特許第5872500号(P5872500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872500
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   H02M3/28 E
   H02M3/28 D
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-52608(P2013-52608)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-180142(P2014-180142A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000232944
【氏名又は名称】日立水戸エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】児島 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
(72)【発明者】
【氏名】川本 健泰
(72)【発明者】
【氏名】村岡 一史
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 徹
【審査官】 鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−068349(JP,A)
【文献】 特開平04−295271(JP,A)
【文献】 特開2012−010438(JP,A)
【文献】 特開2006−187173(JP,A)
【文献】 特開平05−087376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00− 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源と、
前記直流電圧源の供給する直流電圧より交流電圧を生成する直/交電力変換回路と、
前記直/交電力変換回路の交流出力側に接続された絶縁トランスと、
前記絶縁トランスの出力する交流電圧を直流に変換する整流器または交/直電力変換回路と、を備える直流電源装置において、
前記直/交電力変換回路の出力電圧波形のパルスオン時間は、前記直流電圧源の直流電圧に応じた値に制御され、
前記直/交電力変換回路の出力電圧波形のスイッチング周期は、低周波の振幅が高周波の振幅よりも小さい乱数である所定の時系列信号に従って変化することを特徴とした直流電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の直流電源装置において、
前記所定の時系列信号は、所定範囲内で平均値がほぼゼロとなる乱数であることを特徴
とする直流電源装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の直流電源装置において、
前記直/交電力変換回路の出力電圧波形のパルスオン時間は、前記直流電圧源の直流電圧及び直流出力電圧目標値に応じた値に制御されることを特徴とする直流電源装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記直/交電力変換回路は、前記絶縁用トランスに正電圧の1パルスと負電圧の1パルスを交互に印加することを特徴とする直流電源装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の直流電源装置において、
前記直流電圧源の供給する直流電圧を検出する直流電圧センサと、
前記直流電圧センサの検出した直流電圧を入力し、前記直/交電力変換回路を駆動するゲート信号を出力する制御装置を備え、
前記制御装置は、
直流出力電圧指令の一次換算値と前記直流電圧センサの検出した直流入力電圧の比よりデューティー比を求める手段と、
前記デューティー比とスイッチング周期の中心値の積よりパルスオン時間を求める手段と、
前記スイッチング周期の中心値から前記パルスオン時間を差し引いてパルスオフ時間の中心値を求める手段と、
所定の時系列信号と前記パルスオフ時間の中心値の積よりパルスオフ時間を求める手段と、
前記パルスオン時間と前記パルスオフ時間の和よりスイッチング周期を求める手段と、
