶液に加えてもよい。乳酸水溶液に使用する水は、純水でも、イオン交換水でもよいが、生成物中の不純物量を低減させるために、イオン交換水が特に好ましい。
【0021】
次に、乳酸水溶液の入った反応容器に秤量した原料粉末を加え、攪拌装置を用いて原料粉末が完全に溶解するまで攪拌する。攪拌装置には、マグネチックスターラー、攪拌翼による攪拌機などが使用できる。銀含有化合物、セリウム含有化合物およびセリウムを除く希土類元素含有化合物を混合してから、乳酸水溶液に加えてもよい。場合によっては、原料である銀含有化合物、セリウム含有化合物およびセリウムを除く希土類元素含有化合物のそれぞれを別々に乳酸水溶液に溶解させた後、その溶液を混ぜ合わせて、3成分が溶解した乳酸水溶液にしてもよい。
【0022】
短時間で原料を完全に溶解させるためには、原料を溶解する際に、反応容器を加熱することが好ましい。加熱温度は、原料が溶解する温度ならば特に限定されないが、溶媒である水が蒸発することから、100℃以下が好ましく、通常50℃から80℃の範囲が特に好ましい。原料粉末が乳酸水溶液に完全に溶解するのは、原料粉末中の金属元素が、乳酸中のカルボキシル基や水酸基と錯体を形成するためであると考えられる。
【0023】
原料が溶解した後、反応容器を加熱した状態で、30分から2時間撹拌することが好ましい。原料粉末中の金属元素と乳酸中のカルボキシル基や水酸基との錯体形成反応を十分に進行させることにより、完全に原料粉末を乳酸水溶液に溶解させ、反応させるためである。原料粉末を完全に乳酸水溶液に溶解することにより、銀を含有する原料と、セリウムを含有する原料と、セリウムを除く希土類元素を含有する原料とを、分子レベルで均一に混合することができると推定される。
【0024】
本発明において、乾燥焼成工程は、以下に述べるように、乾燥工程の後に、さらに別途焼成工程を行う2工程からなる工程であってもよく、乾燥工程とその後の焼成工程を、連続的な一つの工程とする工程であってもよい。
具体的には、上記の原料粉末が溶解した溶液を乾燥する。乾燥温度は、50℃〜200℃とすることが好ましい。
乾燥温度は、後述する再溶解工程を伴う場合には、50℃〜110℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。加熱がない場合と比較して短時間で原料粉末を乾燥することができ、かつ乳酸が蒸発しない温度範囲であるからである。ここで得られる乾燥物は、原料粉末の乳酸水溶液中の水分が蒸発した原料粉末と乳酸とからなる塊状物であり、またその後の再溶解工程の妨げにならない程度に水分を含んでいてもよい。例えば、原料粉末が溶解した溶液中の水分の80%以上が蒸発していればよい。
【0025】
その後、必要に応じて、その乾燥物を水に再溶解する。再溶解することにより、銀を含有する原料とセリウムを含有する原料とセリウムを除く希土類元素を含有する原料とがより均一になるので好ましい。乾燥物を再溶解した溶液は、120℃〜200℃で乾燥することが好ましく、15℃〜200℃で乾燥することがより好ましい。上記乾燥物を完全に再乾燥することができるため、再乾燥粉の回収が容易となり、かつ再乾燥物の酸化反応が始まる程、温度が高くないからである。
一方、再溶解工程を伴わない場合には、乾燥温度を120℃〜200℃とすることがより好ましく、150℃〜200℃が特に好ましい。同様に、得られる乾燥物は原料粉末の乳酸水溶液の水分が蒸発し、原料粉末と乳酸との塊状物であり、後の焼成工程の妨げにならない程度に水分を含んでいてもよい。
【0026】
次に、乾燥させた混合原料粉末を焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成容器の材質は、特に限定されず、例えばアルミナ、ムライト、コージェライトなどが挙げられる。焼成炉は電気式またはガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでもよく、特に限定されない。
焼成工程においては、焼成炉の温度を20℃/時〜500℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げることが好ましい。昇温速度がこの範囲であれば、比較的短時間で、目的の焼成温度まで到達することができ、かつ昇温過程の各温度で反応物質の化学反応を十分に進行させることができるからである。
【0027】
焼成温度は、335℃〜800℃が好ましく、350℃〜600℃がより好ましい。335℃〜800℃であると反応生成物中に未反応物が残留しにくく、焼成物の焼結が進行しにくいためである。
【0028】
焼成時間は目的の触媒化合物が生成すればよく、特に限定されない。通常は焼成温度範囲に到達した後に0.5時間〜72時間保持することが好ましく、1時間〜24時間保持することがより好ましい。反応生成物中の未反応物の残留がなく、生産性が低下することもないためである。焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、酸素含有雰囲気、特に空気中(大気中)であることが好ましい。
