(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872428
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】自動工具交換装置およびその中間軸ボールホルダ
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/157 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
B23Q3/157 M
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-201295(P2012-201295)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-54698(P2014-54698A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390027786
【氏名又は名称】大久保歯車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄司
(72)【発明者】
【氏名】笹生 真
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−327597(JP,A)
【文献】
特開2005−247011(JP,A)
【文献】
特開昭62−246644(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3126371(JP,U)
【文献】
韓国登録特許第954761(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155−3/157,
F16C 21/00−27/08,33/38−33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状で、外周に旋回カム溝が形成され、一方の側面に環状のシフトカム溝が形成されたカムホイールと、
前記旋回カム溝と噛み合う複数の伝達ボールが円周上に配設され、前記カムホイールが回転すると、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとの噛み合いを介して回動する中間軸と、
チェンジャアームを有するとともに、前記中間軸に設けられた駆動ギヤと噛み合う従動ギヤを有し、前記中間軸の回動に伴って回動する出力シャフトと、
前記シフトカム溝に従って揺動することで、前記出力シャフトを軸方向に進退動させるシフトレバーと、を備える自動工具交換装置であって、
板材で形成され、前記中間軸の軸心を中心とする略円環形で、内周面と前記中間軸とによって前記伝達ボールを挟持するようにして保持し、前記円環の一部が開口されて窓部が形成され、前記窓部の両縁に、該両縁を結ぶ線に沿うように前記円環の外側に延びるツバ部が設けられた中間軸ボールホルダを備え、
前記窓部を介して前記伝達ボールが前記旋回カム溝に噛み合い、前記ツバ部が前記カムホイールの外周に接することで、前記中間軸ボールホルダの軸心周りの回転が防止されるようになっている、ことを特徴とする自動工具交換装置。
【請求項2】
前記中間軸の軸方向において、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとのバックラッシュを低減する方向に前記中間軸ボールホルダを移動させた場合に、前記中間軸ボールホルダのツバ部と前記カムホイールの外周との隙間が小さくなるように、前記ツバ部が斜めに形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の自動工具交換装置。
【請求項3】
円盤状で、外周に旋回カム溝が形成され、一方の側面に環状のシフトカム溝が形成されたカムホイールと、
前記旋回カム溝と噛み合う複数の伝達ボールが円周上に配設され、前記カムホイールが回転すると、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとの噛み合いを介して回動する中間軸と、
チェンジャアームを有するとともに、前記中間軸に設けられた駆動ギヤと噛み合う従動ギヤを有し、前記中間軸の回動に伴って回動する出力シャフトと、
前記シフトカム溝に従って揺動することで、前記出力シャフトを軸方向に進退動させるシフトレバーと、を備える自動工具交換装置において、前記伝達ボールを保持する中間軸ボールホルダであって、