前記パルスオン時間と前記スイッチング周期より前記直/交電力変換回路を駆動するゲート信号を出力するパルス発生装置を備えたことを特徴とする直流電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体素子を用いた直流電源装置に関するもので,中でも絶縁用トランスを用いた直流電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不安定な直流電圧を安定するときや、直流電圧を変更する場合、あるいは入力と出力を電気的に絶縁する必要がある場合、直流から直流に変換する電源装置(以下、直流電源装置)が用いられる。とりわけ入力と出力を電気的に絶縁する必要がある場合、一次回路で直流電圧より交流電圧を生成し、絶縁用トランスを介して二次回路に交流電圧を送り、二次回路で交流電圧を直流電圧に整流する方式の直流電源装置が一般的に用いられている。
【0003】
一例として特許文献1を示す。特許文献1に示す回路はフライバック式DC/DCコンバータと呼ばれ、もっとも単純な回路では一次回路を一つのスイッチング素子で構成することができるため、非常にシンプルな直流電源装置を実現することができる。一方、絶縁用トランスをDCチョッパ回路の直流リアクトル(チョークコイル)のように直流電圧を印加して使用するため、絶縁用トランスの磁気飽和の制約などから比較的電源容量の小さい用途に限られる。
【0004】
一方、特許文献2に示す直流電源装置は、一次回路をフルブリッジ型コンバータで構成することで、スイッチング素子数が増加して回路構成は複雑になるが、絶縁用トランスに正・負の電圧を印加することができるため、電源容量の比較的大きな用途にも適用することができる。
【0005】
本発明は、比較的電源容量の大きな直流電源装置を対象とし、具体的には一次回路をフルブリッジ型またはハーフブリッジ型などで構成することによって絶縁用トランスに正・負の電圧を交互に印加する1パルス駆動式のDC/DCコンバータを対象とする。
【0006】
絶縁用トランスに正・負の電圧を交互に印加する1パルス駆動式のDC/DCコンバータにおいて、入出力電圧が低く比較的電源容量の小さな用途では、低損失かつ低損失のスイッチング素子を使用することができる。さらにスイッチング損失を低減させるソフトスイッチングなどの技術を組み合わせることで、スイッチング周波数を人間の可聴範囲(約20kHz以下)より高くすることで、スイッチングに伴う電磁騒音の問題から解放される場合が多い。
【0007】
一方、比較的電源容量の大きな用途や、高耐圧のスイッチング素子が必要な入出力電圧の高い電源では、たとえソフトスイッチングなどの技術を用いてもスイッチング周波数を人間の可聴範囲以上に上げるのは困難である場合が多い。
【0008】
加えて、1パルス駆動式のDC/DCコンバータの場合、基本的に発生する電流・電圧高調波はスイッチング周波数の逓数倍のみであるから、発生する電磁騒音も比較的シンプルな音色となり、周波数帯によっては耳障りの良くない騒音になる。たとえば人間の耳に最も敏感とされる2〜4kHz前後の周波数ではキーンという金属的な嫌な騒音になる。
【0009】
このような電磁騒音を緩和させる技術として、特許文献3〜6の技術が知られている。特許文献3〜5の技術は、変調波(信号波)と搬送波を比較するサブハーモニック変調を行うPWMインバータにおいて、搬送波の周波数を所定のパターンに従って操作することによって電圧・電流高調波のピークを低減し、発生する電磁騒音の緩和を実現するものである。特許文献6の技術は、DC/DCチョッパ回路において、スイッチング周期を一定とし、出力パルスのオン時間を一定としながら、オンタイミングを所定のパターンに従って操作することにより、発生する電磁騒音の緩和を狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3-215166
【特許文献2】特開2006-333569
【特許文献3】特開平6-14557
【特許文献4】特開2000-184731
【特許文献5】特開2010-259326
【特許文献6】特開平11-220876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3〜5の技術は、変調波(信号波)と搬送波を比較するサブハーモニック変調を行うPWMインバータにおいて、搬送波の周波数を所定のパターンに従って操作する。このとき搬送波の周波数(スイッチング周期)を操作しても、スイッチング周期におけるパルスオン時間の比率(デューティー比)は保持される。変調波(信号波)の基本波周波数に対して搬送波周波数(スイッチング周波数)が十分高ければ、デューティー比を保持することによって出力電圧の基本波成分(振幅)が維持される。
