特許第5871901号(P5871901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許5871901鋼、鋼板製品、鋼部品及び鋼部品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871901
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】鋼、鋼板製品、鋼部品及び鋼部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160216BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20160216BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20160216BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20160216BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   C22C38/00 301S
   C22C38/00 301T
   C22C38/58
   C21D9/00 A
   C21D1/18 C
   B21J5/00 A
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-501863(P2013-501863)
(86)(22)【出願日】2011年4月1日
(65)【公表番号】特表2013-527312(P2013-527312A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】EP2011055117
(87)【国際公開番号】WO2011121118
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年1月16日
(31)【優先権主張番号】10158923.2
(32)【優先日】2010年4月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ゲルベル
(72)【発明者】
【氏名】イルセ ヘッケルマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヘラー
(72)【発明者】
【氏名】ユリア ムーラ
(72)【発明者】
【氏名】マーチン ノルデン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス フィフェス ディアス
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−197251(JP,A)
【文献】 特開2007−231353(JP,A)
【文献】 特開2008−266721(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 1/02− 1/84
C21D 9/00− 9/44,9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(重量%で)
C:0.15〜0.40%、
Mn:1.0〜2.0%、
Al:0.2〜1.6%、
Si:0〜1.4%、
Si含量とAl含量の合計:0.25〜1.6%、
P:0〜0.10%、
S:0〜0.03%、
Cr:0〜0.5%、
Mo:0〜1.0%、
N:0〜0.01%(0%を含まない)
Ni:0〜2.0%、
Nb:0.012〜0.04%、
Ti:0〜0.40%(0%を含まない)
B:0.0010〜0.0050%、
Ca:0〜0.0050%、
残余の鉄及び不可避不純物
からなり、熱間成形後に焼入れすることによって、ミクロ構造が、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で10%までのフェライトとから成る、鋼部品を製造するための鋼。
【請求項2】
そのAl含量とSi含量の合計が少なくとも0.5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
そのAl含量が少なくとも0.4重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼。
【請求項4】
そのTi含量が下記条件
【数1】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)