板材で形成され、前記中間軸の軸心を中心とする略円環形で、内周面と前記中間軸とによって前記伝達ボールを挟持するようにして保持し、前記円環の一部が開口されて窓部が形成され、前記窓部の両縁に、該両縁を結ぶ線に沿うように前記円環の外側に延びるツバ部が設けられ、
前記窓部を介して前記伝達ボールが前記旋回カム溝に噛み合い、前記ツバ部が前記カムホイールの外周に接することで、軸心周りの回転が防止されるようになっている、ことを特徴とする自動工具交換装置の中間軸ボールホルダ。
【請求項4】
前記中間軸の軸方向において、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとのバックラッシュを低減する方向に移動させた場合に、前記ツバ部と前記カムホイールの外周との隙間が小さくなるように、前記ツバ部が斜めに形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の自動工具交換装置の中間軸ボールホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)に関し、特に、中間軸の伝達ボールを保持する中間軸ボールホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
自動工具交換装置は、チェンジャアームが配設された出力シャフトを、軸方向に進退動させたり、軸心周りに回動させたりすることで、所定のタイミングで工具を把持、開放する装置である(例えば、特許文献1参照。)。このような自動工具交換装置には、出力シャフトが水平方向に延びるように配設された横型で、出力シャフトが中間軸を介して回転するものがある。
【0003】
すなわち、
図14、15に示すように、円盤状のカムホイール2の外周にウォームギヤ2aと旋回カム溝2bとが形成され、カムホイール2の一方の側面には環状のシフトカム溝2cが形成されている。このウォームギヤ2aは、ウォームシャフト3のウォームギヤ3aと噛み合い、モータ31によってウォームシャフト3が回転駆動されると、ウォームギヤ3a、2aの噛み合いを介してカムホイール2が回転するようになっている。ここで、ウォームシャフト3の軸心とカムホイール2の軸心とは、直交するように配設されている。
【0004】
旋回カム溝2bは、中間軸4の外周に円周上に配設された複数のカムフォロア41と噛み合っている。そして、カムホイール2が回転すると、旋回カム溝2bとカムフォロア41との噛み合いを介して中間軸4が回動(回転)するようになっている。ここで、カムホイール2の軸心と中間軸4の軸心とは、直交するように配設され、かつ、中間軸4は、ウォームシャフト3と平行するように配設されている。
【0005】
シフトカム溝2cには、シフトレバー5の駆動側カムフォロア(一端部)5aが摺動自在に挿入され、シフトレバー5の従動側カムフォロア(他端部)5bが出力シャフト6のシフト溝6aに装着されている。ここで、シフトレバー5は、揺動軸51を軸にして、揺動するように配設されている。そして、カムホイール2が回転すると、駆動側カムフォロア5aがシフトカム溝2cに沿って摺動し、これに伴ってシフトレバー5が揺動して、出力シャフト6が軸方向に進退動(往復動)するようになっている。
【0006】
一方、中間軸4には駆動ギヤ42が設けられ、この駆動ギヤ42は、出力シャフト6に配設された従動ギヤ61と噛み合っている。ここで、出力シャフト6の外周には、軸方向に延びる外周スプライン6bが形成され、従動ギヤ61の内周には、外周スプライン6bと噛み合う内周スプライン61aが形成され、これにより、従動ギヤ61と出力シャフト6とが一体的に回転するようになっている。そして、上記のようにして中間軸4が回動(回転)し、駆動ギヤ42が回動すると、駆動ギヤ42と噛み合う従動ギヤ61が回動して、出力シャフト6が回動するものである。ここで、出力シャフト6は、中間軸4と平行するように配設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−254261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような自動工具交換装置では、カムホイール2の回転をカムフォロア41を介して中間軸4に伝達するため、製造費がかさむばかりでなく、大きな配設スペースを要する。すなわち、