【0012】
ところが1パルス駆動式のDC/DCコンバータにおいては、パルスオン時間をスイッチング毎に操作してしまうと、絶縁トランスに印加する電圧の正負バランスを保つのが難しくなり、最悪の場合、絶縁トランスが磁気飽和(偏磁)してしまう可能性がある。つまり、特許文献3〜5の技術を1パルス駆動式のDC/DCコンバータに適用することは難しい。
【0013】
特許文献6の技術は、DC/DCチョッパ回路を対象としたものであるが、スイッチング周期を一定とし、出力パルスのオン時間を一定とするため、絶縁トランスに印加する電圧の正負バランスは保持される。すなわち、特許文献6の技術は、1パルス駆動式のDC/DCコンバータにも適用可能である。ところが、特許文献6の技術を1パルス駆動式のDC/DCコンバータに適用するとデューティー比の比較的大きいために低騒音化の効果が極めて小さいという課題がある。
【0014】
本発明の対象とする1パルス駆動式のDC/DCコンバータの回路図の一例を図1に示す。図1に示すDC/DCコンバータは、直流電圧源100と、直流電圧源100の供給する直流電圧を検出する直流電圧センサ101と、直流電圧源100の供給する直流電圧より、交流電圧を生成するハーフブリッジ型コンバータ102と、コンバータ102の交流出力側に接続された絶縁トランス103と、絶縁トランス103の出力する交流電圧を整流して直流に変換する整流回路104と、整流回路104の出力する直流出力電流を平滑化する直流出力リアクトル105と、直流出力リアクトル105の出力する直流出力電流を充電する直流出力コンデンサ106と、直流出力コンデンサ106に並列接続された負荷107と、直流電圧センサ101の検出した直流電圧Vsを入力し、コンバータ102を駆動するゲート信号Gp、Gnを出力する制御装置108から構成されている。
【0015】
図1に示すDC/DCコンバータにおいて、低騒音化の技術を一切適用しない場合のトランス一次電流(I1)の周波数分布を図5に、直流出力リアクトルを流れる直流出力電流(Id)の周波数分布を図6に示す。スイッチング周波数一定とし、直流入力電圧Vsと直流出力電圧目標値Vd*の比から求められるデューティー比一定で駆動したものとする。
【0016】
図5は、横軸は周波数、縦軸は各周波数における電流の大きさをdB表示したもので、基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。トランス一次電流(I1)の電流高調波は、基本波=1次、3次、5次、7次・・・と奇数次の高調波が分布する。
【0017】
図6も同様に、横軸は周波数、縦軸は各周波数における電流の大きさをdB表示したもので、基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。直流出力電流(Id)の電流高調波は、基本波(直流)=0次、2次、4次、6次・・・と偶数時の高調波が分布する。
【0018】
図1に示すDC/DCコンバータにおいて、特許文献6の技術を適用した場合のトランス一次電流(I1)の周波数分布を図7に、直流出力リアクトルを流れる直流出力電流(Id)の周波数分布を図8に示す。スイッチング周波数一定とし、直流入力電圧Vsと直流出力電圧目標値Vd*の比から求められるデューティー比一定とした上で、パルスオンのタイミングを一様分布乱数(ホワイトノイズ)にて操作したものとする。一様分布乱数の周波数特性を図11に示す。
【0019】
図7は、横軸は周波数、縦軸は各周波数における電流の大きさをdB表示したもので、図5の基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。図8も同様に、図6の基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。
【0020】
図5図7図6図8を比較して分かるように、特許文献6の技術を適用しても電流高調波の大きさはほとんど変化していないことから、特許文献6の技術は電圧・電流高調波に起因する電磁騒音の低減効果が極めて小さいことが分かる。
