(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872337
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】ケミカルループ式燃焼装置およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
F24J 1/00 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
F24J1/00 301
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-57677(P2012-57677)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-190175(P2013-190175A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100099128
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(72)【発明者】
【氏名】冨永 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤峰 智也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】松井 徹
【審査官】
藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−513861(JP,A)
【文献】
米国特許第02665972(US,A)
【文献】
特表2010−534310(JP,A)
【文献】
特開昭54−010434(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0077947(US,A1)
【文献】
特開平02−008601(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/094512(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24J 1/02
F02C 3/20
G05B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、
前記酸化塔および前記還元塔の双方に排ガス再循環ラインが備えられ、該排ガス再循環ラインにはそこを流れる排ガスの流量を制御する流量制御手段が備えられ、前記酸化塔に備えられた排ガス再循環ラインには酸素センサーが、前記還元塔に備えられた排ガス再循環ラインには還元剤センサーが備えられていることを特徴とするケミカルループ式燃焼装置。
【請求項2】
請求項1に記載のケミカルループ式燃焼装置の運転方法であって、運転状態にかかわらず前記酸化塔および前記還元塔内のガス流速が予め設定した範囲内となるようにそれぞれの排ガス再循環量を制御して運転を行うことを特徴とするケミカルループ式燃焼装置の運転方法。
【請求項3】
酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、
前記還元塔には排ガス再循環ラインが備えられ、該排ガス再循環ラインにはそこを流れる排ガスの流量を制御する流量制御手段が備えられ、さらに、前記還元塔の排ガス再循環ラインには還元剤センサーが備えられていることを特徴とするケミカルループ式燃焼装置。
【請求項4】
請求項3に記載のケミカルループ式燃焼装置の運転方法であって、運転状態にかかわらず前記還元塔内のガス流速が予定した範囲内となるように排ガス再循環量を制御して運転を行うことを特徴とするケミカルループ式燃焼装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルループ式燃焼装置とその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化塔と還元塔を備え、金属粒子が酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置は、非特許文献1に記載のように知られている。また、金属粒子が酸化反応するときに生じる反応熱を収集して工業用に用いることも、特許文献1などに記載されている。
【0003】