図16、17に示すように、中間軸4の中央部を大径にしてネジ孔4aを形成するとともに、円柱状のカムフォロア41にネジ部41aを設ける。そして、カムフォロア41の軸心が中間軸4の軸心と直交するように、中間軸4の円周方向に複数のカムフォロア41を配設しなければならい。このため、製造費がかさむとともに、寸法S1〜S8を大きく確保する必要があり、装置全体が大きくなってしまう。
【0009】
このため、カムフォロア41に代わって、伝達ボールを中間軸4に配設することで、製造費の低減や省スペース化を図ることが考えられる。しかしながら、伝達ボールの保持機構として一般に使用されているリテーナタレットは、形状・構造が複雑であるばかりでなく、自動工具交換装置の機構・構造上、採用することができない場合がある。
【0010】
すなわち、
図10、11に示すように、中間軸4の全長の半分ほどの長さを有する、円筒状のリテーナタレット200内に中間軸4を挿入した状態で、リテーナタレット200の一端部を自動工具交換装置のケーシング(側壁)で保持する。また、リテーナタレット200の他端部の内周面と、中間軸4とによって複数の伝達ボール40を挟持、保持するものである。
【0011】
このように、リテーナタレット200は、中間軸4よりも外径が大きい厚肉の円筒状で、しかも中間軸4の半分ほどの長さを有し、切削加工で製作するため、製造費がかさむとともに、大きな配設スペース(占有スペース)が必要となる。このため、リテーナタレット200がシフトレバーなどと干渉する場合があり、このような干渉を避けるためにシフトレバーなどの配設位置が制限されることになる。つまり、他の構成要素・部品の配設自由度や設計自由度などが制限されることになり、さらには、装置全体が大きくなってしまう。
【0012】
そこでこの発明は、中間軸の伝達ボールを簡易な構成で保持可能で、かつ省スペース化が可能な、自動工具交換装置およびその中間軸ボールホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、円盤状で、外周に旋回カム溝が形成され、一方の側面に環状のシフトカム溝が形成されたカムホイールと、前記旋回カム溝と噛み合う複数の伝達ボールが円周上に配設され、前記カムホイールが回転すると、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとの噛み合いを介して回動する中間軸と、チェンジャアームを有するとともに、前記中間軸に設けられた駆動ギヤと噛み合う従動ギヤを有し、前記中間軸の回動に伴って回動する出力シャフトと、前記シフトカム溝に従って揺動することで、前記出力シャフトを軸方向に進退動させるシフトレバーと、を備える自動工具交換装置であって、板材で形成され、前記中間軸の軸心を中心とする略円環形で、内周面と前記中間軸とによって前記伝達ボールを挟持するようにして保持し、前記円環の一部が開口されて窓部が形成され、前記窓部の両縁に、該両縁を結ぶ線に沿うように前記円環の外側に延びるツバ部が設けられた中間軸ボールホルダを備え、前記窓部を介して前記伝達ボールが前記旋回カム溝に噛み合い、前記ツバ部が前記カムホイールの外周に接することで、前記中間軸ボールホルダの軸心周りの回転が防止されるようになっている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動工具交換装置において、前記中間軸の軸方向において、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとのバックラッシュを低減する方向に前記中間軸ボールホルダを移動させた場合に、前記中間軸ボールホルダのツバ部と前記カムホイールの外周との隙間が小さくなるように、前記ツバ部が斜めに形成されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、円盤状で、外周に旋回カム溝が形成され、一方の側面に環状のシフトカム溝が形成されたカムホイールと、前記旋回カム溝と噛み合う複数の伝達ボールが円周上に配設され、前記カムホイールが回転すると、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとの噛み合いを介して回動する中間軸と、チェンジャアームを有するとともに、前記中間軸に設けられた駆動ギヤと噛み合う従動ギヤを有し、前記中間軸の回動に伴って回動する出力シャフトと、前記シフトカム溝に従って揺動することで、前記出力シャフトを軸方向に進退動させるシフトレバーと、を備える自動工具交換装置において、前記伝達ボールを保持する中間軸ボールホルダであって、板材で形成され、前記中間軸の軸心を中心とする略円環形で、内周面と前記中間軸とによって前記伝達ボールを挟持するようにして保持し、前記円環の一部が開口されて窓部が形成され、前記窓部の両縁に、該両縁を結ぶ線に沿うように前記円環の外側に延びるツバ部が設けられ、前記窓部を介して前記伝達ボールが前記旋回カム溝に噛み合い、前記ツバ部が前記カムホイールの外周に接することで、軸心周りの回転が防止されるようになっている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の中間軸ボールホルダにおいて、前記中間軸の軸方向において、前記旋回カム溝と前記伝達ボールとのバックラッシュを低減する方向に移動させた場合に、前記ツバ部と前記カムホイールの外周との隙間が小さくなるように、前記ツバ部が斜めに形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、3に記載の発明によれば、伝達ボールを保持する中間軸ボールホルダが、略円環形で窓部とツバ部とを備えるだけであるため、構成が簡易で、しかも、板材で形成されプレス加工(板金加工)で製作可能なため、安価に製造することが可能となる。また、中間軸ボールホルダは、板材で形成された略円環形であるため、大きな配設スペース(占有スペース)を要せず、省スペース化が可能となる。この結果、他の構成要素・部品の配設自由度や設計自由度などが高まるとともに、自動工具交換装置全体を小型化することが可能となる。
【0018】
請求項2、4に記載の発明によれば、中間軸ボールホルダのツバ部が斜めに形成されているため、バックラッシュを低減する(カムホイールと伝達ボールとの中心が一致する)方向に中間軸ボールホルダ(中間軸、伝達ボール)を移動させた場合に、中間軸ボールホルダのツバ部とカムホイールの外周との隙間が小さくなり(均等になり)、中間軸ボールホルダが伝達ボールを保持する領域が十分に確保される。つまり、中間軸ボールホルダで伝達ボールが保持されない非保持領域が小さくなり、バックラッシュ調整後においても、より確実、適正に伝達ボールを保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の実施の形態に係る自動工具交換装置を示す正面断面図である。
【
図3】
図1の自動工具交換装置におけるカムホイールと中間軸との配設関係(位置関係)を示す正面図(a)と側面図(b)である。
【
図4】
図1の自動工具交換装置における中間軸ボールホルダを示す正面図(a)と、そのA−A断面図(b)と、底面図(c)である。
【
図6】
図1の自動工具交換装置において、中間軸と中間軸ボールホルダとの間に伝達ボールを配設する状態を示す図である。
【
図7】
図1の自動工具交換装置において、バックラッシュ調整後の状態を示す図(a)と、バックラッシュ調整前の状態を示す図(b)である。
【
図8】リテーナタレットで伝達ボールを保持する場合の構成を示す斜視図である。
【
図9】
図4の中間軸ボールホルダで伝達ボールを保持する場合の構成を示す斜視図である。
【
図10】リテーナタレットで伝達ボールを保持する場合の正面方向の各寸法を示す図である。
【
図11】リテーナタレットで伝達ボールを保持する場合の側面方向の各寸法を示す図である。
【
図12】
図4の中間軸ボールホルダで伝達ボールを保持する場合の正面方向の各寸法を示す図である。
【
図13】
図4の中間軸ボールホルダで伝達ボールを保持する場合の側面方向の各寸法を示す図である。
【
図14】従来の自動工具交換装置を示す正面断面図である。
【
図16】カムフォロアを備える
図14の自動工具交換装置における正面方向の各寸法を示す図である。
【
図17】カムフォロアを備える
図14の自動工具交換装置における側面方向の各寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態に係る自動工具交換装置1を示す正面断面図であり、
図2は
図1のA−A断面図である。この自動工具交換装置1は、出力シャフト6が水平方向に延びて配設された横型の自動工具交換装置であり、主として、中間軸7および中間軸ボールホルダ100が従来と異なり、従来と同等の構成については、同一符号を付することで、その説明を省略する。
【0022】
中間軸7は、従来の中間軸4に相当し、複数の伝達ボール(金属球)40が外周の円周上に配設されている点において、従来の中間軸4と構成が異なる。すなわち、
