特許第5872370号(P5872370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872370
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】皮膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   C23C26/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-98584(P2012-98584)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-227599(P2013-227599A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年10月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成23年11月8日 集会名/開催場所 社団法人日本金属学会2011年秋期講演(第149回)大会/沖縄コンベンションセンターおよびカルチャーリゾートフェストーネ(沖縄県宜野湾市)
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】川原 公介
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−082966(JP,A)
【文献】 特開平04−041662(JP,A)
【文献】 特開平07−268645(JP,A)
【文献】 特開2004−277832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00−12/02
C23C24/00−30/00
B23K26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ照射にてそのレーザ照射領域において飛散微粒子が蒸散する材料を用い、この材料表面にレーザを集光し、レーザ照射領域の蒸散により発生した飛散微粒子を当該材料表面に堆積させ、当該材料表面に堆積した飛散微粒子からなる皮膜に、飛散微粒子が分散してその分散した飛散微粒子が凝集する液体を、滴下又は噴霧した後、熱処理を施すことによって密着強度の高い皮膜を形成することを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項2】
前記レーザがフェムト秒レーザであることを特徴とする請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
前記レーザがピコ秒レーザであることを特徴とする請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
前記材料がチタンまたはチタンを主とする材料であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記液体がエタノールであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
前記液体が過酸化水素水であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の皮膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料表面に機能性皮膜を形成することで、母材とは異なる性質をその表面に付与することが可能である。例えば、導電性材料表面に絶縁性皮膜を形成したり、絶縁性材料表面に導電性皮膜を形成することが可能である。あるいは、平滑な表面に粗い粒子を固着させ粗面としたり、粗い表面に微粒子を固着させ平滑な表面を形成すること等が可能である。その方法として、スピンコート法(特許文献1)やパルスレーザー堆積法(特許文献2)などの皮膜形成方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−172791号公報
【特許文献2】特開2006−265679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した方法は皮膜を被覆したい対象物の外部に皮膜用材料を準備し、その皮膜用材料を基板表面に塗布あるいは溶射する方法であるため、皮膜用材料を被覆対象物とは別に用意することが必要となる。さらには、その皮膜用材料を対象物表面に被覆させる装置が必要となるため、皮膜形成のための手順が煩雑となるうえ、装置が大型化するとともに、コスト高となる。また、これらの方法では、皮膜の被覆領域を限定するために被覆対象物表面にマスク処理が必要となるため、皮膜形成のための手順が煩雑となるうえ、多くの装置を必要とする。
【0005】
本発明は、これらの従来技術の問題を解決し、皮膜用材料を被覆対象物の外部に用意する必要の無く、また皮膜の被覆領域を被覆対象物へのマスク処理なしに限定できる、皮膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、レーザ照射にてそのレーザ照射領域において飛散微粒子が蒸散する材料を用い、この材料表面にレーザを集光し、レーザ照射領域の蒸散により発生した飛散微粒子を当該材料表面に堆積させ、当該材料表面に堆積した飛散微粒子からなる皮膜に、飛散微粒子が分散してその分散した飛散微粒子が凝集する液体を、滴下又は噴霧した後、熱処理を施すことによって密着強度の高い皮膜を形成するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被覆対象物表面へのレーザ照射によってその表面を高温状態とし、その結果、該被覆対象物表面から蒸散する飛散微粒子を用いて皮膜を形成でき、被覆対象物の外部に皮膜用材料を用意する必要がない皮膜形成方法を提供することができる。また、該レーザを被覆対象物表面に照射のみすればよいため、塗布あるいは溶射装置など複雑な機構を必要としない。さらには、該被覆対象物表面から蒸散する飛散微粒子はレーザ照射した領域とそのごく近傍の周辺部のみに堆積するため、皮膜を形成する領域を高い精度で限定することができる。その飛散微粒子が堆積した被覆対象物表面に液体を作用させ熱処理を施すことによって密着強度の高い皮膜を被覆対象物へ形成することができる。