【0029】
焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100℃/時〜800℃/時が好ましく、100℃/時〜500℃/時がより好ましい。生産性が落ちることなく、かつ焼成容器が熱衝撃により割れにくくなるためである。
次いで、焼成工程で得られた酸化物を解砕・粉砕(解砕・粉砕工程)する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザー、乳鉢などの解砕・粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕粉は、必要に応じて乾式または湿式で目的の粒度まで粉砕する。解砕後または粉砕後の体積平均粒径(以下、D50とする。)は、好ましくは1.0μm〜50.0μm、より好ましくは5.0μm〜15.0μmである。また、比表面積は、好ましくは5m/g〜120m/g、より好ましくは15m/g〜120m/gである。D50が1.0μm〜50.0μm、または比表面積が5m/g〜120m/gであると好ましいのは、排気ガス浄化用触媒としての触媒能が高いからである。体積平均粒径は湿式の粒度分布計で測定し、比表面積は窒素吸着法によるBET法により測定する。
また、上記のように個別の2工程とする、乾燥工程とその後の焼成工程とは、連続的な一つの工程とすることもできる。この場合には、噴霧熱分解装置等を用いることができる。
【0030】
本発明に係る製造方法により得られる排気ガス浄化用触媒は、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物と、銀および/または銀の酸化物とからなる化合物である。セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物は、LnCe1−x2−δ(但し、Lnは、セリウムを除く希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、xは、0<x<0.5であり、δは、酸素欠損量を示し、0<δ<0.25である。)の組成式で表されることが好ましい。この複合酸化物は、蛍石型構造をとっており、高い酸素イオン伝導度を有するからである。なかでも、LnがサマリウムであるSmCe1−x2−δは、酸素イオン伝導度が高いので好ましい。
【0031】
本発明の排気ガス浄化用触媒において、セリウムとセリウムを除く希土類元素とを含有する複合酸化物に含まれるセリウムのモル数(Ce)とセリウムを除く希土類元素のモル数(Ln)との和である(Ce+Ln)に対する、銀および/または銀の酸化物に含まれる銀のモル数である(Ag)の比率を、(Ag)/(Ce+Ln)と表すとき、(Ag)/(Ce+Ln)が、1/9〜9/1であるのが好ましく、3/7〜7/3であるのがさらに好ましく、4/6〜6/4であるのが特に好ましい。1/9以上であると触媒活性をより高く、9/1以下であると触媒コストをより低くできるので好ましい。
本発明に係る製造方法により得られる排気ガス浄化用触媒に含まれる銀および/または銀の酸化物の含有比率は、0.1〜90モル%の範囲で排気ガス浄化用触媒として使用可能である。一方、本発明に係る製造方法により得られる排気ガス浄化用触媒に含まれる上記複合酸化物の含有比率は、10〜99.9モル%の範囲で排気ガス浄化用触媒として使用可能である。
本発明に係る製造方法により得られる排気ガス浄化用触媒に含まれる、銀および/または銀の酸化物に含まれる金属銀の含有率は、70〜100モル%であるのが好ましい。銀の酸化物としては、AgO又はAgOが挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法で製造した排気ガス浄化用触媒は、内燃機関から排出される排気ガスに含まれるカーボンを含む浮遊粒子状物質を捕集可能なフィルター媒体に担持させ、排気ガス浄化装置として使用するものである。
【0033】
ここで、排気ガス浄化装置は、本発明の排気ガス浄化用触媒を備えるものであればよく、実施形態は特に限定されず、通常の形態を適用することができる。好適な実施形態の1つとしては、ディーゼル機関の排出ガスの排出口に浮遊粒子状物質を捕集できるフィルターを設置した装置が例示される。このフィルターの形状は特に限定されず、本発明の排気ガス浄化用触媒を備えるものであればよいが、十分な浮遊粒子状物質捕集機能を有するものが好ましい。例えば、ハニカム状、モノリス状、ペレット状、フォーム状、ファイバー状、発泡状のセラミックスまたはワイヤメッシュ等の形状が使用できる。これらの中でも、ウォールスルー型ハニカム形状のフィルターがより好ましい。
【0034】
フィルター媒体の材質は特に限定されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト、アルミナ、ジルコニアなどの多孔質状耐熱セラミックス、またはクロム、アルミニウムなどを含むステンレス鋼が好適に使用される。
