特許第5872299号(P5872299)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872299
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】燃料タンク用弁装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   F02M37/00 301E
   F02M37/00 311A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-6415(P2012-6415)
(22)【出願日】2012年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-144969(P2013-144969A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏男
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−173396(JP,A)
【文献】 特開平09−042092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00−15/10
F02M 37/00−37/22
F16K 31/18−31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクに取付けられる燃料タンク用弁装置であって、
前記燃料タンク内と前記燃料タンク外とに通じる通気路と、
前記通気路の開口を閉鎖する位置である上方位置と前記通気路の開口を開放する位置である下方位置とに前記燃料タンク内の液位の変動によって変位するフロートとを備え、
前記フロートの上部が、
前記開口の周囲との接触によって前記開口を閉鎖する平坦面である端面と、
前記端面の外縁から下方に延びる周面とを有し、
前記端面を有した円筒部であって一定の外径からなる円筒面を外周面とする先端円筒部と、
前記外周面に連続し、かつ、前記外周面の中心軸が含まれる断面にて前記端面の下方かつ前記端面の外方に張り出す弧状を有し、前記先端円筒部が有する厚さよりも厚い周面を外周面として有した中間円筒部とを備え、
前記フロートの上部の周面が、
前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる部分を有し、かつ、前記先端円筒部の外周面と前記中間円筒部の外周面とから構成される
ことを特徴とする燃料タンク用弁装置。
【請求項2】
前記端面を第1の平坦面とし、
前記フロートの上部が、前記第1の平坦面の下方且つ前記第1の平坦面の外方となる部位に、前記第1の平坦面と平行な第2の平坦面を有し、
前記フロートの上部の周面が、前記第1の平坦面と前記第2の平坦面とを連結する
請求項1に記載の燃料タンク用弁装置。
【請求項3】
前記開口を第1の開口とし、
前記通気路が、
前記第1の開口よりも大きい第2の開口を有する筒部と、
前記第1の開口を有する環状のシール部材とから構成され、
前記シール部材が、
前記フロートに対して上方及び下方に相対的に変位可能に連結され、
前記第2の開口を開放する開放位置と、前記第2の開口に前記第1の開口を通じさせて前記第2の開口の一部を閉鎖する閉鎖位置とに変位し、
前記フロートの前記上方位置への変位とともに前記閉鎖位置へ変位し、
前記フロートの前記下方位置への変位により前記開放位置に変位する
請求項1又は2に記載の燃料タンク用弁装置。
【請求項4】
前記フロートの上部の周面が、前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる溝を有する
請求項1〜のいずれか一項に記載の燃料タンク用弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、車両の燃料タンクに取付けられる弁装置であり、特に燃料タンクに貯められる燃料の液面の位置によって開弁と閉弁とを切替える弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に記載されるように、燃料タンク用弁装置にて液面の位置を検知する機能は、液面の位置の変動によって変位するフロートが担っている。図4は、こうした燃料タンク用弁装置の全体的な断面構造を示す断面図である。図5は、燃料タンク用弁装置を構成するフロートの詳細な断面構造を各別に示す断面図である。図6図7とは、燃料の液面の位置が互いに異なるときのフロートの作用を説明する作用図である。
【0003】
図4に示されるように、燃料タンク用弁装置50を構成する下側弁体ケース60は、二重の筒体形状をなしている。下側弁体ケース60にて、外側の筒部である外側筒部61と内側の筒部である内側筒部62との隙間では、内側筒部62の外周面から放射状に延びる複数の連結板63が、外側筒部61と内側筒部62とを連結している。また、外側筒部61と内側筒部62との隙間には、複数の連結板63に支持されるコイルばね64が内側筒部62の周囲で巻かれている。
