特許第5872008号(P5872008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5872008
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】多周波アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 5/10 20150101AFI20160216BHJP
   H01Q 5/357 20150101ALI20160216BHJP
   H01Q 9/42 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
   H01Q5/10
   H01Q5/357
   H01Q9/42
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-199951(P2014-199951)
(22)【出願日】2014年9月30日
【審査請求日】2015年7月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高村 祐
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−028255(JP,A)
【文献】 特開2003−008342(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0195473(US,A1)
【文献】 特開2009−194477(JP,A)
【文献】 米国特許第08134517(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0007780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/10
H01Q 5/357
H01Q 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランド板と、短絡部を介して該グランド板と電気的に接続された放射素子部と、内側から内部導体、誘電体、外部導体、外被の順で構成され、該内部導体が該放射素子部に設けられた給電点へ、該外部導体が該グランド板に設けられたアースポイントへそれぞれ接続される給電用同軸ケーブルとで構成されたアンテナであって、
該グランド板から調整素子が延出し、該調整素子が該放射素子部に近接しているとともに、該短絡部と該調整素子が、異なる平面上に形成されており、
該放射素子部には周波数調整部が設けられており、
該アンテナは少なくとも2つの周波数帯域に対応することを特徴とする、多周波アンテナ。
【請求項2】
該周波数調整部の形状が、該放射素子部の先端、及び/又は、中間部を、部分的に太くした形状であることを特徴とする、請求項1に記載の多周波アンテナ。
【請求項3】
該周波数調整部の形状が、該放射素子部の先端をコの字状に折り返した形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の多周波アンテナ。
【請求項4】
該アースポイントと、該調整素子の基端部との間の距離が、請求項1に記載の多周波アンテナが対応する最も高い周波数帯域の波長の4分の1以下の長さであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項5】
該短絡部が該グランド板から第1の方向に延出した後、該グランド板の端縁と並行するように第2の方向に延出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の多周波アンテナ。
【請求項6】
該放射素子部が、下記(a)、(b)に示した第1、第2放射素子部を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の多周波アンテナ。
(a)該短絡部に直接接続されるとともに、該第1の方向に延出する第1放射素子部。
(b)該第1放射素子部から、該第2の方向、もしくは該第2の方向とは反対の第3の方向に延出する、第2放射素子部。
【請求項7】
該第1放射素子部から、該第2放射素子部の延出方向の反対側に向かって、第3放射素子部も延出していることを特徴とする、請求項に記載の多周波アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、PDA(携帯型情報機器)、携帯電話、あるいはVICS(登録商標)などの情報端末機器等に内蔵させる立体形状アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線LAN、無線WAN、WiMAX(登録商標)、LTEをはじめとする無線データ通信システムにおいては、アンテナの多周波化の要求がますます強くなってきている。
その中でも最近は、LTEの普及に伴い、LTEに使用される1.8GHz帯域(1.71〜1.88GHz)、2.5GHz帯域(2.5〜2.69GHz)に対応するアンテナの要求が高まってきており、将来的には3.5GHz帯域(3.4〜3.6GHz)もLTEに使用する計画が存在する。
特にパソコン用のアンテナにおいては、従来使用の無線WAN帯域(824〜960MHz)に加えて、LTEの1.8GHz帯域、2.5GHz帯域など、2〜3の周波数帯域に対応できるアンテナが、標準的な要求仕様となってきている。
【0003】
加えて、情報端末機器の小型化が進む昨今では、機器中におけるアンテナの搭載スペースも小さくなり、従来のアンテナと同等以上の性能を維持しつつ、アンテナをさらに小型化することも要求されている。
【0004】
単一のアンテナで、多周波に対応できる小型アンテナとしては、特許文献1、2に記載のアンテナなどが知られている。
特許文献1に記載のアンテナでは、単一の給電部に接続された低周波数帯及び高周波数帯に共通な軸部と、軸部から枝分かれした低周波数帯の給電素子及び高周波数帯の給電素子を設けることで、アンテナの多周波化を実現している。
しかしながら、2つの周波数帯に対応した長さを有する2つの給電素子を設ける必要があるため、アンテナの小型化には限界がある。
【0005】
特許文献2に記載のアンテナでは、放射素子をメアンダ状とし、放射素子の一部でグランド導体に対して接近・離反する方向と交差する方向に延伸している部位の長さを、接近・離反する方向に延伸している部位の長さよりも長くすることで、アンテナの多周波化を実現している。
しかしながら、メアンダ状の放射素子も複数の周波数に対応するには一定の長さ、大きさが必要で、特にアンテナの高さ方向の寸法が大きくなる傾向にあるため、特許文献2に記載の構造でもアンテナの小型化に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−178741号公報
【特許文献2】特開2008−199204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アンテナの大型化を最小限に抑えつつ、少なくとも2つの周波数帯域に対応する多周波アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アンテナに高周波電流を給電した際に、給電した周波数の電流に加えて、その周波数の3倍の周波数を有する電流、いわゆる第3高調波が発生することに注目し、第3高調波を所望する周波数帯域に調整することで、アンテナを大型化することなく、少なくとも低周波数帯域と高周波数帯域の2つの周波数帯域に対応する多周波アンテナを実現した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアンテナでは、以下の効果が期待できる。

