特許第5871977号(P5871977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871977
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】抗血栓形成性中空糸膜およびフィルター
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20160216BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   A61M1/18 500
   C08G18/78 Z
【請求項の数】40
【外国語出願】
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2014-51179(P2014-51179)
(22)【出願日】2014年3月14日
(62)【分割の表示】特願2013-516412(P2013-516412)の分割
【原出願日】2010年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-138881(P2014-138881A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2014年3月19日
(31)【優先権主張番号】61/178,861
(32)【優先日】2009年5月15日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508215131
【氏名又は名称】インターフェース バイオロジクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】ミュリック,サンジョイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ウェイラン
(72)【発明者】
【氏名】エスファンド,ロセイタ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ハンジェ
(72)【発明者】
【氏名】スティードマン,マーク
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/076345(WO,A1)
【文献】 特開2004−248904(JP,A)
【文献】 特開2001−300272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
C08G 18/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含み、血液と接触したときに抗血栓形成性である中空糸膜であって、該表面修飾高分子が、
(a)式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(a1) Oligoは、ポリプロピレンオキシドを含み、500〜3,000ダルトンの理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(a2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(a3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(a4) nは1〜10の整数である];
(b) 式(VIII):
【化1】
[式中、
(b1) Aは、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含むオリゴマーセグメントであり、
(b2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、
(b3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(b4) nは0〜10の整数である];
(c) 式(IX):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (IX)
[式中、
(c1) Oligoは500〜3,000ダルトンの理論分子量を有するポリ(2,2ジメチル-1,3-プロピルカーボネート)(PCN)ポリオールを含み、
(c2) Bは、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)から形成される硬セグメントであり、
(c3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(c4) nは1〜10の整数である];または
(d) 式(XI):
【化2】
[式中、
(d1) Aは、ポリプロピレンオキシドを含む第1ブロックセグメント、およびポリシロキサンを含む第2ブロックセグメントを含み、1,000〜5,000ダルトンの理論分子量を有し、
(d2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、
(d3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(d4) nは0〜10の整数である]
により記載される、上記中空糸膜。
【請求項2】
0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含み、血液と接触したときに抗血栓形成性である中空糸膜であって、該表面修飾高分子が、式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(i) Oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み、500〜3,000ダルトンの理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(ii) Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート;4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート);4,4’-メチレンビス(フェニル)イソシアネート;トルエン-2,4ジイソシアネート;m-テトラメチルキシレンジイソシアネート;またはヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(iii) FTは、100〜1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキル基であるか、または
一般式CF3(CF2)rCH2CH2[式中、rは2〜20である]およびCF3(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]の基からなる群より選択され、
(iv) nは1〜10の整数である]
により記載される、上記中空糸膜。
【請求項3】
前記表面修飾高分子が、式(XI)により記載される、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項4】
Bが、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体であるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントである、請求項3に記載の中空糸膜。
【請求項5】
FTが、100〜1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項6】
FTが、一般式CF3(CF2)rCH2CH2[式中、rは2〜20である]およびCF3(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]の基からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項7】
前記表面修飾高分子が、10,000ダルトン未満の理論分子量を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項8】
0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含み、血液と接触したときに抗血栓形成性である中空糸膜であって、該表面修飾高分子が、VII-a:
【化3】
[式中、[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量は1000 g/molである]、
VIII-a:
【化4】
[式中、[O(CH2)4]nセグメントの分子量は1000 g/molである]、
VIII-b:
【化5】
[式中、[O(CH2)4]nセグメントの分子量は1000 g/molである]、
VIII-c:
【化6】
[式中、[O(CH2)4]nセグメントの分子量は1000 g/molである]、
VIII-d:
【化7】
[式中、(O(CH2)2O)x-(CH2CH(CH3)O)y-(CH2CH2O)zセグメントはPluronic L-35である]、
IX-a:
【化8】
[式中、z=2であり、(CH2C(CH3)2CH2OCOO)nCH2C(CH3)2CH2Oセグメントの分子量は1000 g/molである]、
XI-a:
【化9】
[式中、[((CH2)3O)m-(CH2)3-Si(CH3)2-(OSi(CH3)2)n-O-Si(CH3)2-(CH2)3-(O(CH2)3)m]セグメントの分子量は3000 g/molである]、
XI-b:
【化10】
[式中、[((CH2)3O)m-(CH2)3-Si(CH3)2-(OSi(CH3)2)n-O-Si(CH3)2-(CH2)3-(O(CH2)3)m]セグメントの分子量は3000 g/molである]
からなる群より選択される、上記中空糸膜。
【請求項9】
前記表面修飾高分子が、VII-a:
【化11】
[式中、[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量は1000 g/molである]である、請求項8に記載の中空糸膜。
【請求項10】
血液と接触したときの前記中空糸膜の表面上の血栓沈着が、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の中空糸膜の少なくとも10%減少し、該中空糸膜は前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の中空糸膜と相違しており;
該中空糸膜が4時間の使用後に、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の中空糸膜で観察される平均作動圧と比較して少なくとも10%減少した作動圧を有し、該中空糸膜は前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の中空糸膜と相違しており;
または該中空糸膜が該中空糸膜を通過する血液を投与される被験体での有害事象を、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の中空糸膜と比較して減少させ、該中空糸膜は前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の中空糸膜と相違する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項11】
前記基本ポリマーが、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項12】
前記基本ポリマーが、ポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)またはポリエーテルスルホンより選択されるポリスルホンである、請求項11に記載の中空糸膜。
【請求項13】
親水性孔形成剤をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の中空糸膜であって、80%〜96.5%(w/w)の前記基本ポリマー、3%〜20%(w/w)の該親水性孔形成剤、および0.005%〜10%(w/w)の前記表面修飾高分子を含む、上記中空糸膜。
【請求項14】
前記親水性孔形成剤が、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、アルコール、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール、ならびにそれらの混合物からなる群より選択される、請求項13に記載の中空糸膜。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜と、
0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子と混合されたポリ塩化ビニル基本ポリマーを含む血液チューブであって、血液と接触したときに抗血栓形成性であり、該表面修飾高分子が、
(a) 式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(a1) Oligoは、ポリプロピレンオキシドを含み、1,000〜3,000ダルトンの理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(a2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(a3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(a4) nは1〜10の整数である];または
(b) 式(XI):
【化12】
[式中、
(b1) Aは、ポリプロピレンオキシドを含む第1ブロックセグメント、およびポリジメチルシロキサンを含む第2ブロックセグメントを含み、1,000〜5,000ダルトンの理論分子量を有し、
(b2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体であるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、
(b3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(b4) nは0〜10の整数である];または
(c) 式(IV):
FT-[B-A]n-B-FT (IV)
[式中、
(c1) Aは、水素化ポリブタジエン、ポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)、ポリブタジエン、ポリアジピン酸(ジエチレングリコール)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、ポリ(エチレン-コ-ブチレン)、ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、またはビスフェノールAエトキシレートを含む軟セグメントであり、
(c2) Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート、およびヘキサメチレンジイソシアネートより選択されるジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(c3) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(c4) nは、1〜10の整数である];または
(d) 式(XIV):
【化13】
[式中、
(d1) Aは、500〜3,500ダルトンの理論分子量を有するポリアジピン酸(ジエチレングリコール)であり、
(d2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、
(d3) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(d4) nは、0〜10の整数である]
により記載される、上記血液チューブと
を含む、体外血液循環回路。
【請求項16】
前記表面修飾高分子がVII-a:
【化14】
[式中、[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量は1000 g/molである]
である、請求項15に記載の体外血液循環回路。
【請求項17】
