(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持体と、レンズを備えた移動体と、前記移動体を前記支持体に対してレンズ光軸方向に磁気駆動する磁気駆動機構と、前記移動体を光軸方向の一方側に付勢して前記磁気駆動機構が停止状態にあるときに前記移動体の当接面が前記支持体の基準面に対して光軸方向で接触する初期状態とするバネ部材と、を有するレンズ駆動装置において、
前記当接面と前記基準面とが接触している状態から前記磁気駆動機構のコイルへの駆動電流を漸増させたときに前記当接面と前記基準面とが離間する際の移動開始電流値(mA)と、前記当接面と前記基準面とが離間している状態から前記磁気駆動機構のコイルへの駆動電流を漸減させたときに前記当接面と前記基準面とが接触した際の移動終了電流値(mA)との差に対して、前記磁気駆動機構によって前記移動体を駆動する際の推力定数(gf/mA)を乗じたときの値が0.2gf以下であり、
前記当接面および前記基準面のうちの少なくとも一方は、UV照射処理面であることを特徴とするレンズ駆動装置。
前記推力定数(gf/mA)を前記当接面と前記基準面との接触面積(mm2)で割ったときの値が0.02((gf/mA)/mm2)以上であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。
前記当接面および前記基準面のうちの少なくとも一方は、前記移動体および前記支持体のうちの一方側から他方側に向けて突出した突部の先端面からなることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ駆動装置。
前記移動体において前記当接面と該当接面側からみて陰になっている個所との間、および前記支持体において前記基準面と該基準面側からみて陰になっている個所との間のうちの少なくとも一方には硬度の差があることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のレンズ駆動装置。
前記移動体において前記当接面と該当接面側からみて陰になっている個所との間、および前記支持体において前記基準面と該基準面側からみて陰になっている個所との間のうちの少なくとも一方には、赤外分光分析を行った際の波数域に吸収ピーク位置の差があることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のレンズ駆動装置。
支持体と、レンズを備えた移動体と、前記移動体を前記支持体に対してレンズ光軸方向に磁気駆動する磁気駆動機構と、前記移動体を光軸方向の一方側に付勢して前記磁気駆動機構が停止状態にあるときに前記移動体の当接面が前記支持体の基準面に対して光軸方向で接触する初期状態とするバネ部材と、を有するレンズ駆動装置において、
前記当接面および前記基準面のうちの少なくとも一方は、UV照射処理面であることを特徴とするレンズ駆動装置。
前記移動体において前記当接面と該当接面側からみて陰になっている個所との間、および前記支持体において前記基準面と該基準面側からみて陰になっている個所との間のうちの少なくとも一方には硬度の差があることを特徴とする請求項7に記載のレンズ駆動装置。
前記移動体において前記当接面と該当接面側からみて陰になっている個所との間、および前記支持体において前記基準面と該基準面側からみて陰になっている個所との間のうちの少なくとも一方には、赤外分光分析を行った際の波数域に吸収ピーク位置の差があることを特徴とする請求項7に記載のレンズ駆動装置。
前記当接面および前記基準面のうちの少なくとも一方は、前記移動体および前記支持体のうちの一方側から他方側に向けて突出した突部の先端面からなることを特徴とする請求項7乃至10の何れか一項に記載のレンズ駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、光軸方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交する方向をX軸方向とし、X軸方向およびZ軸方向に直交する方向をY軸方向とする。また、以下に参照する図面では、X軸方向の一方側をX1側とし、他方側をX2側とし、Y軸方向の一方側をY1側とし、他方側をY2側とし、Z軸方向の一方側(光軸方向後側/像側)をZ1側とし、他方側(光軸方向前側/被写体側)をZ2側として表してある。また、以下に説明するレンズ駆動装置は、カメラ付き携帯電話機の他にも、様々な電子機器に取り付けることが可能である。例えば、薄型のデジタルカメラ、PHS、PDA、バーコードリーダ、監視カメラ、車の背後確認用カメラ、光学的認証機能を有するドア等に用いることができる。