図3に示すように、中間軸7は、大径部71と小径部72とを有し、大径部71の小径部72側に、半球状に窪んだ玉受け部7aが、円周方向に複数形成されている。そして、この玉受け部7aに伝達ボール40の略半部分(下半部)が挿入・嵌合され、後述するようにして中間軸ボールホルダ100で保持されている。
【0023】
一方、カムホイール2の外周には、ウォームギヤ2aとともに、伝達ボール40と噛み合う旋回カム溝2dが形成されている。また、カムホイール2の軸心と中間軸7の軸心とは、直交するように配設されている。そして、カムホイール2が回転すると、旋回カム溝2dと伝達ボール40との噛み合いを介して、中間軸7が回動する。また、中間軸7の大径部71の自由端部(反小径部72側)には、出力シャフト6の従動ギヤ61と噛み合う駆動ギヤ73が設けられ、中間軸7が回動すると、駆動ギヤ73と従動ギヤ61とを介して出力シャフト6が回動するようになっている。
【0024】
中間軸ボールホルダ100は、伝達ボール40を保持するものであり、金属板(板材)で形成され、中間軸7の軸心を中心とする略円環形で、その内周面と中間軸7(玉受け部7a)とによって伝達ボール40を挟持するようにして、伝達ボール40を保持するようになっている。
【0025】
具体的には、
図4、5に示すように、円環部101と、窓部102と、ツバ部103とを一体的に備えている。円環部101は、
図4(a)に示すように、正面形状(中間軸7の軸線L1と直交する面における形状)が略円環形(Cリング状)で、半径方向の断面形状は、
図4(b)に示すように、半円部101aと水平部101bとを備えている。
【0026】
半円部101aは、半円形に外側に突出し、その内径は、伝達ボール40の外径と同等に設定され、半円部101a内に伝達ボール40の上半部(中間軸7の表面から突出した部分)が装着するようになっている。水平部101bは、半円部101aの両端縁から、半径方向(中間軸7の軸線L1方向)に延びて形成されている。
【0027】
このような断面形状が、円環状に延びて円環部101が形成され、水平部101bによる内径(円環部101の内径)は、中間軸7の外径と同等に設定されている。また、半円部101aによる外径(円環部101の外径)は、中間軸7に配設された複数の伝達ボール40による輪郭径(各伝達ボール40の頂点を結ぶ円の径)よりも、中間軸ボールホルダ100を構成する金属板の厚みだけ大きいものとる。そして、円環部101内に中間軸7を挿入・装着することで、水平部101bが中間軸7の表面に接近し、あるいは接触し、円環部101が伝達ボール40に対して揺れない(中間軸7に対してがたつかない)ようになっている。
【0028】
また、後述するようにして、中間軸7に伝達ボール40が配設された状態では、各玉受け部7aと円環部101の半円部101aによって伝達ボール40が挟持され、これにより、伝達ボール40が中間軸7に保持される。と同時に、各玉受け部7aに装着・嵌合された伝達ボール40によって、円環部101(中間軸ボールホルダ100)が中間軸7の軸線L1方向にずれないように(固定されるように)なっている。
【0029】
このような円環部101の一部が開口されて窓部102が形成されている。つまり、円環部101は、正面形状がCリング状となっている。この窓部102の大きさ(開口長さ)は、伝達ボール40が窓部102を介してカムホイール2の旋回カム溝2dに噛み合い、カムホイール2の回転力が伝達ボール40を介して中間軸7に十分伝達されるように、設定されている。例えば、
図3(b)に示すように、2つの伝達ボール40が同時に旋回カム溝2dに噛み合うように、窓部102の大きさが設定されている。
【0030】
このような窓部102の両縁(円環部101の開口両縁)102aに、ツバ部103が形成されている。このツバ部103は、ぞれぞれ、両縁102aを結ぶ線に沿うように、円環部101の外側に延びており、カムホイール2の外周面に接近して形成されている。そして、ツバ部103がカムホイール2の外周面に接することで、中間軸ボールホルダ100の軸心周りの回転が防止されるようになっている。
【0031】
このようにして、中間軸ボールホルダ100が、伝達ボール40に対して揺れず、中間軸7の軸線L1方向に移動せず、かつ、中間軸7に対して回転せず、安定して固定・配設されるようになっている。
【0032】