前記血液チューブを通過する血液を投与される被験体での有害事象を、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の血液チューブと比較して減少させ、該血液チューブは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の血液チューブと相違する、請求項15または16に記載の体外血液循環回路。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜を含む透析フィルター。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜を含む透析キット。
【請求項20】
腎機能障害に罹患した被験体の治療での使用のための請求項18に記載の透析フィルターであって、該使用が、該被験体に対して、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、または血液透析ろ過より選択される手順を行なうステップを含む、上記透析フィルター。
【請求項21】
腎機能障害に罹患した被験体の治療での使用のための請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜であって、該使用が、該被験体に対して、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、または血液透析ろ過より選択される手順を行なうステップを含む、上記中空糸膜。
【請求項22】
血液の分離での使用のための請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項23】
血漿のろ過での使用のための請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【請求項24】
腎機能障害に罹患した被験体の治療での使用のための請求項15〜17のいずれか1項に記載の体外血液循環回路であって、該使用が、該被験体に対して、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、または血液透析ろ過より選択される手順を行なうステップを含む、上記体外血液循環回路。
【請求項25】
前記フィルターが、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の透析フィルターの可使時間に対して延長された可使時間を有し、該透析フィルターは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の透析フィルターと相違しており;
該フィルターが、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の透析フィルターの機能的平均可使時間の少なくとも125%の増加した機能的平均可使時間を有し、該透析フィルターは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の透析フィルターと相違しており;
血液と接触したときの該フィルター上での血栓沈着が、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の透析フィルターの少なくとも10%減少し、該透析フィルターは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の透析フィルターと相違しており;
該フィルターが4時間の使用後に、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の透析フィルターで観察される平均作動圧と比較して少なくとも10%減少した作動圧を有し、該透析フィルターは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の透析フィルターと相違しており;または
前記被験体に起こる有害事象が、同一の条件で使用される前記表面修飾高分子を有さない対照の透析フィルターと比較して減少し、該透析フィルターは前記表面修飾高分子の存在のみによって対照の透析フィルターと相違する、請求項20に記載の透析フィルター。
【請求項26】
心機能障害に罹患した被験体の治療での使用のための請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜であって、該治療が、酸素化装置を用いて、冠動脈バイパス移植術および心弁置換術より選択される手術を行なうステップを含み、該酸素化装置が該中空糸膜を含む、上記中空糸膜。
【請求項27】
前記被験体に起こる有害事象が減少する、請求項21または26に記載の中空糸膜。
【請求項28】
血液生産物の中のタンパク質の精製方法であって、該血液生産物を、請求項1〜14のいずれか1項に記載の中空糸膜を通して透析するステップを含む、上記方法。
【請求項29】
中空糸膜の調製のための紡糸液であって、以下の成分:(i) 57%〜87%(w/w)の非プロトン性溶媒;(ii) 10%〜25%(w/w)の基本ポリマー;(iii) 0.005%〜8%(w/w)の表面修飾高分子;および(iv) 3%〜10%(w/w)の親水性孔形成剤を含み、該非プロトン性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、およびそれらの混合物より選択され、かつ、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、アセトン、およびそれらの混合物より選択される25%(v/v)未満の低沸点溶媒を含み、該表面修飾高分子が、
(a) 式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(a1) Oligoは、ポリプロピレンオキシドを含み、500〜3,000ダルトンの理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(a2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(a3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(a4) nは1〜10の整数である] または
(b) 式(XI):
【化15】
[式中、
(b1) Aは、ポリプロピレンオキシドを含む第1ブロックセグメント、およびポリジメチルシロキサンを含む第2ブロックセグメントを含み、1,000〜5,000ダルトンの理論分子量を有し、
(b2) Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体であるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、
(b3) FTはポリフルオロオルガノ基であり、
(b4) nは0〜10の整数である]
により記載される、上記紡糸液。
【請求項30】
前記表面修飾高分子が、式(VII)により記載される、請求項29に記載の紡糸液。
【請求項31】
前記表面修飾高分子が、式(XI)により記載される、請求項29に記載の紡糸液。
【請求項32】
中空糸膜の調製のための紡糸液であって、以下の成分:(i) 57%〜87%(w/w)の非プロトン性溶媒;(ii) 10%〜25%(w/w)の基本ポリマー;(iii) 0.005%〜8%(w/w)の表面修飾高分子;および(iv) 3%〜10%(w/w)の親水性孔形成剤を含み、該非プロトン性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、およびそれらの混合物より選択され、かつ、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、アセトン、およびそれらの混合物より選択される25%(v/v)未満の低沸点溶媒を含み、該表面修飾高分子が、式(VII):
FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(i) Oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み、500〜3,000ダルトンの理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(ii) Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート;4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート);4,4’-メチレンビス(フェニル)イソシアネート;トルエン-2,4ジイソシアネート;m-テトラメチルキシレンジイソシアネート;またはヘキサメチレンジイソシアネートから形成される硬セグメントであり、
(iii) FTは、100〜1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキル基であるか、または
一般式CF3(CF2)rCH2CH2[式中、rは2〜20である]およびCF3(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]の基からなる群より選択され、
(iv) nは1〜10の整数である]
により記載される、上記紡糸液。
【請求項33】
Oligoが、ポリプロピレンオキシドである、請求項32に記載の紡糸液。
【請求項34】
Bが、ヘキサメチレンジイソシアネートから形成される、請求項32または33に記載の紡糸液。
【請求項35】
FTが、100〜1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキルである、請求項29〜34のいずれか1項に記載の紡糸液。
【請求項36】
FTが、一般式CF3(CF2)rCH2CH2[式中、rは2〜20である]およびCF3(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]の基からなる群より選択される、請求項29〜34のいずれか1項に記載の紡糸液。
【請求項37】
前記表面修飾高分子が、10,000ダルトン未満の理論分子量を有する、請求項29〜36のいずれか1項に記載の紡糸液。
【請求項38】
前記表面修飾高分子が、VII-a:
【化16】
[式中、[CH(CH3)CH2O]n単位の分子量は1000 g/molである]である、請求項32に記載の紡糸液。
【請求項39】
前記表面修飾高分子が、XI-a:
【化17】
[式中、[((CH2)3O)m-(CH2)3-Si(CH3)2-(OSi(CH3)2)n-O-Si(CH3)2-(CH2)3-(O(CH2)3)m]セグメントの分子量は3000 g/molである]である、請求項31に記載の紡糸液。
【請求項40】
前記親水性孔形成剤が、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、アルコール、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール、ならびにそれらの混合物からなる群より選択される、請求項29〜39のいずれか1項に記載の紡糸液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血栓形成性体外血液循環回路、その構成要素、例えば、中空糸膜、血液チューブ、およびフィルター、ならびに血液ろ過、血液透析、血液透析ろ過、血液濃縮、血液酸素化、および関連する用途におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全の患者の治療に対して、浄化するために血液が患者の生体から取り出され、浄化された血液が生体に戻される様々な血液浄化法が提案されてきた。例えば、体外回路を利用する血液浄化法は、次の種類:拡散による血液透析(HD)、限外ろ過によって体液を除去/置換する血液ろ過(HF)、およびHDとHFが組み合わされた血液透析ろ過(HDF)に分類される。
【0003】
上述の方法は、血液透析器を用いて実施される。透析器は、血液の老廃物溶質および流体(例えば、尿素、カリウム、クレアチニン、および尿酸)を実際にろ過する機器の一部である。現在使用されているほとんどすべての透析器は、中空糸型である。壁部が半透過性膜から構成された中空糸の円柱束が、各端部で収容化合物(接着剤の一種)内に固定される。次いで、この組立体が、4つの開口を備えた透明なプラスチック円柱シェル内に入れられる。円柱シェルの各端部の1つの開口または血液ポートが、中空糸の束の各端部に連通している。これが、透析器の「血液区画」を形成する。2つの他のポートが、円柱シェルの側面にカットされている。これらは、中空糸の周りの空間、すなわち「透析液区画」に連通している。血液が、血液ポートから微小毛細管様チューブの束に注入され、透析液が、糸を取り囲んでいる空間に送られる。流体を血液から透析液区画に移動させる必要がある場合は、圧力勾配が与えられる。
【0004】
血液透析は、人工腎臓の役割を果たす重要な処置であり、慢性および急性腎不全によるすべての生命維持に必要な機能に取って代わる。透析器は、腎不全、体液過剰(fluid overload)、または毒血症状態の患者の治療に用いることができ、HD、HF、HDF、または血液濃縮を行うように構成することができる。
【0005】
血液が体からもしくは体に輸送される、または透析器で浄化される間に、凝固や血栓形成を防止するためにヘパリンなどの抗凝固剤を添加することができる。持続的腎代替療法(CRRT)(すなわち、週7回24時間の連続的な透析)を受けている患者の場合、ヘパリンは、典型的には、血液の凝固による透析中のフィルター膜の目詰まりを防止するために全身にボーラスとして投与される。ヘパリンが投与されない場合は、フィルターは27%の確率で目詰まりするが、ヘパリンを投与した場合は、フィルターは17%の確率で目詰まりする(Richardsonら、Kidney International 70:963-968(2006)を参照)。間欠的血液透析(IHD)(2日に1回約4時間の間欠的透析)を受けている患者の場合、典型的にはヘパリンは投与されない。IHDの最中、フィルターは、20〜30%の確率で目詰まりする(Mannsら、Critical Care Medicine 31:449-455(2003)を参照)。フィルターが目詰まりすると、透析処置は中断され、血栓を除去するためにフィルターが生理食塩水で洗浄される。慢性血液透析(例えば、1週間に数回、1回に長時間の血液透析)を受けている患者では、フィルターの目詰まり率を下げるために大量のヘパリンが使用されるのが一般的である。
【0006】
有利ではあるが、一部の患者でのヘパリンの使用は、アレルギー反応や出血を併発することがあり、特定の投薬を受けている患者での使用に対しては禁忌となることがある。
【0007】
一部の医療処置では、酸素化するために血液が患者の生体から取り出され、酸素化された血液が生体に戻される体外酸素化法の使用が必要である。例えば、このような体外酸素化法を行う酸素化装置には、冠動脈バイパス移植術(coronary artery bypass grafting)(CABG)および心弁置換術などの開心術の際に使用される、または呼吸窮迫症候群もしくは呼吸不全の治療に使用される心肺バイパス装置(heart-lung bypass units)や体外膜型酸素化(ECMO)装置が含まれる。また、開心術の最中に血液濃縮用の装置を用いて、患者の様々な血液成分を増加させて、術後の出血のリスクを最小限にすることができる。これらの血液濃縮は、心肺バイパス装置などの酸素化装置を含む体外回路と共に使用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Richardsonら、Kidney International 70:963-968(2006)
【非特許文献2】Mannsら、Critical Care Medicine 31:449-455(2003)
【発明の概要】
【発明が解決するための課題】
【0009】
患者からおよび患者に血液を送出する必要があるこれらの治療に基づいて、血栓形成を低減させる体外血液循環回路の必要性が存在する。特に、血液への曝露時の血栓症の発症率を最小限にする表面を備えた体外血液循環回路のポリマー構成要素を提供する方法および構成の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法および構成は、0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子を含む体外血液循環回路およびその構成要素(例えば、中空糸膜、収容された束、および血液チューブ)を特徴とする。
【0011】