(1)アンテナの大型化を抑えつつ、アンテナの2周波対応が可能である。

(2)アンテナを3周波以上に対応させるために、放射素子を追加する際も、
元々のアンテナサイズが小さいため、大型化を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のアンテナの基本的構成である。
図2】本発明のアンテナの基本的構成の他の例である。
図3】アンテナの対応周波数と第3高調波の関係の一例である。
図4】アンテナの対応周波数と第3高調波の関係の他の例である。
図5】本発明に使用するアンテナエレメントの変形例である。
図6】本発明に使用するアンテナエレメントの他の変形例である。
図7】本発明の第1の実施例に使用するアンテナエレメントの平面展開図である。
図8】本発明の第1の実施例のVSWR特性である。
図9】本発明の第2の実施例に使用するアンテナエレメントである。
図10】本発明の第2の実施例に使用するアンテナエレメントの平面展開図である。
図11】本発明の第2の実施例のVSWR特性である。
図12】本発明の第3の実施例に使用するアンテナエレメントの平面展開図である。
図13】本発明の第3の実施例のVSWR特性である。
図14】本発明の第4の実施例に使用するアンテナエレメントの平面展開図である。
図15】本発明の第4の実施例のVSWR特性である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1図2を参照しながら、本発明について説明する。
【0012】
図1図2において、1はアンテナエレメント、2はグランド部、3は短絡部、4(4a、4b)は放射素子部、5は給電点、6は調整素子、7は給電用同軸ケーブル、8はアースポイント、9は周波数調整部である。
【0013】
本発明で特徴的なことは、アンテナエレメント1において、グランド部2から調整素子6を延出させたとともに、この調整素子6を放射素子部4に近接させたことである。
調整素子6をグランド部2から延出させる位置は、図1図2に示したように、放射素子部4の形状に応じて適宜調整して良い。
【0014】
本発明でいう「調整素子6を放射素子部4に近接させる」とは、後述する第3高調波の変動効果を得るために、図1に示したように調整素子6の一面と放射素子部4の一面を対向させたり、図2に示したように調整素子6の一辺と放射素子部4の一辺を並行させたりすることを指す。
なお、実際の近接方法はこれだけに限定されず、第3高調波の変動効果が得られる限り、他の近接方法を用いたり、調整素子6と放射素子部4を離したりしても良い。
【0015】
調整素子6の一辺を放射素子部4に近接させることにより、元々所望する1つの周波数帯域にのみ対応する放射素子部4が、所望する2つの周波数帯域に対応するようになり、アンテナの多周波化が実現できる。以下、多周波化の原理について述べる。
【0016】
特定の周波数帯域に対応する放射素子部4に、対応する周波数fを有する高周波電流を給電することによって、放射素子部4は周波数fの信号を送受信する。
この時、放射素子部4には周波数fの高周波電流に加えて、その3倍の周波数3fを有する電流、いわゆる第3高調波が発生する。本発明はこの第3高調波を利用する。
【0017】
図3、4を用いて第3高調波について具体的に説明する。
【0018】
図3は無線WAN帯域に属する860MHzの信号に対応するよう設計した従来のアンテナのVSWRを示したものである。860HHz付近に見られるVSWRのピーク(低下)が設計周波数に対応するピークとなっている。
具体的なアンテナ形状は調整素子6を設けていない図1に記載のアンテナである。860MHz付近に見られるVSWRのピークが設計周波数に対応するピークとなっている。
【0019】
図4は無線WAN帯域に属する960MHzの信号に対応するよう設計したアンテナの構造とVSWRを示したものである。
具体的なアンテナ形状は調整素子6を設けていない図2に記載のアンテナである。960MHz付近に見られるVSWRのピークが設計周波数に対応するピークとなっている。
【0020】
一般的に、図3、4の無線WAN帯域に現れたようなピークを中心とした、VSWRが2.5以下となる周波数帯域に対して、アンテナは充分な通信特性を有する。
【0021】
これらの設計周波数に対応するピークに加えて、図3では2.9GHz付近、図4では3.6GHz付近でもVSWRのピークが見られる。これは、図3では2.9GHz付近、図4では3.6GHz付近の周波数を有する第3高調波が発生し、無線WAN帯域での通信に加えて、第3高調波が有する周波数付近での通信も行える可能性があることを示唆している。
