(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872520
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】キシロース上で生育する非組換えサッカロマイセス株
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20160216BHJP
C12P 7/06 20060101ALI20160216BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20160216BHJP
C12N 15/01 20060101ALN20160216BHJP
C12R 1/865 20060101ALN20160216BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12P7/06
C12N1/16 E
!C12N15/00 X
C12P7/06
C12R1:865
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2013-217527(P2013-217527)
(22)【出願日】2013年10月18日
(62)【分割の表示】特願2007-526108(P2007-526108)の分割
【原出願日】2005年6月8日
(65)【公開番号】特開2014-54256(P2014-54256A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2013年11月15日
(31)【優先権主張番号】2004903141
(32)【優先日】2004年6月8日
(33)【優先権主張国】AU
【微生物の受託番号】AGAL NM05/45177
【微生物の受託番号】AGAL NM04/41257
【微生物の受託番号】AGAL NM04/41258
【微生物の受託番号】AGAL NM05/45178
(73)【特許権者】
【識別番号】506408494
【氏名又は名称】マイクロバイオジェン プロプライエタリィ リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】ベル、フィリップ、ジョン、リヴィングストン
(72)【発明者】
【氏名】アトフィールド、ポール、ヴィクター
【審査官】
上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−501348(JP,A)
【文献】
特開平06−178682(JP,A)
【文献】
特開昭54−035280(JP,A)
【文献】
Biotechnol.Bioeng., vol.XXV, pp.85-102 (1983)
【文献】
Biotechnol.Bioeng., vol.XXVIII, pp.549-553 (1986)
【文献】
Biotechnol.Letters, vol.19(7), pp.615-618 (1997)
【文献】
岡山県工業技術センター報告,No.21, pp.19-21 (1995)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
C12N 1/00
C12N 1/16 − 1/19
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む望ましいサッカロマイセス株をマークする方法
(a)株がDNA結合できるような条件下でサッカロマイセスの非組換え株とともに望ましい株を培養し、該サッカロマイセスの非組換え株は唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間で少なくとも1世代の生育速度を有する、
(b)唯一の炭素源としてのキシロースを利用して、工程(a)前の該望ましい株よりも大きく、かつ該サッカロマイセスの非組換え株以下の生育速度を持つ改良された望ましい株を目的として酵母細胞をスクリーニングまたは選択する、
(c)唯一の炭素源としてのキシロースを利用して工程(a)前の該望ましい株よりも大きく、かつ該サッカロマイセスの非組換え株以下の生育速度を持つ改良された望ましいサッカロマイセス株を単離し、
該サッカロマイセスの非組換え株は、2倍に増大したバイオマスから、試験T1に記載された条件下で株NM05/45177によって産生される増大したバイオマスと同じバイオマスの範囲で試験T1に記載された条件下で増大したバイオマスを産生し、
試験T1は以下の工程を有する:
工程1. 2%の寒天で固形化させたグルコース、酵母抽出物、細菌ペプトン培地上で30℃で72時間、酵母を生育する、
工程2. 250ml三角フラスコ中の50mlの培養液に0.1から0.2ユニットの間の600nmにおける光学濃度(OD600)(T0 におけるOD600)となるように工程1からの酵母を接種し、該培養液は蒸留水中に5% w/vキシロース、0.67%Difco Yeast Nitrogen Base without amino acidsからなる、
工程3. 該三角フラスコを220rpm、軌道直径10cmで、30℃で振とう培養する、
工程4. 工程3における48時間培養後のOD600(T48hrsにおけるOD600)を計測する、
工程5. 式:T48hrsにおけるOD600/T0hrs におけるOD600を用いてバイオマスの増大を計算する。
【請求項2】
該非組換えサッカロマイセス株が、委託受入番号NM04/41257でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、唯一の炭素源としてキシロースを利用して、株NM04/41257と同じ生育速度を有するサッカロマイセス株、委託受入番号NM04/41258でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、唯一の炭素源としてキシロースを利用して、株NM04/41258と同じ生育速度を有するサッカロマイセス株、委託受入番号NM05/45177でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、唯一の炭素源としてキシロースを利用して、株NM05/45177と同じ生育速度を有するサッカロマイセス株、委託受入番号NM05/45178でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、および唯一の炭素源としてキシロースを利用して、NM05/45178と同じ生育速度を有するサッカロマイセス株からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該改良された望ましい株は、2倍から49倍の範囲で試験T1に記載された条件下で増大したバイオマスを産生する株を目的として工程(b)においてスクリーニングまたは選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
非組換えサッカロマイセス株が、委託受入番号NM04/41257でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、委託受入番号NM04/41258でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、委託受入番号NM05/45177でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株、および委託受入番号NM05/45178でオーストラリア政府分析ラボに委託されているサッカロマイセス株からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は非組換えサッカロマイセス株の製造方法、サッカロマイセス株およびその用途に関する。
【0002】
本明細書で引用する、いかなる特許および特許出願を含む全ての参考文献は、参照することにより本明細書に含まれる。いかなる参考文献資料も先行技術を構成することを認容するものではない。参考文献の考察はそれらの著者主張していることを述べており、出願人は引用文献の正確性と妥当性に意義を申し立てる権利を留保している。多くの先行技術刊行物がここで参照されているけれども、この参照が、これらの文献がオーストラリアや他のいかなる国においても当該技術分野における一般常識の一部分を成すことを容認するものではないと、明確に理解されるだろう。
【0003】