ケミカルループ燃焼では、金属が酸化塔と還元塔との間を物理的に循環することにより、酸素を還元剤としての燃料へ供給する。したがって、酸素と燃料は直接的に混じることはない。上記の機能を果たす材料は、酸素キャリアと呼ばれており、本発明において、酸化塔と還元塔との間を物理的に循環して酸素を運搬する材料を「酸素キャリア」といっている。酸素キャリアとしては、[酸化反応を受けた金属/還元反応を受けた金属]の組み合わせとして、NiO/Ni、Fe
2O
3/Fe
3O
4、Mn
3O
4/MnO、等が例示される。
【0004】
ケミカルループ燃焼では、酸化塔内に空気を酸化剤として投入すると、空気中の酸素は酸素キャリアとの酸化反応により消費される(金属をMとすると、例えば4M+2O
2→4MO)ことから、酸化塔からは通常の空気よりもN
2濃度が高くなった排ガスが排出される。酸化塔内に水蒸気を酸化剤として投入すると、水蒸気中の酸素は酸素キャリアとの酸化反応により消費されることから、酸化塔からは、H
2とH
2Oが排ガスとして排出される。また、還元塔内に都市ガスのような燃料を還元剤として投入すると、燃料中の炭化水素は酸化した酸素キャリアを還元するのに消費される(例えば4M+CH
4→4M+CO
2+2H
2O)ことから、高濃度のCO
2とH
2Oが排ガスとして排出される。そして、そのような酸化塔からの排ガスからN
2またはH
2、また、還元塔からの排ガスからはCO
2を工業用用途等として回収することも行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−337168号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤峰智也、速川敦彦、『炎のない燃焼「ケミカルループ燃焼」について』、工業加熱、vol.48、No.6、P14〜19(2011年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケミカルループ式燃焼装置を用いたケミカルループ燃焼において、酸素キャリアの酸化反応と還元反応を効率よく進行させるためには、酸素キャリアが酸化塔と還元塔の間で円滑に循環することが求められる。そのために、実際の運転に当たっては、酸化塔および還元塔内に所要のガス流速を確立することが必要であり、ケミカルループ式燃焼装置を設計するときも、所要のガス流速が確立されることを前提に、酸化塔および還元塔の断面積などの設計を行っており、設計の自由度は狭いものとなっている。
【0008】
具体的には、酸化塔においては、所定の空気比(燃料が完全燃焼するのに必要な空気量に対する投入空気の割合)に保つために、空気等の酸化剤の流量を制御する必要がある。空気比は、排ガスの残存酸素濃度を測定することで、算出することができる(空気比が1.0より大きい場合)。仮に、設定した空気比に対して、高い空気比(残存酸素濃度が設定より高い)で運転されている場合、投入空気量を減らす必要がある。しかし、投入空気量を減らすと酸化塔内の流速が下がり、酸化塔内の粒子の流動状態が変化し、粒子の循環量が変化してしまう。
【0009】
また、還元塔においては、投入した還元剤に対して、酸素キャリアが供給する酸素の割合が一定であることが望ましいが、酸素キャリアによる酸素の供給が少ない場合、還元剤を減少させる必要がある。この場合も、還元剤量を減らすと還元塔内の流速が下がり、還元塔内の粒子の流動状態が変化し、粒子の循環量が変化してしまう。
【0010】
さらに、装置を設計した際に想定した酸素キャリアから、別の酸素キャリアに代えた場合、その特徴(酸素運搬能力、粒径、密度、反応速度など)が変わるため、同じ空気比においても粒子の循環量を変える必要がある。このような場合においても、酸化塔内および還元塔内での粒子の流動状態が変化し、粒子の循環量が変化してしまう。
【0011】
また、酸化塔からの排ガスの持つ熱エネルギーを使用する側が、異なった量の熱量を要望する場合にも、同じケミカルループ式燃焼装置を用いて、その要望に迅速に答えることは困難である。さらに、酸化塔から高濃度の窒素ガスを含む排ガスを得たい、あるいは還元塔から高濃度の二酸化炭素ガスを含む排ガスを得たいという要望がある場合でも、同じケミカルループ式燃焼装置を用いて、その要望に迅速に答えることは困難であった。
【0012】
本発明は、従来のケミカルループ式燃焼装置が持つ上記のような不都合を解消することを課題としており、設計の自由度も大きくなり、ユーザー側の異なった要望にも、迅速に対応できるようにしたケミカルループ式燃焼装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるケミカルループ式燃焼装置は、酸化塔と還元塔を備え酸素キャリアが酸化塔内での酸化剤による酸化反応と還元塔内での還元剤による還元反応を受けながら循環するようにされたケミカルループ式燃焼装置であって、前記酸化塔および前記還元塔の双方に排ガス再循環ラインが備えられ、該排ガス再循環ラインにはそこを流れる排ガスの流量を制御する流量制御手段が備えられ