第1の態様では、本発明は、ポリマー構成要素を含む体外血液循環回路を特徴とし、このポリマー構成要素は、0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w)、0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含み、このポリマー構成要素は、体外血液循環回路の使用中に血液に接触するように配置された表面を備え、この表面は、血液に接触した際に抗血栓形成性である。一実施形態では、血液と接触した際のこの表面での血栓沈着は、少なくとも10%、20%、40%、60%、または80%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜95%、35%〜85%、または40%〜80%)減少する。別の実施形態では、体外血液循環回路は、少なくとも110%、125%、150%、200%、または400%(例えば、110%〜1,000%、200%〜900%、または300%〜900%)の増加した機能的平均可使時間を有する。さらに別の実施形態では、体外血液循環回路は、体外血液循環回路を通過する血液を投与される被験体での有害事象を減少させる。
【0012】
本明細書に記載するどの体外血液循環回路も、本発明の中空糸膜、本発明の収容された束、または本発明の血液チューブの1つまたは複数を含むことができる。
【0013】
第2の態様では、本発明は、中空糸膜を特徴とし、この中空糸膜は、0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w)、0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子と混合された基本ポリマーを含み、この中空糸膜は、血液と接触した際に抗血栓形成性である。一実施形態では、血液と接触した際の中空糸膜での血栓沈着は、少なくとも10%、20%、40%、60%、または80%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜95%、35%〜85%、または40%〜80%)減少する。別の実施形態では、中空糸膜は、4時間の使用後に少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜75%、25%〜45%、または30%〜80%)減少した作動圧を有する。さらに別の実施形態では、中空糸膜は、中空糸膜を通過する血液を投与される被験体での有害事象を減少させる。特定の実施形態では、基本ポリマーは、ポリスルホン(例えば、ポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)またはポリエーテルスルホン)、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、およびポリエチレンからなる群より選択される。さらなる実施形態では、中空糸膜は、親水性孔形成剤(例えば、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、アルコール、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール、またはそれらの混合物)をさらに含む。一実施形態では、中空糸膜は、80%〜96.5%(w/w)(例えば、80%〜95%、80%〜90%(w/w)、85%〜90%(w/w)、および90%〜95%(w/w))の基本ポリマー、3%〜20%(w/w)(例えば、3%〜15%(w/w)、3%〜7%(w/w)、3%〜5%(w/w)、および5%〜10%(w/w))の親水性孔形成剤、および0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w)、0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子を含む。
【0014】
第3の態様では、本発明は、(a)管腔、糸端部の第1セット、および糸端部の第2セットを有する中空糸膜の配列、(b)この糸端部の第1セットは、外装体の第1端部に近接した第1内壁を規定する収容樹脂中に収容されている、および(c)この糸端部の第2セットは、外装体の第2端部に近接した第2内壁を規定する収容樹脂中に収容されている、を含む外装体に収容された中空糸膜の束を特徴とし、中空糸膜の管腔は、第1内壁から第2内壁への血流に流路を提供し、この収容樹脂は、0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w)、0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子を含む。特定の実施形態では、この束は、延長された可使時間を有する。一部の実施形態では、この束は、少なくとも110%、125%、150%、200%、または400%(例えば、110%〜1,000%、125%〜1,000%、200%〜900%、または300%〜900%)の増加した機能的平均可使時間を有する。他の実施形態では、血液と接触した際の収容された束での血栓沈着は、少なくとも10%、20%、40%、60%、または80%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜95%、35%〜85%、または40%〜80%)減少する。さらに他の実施形態では、束は、4時間の使用後に少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜75%、25%〜45%、または30%〜80%)減少した作動圧を有する。一部の実施形態では、収容された束は、この収容された束を通過する血液を投与される被験体での有害事象を減少させる。他の実施形態では、収容樹脂は、血液と接触した際に抗血栓形成性である。
【0015】
一実施形態では、外装体に収容された中空糸膜の束は、血液浄化装置(例えば、血液透析、血液透析ろ過、血液ろ過、血液濃縮、または酸素化装置)の一部である。さらに別の実施形態では、収容樹脂は、架橋ポリウレタン(例えば、4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、2,2'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、2,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、または4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネートから形成される架橋ポリウレタン)である。
【0016】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載するいずれかの中空糸膜または本明細書に記載するいずれかの収容された束を含み、かつ延長された可使時間を有する透析フィルターを特徴とする。一実施形態では、透析フィルターは、この透析フィルターを通過する血液を投与される被験体での有害事象を減少させる。
【0017】
別の態様では、本発明は、0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w), 0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子と混合された基本ポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル)を含み、血液と接触した際に抗血栓形成性である血液チューブを特徴とする。特定の実施形態では、基本ポリマーは、ポリ塩化ビニルを含む。一実施形態では、血液チューブは、この血液チューブを通過する血液を投与される被験体での有害事象を減少させる。一実施形態では、血液と接触した際の血液チューブの表面での血栓沈着は、少なくとも10%、20%、40%、60%、または80%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜95%、35%〜85%、または40%〜80%)減少する。別の実施形態では、血液チューブは、少なくとも110%、125%、150%、200%、または400%(例えば、110%〜1,000%、125%〜1,000%、200%〜900%、または300%〜900%)の増加した機能的平均可使時間を有する。
【0018】
本発明は、腎機能障害の被験体を治療する方法を特徴とし、この方法は、本明細書に記載するいずれかの中空糸膜または本明細書に記載するいずれかの収容された束を含む透析フィルターを用いて、被験体に対して、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、または血液透析ろ過より選択される手順を行うステップを含む。一実施形態では、この手順の間、被験体は、標準用量未満の抗凝固剤を投与される(例えば、手順の間、被験体は抗凝固剤を投与されない)。別の実施形態では、このフィルターは、延長された可使時間を有する。さらに別の実施形態では、このフィルターは、少なくとも110%、125%、150%、200%、または400%(例えば、110%〜1,000%、125%〜1,000%、200%〜900%、または300%〜900%)の増加した機能的平均可使時間を有する。一実施形態では、血液と接触した際のこの透析フィルターでの血栓沈着は、少なくとも10%、20%、40%、60%、または80%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜95%、35%〜85%、または40%〜80%)減少する。別の実施形態では、このフィルターは、4時間の使用後に少なくとも10%、20%、30%、40%、または50%(例えば、10%〜95%、10%〜80%、20%〜75%、25%〜45%、または30%〜80%)減少した作動圧を有する。さらに別の実施形態では、被験体が受ける有害事象が減少する。
【0019】
本発明は、心機能障害の被験体を治療する方法を特徴とし、この方法は、本明細書に記載するいずれかの中空糸膜または本明細書に記載するいずれかの収容された束を含む酸素化装置を用いて、冠動脈バイパス移植術および心弁置換術より選択される手術を行うステップを含む。一実施形態では、この手順の間、被験体は、標準用量未満の抗凝固剤を投与される(例えば、手順の間、被験体は抗凝固剤を投与されない)。別の実施形態では、被験体が受ける有害事象が減少する。
【0020】
本発明は、被験体を治療する方法を特徴とし、この方法は、本明細書に記載する体外血液循環回路を用いて、被験体から血液を抜き出すステップ、および抜き出した血液を被験体に戻すステップを含む。一実施形態では、手順の間、被験体は、標準用量未満の抗凝固剤を投与される(例えば、手順の間、被験体は抗凝固剤を投与されない)。別の実施形態では、被験体が受ける有害事象が減少する。
【0021】
本発明はまた、血液中のタンパク質、血液生産物(例えば、血漿や分画血液成分)、またはその組み合わせを精製する方法を特徴とし、この方法は、血液、血液生産物、またはその組み合わせを、本明細書に記載するいずれかの中空糸膜または本明細書に記載するいずれかの収容された束を通して透析するステップを含む。
【0022】
本発明は、本明細書に記載するいずれかの収容された中空糸膜を含む、中空糸血漿浄化膜を特徴とする。
【0023】
本発明はまた、中空糸膜を調製するための紡糸液を特徴とし、この紡糸液は、(i)57%〜87%(w/w)(例えば、57%〜85%(w/w)、70%〜87%(w/w)、および70%〜85%(w/w))の非プロトン性溶媒、(ii)10%〜25%(w/w)(例えば、10%〜20%(w/w)、12%〜25%(w/w)、および12%〜20%(w/w))の基本ポリマー、(iii)0.005%〜8%(w/w)(例えば、0.005%〜5%(w/w)、0.005%〜3%(w/w)、0.005%〜2%(w/w)、0.01%〜3%(w/w)、および0.01%〜2%(w/w))の表面修飾高分子、および(iv)3%〜10%(w/w)(例えば、3%〜7%(w/w)、3%〜5%(w/w)、および5%〜10%(w/w))の親水性孔形成剤を含む。特定の実施形態では、非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、およびそれらの混合物より選択される。他の実施形態では、非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、アセトン、およびそれらの混合物より選択される25%(v/v)未満(すなわち、1%〜25%(v/v)、1%〜15%(v/v)、または5%〜20%(v/v))の低沸点溶媒を含む。さらに他の実施形態では、親水性孔形成剤は、ポリビニルピロリドンである。紡糸液を本明細書に記載するように処理して、本発明の中空糸膜を形成することができる。
【0024】
本発明は、(a)本発明の均一な紡糸液を調製するステップ、および(b)チューブインオリフィス型スピナレットの外側輪状オリフィスから均一な紡糸液を水溶液中に押し出して中空糸膜を形成するステップを含む中空糸膜を形成する方法を特徴とする。
【0025】
本発明はまた、(a)管腔、糸端部の第1セット、および糸端部の第2セットを有する中空糸膜の束を形成するステップ、(b)糸端部の第1セットおよび糸端部の第2セットを未硬化収容液中に入れるステップ、(c)この収容液を硬化させて、内部に中空糸膜を収容した収容樹脂を形成するステップ、(d)収容樹脂および糸端部を切断して、糸端部の第1のセットが収容された第1の壁および糸端部の第2セットが収容された第2の壁を形成するステップ、および(e)第1の壁および第2の壁を加熱するステップ(すなわち、加熱して表面修飾高分子が壁の表面に移動するようにする)を含む中空糸膜を収容する方法を特徴とし、収容液は、0.005%〜10%(w/w)(例えば、0.005%〜0.1%(w/w)、0.005%〜5%(w/w)、0.1%〜0.3%(w/w)、0.1%〜5%(w/w)、0.1%〜10%(w/w)、0.05%〜5%(w/w)、0.05%〜8%(w/w)、1%〜5%(w/w)、1%〜8%(w/w)、1%〜10%(w/w)、および2%〜10%(w/w))の表面修飾高分子を含む。
【0026】
本発明は、(i)本発明の中空糸膜、本発明の収容された束、本発明の透析フィルター、および/または本発明の血液チューブ、および(ii)標準用量未満の抗凝固剤を投与される(例えば、抗凝固剤を投与されない)被験体に対して透析を行うための取扱説明書を含む透析キットを特徴とする。
【0027】
本明細書に記載する中空糸膜では、表面修飾高分子は、VII-a、VIII-a、VIII-b、VIII-c、VIII-d, IX-a、X-a、X-b、XI-a、XI-b、XII-a、XII-b、XIII-a、XIII-b、XIII-c、XIII-d、XIV-a、およびXIV-bより選択される。
【0028】
一実施形態では、収容樹脂は、VII-a、VIII-a、IX-a、XI-a、VIII-d、およびXI-bより選択される表面修飾高分子を含む。
【0029】
別の実施形態では、血液チューブは、VII-a、XIV-a、およびXIV-bより選択される表面修飾高分子を含む。
【0030】
体外血液循環回路、中空糸膜(またはその収容された束、またはその血漿浄化膜)、収容材料(例えば、収容樹脂や収容液)、血液チューブ、透析フィルター、紡糸液、方法、システム、およびキットのいずれでも、表面修飾高分子は、以下の式(I)〜(XIV)のいずれかによって表される。
【0031】
(1) FT-(oligo)-FT (I)
[式中、
FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、oligoは、オリゴマーセグメントである]
【0032】
(2)
【化1】
【0033】
[式中、
(i) FTは、LinkBに共有結合したポリフルオロオルガノ基であり、
(ii) Cは、連鎖停止基(chain terminating group)であり、
(iii) Oligoは、オリゴマーセグメントであり、
(iv) LinkBは、カップリングセグメントであり、
(v) aは、0よりも大きい整数である]
【0034】
(3) FT-[B-(oligo)]n-B-FT (III)
[式中、
(i) Bは、ウレタンを含み、
(ii) oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、1〜10の整数である]
【0035】
(4) FT-[B-A]n-B-FT (IV)
[式中、