【0029】
(レンズ駆動装置の全体構成)
図1は、本発明を適用したレンズ駆動装置の全体構成を示す説明図であり、
図1(a)、(b)は各々、本発明を適用したレンズ駆動装置を光軸方向前側(被写体側)からみた外観図、および光軸方向前側からみた分解斜視図である。
図2は、本発明を適用したレンズ駆動装置をさらに細かく分解した分解斜視図であり、
図2(a)、(b)は、光軸方向
前側からみた分解斜視図、および光軸方向後側からみた分解斜視図である。
図3は、本発明を適用したレンズ駆動装置をXZ面で切断した様子を示す縦断面図である。なお、
図1(b)、
図2および
図3では、レンズを含めてレンズホルダの全体を省略してある。
【0030】
図1、
図2および
図3において、本形態のレンズ駆動装置1は、カメラ付き携帯電話機等に用いられる薄型カメラにおいて、例えばレンズ36や絞りを光軸L方向に沿って被写体(物体)に近づくA方向(前側)、および被写体とは反対側(像側)に近づくB方向(後側)の双方向に移動させるためのものであり、略直方体形状を有している。レンズ駆動装置1は、概ね、1枚乃至複数枚のレンズ36および固定絞りを内側に備えた円筒状のレンズホルダ37を有する移動体3と、この移動体3をレンズ36の光軸L方向に沿って移動させる磁気駆動機構5と、磁気駆動機構5および移動体3等が搭載された支持体2とを有している。移動体3は筒状のスリーブ13を備えており、その内側に円筒状のレンズホルダ37が固着されることになる。かかる移動体3の外形形状はスリーブ13によって規定され、略四角柱形状を備えている。
【0031】
支持体2は、後側に撮像素子(図示せず)を保持するための矩形の樹脂板からなるホルダ19を有しているとともに、光軸L方向前側には、箱状のヨーク18、およびバネ支持用のスペーサ11を有している。スペーサ11、およびヨーク18のヨーク前板部185の中央には、被写体からの光をレンズ36に取り込むためのスペーサ開口部110およびヨーク開口部180が各々形成されている。ヨーク18のヨーク前板部185において、ヨーク開口部180は、曲率半径の大きな円弧部188と、曲率半径の小さな円弧部189とからなり、スペーサ11において、スペーサ開口部110は、曲率半径の大きな円弧部118と、曲率半径の小さな円弧部119とからなる。ヨーク18は、鋼板等の強磁性板からなり、後述するように、マグネット17とともに、スリーブ13に保持されたコイル31、32に鎖交磁界を発生させる鎖交磁界発生体を構成している。スペーサ11は非磁性の金属製あるいは樹脂製である。
【0032】
ホルダ19は、矩形の底板部分191の中央部分にレンズ36を介して入射した光を撮像素子によって受光可能とする開口部190が形成されている。また、ホルダ19には、コイル31、32に給電を行うためのターミナル部材195a、195cと、ヨーク18を接地するための195bが保持されている。
【0033】
(磁気駆動機構5の構成)
磁気駆動機構5は、スリーブ13の外周面に巻回されたコイル31、32と、コイル31、32に鎖交磁界を発生させる鎖交磁界発生体とを備え、コイル31、コイル32および鎖交磁界発生体により磁気駆動機構5が構成されている。鎖交磁界発生体は、コイル31、32に対して外周側で対向する4つのマグネット17を備えており、本形態では、ヨーク18も磁気駆動機構5の構成要素として用いられている。
【0034】
ヨーク18は、光軸L方向前側に位置するコイル32の前側を覆うヨーク前板部185と、角筒状胴部186とを備えた箱形状を有しており、ヨーク前板部185は、移動体3の光軸L方向前側の端部と対向している。角筒状胴部186は、コイル31、32の側面側を覆う側板部181、182、183、184を備えており、マグネット17とコイル31、32との間に構成される磁路からの漏れ磁束を少なくしている。
【0035】
本形態において、4つのマグネット17は各々、矩形板形状を備えており、ヨーク18の4隅を避けた辺部分において側板部181、182、183、184の内面に固定されている。4つのマグネット17はいずれも光軸L方向において2分割されており、いずれにおいても内面と外面とが異なる極に着磁されている。4つのマグネット17では、例えば、上半分では内面がN極に着磁され、外面がS極に着磁され、下半分では、内面がS極