例えば、これらのウォールスルー型ハニカム形状のフィルター上に、浸漬法や共沈法などの手段で本発明に係る排気ガス浄化用触媒を付着(担持)させ、これを焼成することにより、触媒層を形成することができる。
【0035】
なお、上記のセラミックスや金属は、酸化触媒の担体としても使用することができる。例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカなどの無機粉末である粒子状担体上に、浸漬法や共沈法などの手段により、本発明に係る触媒を担持させ、触媒を担持させた無機粉末を上記の耐熱性セラミックス、またはステンレス鋼上に設置し使用することも好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし、これらは単なる実施の態様の一例であり、本発明の技術的範囲がこれら実施例に限定されたり、また、これにより限定的に解釈されたりするものではない。
【0037】
[実施例1]
撹拌機を備えた1L(リットル)ビーカー中で、Ce:Sm:Agがモル比で4:1:5となるように、酢酸セリウム6.70g、酢酸サマリウム1.99g、酢酸銀4.17gと乳酸18.01g(酢酸セリウム中のセリウムのモル数と、酢酸サマリウム中のサマリウムのモル数と、酢酸銀中の銀のモル数との合計量に対して4倍のモル量に相当する。)に500mLのイオン交換水を加え、設定温度を80℃とし、15分間撹拌した。その結果、酢酸セリウムと酢酸サマリウムおよび酢酸銀は、完全に溶解し、溶液状態になった。溶解を確認した後、同様の設定温度でさらに1時間撹拌を継続した。
【0038】
得られた溶液を90℃に設定した乾燥機で乾燥し、見かけ上液体としての水分がなくなるまで水分を除去した。得られた乾燥物に500mLのイオン交換水を加え、常温で乾燥物を再溶解した後、その溶液を190℃に設定したマントルヒーターで6時間乾燥し、乾燥粉末を得た。その後、乾燥粉末をアルミナ製の匣鉢に移し、空気中にて400℃で6時間保持して焼成した。なお、室温から400℃までの昇温速度、および400℃から室温までの降温速度は、共に120℃/時とした。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、Ce0.8Sm0.22−δ(δ=0.1)の組成を有する複合酸化物と銀とを含む灰色の粉末を得た。当該灰色の粉末を「カーボン燃焼触媒A」とし、粉末中の複合酸化物を「複合酸化物a」とする。
【0039】
(X線回折測定)
カーボン燃焼触媒AのX線回折測定を行った。X線回折測定には、Rigaku社製のXRD測定装置(RINT2000)を使用した。40kV×40mAの出力のCuKα線をX線源とし、2°/分のスキャン速度で測定した。その結果、X線回折により、カーボン燃焼触媒Aは、複合酸化物aの結晶構造が蛍石型構造であり、酸化銀を含まず、銀は金属銀として存在していることが確認された。よって、カーボン燃焼触媒Aは、複合酸化物aと金属銀との混合物であることが確認された。
【0040】
(粒度分布測定)
カーボン燃焼触媒Aの粒度分布を測定した。少量のカーボン燃焼触媒Aを以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用いた。約0.05gのカーボン燃焼触媒Aと分散剤とイオン交換水とから全体が10mlとなるように分散液を調製し、超音波を照射したものを試料とした。測定には、HORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布装置(LA−920)を用いた。測定の直前に3分間出力30Wの超音波処理を施した。その結果、D50は11.0μmであった。
【0041】
(比表面積測定)
カーボン燃焼触媒Aの窒素吸着法によるBET比表面積を測定した。測定には、マウンテック(Mountech)社製のMacsorb HM−1208を使用した。その結果、カーボン燃焼触媒AのBET比表面積は、22.8m/gであった。
【0042】
東海カーボン社製のカーボンブラック(商品名:シーストFM)の5.0mgとカーボン燃焼触媒Aの100mgを秤量し、乳鉢で5分間混合し測定試料とした。
測定には、パーキンエルマー社製の熱重量分析計(PYRIS 1 TGA)を使用し、SHEATHガス側流量20ml/分、PURGEガス側流量40ml/分の乾燥空気雰囲気中で測定した。測定は、10℃/分の昇温速度で、30℃〜700℃まで昇温する過程で行った。図1にカーボン燃焼触媒AのTG曲線を示す。TG曲線から接線法で求めた燃焼開始温度 Tigは219℃であり、TG曲線の一次微分曲線から求めたピーク温度 Tmは337℃であった。
【0043】
[実施例2]
実施例1の酢酸サマリウム1.99gの代わりに、酢酸ガドリニウム2.03gを使用した以外は、実施例1と同様にしてCe0.8Gd0.22−δ(δ=0.1)と銀とを含む灰色の粉末を得た。当該灰色の粉末を「カーボン燃焼触媒B」とし、粉末中の複合酸化物を「複合酸化物b」とする。