を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼。
【請求項5】
下記
【数2】
がそのTi含量に当てはまる場合、
下記条件
【数3】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)
が満たされることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼。
【請求項6】
鋼部品を製造するための鋼板製品において、請求項1〜5に従って得られる高強度鋼から成る少なくとも1つの領域を有することを特徴とする鋼板製品。
【請求項7】
均一に前記高強度鋼から成ることを特徴とする請求項6に記載の鋼板製品。
【請求項8】
その表面の少なくとも1つが、酸化から保護するコーティングで被覆されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の鋼板製品。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に従って得られる鋼板製品から製造される鋼部品であって、請求項1〜5のいずれか1項に従って得られる高強度鋼の領域におけるそのミクロ構造が、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で10%までのフェライトとから成る、鋼部品。
【請求項10】
前記高強度鋼の領域におけるそのミクロ構造のマルテンサイト含量が、面積で少なくとも75%であることを特徴とする請求項9に記載の鋼部品。
【請求項11】
前記高強度鋼の領域におけるそのミクロ構造のオーステナイト含量が、面積で少なくとも2%であることを特徴とする請求項9又は10に記載の鋼部品。
【請求項12】
その表面が、酸化から保護するコーティングで被覆されていることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の鋼部品。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項に従って得られる鋼部品の製造方法であって、以下の製造工程:
−請求項6〜8のいずれか1項に従って形成される鋼板製品を供給する工程、
−前記鋼板製品を780〜950℃の温度まで加熱する工程、
−前記鋼板製品を鋼部品に熱間成形する工程、
−前記鋼部品を加速冷却する工程(その結果、冷却後に得られる前記鋼部品は、少なくとも前記高強度鋼の領域では、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で10%までのフェライトとから成るミクロ構造を有する)
を含む方法。
【請求項14】
前記鋼部品の冷却中の冷却速度が、少なくとも25℃/秒であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼、鋼板製品、それから製造される鋼部品及び鋼部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業が法律によって満たさなければならない要件が最近増えている。一方では、衝突した場合にさらに高い乗客の安全が必要とされ、他方では、CO排出及び燃料消費を最小限に抑えるために軽量構成が重要な必要条件である。同時に、快適さの観点からの使用者の要求が増大しており、大きさが増している電子部品の比率の結果として自動車が一層重くなってきた。これらの相反する要件を満たすため、自動車産業及び平鋼産業は、車体構造の領域で車両の軽量構成に重点的に取り組んできた。
【0003】
マンガン−ホウ素鋼から成る熱間成形したプレス焼入れ部品は、衝突に関連する自動車部品に特に適している。この鋼品質の典型例は、「22MnB5」(材料番号1.5528)という名称で知られているMnB鋼である。MnB鋼製のプレス焼入れ部品の用途は、例えば、自動車の車体のB−カラム、B−カラム補強材及びバンパーである。熱間成形とプレス焼入れを併用して、複雑な形状及び最大強度(R:約1500MPa;Rp0.2:約1100MPa)を備える部品を製造することができる。
【0004】
このようにして製造される部品は、主にマルテンサイトミクロ構造によって特徴づけられる。それらの高い強度は基本的に壁厚をかなり薄くできるので、部品の重量を軽減することも可能にする。しかしながら、MnB鋼からホットプレス焼入れした部品は典型的に低い延性(A80:約5〜6%)しか持たない。従って、衝突した場合の破損を防ぐためには、実際のところホットプレス焼入れ部品のシート厚は、安全性の理由のため、一般的に、その強度を考慮して実際に必要であろう厚さよりかなり大きくなる。
