(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インクジェットプリンタの吐出部におけるインクの吐出不良を、CPUとメモリとを備えたコンピュータに検出させるプログラムであって、前記吐出部における複数の吐出口が、複数の吐出口グループに分割されており、前記吐出部に対するクリーニング処理が吐出口グループ毎に実行可能であり、前記プログラムをコンピュータのCPUがメモリにおいて実行することにより、前記コンピュータに、
a)前記吐出部により基材上に印刷されたチェックパターンを示す画像データを準備する工程と、
b)前記チェックパターンにおいて各吐出口から吐出されるインクにて形成される線状部が含まれており、前記画像データに基づいて各線状部の欠落の程度を示す評価値を求め、各吐出口グループにおける複数の評価値と、設定された閾値とを比較することにより、前記クリーニング処理が必要な吐出口グループを検出吐出口グループとして検出する工程と、
c)前記複数の吐出口グループのうち前記クリーニング処理が必要な吐出口グループを指定する入力を受け付ける工程と、
d)前記入力において指定された指定吐出口グループのうち前記検出吐出口グループに含まれない吐出口グループである少なくとも1つの特定吐出口グループが存在する場合に次のb)工程における検出感度が上がるように前記閾値を更新し、前記検出吐出口グループのうち前記指定吐出口グループに含まれない吐出口グループである少なくとも1つの特定吐出口グループが存在する場合に次のb)工程における検出感度が下がるように前記閾値を更新する工程と、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の一の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の構成を示す図である。インクジェットプリンタ1は、連続紙である印刷用紙9上に複数の色成分の画像を重ねて記録する画像記録装置である。インクジェットプリンタ1は、インクの微小液滴を印刷用紙9に向けて吐出する吐出部2、吐出部2を
図1中のX方向へと移動する吐出部移動機構22、吐出部2の下方にてX方向に垂直なY方向へと印刷用紙9を移動する紙送り機構3、吐出部2の(+Y)側に近接して配置される撮像部41、並びに、吐出部2、吐出部移動機構22、紙送り機構3および撮像部41に接続されるコンピュータ11を備える。以下、印刷用紙9の移動方向(すなわち、Y方向)を「走査方向」と呼び、走査方向に垂直かつ印刷用紙9に沿う方向(すなわち、X方向であり、印刷用紙9の幅に対応する方向)を「幅方向」と呼ぶ。
【0019】
紙送り機構3は、図示省略のモータに接続された2つのベルトローラ31、および、2つのベルトローラ31の間に掛けられたベルト32を有する。印刷用紙9は(−Y)側のベルトローラ31の上方に設けられたローラ33を介してベルト32上へと導かれて保持され、ベルト32と共に吐出部2の下方を通過して(+Y)側へと移動する。
【0020】
撮像部41は、複数の受光素子(例えば、CCD(Charge Coupled Devices))を幅方向に配列して有するラインセンサであり、印刷用紙9の走査方向への移動に同期して複数の受光素子がライン画像のデータを出力することにより、印刷用紙9上に印刷された画像が撮像可能である。撮像部41では、複数の受光素子が2次元に配列されたエリアセンサが用いられてもよい。
【0021】
吐出部移動機構22には、幅方向に細長い環状であるタイミングベルト222が設けられ、モータ221がタイミングベルト222を循環移動することにより、吐出部2が幅方向に滑らかに移動する。
【0022】
吐出部2には、複数の(
図1では4個の)ヘッドユニット20が走査方向に配列されており、複数のヘッドユニット20は互いに異なる色のインクを吐出する。以下の説明では、一の色のインクを吐出する1つのヘッドユニット20のみに着目するが、他のヘッドユニット20も同様の構成を有し、同様の動作を行う。
【0023】
図2はヘッドユニット20の一部を示す底面図であり、
図2では
図1の走査方向を上下方向としてヘッドユニット20を図示している。
図2のヘッドユニット20では、幅方向に沿って、複数のヘッド21が千鳥状に配列される。実際には、複数のヘッド21は、幅方向に関して印刷用紙9の幅全体に亘って配列され、印刷用紙9が吐出部2の下方を一回通過するのみで印刷が完了する、いわゆるワンパス(シングルパス)印刷が実現される。