【0021】
特許文献6の技術は、DC/DCコンバータ(降圧チョッパ)に適用することを前提にしており、定格動作条件におけるデューティー比が低い(スイッチング周期内に占めるオンパルス時間の割合が短い)ため、パルスのオンタイミングを操作する範囲を広く取れるため、それなりの騒音低減効果が期待できるが、絶縁トランスを用いた1パルス駆動のDC/DCコンバータを適用した場合などにおいては、効率的な設計を行おうとした際に定格動作条件におけるデューティー比は高くなる傾向があり、つまり、スイッチング周期内に占めるオンパルス時間の割合が長いため、スイッチング周期におけるオンタイミングを操作する範囲が狭くなり、特定周波数の電流高調波を抑えることができず、電圧・電流高調波に起因する電磁騒音の低減効果が小さくなる。
【0022】
本発明の課題は、絶縁トランスを磁気飽和させることなく、電圧・電流高調波に起因する電磁騒音をより低減・緩和する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の直流電源装置は、直/交電力変換回路の出力電圧波形のパルスオン時間は、直流電圧源の直流電圧に応じた値に制御され、直/交電力変換回路の出力電圧波形のスイッチング周期は、低周波の振幅が高周波の振幅よりも小さい乱数である所定の時系列信号に従って変化させる。
【発明の効果】
【0024】
上記構成により、本発明の直流電源装置は、絶縁トランスを磁気飽和させることなく電圧・電流高調波に起因する電磁騒音をより低減・緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の回路構成を示す
図2図1に示す制御装置の詳細図
図3図2に示すパルス発生装置の動作波形
図4】本発明による電流波形
図5】低騒音化技術を適用しない場合のトランス一次電流の周波数特性
図6】低騒音化技術を適用しない場合の直流出力電流の周波数特性
図7】特許文献6によるトランス一次電流の周波数特性
図8】特許文献6による直流出力電流の周波数特性
図9】本発明によるトランス一次電流の周波数特性
図10】本発明による直流出力電流の周波数特性
図11】一様分布乱数の周波数特性
図12】低域除去乱数の周波数特性
図13】一様分布乱数を用いたときの直流出力電圧波形
図14】一様分布乱数を用いたときの直流出力電圧波形(直流出力側コンデンサの静電容量を4倍)
図15】一様分布乱数を用いたときの直流出力電圧波形(直流出力側コンデンサの静電容量を16倍)
図16】低域除去乱数を用いたときの直流出力電圧波形
図17】低域除去乱数を用いたときの直流出力電圧波形(直流出力側コンデンサの静電容量を4倍)
図18】低域除去乱数を用いたときの直流出力電圧波形(直流出力側コンデンサの静電容量を16倍)
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の直流電源装置の回路構成の一例を示す。図1において、本発明の直流電源装置は、直流電圧源100と、直流電圧源100の供給する直流電圧を検出する直流電圧センサ101と、直流電圧源100の供給する直流電圧より、交流電圧を生成するハーフブリッジ型コンバータ102と、コンバータ102の交流出力側に接続された絶縁トランス103と、絶縁トランス103の出力する交流電圧を整流して直流に変換する整流回路104と、整流回路104の出力する直流出力電流を平滑化する直流出力リアクトル105と、直流出力リアクトル105の出力する直流出力電流を充電する直流出力コンデンサ106と、直流出力コンデンサ106に並列接続された負荷107と、直流電圧センサ101の検出した直流電圧Vsを入力し、コンバータ102を駆動するゲート信号Gp、Gnを出力する制御装置108から構成されている。ここで、ゲート信号Gpは、ハーフブリッジ型コンバータ102の正側半導体素子を駆動するためのゲート信号であり、ゲート信号Gnは、負側半導体素子を駆動するためのゲート信号である。
【0027】
本実施例では、トランス一次側回路として交流電圧を生成するハーフブリッジ型コンバータ102を用いた例について説明するが、本発明は、絶縁用トランスに正・負の電圧を交互に印加する1パルス駆動式のDC/DCコンバータであれば適用が可能であるため、一次回路をフルブリッジ型などで構成した回路にも適用することが可能である。
【0028】