【0005】
一方で、言及したタイプの鋼製部品の軽量構成の可能性を利用するため、他方で、衝突したときに必要な変形挙動をも保証するため、車体部品はいわゆる「注文ブランク(tailored blank, Tailored Blank(英、独訳))」から製造される。これらは、異なる鋼種のプレカットシートから成るシートブランクである。このようにして、「注文ブランク」は、例えば、自動車の車体のB−カラムを製造するために供給され、このB−カラムの上部に割り当てられる車体の領域は22MnB5鋼から成る。そして、B−カラムの底部に割り当てられる注文ブランクの領域においては、ホットプレス焼入れ後により高い延性をも有する鋼種が供給される。このために適格な鋼は、H340LAD(材料番号1.0933)という名称で知られている。
【0006】
同時に、注文ブランクを使用することによって、それらから製造される部品の最適化性能特性と共に重量の有意な節減が達成可能であるにもかかわらず、より延性の高い材料から成る領域は、正常運転中に該部品に及ぼされる応力を吸収することができるように、一般的にそれぞれの部品の重要領域ではシート厚がより大きくなければならない。このことは、同様に、部品全体がそれに応じて重くなることを意味する。
【0007】
従って、特に自動車の車体で用いられる部品のような高い応力にさらされる部品を、高い強度と良い伸び特性を併せ持つ鋼シート材料から製造すべき要求が一般的にある。
【0008】
この要求を満たすため、第1の開発方向は、製造方法を最適化することを目的とする。従って、冷却速度を制御することによって、マルテンサイトミクロ構造及び改良された破断点伸びを備える鋼種を製造することができる。この手順の例は、特許文献1に記載されており、マルテンサイト終了温度に達するまでは高い冷却速度を与え、その後はより遅い冷却速度を与える。このようにして、破断点伸びが改良された自己焼き戻し型マルテンサイトが製造される。
【0009】
これとは別の開発方向は、いわゆる「温間成形」法を利用して多相ミクロ構造を備える鋼種を製造する方法の最適化することを含む。この方法では、それぞれの部品に成形すべき鋼板製品をAc1温度とAc3温度の間の温度に加熱する。この温度では鋼は二相ミクロ構造を有する。このようにして加熱した部品をホットプレス焼入れすれば、冷却後の完成部品は、従来のオーステナイト化及び焼入れした部品に比べて、より低いマルテンサイト比率と、フェライト及びオーステナイト等のより高い延性の相のより高い比率とを有する。同時に、これらの部品はまだ比較的高い強度を有する。このように、温間成形部品では、800〜1000MPaの引張強度Rが得られ、初期状態に比べて破断点伸び値はわずかに減少するだけである(A80は約10〜20%)。このような手順は、例えば、特許文献2に記載されている。
【0010】
匹敵する概念は特許文献3によって探究されているが、腐食から保護するため適用されるコーティングを形成することが強調されている。この従来技術では、加熱温度はAc1温度より高く、かつ可能な結晶粒成長並びに鋼板製品(これから部品が形成される)のZnベースコーティングの蒸発を考慮して選択すべきであると述べているだけである。それによって、それぞれ加工される鋼板製品は異なる合金化概念に応じて構成される。従って、問題の鋼は、(重量%で)0.15〜0.25%のC、1.0〜1.5%のMn、0.1〜0.35%のSi、最大0.8%のCr、特に0.1〜0.4%のCr、最大0.1%のAl、0.05%までのNb、特に最大0.03%のNb、0.01%までのN、0.01〜0.07%のTi、<0.05%のP、特に<0.03%のP、<0.03%のS、>0.0005から<0.008%のB、特に少なくとも0.0015%のB、並びに残余として不可避不純物及び鉄を含有し得る。ここで、Ti含量は、N含量より3.4倍多くなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第1642991(B1)号明細書(EP 1 642 991 B1)
【特許文献2】国際公開第2007/034063(A1)号パンフレット(WO 2007/034063 A1)
【特許文献3】国際公開第2008/102012号パンフレット(WO 2008/102012)