【0024】
図3は、1つのヘッド21の一部を拡大して示す底面図である。
図3に示すように、各ヘッド21は複数の(
図3では、6個の)吐出口列211を有し、吐出口列211は走査方向(Y方向)に並ぶ。各吐出口列211は、幅方向(X方向)に一定のピッチにて並ぶ複数の吐出口212の集合である。幅方向に関して、各吐出口列211において互いに隣接する2つの吐出口212の間に、他の各吐出口列211の1つの吐出口212が配置される。すなわち、幅方向のみに着目すると、ヘッド21の全体では、複数の吐出口212が上記ピッチの1/n倍(ただし、nは吐出口列211の個数である。)のピッチP(以下、「吐出口ピッチP」という。)にて並んでいる。ヘッド21における複数の吐出口212は、吐出部2の下方における印刷用紙9の主面に平行な(すなわち、XY平面に平行な)同一面上に配置される。
【0025】
図1のインクジェットプリンタ1における非印刷時には、吐出部移動機構22により吐出部2は所定の退避位置に配置され、退避位置において複数の吐出口212が蓋部材にて閉塞される。また、各ヘッドユニット20の退避位置近傍には、ヘッド21に含まれる複数の吐出口からインクを吸引することが可能な吸引機構42(
図1中にて二点鎖線の矩形にて示す。)が設けられる。各吸引機構42は、例えば2つの吸引部を有し、2つの吸引部は、
図2のヘッドユニット20における(+Y)側のヘッド21および(−Y)側のヘッド21と同じ走査方向の位置に配置される。各吸引部は1つのヘッド21の全ての吐出口212を覆う大きさであり、任意のヘッド21を吸引部の上方に配置することにより、当該ヘッド21に含まれる全ての吐出口212からインクを吸引するクリーニング処理が実行可能である。なお、吸引機構42は他の態様にて設けられてもよく、例えば、1つの吸引部を有する吸引機構42を走査方向に移動する機構を設けることにより、当該1つの吸引部によりクリーニング処理がヘッド21毎に実行されてもよい。
【0026】
コンピュータ11は、
図4に示すように、各種演算処理を行うCPU111、基本プログラムを記憶するROM112および各種情報を記憶するRAM113をバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムの構成となっている。バスラインにはさらに、情報記憶を行う固定ディスク114、各種情報の表示を行うディスプレイ115、使用者からの入力を受け付けるキーボード116aおよびマウス116b(以下、「入力部116」と総称する。)、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8から情報の読み取りを行ったり記録媒体8に情報の書き込みを行う読取/書込装置117、並びに、インクジェットプリンタ1の他の構成と通信を行う通信部118が、適宜、インターフェイス(I/F)を介する等して接続される。
【0027】
コンピュータ11には、事前に読取/書込装置117を介して記録媒体8からプログラム80が読み出され、固定ディスク114に記憶される。そして、プログラム80がRAM113にコピーされるとともにCPU111がRAM113内のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)、コンピュータ11が、後述の機能を実現する。
【0028】
図5は、インクジェットプリンタ1の機能構成を示すブロック図であり、
図5中の制御部51、演算部52および記憶部53がCPU111、ROM112、RAM113等により実現される機能である。制御部51は、インクジェットプリンタ1の全体制御を担い、印刷用紙9の走査方向への連続移動に同期して、各ヘッド21からのインクの吐出を制御することにより、幅方向における印刷用紙9上の複数の位置に、ヘッドユニット20の複数の吐出口212によりドットを形成する。演算部52は、クリーニング判定部521および閾値更新部522を有し、記憶部53は各種情報を記憶する。演算部52の機能の詳細については後述する。なお、制御部51、演算部52および記憶部53の機能は専用の電気回路により構築されてもよく、部分的に専用の電気回路が利用されてもよい。
【0029】
次に、吐出部2におけるインクの吐出不良を検出して、ヘッド21をクリーニングする処理の流れについて
図6を参照して説明する。インクの吐出不良を検出する際には、まず、制御部51の制御下で、吐出部2により所定のチェックパターンが印刷用紙9上に印刷される(ステップS11)。
【0030】