(i) Aは、水素化ポリブタジエン、ポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)、ポリブタジエン、ポリアジピン酸(ジエチレングリコール)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、ポリ(エチレン-コ-ブチレン)、ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、またはビスフェノールAエトキシレートを含む軟セグメントであり、
(ii) Bは、ウレタンを含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、1〜10の整数である]
【0036】
(5)
【化2】
【0037】
[式中、
(i) Aは、軟セグメントであり、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) 各FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]
【0038】
(6) FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (VII)
[式中、
(i) Oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、またはポリテトラメチレンオキシドを含み、500〜3,000ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(ii) Bは、イソシアネート二量体から形成される硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、1〜10の整数である]
【0039】
(7)
【化3】
【0040】
[式中、
(i) Aは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはそれらの混合物を含み、500〜3,000ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有するオリゴマーセグメントであり、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]
【0041】
(8) FT-[B-(Oligo)]n-B-FT (IX)
[式中、
(i) Oligoは、500〜3,000ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有するポリカーボネートポリオールであり、
(ii) Bは、イソシアネート二量体から形成される硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、1〜10の整数である]
【0042】
(9)
【化4】
【0043】
[式中、
(i) Aは、500〜3,000ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有するポリカーボネートポリオールを含むオリゴマーセグメントであり、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]
【0044】
(10)
【化5】
【0045】
[式中、
(i) Aは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはそれらの混合物より選択される第1ブロックセグメント、およびポリシロキサンまたはポリジメチルシロキサンを含む第2ブロックセグメントを含み、1,000〜5,000ダルトン(例えば、1,000〜3,000ダルトン、2,000〜5,000ダルトン、または2,500〜5,000ダルトン)の理論分子量を有しており、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]
【0046】
(11) FT-[B-A]n-B-FT (XII)
[式中、
(i) Aは、水素化ポリブタジエン(HLBH)ジオール(例えば、HLBHジオール)、ポリブタジエン(LBHP)ジオール(例えば、LBHPジオール)、水素化ポリイソプレン(HHTPI)ジオール(例えば、HHTPIジオール)、およびポリスチレンより選択される軟セグメントであり、750〜3,500ダルトン(例えば、750〜2,000ダルトン、1,000〜2,500ダルトン、または1,000〜3,500ダルトン)の理論分子量を有し、
(ii) Bは、イソシアネート二量体から形成される硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、1〜10の整数である]
【0047】
(12)
【化6】
【0048】
[式中、
(i) Aは、水素化ポリブタジエン(HLBH)ジオール(例えば、HLBHジオール)、ポリブタジエン(LBHP)ジオール(例えば、LBHPジオール)、水素化ポリイソプレン(HHTPI)ジオール(例えば、HHTPIジオール)、およびポリスチレンより選択される軟セグメントであり、750〜3,500ダルトン(例えば、750〜2,000ダルトン、1,000〜2,500ダルトン、または1,000〜3,500ダルトン)の理論分子量を有し、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]
【0049】
(13)
【化7】
【0050】
[式中、
(i) Aは、500〜3,500ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有するポリエステルであり、
(ii) Bは、イソシアヌレート三量体またはビウレット三量体を含む硬セグメントであり、
(iii) FTは、ポリフルオロオルガノ基であり、
(iv) nは、0〜10の整数である]。
【0051】
特定の実施形態では、式(I)および(II)の表面修飾高分子は、20未満の繰り返し単位(例えば、2〜15単位、2〜10単位、3〜15単位、および3〜10単位)の分岐鎖または非分岐鎖オリゴマーセグメントであるオリゴセグメントを含む。別の実施形態では、式(I)および(II)の表面修飾高分子は、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコーン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル誘導体、ポリペプチド、多糖、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン-ブチレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、またはポリエチレンブチレンセグメントより選択されるオリゴマーセグメントを含む。
【0052】
特定の実施形態では、式(IV)の表面修飾高分子は、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート)、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート、およびヘキサメチレンジイソシアネートより形成される硬セグメントを含み、nは1または2である。
【0053】
特定の実施形態では、式(V)および(VI)の表面修飾高分子は、500〜3,500ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量を有する軟セグメントを含み、かつ/またはこの軟セグメントは、水素化ポリブタジエン(HLBH)、ポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)(PCN)、ポリブタジエン(LBHP)、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、(プロピレン)オキシド(PPO)、ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル(PDP)、水素化ポリイソプレン(HHTPI)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、ポリ(2-ブチル-2-エチル-1,3-プロピルカーボネート)、またはヒドロキシル末端ポリジメチルシロキサン(C22)を含む。式(V)および(VI)の表面修飾高分子の他の実施形態では、硬セグメントは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、またはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートを、軟セグメントを含むジオールと反応させることにより形成される。
【0054】
式(VII)の表面修飾高分子の一部の実施形態では、Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート)、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート、およびヘキサメチレンジイソシアネートより形成される硬セグメントであり、nは1〜3の整数である。特定の一実施形態では、式(VII)の表面修飾高分子は、VII-aである。式(VII)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(VII)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0055】
式(VIII)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオール(例えば、オリゴマーセグメント)と反応させることにより形成される硬セグメントであり、nは、0、1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(VIII)の表面修飾高分子は、VIII-a、VIII-b、VIII-c、またはVIII-dである。式(VIII)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(VIII)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0056】
式(IX)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Oligoは、ポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)(PCN)ポリオール(例えば、PCNジオール)、Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート)、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート、およびヘキサメチレンジイソシアネートより形成される硬セグメントであり、nは1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(IX)の表面修飾高分子は、IX-aである。式(IX)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(IX)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0057】
式(X)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Aは、ポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)(PCN)ポリオール(例えば、PCNジオール)またはポリ(ヘキサメチレンカーボネート)(PHCN)ポリオールを含み、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオール(例えば、オリゴマーセグメント)と反応させることにより形成される硬セグメントであり、nは0、1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(X)の表面修飾高分子は、X-aまたはX-bである。式(X)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(X)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0058】
式(XI)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Aは、ポリプロピレンオキシドおよびポリジメチルシロキサンを含み、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオールと反応させることにより形成される硬セグメントであり、nは0、1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(XI)の表面修飾高分子は、XI-aまたはXI-bである。式(XI)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(XI)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0059】
式(XII)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Aは、水素化ポリブタジエンジオールを含み、Bは、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート)、m-テトラメチルキシレンジイソシアネート、およびヘキサメチレンジイソシアネートより形成される硬セグメントであり、nは1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(XII)の表面修飾高分子は、XII-aまたはXII-bである。式(XII)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(XII)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0060】
式(XIII)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Aは、水素化ポリブタジエン(HLBH)ジオール(例えば、HLBHジオール)および水素化ポリイソプレン(HHTPI)ジオール(例えば、HHTPIジオール)より選択され、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオール(例えば、オリゴマーセグメント)と反応させることにより形成される硬セグメントであり、nは、0、1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(XIII)の表面修飾高分子は、XIII-a、XIII-b、XIII-c、またはXIII-dである。式(XIII)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(XIII)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0061】
式(XIV)の表面修飾高分子の特定の実施形態では、Aは、ポリアジピン酸(ジエチレングリコール)、ネオペンチルグリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、ジエチレングリコール-オルトフタル酸無水物ポリエステル、および1,6-ヘキサンジオール-オルトフタル酸無水物ポリエステルより選択され、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、およびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体より選択されるトリイソシアネートをAのジオール(例えば、ポリエステルグメント)と反応させることにより形成される硬セグメントであり、nは、0、1、2、または3である。特定の一実施形態では、式(XIV)の表面修飾高分子は、XIV-aまたはXIV-bである。式(XIV)の表面修飾高分子は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素、例えば、中空糸膜、収容された束、血液チューブ、もしくは透析フィルターに、本明細書に記載する本発明のいずれかの方法、システム、およびキットと共に用いることができる。例えば、式(XIV)の表面修飾高分子は、ポリ塩化ビニルに添加して抗血栓形成性の血液チューブを形成することができ、収容材料に添加して抗血栓形成性の収容された束を形成することができ、かつ/または中空糸膜の基本ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、二酢酸または三酢酸セルロース、ポリイミド、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、またはポリエチレン)に添加して、血液に接触した際に抗血栓形成性である中空糸膜を形成することができる。