酵母の最も重要な経済的なグループの一つはサッカロマイセス属であり、その株は醸造、製パン、ワイン作り、蒸留、および様々な他の酵母依存的産業に用いられている。サッカロマイセスはKurtzman (2003) FEMS Yeast Reserch 3 : 417-432 によって系統発生学的に分類され、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevii)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)を含む。サッカロマイセス種はグルコース、フルクトース、スクロース、およびマルトースのような糖類をバイオマスに変換したり、あるいはこれらの糖をエタノールに発酵させるのに最も効果的な微生物の一部である。結果として、サッカロマイセス種、特にS.セレビシエは、産業的方法において最も広範囲に用いられる微生物の一つである。例えば、ビール醸造、蒸留、ワイン産業においては、サッカロマイセスはグルコース、フルクトース、スクロース、及び/またはマルトースのような糖類をエタノールに発酵させるのに用いられている。燃料用エタノール産業では、サッカロマイセス セレビシエ株は、グルコース、フルクトース、スクロース、およびマルトースのような高濃度の糖類を大量のエタノールに急速に変換する能力のために選ばれる。製パン業では、サッカロマイセス セレビシエ株は、パンを発酵させるためにグルコース、フルクトース、スクロース、および/またはマルトースのような糖類から二酸化炭素を産生する能力のために、主に用いられている。他にもサッカロマイセス セレビシエの用法として酵母抽出物、その他の香料、芳香製品産物の製造、インベルターゼのような酵素の源、様々な生化学物質、中間物質、タンパク質、アミノ酸、リボ核酸、ヌクレオチド補共因子、あるいはビタミンの生産を含む。
【0004】
産業方法においては毎年数百万トンの酵母が生育されている。それゆえに、サッカロマイセスが豊富で再生可能な炭素資源で生育しうることは、産業の目的のための、および酵母の代謝から得られる副産物の経済的生産のための、酵母バイオマスの経済的生産の観点から重要である。特にサッカロマイセスが他の産業過程で生み出された不要な副産物で生育することができれば、環境的また経済的に価値がある。例えば、糖生産過程でできた廃棄物である糖液や、デンプン加水分解産業由来のグルコースおよびマルトース豊富なシロップで酵母を生育させることによって、パン酵母バイオマスがしばしば生産されている。
【0005】
(発明の要約)
本発明は、唯一の炭素源としてキシロースを利用して、望ましい生育速度(48時間で少なくとも一世代のような)で生育する能力を持つサッカロマイセス株の製造方法、およびこのような生育速度でキシロースで生育するサッカロマイセス株、およびその用途を提供する。
【0006】
キシロースは、以前はサッカロマイセスが利用できないと考えられていた、植物バイオマスから入手可能な、天然の豊富で再生可能な糖の一例である。例えば、Barnettら、「Yeasts Characteristics and Identification」第2版(1990)、ケンブリッジ大学出版によれば、サッカロマイセス・セレビシエ種は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースは資化できないとある。キシロースは酵母生育のための、およびエタノールを含む酵母由来の工業製品のための主要な可能性のあるソースである。キシロースを酵母にとっての糖原料として用いれば、大きな経済的、環境的利点があるだろう。例えば、キシロース豊富な原料から燃料用エタノールを生産すれば、再生産エネルギーの重要な資源になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
第1の側面において、本発明は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して、望ましい生育速度で生育できるサッカロマイセス株の生産方法であって、以下を含む方法を提供する:
(a)サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を準備する;
(b)該酵母細胞を、酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で培養する;
(c)生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して、増大した生育速度を有する該酵母細胞をを目的として、該酵母細胞をスクリーニングまたは選択する;
(d)望ましい生育速度を有する一つ以上の酵母細胞を単離する。
【0008】
典型的には、酵母細胞は、対になった酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で培養される。
【0009】
典型的には、望ましい生育速度は、その方法が使われなかったサッカロマイセス株の酵母細胞の生育速度に比べて増大した生育速度である。例えば、NL67株のようなサッカロマイセス株のことである。更に典型的には、望ましい生育速度とは、48時間で少なくとも1世代、更に典型的には、24時間で少なくとも1世代である。
【0010】
典型的には、酵母細胞をキシロース含有培地上もしくは該培地中で培養することによって望ましい生育速度を持った酵母細胞を目的として、酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。典型的には、キシロース含有培地とはキシロース含有培養培地のことである。該培養培地は唯一の炭素源としてキシロースを含んでもよいし、あるいは、キシロースは複数の炭素源の一つであってもよい。典型的には、キシロースはキシロース含有培地における唯一の炭素源である。典型的には、キシロース含有培養培地はキシロース最小無機物培地である。酵母細胞は、典型的には、キシロースを炭素源として利用して、望ましい生育速度を持った酵母細胞が生育できる充分な時間、キシロース含有培地上もしくは該培地中で培養される。
【0011】
一実施形態において、スクリーニングまたは選択された酵母細胞は遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を形成し、工程(b)と(c)は望ましい生育速度を有する酵母細胞が得られるまで繰り返される。
【0012】
一実施形態においては、工程(b)が工程(c)の前に実施される。別の実施形態においては、工程(c)は工程(b)の前に実施される。さらに別の実施形態においては、工程(b)と(c)は同時に行われる。
【0013】
第2の側面において、本発明は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して望ましい生育速度能力がある、培養物中のサッカロマイセス株の製造方法であって、以下を含む方法を提供する:
(a)遺伝的に多様なサッカロマイセスの非組換え酵母細胞の集団を準備する;
(b)該酵母細胞を、酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で培養する;
(c)キシロース含有培地上もしくは該培地中で酵母細胞を培養することで、該酵母細胞をスクリーニングまたは選択する;
(d)1つ以上の酵母細胞が生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して望ましい生育速度で生育する能力を獲得するまで、サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母の集団を形成するスクリーニングまたは選択された細胞を用いて工程(b)と(c)を繰り返す。
【0014】
典型的には、その方法は望ましい生育速度を有する一つ以上の酵母細胞を単離する更なる工程(e)を含む。一実施形態において、単離された一つ以上の酵母細胞は単一のサッカロマイセス株である。別の実施形態において、単離された一つ以上の酵母細胞は遺伝的に多様な酵母細胞の集団である。
【0015】
一実施形態において、酵母細胞は工程(c)で選択される。唯一の炭素源としてキシロース上で生育できる酵母細胞が炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地もしくは該培地中で酵母細胞を培養し、その後生育する酵母細胞を集めることによって、酵母細胞は工程(c)で選択されてよい。唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞が、炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地もしくは該培地中で酵母細胞を培養し、その後生育する酵母細胞を集めることによって、酵母細胞は工程(c)で選択されてよい。