図7は、印刷用紙9上のチェックパターン91の一部を拡大して示す図である。
図7に示すように、チェックパターン91は、それぞれが走査方向(Y方向)に伸びる複数の線状部912を有する。詳細には、幅方向(X方向)に並ぶ線状部912を線状部列911として、m個(ただし、mは2以上の整数)の線状部列911が走査方向に並んでおり、走査方向に隣接する2つの線状部列911の各組合せでは、(+Y)側の線状部列911が(−Y)側の線状部列911に対して吐出口ピッチPだけ(−X)側にずれている。また、各線状部列911では、吐出口ピッチPのm倍のピッチにて線状部912が幅方向に配列される。したがって、チェックパターン91では、各線状部912がいずれの線状部912とも幅方向に接することなく、幅方向に関して、複数の線状部912が吐出口ピッチPにて配列される。
【0031】
複数の線状部912はヘッドユニット20に含まれる複数の吐出口212と同じ幅方向の位置であり、各線状部912は同じ幅方向の位置である吐出口212から吐出されるインクにて形成される。実際には、各線状部912は走査方向に並ぶ複数のドットの集合であり、印刷用紙9上の各ドットの直径は吐出口ピッチPよりも大きい。したがって、印刷用紙9上における実際の各線状部912は、
図7に示すものよりも太い。
【0032】
図8は、チェックパターン91の広範囲を示す図である。
図8では、1つのヘッド21に含まれる吐出口212により形成される線状部912の存在範囲(幅方向の範囲)を符号H2〜H4を付す矢印にて示している。吐出口212においてインクの吐出不良が発生している場合には、当該吐出口212に対応する線状部912が部分的に(または全体的に)欠落し、印刷用紙9の表面が僅かに露出する。
図8では、欠落している線状部912の領域を符号913を付す白い領域にて表している。実際には、領域913の全体において印刷用紙9の表面が露出している訳ではなく、領域913内に含まれる線状部912にてインクの付着量が少なくなり(例えば、線状部912の幅が狭くなり)、当該線状部912の濃度(すなわち、欠落が無い場合の線状部912の全体を囲む領域に対し、インクが付着する領域の割合)が、他の領域の線状部912の濃度に比べて低くなっている。
【0033】
印刷用紙9上のチェックパターン91は撮像部41により撮像され、チェックパターン91の画像データ(以下、「パターン画像データ」という。)が取得される(ステップS12)。パターン画像データ531はコンピュータ11に入力され、記憶部53にて記憶されて準備される。クリーニング判定部521では、パターン画像データ531に基づいて各線状部912の欠落の程度を示す評価値(以下、「線状部評価値」という。)が求められる。本実施の形態では、パターン画像データ531が示す画像に対して強調処理等の所定の処理が施され、処理後の画像おいて、各線状部912のおよそ全体(欠落が無い場合の全体)を囲む矩形領域の平均明度が、当該線状部912に対する線状部評価値として取得される。
【0034】
図9は、幅方向の一部の範囲内の線状部912に対する線状部評価値を示す図である。既述のように、吐出口212においてインクの吐出不良が発生している場合には、当該吐出口212に対応する線状部912の濃度が他の線状部912に比べて低くなり、
図9中に破線にて示すように、当該線状部912の線状部評価値(平均明度)は高くなる。実際には、チェックパターン91には様々な大きさの線状部評価値を示す線状部912が含まれている。
【0035】
クリーニング判定部521では、各ヘッド21の全ての吐出口212に対応する複数の線状部912の線状部評価値が特定され、これらの線状部評価値における最大値がヘッド評価値として取得される。各ヘッド21に対するヘッド評価値は所定の閾値T1と比較され、ヘッド評価値が閾値T1以上であるヘッド21が、クリーニング処理が必要なヘッド21(以下、「検出ヘッド21」という。)として検出される(ステップS13)。吐出不良の検出に係る最初の処理では、閾値T1は、例えば装置の製造時に予め設定された値である。
【0036】
コンピュータ11のディスプレイ115では、
図10に示すように、ヘッドユニット20の全てのヘッド21にそれぞれ対応する複数のボタン81が表示されており(
図10では、矩形のボタン81内の番号がヘッドの番号を示す。)、検出ヘッド21に対応するボタン81は選択状態となり、当該ボタン81の色が他のボタン81(すなわち、非選択状態のボタン81)の色と相違する。