【0008】
このように、本発明によれば、材料表面に種々の皮膜を形成する場合において、従来方法よりも手順および構造が簡便となり、装置の小型化が図れ、製品製造において高コスト化を回避し、また、被覆対象物上での自由な皮膜の配置を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例において使用するレーザ表面加工装置の簡略図である。
図2】本発明の実施形態を示すレーザ照射の簡略図である。
図3】本発明の実施形態を示すレーザ照射時の材料表面からの微粒子の飛散と堆積を示す簡略図である。
図4】本発明の実施例で用いたチタン基板表面の電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施例で用いたチタン基板表面のX線回折強度を示すグラフである。
図6】本発明の実施例において得られた、被覆対象物上に堆積した飛散微粒子の電子顕微鏡写真である。
図7】本発明の実施例において得られた、被覆対象物上に堆積した飛散微粒子のX線回折強度を示すグラフである。
図8】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物を超音波洗浄した後の基板表面のX線回折強度を示すグラフである。
図9】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物を熱処理し超音波洗浄した後の基板表面のX線回折強度を示すグラフである。
図10】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物にエタノールを滴下後熱処理した後の基板表面の電子顕微鏡写真である。
図11】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物にエタノールを滴下後熱処理し、超音波洗浄した後の基板表面のX線回折強度を示すグラフである。
図12】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物に過酸化水素水を滴下後熱処理した後の基板表面の電子顕微鏡写真である。
図13】本発明の実施例において得られた、飛散微粒子が堆積した被覆対象物に過酸化水素水を滴下後熱処理し、超音波洗浄した後の基板表面のX線回折強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明に係る皮膜形成方法においては、被覆対象物の材料組成やその結合状態は自由に選択することができるが、本実施形態では、本発明の一実施形態であり、被覆対象物の材料をチタンとし、光触媒や生体材料として知られる二酸化チタンを皮膜として形成する場合を示している。
【0011】
被覆対象物の材料として、チタン基板を用いる。
【0012】
照射するレーザとしては、例えばフェムト秒レーザを使用する。なお、フェムト秒レーザは、そのパルスの半値全幅がフェムト秒(「フェムト」は「10のマイナス15乗」の意)台であるレーザのことを示す。また、照射するレーザとしては、ピコ秒レーザであってもよい。「ピコ」は「10のマイナス12乗」の意である。
【0013】
このチタンからなる被覆対象物Wに例えば図1に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を用いて図2に示すようにレーザLを集光照射する。このため、被覆対象物表面のレーザ照射された領域は高温となり飛散微粒子として蒸散する。
【0014】
図3に示すように、この蒸散する飛散微粒子Pは、いったん被覆対象物から遠ざかる方向に飛び出すが、蒸散過程によって生じる蒸散部位から噴き出して被覆対象物に戻る対流などにより、再び被覆対象物表面方向に戻らせ、飛散微粒子を最終的に被覆対象物に衝突・付着させ堆積させることができる。
【0015】
このように被覆対象物に堆積した飛散微粒子からなる皮膜に液体を作用させ、その液体に分散した該微粒子がその後凝集することで、皮膜中の該微粒子の空間的な配置密度が向上し、該微粒子と該被覆対象物、および該微粒子同士の接触点の数が増加する。その状態において熱処理を施すことによって、該微粒子と該被覆対象物、および該微粒子同士は接触点が増加した状態で互いに結合するため、該被覆対象物への密着強度の高い皮膜となる。
【0016】
またこの皮膜を構成する微粒子は、チタン基板表面がレーザ照射により加熱され蒸散したものであり、このとき高温の状態で大気中の酸素と反応したため酸化されており、二酸化チタンとなっている。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例を説明する。この実施例はフェムト秒レーザ照射と液体の滴下および熱処理により、チタン基板表面へ密着強度の高い二酸化チタン皮膜の形成を目的としたものである。
【0018】
被覆対象物にはチタン基板(純度99.5%)を用いた。この基板表面の電子顕微鏡写真を図4に示す。また、その基板表面をX線回折により分析した結果が図5である。二酸化チタンの存在は確認されないことから基板表面は主にチタンである。この基板に、図1に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を用いて、加工閾値近傍の照射エネルギ密度のフェムト秒レーザ(波長800nm、パルス幅120fs)を大気中で集光し、照射領域がオーバラップするように走査照射した。