【特許文献4】国際公開第2007/124781(A1)号パンフレット(WO 2007/124781 A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記従来技術の背景に対して、本発明の目的は、高度の信頼性を保証できる鋼、すなわち、その鋼から製造される部品はいずれの場合も高い強度値及び増加した破断点伸びを有することを保証できる鋼を作り出すことであった。この鋼を用いて製造される鋼板製品、それから製造される鋼部品及び該鋼部品の製造方法をも特定することであった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
鋼に関しては、請求項1に記載の合金化鋼によって、本発明に従ってこの目的を達成した。
【0014】
鋼板製品に関しては、請求項6に記載の該鋼板製品を形成することによって、本発明に従って上記目的を達成した。
【0015】
鋼部品に関しては、請求項9に記載の該鋼部品を形成することによって上記目的を達成した。
【0016】
最後に、鋼部品の製造方法に関しては、請求項13に記載の方法によって、本発明に従って上記目的を達成した。
【0017】
本発明の有利な実施形態については、従属請求項で特定してあり、独立請求項の主題と同様に、以下に詳細に説明する。
【0018】
本発明は、適切な合金を選択すること及び適切なミクロ構造組成を設定することによって、オーステナイト化、熱間成形及び焼入れ後に、少なくとも1000MPaの高強度といずれの場合も確実に6%より高い破断点伸びA80を有する鋼を提供できるという認識から発する。この目的を達成するため、本発明の鋼は、(重量%で)0.15〜0.40%のC、1.0〜2.0%のMn、0.2〜1.6%のAl、1.4%までのSi(ここで、Si含量とAl含量の合計は0.25〜1.6%である)、0.10%までのP、0〜0.03%のS、0.5%までのCr、1.0%までのMo、0.01%までのN、2.0%までのNi、0.012〜0.04%のNb、0.40%までのTi、0.0015〜0.0050%のB及び0.0050%までのCa並びに残余として鉄及び不可避不純物を含有する。
【0019】
それに応じて、本発明の鋼板製品は、本発明の鋼から成る少なくとも1つの領域を有する。従って、本発明の鋼板製品を、その中の1つの領域を本発明の鋼から製造し、別の領域を別の鋼から製造する注文ブランクとして形成することができる。その結果、本発明の鋼から製造された本発明の注文ブランクの領域は、鋼板製品から製造された完成鋼部品に高強度領域を形成し、その領域内では高強度と良い破断点伸びを併せ持つ。当然に、鋼シート又は鋼ストリップから切り離されたカットブランクの形態の本発明の鋼から均一に本発明の鋼板製品を製造することも同様に可能である。従って、本発明のこのような鋼板製品から製造される鋼部品は、どこでも、本発明の鋼合金化法によって得られる高強度と良い延性の有利な組合せを有する。
【0020】
それに応じて本発明の鋼部品は、少なくとも1つの領域において本発明の鋼から成ること及び本発明の高強度鋼の領域においてそのミクロ構造がマルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとを含むことを特徴とする。
【0021】
従って、本発明の鋼部品の製造方法の過程において、鋼板製品で始めることが条件とされる。この鋼板製品を次に780〜950℃の温度まで加熱する。このようにしてオーステナイトの比率を少なくとも80%に設定し、その結果、熱間成形後に、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとから成るミクロ構造を備える本発明の鋼を製造することができる。このために必要な保持時間は典型的に2〜10分である。
【0022】
引き続き、鋼板製品を通常は熱間成形工具に搬送し、そこで熱間成形する。鋼板製品を搬送するときに冷却が著しくなりすぎるのを防止するため、搬送時間を5〜12秒に制限すべきである。熱間成形自体は、プレス成形として、それ自体既知のやり方で実施可能である。
【0023】
熱間成形後、冷却後に得られる鋼部品がマルテンサイトと、オーステナイトと、面積で20%までのフェライトとから成るミクロ構造を有するのに十分速く鋼部品を冷却する。このために典型的に必要とされる冷却速度は、ほぼ少なくとも25℃/秒である。ここで、熱間成形及び冷却を単一工程又は二工程で行うことができる。単一工程では、ホットプレス型焼入れ、熱間成形及び焼入れを1つの工具で1回で一緒に行う。対照的に、二工程法では、冷間成形を最初に行い(100%まで)、その後にミクロ構造の生成を含めた最後の熱間成形のみを行う。