に着磁され、外面がN極に着磁されている。従って、コイル31とコイル32とでは、コイル線の巻回方向は反対である。
【0036】
(スペーサの構成)
本形態において、スペーサ11は、スペーサ開口部110を備えた矩形枠状部品である。スペーサ11は、ヨーク18のヨーク前板部185の内面に重なった状態でヨーク18に接着等の方法で固定されており、ヨーク前板部185と移動体3との間に介在する。スペーサ11の後側の面には、その角部分から後側に突出した突起(図示せず)を備えており、かかる突起は、以下に説明する前側バネ部材14yを保持する機能を担う。
【0037】
(バネ部材およびその周辺の構成)
本形態のレンズ駆動装置1は、ホルダ19とスリーブ13との間、およびスペーサ11とスリーブ13との間の各々に、支持体2と移動体3とを接続する後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yを備えている。後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yはいずれも、銅合金やSUS系鋼材等といった金属製であり、所定厚の薄板に対するプレス加工、あるいはフォトリソグラフィ技術を用いたエッチング加工により形成したものである。かかる後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yは、移動体3を光軸Lに沿って移動可能に支持体2に支持された状態とする。
【0038】
後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yのうち、ホルダ19側(像側)に配置された後側バネ部材14xは、2つのバネ片14a、14bに2分割されており、コイル31、32の2本の端部(巻き始め端部および巻き終わり端部)は各々、バネ片14a、14bに電気的に接続される。また、2つのバネ片14a、14bは各々、ホルダ19に保持されたターミナル部材195a、195cに電気的に接続されている。従って、後側バネ部材14x(バネ片14a、14b)はコイル31、32に対する給電部材としても機能する。
【0039】
(磁気バネの構成)
レンズ駆動装置1は、さらに、スリーブ13の上端に保持されたリング状の磁性片130を備えており、このような磁性片130は、マグネット17との間に作用する吸引力により移動体3に対して光軸L方向の付勢力を印加する磁気バネを構成する。このため、移動体3が無通電時に自重で変位することを防止することができるため、移動体3に所望の姿勢を維持させ、さらに耐衝撃性を向上させることが可能である。
【0040】
(スリーブ13の構成)
スリーブ13の外周面には、像側端部および前側端部に矩形のリブ状突起138、139が形成されているとともに、リブ状突起138、139で挟まれた中間位置にリブ状突起136が形成されている。このため、スリーブ13の外周面には、リブ状突起136、138で挟まれた部分にコイル31を巻回する部分が形成され、リブ状突起136、139で挟まれた部分にコイル32を巻回する部分が形成されている。
【0041】
スリーブ13においてリブ状突起139の上面は、前側バネ部材14yを連結するためのバネ連結部13yを構成する円環状段部になっており、スリーブ13の下端面(像側端面)は、後側バネ部材14xを連結するためのバネ連結部13xになっている。なお、磁性片130(磁気バネ)は、バネ連結部13yの周りに配置されている。
【0042】
(前側バネ部材14yおよび後側バネ部材14xの詳細構成)
図4は、本発明を適用したレンズ駆動装置1に用いた移動体3の説明図であり、
図4(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、移動体3に後側バネ部材14xを取り付けた様子を光軸方向後側からみた様子を示す斜視図、移動体3と後側バネ部材14xとを分離
した様子を光軸方向後側からみた様子を示す斜視図、移動体3に後側バネ部材14xを取り付けた様子を光軸方向後側からみたときの底面図、移動体3に後側バネ部材14xを取り付けた様子をY軸方向の他方側Y2からみたときの側面図、および移動体3の当接面を拡大して示す説明図である。
【0043】