なお、860MHzの高周波電流に由来する第3高調波の周波数は約2.6GHz、960MHzの高周波電流に由来する第3高調波の周波数は約2.9GHzとなるが、実際に発生する第3高調波はアンテナの形状などが影響して厳密に3倍の周波数となることは少なく、図3、4のように設計周波数の3倍よりも高周波側の周波数になることが多い。
【0022】
調整素子6を放射素子部4に近接させ、両者を容量結合させることで、放射素子部4に発生する第3高調波の周波数が変動する現象が発生する。
これは容量結合の発生により、放射素子部4のインピーダンスが低下し、低下後のインピーダンスに整合した周波数を有する第3高調波が発生するためである。インピーダンス増減の影響は周波数の高い電流ほど大きく受けるため、放射素子部4に発生した第3高調波が容量結合の影響を大きく受けてその周波数が変動する一方、放射素子部が本来対応する周波数は容量結合の影響をほとんど受けない。
この現象を利用し、第3高調波の周波数を所望する通信に対応した周波数帯域に調整することで、アンテナが2つの周波数帯域に対応する。
【0023】
すなわち、本発明のアンテナは、放射素子部4が所望する低周波数帯域に対応し、調整素子6によって周波数が変動した第3高調波が所望する高周波数帯域に対応する。
【0024】
調整素子6は、所望する周波数帯域に合わせて大きさ、形状を変更する必要があり、形状としては図1、2に示した略L字型の他、長方形型などがある。
調整素子6の好適な大きさ、形状は一概に指定できないが、調整素子6の機能は第3高調波の周波数変動であり、調整素子6自体は信号の送受信に直接的に関与しない。
このため、調整素子6の全長は放射素子部の全長よりも短い長さ、具体的にはアンテナが対応する最も高い周波数帯域の信号波長の4分の1以下の長さで済む。
【0025】
調整素子6の全長は、アンテナが対応する高周波数帯域に本来必要な素子の長さと比較して短い長さで済むため、アンテナの大型化を最小限に抑えつつ、アンテナの多周波化を実現できる。
【0026】
本発明において、アンテナエレメント1は、洋白(白銅)、銅、鉄、黄銅等の金属一枚板を打ち抜き、一体成型して得れば良い。金属一枚板の厚さは0.1〜1mm程度が好ましい。
【0027】
グランド部2は、アンテナを搭載する電気機器の搭載スペースに応じて折り曲げた形状を取ったり、搭載スペースに存在する他の部品との干渉を避けるために切掛けやくり抜き部を設けたりするなど、適宜変形して良い。
【0028】
本発明において、給電用同軸ケーブル7は、周知のフッ素樹脂被覆等の高周波同軸ケーブルを使用すれば良い。この給電用同軸ケーブル7の内部導体、あるいは外部導体をアンテナエレメント1の所定の場所に接続するには、ハンダ付による固定、あるいはカシメによる固定などを利用すれば良い。
【0029】
本発明において給電点5は、放射素子部4の任意の場所へ設ける。具体的な給電点5の位置は、アンテナが意図した特性で動作するよう、適宜調整して決定する。
なお、給電点5を設ける場所は必ずしも放射素子部4上である必要は無く、アンテナエレメント1の形状などによって、給電点5を短絡部3上に設けた方がアンテナの特性上好ましい場合、本発明は給電点5を短絡部3上に設けることを妨げるものではない。
【0030】
調整素子6の位置は、給電用同軸ケーブル7の外部導体をグランド部2に接続したアースポイント8から、アンテナが対応する最も高い周波数帯域の電波、すなわち調整素子6によって周波数が変動した第3高調波の4分の1波長以内の場所にするのが好ましい。
この位置とすることで、調整素子6による第3高調波の変動効果がより安定したものとなり、高周波数帯域における通信が安定する。
これは、調整素子6の基端とアースポイント8が近接すると、放射素子部4と調整素子6の間に発生する容量結合がより安定するためである。特に、調整素子6の基端とアースポイント8との間の距離が、アンテナが対応する高周波数帯域の電波の4分の1波長以内の場合、この効果が顕著に表れる。
【0031】
本発明のアンテナにおける短絡部3の好ましい形状は、図1、2に示したような、グランド部2から第1の方向に延出した後、グランド部2の端縁と並行するように第2の方向に折れ曲がった形状、いわゆるL字形状である。
この形状の場合、グランド部2の端縁と短絡部3が近接して平行に配置されるため、グランド部2と短絡部3との間で容量結合が発生し、この結果、放射素子部4に発生する第3高調波が安定する。
【0032】
本発明のアンテナにおける放射素子部4の好ましい形状は、図1図2に示したような、短絡部3に直接接続されるとともに、第1の方向に延出する第1放射素子部4aと、第1放射素子部4aからグランド部2の端縁と並行する第2の方向、もしくは第2の方向とは反対に向かう第3の方向に延出する、第2放射素子部4bとを有する形状である。