、前記酸化塔に備えられた排ガス再循環ラインには酸素センサーが、前記還元塔に備えられた排ガス再循環ラインには還元剤センサーが備えられていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記のケミカルループ式燃焼装置の運転方法として、運転状態にかかわらず前記酸化塔および前記還元塔内のガス流速が予め設定した範囲内となるようにそれぞれの排ガス再循環量を制御して運転を行うことを特徴とするケミカルループ式燃焼装置の運転方法をも開示する。
【0016】
上記のケミカルループ式燃焼装置および運転方法では、酸化塔側では、酸化塔から排出される排ガスの一部を酸化塔に備えた排ガス再循環ライン(EGRライン)を経由して酸化塔の上流側に再循環させることで、酸化塔内に供給する酸化剤ガスの量に依存することなく、酸化塔内でのガス流速を予め設定した範囲内で運転することができる。また、還元塔側では、還元塔から排出される排ガスの一部を還元塔に備えた排ガス再循環ライン(EGRライン)を経由して還元塔の上流側に再循環させることで、還元塔内に供給する還元剤ガスの量に依存することなく、還元塔内でのガス流速を予め設定した範囲内で運転することができる。すなわち、ケミカルループ式燃焼装置では、その使用目的等に応じて、酸化剤ガスおよび還元剤ガスの理論量が設定されるが、実際に運転するケミカルループ式燃焼装置において、前記理論量では酸化塔あるいは還元塔内に酸素キャリアが酸化塔と還元塔の間で円滑に循環するだけのガス流速が得られない場合に、前記のように排ガスを再循環させることで所望のガス流速を確保できるようになるので、ケミカルループ式燃焼装置の設計の自由度、運転の自由度が向上する。
【0017】
また、排ガス再循環ラインには酸素センサーが、前記還元塔に備えられた排ガス再循環ラインには還元剤センサーが備えられている態様のケミカルループ式燃焼装置では、酸化塔および還元塔内に所望のガス流速を確保した状態で、酸素センサーから得られる排ガス中の酸素濃度をパラメータとして、酸化塔に供給する酸化剤ガスの流量を制御し、その増減に応じて排ガスの再循環量を制御することで、所望の成分分布を持つ排ガス(例えば、残存酸素濃度が5%の排ガス)を得ることができる。また、還元剤センサーから得られる排ガス中の還元剤濃度をパラメータとして、還元塔に供給する還元剤ガスの流量を制御し、その増減に応じて排ガスの再循環量を制御することで、未燃成分がほぼゼロである排ガスを得ることができる。なお、本発明において「還元剤センサー」とは、排ガス中のメタン等である還元剤ガスそのものを検知するセンサーばかりでなく、排ガス中のCOを検知するセンサーをも意味している。
【0018】
また、上記した本発明によるケミカルループ式燃焼装置では、ケミカルループ式燃焼装置が生成する熱量(酸素キャリアが酸化するときに発生する熱量)を、熱消費側のロードに応じて、容易に変更することも可能となる。すなわち、ある発生熱量でケミカルループ式燃焼装置を運転している状態で、熱消費側のロードが低減したときに、それに迅速に対応するためには、酸化塔への酸化剤ガスの供給量を低減して出力を低減することが必要となる。単に酸化剤ガスの供給量を低減するのみでは、酸化塔内でのガス流速が低下して酸素キャリアの循環が不十分となるが、その低減分を前記のように酸化塔からの排ガスを酸化塔に再循環させることでカバーすることで、酸化塔内での所定のガス流速を維持した状態で運転を継続することが可能となる。出力が低減した分だけ、還元塔に供給する還元剤ガスの流量も低減することが求められるが、この低減に対しても、還元塔からの排ガスの対応した量を還元塔に再循環させることでカバーすることで、還元塔内での所定のガス流速も維持される。
【0019】
なお、本発明によるケミカルループ式燃焼装置において、酸化塔および還元塔の双方に排ガス再循環ラインが備えられ、該排ガス再循環ラインにはそこを流れる排ガスの流量を制御する流量制御手段が備えられている態様は、多くの運転環境に対処できることから、好ましい態様である。しかし、酸化塔の運転状態の制御を主目的とする場合には、酸化塔にのみ前記排ガス再循環ラインを設けるようにしてもよい。還元塔の運転状態の制御を主目的とする場合には、還元塔にのみ前記排ガス再循環ラインを設けるようにしてもよい。そのような態様での酸化塔または還元塔での挙動は、前記したとおりである。