(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガイドレールは、前記膜部材が前記開口を全閉状態にする位置に位置する状態で、前記膜部材が略双曲放物面を形成するように、曲線状に延在していることを特徴とする請求項6に記載のドーム屋根。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているような開閉式ドーム屋根は、ドーム屋根に大きな1つの開口部を形成させるものであるため、大がかりな構造、機構を必要とし、開閉動作に時間がかかる。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、開閉動作に多くの時間を要しない開閉式のドーム屋根を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の開閉式のドーム屋根は、
略正方形又は略長方形のグリッドを形成するように配列され、格子シェル構造を構成する複数のフレーム部材と、前記複数のフレーム部材の間に位置し、ドーム屋根の内面と外面とを貫く中空部である複数の開口に対して移動可能な複数の
膜部材と、前記
膜部材を前記開口に対して移動させることにより前記開口を開閉する開閉装置と、を備え、前記開口及び前記
膜部材それぞれは、ドーム屋根の裾部から頂部にかけて少なくとも3つ設けられており、前記開閉装置は、前記
膜部材を移動させることにより、前記裾部から前記頂部の間に、全閉状態の前記開口を全閉状態よりも開放された開放状態の前記開口により挟むこと、及び開放状態の前記開口を全閉状態の前記開口により挟むこと、の両方が可能であ
り、前記フレーム部材は、前記膜部材が前記開口に対して移動する際に、前記膜部材を巻き取り及び送り出し可能な芯材を保持しており、前記複数のフレーム部材のうち前記膜部材の移動方向において前記開口を挟んで対向する2つのフレーム部材の一方には、前記芯材を収容する溝が形成され、前記複数のフレーム部材のうち前記移動方向において前記開口を挟んで対向する2つのフレーム部材の他方、及び前記複数のフレーム部材のうち前記移動方向と直交する方向において前記開口を挟んで対向する2つのフレーム部材には、前記開口側に前記膜部材の端部を受け入れる間隙が形成されていると共に、前記膜部材の外面を伝って前記間隙を通じて案内された雨水が流れる溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のドーム屋根において、前記開口及び前記
膜部材それぞれは、ドーム屋根の周方向において複数設けられており、前記開閉装置は、前記
膜部材を移動させることにより、前記周方向の位置によって前記開口の開閉状態を異ならせることが可能であることが好ましい。
【0009】
本発明のドーム屋根において、前記開閉装置は、前記複数の
膜部材のうち一部の
膜部材のみを、前記開口を全閉状態にする位置と前記開口を開放状態にする位置との間で移動させることが可能であることが好ましい。
【0011】
本発明のドーム屋根において、前記膜部材は、ドーム屋根の外面に沿ってスライド移動することが好ましい。
【0012】
本発明のドーム屋根において、前記フレーム部材は、前記膜部材が前記開口に対して移動する際に、前記膜部材の移動方向をガイドするガイド部を備えることが好ましい。
【0013】
本発明のドーム屋根において、前記ガイド部は、前記膜部材の移動方向と直交する方向における両側で、前記膜部材の端部の外面及び内面を挟み込む、凹型のガイドレールであることが好ましい。
【0014】
本発明のドーム屋根において、前記ガイドレールは、前記膜部材が前記
開口を全閉状態にする位置に位置する状態で、前記膜部材が略双曲放物面を形成するように、曲線状に延在していることが好ましい。
【0016】