この形状とすることで、低周波数帯域への対応に必要な放射素子部4の電気長を省スペースで得られると共に、グランド部2から延出した調整素子6が第2放射素子部4bに短い長さで近接でき、アンテナの小型化に寄与する。
【0033】
アンテナが対応できる周波数帯域を増やしたい場合は、図5、6に示したように、第1放射素子部4aから、第2放射素子部4bの延出方向の反対側に向かって、所望する周波数帯域に対応する第3放射素子部4cも延出させるのが好ましい。
【0034】
2つの周波数帯域に対応するアンテナが小型のため、第3放射素子部4cを追加して3周波数対応としても、最終的なアンテナサイズは小型の部類に入る
特に、図6に示したように、第2放射素子部4bが第2方向に向かって延出している際は、第3放射素子部4cを短絡部3の上部の空間に設けることができるため、アンテナの最大縦幅、横幅の増加が最小限に抑えられる。
【0035】
また、第2放射素子部4bが第2方向に向かって延出している態様に、第3放射素子部4cを追加する場合は、段落[0031]で述べたL字状の短絡部3を採用するのが好ましい。
この形状の短絡部3を使用することで、第3放射素子部4cが対応する周波数帯域でのインピーダンス整合が取りやすいと共に、第3放射素子部4cがグランド部2から離れることによって、第3放射素子部4cの利得を高めることができる。
【0036】
さらに、放射素子部4にはアンテナを所望する周波数帯域に対応させる微調整を行うために、必要に応じて周波数調整部9を設けても良い。
周波数調整部9の形状としては、図2、6に示したような放射素子部4の先端、あるいは中間部を、部分的に太くした形状や、図5に示したような放射素子部4の先端をコの字状に折り返した形状などを、適宜選択して設ければ良い。
【0037】
なお、本発明のアンテナにおける、短絡部3、放射素子部4の形状や、対応する周波数帯域は、以上述べたものに限定されるものではなく、放射素子部4と調整素子6を近接させることで、第3高調波の周波数を所望する高周波数帯域に変動させるという技術的思想の範囲内において、形状や対応する周波数帯域を種々変更できる。
【0038】
また、本発明においては調整素子6を短絡部3と異なる平面上に設ける態様と、同一平面上に設ける態様とが存在する。以下、それぞれの態様について説明する。
【0039】
図1、5は調整素子6を短絡部3と異なる平面上に設けた態様である。
この態様を取る時は、グランド部2の一部を折り曲げることで、アンテナエレメント1を横から見たときに、グランド部2を底辺として、調整素子6、グランド部2、短絡部3が略コの字形状となるようアンテナを形成する。
図1、5の態様は、調整素子6と、短絡部3及び放射素子部4の間に誘電体(図示せず)を挟持して、波長短縮効果を利用した放射素子部4の長さの短縮化を行う際に好ましい態様である。
【0040】
また、図1、5の態様においては、放射素子部4の端辺が調整素子6に近接するよう、放射素子部4を折り曲げるのが好ましい。
【0041】
誘電体はABS樹脂、PPE樹脂、あるいはLCP(液晶ポリマー)にセラミックを混合したものなど、公知の誘電体材料を適宜選択して使用すれば良い。
【0042】
図2、6は調整素子6を短絡部3と同一平面上に設けた態様である。
この態様は、電子機器におけるアンテナの設置スペースにおいて、奥行き方向のスペースに余裕が無い場合に特に好ましい態様である。
【0043】
なお、調整素子6が短絡部3と同一平面上に形成された態様においても、必要に応じて誘電体を設けたり、放射素子部4を折り曲げたりしても構わない。
【実施例】
【0044】
第1の実施例として、図1に示した、調整素子6を短絡部3と異なる平面上に設け、無線WAN帯域と1つのLTE帯域に対応するアンテナについて述べる。
【0045】
1.図1のアンテナエレメントの作成:
厚さが0.2mmの洋白の一枚板を打ち抜いて、図1に示す形状のアンテナエレメント1を作成した。
このアンテナエレメント1は、周波数調整部が設けられた放射素子が無線WAN帯域の860MHz帯域、調整素子によって変動した第3高調波がLTE帯域の2.5GHz帯域に対応することを意図した物であり、シミュレーションによって各寸法を決定した。
【0046】
図7は第1の実施例に使用するアンテナエレメント1の平面展開図である。1マスが1mm四方に対応し、破線で山折り、一点破線で谷折りを行うことで図1に示した立体形状のアンテナエレメント1となる。
【0047】
平面展開したアンテナエレメント1の、各部材の寸法・形状などは以下の通りである。
記載のない寸法については図7の通りである。