また、本実施例では、トランス二次側回路として、整流器により交流を直流に変換する例を示しているが、スイッチング素子を備えたコンバータにより交流を直流に変換する回路を整流器に代えて適用することも可能である。
【0029】
図2は、図1に示す回路構成における制御装置108の詳細を示す。図2において、制御装置108は、直流出力電圧目標値Vd*と絶縁トランス103の一次/二次巻線比nの積より直流出力電圧目標値Vd*の一次換算値を求める乗算器200と、乗算器200の出力した直流出力電圧目標値Vd*の一次換算値を直流電圧センサ101の検出した直流入力電圧Vsで除算してデューティー比dを求める除算器201と、スイッチング周期の中心値Tc*と除算器201の出力したデューティー比dの積よりパルスオン時間の中心値Ton*を求める乗算器202と、スイッチング周期の中心値Tc*より乗算器202の出力したパルスオン時間の中心値Ton*を減じてパルスオフ時間の中心値Toff*を求める減算器206と、所定の時系列信号に従って±1の範囲内で平均値がゼロとなる乱数rを出力する乱数発生器203と、乱数発生器203の出力する乱数rと乱数変調率mの積を求める乗算器204と、乗算器204の出力する乱数と減算器206の出力するパルスオフ時間の中心値Toff*の積よりパルスオフ時間の操作量を求める乗算器205と、パルスオフ時間の中心値Toff*と乗算器205の出力するパルスオフ時間の操作量の和よりパルスオフ時間Toffを求める加算器207と、乗算器202の出力するパルスオン時間の中心値Ton*と加算器207の出力するパルスオフ時間Toffの和よりスイッチング周期Tcを求める加算器208と、乗算器202の出力するパルスオン時間の中心値Ton*と加算器208の出力するスイッチング周期Tcよりコンバータ102を駆動するゲート信号Gp、Gnを出力するパルス発生装置209から構成されている。
【0030】
図3は、図2に示した制御装置108おけるパルス発生装置209の動作波形の一例を示す。図3において、スイッチング周期Tcは、周期ごとに異なる値を取り、順にTc(1)、Tc(2)、Tc(3)・・・とする。パルスオン時間Tonは、中心値Ton*のまま一定とする。パルス発生装置209は内部にタイマカウンタを持ち、カウンタは一定の割合でインクリメントしていき、スイッチング周期毎にゼロクリアされる。カウンタがセロになると、ゲート信号GpまたはGnのいずれかがオンとなり、カウンタがパルスオン時間Tonを過ぎるとオフになる。ゲート信号GpとGnは交互にオンとなる。
【0031】
図4は、パルス発生装置209が図3に示す動作を行った場合におけるトランス励磁電流(I0)、トランス一次電流(I1)、直流出力電流(Id)の波形を示す。スイッチング周期およびパルスのオフ時間は乱数に起因して常に変動しているが、ゲート信号GpとGnのパルスオン時間は、直流入力電圧に基づいてほぼ一定となるのため、トランスに印加される磁束も一定となり、励磁電流(I0)の振幅も変わらないことが分かる。すなわち、スイッチング周期およびパルスのオフ時間を操作しても、絶縁トランスが磁気飽和(偏磁)する心配が無い。一方、トランス一次電流(I1)と直流出力電流(Id)は、スイッチング毎に振幅が変動しており、スペクトルの拡散および騒音の低減効果が期待できる。
【0032】
ここで、直流電源装置が一定電圧を出力する場合には、直流出力電圧目標値Vd*は一定値となるため、パルスオン時間Tonは、直流入力電圧Vsに基づき制御される。つまり、直流入力電圧Vsが一定であれば、パルスオン時間Tonも一定となる。
【0033】
また、直流電源装置が複数の電圧を出力する場合には、直流出力電圧目標値Vd*が複数の値に変更されるため、パルスオン時間Tonは、出力電圧目標値Vd*と直流入力電圧Vsに基づき制御される。つまり、直流入力電圧Vsが一定であれば、パルスオン時間Tonは直流出力電圧目標値Vd*の値に対応しあた固定値となる。
【0034】
図4に示す電流波形となった場合のトランス一次電流(I1)の周波数分布を図9に、直流出力リアクトルを流れる直流出力電流(Id)の周波数分布を図10に示す。なお、乱数発生器203は一様分布乱数(ホワイトノイズ)とし、周波数特性を図11に示す。
【0035】