図2に示すように、前側バネ部材14yは、スリーブ13の前側端部に連結される円環枠状の移動体側連結部144と、移動体側連結部144より外周側でスペーサ11に連結される4つの支持体側連結部143と、支持体側連結部143と移動体側連結部144とを連結する4本のアーム部145とを備えており、移動体側連結部144は、支持体側連結部143より内周側に位置する。4つの支持体側連結部143の各々には、スペーサ11との連結のための穴が形成されている。
【0044】
本形態において、支持体側連結部143は、
図1および
図2を参照して説明したスペーサ11およびヨーク前板部185の4つの角部分と各々重なる位置に設けられており、光軸Lを中心にして周方向で等角度間隔に配置されている。4本のアーム部145はいずれも、支持体側連結部143との接続部分から略円弧状に延在して移動体側連結部144まで延びている。
【0045】
図4(a)、(b)に示すように、後側バネ部材14xは、前側バネ部材14yとサイズや形状がわずかに相違しているが、基本的な構造は、前側バネ部材14yと同様である。すなわち、後側バネ部材14xは、前側バネ部材14yと略同様、スリーブ13に連結される移動体側連結部144と、移動体側連結部144より外周側でホルダ19に連結される4つの支持体側連結部143と、支持体側連結部143と移動体側連結部144とを連結する4本のアーム部145とを備えている。4つの支持体側連結部143の各々には、ホルダ19との連結のための穴が形成されている。支持体側連結部143は、
図1および
図2を参照して説明したホルダ19の4つの角部分と各々重なる位置に設けられており、4本のアーム部145はいずれも、支持体側連結部143との接続部分から略円弧状に延在して移動体側連結部で延びている。ここで、後側バネ部材14xは、移動体側連結部144に設けられた2箇所の途切れ部分によって2つのバネ片14a、14bに分割され、コイル31、32に対する給電部材として利用される。従って、コイル31、32を構成する1本のコイル線の両端部(巻き始め端部および巻き終わり端部)は、2つのバネ片14a、14bにハンダ付け等の方法で接続される。但し、後側バネ部材14xは、製造途中までは、枠状部(図示せず)を介してバネ片14a、14bが繋がっており、レンズ駆動装置1への組み立て途中で2つのバネ片14a、14bに分割される。
【0046】
(基本的な動作)
図3において、本形態のレンズ駆動装置1では、コイル31、32に対する通電を停止して磁気駆動機構5を停止させている休止期間中、後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yの付勢力によって、移動体3は、像側に位置し、スリーブ13の像側端部がホルダ19に弾性をもって当接している初期状態にある。
【0047】
このような初期状態において、コイル31、32に所定方向の電流を流すと、コイル31、32は、それぞれ上向き(前側)の電磁力を受けることになる。これにより、コイル31、32が固着されたスリーブ13は、光軸L方向前側(前側/矢印Aで示す方向)に移動し始めることになる。このとき、前側バネ部材14yとスリーブ13の前側端部との間、および後側バネ部材14xとスリーブ13の像側端部との間には、それぞれスリーブ13の移動を規制する弾性力が発生する。このため、スリーブ13を前側に移動させようとする電磁力と、スリーブ13の移動を規制する弾性力とが釣り合ったとき、スリーブ13は停止する。その際、後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yによってスリーブ13に働く弾性力に応じて、コイル31、32に流す電流量を調整することで、スリーブ
13(移動体3)を所望の位置に停止させることができる。
【0048】
本形態では、後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yとして、弾性力(応力)と変位量(歪み量)との間に線形関係が成立する板バネ(ジンバルバネ)を用いていることから、スリーブ13の移動量とコイル31、32に流す電流との間のリニアリティを向上させることができる。また、後側バネ部材14xおよび前側バネ部材14yからなる2つのバネ部材を用いていることから、スリーブ13が停止したときに光軸Lの方向に大きな釣り合いの力が加わることになり、光軸Lの方向に遠心力や衝撃力等の他の力が働いたとしても、より安定してスリーブ13を停止させることができる。さらに、レンズ駆動装置1では、スリーブ13を停止させるのに、衝突材(緩衝材)等に衝突させて停止させるのではなく、電磁力と弾性力との釣り合いを利用して停止させることとしているので、衝突音の発生を防ぐことも可能である。