【0016】
別の実施形態において、酵母細胞は工程(c)でスクリーニングされる。唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞が、炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地若しくは該培地中で酵母細胞を培養し、その後炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞を集めることによって、酵母細胞は工程(c)でスクリーニングされてよい。
【0017】
工程(b)と(c)の反復の一部で酵母細胞が選択され、および工程(b)と(c)の反復の一部で酵母細胞がスクリーニングされることも想定される。
【0018】
生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用し、望ましい生育速度で生育できる酵母株を得るに足る充分な任意の回数、工程(b)と(c)は反復されてよい。工程(b)と(c)の反復回数は用いられる培地、開始時の酵母株、培養条件等によることは当業者であればわかるだろう。一実施形態において、工程(b)と(c)は少なくとも一回、典型的には少なくとも2回、より典型的には少なくとも5回、更に典型的には少なくも10回、いっそう典型的には20回、適切には少なくとも30回繰り返される。
【0019】
酵母細胞は固形または液体のキシロース含有培地でスクリーニングまたは選択されてよい。一実施形態において、細胞は固形のキシロース含有培地上でスクリーニングまたは選択される。別の実施形態において、細胞は液体のキシロース含有培地中でスクリーニングまたは選択される。更に別の実施態様において、細胞は固形のキシロース含有培地上でスクリーニングまたは選択がなされ、次いで、液体のキシロース含有培地中でスクリーニングまたは選択される。例えば、固形のキシロース含有培地を使って工程(b)と(c)を複数回反復して酵母細胞がスクリーニングまたは選択された後、液体のキシロース含有培地を使って工程(b)と(c)を複数回反復して酵母細胞がスクリーニングまたは選択されてよい。
【0020】
固形のキシロース含有培地は炭素源としてキシロースを含む任意の固形培地であってよく、唯一の炭素源としてキシロースを資化できる株に選択的利点を提供する。例えば、固形のキシロース含有培地はキシロースが複数の炭素源のなかの一つとして含まれる複合固形培地であってもよく、または固形のキシロース含有培地はキシロースが唯一の炭素源である最小固形培地であってもよい。典型的には、固形キシロース含有培地は唯一の炭素源としてキシロースを含む固形最小培地だろう。
【0021】
液体のキシロース含有培地は炭素源としてキシロースを含む任意の液体培地であってよい。例えば、液体のキシロース含有培地はキシロースが複数の炭素源のなかの一つとして含まれる複合液体培地であってもよく、または液体のキシロース含有培地はキシロースが唯一の炭素源である最小液体培地であってもよい。典型的には、液体のキシロース含有培地は唯一の炭素源としてキシロースを含む液体最小培地だろう。典型的には、液体最小培地は唯一の炭素源としてキシロースを含む最小無機培地である。
【0022】
望ましい生育速度は典型的には48時間で少なくとも一世代である。望ましい生育速度は24時間で一世代超であってよい。望ましい生育速度は12時間で一世代超であってよい。望ましい生育速度は10時間で一世代超であってよい。望ましい生育速度は8時間で一世代超であってよい。望ましい生育速度は4時間で一世代超であってよい。望ましい生育速度は2時間で一世代超であってよい。
【0023】
生産されるサッカロマイセス株は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して望ましい生育速度で生育できるサッカロマイセス属の任意の種由来の株であってよい。生産される株はサッカロマイセスの遺伝的多様な非組換え酵母細胞の集団を形成する種に依存したものであることは当業者であればわかるだろう。適当な酵母種の例としてはS.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevil)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)が含まれる。典型的には、その株はS.セレビシエ種である。典型的には、その株は同種のサッカロマイセスと接合することができるだろう。典型的には、その株はサッカロマイセス.セレビシエと接合することができるだろう。
【0024】
酵母細胞間でDNAが結合できるような任意の条件下で酵母は培養されてよい(但し、DNAの結合は組換え手法によらない)。例えば、接合、もしくは細胞誘導、あるいは組換え手法以外の酵母細胞のDNAのための知られている他の任意の方法によって、酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で酵母細胞は培養されてよい。一実施形態において、酵母細胞が接合できる条件下で酵母細胞は培養される。典型的には、酵母の接合は酵母に胞子形成させること、胞子を発芽させること、発芽胞子を接合させることを含む。酵母の接合方法は当業者に知られており、また、例えばFowell (1969) “Sporulation and hybridization of yeast”「The Yeasts」、 (AH Rose and JS Harrison、編).、Academic Press、ヨーロッパ特許 EP 0 511 108、Attifield and Bell (2003) “Genetics and classical genetic manipulations of industrial yeasts” (Topics in Current Genetics、第2巻、Functioal Genetics of Industrial Yeasts )、J.H. de Winde、 編.)、Sprinnger-Verlag Berlin Heidelberg又はそれらの組み合わせに記載されている。
【0025】
遺伝的多様な非組換え酵母細胞の集団は任意のソース由来のサッカロマイセスの天然分離株、サッカロマイセスの自然突然変異分離株であってよく、または一つ以上のサッカロマイセス株を変異原に曝すことによって得られてもよい。遺伝的多様な非組換え酵母細胞の集団は単一の種から由来した株であってもよいし、あるいは、複数の種から由来した株であってもよい。非組換え酵母細胞の遺伝的多様な集団として用いるのに適している種としてはS.セレビシエ、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevii)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)が含まれる。典型的には、その株はS.セレビシエ種である。典型的には、その株は同種のサッカロマイセスと接合することができる。典型的には、その株はサッカロマイセス.セレビシエと接合することができる。
【0026】
遺伝的に分岐した非組換え酵母細胞の集団に加えて、別の集団として組換え酵母細胞が工程(b)と(c)に含まれてよいことは当業者ならわかるだろう。
【0027】
第3の側面として、本発明は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有するサッカロマイセス株の派生株の生産方法であって、以下を含む方法を提供する。
(a)サッカロマイセスの遺伝的に多様な酵母細胞の集団の一部分として該株の酵母細胞を準備する;
(b)集団の酵母細胞間でDNAの結合が生じうる条件下で、サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を培養する;
(c)キシロース上で増大した生育速度を有する該株の派生株を目的として、酵母細胞をスクリーニングまたは選択する;
(d)生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用する該株の生育速度と比べて、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する一つ以上の該株の派生株を単離する。
【0028】
酵母細胞は典型的には、キシロース含有培地上もしくは該培地中で酵母細胞を培養することでスクリーニングまたは選択される。
【0029】