【0024】
それぞれ加工した鋼板製品を上記温度内でオーステナイト化した場合、本発明に従って得られる部品は、熱間成形及び加速冷却後に、本発明の鋼から成る領域において、硬質相(マルテンサイト)と、少なくとも1つのより延性の高い相(オーステナイト及びフェライト)との組合せによって特徴づけられるミクロ構造を有する。ここで、オーステナイトを利用して伸び値を改善し、かつエネルギー吸収を高めるのが好ましいので、フェライトの比率は、本発明に従って特定される加工鋼の組成によって面積で20%に制限される。本発明の部品の機械的−技術的特性は、780〜950℃、特に850〜950℃で本発明に従って行われるオーステナイト化プロセスの全温度範囲にわたって、マルテンサイトと、オーステナイトと、面積で最大20%のフェライトとの組合せによって確実に得られる。
【0025】
本発明に従って製造される部品の機械的−技術的特性の安定性は、本発明の解析概念によって確保される。硬質(マルテンサイト)相と延性(オーステナイト及びフェライト)相の組合せから成る、本発明の部品のミクロ構造は、部品が衝突で応力を受けたときの最適の挙動を保証する。熱間成形された部品が変形するときに起こるオーステナイトからマルテンサイトへの相変態は、衝突した場合に高い運動エネルギーで部品が変形するときに引き続き部品の硬度を高くする。
【0026】
本発明の部品のミクロ構造のマルテンサイト含量が、関与している高強度領域の面積で少なくとも75%である場合、本発明が目的とした部品の高強度領域における高い強度、良い破断点伸び及び最適な衝突挙動の組合せが特に確実に達成される。本発明の部品のミクロ構造のオーステナイト含量が面積で少なくとも2%であることによって、所要の高い破断点伸びを確保することができる。
【0027】
本発明の鋼製部品の引張強度は、その高強度領域では1000MPaを下回るべきでない。本発明の鋼合金は少なくとも0.15重量%のC含量を含むので、この目的で必要とされるマルテンサイト硬度を得ることができる。同時に、本発明の鋼のC含量は、実際面で十分な溶接性を確保するように、0.4重量%に設定される上限を有する。
【0028】
本発明のミクロ構造の設定に関しては、本発明に従って用いる鋼の合金元素Mn、Si及びAlは室温でオーステナイトを安定化することから、それらの元素を特に重視する。
【0029】
本発明の鋼に少なくとも1.0重量%の含量で存在するMnは、鋼のAc温度を下げることによってオーステナイト形成材として働く。熱間成形後に実質的にオーステナイトとマルテンサイトから成るミクロ構造という結果になる。同時に、それぞれの用途に最適の溶接性を確保するため、Mn含量は最大2重量%に制限される。
【0030】
ケイ素は、本発明の鋼中に1.4重量%までの含量で存在する。ケイ素は、焼入れ性に影響を及ぼし、かつ本発明の部品の鋼を融解させるときに脱酸剤として働く。同時に、Siは降伏強度を高め、室温でオーステナイト及びフェライトを安定化し、かつ冷却中のオーステナイト内の不要の炭化物沈殿を防止する。しかしながら、高すぎるSi含量は表面欠陥を引き起こす。従って、本発明の鋼のSi含量は1.4重量%に制限される。
【0031】
Siと同様に、本発明の鋼中のアルミニウムは、室温でフェライト及びオーステナイトを安定化することに寄与し、かつ結晶粒サイズの制御に影響を及ぼす。これらの効果は、本発明のやり方でアルミニウム含量を0.2〜1.6重量%に制限すれば確実に達成されるが、少なくとも0.4重量%のAl含量は、本発明の部品の特性に特にプラスの効果をもたらす。0.4重量%を超えるAl含量によって、熱処理中の炭化物形成が抑制されるので、本発明に従って与えられる好ましくは面積で少なくとも2%のオーステナイトの比率は、熱間成形されたミクロ構造内で安定化する。
【0032】
本発明の相配置のため、本発明の鋼のそのオーステナイト化、熱間成形及び冷却による機械的特性の広がりを減らすことができる。ここで、驚くべきことに、本発明に従って製造される部品の機械的特性は、本発明に従って鋼板製品を加工するときにそれらを加熱する比較的広い範囲の温度にわたって高度の信頼性で得られることが分かった。従って、言及した加熱温度を設定すると、実際には必然的に生じる許容範囲にもかかわらず、本発明の部品に求められている特性を非常に信頼できる安定した成果で保証することができる。
【0033】