【0049】
(移動体3側の当接面および支持体2側の基準面の構成)
図5は、スリーブ13等にUV照射を行った場合の硬度の変化を示す説明図である。
図6は、スリーブ13等にUV照射を行った場合の赤外吸収スペクトルの変化を示す説明図である。
【0050】
本形態のレンズ駆動装置1においては、上記の動作において、磁気駆動機構5を停止させている休止期間中にスリーブ13の像側端部をホルダ19に当接させるにあたって、まず、
図1(b)および
図2(a)に示すように、ホルダ19の底板部分191の前面側には、開口部190に対してX軸方向の一方側X1、X軸方向の他方側X2、Y軸方向の一方側Y1およびY軸方向の他方側Y2で隣り合う位置の4個所に基準面197が形成されている。本形態において、基準面197は、底板部分191から前側に向けて突出した段部196の端面からなる。
【0051】
これに対して、移動体3では、
図4に示すように、スリーブ13の後側部において、基準面197と光軸L方向で重なる4個所には各々、後側に向けて突出した段部135が形成されており、かかる段部135は、基準面197より小さい面積を有している。
【0052】
また、4つの段部135の各々には、後側に向けて突出した円柱状の突部137が形成されており、かかる突部137の先端面によって、スリーブ13の像側端部がホルダ19に当接する際に基準面197に当接する当接面137aが形成されている。本形態において、当接面137aは、4つの段部135の各々に2つずつ形成されており、スリーブ13には計8つの当接面137aが形成されている。このため、移動体3側には、支持体2側の基準面197より小さい面積の段部135が設けられているが、スリーブ13の像側端部がホルダ19に当接した際に実際に接触しているのは、突部137の先端面(当接面137a)と基準面197であり、接触面積が更に狭い。
【0053】
例えば、支持体2側の基準面197と移動体3側の段部135とは、4個所合計で0.984mm
2の重なり面積を有しているが、突部137の先端面(当接面137a)と基準面197との接触面積は、8個所合計で0.248mm
2である。
【0054】
また、本形態では、当接面137aおよび基準面197のうちの少なくとも一方には、当接面137aと基準面197との吸着力を低減する処理が施されている。本形態では、吸着力を低減する処理として、当接面137aおよび基準面197のうちの少なくとも一方にはUV照射処理が施されている。本形態において、UV照射処理は、250nmの単一波長光源を使用しており、積算光量としての標準設定は25.56〜38.75J/cm
2、下限設定は21.2〜31.8J/cm
2としている。UV波長の有効帯域としては、300nm以下がカットされたスポットUV装置や波長172nmエキシマレーザでは
効果がないことを確認しているので上記波長に設定している。
【0055】
より具体的には、本形態では、スリーブ13が液晶ポリマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂製であることから、レンズ駆動装置1を組み立てる前にスリーブ13については、部品単体の状態で光軸L方向の後側からUV照射が行われている。このため、当接面137aはUVが照射された面になっている。従って、レンズ駆動装置1の組み立ての際、当接面137aが汚染されても、その後の洗浄により当接面137aを容易かつ確実に清浄な面にすることができるので、基準面197との吸着力が小さい。例えば、レンズ駆動装置1の組み立ての際、ハンダ付けの際に発生したハンダフラックスの煙が当接面137aに接触して当接面137aが汚染されても、その後のイソプロピルアルコール等による洗浄により当接面137aが清浄な面になるので、基準面197との吸着力が小さい。
【0056】
但し、スリーブ13では、UV照射が光軸L方向の後側から行われているため、スリーブ13を当接面137aが位置する側(光軸L方向の後側)からみた際、スリーブ13の前側端面等、陰になっている部分についてはUVが照射されていない。
【0057】
ここで、本願発明者が繰り返し行った結果によれば、スリーブ13の当接面137aにUV照射処理が行われている場合、スリーブ13のうち、UV照射が行われた領域とUV照射が行われていない領域とでは、硬度に差がある。より具体的には、