本発明のドーム屋根において、前記複数のフレーム部材は、複数層の格子シェル構造層を構成しており、前記複数層の格子シェル構造層を連結する複数の連結部材を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のドーム屋根によると、開閉動作に多くの時間を要することなく、ドーム屋根の開閉を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の1つの実施形態としての開閉式のドーム屋根1について、
図1〜
図9を参照して説明する。なお、各図において共通する部材には、同一の符号を付している。
【0020】
図1は、開閉式のドーム屋根1を備える構造物100の断面を示す。
図1に示すように、この開閉式のドーム屋根1は、天然芝のグラウンド2と、このグラウンド2の周囲に設けられた観客席3と、を覆っている。天然芝のグラウンド2は、例えば105m×68mの面積であって、サッカーなどの競技を行うことができる程度の広さを有する。
【0021】
このドーム屋根1は、格子シェル構造LSを構成する複数のフレーム部材4と、これら複数のフレーム部材4の間に位置する複数(例えば100以上)の開口5に対して移動可能な複数のカバー部材6と、このカバー部材6を開口5に対して移動させることにより開口5を開閉する開閉装置7と、を備える。これらの詳細は後述する。
【0022】
図2(a)は、鉛直方向上方(以下、単に「鉛直方向」と記載する)から見た場合のドーム屋根1を示している。また、
図2(a)は、複数のフレーム部材4の間に位置する複数の開口5すべてが、対応するカバー部材6により完全に覆われている状態のドーム屋根1を示している。
図2(b)は、同状態におけるドーム屋根1の一部を拡大した拡大斜視図である。
【0023】
図3(a)は、
図2(a)と同様、鉛直方向から見た場合のドーム屋根1を示している。但し、
図3(a)では、グラウンド2の上部に位置する全ての開口5が、対応するカバー部材6により覆われておらず、複数の開口5が全開となっている状態のドーム屋根1を示している。
図3(b)は、ドーム屋根1のうち開口5が全開状態となっている部分を拡大した拡大斜視図である。なお、
図3(a)における長方形は、天然芝のグラウンド2を示している。
【0024】
図4(a)は、
図2(a)及び
図3(a)と同様、鉛直方向から見た場合のドーム屋根1を示している。但し、
図4(a)では、グラウンド2の上部に位置する全ての開口5が、対応するカバー部材6により一部のみ覆われ、半開となっている状態のドーム屋根1を示している。
図4(b)は、ドーム屋根1のうち開口5が半開状態となっている部分を拡大した拡大斜視図である。なお、
図4(a)における長方形は、
図3(a)と同様、天然芝のグラウンド2を示している。
【0025】
図2〜
図4に示すように、ドーム屋根1は、複数のフレーム部材4により構築された格子シェル構造LSの固定骨組みと、この格子シェル構造LSの各グリッドが画定する開口5をそれぞれ開閉可能なカバー部材6と、を備えている。つまり、本実施形態のドーム屋根1は、固定骨組みの各々のグリッドに対して、1つずつ開閉式のカバー部材6が設けられている構成である。従って、各カバー部材6により、対応する1つのグリッドが画定する開口5を開閉することにより、ドーム屋根1全体の開閉を行うことができる。
【0026】
以下、本実施形態におけるドーム屋根1の各構成、及び特徴部について詳細に説明する。
【0027】
[複数のフレーム部材4により構成される格子シェル構造LS]
図2〜
図4に示すように、ドーム屋根1は、フレーム部材4を複数組み合わせることにより構築された格子シェル構造LSを備えている。
【0028】
図2(a)、
図3(a)、及び
図4(a)に示すように、この格子シェル構造LSは、ドーム屋根1を鉛直方向から見た場合、略正方形のグリッドを形成するように配列されている。
【0029】
より具体的に、
図2〜