【0062】
イソシアネート二量体から形成される本発明のいずれの表面修飾高分子でも、イソシアネート二量体は、3-イソシアネートメチル、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(HMDI)、2,2'-、2,4'-、および4,4'-メチレンビス(フェニル)イソシアネート(MDI)、トルエン-2,4ジイソシアネート、1,2-、1,3-、および1,4-キシレンジイソシアネートなどの芳香族脂肪族イソシアネート、メタ-テトラメチルキシレンジイソシアネート(m-TMXDI)、パラ-テトラメチルキシレンジイソシアネート(p-TMXDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、エチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカン-1,12-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、メチル-シクロヘキシレンジイソシアネート(HTDI)、2,4-メチルシクロヘキサンジイソシアネート、2,6-メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルジイソシアネート、2,4'-ジシクロヘキシルジイソシアネート、1,3,5-シクロヘキサントリイソシアネート、イソシアネートメチルシクロヘキサンイソシアネート、1-イソシアネート-3,3-5-トリメチル-5-イソシアネートメチルシクロヘキサン、イソシアネートエチルシクロヘキサンイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4'-ビス(イソシアネートメチル)ジシクロヘキサン、2,4'-ビス(イソシアネートメチル)ジシクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4-ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、2,6-ヘキサヒドロトルエンジイソシアネート、3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニレンジイソシアネ
ート(TODI)、ポリマーMDI、カルボジイミド修飾液状4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(carbodiimide-modified liquid 4,4'-diphenylmethane diisocyanate)、パラ-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、メタ-フェニレンジイソシアネート(MPDI)、トリフェニルメタン-4,4'-、およびトリフェニルメタン-4,4''-トリイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、2,4'-、4,4'-、および2,2-ビフェニルジイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート(PMDI)、MDIとPMDIの混合物、PMDIとTDIの混合物、本明細書に記載するいずれかのイソシアネートの二量体化ウレジオン(dimerized uredione)、例えば、トルエンジイソシアネートのウレジオン、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレジオン、およびそれらの混合物、ならびにそれらの置換された混合物および異性体の混合物より選択することができる。
【0063】
イソシアネート三量体より形成される本発明のいずれの表面修飾高分子でも、イソシアネート三量体は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)ビウレット三量体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)三量体、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)三量体、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジイソシアネート(TMDI)のトリイソシアネート、本明細書に記載するいずれかのイソシアネートの三量体化イソシアヌレート、例えば、トルエンジイソシアネートのイソシアヌレート、ジフェニルメタンジイソシアネートの三量体、テトラメチルキシレンジイソシアネートの三量体、およびそれらの混合物、本明細書に記載するいずれかのイソシアネートの三量体化ビウレット、上記ジイソシアネートに由来する修飾イソシアネート(modified isocyanates)、ならびにそれらの置換された混合物および異性体の混合物より選択することができる。
【0064】
式(I)〜(XIV)のいずれにおいても、上記表面修飾高分子は、100〜1,500ダルトンの理論分子量を有するポリフルオロアルキルである基FTを含む。例えば、FTは、一般式CF3(CF2)rCH2CH2[式中、rは2〜20である]およびCF3(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、χは1〜10であり、sは1〜20である]の基からなる群より選択することができる。あるいは、FTは、一般式CHmF(3-m)(CF2)rCH2CH2-およびCHmF(3-m)(CF2)s(CH2CH2O)χ[式中、mは0、1、2、または3であり、χは1〜10の整数であり、rは2〜20の整数であり、sは1〜20の整数である]の基からなる群より選択することができる。特定の実施形態では、FTは、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-1-デカノール、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロ-1-オクタノール、1H,1H,5H-ペルフルオロ-1-ペンタノール、および1H,1H,ペルフルオロ-1-ブタノール、およびそれらの混合物より選択される。さらに他の実施形態では、FTは、(CF3)(CF2)5CH2CH2O-、(CF3)(CF2)7CH2CH2O-、(CF3)(CF2)5CH2CH2O-、CHF2(CF2)3CH2O-、および(CF3)(CF2)2CH2O-より選択される。
【0065】
別の実施形態では、上記表面修飾高分子は、10,000ダルトン未満(例えば、500〜10,000ダルトン、500〜9,000ダルトン、500〜5,000ダルトン、1,000〜10,000ダルトン、1,000〜6,000ダルトン、または1,500〜8,000ダルトン)の理論分子量を有する。
【0066】
さらに別の実施形態では、上記表面修飾高分子は、5%〜40%(w/w)(例えば、5%〜35%(w/w)、5%〜30%(w/w)、および10%〜40%(w/w))の硬セグメント、20%〜90%(w/w)(例えば、20%〜80%(w/w)、30%〜90%(w/w)、および40%〜90%(w/w))の軟セグメント、および5%〜50%(w/w)(例えば、5%〜40%(w/w)、5%〜30%(w/w)、および10%〜40%(w/w))のポリフルオロオルガノ基を含む。
【0067】
一実施形態では、上記表面修飾高分子は、0.15〜2.0(例えば、0.15〜1.8、0.15〜1.5、または0.2〜2.0)の硬セグメントの軟セグメントに対する比を有する。
【0068】
本明細書で使用する用語「抗血栓形成性」は、同じ血液接触条件下で試験された、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる、他は同一の体外血液循環回路またはその構成要素(例えば、中空糸膜、血液チューブ、透析フィルター、および/または中空糸膜の収容された束)と比較して、全血に曝露された際に血栓形成が起きる率が低下した体外血液循環回路またはその構成要素を指す。血栓形成率の低下は、本明細書に記載するいずれかのアッセイおよび方法によって決定することができる。例えば、抗血栓形成性は、血液成分を放射標識し、例えば、表面で起こる血栓形成の量を評価するガンマカウント(γ-count)を用いて血栓形成を測定することにより決定することができる。本発明の体外血液循環回路またはその構成要素の場合、ガンマカウントに基づいた血栓形成の平均の低下は、表面修飾高分子を含まない参照中空糸膜のガンマカウントによって決定される平均の血栓形成の70%、60%、50%、40%、30%、20%、または10%とすることができる。あるいは、フィルターまたは中空糸膜における抗血栓形成性は、作動圧の低下(例えば、表面修飾高分子を含まない参照フィルターまたは中空糸膜のヘッダーにおける平均圧力と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、または60%低下している中空糸膜のヘッダーにおける作動圧の平均の低下)によって決定することができる。
【0069】
「基本ポリマー」は、50,000ダルトンを超える(例えば、50,000、75,000、100,000、150,000、200,000ダルトンを超える)理論分子量を有するポリマーを意味する。
【0070】
本明細書で使用する「C」は、連鎖停止基を指す。例示的な連鎖停止基には、アミン、アルコール、またはカルボン酸官能基を含む単官能基を含む。
【0071】
「透析フィルター」は、腎機能障害の患者に使用することができる透析装置での使用のために構成されているフィルターを意味する。
【0072】
「硬セグメント」は、表面修飾高分子の一部分またはオリゴセグメントの一部分を意味し、この一部分は、ウレタン基-NH-C(O)O-(例えば、イソシアネートを、軟セグメントジオールのヒドロキシル基またはポリフルオロオルガノ基のヒドロキシル基と反応させることにより形成されるウレタン基)を含む。
【0073】
本明細書で使用する用語「増加した機能的平均可使時間」は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なるが他は同じ条件下で使用した体外血液循環回路またはその構成要素の平均可使時間と比較した、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素の機能的可使時間の平均の増加を指し、この可使時間は、体外血液循環回路またはその構成要素から血栓沈着を洗い流さずに体外血液循環回路またはその構成要素を使用できる時間によって決定される(例えば、生理食塩水での洗浄または抗凝固剤での洗浄なしの可使時間)。本発明の体外血液循環回路またはその構成要素の増加した機能的平均可使時間は、表面修飾高分子を含まない体外血液循環回路またはその構成要素の可使時間よりも少なくとも110%、125%、150%、200%、250%、300%、または400%長くすることができる。
【0074】
「標準用量未満の抗凝固剤」は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる透析フィルターに使用する量と比較した、本発明の透析フィルターを使用する際に血液透析中に被験体に投与される抗凝固剤の減少を意味する。標準用量は、一般的には、体外血液循環回路またはその構成要素の使用などのために臨床現場での標準的な手術手順に対して各施設によって認定される。抗凝固剤の標準用量は、施設の標準的な手術手順を参考にして決定される用量または用量範囲を指し、用量の減少は、標準用量と比較して決定される。抗凝固剤の用量の減少は、抗凝固剤(例えば、ヘパリンやクエン酸塩)の標準用量の80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、または10%とすることができる。
【0075】
本明細書で使用する「LinkB」は、2つのオリゴ部分と表面活性基を共有結合させることができるカップリングセグメントを指す。典型的には、LinkB分子は、40〜700の分子量を有する。好ましくは、LinkB分子は、官能化ジアミン、ジイソシアネート、ジスルホン酸、ジカルボン酸、二酸塩化物、およびジアルデヒドより選択され、官能化成分は、表面活性基の化学的付着のためにアクセスされる二次官能化学基(secondary functional chemistry)を有する。このような二次基(secondary group)には、例えば、エステル、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、チオール、ビニル、および第2級アミンが含まれる。オリゴ中間体における末端ヒドロキシル基、アミン、またはカルボン酸は、二量体と反応してオリゴ-アミドを形成し、ジイソシアネートと反応してオリゴ-ウレタン、オリゴ-尿素、オリゴ-アミドを形成し、ジスルホン酸と反応してオリゴ-スルホン酸塩、オリゴ-スルホンアミドを形成し、ジカルボン酸と反応してオリゴ-エステル、オリゴ-アミドを形成し、二酸塩化物と反応してオリゴ-エステル、オリゴ-アミドを形成し、ジアルデヒドと反応してオリゴ-アセタール、オリゴ-イミンを形成する。
【0076】
「オリゴ」は、一般的には、約50未満の単量体単位で、理論分子量が10,000ダルトン未満であるが、好ましくは7,000ダルトン未満であり、一部の例では5,000ダルトン未満である、比較的短い長さの1つまたは複数の繰り返し単位を意味する。特定の実施形態では、オリゴは、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリラクトン、ポリシリコーン、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリペプチド、多糖、ならびにそれらのセグメントに結合したエーテルおよびアミンよりなる群から選択される。
【0077】
「ポリエーテルスルホン」は、以下の式のポリマーを意味する:
【化8】
【0078】
このポリマーは、商標名Radel(商標)としてアモコ社(Amoco Corp)が販売している。
【0079】
「ポリマー構成要素」は、体外血液循環回路内のあらゆる構成要素を意味し、ポリマー構成要素は、本明細書に記載する基本ポリマーを含む。例えば、ポリマー構成要素は、中空糸膜、中空糸膜の収容された束、透析フィルター、酸素化装置、および血液チューブを含む。
【0080】
「ポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)」は、以下の式のポリマーを意味する:
【化9】
【0081】
このポリマーは、ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ(Solvay Advanced Polymers)が商標名Udel(商標)P-350として販売している。本発明の中空糸膜に使用する場合、このポリマーの特定のサイズ(すなわち、30〜90kDa、45〜80kDa、または60〜80kDa)が好ましいであろう。
【0082】
本明細書で使用する用語「ポリスルホン」は、繰り返しサブユニットとして部分-アリール-SO2-アリール-を含むポリマーのクラスを指す。ポリスルホンには、限定されるものではないが、ポリエーテルスルホンおよびポリ(オキシ-1,4-フェニレンスルホニル-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンイソプロピリデン-1,4-フェニレン)が含まれる。
【0083】
「延長された可使時間」は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる同じ条件で使用された透析フィルターと比較して、透析処置中にフィルターが目詰まりする(例えば、次に生理食塩水を流してフィルターの目詰まりをとる必要がある)率が低下した透析フィルターを意味する。透析フィルターの延長された可使時間は、表面修飾高分子を含まない参照透析フィルターの可使時間よりも少なくとも110%、125%、150%、200%、250%、300%、または400%とすることができる。
【0084】
