【課題を解決するための手段】
【0013】
鋼に関しては、請求項1に記載の合金化鋼によって、本発明に従ってこの目的を達成した。
【0014】
鋼板製品に関しては、請求項6に記載の該鋼板製品を形成することによって、本発明に従って上記目的を達成した。
【0015】
鋼部品に関しては、請求項9に記載の該鋼部品を形成することによって上記目的を達成した。
【0016】
最後に、鋼部品の製造方法に関しては、請求項13に記載の方法によって、本発明に従って上記目的を達成した。
【0017】
本発明の有利な実施形態については、従属請求項で特定してあり、独立請求項の主題と同様に、以下に詳細に説明する。
【0018】
本発明は、適切な合金を選択すること及び適切なミクロ構造組成を設定することによって、オーステナイト化、熱間成形及び焼入れ後に、少なくとも1000MPaの高強度といずれの場合も確実に6%より高い破断点伸びA
80を有する鋼を提供できるという認識から発する。この目的を達成するため、本発明の鋼は、(重量%で)0.15〜0.40%のC、1.0〜2.0%のMn、0.2〜1.6%のAl、1.4%までのSi(ここで、Si含量とAl含量の合計は0.25〜1.6%である)、0.10%までのP、0〜0.03%のS、0.5%までのCr、1.0%までのMo、0.01%までのN、2.0%までのNi、0.012〜0.04%のNb、0.40%までのTi、0.0015〜0.0050%のB及び0.0050%までのCa並びに残余として鉄及び不可避不純物を含有する。
【0019】
それに応じて、本発明の鋼板製品は、本発明の鋼から成る少なくとも1つの領域を有する。従って、本発明の鋼板製品を、その中の1つの領域を本発明の鋼から製造し、別の領域を別の鋼から製造する注文ブランクとして形成することができる。その結果、本発明の鋼から製造された本発明の注文ブランクの領域は、鋼板製品から製造された完成鋼部品に高強度領域を形成し、その領域内では高強度と良い破断点伸びを併せ持つ。当然に、鋼シート又は鋼ストリップから切り離されたカットブランクの形態の本発明の鋼から均一に本発明の鋼板製品を製造することも同様に可能である。従って、本発明のこのような鋼板製品から製造される鋼部品は、どこでも、本発明の鋼合金化法によって得られる高強度と良い延性の有利な組合せを有する。
【0020】
それに応じて本発明の鋼部品は、少なくとも1つの領域において本発明の鋼から成ること及び本発明の高強度鋼の領域においてそのミクロ構造がマルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとを含むことを特徴とする。
【0021】
従って、本発明の鋼部品の製造方法の過程において、鋼板製品で始めることが条件とされる。この鋼板製品を次に780〜950℃の温度まで加熱する。このようにしてオーステナイトの比率を少なくとも80%に設定し、その結果、熱間成形後に、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとから成るミクロ構造を備える本発明の鋼を製造することができる。このために必要な保持時間は典型的に2〜10分である。
【0022】
引き続き、鋼板製品を通常は熱間成形工具に搬送し、そこで熱間成形する。鋼板製品を搬送するときに冷却が著しくなりすぎるのを防止するため、搬送時間を5〜12秒に制限すべきである。熱間成形自体は、プレス成形として、それ自体既知のやり方で実施可能である。
【0023】
熱間成形後、冷却後に得られる鋼部品がマルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとから成るミクロ構造を有するのに十分速く鋼部品を冷却する。このために典型的に必要とされる冷却速度は、ほぼ少なくとも25℃/秒である。ここで、熱間成形及び冷却を単一工程又は二工程で行うことができる。単一工程では、ホットプレス型焼入れ、熱間成形及び焼入れを1つの工具で1回で一緒に行う。対照的に、二工程法では、冷間成形を最初に行い(100%まで)、その後にミクロ構造の生成を含めた最後の熱間成形のみを行う。
【0024】
それぞれ加工した鋼板製品を上記温度内でオーステナイト化した場合、本発明に従って得られる部品は、熱間成形及び加速冷却後に、本発明の鋼から成る領域において、硬質相(マルテンサイト)と、少なくとも1つのより延性の高い相(オーステナイト及びフェライト)との組合せによって特徴づけられるミクロ構造を有する。ここで、オーステナイトを利用して伸び値を改善し、かつエネルギー吸収を高めるのが好ましいので、フェライトの比率は、本発明に従って特定される加工鋼の組成によって面積で20%に制限される。本発明の部品の機械的−技術的特性は、780〜950℃、特に850〜950℃で本発明に従って行われるオーステナイト化プロセスの全温度範囲にわたって、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で最大20%のフェライトとの組合せによって確実に得られる。
【0025】