図4に示すように、本実施形態における複数のフレーム部材4は、ドーム屋根1の外面側の第1格子シェル構造層LS1を構成する複数の第1フレーム部材8と、ドーム屋根1の内面側の第2格子シェル構造層LS2を構成する複数の第2フレーム部材9と、これら2層の格子シェル構造層LS1及びLS2を連結する連結部材としての複数の第3フレーム部材10と、を備える。別の言い方をすると、本実施形態の格子シェル構造LSは、第1格子シェル構造層LS1と、第2格子シェル構造層LS2と、を備えるダブルレイヤーグリッドシェルである。なお、本実施形態におけるドーム屋根1の裾部には、格子シェル構造LSのスラスト力を受けるテンションリングが設けられている。
【0030】
第1格子シェル構造層LS1は、4本の第1フレーム部材8により略正方形のグリッドを形成するように配列されている。また、第2格子シェル構造層LS2も、4本の第2フレーム部材9により略正方形のグリッドを形成するように配列されている。第3フレーム部材10は、第1格子シェル構造層LS1における第1フレーム部材8の連結部と、第2格子シェル構造層LS2における第2フレーム部材9の連結部と、を連結するように取り付けられる。
【0031】
なお、本実施形態における第1及び第2格子シェル構造層LS1及びLS2がそれぞれ形成するグリッドは、第1フレーム部材8及び第2フレーム部材9の中心線で見た場合に、5.0m×5.0mの正方形であるが、各グリッドを形成する辺の長さはこの長さに限られるものではなく、ドーム屋根の大きさや開閉式のドーム屋根を備える構造物の使用形態等に応じて適宜適切な長さに変更して設計することが可能である。
【0032】
ここで、本実施形態のドーム屋根1は、複数のフレーム部材4によって、構造安定性の高い格子シェル構造LSを構築する構成であるため、ドーム屋根に1つの大きな開口部を形成可能な片持ち型の開閉式ドーム屋根の構成と比較して、細い、更には軽いフレーム部材4によりドーム屋根1の骨組みを構築することができる。
【0033】
片持ち型の開閉式ドーム屋根を備える構造物の場合、大型の開口部を形成することが可能ではあるが、この開口を形成するために、屋根の移動をガイドする比較的大きなガイド部材が必要となる。そのため、開口部自体は大きいものの、グラウンド上にこのガイド部材の大きな影が形成されてしまい、競技者の集中力に悪影響を与えてしまうという問題がある。
【0034】
この点、本実施形態のドーム屋根1は、上述したように、片持ち型の開閉式ドーム屋根よりも細いフレーム部材4で骨組みを構築することが可能であるとともに、後述するように、このフレーム部材4自体にカバー部材6のガイド部13(
図7参照)を設けることが可能である。このように、細いフレーム部材4を用いることにより、フレーム部材4によって生じるグラウンド2上の影を木の枝の影がぼやけるように弱くすることができる。また、フレーム部材4にガイド部13(
図7参照)を設けることにより、片持ち型の開閉式ドーム屋根で見られるようなガイド部材による大きな影を落とすおそれもない。
【0035】
なお、本実施形態におけるドーム屋根1の厚み(第1格子シェル構造層LS1の外面と第2格子シェル構造層LS2の内面との間の距離)は、ドーム屋根1の裾部から頂部に向かって、薄くなるように構成されている。また本実施形態では、ドーム屋根1の頂部側に位置するフレーム部材4の主要部を構成する角形パイプ部が、ドーム屋根1の裾部側に位置するフレーム部材4の主要部を構成する角形パイプ部よりも細く構成されている。このような構成とすることにより、グラウンド2上に落とされるフレーム部材4の影を、一層弱めることが可能となる。
【0036】
フレーム部材4の主要部を構成する角形パイプ部の断面寸法は、例えば、ドーム屋根1の裾部に位置するフレーム部材4では400mm×200mm、ドーム屋根1の頂部に位置するフレーム部材4では200mm×200mmとすることができる。
【0037】