本明細書で使用する用語「減少した血栓沈着」は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる同じ条件下で使用した体外血液循環回路で観察される平均ガンマカウントと比較した、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素の所定時間(例えば、60分、90分、120分、360、または720分)使用後のガンマカウントの平均の減少を指す。ガンマカウントは、表面修飾高分子を体外血液循環回路に組み込んで膜とこの膜を通過する血液の流れとの間に抗血栓形成性界面を提供することにより得られ、ガンマカウントは、この回路のいずれかの処理された表面で、血液中に含まれる抗凝固剤の量が、表面修飾高分子の非存在下で血栓の形成を防止するのに不十分である条件下で測定される。ガンマカウントは、本明細書に記載するいずれかのアッセイおよび方法によって決定することができる。例えば、ガンマカウントは、放射標識血小板(または他の血液成分、例えば、赤血球など)を含む血液または血漿を体外血液循環回路に流して、体外血液循環回路内の放射標識からの放射線を測定することによって決定することができる。これらのアッセイおよび方法を数回行って、平均ガンマカウントまたはガンマカウントの平均の減少を得ることができる。本発明の体外血液循環回路またはその構成要素の血栓沈着は、表面修飾高分子を含まない体外血液循環回路またはその構成要素の平均血栓沈着と比較して、平均で10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%減少させることができる。
【0085】
「作動圧の低下」は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる同じ条件下で使用した中空糸膜フィルターで観察された平均圧力と比較して、本発明の中空糸膜またはそのフィルターもしくは収容された束の一定時間(例えば、2時間、4時間、8時間、12時間、または16時間)の使用の後の作動圧の平均の低下を意味する。作動圧の低下は、表面修飾高分子を中空糸膜の中に組み込んでこの膜とこの膜を通過する血液の流れとの間に抗血栓形成性の界面を提供することにより得られ、作動圧は、膜のヘッダーで測定される。配列の端部に収容樹脂を有する中空糸膜の配列の場合、作動圧の低下は、表面修飾高分子を使用して膜および/または収容樹脂と収容された束を通過する血液の流れとの間に抗血栓形成性の界面を提供することによって得ることができる。作動圧は、本明細書に記載するいずれかのアッセイおよび方法によって決定することができる。例えば、作動圧は、中空糸膜に血液を流して、一定時間に渡って中空糸膜内の圧力の変化を測定することによって決定することができる。これらのアッセイおよび方法を数回行って、平均作動圧または作動圧の平均の低下を得ることができる。本発明の中空糸膜(またはそのフィルターもしくは収容された束)の作動圧の低下は、表面修飾高分子を含まない参照中空糸膜、フィルター、または収容された束で観察された平均圧力と比較して、2時間、4時間、8時間、12時間、または16時間の使用後に10%、20%、30、40%、50%、60%、70%、または80%未満にすることができる。
【0086】
本明細書で使用する用語「有害事象を減少させる」および「被験体に起こる有害事象」は、本発明の体外血液循環回路またはその構成要素に接続された被検体が受ける有害事象の数または程度を指し、このような有害事象は、表面修飾高分子が存在しない点のみが異なる同じ条件下で使用される体外血液循環回路または構成要素と比較して、使用中または一定期間の使用後に減少または軽減する。有害事象の数または程度は、動物モデルの使用を含むいずれかの有用な方法によって決定することができる(Livigniら、Critical Care 10:R151(2006);Walkerら、Artificial Organs 8:329-333(1984);Cheung、Blood Purification 5:155-161(1987);Kamlerら、Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 49:157-161(2001);およびKamlerら、European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 11:973-980(1997)を参照)。有害事象には、出血(例えば、活性凝固時間によって測定)、溶血、血球数の減少、重度の血行動態不安定性、塞栓症、血栓塞栓症、血栓関連事象、および赤血球産生刺激剤(例えば、エリスロポエチンおよび/または鉄静注)を被験体に投与する必要があるいずれかの他の事象が含まれる。1つまたは複数の有害事象の存在は、血栓の存在または凝固カスケードにおける血液の補体の活性化を示し得る。
【0087】
「軟セグメント」は、表面修飾高分子の一部分またはオリゴセグメントの一部分を意味し、この一部分には、エーテル基、エステル基(例えば、ポリエステル)、アルキル基、炭酸塩基、シロキサン基、またはそれらの混合物が含まれる。例えば、軟セグメントは、500〜3,000ダルトン(例えば、500〜2,000ダルトン、1,000〜2,000ダルトン、または1,000〜3,000ダルトン)の理論分子量または平均分子量を有することができる。
【0088】
本明細書で使用する「表面修飾高分子」は、ポリフルオロオルガノ基を含む高分子を指し、式(I)〜(XIV)によって本明細書で表され、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,127,507号、米国特許出願公開第20080228253号、および2008年8月28に出願された米国仮特許出願第61/092,667号に記載されている。表面修飾高分子は、米国特許第6,127,507号、米国特許出願公開第20080228253号、および2009年8月28に出願された国際公開第2010/025398号パンフレットに記載されているように調製することができる。簡単に述べると、XI-aおよびX-aなどの表面修飾高分子は、触媒の存在下、25℃で2時間、有機溶媒(例えば、無水THFまたはDMAC)に溶解したフルオロアルキルアルコールを用いて滴下反応させたポリイソシアネート(例えば、Desmodur N3200またはDesmodur Z4470)から合成することができる。フッ化アルコールを添加した後、50℃で1時間撹拌を続け、さらに70℃で1時間撹拌する。これらのステップにより、部分的にフッ素化した中間体が形成され、次いでこの中間体を、70℃で14時間、ポリオール軟セグメント(例えば、ポリジメチルシロキサンジオールまたはポリ(2,2ジメチル-1-3-プロピルカーボネート)ジオール)に結合させて、表面修飾高分子を得る。反応は、水分に敏感であるため、典型的には、不活性N2雰囲気下および無水条件下で行う。反応生成物は、1%MeOH/水混合物中で沈降させ、次いで水で数回洗浄し、使用する前に表面修飾高分子を乾燥させる。表面修飾高分子の軟セグメントは、混合されると基本ポリマー基質内で表面修飾高分子のアンカーとして機能することができる。表面活性基は、表面修飾高分子の混合物表面への輸送に部分的に関与し、表面活性基が表面に露出される。表面修飾高分子の表面への移動は、動的プロセスであり、表面環境に依存する。移動のプロセスは、混合物の表面で低い表面エネルギーを確立しようとする性質によってもたらされる。固定と表面への移動との間のバランスが達成されると、表面修飾高分子は、ポリマーの表面での安定にとどまると同時に表面特性を変更する。
【0089】
本発明は、血小板付着の低減、閉塞の軽減、ヘパリンおよび/または他の抗凝固剤の必要性の低減、透析などの特定の医療処置に関連したコストの削減、血液循環回路の可使時間の延長、患者の安全の向上、および廃棄物の削減に有用となり得る血液循環回路を特徴とする。
【0090】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面、発明を実施するための形態、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】例示的な体外血液循環回路の略図である。
図2】本発明の表面修飾高分子VII-aを示す図である。
図3】本発明の表面修飾高分子VIII-aを示す図である。
図4】本発明の表面修飾高分子VIII-bを示す図である。
図5】本発明の表面修飾高分子VIII-cを示す図である。
図6】本発明の表面修飾高分子VIII-dを示す図である。
図7】本発明の表面修飾高分子IX-aを示す図である。
図8】本発明の表面修飾高分子X-aを示す図である。
図9】本発明の表面修飾高分子X-bを示す図である。
図10】本発明の表面修飾高分子XI-aを示す図である。
図11】本発明の表面修飾高分子XI-bを示す図である。
図12】本発明の表面修飾高分子XII-aを示す図である。
図13】本発明の表面修飾高分子XII-bを示す図である。
図14】本発明の表面修飾高分子XIII-aを示す図である。
図15】本発明の表面修飾高分子XIII-bを示す図である。
図16】本発明の表面修飾高分子XIII-cを示す図である。
図17】本発明の表面修飾高分子XIII-dを示す図である。
図18】本発明の表面修飾高分子XIV-aを示す図である。
図19】本発明の表面修飾高分子XIV-bを示す図である。
図20図20Aおよび図20Bは、例示的な中空糸および例示的な糸の束を示す図である。図20Aは、中空糸の外面、内面、および太さを示している1本の中空糸の走査電子顕微鏡写真である。図20Bは、収容領域(透析カートリッジの内腔内の太い点線を含む、透析カートリッジの内腔内の「収容された領域 未処理」が付された矢印によって示されている領域と、Xが記された領域)が露出された、透析カートリッジのヘッダー部分に配置された中空糸の束の例示である。
図21】in vitroでの血液ループ解析(blood loop analysis)およびガンマプローブの読み取りのための例示的な構成の写真を示す図である。
図22】血液ループ手順後の血液フィルターの写真を示す図である。
図23】対照とVII-aおよびXI-a(n=6)に対する平均ヘッダー圧(ΔPr)およびガンマカウントプロフィールのグラフを示す図である。
図24図24Aおよび図24Bは、本明細書に記載する実施例5の実験4から得た血液フィルターの写真を示す図である。図24Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図24Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。
図25図25A図25Cは、著明な凝固を示す、本明細書に記載する実施例5の実験4から得た写真を示す図である。図25Aは、対照の血液フィルター(表面修飾なし)の入口で形成された血栓を示している。図25Bは、対照の血液フィルター(表面修飾なし)の出口で形成された血栓を示している。図25Cは、血液を抜いた後のふるい上の残渣を示している。
図26図26A図26Dは、本明細書に記載する実施例5の実験5から得た血液フィルターの写真を示す図である。図26Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図26Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。対照の血液フィルターは、完全な閉塞を示しており、対照の入口(図26C)および出口(図26D)の拡大図が示されている。
図27】本明細書に記載する実施例5の実験1〜6からの血液フィルターの入口の写真を示す図である。写真は、対照(C、上の列)、VII-a(中央の列)、およびXI-a(下の列)を示している。
図28図28Aおよび図28Bは、本明細書に記載する実施例5の実験1から得た血液フィルターの写真を示す図である。図28Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図28Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。
図29図29Aおよび図29Bは、本明細書に記載する実施例5の実験2から得た血液フィルターの写真を示す図である。図29Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図29Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。
図30図30Aおよび図30Bは、本明細書に記載する実施例5の実験3から得た血液フィルターの写真を示す図である。図30Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図30Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。
図31図31Aおよび図31Bは、本明細書に記載する実施例5の実験6から得た血液フィルターの写真を示す図である。図31Aは、血液フィルターの入口で形成された血栓を示している。図31Bは、血液フィルターの出口で形成された血栓を示している。
【発明を実施するための形態】
【0092】
本発明の方法および組成物は、0.005%〜10%(w/w)の表面修飾高分子と混合した合成基本ポリマーを含む抗血栓形成性の体外血液循環回路およびその構成要素(中空糸膜、収容材料、および血液チューブなど)を特徴とする。本発明の体外血液循環回路の構成要素は、腎不全、体液過剰、毒血症状態、心不全、または心障害(cardiac distress)の患者の治療のための、血液透析、血液ろ過、血液濃縮、血液透析ろ過、および酸素化などの治療に用いることができる。体外血液循環回路の構成要素は、タンパク質の分離、血漿のろ過、および血液の分離に用いることもできる。
【0093】
特定の表面修飾高分子(SMM)と特定の基本ポリマーとの組合せの選択は、本明細書に記載する方法およびプロトコールによって決定することができる。第1に、基本ポリマーに添加するSMMの種類および量は、混合物が単一安定相を形成するか否かによって部分的に決定され、このSMMは、基本ポリマーに溶解する(例えば、混合物の分離で2つ以上の異なる相が形成されることは、不安定な溶液を示唆するであろう)。次いで、混合物の相溶性を、様々な公知の分析法によって試験することができる。薄膜または糸としての混合物の表面は、元素分析(EA)と共にX線光電子分光法(XPS)などのいずれかの有用な分光法によって分析することができる。XPSによるデータは、移動するSMMによる表面の修飾の程度を示すことができ、EAによるデータは、バルク材料の修飾の程度を示すことができる。次いで、様々な条件下で、安定な混合物を試験して表面の血栓形成性を決定することができる。
【0094】
体外血液循環回路
本発明は、体外血液循環回路のいずれかの部品(例えば、血液チューブ、中空糸膜、収容された表面、または内部に血液チューブを取り付けるフィルターの端部)と接触する血液成分の活性化を、体外血液循環回路の1つまたは複数の部品に表面修飾高分子を含めることにより低減するための組成物および方法を特徴とする。血液透析装置は、透析液および患者の血液を透析器に送り込む。血液および透析液は、半透過性中空糸膜によって互いに分離され、血液は、血液透析装置の体外血液循環回路を通過し、透析液は、血液透析装置の透析液回路を通過する。透析装置の体外血液循環回路のいずれか1つまたは複数の血液接触表面を、本明細書に記載する表面修飾高分子で処理して抗血栓形成性表面を形成することができる。本発明の医用分離装置は、中空糸型の人工腎臓、または血液フィルター、血液酸素化装置、もしくは体から不純物を分離する他の分離装置などの関連装置とすることができる。
【0095】
この装置は、透析液室、およびこの透析液室の各端部に取り付けられた一対の離隔した滴下室を含む。各滴下室は、血液透析を受けている被験体に対して最終的に出入りする血液チューブに通じたポートで終端している。透析液室は、従来の入口および出口透析液ポートを備え、軸方向に延びた中空半透過性糸の束を取り囲んでいる。
【0096】
糸の束は、セルロース(米国特許第3,546,209号で教示されているように酢酸セルロースを脱アセチル化することにより形成される)、酢酸セルロース、セルロースエステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、または当技術分野で公知のいずれかの他の中空糸膜から形成できる数千(例えば、3,000〜30,000)の個々の糸を含む。典型的には、糸は、細く、典型的には内径が約150μm〜約300μmの範囲、壁厚が約20μm〜約50μmの範囲の毛管サイズである。
【0097】