図5(a)には、液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13にUV照射を行った場合(未処理)、スリーブ13をUV照射炉に5回通した場合(5pass)、および液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13をUV照射炉に10回通した場合(10pass)の硬度を比較してある。
図5(a)からわかるように、スリーブ13にUVを照射すると、硬度が上昇する。従って、スリーブ13の当接面137aにUV照射処理が行われているか否かは、スリーブ13の当接面137a、およびスリーブ13を当接面137aが位置する側(光軸L方向の後側)からみた際に陰になっている部分の各々に対して硬度の測定を行って判定することができる。すなわち、スリーブ13の当接面137aにUV照射処理が行われている場合には、スリーブ13の当接面137aの硬度が、陰になっている領域の硬度より高い。それ故、スリーブ13の当接面137aの硬度が、陰になっている領域の硬度より高い場合、スリーブ13の当接面137aにUV照射処理が行われていると判定することができる。
【0058】
また、本願発明者が繰り返し行った結果によれば、スリーブ13のうち、UV照射が行われた領域とUV照射が行われていない領域とでは、反射型赤外分光光度計により赤外分光分析を行った際の波数域に吸収ピーク位置の差がある。例えば、スリーブ13が液晶ポリマー樹脂製である場合、スリーブ13のうち、UV照射が行われた領域とUV照射が行われていない領域とでは、反射型赤外分光光度計により赤外分光分析を行った際の1728cm
-1から1743cm
-1の波数域に吸収ピーク位置の差がある。より具体的には、
図6(a)には、液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13にUV照射を行わなかった場合の赤外吸収スペクトルを示し、
図6(b)には、液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13にUV照射を行った場合の赤外吸収スペクトルを示してある。
図6(a)、(b)からわかるように、スリーブ13にUV照射を行わない場合、1737cm
-1に吸収ピークが存在するが、スリーブ13にUV照射を行うと、1737cm
-1に吸収ピークが存在せず、1732cm
-1に吸収ピークが出現する。従って、スリーブ13の当接面137aにUV照射処理が行われているか否かは、スリーブ13の当接面137a、およびスリーブ13を当接面137aが位置する側(光軸L方向の後側)からみた際に陰になっている部分の各々に対して赤外分光分析を行なえば、判定することができる。すなわち、赤外分光分析を行った結果において、スリーブ13の当接面137aと、スリーブ13を当接面137aが位置する側からみた際に陰になっている部分との間において、1728cm
-1から1743cm
-1の波数域に吸収ピーク位置の差がある場合、スリーブ13の当接面137aにUV照射
処理が行われていると判定することができる。ここで、上記のピークはエステル基に由来するピークと考えられるが、UV照射によってピーク位置がシフトする理由については判明していない。
【0059】
また、本形態では、ホルダ19が液晶ポリマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂製であることから、レンズ駆動装置1を組み立てる前にホルダ19については、部品単体の状態で、光軸L方向の前側からUV照射が行われている。このため、基準面197はUVが照射された面になっている。従って、レンズ駆動装置1の組み立ての際、基準面197が汚染されても、その後の洗浄により基準面197が容易かつ確実に清浄な面にすることができるので、当接面137aとの吸着力が小さい。例えば、レンズ駆動装置1の組み立ての際、ハンダ付けの際に発生したハンダフラックスの煙が基準面197に接触して基準面197が汚染されても、その後のイソプロピルアルコール等による洗浄により基準面197が清浄な面になるので、当接面137aとの吸着力が小さい。
【0060】
但し、ホルダ19では、UV照射が光軸L方向の前側から行われているため、ホルダ19を基準面197が位置する側(光軸L方向の前側)からみた際、ホルダ19の後側端面等、陰になっている部分についてはUVが照射されていない。
【0061】
