(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の油圧緩衝器には以下の問題点がある。
(1)油圧緩衝器のピストンに設けた減衰バルブ装置が発生する減衰力は、ピストンの両側のピストンロッド側油室とピストン側油室の圧力差ΔPに、ピストン面積Aを乗じたものになる。車両の乗心地を向上させるために減衰力を小さく設定しようとするときには、バルブの耐久性確保のためにバルブに一定の剛性を付与する必要があることから、圧力差ΔPを小とすることには限界があり、ピストン面積Aを小さくすることが必要とされる。ところが、従来の油圧緩衝器では、ピストンを直接インナチューブに摺動させており、ピストン面積Aを小さくするためにピストンの径を小さくするためには、インナチューブの径を小さくする必要がある。このことは、インナチューブの曲げ剛性が低下することを意味し、フロントフォーク等に要求される曲げ剛性を損なう点で受け入れ難い。
【0005】
(2)油圧緩衝器の適用車種が変わり、インナチューブの径が変わる都度、ピストンの径も変える必要があり、ピストンの共用化ができない。
【0006】
本発明の課題は、アウタチューブに取付けたピストンロッドの先端部に固定したピストンがインナチューブの内部を摺動する油圧緩衝器において、ピストンの径をインナチューブの径に対して簡易に、独立に設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブの内周に隔壁部を設け、下部に作動油室を区画するとともに、上部にリザーバを区画し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部に貫通して前記作動油室内に挿入し、前記インナチューブに挿入した
前記ピストンロッドの先端部に該インナチューブの内部を摺動するピストンを固定し、前記アウタチューブと
前記インナチューブの間に懸架スプリングを介装してなる油圧緩衝器において、前記インナチューブの内側における少なくとも
前記ピストンの摺動範囲に、
前記ピストンが摺動し得るスリーブを挿入して固定してな
り、前記懸架スプリングが前記ピストンの下部と前記インナチューブの底部との間に介装されるとともに、前記スリーブが前記インナチューブの底部に立設され、前記スリーブを前記懸架スプリングにより前記インナチューブの底部の上に保持してなるようにしたものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、
請求項1に係る発明において更に、前記スリーブがインナチューブの内周に隙間なく挿入されてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)
(a)油圧緩衝器において、インナチューブの内側における少なくともピストンの摺動範囲に、該ピストンが摺動し得るスリーブを挿入して固定した。従って、インナチューブの内側に、ピストンの径に合わせたスリーブを挿入して固定することで、ピストンの径をインナチューブの径に対して独立に設定できる。
【0011】
これにより、インナチューブの曲げ剛性を徒らに低下することなく、ピストンの径を小さくしてピストンに設けた減衰力発生装置による減衰力を小さくする等、減衰力の設定の自由度を増し、車両の乗り心地を向上できる。
【0012】
また、油圧緩衝器の適用車種が変わり、インナチューブの径が変わっても、ピストンの径を変える必要がなく、ピストンの共用化を図ることができる。
【0013】
このとき、スリーブの長さを必要最小限(少なくともピストンの摺動範囲内)に設定でき、油圧緩衝器の安価、軽量化を実現できる。
【0014】
(b)スリーブをインナチューブの内側に挿入し、このスリーブを懸架スプリングによりインナチューブの底部の上に押さえて保持するだけで固定でき、油圧緩衝器の組立性も向上する。
【0015】
(請求項2)
(c)スリーブがインナチューブの内周に隙間なく挿入されることにより、インナチューブを薄肉化しながらインナチューブを補強でき、インナチューブの曲げ剛性を向上し、軽量化を図ることもできる。
【0016】
また、スリーブの長さ、形状を調整することで、インナチューブに与える補強程度も調整できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
フロントフォーク(油圧緩衝器)10は、アウタチューブ11を車体側に、インナチューブ12を車輪側に配置する倒立型フロントフォークであり、
図1〜