図10では、選択状態のボタン81に平行斜線を付すことにより、非選択状態のボタン81(平行斜線を付していないボタン81)との色の相違を表しており、番号2、5、7のボタン81が選択状態である。ディスプレイ115には、パターン画像データ531が示すチェックパターン91の画像(
図8参照)も必要に応じて表示される。
【0037】
続いて、使用者が、印刷用紙9上の実際のチェックパターン91を目視にて確認して(または、ディスプレイ115上のチェックパターン91の画像を参照して)、クリーニング処理が必要であるヘッド21を決定し、当該ヘッド21を指定する入力が入力部116にて受け付けられる(ステップS14)。以下、当該入力において指定されたヘッド21を指定ヘッド21という。本実施の形態では、使用者が入力部116を介して
図10中の任意のボタン81の選択を指示する(例えば、マウス116bのクリックにより指示する)ことにより、当該ボタン81を選択状態または非選択状態に変更することが可能であり、ステップS14の処理では、非選択状態のボタン81のうち指定ヘッド21に対応するボタン81は選択状態に変更され、選択状態のボタン81のうち指定ヘッド21に対応しないボタン81は非選択状態に変更される。ここでは、
図11に示すように、番号4および8のボタン81が非選択状態から選択状態に変更されたものとする。
【0038】
続いて、クリーニング処理の開始を指示する入力が行われると、制御部51の制御により指定ヘッド21が吸引機構42の吸引部へと順次移動し、指定ヘッド21に対するクリーニング処理が実行される(ステップS15)。
【0039】
一方、閾値更新部522では、指定ヘッド21に対するクリーニング処理に並行して(クリーニング処理の前または後であってもよい。)、クリーニング判定部521における次の処理にて利用される新たな閾値が、検出ヘッド21の集合と指定ヘッド21の集合との相違に基づいて取得されて閾値が更新される(ステップS16)。本実施の形態では、まず、ステップS14の処理において非選択状態から選択状態に変更されたボタン81に対応するヘッド21、および、選択状態から非選択状態に変更されたボタン81に対応するヘッド21(以下、これらのヘッド21を「特定ヘッド21」という。)が特定され、現在の閾値T1と番号kの特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kとの差d
k(すなわち、(d
k=T1−m
k))が求められる。そして、全ての特定ヘッド21における差d
kの平均値をavg(d
k)、所定の係数をα(ただし、(0≦α≦1))として、新たな閾値T2が数1により求められる。
【0041】
具体的に、ステップS14の処理において、
図11に示すように番号4および8のボタン81が非選択状態から選択状態に変更された場合には、現在の閾値T1と番号4の特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kとの差d
k、および、現在の閾値T1と番号8の特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kとの差d
kが求められる。そして、これらの特定ヘッド21における差d
kの平均値avg(d
k)を用いて、数1により新たな閾値T2が求められる。このとき、非選択状態から選択状態に変更されたボタン81に対応する特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kは閾値T1よりも小さく、数1におけるavg(d
k)は正の値となる。したがって、新たな閾値T2は閾値T1よりも小さくなり、クリーニング判定部521における検出ヘッド21の検出感度(すなわち、次に
図6の処理が行われる際のステップS13の処理における検出感度)が上がる。
【0042】
ステップS14の処理において、
図12に示すように番号2および7のボタン81が選択状態から非選択状態に変更された場合には、現在の閾値T1と番号2の特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kとの差d
k、および、現在の閾値T1と番号7の特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kとの差d
kが求められる。そして、これらの特定ヘッド21における差d
kの平均値avg(d
k)を用いて、数1により新たな閾値T2が求められる。このとき、選択状態から非選択状態に変更されたボタン81に対応する特定ヘッド21におけるヘッド評価値m