本発明の鋼又は該鋼から製造される部品のAl含量とSi含量の合計を0.25〜1.6重量%に制限することによって、Si及びAlが表面状態に及ぼし得るマイナスの効果を防止する。本発明の鋼部品のAl含量とSi含量の合計を少なくとも0.5重量%まで上昇させることができるので、同時に、AlとSiの組み合わせた存在のプラス効果が特に確実に活かされる。
【0034】
Moは、本発明の鋼中に1.0重量%までの含量で存在することができる。Moの存在は、マルテンサイト形成を促進し、かつ鋼の靱性を改善する。しかしながら、高すぎるMo含量は冷間割れを引き起こす恐れがある。
【0035】
本発明の鋼合金に0.5重量%までの含量でCrを添加することによって、焼入れ性を高めることができる。しかしながら、表面欠陥を防止できるように、Cr含量は高すぎてはいけない。Cr含量を0.1重量%に制限すれば、これらの効果を確実に達成することができる。
【0036】
Pを加えて0.10重量%までの含量で合金化することよって降伏強度を高め、ひいては機械的特性を確保することができる。しかしながら、高すぎるP含量は、本発明に従って得られる鋼の延性及び靭性を損なう。
【0037】
0.40重量%までの含量のTiは、溶解状態でも沈殿形成(例えば炭窒化Tiの形成)によっても降伏強度を高める。TiはNと結合してTiNを形成し、このようにして変態挙動の観点からBの有効性を助長する。この効果は、下記条件
【数1】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)を満たす本発明の鋼のTi含量によって確保し得る。
【0038】
0.0010〜0.0050重量%のBによって、冷却中のフェライト変態をより長い変態時間の方向に遅延させることによって、本発明の鋼の焼入れ性を改善する。同時に、本発明の鋼中に存在するホウ素は、熱間成形プロセスにおける広い温度範囲で機械的特性を安定化する。
【0039】
0.01重量%までのNは、本発明の鋼のオーステナイトを安定化し、かつ降伏強度を高める。本発明の合金化鋼中に存在する窒素がTiで完全には結ばれていない場合、そのTiはホウ素と共に窒化ホウ素を形成する。これらの窒化ホウ素は、最初のミクロ構造の結晶粒を精密にさせ、ひいてはマルテンサイト熱間成形ミクロ構造を精密にさせる。結果として、このようにして本発明に従って加工される鋼の亀裂に対する感受性が軽減される。同時に、窒化ホウ素は実質的に、本発明の鋼の強度を高めることに寄与する。
【0040】
NをBと併用して窒化ホウ素を形成することによって、結晶粒を精密にし、かつ強度を高める場合、Tiに結び付いていない、この目的で必要とされるN含量は、下記
【数2】
がそのTi含量に当てはまる場合、
下記条件
【数3】
(式中、%TiはそのそれぞれのTi含量を示し、%NはそのそれぞれのN含量を示す)
が満たされることによって具体的に設定可能である。
【0041】
本発明の合金化鋼に0.012〜0.04重量%までの含量でNbをさらに添加すると、高い引張強度値と増加した破断点伸びを併せ持つことを補助し、本発明に従って得られる鋼部品のエネルギー吸収能力を全体的に高めることとなる。本発明に従って構成される鋼において、Nbは炭化物沈殿によって降伏強度を高め、かつオーステナイト結晶粒の精密化によって、亀裂伝播に対して非常に安定した微細なマルテンサイトミクロ構造を生じさせる。さらに、Nb沈殿は、水素トラップとして作用し、それによって水素誘導亀裂への感受性を軽減することができる。
【0042】
2.0重量%までの含量のNiは、降伏強度と破断点伸びを高めることに寄与する。
【0043】
Sは溶接性及び表面仕上げの範囲に非常にマイナスの効果を及ぼすので、本発明の部品の鋼のS含量は最大0.03重量%に制限される。この制限は、不利な細長いMnS沈殿の形成をも防止する。
【0044】
本発明の鋼に0.0050重量%までの含量でCaを添加して、硫化物形の制御を達成することができる。従って、圧延の過程でCaの存在下にてCa硫化物が生じ、これは、そうでなければ生じる可能性のある細長いMnS沈殿とは対照的に、本発明の鋼の特性のより高い等方性を促す。
【0045】
本発明の鋼部品をその自由表面を酸化から保護するコーティングで被覆することができる。部品を熱間成形する鋼板製品にコーティングが既に存在するのが好ましい。保護コーティングが加熱及び熱間成形中のスケール形成から保護し及び/又は加工中若しくは実際の使用中に腐食から保護するように、保護コーティングを設計することができる。このために、金属、有機又は無機ベースのコーティング及びこれらのコーティングの組合せを使用することができる。
【0046】