【0004】
燃料タンク用弁装置50を構成する上側弁体ケース70は、互いに直交する二つの筒部が一体に成形されてなるL字状の筒体形状をなしている。上側弁体ケース70にて一方の筒部である収容筒部71は、それの開口端部で外側筒部61に嵌め込まれる有蓋の筒部である。また、上側弁体ケース70にて他方の筒部である通気筒部72は、収容筒部71の上部であるケース蓋部71tに一体に成形されて、燃料タンク内と燃料タンク外とを通じる通気路を構成している。通気筒部72の両端部のうち一方の端部である曲折端部72aは、収容筒部71のケース蓋部71tに貫通する通気孔71hを介して収容筒部71の内部に通じている。通気筒部72の両端部のうち他方の端部である接続端部72bは、例えば燃料の蒸散を抑えるキャニスターに通じている。そして、外側筒部61と内側筒部62との隙間と、内側筒部62の筒内と、通気筒部72の筒内と、通気孔71hとを介して、燃料タンクの内部とキャニスターとが通じている。なお、ケース蓋部71tの内側面のうち、通気孔71hの開口の周囲には、円環状をなすケース側接触部73が突出している。
収容筒部71の内部には、収容筒部71と同一軸心となる有蓋の円筒状をなすフロート80と、フロート80と同じ外径を有する円板形状の弁体90とが収容されている。
【0005】
図5に示されるように、フロート80は、収容筒部71の内径よりも小さい外径を有する有蓋の円筒形状をなしている。フロート80における軸方向の両端部のうち、下側弁体ケース60側の端部であるフロート下部には、円形孔状のばね収容孔81が形成され、このばね収容孔81には、先に説明した内側筒部62とコイルばね64とが収容される。そして、フロート80は、下側弁体ケース60から上側弁体ケース70に向けて、コイルばね64によって付勢されている。
【0006】
フロート80における軸方向の両端部のうち、通気筒部72側の端部であるフロート上部の中央には、通気孔71hに向けて延びる円柱状をなすフロート側接触部82が突出している。また、フロート側接触部82の周囲には、フロート80の径方向の外側に折れ曲がる鍵状をなす先端部を有してフロート上部からケース蓋部71tに向けて延びる係合部83が突出している。
【0007】
弁体90は、フロート80と同じ外径を有する円板形状をなして、弁体90の中央部を貫通する円形孔状の固定孔92hを有している。また、固定孔92hの周囲には、弁体90の径方向の内側に折れ曲がる鍵状をなす先端部を有してフロート上部に向けて延びる複数の被係合部91が突出している。複数の被係合部91の各々にて、フロート80の軸方向における長さは、上記係合部83よりも長く、これら複数の被係合部91の各々の先端部が、係合部83の先端部と係合している。この構成により、フロート80に対する弁体90の上方と下方への相対的な変位が許容され、且つ弁体90の移動範囲が係合部83の長さによって規制される。
【0008】
弁体90の側面のうちケース蓋部71tの内側面と向い合う取付け面90tには、傘状をなすシール部材93が取り付けられている。シール部材93を構成するケースシール部93aは、ケース側接触部73よりも大きい外径を有して取付け面90tに沿い広がる円板形状をなしている。また、シール部材93を構成するフロートシール部93bは、ケース側接触部73よりも小さい外径を有してケースシール部93aの中央からフロート側接触部82に向けて延びる円筒状をなしている。そして、フロートシール部93bが固定孔92hに嵌め込まれることによって、シール部材93が被係合部91に対して固定される。この構成により、フロート側接触部82に対するフロートシール部93bの上方と下方への相対的な変位が許容され、且つフロートシール部93bの移動範囲が係合部83の長さによって規制される。
【0009】
上述した構成からなる燃料タンク用弁装置では、例えば、燃料タンクが傾くことでフロート80の一部が燃料に浸かると、コイルばね64の付勢力とフロート80の浮力とをフロート80が受ける。そして、通気孔71hに最も近い位置である上方位置にフロート80が配置される。
【0010】
この際、図6に示されるように、コイルばね64の付勢力とフロート80の浮力とによって、フロート側接触部82がフロートシール部93bを通気孔71hに向けて押す。また、フロート側接触部82の押す力がシール部材93の全体に作用することによって、ケースシール部93aがケース側接触部73を押す。その結果、通気孔71hの開口とフロートシール部93bの開口とが閉じられて、収容筒部71の筒内と通気筒部72の筒内とを接続する通路がフロート80と弁体90とによって遮断される。これによって、燃料タンク内の燃料がキャニスターに流れることを抑えることが可能となる。
【0011】
