特許第5872296号(P5872296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872296
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】浚渫装置及び浚渫工法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/88 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   E02F3/88 E
   E02F3/88 J
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-3072(P2012-3072)
(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-142253(P2013-142253A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】平井 義人
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−009386(JP,A)
【文献】 特開2002−019693(JP,A)
【文献】 特開昭57−012879(JP,A)
【文献】 特開平03−250125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げる汲み上げ手段と、汲み上げた土砂及び水を仮置きして土砂を沈降させる貯留槽と、該貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却する冷却手段と、前記貯留槽内で土砂と分離した水を、水中に戻す放出手段とを含み、
前記冷却手段は、前記貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材を備えることを特徴とする浚渫装置。
【請求項2】
前記放出手段を構成する排水管は、前記貯留槽の液面の上方を通るように配管され、該排水管に前記吸水性部材が吊下げられていることを特徴とする請求項記載の浚渫装置。
【請求項3】
前記排水管と前記吸水性部材とが、熱伝達可能に固定されていることを特徴とする請求項記載の浚渫装置。
【請求項4】
前記排水管は、前記貯留槽の水面の上方を蛇行する配管経路を有することを特徴とする請求項又は記載の浚渫装置。
【請求項5】
前記貯留槽を覆う日除け手段を備えることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載の浚渫装置。
【請求項6】
前記吸水性部材に風を送る送風手段を備えることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載の浚渫装置。
【請求項7】
水底の土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げ、汲み上げた土砂及び水を気中の貯留槽に仮置きして土砂を沈降させながら、土砂と分離した水を、前記貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材によって液面の上方へと導き、気中において前記吸水性部材から水が蒸発する際の気化熱を利用して冷却した後、前記貯留槽内で土砂と分離した水を水中に戻し、土砂を回収することを特徴とする浚渫工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫装置及び浚渫工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている浚渫工法では、図3に示されるような浚渫装置100が用いられている。この浚渫装置100は、例えば、汲み上げ手段として、ポンプPを搭載するポンプ船12を用い、汲み上げ管13を水底に延ばし、ポンプPにより水底Gの土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げ、貯留槽14としての土運船に仮置きするものである。そして、貯留槽14に土砂を沈降させた後、土砂と分離した水(以下、「返還水」という。)Wを水中に戻して、土砂のみを回収するものである(例えば、特許文献1参照)。又、貯留槽14の返還水を水中に戻す放出手段としての排水管15を、水底Gにまで延ばすことで、返還水Wを元の水底へと還流させるものである。なお、必要に応じて、排水管15にもポンプを設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−330731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、上記浚渫工法において、貯留槽14に汲み上げた土砂及び水を仮置きして、土砂を沈降させる際に、土砂と水とを十分に分離するためには、相当の時間を要することとなる。その間に、図4に示されるように日射Sの影響を受けると、貯留槽に仮置きされた土砂及び水の混合液の温度が上昇して、水の密度が小さくなる。この温度上昇した変換水Wを、水底Gにまで延ばした排水管15によって水中へと戻すと、周辺の水との密度差により、返還水Wは水底Gの近傍に戻ることなく、図4中に矢印で模式的に示されるように上昇し、周辺の水域の水面近くに移流、拡散して、周辺水域の環境に変化を及ぼすおそれがある。又、浚渫水域では水底近傍に浮泥が発生することが多く、返還水Wの水中における流れに乗って浮泥が水面へと巻上げられ、水面付近を濁らせてしまうおそれもある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、浚渫に伴い生じる返還水が、周辺水域の水面近くに拡散することを防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)水底の土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げる汲み上げ手段と、汲み上げた土砂及び水を仮置きして土砂を沈降させる貯留槽と、該貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却する冷却手段と、前記貯留槽内で土砂と分離した水を、水中に戻す放出手段とを含む浚渫装置。