また、本実施形態における格子シェル構造LSは、略正方形のグリッドを構成するように構築されているが、グリッド形状は正方形に限られるものではなく、例えば、長方形、三角形などの他の多角形状のグリッドを形成するようにフレーム部材4を構築するようにしてもよい。
【0038】
更に、本実施形態では、2層の格子シェル構造層LS1、LS2を備える構成としているが、これも2層に限られるものではなく、単層の格子シェル構造や、3層以上の格子シェル構造とすることも可能である。
【0039】
[複数のフレーム部材4の間に位置する開口5]
図3(b)、及び
図4(b)に示すように、開口5は、ドーム屋根1を鉛直方向から見た場合に、複数のフレーム部材4の間に位置する間隙である。つまり、本実施形態の2層の格子シェル構造LSにおける開口5は、第1格子シェル構造層LS1及び第2格子シェル構造層LS2の略正方形のグリッドで画定される、ドーム屋根1の内面と外面とを貫く略四角柱状の中空部である。
【0040】
後述するカバー部材6は、ドーム屋根1の外面側の第1格子シェル構造層LS1を構成する複数の第1フレーム部材8(フレーム部材4)の間で移動することにより、各開口5を開閉可能である。
【0041】
[カバー部材6]
カバー部材6は、後述する開閉装置7により開口5に対して移動可能である。具体的に、カバー部材6は、操作者が開閉装置7を操作することにより、開口5を全閉する第1の位置(
図2(a)、(b)参照)と、この第1の位置よりも開口5を開放する第2の位置(
図3(a)、(b)、及び
図4(a)、(b)参照)との間で移動し、形態を変化することができる。従って、全てのカバー部材6それぞれが、対応するそれぞれの開口5を全閉状態にする第1の位置に位置する場合、ドーム屋根1全体も全閉状態となる。ドーム屋根1が全閉状態にある場合は、天候によらず、構造物100内で競技を行うことが可能である。
【0042】
また、全てのカバー部材6、又は一部のカバー部材6が、開口5を開放状態にする第2の位置に位置する場合、ドーム屋根1全体としても開放状態となる。なお、「第2の位置」とは、1つのカバー部材6が1つの開口5を完全に開放する位置、すなわち、1つのカバー部材6が1つの開口5を全開状態とする位置と、1つのカバー部材6が1つの開口5の一部のみを開放する半開状態とする位置と、の両方を含む意味であり、ここでは全開状態及び半開状態を併せて「開放状態」と呼ぶ。
【0043】
図2〜
図4に示すように、本実施形態におけるカバー部材6は、第1格子シェル構造層LS1を構成する第1フレーム部材8の間でスライド移動し、フレーム部材4の間に位置する複数の開口5それぞれを開閉する、スクリーンなどの膜部材6aである。本実施形態のカバー部材6、すなわち膜部材6aは、1つの開口5に対して1つ設けられており、1つの開口5は、1つの膜部材6aにより開閉される。但し、このような構成に限らず、隣り合う複数の開口5を、1つの膜部材6aにより開閉する構成としてもよい。例えば、隣接する4つの開口5に対して1つの膜部材6aを設ける構成や、一列に連なる3つの開口5に対して1つの膜部材6aを設ける構成とすることができる。なお、隣接する複数の開口5を1つの膜部材6aにより開閉する構成とする場合であっても、全てのカバー部材6それぞれが、対応する複数の開口5を全閉状態にする第1の位置に位置する場合、ドーム屋根1全体も全閉状態となる。また、全てのカバー部材6又は一部のカバー部材6が、対応する複数の開口5の少なくとも一部を開放する第2の位置に位置する場合、ドーム屋根1全体も開放状態となる。
【0044】
本実施形態では、1つのカバー部材6の面積を25m
2程度、ドーム屋根1におけるカバー部材6の総数を800個としているが1つのカバー部材6の面積及びカバー部材6の総数については、これに限られるものではない。1つのカバー部材6の面積としては、例えば100m
2以下とすることができる。但し、50m
2以下とすることが好ましく、30m