この状態から、燃料タンクの内部における液位がフロート80よりも下がると、フロート80に対して浮力が作用せず、コイルばね64の付勢力に抗した自重がフロート80に対して作用するようになる。
【0012】
この際、上側弁体ケース70内の気圧が通気筒部72内の気圧よりも高い場合が少なくないため、シール面積がフロートシール部93bよりも大きいケースシール部93aでは、こうした圧力差によって押す力も大きくなる。その結果、図7に示されるように、ケース側接触部73がケースシール部93aを押し続ける位置である閉鎖位置に弁体90が配置される状態で、まず、フロート側接触部82がフロートシール部93bから離れる。そして、係合部83の先端部と被係合部91の先端部とが係合する位置である下方位置までフロート80が下がる。これによって、燃料タンク内と燃料タンク外とを通じる通気路が、通気筒部72とフロートシール部93bとから構成される。その結果、上側弁体ケース70内の気圧と通気筒部72内の気圧とが互いに等しくなる。
【0013】
次いで、上側弁体ケース70内の気圧と通気筒部72内の気圧との圧力差が無くなると、ケースシール部93aがケース側接触部73から離れ、図4に示されるように、通気孔71hから最も離れた位置である最下位置にフロート80が配置される。その結果、ケースシール部93aやケース側接触部73の大型化が求められる場合にも、圧力差によって押す力がフロートシール部93bにて先行して解除されるため、ケースシール部93aとケース側接触部73との接触の解除を容易に行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−132917号公報
【0015】
【特許文献2】特開平02−112658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、上述の燃料タンク用弁装置では、フロート80が下方位置あるいは最下位置に配置される状態で収容筒部71内にて燃料が飛散する場合ある。この場合には、フロート側接触部82の上面やケースシール部93aの上面に燃料が付着して、その上面に溜まる燃料の一部が、通気筒部72の内部やキャニスターにまで到達する場合がある。それゆえに、上述の燃料タンク用弁装置には、燃料タンクをその内部から密閉する部分である密閉部分に燃料が溜まることを抑えることが望まれている。
【0017】
なお、上述の密閉部分に燃料が溜まることを抑える要請は、密閉部分が液位によって変位する燃料タンク用弁装置に対して共通する。例えば、通気筒部が燃料の供給路に接続される燃料タンク用弁装置にも、密閉部分に燃料が溜まることを抑えることは望まれている。また、シール部材がフロートに固定されて、ケース側接触部73に対するシール部材の接触と離脱とがフロートの変位によって切替えられる燃料タンク用弁装置にも、密閉部分に燃料が溜まることを抑えることは望まれている。
本開示の技術は、燃料タンクをその内部から密閉する部分に燃料が溜まることを抑えることの可能な燃料タンク用弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以下、上記課題を解決するための本開示の技術における燃料タンク用弁装置をその作用と効果とともに説明する。
【0019】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の一態様は、燃料タンクに取付けられる燃料タンク用弁装置であって、前記燃料タンク内と前記燃料タンク外とに通じる通気路と、前記通気路の開口を閉鎖する位置である上方位置と前記通気路の開口を開放する位置である下方位置とに前記燃料タンク内の液位の変動によって変位するフロートとを備え、前記フロートの上部が、前記開口の周囲との接触によって前記開口を閉鎖する平坦面である端面と、前記端面の外縁から下方に延びる周面とを有し、前記周面が、前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる部分を有する。
【0020】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の一態様によれば、通気路が開放されている状態でフロートの端面に燃料が飛散しても、端面における外縁の近傍に付着した燃料は、周面に沿いながら端面の外方且つ下方に流動することになる。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分であるフロートの端面に燃料が溜まることを抑えることが可能である。
【0021】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様は、前記端面を第1の平坦面とし、前記フロートの上部が、前記第1の平坦面の下方且つ前記第1の平坦面の外方となる部位に、前記第1の平坦面と平行な第2の平坦面を有し、前記周面が、前記第1の平坦面と前記第2の平坦面とを連結する。