一方、中間軸7の軸方向において、カムホイール2の旋回カム溝2dと伝達ボール40とのバックラッシュを低減する方向に、中間軸7および中間軸ボールホルダ100を移動させた場合に、中間軸ボールホルダ100のツバ部103とカムホイール2の外周面との隙間が小さくなるように、ツバ部103が斜めに形成されている。すなわち、
図4(b)に示すように、円環部101の軸線L1つまり中間軸7の軸線L1に対して、ツバ部103がテーパ角θだけ傾いて形成されている。このテーパ角θは、後述するようにして中間軸7および中間軸ボールホルダ100が配設されバックラッシュ調整が行われたた際に、ツバ部103がカムホイール2の外周面に接触せず、かつ、ツバ部103とカムホイール2の外周面との隙間ができるだけ小さくなるように、設定されている。
【0033】
このような中間軸ボールホルダ100は、プレス加工され、さらに、この実施の形態では、溶接加工されて製作・製造されている。すなわち、
図4(a)、(c)に示すように、ツバ部103、103間の中心(中点)と円環部101の中心とを通る半割線L2において、中間軸ボールホルダ100が半割され、2つに半割された部材(図中左右に位置する各部)が、それぞれプレス加工で製作されている。これらの部材は同一形状で、これらを円環部101の半割部100aにおいて溶接することで、中間軸ボールホルダ100が形成、製作されている。
【0034】
次に、このような構成の中間軸ボールホルダ100の配設方法や配設位置などについて説明する。
【0035】
まず、中間軸7に伝達ボール40と中間軸ボールホルダ100とを配設する。すなわち、中間軸ボールホルダ100の円環部101内に中間軸7を挿入し、玉受け部7aの位置に円環部101の位置を合わせる(同一円周上に位置させる。)。次に、
図6に示すように、中間軸ボールホルダ100の窓部102から露出した玉受け部7aに、伝達ボール40を挿入・嵌合し、例えば、図中矢印D1方向に中間軸7を回転させる。これにより、伝達ボール40が円環部101内に挿入され、次の玉受け部7aが窓部102から露出される。そして、この玉受け部7aに伝達ボール40を挿入・嵌合して、同様の操作を繰り返すことで、すべての伝達ボール40を配設する。このようにして伝達ボール40を挿入・装着することで、中間軸7(各玉受け部7a)と中間軸ボールホルダ100(円環部101)とによって伝達ボール40が挟持、保持されるとともに、上記のように、中間軸ボールホルダ100が中間軸7に固定・配設される。
【0036】
次に、伝達ボール40と中間軸ボールホルダ100とが配設された中間軸7を、自動工具交換装置1の本体(ケーシング)内に配設する。この際、中間軸ボールホルダ100の窓部102から露出した伝達ボール40が、カムホイール2の旋回カム溝2dに噛み合うように配設する。また、中間軸ボールホルダ100を配設した状態では、
図3(a)に示すように、伝達ボール40の配設ラインL3(円環部101・中間軸7の軸線L1に直交し、各伝達ボール40の中心を通る線・面)と、カムホイール2の垂直線L4(配設ラインL3に平行でカムホイール2の中心を通る線)とが、オフセットHだけずれるように、中間軸ボールホルダ100(伝達ボール40)の配設位置が設定されている。
【0037】
さらに、このような配設状態において、中間軸7の軸方向において、ツバ部103がカムホイール2の外周面に食い付くように(伝達ボール40との接点におけるカムホイール2の外周面の接線となるように)、中間軸ボールホルダ100を配設する。つまり、上記のように中間軸ボールホルダ100内に中間軸7を挿入する際に、ツバ部103がカムホイール2の外周面に食い付く方向に挿入する。
【0038】
続いて、カムホイール2の旋回カム溝2dと伝達ボール40とのバックラッシュを低減する(バックラッシュ調整を行う。)。すなわち、カムホイール2と伝達ボール40との中心が一致する方向、この実施の形態では、伝達ボール40の配設ラインL3とカムホイール2の垂直線L4とのオフセットHを小さくする方向に、中間軸7を移動させる。
【0039】
具体的には、
図7(a)に示すように、ベアリングカバー81、82を緩めて、カムホイール2を回転させないように固定した状態で、中間軸7を中間軸ボールホルダ100と伝達ボール40とともに、矢印D2方向に引っ張ってずらす。これにより、バックラッシュが低減され、カムホイール2と伝達ボール40との中心が一致するようになる。
【0040】
また、このバックラッシュ調整によって、ツバ部103とカムホイール2の外周面との隙間が小さくなり(中間軸ボールホルダ100が伝達ボール40を偏りなく均等に覆うようになり)、バックラッシュ調整後においても中間軸ボールホルダ100(円環部101)が伝達ボール40を保持する領域が十分に確保される。