図1を参照すると、典型的な体外血液循環回路100は、内部を血液が流れるチューブ、および血液に対してろ過および透析を行うための構成要素を含む。
【0098】
血液は、患者105から動脈チューブ110に流れる。血液は滴下室115内に落ち、滴下室115の連結チューブは、体外血液循環回路の動脈側の血液の圧力を決定する血液透析装置のセンサ125に取り付けられている。ポンプ120が、体外血液循環回路を通る経路に沿って血液を連続的に送り出す。透析器130は、血液から老廃物を分離する。
【0099】
透析器130を通過すると、血液は、静脈チューブ140を通って第2の滴下室150に流れる。滴下室150は、空気トラップとして機能することができる。血液中の遊離気体を、患者に血液が戻される前に滴下室150内に逃がすことができる。センサ170は、チューブ165によって滴下室の空気に連通している。センサ170は、体外血液循環回路の静脈側の圧力を決定することができる。
【0100】
ヘパリン160を、滴下室115内の血液に添加することができる。血液は、酸素に曝露されると、凝固し始める。滴下室150は、いかなる血餅も滴下室150を出て患者105に入るのを防止するためにフィルターを含むことができる。血液は、滴下室から、静脈チューブ180および泡検出器175を通ってから患者105に戻される。
【0101】
体外血液循環回路の血液に接触するどの構成要素も、本明細書に記載する表面修飾高分子で修飾して、抗血栓形成性表面を提供することができる。体外血液循環回路は、上で説明したように血液透析に有用であり得、血液濃縮、酸素化、タンパク質の分離、血漿のろ過、および血液の分離を伴う他の治療にも利用することができる。
【0102】
表面修飾高分子
VII-aおよびXI-bの説明図を図2図19に示す。すべてのSMMに対して、軟セグメントの数をいずれかの整数または非整数として、ほぼ理論分子量の軟セグメントを得ることができる。式(XII)および(XIII)の化合物に対して、水素化アルキル部分の数をいずれかの整数または非整数として、ほぼ理論分子量の軟セグメントを得ることができる。XII-a、XII-b、XIII-a、XIII-b、およびXIII-cの例は、SMMを含み、x=0.225、y=0.65、およびz=0.125である。
【0103】
表1は、SMMの硬セグメント、軟セグメント、およびフッ素化末端基(F末端基)の配分を示している。表1はまた、0.16〜1.49の範囲の硬セグメントの軟セグメントに対する比も示している。
【表1】
【0104】
中空糸膜
例えば、ポリスルホン、芳香族ポリイミド、およびアミドなどの疎水性ポリマーは、中空糸紡績のポリマー材料として一般的な選択である。本明細書に記載するいずれの基本ポリマーも、中空糸紡績用の疎水性ポリマーとして用いることができる。血液透析用に、中空糸膜は、生体適合性から選択された天然セルロース、セルロース誘導体(例えば、二酢酸セルロース、または三酢酸セルロース)、または合成ポリマー(例えば、特に、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、またはポリアミド)から形成される場合が多い。しかし、これらの材料はいずれも、抗凝固剤への依存を軽減するために必要な望ましい抗血栓形成性を提供することが証明されていない。
【0105】
特に、ポリスルホン(PS)は、その優れた紡糸特性および生体適合性により中空糸膜で広く使用されている合成疎水性ポリマーである。しかし、純粋な疎水性PSは、水性環境で膜の湿潤特性を減少させ、毒素の除去に必須の湿潤特性に影響を与えるため、例えば、透析膜などの一部の用途には直接使用できない。この問題に対処するために、典型的には、ポリビニルピロリドン(PVP)が、孔形成親水性ポリマーとしてPSに添加され、PVPのほとんどが、中空糸紡績プロセスの最中に溶解して消失し、PSを、親水性を変更して半透過性膜として適するようにする。一部のPVPが中空糸に残るが、その量は、透析の間に目詰まりを起こしてヘパリン抗凝固剤または閉塞を除去するための透析器の生理食塩水での洗浄を必要とするので不十分である。
【0106】
本発明の方法および組成物は、中空糸膜中に表面修飾高分子を含めることによってこれらの問題に対処する。表面修飾高分子は、中空糸膜の表面(紡糸プロセス中の内腔と外面の両方)に移動して中空糸の上から10μmに存在する。
【0107】
中空糸膜の製造
例えば、腎透析などの本発明の方法に使用するように構成された多孔性中空糸膜は、アルブミンなどの有用な物質を維持したまま、低分子量の尿毒物質を除去できるはずである。このような多孔性中空糸膜は、その孔径を正確に制御するように構成されたプロセスを用いて生産される。中空糸膜の孔径は、数ある因子の中で特に、紡糸液の組成、芯液(core solution)の組成、ドラフト比、膜凝固用の液体の組成、温度、湿度に依存し得る。芯液の組成は、膜構成ポリマーに関連した溶媒と非溶媒の組合せおよび混合比が、凝固率、したがって中空糸膜の内面の形態を決定するため、重要な因子である。
【0108】
(i)チューブインチューブ型オリフィスを用い、紡糸液を外側チューブから(すなわち、内側チューブと外側チューブとの間に規定された環状空間から)押し出し、芯液を内側チューブから排出するプロセス、(ii)紡糸液を空気中に押し出し、繊維が重力で落下し、凝固のために繊維を凝固槽に通過させ、繊維を洗浄し乾燥させるプロセス(乾式-湿式紡績)、(iii)上層の非凝固液および下層の凝固液を含む槽を用いて、紡糸液を非凝固液内に直接押し出し、凝固液内に繊維を通過させるプロセス、(iv)上層の凝固液および下層の非凝固液を含む槽を用いて、紡糸液を非凝固液内に直接押し出し、凝固液内に繊維を通過させるプロセス、(v)紡糸液を非凝固液内に直接押し出し、繊維を、凝固液と非凝固液との間の境界に沿って通過させるプロセス、および(vi)非凝固液を取り囲んでいるオリフィスから紡糸液を押し出し、繊維を凝固液内に通過させるプロセスをはじめとする、中空糸膜の生産に用いられる様々なプロセス(例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,001,288号、同第5,232,601号、同第4,906,375号、および同第4,874,522号を参照)が当技術分野で公知である。
【0109】
このようなプロセスでは、中空糸膜の孔径は、押し出される紡糸液の凝固の速度および範囲を、紡糸液の凝固を促進する凝固液(紡糸液の非溶媒)および紡糸液の凝固を妨げる非凝固液(紡糸液の溶媒)を別個にまたは混合物として用いて調節することにより制御される。
【0110】
本発明の組成物および方法における使用では、典型的な紡糸液は、基本ポリマー(例えば、ポリスルホン)、親水性孔形成剤(例えば、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、アルコール、ポリプロピレングリコール、またはポリエチレングリコール)、ポリマーの溶媒(すなわち、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、またはそれらの混合物)、および表面修飾高分子を含むであろう。
【0111】
本発明の中空糸膜は、例えば、紡績機のチューブインチューブ型オリフィスから紡糸液を凝固液内に押し出して中空糸膜を形成することによって生産することができる。ポリマー含有紡糸液を外側チューブから(すなわち、内側チューブと外側チューブとの間に規定された環状空間から)押し出して、内腔を有する円筒状繊維を形成し、紡糸液の凝固用の芯液をオリフィスの内側チューブから繊維の内腔内に押し出す。このプロセスでは、繊維を凝固液内に直接押し出すかまたは空気中に押し出し、次いで凝固液内に引き入れる。上記の通り、紡糸液に親水性孔形成剤および表面修飾高分子を添加し、結果として生じる中空糸膜が、その表面に表面修飾高分子を含む。
【0112】
紡糸液の粘度は、必要に応じて変更することができる。例えば、増粘剤(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、またはポリプロピレングリコール)を添加することによって粘度を高めるか、または非プロトン性低沸点溶媒(すなわち、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、アセトン、またはそれらの混合物)を紡糸液に添加することによって粘度を下げる。非プロトン性低沸点溶媒を含めて、紡糸液における表面修飾高分子の可溶性を高めることもできる。
【0113】
紡糸液を押し出して繊維の形状を形成し、凝固液を用いて沈降させ、望ましい多孔性中空糸を形成する。凝固液は、紡糸液の基本ポリマーの非溶媒または非溶媒と溶媒の混合物を含むことができる。典型的には、凝固液に用いる非溶媒は水溶液である。
【0114】
多孔性中空糸が形成されたら、この多孔性中空糸を第2の洗浄槽を通過させることができる。次いで、多孔性中空糸を、例えば、切断、括束(bundling)、および乾燥などの処理をさらに行い、例えば、透析器での使用に適した多孔性中空糸膜に形成することができる。
【0115】
中空糸膜の収容された束
本発明は、中空糸膜が収容される時点で収容材料中に表面修飾高分子を含めることによって、フィルター(例えば、血液透析、血液透析ろ過、血液ろ過、血液濃縮、または酸素化装置などの血液浄化装置の一部である)の収容材料に接触する血液成分の活性化を低減するための組成物および方法を特徴とする。
【0116】
中空糸膜を用いてろ過または浸透させるために、大量の細い中空糸を外装体のヘッダーに収容(すなわち、固定)して、中空糸の内面のそれぞれが外装体の内側に完全に密閉されるが、中空糸の内腔が、フィルターの第1の収容された端部から第2の収容された端部に血液を流すために開口するようにしなければならない。収容材料は、透析器のカートリッジ内の端部に中空糸膜の糸の束(例えば、最大20,000本)をしっかりと保持する接着剤として機能すると同時に、中空糸の端部を開口したままにして、ろ過のための中空糸内への血液の通過を可能にする硬化ポリマー材料(通常は、ポリウレタン)であるため、血液浄化フィルターの重要な一体部分である。これらの多数の糸の束を外装体内に保持して、すべての中空糸をカートリッジの軸に沿って適切に整列させることは、フィルターの組み立てに必要なステップである。
【0117】
血液浄化フィルターのいずれかの端部に形成される収容された壁部は、血流およびフィルター機能に悪影響を及ぼし得る血液成分の活性化ならびに最初の新しい血栓形成をもたらす血液の乱流をせん断条件下で起こしやすい領域である。この問題は、中空糸膜の端部が、典型的な壁面の極僅かな部分(例えば、壁面の約18%)であり、続いて内腔(例えば、壁面の約16%)であり、そして大量の収容材料(例えば、壁面の約66%)であるため、抗血栓形成性の中空糸膜を用いても緩和されない。動的な血流が起こり、かつフィルターに目詰まりを引き起こし得る血栓のほとんどが始まるこの大きな領域に対処する必要がある。血栓形成性を低下させた中空糸膜および血液ろ過装置が必要である。
【0118】
収容材料は、2つ以上の成分を混合して硬化樹脂(すなわち、典型的にはポリウレタン)を形成することより形成される熱硬化性ポリマーとすることができる。本発明の抗血栓形成性収容材料を形成するために、混合の前に、表面修飾高分子を収容材料の少なくとも1つの成分に添加して硬化樹脂を形成する。
【0119】
表面修飾高分子は、当技術分野で公知のあらゆる収容材料に含めることができる。例えば、表面修飾高分子は、ポリオールとポリイソシアネートの反応産物であるイソシアネート末端プレポリマーから形成されるポリウレタン収容材料に含めて、当技術分野で既に記述されている1つまたは複数の多官能性架橋剤で硬化させることができる。本発明の方法、組成物、および透析システムに使用できる収容材料には、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第3,362,921号、同第3,483,150号、同第3,362,921号、同第3,962,094号、同第2,972,349号、同第3,228,876号、同第3,228,877号、同第3,339,341号、同第3,442,088号、同第3,423,491号、同第3,503,515号、同第3,551,331号、同第3,362,921号、同第3,708,071号、同第3,722,695号、同第3,962,094号、同第4,031,012号、同第4,256,617号、同第4,284,506号、および同第4,332,927号に記載されているものが含まれる。
【0120】
以下の実施例は、本明細書で特許請求する方法および化合物をどのように実施、形成、および評価するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明の純粋な例示であることを意図し、発明者らが自分達の発明と見なす範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0121】
実施例1. 収容領域の例示および計算
図20Aは、1本の中空糸の走査電子顕微鏡写真である。図20Bは、中空糸の束の例示である。図20Aおよび図20Bは、血液と接触した際に抗血栓形成性の表面領域を提供する中空糸の束の能力を明らかにする。収容領域および中空糸の寸法に基づいて、中空糸膜のみが本明細書に記載するように修飾されても、中空糸が占めるヘッダー領域(透析カートリッジ内の太線の円によって示す)の約18%しか、抗血栓形成性効果を提供する表面修飾高分子(SMM)で修飾されないことが推定できる。このため、収容された部分を含む表面領域の約66%が修飾されないまま残り、血液透析中に血液に接触すると血栓を形成しやすい。したがって、本発明は、この約66%の収容された部分(中空糸の一体部分)も表面修飾高分子で処理して、抗血栓形成性のヘッダー表面を得、血液の活性化を最小限にし、血液の凝固を低減し、血液フィルターの閉塞の発生を減少させる方法を特徴とする。
【0122】
実施例2. PS/PVPポリマー混合物の薄膜における表面修飾高分子
本発明の中空糸膜を形成できる混合物中の表面組成物を実証するために薄膜を用意した。表面修飾高分子(SMM、5wt%)、ポリスルホン(PS、10wt%)、およびポリビニルピロリドン(PVP、5wt%)を、ジメチルアセトアミドとテトラヒドロフランの混合物(約80wt%)に溶解した。254μmの厚みを有する薄膜をテフロン(登録商標)基板にキャストし、次いで乾燥させて表面のフッ素と窒素の含有率について分析した。それぞれが異なる表面修飾高分子を用いた、分析された4つの溶液キャスト配合物薄膜(solution cast formulation film)についての結果を表2に示す。
【表2】
【0123】
表面フッ素含有率は、4つの薄膜についてのX線光電子分光法(XPS)の結果によって得られ、バルク(neat)SMMの元素分析(EA)を比較のために行う。フッ素含有率についてのXPSデータとEAデータの差は、表面修飾高分子のオリゴフルオロ基の薄膜表面への移動によるものである。表面における窒素含有率は、ポリビニルピロリドンの存在に加えて、薄膜の表面における表面修飾高分子の親水性ウレタン部分の存在を反映している。
【0124】
実施例3. PS/PVPポリマー混合物の糸における表面修飾高分子
糸も、フッ素および窒素含有率について分析した。それぞれが異なる表面修飾高分子(VII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-a)を用いた、分析された4つの溶液紡績糸についての結果を表3に示す。
【表3】
【0125】
X線光電子分光法(XPS)データは、すべてのSMM修飾糸が、血液透析中に実際に血液に接触することになる内面(IS)と外面(OS)の両方で様々な程度に表面フッ素を有することを示した。
【0126】
表3はまた、目標取り込み量に対する糸中に取り込まれた添加物の量を示す、SMMの元素分析(EA)およびバルク中の%Fも示している。VII-aでは、EAの%Fは、6wt%の添加物の目標取り込み率に対して、実際は4wt%しか存在しなかったことを示している。この約33%のロスは、SMMの一部を溶解すると同時に孔形成ポリビニルピロリドン(PVP)を溶解する紡糸溶媒混合物を必要とする紡糸プロセスの厳しい条件に起因し得る。これは、VIII-a、IX-aおよびXI-aに対して当てはまり、目標取り込み率と元素分析から計算される実際の取り込み率との間の差に反映される。しかし、すべてのSMMは、最終濃度にかかわらず、実施例5の血液ループ研究で明らかにされる抗血栓形成特性に反映され得る、表面特性への顕著な影響を及ぼすのに十分な量が残るほど十分に強力である。
【0127】