・グランド板2:高さ15mm×幅84mmの長方形状に、調整素子6を設けるための幅7mm×高さ12mmの空間を設けた形状

・短絡部3:グランド板2からY方向に幅10mm、高さ2mmで延出した後、グランド板2の端縁と並行するように、−X方向へ幅1mm、長さ20mm延出した形状。

・第1放射素子部4a:短絡部の終端からY方向に幅3mm、高さ7mmで延出した形状。

・第2放射素子部4b:第1放射素子部4aからX方向に幅1mm、長さ56mmで延出した形状。

・調整素子6:グランド板2に設けられた空間上に、−Y方向へ幅3mm、長さ10mmで延出した後、X方向へ幅2mm、長さ2mmで延出したL字形状。

・給電点5:第1放射素子部4aの左端辺最下部からX方向に3mmの位置。

・アースポイント8:グランド板2の左端辺から上端辺に沿ってX方向に24mmの位置。
【0048】
2.アンテナエレメント1以外の部材について
アンテナエレメント1以外の部材の寸法、材料、その他特徴は以下の通りである。

・給電用同軸ケーブル8:内部導体径0.15mm、フッ素樹脂(PFA)製絶縁体径0・4mm、外部導体径:0.65mm、PFA製外被径0.8mm
【0049】
3.アンテナの組立
先端部が段剥ぎされ、反対側には接続する電子機器に対応する周知の同軸ケーブル用コネクタが設けられた給電用同軸ケーブル7を用意し、内部導体を給電点5、外部導体をアースポイント8へ、それぞれ半田付けしアンテナを完成させた。
なお、給電用同軸ケーブル7は図6における表面側に接続される。
【0050】
給電用同軸ケーブル7を除いたアンテナの大きさは高さ20mm、幅84mm、厚さ4mmと小型である。
【0051】
得られたアンテナのVSWRを測定したところ、図8に示すように、VSWRのピークが、無線WAN帯域の860MHz付近に加え、LTEの2.5GHz帯域にも存在し、目的とする帯域で充分な通信特性を有する小型の2周波対応アンテナが得られた。
第1の実施例から調整素子6を省略した場合のVSWRに当たる図3と比較すると、第3高調波によるピークが約0.4GHz低周波側に移動し、調整素子6による第3高調波の変動効果が得られていることが確認できる。
【0052】
第2の実施例として、図1のアンテナに第3放射素子を追加して図9に記載の構造とし、無線WAN帯域と2つのLTE帯域に対応させたアンテナについて述べる。
【0053】
第2の実施例のアンテナの形状・寸法・組立方法などは、原則として第1の実施例で述べたアンテナと同じものである。
異なる点は、対応する周波数帯域を増やすために、第2放射素子4bの延出方向の反対側に、第3放射素子4cを追加したものである。
【0054】
第3放射素子4cは複数存在するLTE帯域のうち、1.8GHz帯域に対応させることを意図したものである。
【0055】
図10は第2の実施例に使用するアンテナエレメント1の平面展開図である。1マスが1mm四方に対応し、破線で山折り、一点破線で谷折りを行うことで図9に示した立体形状のアンテナエレメント1となる。
【0056】
追加した第3放射素子部4cの寸法、形状は以下の通りである。