kは閾値T1以上であり、数1におけるavg(d
k)は、負の値(正確には、0以下の値)となる。したがって、新たな閾値T2は閾値T1よりも大きくなり、クリーニング判定部521における検出ヘッド21の検出感度が下がる。
【0043】
選択状態から非選択状態に変更されるボタン81、および、非選択状態から選択状態に変更されるボタン81の双方が存在する場合には、これらのボタン81に対応するヘッド21を特定ヘッド21として、上記と同様の処理により新たな閾値T2が求められる。また、特定ヘッド21の個数が1である場合には、数1におけるavg(d
k)は1つの特定ヘッド21における差d
kとなる。このように、閾値更新部522では、指定ヘッドの集合および検出ヘッドの集合の一方に含まれ、他方に含まれない少なくとも1つの特定ヘッド21が存在する場合に、当該少なくとも1つの特定ヘッド21におけるヘッド評価値の平均値に近づくように閾値が更新される。
【0044】
ここで、数1における係数αは、特定ヘッド21における差d
k(すなわち、閾値T1とヘッド評価値m
kとの差)を新たな閾値T2に反映する反映率と捉えることができ、本実施の形態では、係数αの値は使用者の操作権限に応じて定められている。例えば装置の管理者等のようにインクジェットプリンタ1の各種設定を変更可能な高い操作権限が付与された使用者の場合には係数αは比較的高い値(例えば、0.5以上1以下)となり、装置のオペレータ等のようにインクジェットプリンタ1の各種設定の変更が許可されていない低い操作権限が付与された使用者の場合には係数αは比較的低い値(例えば、0.1以上0.5未満)となる。数1におけるavg(d
k)は特定ヘッド21における差d
kの平均値以外に、最大値等の他の代表値であってもよく、閾値更新部522における閾値の更新が数1以外の演算にて実現されてもよい。
【0045】
上記のように、各特定ヘッド21におけるヘッド評価値と現在の閾値T1との差に基づいて閾値が更新されると、クリーニング判定部521では、更新後の閾値T2が、吐出部2におけるインクの吐出不良を検出する次の処理にて利用される。なお、インクジェットプリンタ1では、指定ヘッド21の個数が所定数以下(好ましくは、0)となるまで、上記ステップS11〜S16の処理が繰り返されてもよい。また、全ての特定ヘッド21における差d
kのうち所定値以下となるものだけを用いて、数1におけるavg(d
k)が求められてもよい。これにより、撮像部41に異常が生じている場合や、不慣れなオペレータの操作により基準が一時的に変動している場合に、閾値が過度に大きく変動することが防止される。
【0046】
以上に説明したように、インクジェットプリンタ1では、各ヘッド21におけるヘッド評価値と設定された閾値とを比較することにより検出ヘッド21が検出されるとともに、クリーニング処理が必要な指定ヘッド21を指定する使用者の入力が入力部116にて受け付けられる。そして、指定ヘッド21(の集合)のうち検出ヘッド21(の集合)に含まれないヘッド21である少なくとも1つの特定ヘッド21が存在する場合にクリーニング判定部521における検出感度が上がるように閾値が更新され、検出ヘッド21のうち指定ヘッド21に含まれないヘッド21である少なくとも1つの特定ヘッド21が存在する場合にクリーニング判定部521における検出感度が下がるように閾値が更新される。これにより、使用者の基準に合わせて閾値を更新することができ、クリーニング判定部521において、クリーニング処理が必要なヘッド21を使用者の基準に従って検出する検出精度(すなわち、使用者が期待する検出結果を出力する精度)を向上することが実現される。
【0047】
また、閾値更新部522では、閾値を更新する際に利用される数1において係数αの値が使用者の操作権限に応じて定められる。このように、特定ヘッド21におけるヘッド評価値と閾値との差の代表値に対する、更新前後での閾値の差の比率が、使用者の操作権限に応じて変更されることにより、使用者の熟練度が低い場合に閾値の変動が過度に大きくなったり、使用者の熟練度が高い場合に閾値の変動が過度に小さくなることを防止することができる。
【0048】
インクジェットプリンタ1において印刷物の作成を行う際には、印刷対象となる印刷用紙9の種類や印刷用紙9の移動速度、走査方向の解像度等の印刷条件を規定するレシピが、互いに異なる印刷条件を示す複数のレシピから選択されており、