一実施形態において、酵母細胞は工程(c)で選択される。唯一の炭素源としてキシロース上で生育できる酵母細胞が炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地上もしくは該培地中で酵母細胞を培養することによって、酵母細胞は工程(c)で選択されてよい。唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞が炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地上又は該培地中で酵母細胞を培養することによって、酵母細胞は工程(c)で選択されてよい。
【0030】
別の実施形態において、酵母細胞は工程(c)でスクリーニングされる。唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞が炭素源としてキシロースを利用して生育できる充分な時間、キシロース含有培地上又は該培地中で酵母細胞を培養し、その後炭素源としてキシロースを利用して最も速く生育する酵母細胞を集めることで、酵母細胞は工程(c)でスクリーニングされてよい。
【0031】
工程(b)と(c)は典型的には、一つ以上の派生株が生育のための唯一の炭素源としてのキシロース上で増大した生育速度を獲得するまで、反復して行うことができ、それにより、該派生株は遺伝的に多様なサッカロマイセス株の集団の少なくとも一部分を形成する。
【0032】
過去、サッカロマイセス セレビシエがキシロースを利用できないという問題を解決するために、他の者は組換えDNA手法を用いて、炭素源としてキシロースを資化できるような酵母から得た遺伝子を導入し、サッカロマイセスにキシロースを資化できる能力を付与してきた (例えばSonderegger and Sauer (2003) Applied and Environmental Microbiology 69: 1990-1998)。このようなアプローチにおいて、キシロース資化のための遺伝子をキシロースを生育に利用することができる生物からクローンした後にサッカロマイセス セレビシエに導入してきた。例えば、ピロマイセス種(Piromyces spp)由来の菌類キシロースイソメラーゼをサッカロマイセス セレビシエのゲノムに組込んで、唯一の炭素源としてのキシロース上でゆっくりと生育することができる株が作成されている(Kuyper他2003)。また、ピキア スチピキス(Pichia stipitis)由来のキシロース還元酵素をサッカロマイセス セレビシエにクローン化して、生育のための唯一の炭素源としてのキシロースを資化できる酵母が作成されている(Wahlbom他2003)。
【0033】
非組換え体のサッカロマイセス セレビシエは「一般的に安全とみなされている」(GRAS)、そして仮に組換え技術を用いてキシロースを資化できるサッカロマイセス セレビシエを開発すれば、それはGRASではない。それゆえに、他の属や種由来の遺伝子を内包したり、DNA組換え技術を用いて生み出されたサッカロマイセス セレビシエ株を用いることは、必ずしも産業的又は経済的に有用で、望ましく、あるいは適切であるとは限らない。実際、組換えDNAにより作製された株は、そのような株の使用に対して社会政策的または環境政策的あるいはその他の障壁があるような場所では産業的に有用ではない。
【0034】
DNA組換え技術の利用は人類の食料分野等において酵母を利用する機会や望ましさを減らしてしまうが、他方非組換え株は人類の食料分野等において有利に用いることができるだろう。エタノールと人類の食料を同時目的として非組換え酵母を用いることができれば、酵母を基礎とした過程の費用効果に改善の機会を与える。例えば、非組換え酵母はキシロースをエタノールと酵母バイオマスに換えるために用いることができる。エタノールは燃料や他の用途に用いることができる一方、産生された酵母は抽出物や他の副産物の製造のような価値ある用途に用いられうる。
【0035】
本発明者らは、唯一の炭素源としてキシロースを含む培地上でサッカロマイセスの非組換え野生型株を培養すると、キシロース上で非常にゆっくりと生育することを発見した。このことはサッカロマイセスがキシロースで生育できないことをはっきり示していた先行技術と相反するものである。本発明者らはキシロースによるサッカロマイセスの生育があまりに遅い為に、以前は検知することができなかったと確信している。ここで述べるように、本発明者らは唯一の炭素源としてキシロースを含む固形の最小無機塩培地にサッカロマイセス セレビシエの野生型株を接種して、30度、2ヶ月間の培養後に顕微鏡のよるコロニー試験をしたら、生育を検知できることを見出した。生育が検知できたことで、非組換え方法を生育速度が増大した酵母を得るために用いることができるようになったが、観察されたような非常に遅い生育速度では産業上の有用性はない。
【0036】
本発明者らはサッカロマイセスが唯一の炭素源としてキシロース上で非常にゆっくり生育するという本発明者らの発見を、本発明の方法が用いられなかったサッカロマイセス株よりもキシロースを唯一の炭素源として、ずっと速い速度で生育しうるサッカロマイセス株の開発にまで広げた。本発明者らの発見以前は、キシロースはサッカロマイセスにとって利用できない炭素源と見られていたためサッカロマイセス酵母細胞を唯一の炭素源としてキシロースを含む培地上または該培地中で培養してもその培地では生育しないと考えられており、いかなる選択やキシロースで生育することができる酵母細胞富化を生じさせることできるとは考えられていなかった。それにもかかわらず、本発明者らの発見と選択戦略の組み合わせとサッカロマイセスの遺伝的に多様な株、適切にはサッカロマイセス セレビシエ株の集団の接合のような方法を用いることによって、本発明者らは本発明方法が用いられなかったサッカロマイセス株よりもずっと速い速度で唯一の炭素源としてキシロースを含む固形培地上や液体培地中で生育しうるサッカロマイセス株を作製することができることを見出した。 さらに、本発明者らは選択戦略とサッカロマイセスの遺伝的に多様な株の接合のような方法をとることによって、炭素源としてキシロースのみを用いて48時間で少なくとも一世代、およびいくつかの有利な実施形態では4時間で一世代超の生育速度を持つサッカロマイセス株を作製できることを見出した。このように非組換え手法を用いることで、本発明者らは炭素源としてキシロースのみ含む液体培地中においても固形培地上においても、産業上有用な速度で生育することができるサッカロマイセス株を作成することができた。
【0037】
第4の側面において、本発明は発明の第一から第三までの側面の方法により得られるサッカロマイセス株を提供する。
【0038】
第5の側面において、本発明は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間で少なくとも一世代の生育速度能力がある単離されたサッカロマイセス株を提供し、その株は以下を生産する:
(i) 試験T1に特定される条件下で生育された場合、5倍に増大したバイオマス;および
(ii) 試験T2に特定される条件下で生育された場合、少なくとも10mg乾燥重量のバイオマス、そしてその株は第一から第三までの側面の方法により生産される。
【0039】
第6の側面において、本発明は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間で少なくとも一世代の生育速度能力がある単離されたサッカロマイセス株を提供するものであって:
(i)その株は 試験T1に特定される条件下で生育された場合、10倍に増大したバイオマスを生産する;および
(ii) その株は試験T2に特定される条件下で生育された場合、少なくとも50mg乾燥重量のバイオマスを生産する;および
(iii) 試験T3に特定される条件下で少なくとも0.1 g/lのエタノールが検出される;および
(iv) 試験T4に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される;および
(v) 試験T5に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化され、そしてその株は第一から第三までの側面の方法により生産される。
【0040】
第7の側面において、本発明は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間で少なくとも一世代の生育速度能力がある単離されたサッカロマイセス株を提供するものであって:
(i)その株は 試験T1に特定される条件下で生育された場合、少なくとも5倍に増大したバイオマスを生産する;および
(ii) その株は試験T2に特定される条件下で生育された場合、少なくとも40mg乾燥重量のバイオマスを生産する;および
(iii) 試験T4に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される;および