図6に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部と中間部の内周に固定したガイドブッシュ11A、11Bと、インナチューブ12の上端側内周に設けた後述する隔壁ケース19の外周に固定したシール材12Aを介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。11Cはオイルシール、11Dはダストシールである。アウタチューブ11の上端開口部にはキャップ13が液密に螺着されて封着され、アウタチューブ11の外周には車体側取付部材が設けられる。インナチューブ12の下端開口部には車軸ブラケット15が液密に挿着されて螺着されてインナチューブ12の底部を構成し、車軸ブラケット15には車軸取付孔が設けられる。
【0019】
フロントフォーク10は、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周と、前記ガイドブッシュ11Bとシール材12Aにて区画される環状油室17を区画する。
【0020】
フロントフォーク10は、
図5に示す如く、インナチューブ12の上端側内周に筒状の隔壁ケース19を設け、隔壁ケース19の底部に設けた隔壁部19Aより下部に作動油室21を区画するとともに、上部にリザーバ22を区画する。リザーバ22の中でその下側領域は油溜室22A、上側領域は空気室22Bである。
【0021】
フロントフォーク10は、アウタチューブ11に取付けたピストンロッド23を隔壁ケース19の隔壁部19Aに摺動自在に挿入する。具体的には、
図6に示す如く、キャップ13の中心部の下端部に螺着した取付カラー24に中空ピストンロッド23を螺着し、これをロックナット24Aで固定する。
【0022】
フロントフォーク10は、
図4に示す如く、隔壁ケース19の隔壁部19Aからインナチューブ12に挿入したピストンロッド23の先端部に螺着したピストンボルト25に、インナチューブ12の内部を摺動するピストン26を挿着し、このピストン26をピストンナット27により固定している。
【0023】
ここで、フロントフォーク10は、
図1〜
図4に示す如く、インナチューブ12の内側における少なくともピストン26の摺動範囲に、該ピストン26が摺動し得るスリーブ28を挿入して固定している。本実施例において、スリーブ28はインナチューブ12の内周に隙間なく挿入される。そして、スリーブ28はインナチューブ12の底部に設けられる後述のばね受ピース36の上に立設され、後述する懸架スプリング33によりそのばね受ピース36の上に押圧されて保持される。スリーブ28は長尺円筒状をなし、その下端内周から半径方向内側に張り出る内周フランジ28Aを備え、この内周フランジ28Aの上面を懸架スプリング33のための下ばね受32とされるものである(
図3)。
【0024】
フロントフォーク10は、インナチューブ12の内側に設けた上述のスリーブ28の内周に摺接するピストン26により、前記油室21をピストンロッド23が収容されるピストンロッド側油室21Aと、ピストンロッド23が収容されないピストン側油室21Bに区画する。
【0025】
フロントフォーク10は、前記環状油室17を、インナチューブ12に設けた油孔17Aを介して、ピストンロッド側油室21Aに常時連通する。
【0026】
フロントフォーク10は、ピストン26のピストン側油室21Bに臨む下端面から突き出ているピストンボルト25の下端部に上ばね受31を取着し、車軸ブラケット15が形成するインナチューブ12の底部の側に下ばね受32を配置し、上ばね受31と下ばね受32の間にメイン懸架スプリング33を介装している。メイン懸架スプリング33の全体がピストン側油室21Bに浸漬される。フロントフォーク10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング33の伸縮振動により吸収する。このとき、ばね荷重調整装置34が下ばね受32を昇降し、懸架スプリング33のばね荷重を調整可能にする。
【0027】
ばね荷重調整装置34は、
図2、
図3に示す如く、車軸ブラケット15におけるインナチューブ12の下端部が螺着される大径開口孔に続く小径閉塞孔に内蔵される。ばね荷重調整装置34は、車軸ブラケット15の車軸取付孔を外れる位置で外部に臨むアジャストボルト35を、車軸ブラケット15の外方から小径閉塞孔に挿入し、小径閉塞孔の底面(スライド面)(ばね受32の下端部を臨むことになる面)に設けたスライダ35Aをアジャストボルト35の回転力によりインナチューブ12の中心軸に交差する方向(アジャストボルト35の軸方向)に直線移動可能にする。ばね受ピース36が載置されるばね受ベース36Aの下部斜面A1をスライダ35Aの上部斜面A2に載せ、ばね受32をアジャストボルト35、スライダ35A、ばね受ベース36A、ばね受ピース36を介して車軸ブラケット15に支持する。アジャストボルト35の回転によりばね受32を昇降させて懸架スプリング33のばね荷重を調整する。