図6に示す吐出不良の検出に係る処理は、当該レシピに従った印刷物作成処理の直前等に行われる。したがって、クリーニング判定部521がレシピ毎に閾値を有することにより、各レシピに対応する基準に従った検出感度にてクリーニング処理が必要な検出ヘッド21を検出することが可能となる。例えば、複数種類の印刷用紙において、その表面状態やインクの発色性が異なる場合でも、クリーニング判定部521がレシピ毎に閾値を有することにより、各種類の印刷用紙に合わせて検出ヘッド21の検出精度(使用者の基準に従った検出精度)を向上することが実現される。また、顧客毎にレシピを変更する場合、印刷物の品質に厳しい顧客に対して、検出ヘッド21の検出精度を厳しい基準に合わせて向上することが可能となる。
【0049】
数1における係数αの値の変更は、各レシピに従ったインクジェットプリンタ1の稼働時間に応じて変更されてもよい。例えば、一のレシピに従ったインクジェットプリンタ1の稼働時間(すなわち、当該レシピに従ってインクジェットプリンタ1が動作する累積時間)が長い場合には、
図6の処理が多数回行われており、検出ヘッド21の検出感度が使用者の基準に近くなっていると考えられるため、稼働時間が短い場合に比べて、係数αの値が小さくされる。このように、特定ヘッド21におけるヘッド評価値と閾値との差の代表値に対する、更新前後での閾値の差の比率が、各レシピに従った稼働時間に応じて変更されることにより、安定動作時に閾値が大きく変動することを抑制することができる。なお、インクジェットプリンタ1においておよそ一定種類の印刷用紙9に対する印刷が行われる場合等には、全てのレシピにおいて共通の閾値が用いられてもよく、この場合、上記比率が、レシピの種類を問わず、インクジェットプリンタ1の設置後の経過時間や稼働時間に応じて変更される。
【0050】
また、インクジェットプリンタ1では、以前に取得されたヘッド評価値も考慮して閾値が更新されてもよい。具体的には、
図6のステップS11の処理にて一のチェックパターンが印刷用紙9上に印刷された際に、上記処理と同様にして、印刷用紙9上の当該一のチェックパターンのパターン画像データに基づいて検出ヘッド21が検出される(ステップS12,S13)。また、指定ヘッド21を指定する入力が受け付けられ、指定ヘッド21に対してクリーニング処理が行われる(ステップS14,S15)。さらに、少なくとも1つの特定ヘッド21が特定される場合に、当該少なくとも1つの特定ヘッド21のヘッド評価値から導かれるavg(d
k)を数1に代入して閾値が更新される(ステップS16)。
【0051】
インクジェットプリンタ1において通常の印刷物の作成処理が行われた後(または、上記処理に連続して)、次のチェックパターンが印刷用紙9上に印刷された際には(ステップS11)、印刷用紙9上の当該次のチェックパターンのパターン画像データに基づいて検出ヘッド21が検出されるとともに、指定ヘッド21を指定する入力が受け付けられ、指定ヘッド21に対してクリーニング処理が行われる(ステップS12〜S15)。そして、少なくとも1つの特定ヘッド21が特定される場合に、当該少なくとも1つの特定ヘッド21のヘッド評価値、および、上記一のチェックパターンのパターン画像データに基づいて特定された少なくとも1つの特定ヘッド21のヘッド評価値から導かれるavg(d
k)、すなわち、現在の閾値T1とこれらのヘッド評価値との差d
kの平均値avg(d
k)を数1に代入して閾値が更新される(ステップS16)。
【0052】
以上のように、好ましいインクジェットプリンタ1では、
図6のステップS16の処理にて閾値を更新する際に、直前のステップS12の処理にて取得されるパターン画像データに基づく特定ヘッド21のヘッド評価値に加えて、それ以前のステップS12の処理(過去の複数回のステップS12の処理であってもよい。)にて取得されるパターン画像データに基づく特定ヘッド21のヘッド評価値を用いて、新たな閾値T2が求められる。これにより、使用者の基準を示す多くの情報に基づいて、検出ヘッド21の検出精度をより確実に向上することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0054】