(iv) 試験T5に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される;および
(v) その株は 試験T7に特定される条件下で生育された場合、少なくとも5倍のバイオマスを生産する;および
(vi) 試験T8に特定される条件下で少なくとも0.04 g/lの濃度のエタノールが検出され、そしてその株は第一から第三までの側面の方法を用いて生産される。
【0041】
第4の側面から第7の側面の一実施形態において、株は試験T9に特定される条件下で4ヶ月の期間内に少なくとも0.2 g/Lのエタノールを生産する。
【0042】
第8の側面において、本発明は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間で少なくとも一世代の速度で生育しうる単離されたサッカロマイセス株を提供し、その株の唯一の炭素源としてキシロースを利用する能力は非組換え手法により得られるものである。
【0043】
その株の生育速度は48時間当たり少なくとも一世代であればいかなる速度であってもよい。生育速度が36時間当たり少なくとも一世代であってよい。生育速度が24時間当たり一世代超であってよい。生育速度が12時間当たり一世代超であってよい。生育速度が10時間当たり一世代超であってよい。生育速度が8時間当たり一世代以上であってよい。生育速度が6時間当たり一世代超であってよい。生育速度が4時間当たり一世代超であってよい。生育速度が2時間当たり一世代超であってよい。生育速度が80分当たり一世代超であってよい。
【0044】
一実施形態において、該株は、生育のための唯一の炭素源としてグルコースを用いる株の生育速度と実質的に同一の速度で、唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育できる。
【0045】
一実施形態において、その株はキシロース最小無機塩培地上で48時間で少なくとも一世代の生育速度を持つ。
【0046】
一実施形態において、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合2倍に増大したバイオマスを生産する。典型的には、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合少なくとも5倍に増大したバイオマスを生産する。適切な場合は、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合少なくとも10倍に増大したバイオマスを生産する。
【0047】
一実施形態において、その株は試験T2で特定される条件下で生育された場合培養液50ml当たり少なくとも0.01g乾燥重量のバイオマスを生産する。
【0048】
様々な実施形態では、
(i) その株は試験T4で特定される条件下で少なくとも1ユニットのキシロース還元酵素活性を持つ非組換え酵素を発現する。
【0049】
(ii) その株は試験T5で特定される条件下で少なくとも1ユニットのキシリトールデヒドロゲナーゼ活性を持つ非組換え酵素を発現する。
【0050】
(iii) その株は試験T4で特定される条件下で少なくとも1ユニットのキシロース還元酵素活性を持つ非組換え酵素を発現し、かつ試験T5で特定される条件下で少なくとも1単位のキシリトールデヒドロゲナーゼ活性を持つ非組換え酵素を発現する。
【0051】
第9の側面において、本発明は、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間で少なくとも一世代の速度で生育することができ、キシロース還元酵素とキシリトールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される活性を有する非組換え酵素を発現し、キシロース還元酵素活性は試験T4で測定すると、少なくとも1単位であり、そのキシリトールデヒドロゲナーゼ活性は試験T5で特定される条件下で測定すると、少なくとも1単位である、単離されたサッカロマイセス株を提供する。
【0052】
その株はキシロース還元酵素活性をもつ非組換え酵素およびキシリトールデヒドロゲナーゼ活性をもつ非組換え酵素を発現することができてもよい。一実施形態において、その株はキシロース還元酵素とキシリトールデヒドロゲナーゼからなる群より選択された活性を有する一つ以上の非組換え酵素に加えて、キシルロースキナーゼ活性をもつ非組換え酵素を発現することができる。典型的には、キシルロースキナーゼ活性は試験T6で測定すると少なくとも5ユニットである。
【0053】
典型的には、第9の側面の株は唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間に少なくとも一世代の生育速度を有する。
【0054】
一実施形態において、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合2倍に増大したバイオマスを生産する。典型的には、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合少なくとも5倍に増大したバイオマスを生産する。さらに典型的には、その株は試験T1で特定される条件下で生育された場合少なくとも5倍に増大したバイオマスを生産する。
【0055】
その株は試験T2で特定される条件下で少なくとも10mg乾燥重量のバイオマスを生産してもよい。その株は試験T2で特定される条件下で少なくとも30mg乾燥重量のバイオマスを生産してもよい。その株は試験T2で特定される条件下で少なくとも40mg乾燥重量のバイオマスを生産してもよい。典型的には、その株は試験T2で特定される条件下で少なくとも50mg乾燥重量のバイオマスを生産してもよい。
【0056】
その株は試験T2で特定される条件下で生育された場合培養液50ml当たり少なくと0.01g乾燥重量のバイオマスを生産してもよい。
【0057】
サッカロマイセス株はさらに生育のための唯一の炭素源としてキシリトールを用いることができるものであってもよい。典型的には、その株が唯一の炭素源としてキシリトールを資化する能力は非組換え手法により得られる。一実施形態において、その株は試験T7で特定される条件下で生育された場合少なくとも5倍に増大したバイオマスを生産する。
【0058】
サッカロマイセス株は唯一の炭素源としてキシロースを用いて好気的または嫌気的生育であってよい。典型的には、生育は好気生育である。しかし、サッカロマイセス株は唯一の炭素源としてキシロースを用いて嫌気的にあるいは微好気的にも生育してもよい。
【0059】
サッカロマイセス株は嫌気条件下においてグルコースで生育することができてもよい。
【0060】
サッカロマイセス株はさらにキシロース資化して、一つ以上の炭素化合物を生産することができてもよい。炭素化合物の適当な例としてはアルコール、キシリトール、酢酸のような有機酸、グリセロール、二酸化炭素、または酵母抽出物、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、RNA、ヌクレオチド、グルカン等を含む他の酵母の成分、代謝物および副産物が挙げられる。典型的には、アルコールはエタノールである。
【0061】
その株はキシロース上で生育するときにエタノールを生産してよい。その株はキシロース上で生育することなく、キシロースを用いてエタノールを生産してよい。その株はキシロースからエタノールを生産してよい。典型的には、その株はキシロースを発酵させ、エタノールを生産する。
【0062】
その株は試験T3で特定される条件下で少なくとも0.1g/Lの濃度でエタノールを生産してよい。
【0063】
その株は試験T8で特定される条件下で少なくとも0.4g/Lの濃度でエタノール生産してよい。
【0064】
その株は試験T9に特定される条件下で4ヶ月の期間内に少なくとも0.2g/Lのエタノールを生産してよい。
【0065】
その株はキシロース含有最小無機物培地に少なくとも5x10
8個 /mlの細胞密度で接種された場合、少なくとも0.5g/Lのエタノールを生産してよい。キシロース含有最小無機物培地はグルコースを含んでいてもよい。典型的には、その株は培地に接種されてから5時間以内に0.5g/Lのエタノールを生産する。
【0066】
一実施形態において、その株は試験T3で特定される条件下でキシロースを発酵させて少なくとも培養液1L当たり0.05gのエタノールを生産する。
【0067】
その株は唯一の炭素源としてキシロースを資化して、固形培地上及び/または液体培地中で生育することができてもよい。一実施形態において、その株は唯一の炭素源としてキシロースを含有する液体培地中で生育できる。その液体培地は唯一の炭素源としてキシロースを含有する液体無機物培地であってよい。