・第3の放射素子部4c:第1放射素子部4aから−X方向に幅1mm、高さ25mmで延出した形状。
【0057】
得られたアンテナのVSWRを測定したところ、図11に示すように、VSWRのピークが、無線WAN帯域の860MHz付近に加え、1.8GHz付近と2.6GHz付近にも存在した。
【0058】
1.8GHz付近に現れたピークは第3放射素子4cによるものであり、LTEの1.8GHz帯域においても充分な通信特性を確認できた。
【0059】
2.6GHz付近に現れたピークは変動した第3高調波によるものであり、LTEの2.5GHz帯域においても充分な通信特性を確認できた。
【0060】
以上の通り、第2の実施例のアンテナとして、無線WAN帯域と2つのLTE帯域の3
周波に対応する小型アンテナが得られた。
【0061】
第3の実施例として、図2に示した、調整素子6を短絡部3と同一平面上に設け、無線WAN帯域と1つのLTE帯域に対応するアンテナについて述べる。
【0062】
第3の実施例のアンテナは、形状・寸法・対応する周波数帯域を除き、その組立方法などは原則として第1の実施例で述べたアンテナと同じものである。
【0063】
図12は第3の実施例に使用するアンテナエレメント1の平面展開図である。1マスが1mm四方に対応し、破線で山折り、一点破線で谷折りを行うことで図12に示した立体形状のアンテナエレメント1となる。
このアンテナエレメント1は、周波数調整部9が設けられた放射素子部4が無線WAN帯域の960MHz帯域、調整素子によって変動した第3高調波がLTE帯域の3.5GHz帯域のうち、3.4〜3.5GHzに対応することを意図した物であり、シミュレーションによって各寸法を決定した。
【0064】
平面展開したアンテナエレメント1の、各部材の寸法・形状などは以下の通りである。
記載のない寸法については図12の通りである。

グランド板2:高さ15mm×幅28mmの長方形状部から、幅1mm×長さ11mmの細幅部が−X方向に延出した形状。

短絡部3:グランド板2からY方向に幅4mm、高さ2mmで延出した後、グランド板2の端縁と並行するように、−X方向へ幅1mm、長さ18mm延出した形状。

放射素子部4:短絡部3の終端からY方向に幅8mm、高さ10mmで第1放射素子部4aが延出した後、−X方向へ幅2mm、長さ52mmで第2放射素子部4bが延出した形状。

周波数調整部9:幅11mm×高さ4mmの長方形状部が、第2放射素子部4bの先端に設けられる。

調整素子6:グランド板2の細幅部の先端付近からY方向に幅1mm、高さ7mmで延出した後、−X方向へ幅3mm、長さ9mm延出し、先端付近は幅4mmとなっている略L字形状。