【0022】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様によれば、第1の平坦面の下方且つ第1の平坦面の外方となる部位に第2の平坦面が形成されているため、第1の平坦面に対する下方からの燃料の飛散そのものが第2の平坦面によって抑えられる。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分である第1の平坦面に燃料が溜まることをさらに抑えることが可能である。
【0023】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様は、前記開口を第1の開口とし、前記通気路が、前記第1の開口よりも大きい第2の開口を有する筒部と、前記第1の開口を有する環状のシール部材とから構成され、前記シール部材が、前記フロートに対して上方及び下方に相対的に変位可能に連結され、前記第2の開口を開放する開放位置と、前記第2の開口に前記第1の開口を通じさせて前記第2の開口の一部を閉鎖する閉鎖位置とに変位し、前記フロートの前記上方位置への変位とともに前記閉鎖位置へ変位し、前記フロートの前記下方位置への変位により前記開放位置に変位する。
【0024】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様によれば、フロートが下方位置に変位して第1の開口が開放されることによって、シール部材が開放位置に変位して第2の開口が開放される。こうした構成であれば、燃料タンク内の気圧が燃料タンク外の気圧よりも高い場合、第2の開口が開放される前に第1の開口が開放されて、まず、圧力差によってシール部材を押す力が解除される。それゆえに、シール部材が閉鎖位置に固定され続けることを抑えて、液面の位置に応じた開弁の応答性を高めることが可能となる。
【0025】
この際、第1の開口が第2の開口よりも小さいため、同じ圧力差のもとで第2の開口が開放される場合と比べて、第1の開口が開放される場合には、第1の開口の周辺にて気体の流速が高くなる。すなわち、第1の開口を密閉するフロートの端面にて、気体の流速が高くなる。それゆえに、端面における外縁の近傍に付着した燃料を端面の外方且つ下方に流動させる作用がさらに有効的となる。
【0026】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様は、前記周面が、円筒面であり、前記周面にて前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる部分が、前記周面の中心軸が含まれる断面にて、前記端面の下方且つ前記端面の外方に張り出す弧状である。
【0027】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様によれば、周面が斜面である場合と比べて、端面における周縁の近傍に付着した燃料が端面から流動しやすく、且つ周面に付着した燃料が端面に流動し難くなる。
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様は、前記周面にて前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる部分が、斜面である。
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様によれば、周面が複雑な曲面である場合と比べて、周面の形成を容易なものとすることが可能となる。
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様は、前記周面が、前記端面の下方且つ前記端面の外方に向けて延びる溝を有する。
【0028】
本開示の技術における燃料タンク用弁装置の他の態様によれば、端面における外縁の付近に付着した燃料が、端面の下方且つ端面の外方に向けて、溝によって案内される。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分であるフロートの端面に燃料が溜まることを抑える効果がさらに顕著なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示の技術における燃料タンク用弁装置の一実施形態におけるフロートの断面構造と弁体の断面構造とを示す断面図である。
図2】一実施形態におけるフロートの側面構造の一部を拡大して示す部分側面図である。
図3】変形例における弁体の断面構造の一部を拡大して示す部分断面図である。
図4】従来例の燃料タンク用弁装置の全体的な断面構造を示す断面図である。
図5】従来例の燃料タンク用弁装置におけるフロートの断面構造と弁体の断面構造とを各別に示す断面図である。
図6】従来例の燃料タンク用弁装置にてフロートの作用を説明する作用図である。