また、酸化塔および還元塔の双方に排ガス再循環ラインを設ける場合でも、いずれか一方の使用を行わないで運転することで、いずれか一方にのみ排ガス再循環ラインを設けた場合と同様な運転を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、酸化塔および還元塔の双方またはいずれか一方に、排ガス再循環ラインを設けたことにより、酸化塔および還元塔内での酸素キャリアの円滑な流動状態を保持したままで、種々の運転態様に容易に対処することが可能となり、それにより、実機として用いるときの利便性が大きく向上したケミカルループ式燃焼装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明によるケミカルループ式燃焼装置の一実施の形態を説明する図。
【
図2】酸化塔側での制御の一例を説明するフロー図。
【
図3】還元塔側での制御の一例を説明するフロー図。
【
図4】ロード制御する場合での一例を説明するフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。
図1は、本発明によるケミカルループ式燃焼装置の一実施の形態を説明するためのブロック図である。
【0023】
図1に示すケミカルループ式燃焼装置Aは、酸化塔10、還元塔20を備える。還元塔20は、酸素(O)を伴って流入する酸素キャリアから酸素を奪う場、すなわち酸化した酸素キャリア(MO)に還元作用を施す場であり、還元剤ガスとしてのメタン等を含む燃料ガス(都市ガス、LPGガス、副生ガス、石炭、水素等)が流入する。還元塔20内では、例えば、4MO+CH
4→4M+CO
2+2H
2Oの反応が進行し、還元塔20からは、排ガスとして二酸化炭素と水(水蒸気)が排出される。還元された酸素キャリア(M)は、酸化塔10に流入する。酸化塔10には、酸化剤ガスとして空気あるいは酸素富化空気、窒素富化空気等が送り込まれており、流入した酸素キャリア(M)は酸化反応を受けて酸化した酸素キャリア(MO)となり、酸化した酸素キャリア(MO)は還元塔20に再循環する。
【0024】
より具体的には、
図1に示すケミカルループ式燃焼装置Aにおいて、還元塔20には、配管21から、制御弁22によって所定量に制御されたメタンガスあるいは都市ガス等の炭化水素である燃料が還元剤ガスとして供給される。還元塔20内には、酸化した酸素キャリア(MO、例えば、Fe
2O
3)が存在しており、酸化した酸素キャリア(MO)は還元剤ガスによる還元反応を受けて還元した酸素キャリア(M、例えば、Fe
3O
4)となる。還元塔20からの排ガスはサイクロンのような固気分離器23によって固気分離された後、配管24を通って排気される。燃料ガス中の炭化水素は還元反応により消費されており、還元塔20からの排ガスは、CO
2と水蒸気である。この例において、配管24には熱交換器25が備えてあり、後記する酸化塔10内に備えた熱交換器17への給水を予熱することで熱交換して気水分離され、CO
2は分離回収される。
【0025】
配管24には、還元剤ガスセンサーとしてのCOセンサー26が取り付けられており、該COセンサー26と前記熱交換器25との間から、排ガス再循環ライン40が分岐している。分岐した排ガス再循環ライン(EGRライン)40はブロア41を有しており、ブロア41で吸引された排ガスは制御弁42と逆流防止弁43を通って、還元塔20の上流側、図示の例では還元塔20直下の管路21に流入するようにされている。
【0026】
還元塔20で還元作用を受けた酸素キャリアは、ループシール11を通過して、酸化塔10の下端部に流入する。酸化塔10には、コンプレッサー12からの空気(酸化剤ガスの一例である)が、制御弁14によって制御された量だけ配管13を通して供給される。酸化塔10内に流入してくる酸素キャリアは、酸化塔10内を透過する過程で、空気中の酸素と酸化反応して酸化された酸素キャリア(MO)となる。供給された空気は酸化塔10内で酸素キャリア(M)の酸化反応に寄与して酸素を消費した後、配管15から窒素と残存酸素である排ガスとして排気される。配管15には酸素センサー16が取り付けられており、排ガス中の酸素の濃度が継続的に測定される。
【0027】
この例において、酸化塔10内には熱交換器17が備えてあり、前記した熱交換器25で予熱された給水が流入し、酸化熱と熱交換して蒸気となり、熱利用部に排出される。酸化された酸素キャリア(MO)と排ガスは、サイクロンのような固気分離器18によって固気分離され、酸化された酸素キャリア(MO)は配管19を通って、前記した還元塔20に戻される。なお、配管19にもループシール11が配置されている。
【0028】