【0068】
そのサッカロマイセス株はサッカロマイセス属の任意の種由来の株であってよい。適当な酵母種の例としては、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevii)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)が含まれる。典型的には、その種はサッカロマイセス セレビシエである。典型的には、その株は同種のサッカロマイセスと接合することができるだろう。典型的には、その株はサッカロマイセス セレビシエと接合することができるだろう。典型的には、その株はサッカロマイセス セレビシエである。
【0069】
第8および第9の側面の実施形態では、そのサッカロマイセス株は組換え体である。
【0070】
第10の側面において、本発明は試験T1で特定される条件下で少なくとも2倍に増大したバイオマスを生産する単離された非組換えサッカロマイセス株を提供する。
【0071】
一実施形態において、バイオマスの増大は少なくとも5倍、典型的には、少なくとも10倍である。
【0072】
第11の側面において、本発明は以下の特徴を持つ単離された非組換えサッカロマイセス株を提供する:
(a) 試験T1に特定される条件下で、その株のバイオマスは少なくとも5倍に増大する;
(b) 試験T2に特定される条件下で、少なくとも10mg乾燥重量のバイオマスが生産される。
【0073】
第12の側面において、本発明は以下の特徴を持つ単離された非組換えサッカロマイセス株を提供する:
(a)その株は試験T1に特定される条件下で、その株のバイオマスは少なくとも10倍に増大する;
(b)その株は試験T2に特定される条件下で、少なくとも50mg乾燥重量のバイオマスが生産される;
(c)試験T3に特定される条件下で少なくとも0.1 g/Lの濃度のエタノールが検出される;
(d)試験T4に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される;および
(e)試験T5に特定される条件下、30℃で、タンパク質抽出物1mg、1分当たり少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される。
【0074】
第13の側面において、本発明は以下の特徴を持つ単離された非組換えサッカロマイセス株を提供する:
(a)その株は試験T1に特定される条件下で、その株のバイオマスは少なくとも5倍に増大する;
(b)その株は試験T2に特定される条件下で、少なくとも40mg乾燥重量のバイオマスが生産される;
(c)その株は試験T7に特定される条件下で、その株のバイオマスは少なくとも5倍に増大する;
(d) 試験T8に特定される条件下で少なくとも0.04 g/Lの濃度のエタノールが検出される;
(e) 試験T4に特定される条件下で30℃、タンパク質抽出物1mg、1分当たりで少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される;および
(f) 試験T5に特定される条件下で30℃、タンパク質抽出物1mg、1分当たりで少なくとも1nmolのNAD(P)Hが還元または酸化される。
【0075】
生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間に少なくとも一世代の速度で生育しうるサッカロマイセス株の適切な例としては、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づきthe Australian Government Analytical Laboratories, 1 Suakin Street, Pymble, NSW 2073, Australiaに寄託番号NM04/41257、NM04/41258、NM05/45177 (ISO 10)及びNM05/45178 (ISO 7)で寄託された株が挙げられる。寄託番号NM04/41257、NM04/41258は2004年5月12日に寄託されたものである。寄託番号NM05/45177、NM05/45178は2005年5月16日に寄託されたものである。
【0076】
サッカロマイセス株は、ここに記載されたような、唯一の炭素源としてキシロースを資化する能力が非組換え手法によって得られるような任意の手段によって得られてよい。その株を得るためにとられうる方法は、自然選択、接合手法、突然変異誘発あるいは当業者に知られており、例えば、Attfield and Bell (2003) "Genetics and classical genetic manipulations of industrial yeasts"、 「Topics in Current Genetics」、 第二巻Functional Genetics of Industrial Yeasts (J. H. de Winde編)、Springer-Verlag Berlin Heidelbergにおいて議論されたり言及されている他のいわゆる古典的遺伝学的手法またはそれらの組み合わせの組み合わせが含まれうる。
【0077】
唯一の炭素源としてキシロースを用いて48時間に少なくとも一世代の速度で生育できる能力は、典型的には、サッカロマイセス株間で接合させることと、唯一の炭素源としてキシロースを用いて増大した生育速度を目的としてスクリーニングまたは選択することで得られる。
【0078】
例えば、その株は性的に適合したサッカロマイセス株間で接合体をrare matingもしくはdirected matingもしくはmass matingを行わせた後、唯一の炭素源としてキシロースを資化できる株を選択することで得られてよい。その株はサッカロマイセスの一つ以上の天然分離株、自然発生突然変異分離株に由来するか、あるいは、一つ以上のサッカロマイセス株を突然変異源に曝すことにより得られるものであってよく、その後で接合及び選択戦略に用いられ、唯一の炭素源としてキシロースを資化することができる変異株を得るべくスクリーニングまたは選択される。得られた株はここに記載されたいずれかの選択方法によって選択されてよい。
【0079】
第14の側面において、本発明は第4から第13の側面までの株の派生株を提供する。
【0080】
酵母の派生株の作成方法は当該分野でよく知られており、他の酵母株との接合や細胞融合、突然変異誘発、及び/または組換え手法が含まれる。
【0081】
第15の側面において、本発明は酵母バイオマスの産生における第4から第15の側面のサッカロマイセス株、または第14の側面の派生株の使用を提供する。酵母バイオマスは、例えば製パン業においてバイオマス製品を目的として使われてよい。
【0082】
第16の側面において、本発明はキシロースからのエタノール生産のための第4から第13の側面のサッカロマイセス株、または第14の側面の派生株の使用を提供する。
【0083】
第17の側面において、本発明は、株がキシロースを発酵してエタノールを生産できるような条件下において、キシロース含有培地を用いて第4から第13の側面のサッカロマイセス株、あるいは第14の側面の派生株を培養することを含むエタノール生産のための方法を提供する。
【0084】
第18の側面において、本発明は、株が生育のための炭素源としてキシロースを用いて生育できるような条件下において、キシロース含有培地を用いて第4から第13の側面のサッカロマイセス株、あるいは第14の側面の派生株を培養することを含むキシロースの酵母バイオマスへの変換方法を提供する。
【0085】
第19の側面において、本発明は、キシロース含有培地上若しくは該培地中でサッカロマイセス株を生育することを含む酵母バイオマス生産方法であって、酵母バイオマスの少なくとも一部が生育のための炭素源としてキシロースを利用して生産される方法を提供する。
【0086】
第20の側面において、本発明は、サッカロマイセス株由来の化合物の生産方法であって、化合物を生産できる条件下でキシロース含有培地上または培地中でサッカロマイセス株を培養することを含み、該化合物は炭素源としてキシロースを利用して該株によって生産される、方法を提供する。
【0087】
一実施形態において、その化合物は炭素源としてキシロースを用いて生育している間、その株によって生産される。
【0088】
一実施形態において、その方法は化合物を回収するさらなる工程を含む。
【0089】