図9は、横軸は周波数、縦軸は各周波数における電流の大きさをdB表示したもので、図5の基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。図10も同様に、図6の基本波成分の大きさを基準(0dB)にとり、各高調波の相対的な大きさを示している。
【0036】
図5図9図6図10を比較して分かるように、本発明を適用することにより、トランス一次電流(I1)および直流出力電流(Id)のスペクトルは拡散し、電流のピークレベルを低減することができ、電圧・電流高調波に起因する電磁騒音を低減・緩和できる。
【0037】
図2において、乱数の変調率mは、パルスオフ時間Toffが負にならない条件より、0≦m≦1の範囲に設定する必要がある。変調率mを大きくするにつれて電流のスペクトルは拡散し、ピークレベルも低減していくが、副作用として直流出力電圧Vdの脈動が大きくなるので、変調率mは、電磁騒音の大きさと直流出力電圧Vdを考慮して、0から1の間の値で調整する必要がある。
【0038】
直流出力電圧Vdの脈動波形を図13〜14に示す。図13に対し、図14は直流出力コンデンサ106の静電容量を4倍、図15は直流出力コンデンサ106の静電容量を16倍にした場合の脈動波形である。静電容量を大きくするにつれて、直流出力電圧Vdの高周波成分は大きく減衰していくが、低周波成分はほとんど減衰しないで残り、電圧脈動の大きさはあまり変わらないことが分かる。
【0039】
ちなみに図13〜15において、直流出力電圧Vdが周期的に脈動しているように見える。これは乱数発生器203が、あらかじめ計算された乱数テーブルを順に読み出して、テーブルの最後まで達すると再びテーブルの先頭から読み出すように構成されているためである。乱数テーブルはスイッチング周期毎に読み出されるので、人間の可聴範囲の下限値を20Hzとすると、乱数テーブルの要素数は少なくともスイッチング周波数の1/20以上あることが望ましい。
【0040】
図16図18は、乱数発生器203を低域除去乱数とした場合の直流出力電圧Vdの脈動波形を示したものである。低周波成分除去乱数の周波数特性を図12に示す。図12に示すように、この低周波成分除去乱数では低周波成分の振幅を、高周波成分よりも減少された乱数となっている。図16に対し、図17は直流出力コンデンサ106の静電容量を4倍、図18は直流出力コンデンサ106の静電容量を16倍にした脈動波形である。図12に示すような低周波成分を除去した乱数を用いることで、直流出力コンデンサの静電容量に応じて電圧脈動の大きさを低減できる。
【0041】
上述したように、本発明は、絶縁トランスを磁気飽和させることなく、電圧・電流高調波に起因する電磁騒音をより低減・緩和させることを目的としている。つまり、スイッチング毎にトランス一次電流(I1)と直流出力電流(Id)の振幅を変動させて、スペクトルの拡散および騒音の低減を実現するとともに、パルスオン時間を直流入力電圧に基づきほぼ一定とし、トランスに印加される磁束もほぼ一定とすることで、励磁電流(I0)の振幅の変動を抑制して絶縁トランスが磁気飽和(偏磁)することを抑制しようとするものである。
【0042】
そのために、直流出力電圧目標値Vd*に基づきパルスオン時間をほぼ一定とするとともに、スイッチング周期が一様分布乱数(ホワイトノイズ)によりランダムに変化するようにトランスの一次側の半導体素子のスイッチングを制御する。
【符号の説明】
【0043】
100 直流電圧源
101 直流電圧センサ
102 ハーフブリッジ型コンバータ
103 絶縁用トランス
104 整流回路
105 直流出力リアクトル
106 直流出力コンデンサ
107 負荷
108 制御装置
200、202、204、205 乗算器
201 除算器
203 乱数発生器
206 減算器
207、208 加算器
209 パルス発生装置
d コンバータデューティー比
Gp コンバータ上アーム素子のゲート信号
Gn コンバータ下アーム素子のゲート信号
I0 トランス励磁電流
I1 トランス一次電流
Id 直流出力電流
m 乱数変調率
n トランス一次/二次巻線比
r 乱数
Tc* スイッチング周期中心値
Tc スイッチング周期
Toff* パルスオフ時間中心値
Toff パルスオフ時間
Ton* パルスオン時間中心値
Ton パルスオン時間
Vd* 直流出力電圧目標値
Vd 直流出力電圧
Vs 直流入力電圧
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