【0028】
フロントフォーク10は、キャップ13の下端側に設けた前述の取付カラー24のためのロックナット24Aの下端面を上ばね受37とし、前述の隔壁ケース19の底部に設けた隔壁部19Aの上に下ばね受38を配置し、上ばね受37と下ばね受38の間にサブ懸架スプリング39を介装している。サブ懸架スプリング39の全体がリザーバ22に配置される。
【0029】
フロントフォーク10は、ピストン26に減衰力発生装置40を備える(
図4)。
減衰力発生装置40は、圧側流路41と伸側流路42を備える。圧側流路41は、バルブストッパ41Bにバックアップされる圧側ディスクバルブ41A(圧側減衰バルブ)により開閉される。伸側流路42は、バルブストッパ42Bにバックアップされる伸側ディスクバルブ42A(伸側減衰バルブ)により開閉される。尚、バルブストッパ41B、バルブ41A、ピストン26、バルブ42A、バルブストッパ42Bは、ピストンボルト25に挿着されるバルブ組立体を構成し、ピストンボルト25に螺着されるピストンナット27に挟まれて固定される。
【0030】
減衰力発生装置40は、キャップ13の中心部に減衰力調整装置40Aを設け、減衰力調整装置40Aのニードル弁44をピストンロッド23の中空部に挿入し、ピストンロッド23に設けたバイパス路45の開度をニードル弁44の上下動により調整する。バイパス路45は、ピストン26をバイパスし、ピストンロッド側油室21Aとピストン側油室21Bを連絡する。
【0031】
減衰力発生装置40は、圧側行程では、低速域で、ニードル弁44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。また、伸側行程では、低速域で、ニードル弁44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。この圧側減衰力と伸側減衰力により、前述した懸架スプリング33、36の伸縮振動を制振する。
【0032】
フロントフォーク10は、キャップ13の下端面に、インナチューブ12に設けた隔壁ケース19の上端部が最圧縮ストロークで衝合するストッパラバー13A、ストッパ板13Bを設けており、このストッパラバー13Aによって最圧縮ストロークを規制する。
【0033】
フロントフォーク10は、インナチューブ12の上端側の隔壁ケース19の底部に設けた隔壁部19Aのピストンロッド側油室21Aに臨む下端面に固定したスプリングシート46と、ピストンロッド23に設けたストッパリングに係止させたスプリングシート47との間にリバウンドスプリング48を介装してある。フロントフォーク10の最伸長時に、隔壁ケース19の側のスプリングシート46がリバウンドスプリング48をスプリングシート47との間で加圧することにより、最伸長ストロークを規制する。
【0034】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、アウタチューブ11とインナチューブ12の環状隙間からなる前記環状油室17の断面積S1を、ピストンロッド23の断面積(外径に囲まれる面積)S2より大きく形成している(S1>S2)。
【0035】
また、隔壁ケース19の隔壁部19Aに、
図5に示す如く、圧側行程ではリザーバ22の油溜室22Aからピストンロッド側油室21Aへの油の流れを許容し、伸側行程ではピストンロッド側油室21Aからリザーバ22の油溜室22Aへの油の流れを阻止するチェック弁50を設けている。
【0036】
また、隔壁ケース19の隔壁部19Aに、
図5に示す如く、ピストンロッド側油室21Aとリザーバ22を連通するオリフィス51を穿設している。
【0037】
フロントフォーク10の動作は以下の如くになる。
(圧側行程)
圧側行程でインナチューブ12に進入するピストンロッド23の進入容積分の作動油がインナチューブ12の内周のピストンロッド側油室21Aからインナチューブ12の油孔17Aを介して環状油室17に移送される。このとき、環状油室17の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッド23の容積増加分ΔS2より大きいから、環状油室17への油の必要補給量のうち、(ΔS1−ΔS2)の不足分がリザーバ22の油溜室22Aからチェック弁50を介して補給される。
【0038】