【0041】
すなわち、バックラッシュ調整を行う前は、
図7(b)の一部拡大図に示すように、中間軸ボールホルダ100の窓部102から露出している伝達ボール40の中心と、中間軸ボールホルダ100のツバ部103との隙間は、調整前隙間T2となっている。これに対して、バックラッシュ調整後は、
図7(a)の一部拡大図に示すように、中間軸ボールホルダ100の窓部102から露出している伝達ボール40の中心と、中間軸ボールホルダ100のツバ部103との隙間は、調整後隙間T1となる。
【0042】
そして、上記のように、カムホイール2の外周面の接線と同じ方向にツバ部103が斜めに形成されているため、調整後隙間T1は、調整前隙間T2よりも小さくなる。つまり、ツバ部103とカムホイール2の外周面との隙間が小さくなり、中間軸ボールホルダ100が伝達ボール40を保持する領域が十分に確保されるものである。
【0043】
以上のように、この自動工具交換装置1および中間軸ボールホルダ100によれば、伝達ボール40を保持する中間軸ボールホルダ100が、略円環形で窓部102とツバ部103とを備えるだけであるため、構成が簡易で、しかも、板材で形成されプレス加工(板金加工)で製作されているため、安価に製造することが可能となる。すなわち、リテーナタレット200で伝達ボール40を保持する場合、
図8に示すように、長く肉厚の円筒状で複雑な形状であるリテーナタレット200を機械加工(切削加工)で製作しなければならず、しかも、複数のボルト201でリテーナタレット200を固定しなければならない。これに対して、中間軸ボールホルダ100は、
図9に示すように、簡易な構成で、ボルト201で固定する必要もなく、安価に製造することができる。さらに、中間軸ボールホルダ100を2つの部材で構成し、それぞれをプレス加工で製作して溶接するため、中間軸ボールホルダ100の製作数が少ない場合には、中間軸ボールホルダ100全体を複雑で高価な金型で製作する場合に比べて、製作費用を低減することができる。
【0044】
また、中間軸ボールホルダ100は、板材で形成された略円環形であり、複数の伝達ボール40による輪郭径よりも、板厚分だけ大きい外径になるだけであるため、大きな配設スペース(占有スペース)を要せず、省スペース化が可能となる。例えば、
図10、11に示すように、リテーナタレット200で伝達ボール40を保持する場合の各寸法S11〜S18に対して、中間軸ボールホルダ100による場合では、
図12、13に示すような寸法S21〜S28となる。すなわち、中間軸ボールホルダ100の場合の寸法23、24が、リテーナタレット200の場合の寸法13、14よりも小さくなり、カムホイール2の軸方向における長さが小さくなる。また、全寸法S21〜S28において、カムフォロア41の場合の寸法S1〜S8(
図16、17)よりも小さくなる。この結果、シフトレバー5や出力シャフト6などの他の構成要素・部品の配設自由度や設計自由度などが高まるとともに、自動工具交換装置1全体を小型化することが可能となる。
【0045】
一方、中間軸ボールホルダ100のツバ部103が斜めに形成されているため、上記のようにバックラッシュ調整後において、ツバ部103とカムホイール2の外周面との隙間が小さくなり、中間軸ボールホルダ100が伝達ボール40を保持する領域が十分に確保される。つまり、中間軸ボールホルダ100で伝達ボール40が保持されない非保持領域が小さくなり、バックラッシュ調整後においても、より確実、適正に伝達ボール40を保持することができる。また、ツバ部103を斜めに形成するだけであるため、安価に製造することができる。
【0046】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、中間軸ボールホルダ100を2つの部材で構成しているが、中間軸ボールホルダ100の製作数が多い場合には、中間軸ボールホルダ100全体を金型で製作することで、製作費用を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1 自動工具交換装置
2 カムホイール
2a ウォームギヤ
2c シフトカム溝
2d 旋回カム溝
3 ウォームシャフト
5 シフトレバー
6 出力シャフト
61 従動ギヤ
7 中間軸
73 駆動ギヤ
7a 玉受け部
40 伝達ボール
100 中間軸ボールホルダ
101 円環部(円環)
102 窓部
103 ツバ部