本発明に従って製造される部品の機械的−技術的特性の安定性は、本発明の解析概念によって確保される。硬質(マルテンサイト)相と延性(オーステナイト及びフェライト)相の組合せから成る、本発明の部品のミクロ構造は、部品が衝突で応力を受けたときの最適の挙動を保証する。熱間成形された部品が変形するときに起こるオーステナイトからマルテンサイトへの相変態は、衝突した場合に高い運動エネルギーで部品が変形するときに引き続き部品の硬度を高くする。
【0026】
本発明の部品のミクロ構造のマルテンサイト含量が、関与している高強度領域の面積で少なくとも75%である場合、本発明が目的とした部品の高強度領域における高い強度、良い破断点伸び及び最適な衝突挙動の組合せが特に確実に達成される。本発明の部品のミクロ構造のオーステナイト含量が面積で少なくとも2%であることによって、所要の高い破断点伸びを確保することができる。
【0027】
本発明の鋼製部品の引張強度は、その高強度領域では1000MPaを下回るべきでない。本発明の鋼合金は少なくとも0.15重量%のC含量を含むので、この目的で必要とされるマルテンサイト硬度を得ることができる。同時に、本発明の鋼のC含量は、実際面で十分な溶接性を確保するように、0.4重量%に設定される上限を有する。
【0028】
本発明のミクロ構造の設定に関しては、本発明に従って用いる鋼の合金元素Mn、Si及びAlは室温でオーステナイトを安定化することから、それらの元素を特に重視する。
【0029】
本発明の鋼に少なくとも1.0重量%の含量で存在するMnは、鋼のAc
3温度を下げることによってオーステナイト形成材として働く。熱間成形後に実質的にオーステナイトとマルテンサイトから成るミクロ構造という結果になる。同時に、それぞれの用途に最適の溶接性を確保するため、Mn含量は最大2重量%に制限される。
【0030】
ケイ素は、本発明の鋼中に1.4重量%までの含量で存在する。ケイ素は、焼入れ性に影響を及ぼし、かつ本発明の部品の鋼を融解させるときに脱酸剤として働く。同時に、Siは降伏強度を高め、室温でオーステナイト及びフェライトを安定化し、かつ冷却中のオーステナイト内の不要の炭化物沈殿を防止する。しかしながら、高すぎるSi含量は表面欠陥を引き起こす。従って、本発明の鋼のSi含量は1.4重量%に制限される。
【0031】
Siと同様に、本発明の鋼中のアルミニウムは、室温でフェライト及びオーステナイトを安定化することに寄与し、かつ結晶粒サイズの制御に影響を及ぼす。これらの効果は、本発明のやり方でアルミニウム含量を0.2〜1.6重量%に制限すれば確実に達成されるが、少なくとも0.4重量%のAl含量は、本発明の部品の特性に特にプラスの効果をもたらす。0.4重量%を超えるAl含量によって、熱処理中の炭化物形成が抑制されるので、本発明に従って与えられる好ましくは面積で少なくとも2%のオーステナイトの比率は、熱間成形されたミクロ構造内で安定化する。
【0032】
本発明の相配置のため、本発明の鋼のそのオーステナイト化、熱間成形及び冷却による機械的特性の広がりを減らすことができる。ここで、驚くべきことに、本発明に従って製造される部品の機械的特性は、本発明に従って鋼板製品を加工するときにそれらを加熱する比較的広い範囲の温度にわたって高度の信頼性で得られることが分かった。従って、言及した加熱温度を設定すると、実際には必然的に生じる許容範囲にもかかわらず、本発明の部品に求められている特性を非常に信頼できる安定した成果で保証することができる。
【0033】
本発明の鋼又は該鋼から製造される部品のAl含量とSi含量の合計を0.25〜1.6重量%に制限することによって、Si及びAlが表面状態に及ぼし得るマイナスの効果を防止する。本発明の鋼部品のAl含量とSi含量の合計を少なくとも0.5重量%まで上昇させることができるので、同時に、AlとSiの組み合わせた存在のプラス効果が特に確実に活かされる。
【0034】
Moは、本発明の鋼中に1.0重量%までの含量で存在することができる。Moの存在は、マルテンサイト形成を促進し、かつ鋼の靱性を改善する。しかしながら、高すぎるMo含量は冷間割れを引き起こす恐れがある。
【0035】
本発明の鋼合金に0.5重量%までの含量でCrを添加することによって、焼入れ性を高めることができる。しかしながら、表面欠陥を防止できるように、Cr含量は高すぎてはいけない。Cr含量を0.1重量%に制限すれば、これらの効果を確実に達成することができる。
【0036】
Pを加えて0.10重量%までの含量で合金化することよって降伏強度を高め、ひいては機械的特性を確保することができる。しかしながら、高すぎるP含量は、本発明に従って得られる鋼の延性及び靭性を損なう。
【0037】
0.40重量%までの含量のTiは、溶解状態でも沈殿形成(例えば炭窒化Tiの形成)によっても降伏強度を高める。TiはNと結合してTiNを形成し、このようにして変態挙動の観点からBの有効性を助長する。この効果は、下記条件
【数1】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)を満たす本発明の鋼のTi含量によって確保し得る。
【0038】