2以下とすることが特に好ましい。また、ドーム屋根1におけるカバー部材6の総数については、例えば、数十個以上とすることができる。但し、50個以上が好ましく、100個以上とすることが特に好ましい。
【0045】
膜部材6aが開口5に対して移動する際は、膜部材6aが第1格子シェル構造層LS1により形成されるシェル状の外形に沿って(ドーム屋根1の外面に沿って)スライド移動する。膜部材6aをスライド移動させる機構の詳細は後述する(
図5、
図7等参照)。
【0046】
カバー部材6としての膜部材6aは、可撓性を有する薄肉部材(0.5mm〜0.8mm程度)であって、膜部材6aの材料としては、例えばテフロン(デュポン社の登録商標)、PTFE、PFAなどのフッ素樹脂や、ポリエステル繊維などを使用することが可能である。また、その他の樹脂材料にフッ素樹脂層をコーティングすることにより膜部材6aを形成することも可能である。また、カバー部材6としては、不透明なもののみならず、例えば一部の可視光を吸収する半透明のものとすることも可能である。
【0047】
なお、本実施形態における膜部材6aは、第1格子シェル構造層LS1を構成する複数の第1フレーム部材8の間でスライド移動して、対応する開口5を開閉する構成であるが、このような構成に限られるものではなく、例えば、膜部材6aが、第2格子シェル構造層LS2を構成する複数の第2フレーム部材9の間でスライド移動して、対応する開口5を開閉する構成としてもよい。
【0048】
[カバー部材6のスライド移動機構]
次に、カバー部材6としての膜部材6aが、開口5に対して移動する機構について説明する。
【0049】
図5は、第1格子シェル構造層LS1を構成する第1フレーム部材8の連結部を拡大した拡大斜視図である。
図5に示すように、カバー部材6としての膜部材6aは、第1フレーム部材8に設けられた芯材11に巻き取られることにより、開口5を開放する。逆に、膜部材6aは、第1フレーム部材8に設けられた芯材11から送り出されることにより開口5を全閉する。以下、詳細に説明する。
【0050】
図2〜
図5に示すように、フレーム部材4は、膜部材6aが開口5に対して移動する際に、膜部材6aを巻き取り可能な芯材11を保持している。具体的に、第1格子シェル構造層LS1の1つのグリッドを形成する4つの第1フレーム部材8のうち、膜部材6aの移動方向Aにおいて対向する2つの第1フレーム部材8a、8bは、その外面側(ドーム屋根1の外面側)に溝形鋼部12を備えており、一方の第1フレーム部材8aが、この溝形鋼部12の溝に芯材11を収容している。
【0051】
また、
図5に示すように、この芯材11の長手方向の両端は、第1格子シェル構造層LS1の1つのグリッドを形成する4つの第1フレーム部材8のうち、膜部材6aの移動方向Aと直交する方向(以下、「幅方向B」と記載する)において対向する2つの第1フレーム部材8c、8dにより、回転可能に保持されている。具体的に、幅方向Bにおいて対向する2つの第1フレーム部材8c、8dは、その外面側(ドーム屋根1の外面側)に、上述した溝形鋼部12と同様の溝形鋼部14を備えており、芯材11の長手方向(本実施形態では幅方向Bと同じ方向)の両端は、この溝形鋼部14の溝内において溝形鋼部14の内壁と固定された芯材保持部としての山形鋼部18に対して、回転可能に保持されている。このように、本実施形態では、溝形鋼部14の溝内に固定された山形鋼部18が芯材11の両端を保持する構成であるが、芯材11の両端を保持する構成はこの構成に限られるものではなく、例えば、山形鋼部18の代わりに、I形鋼やT形鋼などを溝形鋼部14の溝内に固定することにより形成された、I形鋼部やT形鋼部が、芯材11の両端を保持する構成としてもよい。また、山形鋼部18を設けず、溝形鋼部14の内壁の一部が芯材11の両端を保持するよう構成してもよい。なお、
図2(b)、
図3(b)、
図4(b)、及び
図5では、説明の便宜上、対向する2つの第1フレーム部材8c、8dのうち一方の第1フレーム部材8dにおける溝形鋼部14(
図6等参照)が省略されて描かれている。