ここで、液晶ポリマー樹脂製のホルダ19では、液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13と同様、基準面197にUV照射処理が行われている場合、ホルダ19のうち、UV照射が行われた領域とUV照射が行われていない領域とでは、硬度に差がある。より具体的には、
図5(b)には、ホルダ19にUV照射を行った場合(未処理)、ホルダ19をUV照射炉に5回通した場合(5pass)、およびホルダ19をUV照射炉に10回通した場合(10pass)の硬度を比較してある。
図5(b)からわかるように、ホルダ19にUVを照射すると、硬度が上昇する。従って、ホルダ19の基準面197の硬度が、陰になっている領域の硬度より高い場合、ホルダ19の基準面にUV照射処理が行われていると判定することができる。
【0062】
また、液晶ポリマー樹脂製のホルダ19でも、液晶ポリマー樹脂製のスリーブ13と同様、UV照射が行われた領域とUV照射が行われていない領域とでは、反射型赤外分光光度計により赤外分光分析を行った際の1728cm
-1から1743cm
-1の波数域に吸収ピーク位置の差がある。従って、赤外分光分析を行った結果において、ホルダ19の基準面197と、ホルダ19を基準面197が位置する側からみた際に陰になっている部分との間において、1728cm
-1から1743cm
-1の波数域に吸収ピーク位置の差がある場合、ホルダ19の基準面197にUV照射処理が行われていると判定することができる。
【0063】
なお、上記説明では、スリーブ13やホルダ19が液晶ポリマー樹脂製である場合を説明したが、スリーブ13やホルダ19が液晶ポリマー樹脂以外の樹脂製である場合、例えば、スリーブ13やホルダ19がポリアミド樹脂製である場合も同様である。この場合、ポリアミド樹脂製のスリーブ13やホルダ19にUV照射を行わない場合、1635cm
-1に吸収ピークが存在するが、スリーブ13やホルダ19にUV照射を行うと、1635cm
-1に吸収ピークが存在せず、1627cm
-1に吸収ピークが出現する。
【0064】
(駆動特性)
図7は、本発明を適用したレンズ駆動装置1の駆動特性を示す説明図であり、磁気駆動機構5のコイル31、32に供給した駆動電流値と移動体3の変位量との関係を示すグラフである。
【0065】
本形態では、スリーブ13の像側端部がホルダ19に当接した際に実際に接触している
のは、突部137の先端面(当接面137a)と基準面197であり、接触面積が狭い。また、当接面137aおよび基準面197には、当接面137aと基準面197との吸着力を低減する処理として、UV照射が行われている。このため、当接面137aと基準面197との吸着力が小さいので、レンズ駆動装置1は、
図7に示す駆動特性を示す。
【0066】
より具体的には、コイル31、32に供給する駆動電流のレベルが低い区間において、移動体3に用いたスリーブ13の当接面137aと支持体2に用いたホルダ19の基準面197とが接触している状態から磁気駆動機構5のコイル31、32への駆動電流を漸増させたとき、駆動電流値と移動体の変位量とは、
図7に矢印L1で示す関係がある。これに対して、スリーブ13の当接面137aとホルダ19の基準面197とが離間している状態から磁気駆動機構5のコイル31、32への駆動電流を漸減させたとき、駆動電流値と移動体の変位量とは、
図7に矢印L2で示す関係がある。ここで、矢印L1に示す関係と矢印L2に示す関係とを比較するとわかるように、当接面137aと基準面197とが接触している状態からコイル31、32への駆動電流を漸増させたときに当接面137aと基準面197とが離間する際の移動開始電流値I1(mA)と、当接面137aと基準面197とが離間している状態からコイル31、32への駆動電流を漸減させたときに当接面137aと基準面197とが接触した際の移動終了電流値I2(mA)との間には、当接面137aと基準面197との吸着力に起因する差ΔI5が存在するが、本形態では、差ΔI5が極めて小さい。
【0067】
従って、移動開始電流値I1(mA)と移動終了電流値I2(mA)との差ΔI5が小さいレンズ駆動装置1を実現することができる。ここで、差ΔI5の絶対値を直接管理しただけでは、各種タイプのレンズ駆動装置1での吸着力を適正に管理することができない。すなわち、磁気駆動機構5によって移動体3を駆動した際の推力定数(gf/mA)が変われば、吸着力が一定でも、差ΔI5が変わるからである。そこで、本形態では、差ΔI5に対して、磁気駆動機構5によって移動体3を駆動した際の推力定数(gf/mA)を乗じたときの値を管理するとともに、かかる値が0.2gf以下のレンズ駆動装置1を実現したことに特徴を有する。