固気分離器18によって分離された酸化塔10からの排ガスは、前記した酸素センサー16を通って配管15から排気される。配管15における前記酸素センサー16より下流位置から排ガス再循環ライン(EGRライン)30が分岐している。分岐した排ガス再循環ライン30はブロア31を有しており、ブロア31で吸引された排ガスは制御弁32と逆流防止弁33を通って、酸化塔10の上流側、図示の例では酸化塔10直下の管路13に流入するようにされている。
【0029】
なお、上記したループシール11は、酸化塔10に供給される酸化剤ガスが還元塔20に供給される還元剤ガスと直接接触して燃焼反応を起こすのをシールするためのものであり、図示されないが適宜の不活性ガスがシールガスとして送り込まれる。不活性ガスとして、酸化塔10からの排ガスを用いることもできる。また、前記熱交換器17は、酸化塔10内ではなく、排ガス配管15内を流れる高温の排ガスと熱交換できる位置に設けてもよい。
【0030】
上記のように、ケミカルループ式燃焼装置Aは、還元塔20に投入した還元剤ガスの炭化水素の持つ熱量と等しいエネルギーを、ボイラ用の給水を蒸気化するエネルギーとして、酸化塔10からの排ガスから取り出すことができるばかりでなく、運転環境を適宜制御することにより、酸化塔10からの排ガスからは高濃度の窒素ガスを得ることができ、還元塔20からの排ガスからは高濃度の二酸化炭素ガスを得ることができる。一方において、ケミカルループ式燃焼装置では、酸素キャリア(M)の酸化反応と還元反応を効率よく進行させるためには、酸素キャリア(M)が酸化塔10および還元塔20で円滑に循環することが必要であり、そのために、実際の運転に当たっては、酸化塔10および還元塔20内に所要のガス流速を確立することが必要である。
【0031】
そこで、ケミカルループ式燃焼装置において、酸素キャリア(M)が酸化塔10と還元塔20の間で円滑に循環するのに必要なガス流速を酸化塔10内に確立するときのガス流量をQ1、還元塔20内に確立するときのガス流量をR1とし、酸素キャリア(M)の酸化反応に必要な酸化剤ガスの量をQ(<Q1)、酸化した酸素キャリア(MO)の還元反応に必要な還元剤ガスの量をR(<R1)としたときに、従来のケミカルループ式燃焼装置のように酸化塔10内に酸化剤ガスのみを供給する態様では、酸化塔10内に、酸化剤側から見れば、m(=Q1−Q)だけ余分な量の酸化剤ガスを供給していることとなる。量mの酸化剤ガスは酸素キャリア(M)の酸化には寄与せずに、そのまま排ガスとして酸化塔10から排出される。酸化剤ガスが空気の場合には、コスト的には問題はないが、酸化塔10の排ガスから高濃度の窒素ガスを得ることを目的としてケミカルループ式燃焼装置を運転するような場合には、排ガスには量mの空気に含まれる酸素(0.21m)が含まれることとなり、高濃度の窒素ガスを得ることが困難となる。
【0032】
それを解決するために、上記した本発明によるケミカルループ式燃焼装置Aでは、量Qの酸化剤ガス(空気)を酸化塔10内に供給すると共に、酸化塔10から排出される排ガスの一部を排ガス再循環ライン30を通して酸化塔10内に再循環させる。それにより、量mに相当するガス量が酸化塔10内に補充されることとなり、酸化塔10内には、Q1(=Q+m)のガス流量によって、予め設定した範囲のガス流速が確立され、酸素キャリア(M)の円滑な循環は確保される。一方、酸化剤ガス(空気)は量Qであり、酸化剤(空気中の酸素)は酸素キャリア(M)の酸化にほぼ使用されてしまっているので、排ガスに含まれる酸素量はゼロか極少量であり、高濃度の窒素ガスを酸化塔10の排ガスとして得ることができる。また、酸素キャリア(M)の酸化反応による所望量の熱も得ることができる。
【0033】
一方、従来のケミカルループ式燃焼装置のように還元塔20内に還元剤ガスのみを供給する態様では、還元塔20内に、量Rの還元剤ガスを投入して、酸素キャリア(MO)と反応させる。還元剤ガスの流量Rにより、還元塔内の流速が決まり、粒子の流動状態が決定される。この場合、所定の流速になるように、設計時に反応塔の断面積を決定する必要があり、反応塔の形状に制限がかかる。
【0034】
そこで、本発明によるケミカルループ式燃焼装置Aでは、量Rの還元剤ガス(例えば、都市ガス)を還元塔20内に供給すると共に、還元塔20から排出される排ガスの一部を排ガス再循環ライン40を通して還元塔20内に再循環させることで、量nに相当するガス量を補充する。それにより、還元塔20内には、R1(=R+n)のガス流量が存在することになり、nの量を調整することにより、R1の流量を調整することができる。
【0035】