【0044】
カーボン燃焼触媒BのX線回折測定を実施例1と同様にして行った。その結果、複合酸化物bの結晶構造は蛍石型構造であり、カーボン燃焼触媒Bは、複合酸化物bと金属銀の混合物であることが確認された。
次いで、カーボン燃焼触媒Bの粒度分布測定、および比表面積測定を実施例1と同様にして行った。その結果、カーボン燃焼触媒BのD50は11.0μmであり、比表面積は20.1m/gであった。
また、カーボン燃焼触媒BのTG測定を実施例1と同様にして行った。TG曲線から接線法で求めた燃焼開始温度 Tigは247℃であり、TG曲線の一次微分曲線から求めたピーク温度 Tmは363℃であった。
【0045】
[実施例3]
Ce:Sm:Agがモル比で4:1:3となるように、酢酸銀2.50gを使用し、乳酸28.82g(酢酸セリウム中のセリウムモル数と、酢酸サマリウム中のサマリウムのモル数と、酢酸銀中の銀のモル数との合計に対して8倍のモル量に相当する。)を使用し、焼成温度を600℃とした以外は、実施例1と同様にしてCe0.8Sm0.22−δ(δ=0.1)と銀とを含む灰色の粉末を得た。当該灰色の粉末を「カーボン燃焼触媒C」とし、粉末中の複合酸化物を「複合酸化物c」とする。
【0046】
カーボン燃焼触媒CのX線回折測定を実施例1と同様にして行った。その結果、複合酸化物cの結晶構造は蛍石型構造であり、カーボン燃焼触媒Cは、複合酸化物cと金属銀の混合物であることが確認された。
次いで、カーボン燃焼触媒Cの粒度分布測定、および比表面積測定を実施例1と同様にして行った。その結果、カーボン燃焼触媒CのD50は12.1μmであり、比表面積は18.5m/gであった。
また、カーボン燃焼触媒CのTG測定を実施例1と同様にして行った。TG曲線から接線法で求めた燃焼開始温度 Tigは227℃であり、TG曲線の一次微分曲線から求めたピーク温度 Tmは346℃であった。
【0047】
[比較例1]
撹拌機を備えた1L(リットル)ビーカー中で、Ce:Smがモル比で4:1になるように、炭酸セリウム56.8gと炭酸サマリウム11.1gを100mLのイオン交換水に加えて得られた懸濁液に、炭酸アンモニウム99.0gとクエン酸131.5gを加え、設定温度を80℃とし2時間撹拌を継続した。この懸濁液の撹拌を続けながら、Ce:Sm:Agがモル比で4:1:5となるように、炭酸銀28.6gとクエン酸29.0gを懸濁液に投入し、さらに2時間撹拌を継続して、セリウムとサマリウムおよび銀を含むスラリーを得た。
【0048】
得られたスラリーを105℃に設定した乾燥機で一昼夜乾燥し、水分を除去して得られた乾燥物をアルミナ製の匣鉢に移し、保持する焼成時間を10時間とした他は実施例1と同様にして焼成した。得られた焼成物を乳鉢で解砕し、Ce0.8Sm0.22−δ(δ=0.1)の組成を有する複合酸化物と銀とを含む灰色の粉末を得た。当該灰色の粉末を「カーボン燃焼触媒D」とし、粉末中の複合酸化物を「複合酸化物d」とする。
【0049】
カーボン燃焼触媒DのX線回折測定を実施例1と同様にして行った。その結果、複合酸化物dの結晶構造は蛍石型構造であり、カーボン燃焼触媒Dは、複合酸化物dと金属銀の混合物であることが確認された。
次いで、カーボン燃焼触媒Dの粒度分布測定、および比表面積測定を実施例1と同様にして行った。その結果、カーボン燃焼触媒DのD50は3.0μmであり、比表面積は61.6m/gであった。
また、カーボン燃焼触媒DのTG測定を実施例1と同様にして行った。図1にカーボン燃焼触媒CのTG曲線を示す。TG曲線から接線法で求めた燃焼開始温度 Tigは257℃であり、TG曲線の一次微分曲線から求めたピーク温度Tmは379℃であった。
【0050】
カーボン燃焼触媒Aとカーボン燃焼触媒DのTG測定結果より求めた燃焼開始温度Tigとピーク温度Tmを比較すると、両者は同一組成であるにも拘らず、カーボン燃焼開始温度とピーク温度はともに、実施例1の製造方法で製造したカーボン燃焼触媒Aの方が低い値を示している。したがって、カーボン燃焼触媒AをDPFに使用した方が、フィルターに捕集されたカーボンを主成分とする浮遊粒子状物質は、より低温で燃焼し始めることになる。これは、乳酸を使用した実施例1の製造方法では、原料粉末が完全に溶媒である水に溶解するので、生成物である複合酸化物中で、セリウムとサマリウムが均一に分布しているためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る乳酸を使用した製造方法により得られる排気ガス浄化用触媒は、カーボン燃焼開始温度およびピーク温度が低く、ディーゼル燃料を用いる内燃機関の排気ガス浄化触媒として有用である。
なお、2010年11月30日に出願された日本特許出願2010−267451号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1