【0068】
例えば、本形態によれば、推力定数(gf/mA)が0.0188(gf/mA)で、差ΔI5が2.3(mA)のレンズ駆動装置1を実現することができ、この場合、差ΔI5に対して推力定数(gf/mA)を乗じたとき値は0.043であり、0.2gf以下である。なお、差ΔI5に対して推力定数(gf/mA)を乗じて得た値は、差ΔI5を荷重に換算した値であり、吸着力の管理に適している。
【0069】
また、差ΔI5に対して推力定数(gf/mA)を乗じて得た値を0.2gf以下にすれば、移動体3と支持体2との吸着力が小さいので、支持体2に対して移動体3が光軸L方向で接触する初期状態から直接、所定位置に移動体3を移動させる場合でも、移動体3の位置を精度よく制御することができる。
【0070】
よって、コイル31、32に供給する駆動電流のレベルが低い区間において、移移動体3が支持体2に対して光軸L方向で接触する初期状態から直接、所定位置に移動体3を移動させる場合でも、移動体3の位置を精度よく制御することができる。
【0071】
また、本形態では、磁気駆動機構5によって移動体3を駆動した際の推力定数(gf/mA)を当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)で割ったときの値が0.02((gf/mA)/mm
2)以上である。例えば、推力定数(gf/mA)が0.0188(gf/mA)で、当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)が0.248mm
2であるから、推力定数(gf/mA)を当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)で割ったときの値は、0.076((gf/mA)/mm
2)であり、
0.02((gf/mA)/mm
2)以上である。すなわち、推力定数(gf/mA)が大きいわりには、当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)が小さい。それ故、移動体3と支持体2との吸着力を効率よく低減することができる。
【0072】
かかる値に基づいて管理すれば、推力定数(gf/mA)および当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)を双方のバランスとして管理できるので、移動体3と支持体2との吸着力による影響を抑制するのに効果的である。また、磁気駆動機構5によって移動体3を駆動した際の推力定数(gf/mA)を当接面137aと基準面197との接触面積(mm
2)で割ったときの値が0.02((gf/mA)/mm
2)以上に設定すれば、移動体3と支持体2との吸着力の影響を受けにくいので、支持体2に対して移動体3が光軸L方向で接触する初期状態から直接、所定位置に移動体3を移動させる場合でも、移動体3の位置を精度よく制御することができる。
【0073】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態のレンズ駆動装置1では、移動体3と支持体2との吸着力を低減してあるため、移動体3が支持体2に対して光軸L方向で接触する初期状態から直接、所定位置に移動体3を移動させる場合でも、移動体3の位置を精度よく制御することができる。このため、コイル31、32に供給する駆動電流のレベルが低い区間で移動体3の位置を制御することができる。それ故、磁気駆動機構5を駆動するのに必要な電力消費を低減することができる等の利点がある。
【0074】
(
参考形態)
上記実施の形態では、当接面137aと基準面197との吸着力を低減する処理として、UV照射処理を採用したが、当接面137aおよび基準面197に対する処理としては、サンドペーパーやサンドブラスト等による粗面化処理や、プラズマ放電やコロナ放電やレーザ照射等を利用した粗面化処理や、金型加工による梨地処理等を利用した粗面化処理を利用してもよい。
【0075】
(他の実施形態)
また、上記実施の形態では、当接面137aおよび基準面197の双方に対して、吸着力を低減する処理を行ったが、当接面137aおよび基準面197の一方に対して、吸着
力を低減する処理を行ってもよい。