さらに、ある発生熱量でケミカルループ式燃焼装置Aを運転している状態で、熱消費側のロードが低減したときに、酸化塔10への酸化剤ガスの供給量を低減して出力を低減することが必要となるが、単に酸化剤ガスの供給量を低減するのみでは、酸化塔10内でのガス流速が低下して酸素キャリア(M)の循環が不十分となる。本発明によるケミカルループ式燃焼装置Aでは、酸化剤ガスの低減分を前記のように酸化塔10からの排ガスの一部を排ガス再循環ライン30を通して酸化塔10に再循環させることでカバーすることができるので、酸化塔10内での所定のガス流速を維持した状態で、より低出力での運転を継続することができる。出力が低減した分だけ、還元塔20に供給する還元剤ガスの流量も低減することが求められるが、この低減に対しても、還元塔20からの排ガスに対応した量を、排ガス再循環ライン40を通して還元塔20に再循環させてカバーすることで、還元塔20内での所定のガス流速も維持することができる。
【0036】
酸化塔10に設けた排ガス再循環ライン30のみを稼働させ、還元塔20に設けた排ガス再循環ライン40は稼働させない運転方法を採ることが可能であり、また、排ガス再循環ライン40を備えないケミカルループ式燃焼装置Aを用いることも可能である。逆に、還元塔20に設けた排ガス再循環ライン40のみを稼働させ、酸化塔10に設けた排ガス再循環ライン30は稼働させない運転方法を採ることが可能であり、また、排ガス再循環ライン30を備えないケミカルループ式燃焼装置Aを用いることも可能である。
【0037】
次に、酸化塔10側での制御の一例を
図2のフロー図に沿って説明する。ケミカルループ式燃焼装置Aは酸化塔10内でのガス流量が前記したQ1(酸素キャリア(M)が円滑に循環するのに必要なガス流速を酸化塔10内に確立するときのガス流量)で運転されているとする。また、その運転状態での酸化塔10からの排ガスに含まれる酸素(O
2)量は予め設定した値(SV値)とする。運転中に、図示しない制御部は、管路15に取り付けた酸素センサー16からの排ガス中のO
2濃度の実測値(PV値)を継続的に読み込む。そして、設定値(SV値)と実測値(PV値)を比較する(S10)。SV値>PV値の場合(YESの場合)には、予定量の空気が酸化塔10に供給されていないことを意味するので、管路13に設けた制御弁14を調整して、空気流量を増量するとともに、排ガス再循環ライン30に設けた制御弁32を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン30を流れる排ガス量(EGR流量)を低減する(S11)。それにより、酸化塔10内でのガス流速を変えることなく、必要な空気を酸化塔10内に供給することができる。
【0038】
SV値>PV値でない場合(S10でNOの場合)には、制御部は、SV値<PV値かどうかを判断する(S12)。YESの場合には、予定量以上の空気が酸化塔10に供給されており、酸化塔10からの排ガスには予定量以上の酸素が含まれていることを意味する。その場合には、管路13に設けた制御弁14を調整して、酸化塔10への空気流量を減量するとともに、排ガス再循環ライン30に設けた制御弁32を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン30を流れる排ガス量(EGR流量)を増量する(S13)。それにより、酸化塔10内でのガス流速を変えることなく、必要な空気を酸化塔10内に供給することができる。なお、SV値=PV値の場合は、そのまま運転を継続すればよい。
【0039】
次に、還元塔20側での制御の一例を
図3のフロー図に沿って説明する。ここでも、ケミカルループ式燃焼装置Aは還元塔20内でのガス流量が前記したR1(酸化した酸素キャリア(MO)が円滑に循環するのに必要なガス流速を還元塔20内に確立するときのガス流量)で運転されているとする。また、その運転状態での還元塔20からの排ガスに含まれるCOなどの未燃成分量は予め設定した値(SV値)とする。運転中に、図示しない制御部は、管路24に取り付けたCOセンサー26からの排ガス中の未燃成分濃度の実測値(PV値)を継続的に読み込む。そして、設定値(SV値)と実測値(PV値)を比較する(S20)。SV値>PV値の場合(YESの場合)には、予定量の燃料ガスが還元塔20に供給されていないことを意味するので、管路21に設けた制御弁22調整して、燃料ガス量を増量するとともに、排ガス再循環ライン40に設けた制御弁42を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン40を流れる排ガス量(EGR流量)を低減する(S21)。それにより、還元塔20内でのガス流速を変えることなく、必要な量の燃料ガスを還元塔20内に供給することができる。