図7】従来例の燃料タンク用弁装置にてフロートの作用を説明する作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の技術における燃料タンク用弁装置の一実施形態について図1図2とを参照して説明する。なお、本実施形態における燃料タンク用弁装置は、図4図7を参照して説明した燃料タンク用弁装置とは、フロートの構造と弁体の構造とが異なる。そのため、以下では、フロートの構造と弁体の構造とを詳細に説明するとともに、先に説明した燃料タンク用弁装置と同じ構成には同じ符号を付してその重複する説明を割愛する。
【0031】
図1に示されるように、有蓋の円筒形状をなすフロート10の下部10bには、円形孔状のばね収容孔11が形成され、このばね収容孔11には、先に説明した下側弁体ケース60の内側筒部62とコイルばね64とが収容される。そして、フロート10の下部10bからフロート10の上部に向けて、コイルばね64の付勢力によりフロート10は付勢される。他方、フロート10の上部には、フロート10の軸方向に延びる多段の円筒形状をなすフロート側接触部12が突出している。
【0032】
円板形状をなして通気路を構成する弁体20の外径は、フロート側接触部12にて最も大きい外径よりも大きく、且つフロート10の外径の略半分である。弁体20の中央部には、フロート10の軸方向に沿い弁体20を貫通する円形孔状の固定孔22hが形成されている。また、固定孔22hの周囲には、弁体20の径方向の内側に折れ曲がる鍵状をなす先端部を有してフロート10の上部に向けて延びる複数の被係合部21が突出している。
【0033】
弁体20の側面のうちフロート10と互いに向い合う側面とは反対側の側面である取付け面20tには、傘状をなすシール部材23が取り付けられている。シール部材23を構成するケースシール部23aは、取付け面20tに沿い広がる円板形状をなしている。ケースシール部23aの外径は、先に説明したケース側接触部73よりも大きく、且つ取付け面20tと略同じ外径である。シール部材23を構成するフロートシール部23bは、フロート側接触部12よりも小さい外径を有してケースシール部23aの中央からフロート側接触部12に向けて延びる円筒状をなしている。そして、フロートシール部23bが固定孔22hに嵌め込まれることによって、シール部材23が被係合部21に対して固定される。
【0034】
図2に示されるように、多段円筒形状をなすフロート側接触部12は、互いに外径が異なる同一軸心の4つの円筒部である基端円筒部13と、第1中間円筒部14と、第2中間円筒部15と、先端円筒部16とから構成されている。
【0035】
基端円筒部13は、フロート上面10tから突出する円筒部である。第1中間円筒部14は、基端円筒部13の先端から延びる円筒部であって、基端円筒部13よりも大きい外径を有し、且つ軸方向において基端円筒部13よりも薄い厚さを有する。第2中間円筒部15は、第1中間円筒部14の先端から延びる円筒部であって、基端円筒部13よりも小さい外径を有し、且つ軸方向において第1中間円筒部14よりも薄い厚さを有する。先端円筒部16は、第2中間円筒部15の先端から延びる円筒部であって、フロートシール部23bと接触する平坦面を先端側の端面として有する。また、先端円筒部16は、第2中間円筒部15よりも小さい外径を有し、且つ軸方向において第2中間円筒部15よりも薄い厚さを有する。
【0036】
すなわち、基端円筒部13の外径を基端外径とし、第1中間円筒部14の外径を第1中間外径とし、第2中間円筒部15の外径を第2中間外径とし、先端円筒部16の外径を先端外径とすると、下記式1によって示される条件をフロート側接触部12は満たしている。
先端外径<第2中間外径<基端外径<第1中間外径 …(式1)
【0037】
また、基端円筒部13の厚さを基端厚さとし、第1中間円筒部14の厚さを第1中間厚さとし、第2中間円筒部15の厚さを第2中間厚さとし、先端円筒部16の厚さを先端厚さとすると、下記式2によって示される条件をフロート側接触部12は満たしている。
先端厚さ<第2中間厚さ<第1中間厚さ<基端厚さ …(式2)
【0038】
なお、基端円筒部13の厚さである基端厚さは、複数の被係合部21の各々の軸方向における長さよりも十分に小さく、且つ複数の被係合部21の各々の先端部の厚さよりも十分に大きい。そして、フロート上面10tと第1中間円筒部14との隙間に被係合部21の先端が入ることによって、フロート側接触部12とフロートシール部23bとにおける上方と下方への相対的な変位が許容され、且つフロートシール部23bの移動範囲がフロート上面10tと第1中間円筒部14との隙間によって規制される。
【0039】
基端円筒部13の外周面は、径方向の内側に窪む凹曲面であって、基端円筒部13の第1外径は、基端円筒部13におけるフロート上面10t側の端部と基端円筒部13における第1中間円筒部14側の端部とにおいて最大値を有する。
【0040】