【0019】
前記フェムト秒レーザを照射した基板表面の電子顕微鏡像を図6に示す。レーザ照射領域の蒸散により発生した飛散微粒子が基板表面に堆積した。また、その基板表面をX線回折により分析した結果が図7である。このことから、基板表面に堆積した微粒子は二酸化チタンであることが確認された。
【0020】
上記の照射条件で作製した基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が図8である。二酸化チタンの存在を示す信号が見られなくなった。このことは二酸化チタンの皮膜がチタン基板から脱落したことを示している。
【0021】
他方、前記の照射条件で作製した基板を電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。その後、超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が図9である。二酸化チタンの存在を示す信号強度が著しく減少しており、これは、大部分の皮膜がチタン基板から脱落したことを示している。
【0022】
他方、前記の照射条件で作製した基板に、エタノール(濃度99.5vol%)を滴下した。エタノールを蒸発させた後、電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。この基板表面の電子顕微鏡像を図10に示す。その基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が図11である。
【0023】
他方、前記の照射条件で作製した基板に滴下する液体を過酸化水素水(濃度2.5〜3.5w/v%)とし、電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。この基板表面の電子顕微鏡像を図12に示す。その基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が図13である。
【0024】
このように、前記熱処理を施さなかった基板およびエタノールあるいは過酸化水素水を滴下せずに熱処理した基板表面と比較して、エタノールあるいは過酸化水素水といった液体を皮膜に滴下した後に熱処理を施したチタン基板表面の超音波洗浄後のX線回折による二酸化チタンの存在を示す信号強度は大きく、二酸化チタン皮膜の残存が示された。このことから、液体を滴下後に熱処理した基板表面の二酸化チタン皮膜のほうが密着強度が高いことが確認された。
【0025】
以上のことから、本実施例において、フェムト秒レーザ照射と液体の滴下および熱処理により、前記の被覆対象物の外部に皮膜材料を準備することがなく、また、レーザ照射領域近傍に皮膜形成領域を限定できる皮膜形成方法において、チタン基板表面への密着強度の高い二酸化チタン皮膜の形成を実証した。
【0026】
他の実施形態について
上記実施例では、本発明の一実施形態である、被覆対象物の材料をチタンとし、その表面に二酸化チタンの皮膜を形成する方法について説明したが、本発明はこれに限らず、以下に説明する種々の形態を含むものである。
【0027】
上記実施例では、被覆対象物にチタンを用いたが、被覆対象物や皮膜は他の材料でもよく、例えば、金属、半導体、絶縁物、無機材料、有機材料を問わず、種々の選択が可能である。また、それらの混合物あるいは積層物とすることもできる。
【0028】
照射するレーザは、フェムト秒レーザに限らず、レーザ照射によって照射領域が蒸散するに十分な高温状態に達することで被覆対象物表面から飛散微粒子を発生させることが可能なレーザであればよく、例えば、ピコ秒レーザといった短パルスレーザでもよい。また、その波長も種々選択可能である。
【0029】
また、レーザの集光にはレンズあるいは集光鏡を用いることができる。走査照射する場合は、被覆対象物に対してレーザを走査してもよいし、被覆対象物を移動させてもよいし、その両方でもよい。また、レーザを走査する場合には、ガルバノスキャナやポリゴンミラーを使用してもよい。
【0030】
飛散微粒子の堆積を促進するため、被覆対象物に向かってガスブローを施してもよい。また、電界や磁界により、飛散微粒子の堆積を促してもよい。さらには、加工雰囲気の気圧を大気圧以上にしてもよい。
【0031】
上記実施例では飛散微粒子の酸化を促すために大気中でレーザ照射したが、加工雰囲気はその目的に応じて種々の気体を選択することができる。また、それらの混合気体でもよい。さらには、気体の圧力も種々選択可能である。
【0032】
皮膜の密着強度を向上させるためにメタノールや過酸化水素水を用いたが、他の液体、水あるいはそれらの混合物でもよい。また、液体は、中性、酸性あるいはアルカリ性液体でもよい。さらには、それらの温度、濃度、粘度も種々選択可能である。
【0033】
皮膜に液体を付与する方法として、飛散微粒子の堆積した被覆対象物に液体を滴下する方法としたが、液体を噴霧してもよいし、その液体成分が高濃度に存在する気体に皮膜を曝露してもよい。また、結露現象を利用してもよい。
【0034】
本実施形態では、皮膜の密着強度を高くするために、電気炉を用い酸化性である大気雰囲気中で熱処理を施したが、熱処理に用いる機器は種々設定可能である。また、設定温度や時間も目的とする皮膜性能に応じて選択可能である。また、加熱時の雰囲気は、大気のみならず、酸化性雰囲気や還元性雰囲気、不活性雰囲気中で熱処理することができる。また、それらの圧力は種々に設定可能であり、熱処理は真空中でもよい。
【0035】
熱処理の前に液体が完全に乾燥していなくてもよい。
【符号の説明】
【0036】
L レーザ
P 飛散微粒子
W 材料
図1
図2
図3
図5
図7
図8
図9
図11
図13
図4
図6
図10
図12