従来の方法を利用して鋼板製品を被覆することができる。熱浸漬コーティング法での表面仕上げが好ましい。必要に応じて適用する金属コーティングは、系Zn、Al、Zn−Al、Zn−Mg、Al−Mg、Al−Si及びZn−Al−Mg並びにそれらの不可避不純物をベースとしている。ここではAl−Siをベースとしたコーティングが特にうまくいくことが判明した。
【0047】
コーティングの表面品質及び鋼表面への結合性を改善するため、熱浸漬コーティング法の上流に前酸化工程を有利に加えることができる。それによって、目標とした様式で鋼板製品上に10〜1000nm厚の酸化物層を作り出す。ここで、酸化物層が70〜500nm厚の場合に特に良いコーティング品質がもたらされる。酸化物層厚は、例えば、特許文献4に開示されているように、酸化チャンバー内で設定される。熱浸漬前又は表面仕上げ前に、焼きなまし雰囲気の水素によって酸化鉄層が減少する。合金化元素の酸化物は、表面に10μmの深さまで存在することができる。
【0048】
さらに、本発明に従って加工される鋼板製品を連続焼きなまし設備又はバッチ焼きなまし設備で焼きなましすることができ、かつオフラインの下流の表面仕上げ設備でコーティングすることができる。このために異なる方法を利用することができる。
【0049】
それぞれのコーティングを適用するためには電解コーティングが特に適している。Zn、ZnFe、ZnMn若しくはZnNi系又はこれらの組合せをコーティング材料として使用すると特に好ましい結果が生じる。
【0050】
しかしながら、PVD(物理蒸着)又はCVD(化学蒸着)コーティング法でコーティングを施すこともできる。
【0051】
Zn、Zn−Ni、Zn−Fe及びこれらの組合せをベースとした金属(合金)コーティング、並びに有機/金属−有機/無機コーティングの無電解又は化学蒸着は、コイルコーティング設備でのコイルコーティング、噴霧コーティング又は浸漬コーティング法に等しく適している。ここに記載の方法を利用して作り出せるコーティングの典型的厚さは、1〜15μmの範囲にある。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、例示実施形態を利用して本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
従来の方法で冷間圧延した鋼シートを鋼E1〜E6(その組成を表1に特定してある)から作製した。これらの各鋼シートから、均一にそれぞれの鋼E1〜E6から成る多数のシートブランクを切り離した。
【0054】
比較のため、対応するやり方で、比較鋼V(これも表1に特定してある組成を有する)から鋼シートを作製し、この鋼シートから、この場合もやはり均一に比較鋼Vから成る多数のシートブランクを切り離した。
【0055】
鋼E1〜E6及び鋼Vから成るブランクをいずれの場合も未被覆状態で880〜925℃の範囲の温度まで加熱し、引き続き熱間成形工具に入れてから部品に熱間成形した。熱間成形後、ブランクからそれぞれ熱間成形された部品をいずれの場合も、部品内でマルテンサイト構造が生じるような速度、少なくとも25℃/秒の冷却速度で室温に冷ました。実際の熱間成形条件付け後、20分持続させる170℃での焼付け処理を含めた陰極浸漬塗布処理にサンプルをさらに供した。
【0056】
得られた部品について機械的特性である降伏強度Rp0.2、引張強度R及び伸びA80を決定した。鋼E1〜E6及び鋼Vから作製した鋼部品についてそれぞれの平均値Rp0.2、R及びA80並びに関連標準偏差σRp0.2、σR及びσA80を表2に特定してある。さらに、鋼E1〜E6及び鋼Vから成る鋼部品について引張強度Rと伸びA80の積並びにそれぞれの試験サンプルを2つの互いに間隔を空けた支持体上に置き、圧子を用いて中央でプレスする3点曲げ試験の結果を表2に記録する。表2の列「3点曲げ試験でのエネルギー吸収」は、破断するまでのエネルギー吸収を表す。鋼E1、E2及びVから作製した部品についてはミクロ構造の組成をも表2に提示する。
【0057】
本発明のE1〜E6鋼から成る部品は、引張強度Rと伸びA80の積、及び付随する高いエネルギー吸収能によって特徴づけられる一貫して高い残留変形能を有することが判明した。同時に、試験結果は、本発明のE1〜E6鋼から作製した部品の機械的特性Rp0.2、R及びA80は、比較鋼Vから作製した部品の場合より低いそれぞれの標準偏差値によって特徴づけられるかなり高い信頼性で再現可能であることを示している。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】