第1中間円筒部14の外周面である第1中間外周面14sは、第2中間円筒部15側の部位よりも基端円筒部13側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面を全周に有する。第1中間外周面14sにおける上記凸曲面は、第1中間外周面14sにおける第2中間円筒部15側の部分に形成され、第1中間円筒部14における第2中間円筒部15側の端面である平坦面に連続している。言い換えれば、第1中間円筒部14の第1中間外径は、基端円筒部13側の端部において最大値を有し、第2中間円筒部15側の端部において最小値を有し、そして基端円筒部13側の端部から第2中間円筒部15側の端部に向けて第1中間外径の減少する割合を大きくする。なお、第1中間円筒部14の中心軸が含まれる第1中間円筒部14の断面では、第1中間外周面14sにて弧状をなす凸曲面の曲率外径は、第1中間円筒部14の第1中間外径よりも小さく、且つ先端円筒部16の先端外径よりも小さい。
【0041】
第2中間円筒部15の外周面である第2中間外周面15sは、フロート10の上部における周面を構成して、これもまた先端円筒部16側の部位よりも第1中間円筒部14側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面を全周に有する。第2中間外周面15sにおける凸曲面は、第2中間外周面15sにおける先端円筒部16側の部分に形成され、先端円筒部16の外周面に連続している。言い換えれば、第2中間円筒部15の第2中間外径は、第1中間円筒部14側の端部において最大値を有し、先端円筒部16側の端部において最小値を有し、そして第1中間円筒部14側の端部から先端円筒部16側の端部に向けて第2中間外径の減少する割合を大きくする。なお、第2中間円筒部15の中心軸が含まれる第2中間円筒部15の断面では、第2中間外周面15sにて弧状をなす凸曲面の曲率外径は、第2中間円筒部15の第2中間外径よりも小さく、且つ先端円筒部16の先端外径よりも小さい。
【0042】
先端円筒部16における先端側の端面は、フロート10の上部における端面であって、フロートシール部23bにおける開口の周囲との接触によって当該開口を閉鎖する平坦面である。先端円筒部16の外周面は、一定の外径からなる円筒面であって、フロート10の上部における周面を構成する。
【0043】
次に、上述した構成からなる燃料タンク用弁装置の作用について以下に説明する。なお、上述した燃料タンク用弁装置は、図4図7を参照して説明した燃料タンク用弁装置とフロート側接触部12の構造が主に異なるため、以下では、フロート側接触部12が関わる作用を詳細に説明する。
【0044】
燃料タンクが傾いてフロート10の一部が燃料に浸かると、図6を参照して説明した燃料タンク用弁装置と同様に、コイルばね64の付勢力とフロート10の浮力とによって、通気孔71hに向けて、フロート側接触部12がフロートシール部23bを押す。また、フロート側接触部12の押す力がシール部材23の全体に作用することによって、ケースシール部23aがケース側接触部73を押す。その結果、通気孔71hに最も近い位置である上方位置にフロート10が配置されて、フロートシール部23bの開口と通気孔71hの開口とが閉じられる。そして、収容筒部71の筒内と通気筒部72の筒内とを接続する通路が、フロート10と弁体20とによって遮断される。
【0045】
この状態から、燃料タンクの内部における液位がフロート10よりも下がると、フロート10に対して浮力が作用せず、コイルばね64の付勢力に抗した自重がフロート10に対して作用するようになる。この際、先に説明した燃料タンク用弁装置と同様に、ケースシール部23aがケース側接触部73を押し続ける状態で、まず、フロート側接触部12がフロートシール部23bから離れて、第1中間円筒部14と被係合部21の先端部とが係合する位置である下方位置までフロート10が下がる。そして、収容筒部71の筒内と通気筒部72の筒内とが通じる。その結果、ケースシール部23aとケース側接触部73とが接触する位置である閉鎖位置からケースシール部23aとケース側接触部73とが離間する位置である開放位置へシール部材23が変位する。
【0046】
ここで、フロート10が下方位置に配置される状態で収容筒部71内にて燃料が飛散すると、先端円筒部16における先端側の端面である第1の平坦面と、第1中間円筒部14における第2中間円筒部15側の端面である第2の平坦面とに燃料が付着する。この際、第1の平坦面と第2の平坦面とを連結する面が、第2中間円筒部15の第2中間外周面15sであり、その第2中間外周面15sにおける先端円筒部16側の部分が、先端円筒部16側の部位よりも第1中間円筒部14側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面である。そのため、第2中間外周面15sが上記凸曲面を有しない構成と比べて、第1の平坦面の外縁に付着する燃料が、第2中間外周面15sに沿いながら第2の平坦面まで流動することが容易となる。また、第2の平坦面に付着する燃料が第1の平坦面にまで流動することを抑えることが維持される。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分である第1の平坦面に燃料が溜まることを抑えることが可能となる。