例えば、撮像部41においてより高解像度の撮像が可能である場合には、パターン画像データ531が示すチェックパターンの画像を二値化処理し、二値画像における各線状部に対応する領域の面積が線状部の欠落の程度を示す線状部評価値として取得されてもよい。この場合、各ヘッド21における複数の線状部評価値の最小値が閾値以下となる場合に当該ヘッド21が検出ヘッド21として検出される。また、上記クリーニング判定部521では、各ヘッド21における複数の評価値の最大値(または、最小値)と閾値とを比較することにより、検出ヘッド21を容易に検出することが可能であるが、インクジェットプリンタ1の設計によっては、各ヘッド21における複数の線状部評価値のうち閾値にて検出される線状部評価値の個数が所定数以上ある場合に当該ヘッド21が検出ヘッド21として検出されてもよい。
【0055】
以上のように、クリーニング判定部521では、各線状部の欠落の程度を示す様々な種類の評価値を用いることが可能である。また、各ヘッド21における複数の評価値と、設定された閾値とを実質的に比較する様々な手法にて、検出ヘッド21を検出することが可能である。
【0056】
インクジェットプリンタ1におけるクリーニング処理は、吸引機構42にて吐出口212からインクを吸引する処理以外であってよく、例えば、インクに付与する圧力を定常動作時よりも高くして各ヘッド21からインクを勢いよく吐出する処理や、各ヘッド21において吐出口212が形成される面を他の部材にて擦る処理等が、クリーニング処理としてヘッド21毎に実行されてもよい。
【0057】
上記実施の形態では、ヘッドユニット20に含まれる複数の吐出口212のうち、各ヘッド21に含まれる吐出口212の集合が、1回のクリーニング処理にてクリーニングが行われる吐出口グループとなるが(同様に、検出ヘッド21が検出吐出口グループとなり、指定ヘッド21が指定吐出口グループとなり、特定ヘッド21が特定吐出口グループとなる。)、吐出口グループは必ずしもヘッド21毎に分割される必要はない。例えば、インクジェットプリンタ1の設計によっては、1つのヘッド21に含まれる吐出口212の半分が吐出口グループとして取り扱われてもよい。以上のように、インクジェットプリンタ1では、各ヘッドユニット20に含まれる全ての吐出口212が複数の吐出口グループに分割され、吐出部2に対するクリーニング処理が吐出口グループ毎に実行可能であるならば、吐出口グループは様々な態様にて設定されてよい。
【0058】
ヘッド21における吐出口列211の個数は任意に決定されてよい。また、吐出部2では、幅方向に対して傾斜した配列方向に沿って複数の吐出口212が配列されてもよく、吐出口212の配列方向は走査方向に交差していればよい。
【0059】
インクジェットプリンタ1では、走査機構である紙送り機構3により印刷用紙9が吐出部2に対して走査方向に移動するが、吐出部2をY方向に移動する走査機構が設けられてもよい。また、印刷用紙9がローラにて保持され、当該ローラを回転するモータにより印刷用紙9が吐出部2に対して走査方向に移動してもよい。このように、印刷用紙9を吐出部2に対して相対的に走査方向に移動する走査機構は様々な構成にて実現可能である。
【0060】
インクジェットプリンタは、枚葉の印刷用紙に画像を印刷するものであってもよい。例えば、ステージ上に印刷用紙を保持するインクジェットプリンタにおいて、幅方向に関して、吐出部の幅が印刷用紙の印刷領域よりも狭くされるとともに、吐出部を走査方向および幅方向に印刷用紙に対して相対的に移動する走査機構が設けられる。そして、吐出部がインクを吐出しつつ走査方向に相対移動(主走査)し、印刷用紙の端部へと到達した後に幅方向に所定距離だけ相対移動(副走査)し、その後、吐出部がインクを吐出しつつ走査方向の直前の主走査とは逆向きに相対移動する。このように、上記インクジェットプリンタ(いわゆる、シャトル方式のプリンタ)では、吐出部が印刷用紙に対して走査方向に主走査するとともに、主走査が完了する毎に、幅方向に間欠的に副走査することにより、印刷用紙の全体に画像が印刷される。
【0061】
上記インクジェットプリンタ1では、吐出部2におけるインクの吐出不良を検出する吐出不良検出部(吐出不良検出装置と捉えることもできる。)が演算部52、記憶部53および入力部116により実現されるが、吐出不良検出部は、必ずしもインクジェットプリンタ1の一部として用いられる必要はなく、インクジェットプリンタ1と分離した吐出不良検出装置として用いられてもよい。
【0062】
インクジェットプリンタ1における印刷の対象物は、印刷用紙9以外の基材であってもよく、例えばプラスチック等にて形成される板状またはフィルム状の基材であってもよい。
【0063】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。