本項に記載の浚渫装置は、汲み上げ手段によって貯留槽に汲み上げた土砂及び水を、貯留槽に仮置きして土砂を沈降させる際に相当の時間を置くと共に、冷却手段によって、貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却するものである。そして、貯留槽に仮置きされた土砂及び水の混合液の温度が、その間に日射の影響等を受けて上昇することを防ぎつつ、土砂と水とを十分に分離させた後、放出手段によって返還水を水中へと戻すものである。
【0007】
(2)上記(1)項において、前記冷却手段は、前記貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材を備える浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、冷却手段の吸水性部材が、貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出することにより、吸水性部材によって吸収した水を、いわゆる毛管現象を利用して、吸水性部材を介して液面の上方へと導くものである。そして、気中において吸水性部材から水が蒸発する際の気化熱により、動力を用いることなく、貯留槽内で土砂及び水の混合液を冷却するものである。
【0008】
(3)上記(2)項において、前記放出手段を構成する排水管は、前記貯留槽の液面の上方を通るように配管され、該排水管に前記吸水性部材が吊下げられている浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、放出手段を構成する排水管が、貯留槽の液面の上方を通るように配管され、排水管に吸水性部材が吊下げられることで、吸水性部材は、貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出した状態に保持されるものである。
【0009】
(4)上記(3)項において、前記排水管と前記吸水性部材とが、熱伝達可能に固定されている浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、排水管と吸水性部材とが、熱伝達可能に固定されていることで、気中において吸水性部材から水が蒸発する際の気化熱により、排水管の冷却も行うものである。
【0010】
(5)上記(3)(4)項において、前記排水管は、前記貯留槽の液面の上方を蛇行する配管経路を有する浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、排水管が、貯留槽の液面の上方を蛇行する配管経路を有することで、前記排水管は、前記貯留槽の液面の上方における配管経路長を延ばすものである。そして、排水管に吊下げられる吸水性部材の設置面積を増加させるものである。
【0011】
(6)上記(2)から(5)項において、前記貯留槽を覆う日除け手段を備える浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、貯留槽を覆う日除け手段を備えることで、貯留槽に仮置きされた水に対する日射の影響を低減するものである。なお、日除け手段は、貯留槽の上方における通風性を損わないものが望ましい。
(7)上記(2)から(6)項において、前記吸水性部材に風を送る送風手段を備える浚渫装置(請求項)。
本項に記載の浚渫装置は、送風手段によって吸水性部材に風を送ることで、吸水性部材をいわゆる強制空冷し、気中における吸水性部材からの水の蒸発を促進するものである。
【0012】
(8)水底の土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げ、汲み上げた土砂及び水を気中の貯留槽に仮置きして土砂を沈降させながら、土砂と分離した水を、前記貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材によって液面の上方へと導き、気中において前記吸水性部材から水が蒸発する際の気化熱を利用して冷却した後、前記貯留槽内で土砂と分離した水を水中に戻し、土砂を回収する浚渫工法(請求項)。
本項に記載の浚渫工法は、貯留槽に汲み上げた土砂及び水を、貯留槽に仮置きして土砂を沈降させる際に相当の時間を置くと共に、貯留槽内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却するものである。しかも、貯留槽内で土砂と分離した水を、動力を用いることなく、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材によって液面の上方へと導き、気中において水が蒸発する際の気化熱により冷却するものである。そして、貯留槽に仮置きされた水の温度が、その間に日射の影響等を受けて上昇することを防ぎつつ、土砂と水とを十分に分離させた後、返還水を水中へと戻すものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明はこのように構成したので、浚渫に伴い生じる返還水が、周辺水域の水面近くに拡散することを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る浚渫装置の貯留槽周辺部の構成を示すものであり、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る浚渫装置の効果を示す模式図である。
図3】従来の浚渫装置の構成を示す模式図である。