【0052】
図6は、ドーム屋根1の1つのグリッドを示す平面図であり、
図7は、
図6におけるI−I断面図である。
図7に示すように、膜部材6aの幅方向Bに位置する、対向する2つの第1フレーム部材8c、8dは、膜部材6aが開口5に対して移動する際に、膜部材6aの移動方向をガイドするガイド部13を備える。本実施形態におけるガイド部13は、上述した溝形鋼部14に設けられている。具体的に、このガイド部13は、膜部材6aの幅方向Bにおける両側で、膜部材6aの端部の外面及び内面を挟み込んでガイドする凹型のガイドレール15であり、このガイドレール15が、溝形鋼部14の溝内に設けられている。より具体的に、本実施形態の溝形鋼部14は、溝形鋼部14の溝内において、この溝形鋼部14の断面よりも断面寸法が小さい小型断面を有する溝形鋼部19を備えており、この溝形鋼部19の溝が凹型のガイドレール15として機能している。本実施形態における溝形鋼部19は、溝形鋼を溝形鋼部14の内壁に溶接やボルトナット接合等によって固定することにより形成されている。なお、凹型のガイドレール15の構成は、幅方向Bにおける膜部材6aの端部の外面及び内面を挟み込んでガイドするものであればよく、上述した溝形鋼部19の構成に限られるものではない。従って、例えば、溝形鋼部14の溝内に溝形鋼部19を設けずに、溝形鋼部14の溝内の内壁の一部に溝を形成し、この溝を凹型のガイドレール15とする等、各種構成により実現することが可能である。
【0053】
このように、膜部材6aは、第1格子シェル構造層LS1を構成する第1フレーム部材8のうち幅方向Bにおいて対向する第1フレーム8c及び8dに設けられた凹型のガイドレール15に案内されながら、芯材11に巻き取られることにより、ドーム屋根1を全閉する第1の位置から、ドーム屋根1の少なくとも一部を開放する第2の位置に移動する。逆に、膜部材6aは、凹型のガイドレール15に案内されながら、芯材11から送り出されることにより、第2の位置から第1の位置に移動する。なお、膜部材6aは、凹型のガイドレール15に案内されながら、1つの開放状態から別の開放状態へと移動することも可能である。
【0054】
また、ガイド部13としてのガイドレール15は、膜部材6aが第1の位置に位置する状態で、膜部材6aの内面及び外面が略双曲放物面を形成するように(
図2(b)等参照)、曲線状に延在している。膜部材6aの幅方向B両側に位置する第1フレーム部材8c、8dに設けられたガイドレール15は共に、例えば正弦波曲線のような、波状の曲線を描くように延在しているが、一方の第1フレーム部材8cに設けられたガイドレール15c(以下、「第1ガイドレール15c」と記載する)と、他方の第1フレーム8dに設けられたガイドレール15d(以下、「第2ガイドレール15d」と記載する)とは、位相がずれた波状の曲線である。すなわち、
図7に示すように、幅方向Bにおいて対向する位置における第1ガイドレール15cの高さHc(第1フレーム部材8cの主要部を構成する角形パイプ部の外表面からの距離)と、第2ガイドレール15dの高さHd(第1フレーム部材8dの主要部を構成する角形パイプ部の外表面からの距離)は異なる。
【0055】
上述したような、位相差を有する第1ガイドレール15c及び第2ガイドレール15dの構成としては、例えば、移動方向Aにおける所定位置において、第1ガイドレール15cが極大値をとるのに対し、移動方向Aにおける同位置において、第2ガイドレール15dは極小値をとるような正弦波曲線とすることが可能である。すなわち、第1ガイドレール15cと第2ガイドレール15dとが、180度の位相差を有する構成とすることができる。このように、位相が180度異なる正弦波曲線を対向させることにより、膜部材6aは、第1の位置に位置する状態で、その外面及び内面が略双曲放物面を形成する。
【0056】