【0047】
また、第2中間外周面15sにおける凸曲面の曲率外径が、フロート側接触部12における最小の外径よりも小さい。そのため、第2中間外周面15sにおける凸曲面の曲率外径が先端外径よりも大きい場合や第2中間外周面15sが単なる傾斜面である場合と比べて、第2の平坦面への燃料の流動を促すこと、第2の平坦面からの燃料の流動を抑えること、これらが、さらに顕著なものとなる。
【0048】
また、第1の平坦面を有する先端円筒部16の厚さが、フロート側接触部12を構成する各円筒部にて最も薄い。そのため、先端円筒部16の厚さが他の円筒部の厚さよりも厚い場合と比べて、第2の平坦面への燃料の流動を促すことが、さらに顕著なものとなる。しかも、第1の平坦面の下方且つ第1の平坦面の外方となる部位に第2の平坦面が形成されているため、第1の平坦面に対する下方からの燃料の飛散そのものが、第2の平坦面によって抑えられる。
【0049】
なお、第1中間円筒部14の第1中間外周面14sでは、第2中間円筒部15側の部分は、第2中間円筒部15側の部位よりも基端円筒部13側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面をなす。そのため、第2の平坦面の縁に付着する燃料が、第1中間外周面14sに沿いながらフロート上面10tに向けて流動すること、被係合部21の先端が第1中間外周面14sを摺動して第1中間円筒部14とフロート上面10tとの隙間に入ること、これらの両立が容易となる。
以上説明したように、本実施形態の燃料タンク用弁装置によれば、以下に列挙する効果が得られる。
【0050】
(1)通気筒部72とフロートシール部23bとから構成される通気路が開放されている状態で先端円筒部16の端面に燃料が飛散しても、その端面における外縁の近傍に付着した燃料は、第2中間円筒部15の外周面に沿いながら端面の外方且つ下方に流動することになる。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分である先端円筒部16の端面に燃料が溜まることを抑えることが可能である。
【0051】
(2)第1の平坦面の下方且つ第1の平坦面の外方となる部位に第2の平坦面が形成されているため、第1の平坦面に対する下方からの燃料の飛散そのものが第2の平坦面によって抑えられる。
【0052】
(3)燃料タンク内の気圧が燃料タンク外の気圧よりも高い場合、通気筒部72が開放される前にフロートシール部23bが開放されて、まず、圧力差によってシール部材23を押す力が解除される。それゆえに、シール部材23が閉鎖位置に固定され続けることを抑えて、液面の位置に応じた開弁の応答性を高めることが可能となる。
【0053】
(4)また、フロートシール部23bの開口が通気筒部72の開口がよりも小さいため、同じ圧力差のもとで通気筒部72が開放される場合と比べて、フロートシール部23bのみが開放される場合には、フロートシール部23bの周辺にて気体の流速が高くなる。すなわち、フロートシール部23bを密閉する先端円筒部16の端面にて、気体の流速が高くなる。それゆえに、先端円筒部16の端面における外縁の近傍に付着した燃料を端面の外方且つ下方に流動させる作用がさらに有効的となる。
【0054】
(5)第2中間円筒部15の外周面が、当該外周面の中心軸が含まれる断面にて、先端円筒部16の端面の外方に張り出す弧状である。それゆえに、第2中間円筒部15の外周面が斜面である場合と比べて、先端円筒部16の端面における周縁の近傍に付着した燃料が端面から流動しやすく、且つ第2中間円筒部15の外周面に付着した燃料が端面に流動し難くなる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
【0055】
・第2中間円筒部15の外周面は、先端円筒部16の端面の下方且つ当該端面の外方に向けて延びる斜面であってもよい。この態様によれば、第2中間円筒部15の外周面が複雑な曲面である場合と比べて、当該外周面の形成を容易なものとすることが可能となる。
【0056】
・第2中間円筒部15の外周面は、先端円筒部16の端面の下方且つ当該端面の外方に向けて延びる溝を有してもよい。また、第2中間円筒部15の外周面は、先端円筒部16の端面の外縁から下方に延びる円筒面であって、先端円筒部16の端面の下方且つ当該端面の外方に向けて延びる溝を有してもよい。この態様によれば、先端円筒部16の端面における外縁の付近に付着した燃料が、端面の下方且つ端面の外方に向けて、溝によって案内される。それゆえに、燃料タンクをその内部から密閉する部分であるフロート10の端面に燃料が溜まることを抑える効果がさらに顕著なものとなる。