その化合物はサッカロマイセス株によって生産されうる任意の化合物であってよい。適当な化合物の例としてはエタノール、二酸化炭素、酵素、組換え酵素、組換えタンパク質、酵母副産物、ビタミン、ヌクレオチド、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、脂質、酵母タンパク質、キシリトールが含まれる。
【0090】
酵母細胞の生育はバイオマスを生み出し、それゆえに生育につながるどんな方法もバイオマスの生産につながることは当業者に理解されるだろう。例えば、キシロース含有培地上で生育することから得られるエタノール生産は付加的にバイオマスを生み出すだろう。一実施形態において、化合物はバイオマスの中の酵母細胞内に含まれており、その化合物は酵母細胞から化合物を抽出するための当該分野でよく知られている方法を用いて酵母細胞から回収されてよい。
【0091】
第21の側面において、本発明は第18の側面の方法により生産される化合物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】
図1は発明方法を適用した後に長期にわたってサッカロマイセス セレビシエ株集団の平均倍加時間のプロットを示している。
【0093】
発明の詳細な説明
本発明の実施には、他に表示がなければ、伝統的微生物学であり古典的遺伝学を用いる。そのような技術は当業者に知られており、文献中で充分に解説されている。例えば、Sherman他"Methods in Yeast Genetics" (1981) コールドスプリングハーバー研究所マニュアル、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク;ヨーロッパ特許番号 EP 0 511 108 Bを参照。
【0094】
ここで用いられている専門用語は特別な実施形態例を述べることを目的としているだけであって、添付した請求項によってのみ限定されるだろう本発明の範囲を限定する意図はないと理解されるべきである。ここや添付した請求項で用いられている単数形の‘a’、‘an’そして‘the’ははっきりと文脈でそれ以外であることを示しているのでなければ、複数形も含むことには注意しなければならない。例えば、‘a cell’と述べることは‘cells’のような複数形も含む。それ以外であることが定められていない場合は、ここで用いられている全ての技術的あるいは科学的用語はこの発明が属する技術分野において通常の能力を持つものによって共通の意味として理解されるものである。ここで述べられているものと類似または同一のいかなる材料及び方法も本発明を実施または試験するために用いることができるけれども、望ましい材料および方法は今述べられている。
【0095】
ここで言及されたすべての出版物はその出版物で報告されたり、あるいは発明との関連性の中で用いられている手順や試薬を述べたり、開示したりする目的で挙げられている。本発明は先行技術に基づいてそのような開示を予期する資格がないことを是とするとみなされるべきではない。
【0096】
キシロースは安価で、再生産可能な資源から得られ、そして大量に入手できる糖である。キシロースはヘミセルロース性植物バイオマスの重要な部分に相当する。植物バイオマスには農業廃棄物、紙廃棄物、木材チップ等が含まれ、再生可能であり、安価に大量に利用できるものである。キシロースはキシランとヘミセルロースとして知られている重合体としてヘミセルロース性植物バイオマスに主に存在している。キシロース重合体は酸加水分解のような化学的手法やキシラナーゼのような酵素を使った酵素的手法のいずれかによって簡単に単糖類に分解することができる。例えば製紙産業においては、キシロースはごみの流れのなかでは主要な糖類の一つである。そこではそれは生化学的酸素要求量に寄与し、それによって排水処理を環境的に難しくしている。広葉樹から生産される紙1キロあたり、通常、糖は100g産生されて、そのうち35gはキシロースである。その豊富さから、キシロースは酵母バイオマスとエタノールのような酵母代謝の副産物を生み出すための主要な潜在的炭素源を与えている。
【0097】
ある側面では、唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できるサッカロマイセス株が提供される。本発明者らは組換えDNA技術を用いる必要なく、唯一の炭素源としてキシロースを利用して比較的早く生育できるサッカロマイセス株を得ることができることを見出した。以前はサッカロマイセス株はキシロースを唯一の炭素源として生育できないと信じられていたことからは、これは予想外の結果である。本発明までは、唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できるサッカロマイセス株は、キシロースで生育できる他の生物由来のクローン化されたキシロース資化遺伝子をサッカロマイセス株に導入することによってのみ得られていた。もう一つの方法として、組換え技術を用いてクローン化されたサッカロマイセス遺伝子プロモーターとクローン化されたサッカロマイセスDNA配列とを人為的組み合わせを起こしてサッカロマイセス株に導入することで生み出されてきた。このように、本発明以前は唯一の炭素源としてキシロースを利用することができるサッカロマイセス株を得ることはキシロースで生育できる他の生物由来のキシロース利用遺伝子をクローン化して、サッカロマイセス株に導入するか、あるいは、DNA組換え技術を用いて、強力なサッカロマイセス遺伝子プロモーターを他のサッカロマイセスDNA配列に機能的につなげて、サッカロマイセス株に導入しなければ、不可能であった。
【0098】
本発明以前は、サッカロマイセス属由来の非組換え酵母は唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できなかった。米国特許番号4,511,656はキシロース含有培地で培養するとエタノールを産生しうる非組換え酵母変異体であるATCC番号20618の酵母株を開示している。しかし、ATCC20618はサッカロマイセス属由来ではない。ATCC番号20618の形成するコロニーの形態はサッカロマイセスの形成するコロニーと一致しない。ATCC番号20618は胞子形成しないし、サッカロマイセス.セレビシエの標準株とも接合しないしさらに、ATCC番号20618のITS領域やヒストンH3-H4の遺伝子間領域の配列決定により、それがサッカロマイセス属のものではなく、Candida tropicalisと密接に関連していることが明らかになっている。従って、アATCC20618はKurtzman (2003) FEMS Yeast Research 4: 233-245やここで定義されているように、サッカロマイセスとは系統発生的に遠い。Candida tropicalisはキシロースを資化することがよく知られている。加えて、米国特許番号4,511,656で開示される変異株は生育培地に酵母抽出物や麦芽抽出物、ペプトンのような生育栄養素があれば、エタノールを生産することのみが示されていた。これらの生育栄養素はキシロースにに対する代替的発酵性炭素源を提供する。このように、米国特許番号4,511,656は唯一の炭素源としてキシロースで生育し、発酵させることができるサッカロマイセス株を開示していない。
【0099】
さらに米国特許番号4,511,656はキシロースでコロニーを作るがキシリトールでは作れない、エタノールを産生できる酵母が選択されていることを教示している。理論にしばられることなく、本発明者らは米国4,511,656の教示とは反対に、キシロース資化の中間体であるキシリトールの代謝が、キシロースでの生育やキシロースからのエタノール生成に有利であると予測されるだろうと信ずる。
【0100】
本発明者らは先行技術の教示とは反対に、サッカロマイセス株は唯一の炭素源としてキシロースで非常にゆっくりと生育できることだけでなく、クローン化されたキシロース資化遺伝子を導入することなく、唯一の炭素源としてキシロースを利用して生育する速度を上げることができることを見出した。
【0101】
ある側面では、唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できる単離されたサッカロマイセス株が提供される。ここで用いられているようにサッカロマイセス株は、Kurtzman (2003) FEMS Yeast Research 第4巻233-245頁によって定義されたサッカロマイセス属の株である。
【0102】