このような構成とすることにより、膜部材6aの撓みによって雨水が膜部材6aの外面に溜まってしまうことを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1格子シェル構造層LS1の1つのグリッドを形成する4つの第1フレーム部材8すべてが、その外面側に溝形鋼部12、14を備えると共に、溝形鋼部12、14を開口5側に間隙を有する略C形断面としているため、溝形鋼部12、14は雨樋としても機能する。つまり、膜部材6aの外表面を伝って溝形鋼部12、14の溝内に案内される雨水は、溝形鋼部12、14の溝内を通って流れ、所定の位置から排出される。なお、溝形鋼部19についても、溝形鋼部12、14と同様、C形断面を有している。
【0058】
更に、本実施形態において、1つのグリッドにおける溝形鋼部14と、幅方向Bにおいて隣り合う、別のグリッドにおける溝形鋼部14との間、及び、1つのグリッドにおける溝形鋼部12と、移動方向Aにおいて隣り合う、別のグリッドにおける溝形鋼部12との間には間隙が形成されており、この間隙は雨樋として機能すると共に、メンテナンスレールとしても利用することが可能である。
【0059】
[開閉装置7]
次に、カバー部材6としての膜部材6aを、対応する開口5に対して移動させて、開口5を開閉する開閉装置7について説明する。操作者は、開閉装置7を操作することにより、ドーム屋根1のカバー部材6を、第1の位置と第2の位置との間で移動させることができ、この操作により、ドーム屋根1の全閉状態と開放状態とを切り換え可能である。
【0060】
図8は、開閉装置7を示す模式図である。
図8に示すように、本実施形態における開閉装置7は、膜部材6aを巻き取り可能な、及び送り出し可能な芯材11と、この芯材11を回転させる駆動装置16と、芯材11の回転を制御する制御装置17と、を備える。
【0061】
芯材11は、本実施形態では、ドーム屋根1の各グリッドに1つ設けられており、上述したように、フレーム部材4のうち第1フレーム部材8により、回転可能に保持されている。
【0062】
駆動装置16は、芯材11を回転させる電動モータ等を備え、制御部17からの指示に基づき、芯材11を回転させる。具体的に、開口5が全閉状態にある場合に、制御部17から開口5を開放状態にする指示があると、芯材11を所定方向に回転させて膜部材6aを巻き取る。逆に、開口5が開放状態にある場合に、制御部17から開口5を全閉状態にする指示があると、芯材11を、上述の巻き取る際の所定方向とは逆方向に回転させて、膜部材6aを送り出す。
【0063】
このように、開閉装置7は、膜部材6aを、第1の位置と第2の位置との間で移動させて、開口5を開閉する。
【0064】
以上のように、本実施形態のドーム屋根1は、複数の開口5それぞれに対応する複数のカバー部材6を備え、各カバー部材6を、対応する1つの開口5のみを開閉するように、その1つの開口5に対して移動させるだけで、ドーム屋根1全体の開閉を行うことができる。そのため、短時間でドーム屋根1の開閉動作を行うことができる。また本実施形態では、カバー部材6として膜部材6aを用いるとともに、この膜部材6aを巻き取ること及び送り出すことによって簡単に開口5を開閉することができるため、開閉装置7の構造が複雑化、大型化することがなく、開閉装置7を構築するコストや、ドーム屋根1を開閉するために必要な電力コストも抑えることができる。
【0065】
[開閉装置7による複数の開口5の部分的開閉制御]
ここまでは、ドーム屋根1の各部材、及び各グリッドが画定する1つの開口5を開閉する機構について主に説明してきた。以下、開閉装置7により、複数の開口5間で異なる開閉制御を行う使用方法について説明する。
【0066】
上述したように、本実施形態において、カバー部材6としての膜部材6aは、開閉装置7により、対応する1つの開口5に対して移動し、その1つの開口5を開閉する。更に開閉装置7は、複数の開口5全てを、同時に、同じ開閉状態にすることも可能であるが、複数の膜部材6aそれぞれを個別に、対応する開口5に対して移動させることも可能である。すなわち、開閉装置7は、複数のカバー部材6(本実施形態では膜部材6a)のうち一部のカバー部材6のみを第1の位置と第2の位置との間で移動させることができる。