この圧側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により圧側減衰力を発生し、中高速域で、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形により圧側減衰力を発生する。
【0039】
(伸側行程)
伸側行程でインナチューブ12から退出するピストンロッド23の退出容積分の作動油が環状油室17からインナチューブ12の油孔17Aを介してインナチューブ12の内周のピストンロッド側油室21Aに移送される。このとき、環状油室17の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッド23の容積減少分ΔS2より大きいから、環状油室17からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分がオリフィス51を介してリザーバ22の油溜室22Aへ排出される。
【0040】
この伸側行程では、前述した通り、低速域で、ニードル弁44により開度調整されたバイパス路45の通路抵抗により伸側減衰力を発生し、中高速域で、伸側ディスクバルブ42Aの撓み変形により伸側減衰力を発生する。また、上述の微小流路51の通路抵抗による伸側減衰力も発生する。
【0041】
以下、減衰力調整装置40Aについて説明する。
減衰力調整装置40Aは、
図4〜
図6に示す如く、同心状に挿通した2本のプッシュロッド61、62をピストンロッド23の中空部に挿通し(ピストンロッド23の中空部にプッシュロッド62を、プッシュロッド62の中空部にプッシュロッド61を挿通する)、プッシュロッド61を軸方向に移動させる第1調整部70と、プッシュロッド62を軸方向に移動させる第2調整部80を、フロントフォーク10の上部であるキャップ13に設ける。
【0042】
第1調整部70の第1アジャストボルト71が、プッシュロッド61を軸方向に上下動させると、プッシュロッド61と軸方向に衝合しているニードル弁44がピストンボルト25に対して上下動し、ピストンボルト25に設けてあるバイパス路45の縦孔上端部の弁シートに対して進退し、バイパス路45の開度を調整し、ひいてはバイパス路45の通路抵抗による圧側と伸側の減衰力を調整可能にする。
【0043】
第2調整部80のアジャストボルト81が、プッシュロッド62を軸方向に移動させると、プッシュロッド62の下端面が衝接している押動片82がばね受83を上下に移動してバルブ押えスプリング84を伸縮し、スプリング84のセット荷重を調整する。これにより、スプリング84のセット荷重がバルブ押え85を介して圧側ディスクバルブ41Aを閉じる方向に付勢し、圧側ディスクバルブ41Aの撓み変形による圧側減衰力を調整可能にする。
【0044】
従って、本実施例によればインナチューブ12の内側にスリーブ28を挿入したことにより、以下の作用効果を奏する。
(a)フロントフォーク10において、インナチューブ12の内側における少なくともピストン26の摺動範囲に、該ピストン26が摺動し得るスリーブ28を挿入して固定した。従って、インナチューブ12の内側に、ピストン26の径に合わせたスリーブ28を挿入して固定することで、ピストン26の径をインナチューブ12の径に対して独立に設定できる。
【0045】
これにより、インナチューブ12の曲げ剛性を徒らに低下することなく、ピストン26の径を小さくしてピストン26に設けた減衰力発生装置40による減衰力を小さくする等、減衰力の設定の自由度を増し、車両の乗り心地を向上できる。
【0046】
また、フロントフォーク10の適用車種が変わり、インナチューブ12の径が変わっても、ピストン26の径を変える必要がなく、ピストン26の共用化を図ることができる。
【0047】
このとき、スリーブ28の長さを必要最小限(少なくともピストン26の摺動範囲内)に設定でき、フロントフォーク10の安価、軽量化を実現できる。
【0048】
(b)スリーブ28をインナチューブ12の内側に挿入し、このスリーブ28を懸架スプリング33によりインナチューブ12の底部の上に押さえて保持するだけで固定でき、フロントフォーク10の組立性も向上する。
【0049】
(c)スリーブ28がインナチューブ12の内周に隙間なく挿入されることにより、インナチューブ12を薄肉化しながらインナチューブ12を補強でき、インナチューブ12の曲げ剛性を向上し、軽量化を図ることもできる。
【0050】
また、スリーブ28の長さ、形状を調整することで、インナチューブ12に与える補強程度も調整できる。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。