【0040】
SV値>PV値でない場合(S20でNOの場合)には、制御部は、SV値<PV値かどうかを判断する(S22)。YESの場合には、予定量以上の燃料ガスが還元塔20に供給されており、還元塔20からの排ガスには予定量以上の未燃成分が含まれていることを意味する。その場合には、管路21に設けた制御弁22を調整して、還元塔20への燃料ガス流量を減量するとともに、排ガス再循環ライン40に設けた制御弁42を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン42を流れる排ガス量(EGR流量)を増量する(S23)。それにより、還元塔20内でのガス流速を変えることなく、必要な量の燃料ガスを還元塔20内に供給することができる。ここでも、SV値=PV値の場合はそのまま運転を継続すればよい。
【0041】
図4は、熱消費側でのロードが変化した場合での、ターンダウン制御(ロード制御)について説明する。ここでも、ケミカルループ式燃焼装置Aは、酸化塔10内でのガス流量が前記したQ1(酸素キャリア(M)が円滑に循環するのに必要なガス流速を酸化塔10内に確立するときのガス流量)、および、還元塔20内でのガス流量が前記したR1(酸素キャリア(MO)が円滑に循環するのに必要なガス流速を還元塔20内に確立するときのガス流量)で運転されているとする。運転中に、図示しない制御部は、燃料(還元剤ガス)流量計、生成蒸気流量計等からの情報を得て、制御ロードの設定値(SV値)と実測値(PV値)を比較する(S30)。SV値>PV値の場合(YESの場合)には、予定量の酸化反応が酸化塔10内で進行していないことを意味するので、酸化反応による熱量を上げるために、管路13に設けた制御弁14を調整して、酸化塔10へ供給する空気流量を増量するとともに、排ガス再循環ライン30に設けた制御弁32を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン30を流れる排ガス量(EGR流量)を低減する。それにより、酸化塔10内でのガス流速を変えることなく、設定したロードを満たすだけの空気量を酸化塔10内に供給することができる。それと同時に、酸化反応で得られる熱エネルギーと当量となるように、管路21に設けた制御弁22調整して、燃料ガス量を増量するとともに、排ガス再循環ライン40に設けた制御弁42を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン40を流れる排ガス量(EGR流量)を低減する(S31)。
【0042】
SV値>PV値でない場合(S30でNOの場合)には、制御部は、SV値<PV値かどうかを判断する(S32)。YESの場合には、必要量以上の燃料ガスが還元塔20に供給されており、還元塔20からの排ガスには設定量以上の未燃成分が含まれているので、管路21に設けた制御弁22を調整して、還元塔20への燃料ガス流量を減量するとともに、排ガス再循環ライン40に設けた制御弁42を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン42を流れる排ガス量(EGR流量)を増量する。それにより、還元塔20内でのガス流速を変えることなく、必要な量の燃料ガスを還元塔20内に供給することができる。一方、酸化塔10側でも、必要量以上の空気が酸化塔10に供給されており、酸化塔10からの排ガスには設定量以上の酸素が含まれていることを意味するので、還元塔20側の制御と同時に、管路13に設けた制御弁14を調整して、酸化塔10への空気流量を減量するとともに、排ガス再循環ライン30に設けた制御弁32を調整して、それと同量だけ排ガス再循環ライン30を流れる排ガス量(EGR流量)を増量する(S33)。それにより、酸化塔10内でのガス流速を変えることなく、必要な空気を酸化塔10内に供給することができる。なお、SV値=PV値の場合は、そのまま運転を継続すればよい。
【0043】
上記したように、本発明によるケミカルループ式燃焼装置Aでは、酸化塔10および還元塔20の双方またはいずれか一方に、排ガス再循環ライン30、40を設けたことにより、酸化塔10および還元塔20内での酸素キャリアの円滑な流動状態を保持したままで、種々の運転態様に容易に対処することが可能となり、ケミカルループ式燃焼装置Aを実機として用いるときの利便性が大きく向上する。
【符号の説明】
【0044】
A…ケミカルループ式燃焼装置、
10…酸化塔、
20…還元塔、
30…酸化塔に設けた排ガス再循環ライン、
40…還元塔に設けた排ガス再循環ライン