0.0010〜0.0050重量%のBによって、冷却中のフェライト変態をより長い変態時間の方向に遅延させることによって、本発明の鋼の焼入れ性を改善する。同時に、本発明の鋼中に存在するホウ素は、熱間成形プロセスにおける広い温度範囲で機械的特性を安定化する。
【0039】
0.01重量%までのNは、本発明の鋼のオーステナイトを安定化し、かつ降伏強度を高める。本発明の合金化鋼中に存在する窒素がTiで完全には結ばれていない場合、そのTiはホウ素と共に窒化ホウ素を形成する。これらの窒化ホウ素は、最初のミクロ構造の結晶粒を精密にさせ、ひいてはマルテンサイト熱間成形ミクロ構造を精密にさせる。結果として、このようにして本発明に従って加工される鋼の亀裂に対する感受性が軽減される。同時に、窒化ホウ素は実質的に、本発明の鋼の強度を高めることに寄与する。
【0040】
NをBと併用して窒化ホウ素を形成することによって、結晶粒を精密にし、かつ強度を高める場合、Tiに結び付いていない、この目的で必要とされるN含量は、下記
【数2】
がそのTi含量に当てはまる場合、
下記条件
【数3】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)
が満たされることによって具体的に設定可能である。
【0041】
本発明の合金化鋼に0.012〜0.04重量%までの含量でNbをさらに添加すると、高い引張強度値と増加した破断点伸びを併せ持つことを補助し、本発明に従って得られる鋼部品のエネルギー吸収能力を全体的に高めることとなる。本発明に従って構成される鋼において、Nbは炭化物沈殿によって降伏強度を高め、かつオーステナイト結晶粒の精密化によって、亀裂伝播に対して非常に安定した微細なマルテンサイトミクロ構造を生じさせる。さらに、Nb沈殿は、水素トラップとして作用し、それによって水素誘導亀裂への感受性を軽減することができる。
【0042】
2.0重量%までの含量のNiは、降伏強度と破断点伸びを高めることに寄与する。
【0043】
Sは溶接性及び表面仕上げの範囲に非常にマイナスの効果を及ぼすので、本発明の部品の鋼のS含量は最大0.03重量%に制限される。この制限は、不利な細長いMnS沈殿の形成をも防止する。
【0044】
本発明の鋼に0.0050重量%までの含量でCaを添加して、硫化物形の制御を達成することができる。従って、圧延の過程でCaの存在下にてCa硫化物が生じ、これは、そうでなければ生じる可能性のある細長いMnS沈殿とは対照的に、本発明の鋼の特性のより高い等方性を促す。
【0045】
本発明の鋼部品をその自由表面を酸化から保護するコーティングで被覆することができる。部品を熱間成形する鋼板製品にコーティングが既に存在するのが好ましい。保護コーティングが加熱及び熱間成形中のスケール形成から保護し及び/又は加工中若しくは実際の使用中に腐食から保護するように、保護コーティングを設計することができる。このために、金属、有機又は無機ベースのコーティング及びこれらのコーティングの組合せを使用することができる。
【0046】
従来の方法を利用して鋼板製品を被覆することができる。熱浸漬コーティング法での表面仕上げが好ましい。必要に応じて適用する金属コーティングは、系Zn、Al、Zn−Al、Zn−Mg、Al−Mg、Al−Si及びZn−Al−Mg並びにそれらの不可避不純物をベースとしている。ここではAl−Siをベースとしたコーティングが特にうまくいくことが判明した。
【0047】
コーティングの表面品質及び鋼表面への結合性を改善するため、熱浸漬コーティング法の上流に前酸化工程を有利に加えることができる。それによって、目標とした様式で鋼板製品上に10〜1000nm厚の酸化物層を作り出す。ここで、酸化物層が70〜500nm厚の場合に特に良いコーティング品質がもたらされる。酸化物層厚は、例えば、特許文献4に開示されているように、酸化チャンバー内で設定される。熱浸漬前又は表面仕上げ前に、焼きなまし雰囲気の水素によって酸化鉄層が減少する。合金化元素の酸化物は、表面に10μmの深さまで存在することができる。
【0048】
さらに、本発明に従って加工される鋼板製品を連続焼きなまし設備又はバッチ焼きなまし設備で焼きなましすることができ、かつオフラインの下流の表面仕上げ設備でコーティングすることができる。このために異なる方法を利用することができる。
【0049】
それぞれのコーティングを適用するためには電解コーティングが特に適している。Zn、ZnFe、ZnMn若しくはZnNi系又はこれらの組合せをコーティング材料として使用すると特に好ましい結果が生じる。
【0050】
しかしながら、PVD(物理蒸着)又はCVD(化学蒸着)コーティング法でコーティングを施すこともできる。
【0051】
Zn、Zn−Ni、Zn−Fe及びこれらの組合せをベースとした金属(合金)コーティング、並びに有機/金属−有機/無機コーティングの無電解又は化学蒸着は、コイルコーティング設備でのコイルコーティング、噴霧コーティング又は浸漬コーティング法に等しく適している。ここに記載の方法を利用して作り出せるコーティングの典型的厚さは、1〜15μmの範囲にある。