表3は、市販の対照PS/PVP糸(SMMで修飾されていない)に対して、XPSの結果はフッ素の非存在を示している。市販の糸における窒素の含有は、紡糸プロセス中にPVPのほとんどが洗い流された後に残ったPVPによるものである。また、修飾されていない糸およびSMM修飾された糸に残るPVPの量も様々であろう。
【0128】
血液に接触することになる糸の内面(IS)のXPS結果を考慮すると、表3は、VII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-aに対して、%F(疎水性基)は、1.71%〜10.79%の範囲であり、%N(親水性基)は、1.39%〜2.90%の範囲である。表3のデータから決定される%Fの%Nに対する比は、1.23〜4.63を含み、考えられる範囲の%Fの%Nに対する比は、1.20〜10.0を含む。表1に示したように、硬セグメントの軟セグメントに対する比は、0.16〜1.49を含み、考えられる範囲の硬セグメントの軟セグメントに対するこの比は、0.15〜2.0を含む。
【0129】
実施例5に示すように、VII-aおよびXI-aがこのシリーズで最も成績が良かったが、VIII-aおよびIX-aは、対照と比較して重大な目詰まりがなく、フィルターの重大な閉塞をもたらす目詰まりもなかった。対照とは異なり、VII-a、VIII-a、IX-a、またはXI-aで修飾されたフィルターは、ヘッダー圧力およびガンマカウントで大きなばらつき(表6の標準誤差と比較して)を示さなかった。
【0130】
実施例4. 収容材料中の表面修飾高分子
収容された領域を含むポリマー材料中の表面組成を実証するためにサンプルディスクを用意した。
【0131】
GSポリマーズ社(GS polymers Inc.)が販売する収容化合物GSP-1555を、収容材料として使用した。GSP-1555は、部分A(HMDI系ジイソシアネート)および部分B(ポリオール)からなる二部分系(two part system)である。VII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-a(図2図5に示した構造)と呼ぶ4つのSMMを、表4に示すようにGSP1555収容材料と混合した。VII-aは、1%と2%の2つの濃度でそれぞれ使用した。他のすべてのSMM、すなわちVIII-a、IX-a、およびXI-aは、以下の方法に従って2%(w/w)濃度のみに調製した。
【0132】
40mlプラスチックファルコンチューブで、GSP1555前駆体ポリオールにSMMを添加して完全に混合した。この混合物を、一定量のTHFに溶解した。次いで、GSP1555前駆体ジイソシアネートを添加し、反応混合物を撹拌した。SMMを含有する得られたGSP1555収容化合物を、室温で24時間〜48時間硬化させた。次いで、硬化した混合物を、真空下で48時間乾燥させ、残ったすべての溶媒をサンプルから除去した。
【表4】
【0133】
サンプルを適切なサイズに切断してXPSのために提出した。XPSの結果は、表5に示す。原子%F(フッ素の原子百分率)の値は、収容材料のすべての部分(すなわち、上面および切断で形成された新しい表面)が添加物で修飾されていることを実証している。収容材料の切断部分が添加物で修飾されていることは、収容された中空糸膜の束からのフィルターの生産では、典型的には、中空糸の開口部を露出させるべく平滑な仕上げを得るために束の収容された部分を切断する際に新しい表面が形成されるため、重要である。原子%Fの値はまた、SMMの表面への移動が動的プロセスであり、新しく形成されるこれらの表面を含むすべての表面で起こることを実証している。例えば、VII-aが1%(w/w)取り込まれて、フッ素30%の表面を有する上部が形成される。60℃で24時間加熱して、壁部の表面に近接した表面修飾高分子の量を増加させると、表面の%F含有率が約13%に低下した。サンプルの切断後、XPSは、切断面をフッ素約7%の表面として示し、60℃で24時間加熱すると、フッ素が約26%に増加した。したがって、新しく切断された表面のフッ素が不十分な場合は、本発明の収容材料表面を加熱することができる。同様の知見は、他のSMMに対しても見られた。また、このことは、SMMが、硬化ポリマーまたは熱硬化性ポリマー中を移動できることを実証している。
【表5】
【0134】
実施例5. 血液フィルター血栓形成のin vitro評価
血液フィルターの血栓表面活性を、ヘパリン添加ウシ血液に応答する市販の血液フィルターを用いて評価した。血液フィルターを、VII-a、VIII-a、IX-a、またはXI-aで表面修飾し、対照(表面修飾されていない血液フィルター)と比較した。
【0135】
材料
PS/PVPを含む市販の血液フィルターを対照として用いた。様々な化学成分を有するVII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-a(図に示した通り)の4つの表面修飾高分子を用いて、対照フィルターと共に試験サンプルとして用いた市販の血液フィルターを修飾した。VII-aで修飾した市販のフィルターは、添加物4%を取り込ませた。VIII-aで修飾した市販のフィルターは、添加物3%を取り込ませた。IX-aで修飾した市販のフィルターは、添加物2%を取り込ませた。XI-aで修飾した市販のフィルターは、添加物1.6%を取り込ませた。合計30のフィルターをこの研究で分析した。ヘパリン添加ウシ血液(2単位/ml)を各実験に用い、この研究は、3頭または6頭のウシを用いた。QC放出試験を、透析器機能および糸の寸法の評価について修飾された糸に対して行った。これらを、対照フィルターと比較した。
【0136】
方法
血液フィルターの血栓形成のin vitro評価を、標準的な血液ループシステムおよびプロトコールを用いて行った(Sukavaneshvarら、Annals of Biomedical Engineering 28:182-193(2000)、Sukavaneshvarら、Thrombosis and Haemostasis 83:322-326(2000)、およびSukavaneshvarら、ASAIO Journal 44:M388-M392(1998)を参照)。
【0137】
簡単に述べると、以下のプロトコールを用いた。血液ループシステムは、容器、ポンプ、血液フィルター、および閉ループの流れを形成するチューブを含んでいた。このループシステムは、37℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を入れて、実験を始める前に1時間循環させ、ポンプと血液フィルターとの間の圧力ポートで圧力を測定した。
【0138】
約10リットルの新鮮なウシ血液を、各実験に対して1頭の動物から得、ヘパリン(典型的な濃度=2U/ml)を添加した。この実験は、血液収集から8時間以内に行った。放射標識自己血小板(111インジウムが標識された)を、研究を開始する前に血液に添加した。容器内のPBSを血液と交換し、圧力をモニタリングした。ループシステム内の血液循環は、典型的には、1時間〜2時間の間維持した(圧力計によってモニタリングして著しい圧力の上昇による停止がなければ)。実験の最後で、血液フィルターを写真に撮り、ガンマプローブを用いて血液フィルターの入口、出口、および中央でガンマカウントを測定した。
【0139】
図21は、in vitro血液ループ解析の実験設備および研究用の血液フィルターの構成を示している。この図はまた、測定値が血液フィルターの端部で(end-on)、および中央で決定される、血液フィルターのガンマプローブの測定値の配置を示している。放射標識血小板のガンマプローブの測定値は、フィルターを血流に曝露し、PBS溶液で洗浄して残った血液をすべて除去してから決定した。図22は、血液ループ手順の後の、ヘッダーキャップ(上部および底部のキャップ)を緩めて血栓形成を目視で調べる直前の血液フィルターの配置を示している。
【0140】
結果と考察
表6は、対照(C1)とVII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-aの血液透析フィルターの血栓形成のin vitro研究の結果を示している。表6はまた、入口(図22の上部キャップ)でのヘッダーの圧力の変化(ΔP)、ならびに実験1〜6の血液接触の後の血液フィルターの入口(図22の上部キャップ)、中央、および出口(図22の底部キャップ)の領域での放射標識活性化血小板のガンマプローブの測定値を示している。実験1では、25分後に目詰まりした初めのフィルターはIX-aであり、そのヘッダー圧力は180mmHgであった。これは、目詰まりまたは閉塞時間と呼ばれる。この目詰まりとは、ヘッダー圧力が基底圧力に対して175mmHg以上高くなったことを意味する。この時点で、活性化された血小板のガンマカウントは3582であり、中央で3250、出口で2223であった。VII-aが、SMMの中だけではなく対照と比べても、この実験で最高の成績であり、53mmHg(対照)に対して20mmHgと最も低いヘッダー圧力であった。この時点でのガンマカウントは2631であった。しかし、中央のガンマカウントは高く(4534)、出口で低かった(2454)。中央での高いガンマカウントは、血栓が蓄積できない、糸内を滑って通る(SMMの付加的性質により)、緩く結合した微小血栓を示唆し得る。フィルターの中央における活性化血小板の高濃度は、実験1、2、3、5、および6から明らかなように、大部分のSMM修飾フィルターに概ね当てはまる。この実験(実験1)では、XI-a修飾フィルターも、対照と比較して、35mmHgのヘッダー圧力と良好な成績であった。
【表6】
【0141】
実験2では、VIII-aが、185mmHgのヘッダー圧力で57分以内に目詰まりした。この実験では、対照は、VII-aまたはIX-aと比較して、86mmHgの最も低いヘッダー圧力で最高の成績であった。対応するガンマカウントも表6に示す。しかし、次の4つの実験では、VII-aが、XI-aのヘッダー圧力が対照よりも僅かに高かった実験6を除いて、最も低いヘッダー圧力で、試験したすべてのフィルターの中で最も成績が良かった。また、ヘッダー入口でのガンマカウントも、その成績の反映である。XI-aが、このシリーズで2番目に成績が良かった。実験4および5は、対照フィルターがそれぞれ、大量の高フィブリン血栓形成およびフィルターの完全な閉塞で8分および10分以内に劇的に目詰まりしたいくつかの興味深い結果を示した。表6は、対照フィルターの圧力(926mmHgおよび362mmHg)がSMM修飾フィルターに対していかに高いかと、この時点での対応する高い血小板カウントを示している。どの実験でも、10分以内に目詰まりしたSMM修飾フィルターはなく、全分析中のどの時点でもこのような高い圧力には達しなかった。
【0142】
表7は、6つの実験(n=6)の対応する標準偏差および標準誤差と共に、対照フィルターならびにVII-a、VIII-a、IX-a、およびXI-a修飾フィルターの入口での平均ヘッダー圧力およびガンマカウントを示している。また、SMMフィルターと比較した対照の標準誤差(STE)の高い値は、対照フィルターの性能の大きなばらつきを示唆する。この表はまた、VII-aおよびXI-aのヘッダー圧力(入口)が、それぞれ24および25のSTE値から明らかなように最も少ないばらつきを有していたことを示す。ヘッダー入口での活性化された血小板のガンマカウント(表7)はまた、対照フィルターと比較して大幅に低いVII-aおよびXI-aフィルターのSTEを示している。これら両方の値は、VII-aおよびXI-aフィルターの対照フィルターに対するフィルター性能に一致している。
【0143】
表7の実験5は、VII-aのヘッダー圧力が-3mmHgであり、XI-aが-5mmHgであったことを示していることに留意すべきである。これらは、僅かに負の圧力をもたらすことがある、糸にかかる高いせん断応力下での拍動血流によるin vitro分析での実際の値であり、実際はすべての意図および目的のために「0」と解釈すべきである。
【表7】
【0144】
表8は、各実験で最初に目詰まりした目詰まり時間および対応するフィルターを示す。実験4および5では、対照フィルターが劇的に目詰まりし、実験1では、IX-aが25分で目詰まりしたことが分かる。実験2、3、および6では、VIII-aが目詰まり(それぞれ57分、30分、および40分)したが、これらは重大な目詰まりではなく、フィルターが血栓形成で完全に閉塞されるものでもない。表8はまた、2つの最良のSMM配合物(VII-aおよびXI-a)のヘッダー圧力およびこれらと対照との比較を要約している。
【表8】
【0145】
図23は、対照フィルターと比較したVII-aおよびXI-aの平均ヘッダー圧力およびガンマカウントをグラフとして示している。エラーバーは、共にVII-aおよびXI-aに対して対照で高い圧力およびガンマ測定値のばらつきを示している。平均すると、VII-aは、ヘッダー圧力が対照よりも85%低く、XI-aは、ヘッダー圧力が対照よりも78%低く、ガンマカウントは、市販の対照と比較してVII-aで56%低く、XI-aで61%低かった。
【0146】
図24A図24Bおよび図25A図25Cは、実験4の血栓の写真であり、図26A図26Dは、実験5の血栓の写真である。これらの実験では、対照フィルターは10分以下で目詰まりし、大量の血栓が形成され、フィルターが閉塞した。図24A図24Bおよび図25A図25Cは特に、ヘッダーのみに血栓があったのではなく、血液を抜いた後に、過剰凝固を示唆する血栓残渣がふるい上に存在したことを示している。
【0147】
図27は、6つすべての実験におけるVII-aおよびXI-aと対照フィルターの血栓の写真を比較している。赤色血栓の蓄積および血小板の活性化を示唆するヘッダー入口の赤色の程度から、平均すると、VII-aおよびXI-aが対照よりも成績が良かった(圧力値は除く)ことが分かる。
【0148】
6つすべての実験に対する血液ループ解析の後に、入口および出口位置のフィルターヘッダーの血栓の写真を撮影した。実験結果は、実験1(図28A図28B)、実験2(図29A図29B)、実験3(図30A図30B)、および実験6(図31A図31B)の血栓写真として示す。すべてのこれらのケースでは、VIII-aまたはIX-aのいずれかが目詰まりしたが、実験4および5の対照とは異なり、これらのフィルターは決して閉塞しなかった。
【0149】
加えて、すべてのSMM修飾フィルター(VII-a、VIII-a、IX-a、またはXI-a)は、糸に紡績することができた。透析器フィルターに組み立てて血液フィルターを試験すると、対照の血液フィルターと比較して、すべてが血液フィルターとして機能することができた。概して、すべての血液フィルターは、透析器として機能した。
【0150】
結論
ヘパリン添加ウシ血液を用いたin vitro血液ループ研究は、試験したすべてのフィルターの中で、VII-aおよびXI-aが最も成績が良かったことを示した。これら2つの配合物は、平均ヘッダー圧力が最も低く(>75%低い圧力)、平均ガンマカウントが低く(>55%少ない)、血栓および血栓形成が対照よりも低く、フィルターの目詰まりを示さなかった。逆に、対照フィルターは、2つの実験で10分以内に劇的に目詰まりし、最も成績が悪かった。対照フィルターはまた、6つの実験で試験したすべてのフィルターの中で、平均ヘッダー圧力、ガンマカウント、およびばらつきが最も大きかった。VIII-aが3つの実験で目詰まりし、IX-aが1つの実験で目詰まりしたが、これらすべてが25分〜57分の範囲内であり、いずれのフィルターも重大な閉塞はなかった。すべての血液フィルターは、透析器として様々な程度で機能し、望ましい仕様に一致させるために容易に調節することができる。
【0151】
他の実施形態
本明細書で言及したすべての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれの独立した刊行物または特許出願が具体的かつ個々に示されて参照により組み入れられるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
本発明は、その特定の実施形態に関連して説明してきたが、さらなる変更が可能であり、本出願は、一般に、本発明の原理に従った本発明のあらゆる変化、使用、または適合を包含し、さらに、本発明が属する技術分野の公知または慣行に含まれ、本明細書で既に説明した不可欠の特徴に適用することができ、特許請求の範囲に従った、本明細書の開示からのこのような発展を含むことを理解されたい。
【0153】
他の実施形態が、特許請求の範囲の範囲内である。
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