・先端円筒部16の外周面は、先端円筒部16の端面の下方且つ当該端面の外方に向けて延びる部分を有してもよい。
【0057】
例えば、図3に示されるように、弁体20の被係合部21は、互いに外径が異なる同一軸心の4つの円筒部である基端弁体円筒部25と、中間弁体円筒部26と、先端弁体円筒部27とから構成されている。基端弁体円筒部25は、フロート上面10tと第2中間円筒部15との隙間に入る端部を有して第2中間円筒部15と係合する部分である。先端弁体円筒部27は、中間弁体円筒部26から突出してシール部材23が取付けられる部分である。そして、基端弁体円筒部25の外径を基端弁体外径とし、中間弁体円筒部26の外径を中間弁体外径とし、先端弁体円筒部27の外径を先端弁体外径とすると、下記式1によって示される条件を弁体20は満たしている。
先端弁体外径<基端弁体外径<中間弁体外径 …(式3)
【0058】
中間弁体円筒部26の外周面である中間弁体外周面26sは、先端弁体円筒部27側の部位よりも基端弁体円筒部25側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面を全周に有する。中間弁体外周面26sにおける凸曲面は、中間弁体外周面26sにおける先端弁体円筒部27側の部分に形成され、中間弁体円筒部26における基端弁体円筒部25側の端面である平坦面に連続している。言い換えれば、中間弁体円筒部26の外径は、基端弁体円筒部25側の端部において最大値を有し、先端弁体円筒部27側の端部において最小値を有し、そして基端弁体円筒部25側の端部から先端弁体円筒部27側の端部に向けて外径の減少する割合を大きくする。なお、中間弁体円筒部26の中心軸が含まれる中間弁体円筒部26の断面では、中間弁体外周面26sにて弧状をなす凸曲面の曲率外径は、中間弁体円筒部26の外径よりも小さく、且つ先端弁体円筒部27の外径よりも小さい。
【0059】
先端弁体円筒部27の外周面である先端弁体外周面27sは、これもまたシール部材23側の部位よりも中間弁体円筒部26側の部位が径方向の外側に張り出す凸曲面を全周に有する。先端弁体外周面27sにおける凸曲面は、先端弁体外周面27sにおけるシール部材23側の部分に形成され、シール部材23の外周面に連続している。言い換えれば、先端弁体円筒部27の外径は、中間弁体円筒部26側の端部において最大値を有し、シール部材23側の端部において最小値を有し、そして中間弁体円筒部26側の端部からシール部材23側の端部に向けて外径の減少する割合を大きくする。なお、先端弁体円筒部27の中心軸が含まれる先端弁体円筒部27の断面では、第2中間外周面15sにて弧状をなす凸曲面の曲率外径は、先端弁体円筒部27の外径よりも小さい。
この態様によっても、上記(1)〜(5)に準じた効果に加えて、シール部材23の上面に対しても、上記(1)〜(3),(5)に準じた効果を得ることが可能である。
【0060】
なお、この際、フロート側接触部12における第2中間円筒部15の外周面が、先端円筒部16の端面から下方に延びる円筒面であってもよい。この態様では、弁体20がフロートの一部を構成して、通気筒部72が通気路を構成して、シール部材23におけるケースシール部23aの上面がフロートの上部における端面となる。
・通気筒部72は、燃料の供給路に接続されてもよい。
【0061】
・フロート側接触部12は、各円筒部の外径に関して下記式1以外の関係を有する構成であってもよい。例えば、先端外径と第2中間外径とが等しくてもよく、あるいは先端外径が第2中間外径よりも大きくてもよい。要は、フロートの上部が、通気路の開口の周囲との接触によってその開口を閉鎖する平坦面である端面と、当該端面の外縁から下方に延びる周面とを有し、当該周面が、端面の下方且つ端面の外方に向けて延びる部分を有する構成であればよい。この態様であっても、上記(1),(3)〜(5)に準じた効果を得ることは可能である。
【符号の説明】
【0062】
10,80…フロート、10b…下部、10t,90t…取付け面、11,81…ばね収容孔、12,82…フロート側接触部、13…基端円筒部、14…第1中間円筒部、14s…第1中間外周面、15…第2中間円筒部、15s…第2中間外周面、16…先端円筒部、20,90…弁体、20t…取付け面、21…被係合部、22h…固定孔、23…シール部材、23a…ケースシール部、23b…フロートシール部、25…基端弁体円筒部、26…中間弁体円筒部、26s…中間弁体外周面、27…先端弁体円筒部、27s…先端弁体外周面、50…燃料タンク用弁装置、60…下側弁体ケース、61…外側筒部、62…内側筒部、63…連結板、64…コイルばね、70…上側弁体ケース、71…収容筒部、71h…通気孔、71t…ケース蓋部、72…通気筒部、72a…曲折端部、72b…接続端部、73…ケース側接触部、83…係合部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7