給電点5:第1放射素子部4a7の左端辺最下部からX方向に5mmの位置。

アースポイント8:グランド板2の長方形上部左上付近。左端辺から上端辺に沿ってX方向に3mmの位置。
【0065】
給電用同軸ケーブル7は、図12における裏面側に接続される。
【0066】
給電用同軸ケーブル7を除いたアンテナの大きさは高さ20mm、幅84mm、厚さ4mmと小型である。
【0067】
得られたアンテナのVSWRを測定したところ、図13に示すように、VSWRのピークが、無線WAN帯域の960MHz付近に加え、LTEの3.5GHz帯域に属する3.4GHzにも存在し、目的とする帯域で充分な通信特性を有する小型の2周波対応アンテナが得られた。
第3の実施例から調整素子6を省略した場合のVSWRに当たる図4と比較すると、第3高調波によるピークが約0.2GHz低周波側に移動し、調整素子6による第3高調波の変動効果が得られていることが確認できる。
【0068】
第4の実施例として、図2のアンテナに第3放射素子部4cを追加して図6の形状とし、無線WAN帯域と2つのLTE帯域に対応させたアンテナについて述べる。
【0069】
第4の実施例のアンテナの形状・寸法・組立方法などは、原則として第3の実施例で述べたアンテナと同じものである。
異なる点は、対応する周波数帯域を増やすために、第2放射素子4bの延出方向の反対側に、周波数調整部9を有する第3放射素子4cを追加したものである。
【0070】
第3放射素子4cは複数存在するLTE帯域のうち、1.8GHz帯域に対応させることを意図したものである。
また、第3放射素子4cの追加に伴うアンテナ形状の変化により、第3の実施例に記載のアンテナで発生する3.4GHz付近の高調波をさらに低周波側に変動させ、LTE帯域の1つである2.5GHz帯域に対応させることも意図する。
【0071】
図14は第4の実施例に使用するアンテナエレメント1の平面展開図である。1マスが1mm四方に対応し、破線で山折り、一点破線で谷折りを行うことで図6に示した立体形状のアンテナエレメント1となる。
【0072】
追加した周波数調整部9を有する第3放射素子部4cの寸法、形状は以下の通りである。

・第3放射素子部4c:第1放射素子部4aからX方向に幅2mm、高さ24mmで延出した形状。

・周波数調整部9:幅14mm×高さ3mmで、先端に幅2mm×長さ2mmの切掛けが設けられた形状で、第3放射素子部4cの先端に設けられる。
【0073】
第4の実施例のアンテナは、第3の実施例のアンテナにおいて短絡部3の上部に存在する空間に第3放射素子4cを設けているため、給電用同軸ケーブル7を除いたアンテナの大きさは第3の実施例と同じであり、アンテナを大型化することなく、さらなる多周波数化が実現できる。
【0074】
得られたアンテナのVSWRを測定したところ、図15に示すように、VSWRのピークが、無線WAN帯域の960MHz付近に加え、2GHz付近と2.9GHz付近にも存在した。
【0075】
2GHz付近に現れたピークは第3放射素子4cによるものである。ピークの位置はLTEの1.8GHz帯域(1.71〜1.88GHz)から外れているが、1.8GHz帯域に属する周波数範囲においてVSWRは2.5以下であり、LTEの1.8GHz帯域における充分な通信特性を確認できた。
【0076】
2.9GHz付近に現れたピークは変動した第3高調波によるものである。ピークの位置はLTEの2.5GHz帯域(2.5〜2.69GHz)から外れているが、このピークが影響して、LTEの2.5GHz帯域に属するVSWRは2.5以下、かつ高周波数側に行くにつれて低下する傾向にあるため、LTEの2.5GHz帯域における充分な通信特性を確認できた。
【0077】
以上の通り、第4の実施例のアンテナとして、無線WAN帯域と2つのLTE帯域の3周波に対応する小型アンテナが得られた。
【0078】
以上、無線WAN帯域とLTE帯域に対応するアンテナについて説明したが、これは本発明の一例に過ぎず、本発明の思想の範囲内であれば、他の帯域に対応するアンテナにも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のアンテナは、パソコンの他に、携帯電話、PDA、或いはVICS等の各種情報端末機器のみならず通信機能を有した情報家電、更には自動車関連機器へも同様に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 アンテナエレメント
2 グランド部
3 短絡部
4 放射素子部
4a 第1放射素子部
4b 第2放射素子部
4c 第3放射素子部
5 給電点
6 調整素子
7 給電用同軸ケーブル
8 アースポイント
9 周波数調整部
【要約】
【課題】 パソコンあるいはPDA等の情報端末機器等の内部に組込むアンテナにおいて、アンテナサイズの大型化を回避しつつ、アンテナの多周波化を実現することにある。
【解決手段】
グランド部から調整素子を延出し、その調整素子を放射素子部に近接させることによって、放射素子部に発生する第3高調波の周波数を所望する周波数帯域に調整し、放射素子部が本来対応する周波数帯域と合わせて、アンテナを多周波に対応させる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
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図13
図14
図15