【実施例】
【0017】
以下に、本発明の実施例を説明する。この実施例はフェムト秒レーザ照射と液体の滴下および熱処理により、チタン基板表面へ密着強度の高い二酸化チタン皮膜の形成を目的としたものである。
【0018】
被覆対象物にはチタン基板(純度99.5%)を用いた。この基板表面の電子顕微鏡写真を
図4に示す。また、その基板表面をX線回折により分析した結果が
図5である。二酸化チタンの存在は確認されないことから基板表面は主にチタンである。この基板に、
図1に示すフェムト秒レーザ表面加工装置を用いて、加工閾値近傍の照射エネルギ密度のフェムト秒レーザ(波長800nm、パルス幅120fs)を大気中で集光し、照射領域がオーバラップするように走査照射した。
【0019】
前記フェムト秒レーザを照射した基板表面の電子顕微鏡像を
図6に示す。レーザ照射領域の蒸散により発生した飛散微粒子が基板表面に堆積した。また、その基板表面をX線回折により分析した結果が
図7である。このことから、基板表面に堆積した微粒子は二酸化チタンであることが確認された。
【0020】
上記の照射条件で作製した基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が
図8である。二酸化チタンの存在を示す信号が見られなくなった。このことは二酸化チタンの皮膜がチタン基板から脱落したことを示している。
【0021】
他方、前記の照射条件で作製した基板を電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。その後、超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が
図9である。二酸化チタンの存在を示す信号強度が著しく減少しており、これは、大部分の皮膜がチタン基板から脱落したことを示している。
【0022】
他方、前記の照射条件で作製した基板に、エタノール(濃度99.5vol%)を滴下した。エタノールを蒸発させた後、電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。この基板表面の電子顕微鏡像を
図10に示す。その基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が
図11である。
【0023】
他方、前記の照射条件で作製した基板に滴下する液体を過酸化水素水(濃度2.5〜3.5w/v%)とし、電気炉中で大気雰囲気下において575℃で30分間熱処理を施した。この基板表面の電子顕微鏡像を
図12に示す。その基板を超音波洗浄器を用いてアルコール中で洗浄することで皮膜に外力を与え、皮膜の密着性を評価した。洗浄後の基板表面をX線回折により分析した結果が
図13である。
【0024】
このように、前記熱処理を施さなかった基板およびエタノールあるいは過酸化水素水を滴下せずに熱処理した基板表面と比較して、エタノールあるいは過酸化水素水といった液体を皮膜に滴下した後に熱処理を施したチタン基板表面の超音波洗浄後のX線回折による二酸化チタンの存在を示す信号強度は大きく、二酸化チタン皮膜の残存が示された。このことから、液体を滴下後に熱処理した基板表面の二酸化チタン皮膜のほうが密着強度が高いことが確認された。
【0025】
以上のことから、本実施例において、フェムト秒レーザ照射と液体の滴下および熱処理により、前記の被覆対象物の外部に皮膜材料を準備することがなく、また、レーザ照射領域近傍に皮膜形成領域を限定できる皮膜形成方法において、チタン基板表面への密着強度の高い二酸化チタン皮膜の形成を実証した。
【0026】
他の実施形態について
上記実施例では、本発明の一実施形態である、被覆対象物の材料をチタンとし、その表面に二酸化チタンの皮膜を形成する方法について説明したが、本発明はこれに限らず、以下に説明する種々の形態を含むものである。
【0027】
上記実施例では、被覆対象物にチタンを用いたが、被覆対象物や皮膜は他の材料でもよく、例えば、金属、半導体、絶縁物、無機材料、有機材料を問わず、種々の選択が可能である。また、それらの混合物あるいは積層物とすることもできる。
【0028】
照射するレーザは、フェムト秒レーザに限らず、レーザ照射によって照射領域が蒸散するに十分な高温状態に達することで被覆対象物表面から飛散微粒子を発生させることが可能なレーザであればよく、例えば、ピコ秒レーザといった短パルスレーザでもよい。また、その波長も種々選択可能である。
【0029】
また、レーザの集光にはレンズあるいは集光鏡を用いることができる。走査照射する場合は、被覆対象物に対してレーザを走査してもよいし、被覆対象物を移動させてもよいし、その両方でもよい。また、レーザを走査する場合には、ガルバノスキャナやポリゴンミラーを使用してもよい。
【0030】
飛散微粒子の堆積を促進するため、被覆対象物に向かってガスブローを施してもよい。また、電界や磁界により、飛散微粒子の堆積を促してもよい。さらには、加工雰囲気の気圧を大気圧以上にしてもよい。
【0031】
上記実施例では飛散微粒子の酸化を促すために大気中でレーザ照射したが、加工雰囲気はその目的に応じて種々の気体を選択することができる。また、それらの混合気体でもよい。さらには、気体の圧力も種々選択可能である。
【0032】
皮膜の密着強度を向上させるためにメタノールや過酸化水素水を用いたが、他の液体、水あるいはそれらの混合物でもよい。また、液体は、中性、酸性あるいはアルカリ性液体でもよい。さらには、それらの温度、濃度、粘度も種々選択可能である。
【0033】
皮膜に液体を付与する方法として、飛散微粒子の堆積した被覆対象物に液体を滴下する方法としたが、液体を噴霧してもよいし、その液体成分が高濃度に存在する気体に皮膜を曝露してもよい。また、結露現象を利用してもよい。
【0034】
本実施形態では、皮膜の密着強度を高くするために、電気炉を用い酸化性である大気雰囲気中で熱処理を施したが、熱処理に用いる機器は種々設定可能である。また、設定温度や時間も目的とする皮膜性能に応じて選択可能である。また、加熱時の雰囲気は、大気のみならず、酸化性雰囲気や還元性雰囲気、不活性雰囲気中で熱処理することができる。また、それらの圧力は種々に設定可能であり、熱処理は真空中でもよい。
【0035】
熱処理の前に液体が完全に乾燥していなくてもよい。