図4】従来の浚渫装置の課題を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1には、本発明の実施の形態に係る浚渫装置10の、貯留槽14の周辺部の構成を示している。浚渫装置10は、水底の土砂を周辺部の水と共に気中に汲み上げる汲み上げ手段としての汲み上げ管13と、汲み上げた土砂及び水を仮置きして土砂を沈降させる貯留槽14と、貯留槽14内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却する冷却手段16と、貯留槽14内で土砂と分離した水を、水中に戻す放出手段としての排水管15を備えている。なお、汲み上げ管13は、図3の従来例と同様に、ポンプ船12のポンプPを介して水底Gへと延びているが、ここでは図示を省略している。
【0016】
冷却手段16は、貯留槽14内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出する吸水性部材18を備えている。この吸水性部材18には、吸水性が高く、広い表面積を有するシート状の部材、例えば、布や紙等が用いられる。又、排水管15は、貯留槽14の液面の上方を通るように配管されており、この排水管15に、吸水性部材18が、いわば暖簾のように吊下げられている。又、必要に応じ、排水管15と吸水性部材18とが、熱伝達可能となるように、両者が密着する態様で(若しくは熱伝導性の高い吊下げ部材を介して)固定される。
好ましくは、排水管15は、図示のように貯留槽14の液面の上方を蛇行する配管経路を有しており、吸水性部材18も、この蛇行する排水管15に沿って、蛇行するように設けられている。
【0017】
更に、必要に応じて、冷却手段16には、貯留槽14を覆う日除け手段20が設けられている。日除け手段20は、貯留槽14の上方における通風性を損わないものが望ましく、例えば、金属製のルーバーや、よしず等の自然素材も利用可能である。
又、冷却手段16として、吸水性部材に風を送る送風手段22を設けることとしても良い。送風手段22は電動ファン等が用いられ、吸水性部材18に効率的に風が当たる位置に配置されるものである。
これら日除け手段20及び送風手段22は、適切な固定手段によって、貯留槽14に対して着脱自在に設置される。
【0018】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。本発明の実施の形態では、汲み上げ管13によって貯留槽14に汲み上げた土砂及び水を、貯留槽14に仮置きして土砂を沈降させる際に相当の時間を置くと共に、冷却手段16によって、貯留槽14内に仮置きされた土砂及び水の混合液を冷却するものである。
従って、貯留槽14に仮置きされた土砂及び水の混合液の温度が、日射S(図2)の影響等を受けて上昇することを防ぐことができる。そして、混合液から水が分離される過程での温度上昇が、周辺水域の深層水の水温と同等程度に抑えられる場合には、水底Gにまで延びた排水管15から放出される低温の返還水Wは、図2に示されるように、水底Gの近傍に留まるようにして、水底Gに沿って拡散することとなる。又、若干の温度上昇が生じたとしても、周辺水域の中層水の水温と同程度に抑えられることで、この中温(深層水の水温と水面近傍の水の水温との、中間の温度)の返還水Wは、図2に示されるように、水底Gの近傍から若干浮上したとしても中層に留まるように拡散し、水面近傍まで上昇することを防ぐことができる。よって、返還水W、Wが周辺水域の環境に変化を及ぼすこともなく、又、水底の浮泥が巻上げられて、水面付近を濁らせてしまうことも防ぐことが可能となる。
【0019】
又、本発明の実施の形態によれば、冷却手段16の吸水性部材18が、貯留槽14内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出することにより、吸水性部材18によって吸収した水を、いわゆる毛管現象を利用して、吸水性部材18を介して液面の上方へと導くことができる。そして、気中において吸水性部材18から水が蒸発する際の気化熱Eh(図2参照)により、動力を用いることなく、貯留槽14内の土砂及び水の混合液(所定時間経過後は土砂と分離した水)を冷却することが可能となる。
なお、気化熱Ehによる水温上昇の抑制効果には、本装置の設置場所における気象条件(気温、湿度、日射、風等)が影響することから、吸水性部材18の設置態様(設置面積、設置間隔等)は、現地での事前試験等によって定めることとする。
【0020】
又、本発明の実施の形態では、排水管15が、貯留槽14の液面の上方を通るように配管され、排水管15に吸水性部材18が吊下げられることで、専用の吊下げ手段を用いることなく、吸水性部材18は、貯留槽14内に仮置きされた土砂及び水の混合液に浸され、かつ、一部が液面の上方へと露出した状態に保持することが可能となる。
更に、排水管15と吸水性部材18とが、熱伝達可能に固定されることすれば、気中において吸水性部材18から水が蒸発する際の気化熱により、排水管15の冷却も効率的に行うことが可能となり、返還水Wの冷却効果を、より一層高めることが可能となる。
【0021】
又、排水管15が、貯留槽14の液面の上方を蛇行する配管経路を有することで、排水管15は、貯留槽14の液面の上方における配管経路長を延ばすこととなる。そして、排水管15に吊下げられる吸水性部材18の設置面積を増加させ、返還水Wの冷却効果を高めることが可能となる。
更に、貯留槽を覆う日除け手段20を備えることで、貯留槽14に仮置きされた水に対する日射Sの影響を低減することが可能となる。
加えて、必要に応じ送風手段22によって吸水性部材18に風を送ることで、吸水性部材18をいわゆる強制空冷し、気中における吸水性部材18からの水の蒸発を促進して、返還水Wの冷却効果を更に高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
10:浚渫装置、13:汲み上げ管、14:貯留槽、15:排水管、16:冷却手段、18:吸水性部材、20:日除け手段、22:送風手段、Eh:気化熱、G:水底、 W、W、W:返還水
図1
図3
図2
図4