【0067】
図9は、隣り合う2つの開口5a及び5bの開閉状態を互いに異なるように制御した一例を示す斜視図である。開口5aは、膜部材6aにより半開状態(開放状態)となっており、開口5bは、膜部材6aにより全閉状態となっている。このように、本実施形態の開閉装置7は、複数の膜部材6aのうち一部の膜部材6aのみを第1の位置(全閉状態)とし、その他の膜部材6aを第2の位置(開放状態)とすることが可能である。また、複数の膜部材6aのうち一部の膜部材6aのみを半開状態とし、その他の膜部材6aを全開状態とすることも可能である。
【0068】
このように、開閉装置7により、複数の膜部材6a間で異なる開閉状態を実現するように制御することができる。
【0069】
また、第1の位置及び第2の位置との間で移動可能な本実施形態のカバー部材6、すなわち膜部材6aは、ドーム屋根1の周方向C(
図2(a)参照)において複数設けられており、更に、ドーム屋根1の裾部から頂部にかけても複数設けられているため、ドーム屋根1の外面上の位置によって、開口5の開閉状態を制御することができる。すなわち、ドーム屋根1の周方向Cの位置によって開口5の開閉状態を異ならせることも、ドーム屋根1の裾部から頂部の間の位置によって開口5の開閉状態を異ならせること(例えば、ドーム屋根1の頂部付近の開口5を全開状態とし、この開口5より裾部側の開口5を全閉状態とすることや、頂部付近の開口5を全閉状態とし、この開口5よりも裾部側の開口5を全開状態とすることなど)も可能である。例えば、
図3(a)に示すように、グラウンド2の上部に位置する全ての開口5を全開状態とし、観客席3の上部に位置する全ての開口5を全閉状態とすることができる。また、グラウンド2の上部に位置する全ての開口5を全開状態とすると共に、観客席3の上部の開口5については、周方向Cにおける観客席3の位置によって開閉状態を異ならせるようにすることも可能である。この他に、例えばドーム屋根1の外方の風向きや風速に合わせて、開閉する開口5を変化させるようにしてもよい。このように、複数の開口5間で開閉状態を異ならせるように制御することにより、天候のみならず、ドーム屋根1を備える構造物内において開催されるイベントの内容や座席の配置などに対応した様々な演出をすることが可能となる。
【0070】
また、本実施形態のドーム屋根1は、グラウンド2及び観客席3を覆う、位置が固定された格子シェル構造LSを構成するフレーム部材4を備えるため、例えばこのフレーム部材4の全域に多数の小型照明を配置することにより、明るさのムラを抑え、通常の競技場用大型照明にみられる強い影、グレアや光のちらつきを軽減することができる。また、小型照明をこのように配置することにより、構造物内で行われるスポーツなどの競技において競技者のパフォーマンスを向上させるだけでなく、観客側からも逆光が少なくなる。更に、競技種目やイベントの利用形態にとって最適な照明方法を選択することができるため、必要な照度を効率良く確保でき、消費電力の削減を図ることも可能となる。また更に、コンサート等において照明による様々な演出を実現することも可能となる。
【0071】
なお、本実施形態では、ドーム屋根1における全ての開口5を開閉することができるように、全てのカバー部材6(膜部材6a)が第1の位置と第2の位置との間で移動可能であるが、このような構成に限らず、例えば、観客席3の上部に位置する全て又は一部の開口5を、開閉することができない固定屋根とすることも可能である。このような構成とする場合には、固定屋根を、例えば遮音機能を持った合せガラスと吸音膜との二重構成として、遮音性を高めた構成とすることができる。なお、固定屋根としては、不透明なものとすることも、半透明なものとすることも可能である。