ここで用いられているように、「生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できる」の表現は、48時間で少なくとも1世代の増殖速度を得るために、エネルギー生産及び株の生育に必要な分子の合成のための唯一の炭素源としてキシロースを利用できる株を意味する。「一世代」という専門用語は当業者なら明らかであり、細胞分裂の1周期を意味する。その株は、好ましくは、キシロースが唯一の炭素源である固形または液体培地で生育できるだろう。唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できる株は、キシロースが唯一の炭素源である固形最小無機物培地上または液体最小無機物培地中で生育できるであろうことは当業者なら理解できるだろう。適切な液体培地の例としてはアミノ酸を除外した市販のDIFCO Laboratories Yeast Nitrogen Base(炭水化物やアミノ酸の源を除いた酵母の生育に必要な全ての必須無機塩類とビタミンを含んでいる)に0.01%から50%、典型的には1%から10%、適切には5%のキシロースを添加したものである。典型的には、固形培地とは寒天のようなゲル化剤の添加によって固形化された液体培地である。唯一の炭素源としてキシロースを利用して生育することができる株は他の多くの糖類でも生育できることは当業者なら理解できるだろう。
【0103】
唯一の炭素源としてキシロースを資化するその株の能力は非組換え手法により得られる。ここで使われているように、「非組換え手法」の表現はサッカロマイセス株にキシロースを資化する能力を生み出すための組換えDNA技術を利用しない任意の方法を言う。言い換えれば、生育のためにキシロースを資化するような能力をその株に与える遺伝子は組換え手法を用いてその株に導入されていない。ここで使われているように、「組換え手法」とは1つ以上の遺伝子が組換えDNA技術を用いて生物に導入される手法である。ここで使われているように、組換えDNA技術とは遺伝子が生物から単離されクローン化される場合のように、遺伝情報がin vitroに操作される技術を言う。従って非組換え手法とはin vitroな遺伝情報の操作を含まない手法である。非組換え株とは組換え核酸が導入されていない株である。
【0104】
非組換え手法としては例えば、突然変異誘発、古典的接合、細胞誘導、原形質融合のような細胞融合、あるいはそれらの組み合わせが含まれてよい。非組換え手法は、典型的には、遺伝的に多様な酵母細胞を唯一の炭素源としてのキシロースを利用して増大した生育速度を有する酵母細胞を選択するために充分な時間、キシロース含有培地上もしくは該培地中で培養することによって、in vivoに酵母細胞間でDNAが結合できる条件下でサッカロマイセスの遺伝的に多様な酵母細胞の集団を培養すること、および唯一の炭素源としてのキシロースを利用して増大した成育速度を有する酵母細胞を目的として、スクリーニングまたは選択することを含んでよい。
【0105】
サッカロマイセス株が唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育する能力を与える遺伝的情報は、サッカロマイセス属から得られていることは当業者には理解されるだろう。言い換えれば、48時間に少なくとも1世代の速度で生育するのに必要な遺伝的情報のすべてはサッカロマイセス属の遺伝子プールの中から得られているのである。典型的には、サッカロマイセス株が生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育する能力を与える遺伝的情報は、非組換えサッカロマイセス株の遺伝的に多様な集団から得られている。上記したように、本発明以前は、サッカロマイセス属の遺伝子プールは生育のために唯一の炭素源としてキシロースを資化する能力を与えるような遺伝的情報を含んでいないと考えられていた。
【0106】
別の側面では、唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の速度で生育できる能力を持ち、そしてキシロース還元酵素とキシリトールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される活性を有する非組換え酵素を発現することができる単離されたサッカロマイセス株が提供される。その酵素はキシロース還元酵素については試験T4で、キシリトールデヒドロゲナーゼについては試験T5で測定すると、少なくともユニットの酵素活性を有する。試験T4およびT5は本明細書中で定義されている。一実施形態において、キシロース還元酵素活性は少なくとも1.5ユニットであり、適切な場合には、少なくとも3ユニットである。一実施形態において、キシリトールデヒドロゲナーゼは少なくとも5ユニットであり、適切な場合には、少なくとも8ユニットである。
【0107】
また、唯一の炭素源としてキシロースを利用して望ましい生育速度で生育できるサッカロマイセス株の生産方法が提供される。「望ましい生育速度」とは本発明に係る方法を用いる前のサッカロマイセス酵母細胞の生育速度より大きい任意の生育速度であってよい。望ましい生育速度は、唯一の炭素源としてのキシロース上のサッカロマイセス セレビシエのNL67株の生育速度より大きいだろう。望ましい生育速度は48時間で少なくとも1世代、より適切な場合には24時間で1世代超、さらに適切な場合には12時間で一世代超、典型的な場合は10時間で一世代超、さらに典型的な場合には8時間で一世代超、そしてグルコース上でのサッカロマイセスの生育速度と同じ80分に大体一世代であってよい。
【0108】
その方法はサッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を準備することを含む。ここで用いられているように、「遺伝的に多様な非組換え酵母細胞」の表現は、異なった遺伝子型を持つ少なくとも2種類の非組換え酵母細胞をさす。遺伝的に多様な非組換え酵母細胞は野生型、ワインや蒸留やビール発酵、パン用、他の任意のサッカロマイセスソースから得られる異なったサッカロマイセス株の酵母細胞の混合であってもよい。サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団は胞子形成されて、遺伝的に多様な子孫へ派生する単一株に由来してもよい。サッカロマイセスの非組換え酵母細胞の遺伝的に多様な集団は例えば紫外線、X線、ガンマ線、エチルメタンスルホン酸、ニトロソグアニジン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、あるいはDNA塩基配列に変化を引き起こす他の任意の試薬のような物理的又は化学的な変異原に曝されてきたサッカロマイセス株の一つ以上の酵母細胞を含んでよい。すなわち、遺伝的に多様な非組換え酵母細胞は突然変異誘発によって生み出されてきた株の酵母細胞をその範囲に含む。酵母の突然変異誘発の手法、特にサッカロマイセス セレビシエの突然変異誘発は当業者に知られており、例えば、Sherman他"Methods in Yeast Genetics" (1981) コールドスプリングハーバー研究所マニュアル、コールドスプリングハーバー、ニューヨークに記述されている。サッカロマイセスの非組換え酵母細胞の遺伝的に多様な集団はまた、自然突然変異を有する酵母細胞も含みうる。サッカロマイセスの非組換え酵母細胞の遺伝的に多様な集団は全て同じ種であってもよいし、あるいはサッカロマイセスの異なった種であってもよい。典型的には、異なった種はお互いの間で接合することができる。例えば、遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団はサッカロマイセス セレビシエの異なった株を含んでよいし、あるいは上記した源のいずれかから得られた他の任意のサッカロマイセス種を含んでよい。適当なサッカロマイセス種の例としてはS.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevii)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)が含まれる。典型的には、サッカロマイセスの非組換え酵母細胞の遺伝的に多様な集団は同種である。典型的には、その種はサッカロマイセス セレビシエである。遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団のための出発接種株を提供するのに用いられうるであろう酵母の例としては、American Type Culture Collection(ATCC)の例えばATCC4111、 ATCC26603、ATCC38559や、the National Collection of Yeast Cultures (NCYC)の例えばS.セレビシエNCYC995、NCYC996や、the Central Bureau voor Schimmel Cultures (CRBS)のS.セレビシエCBS745.95、CBS755.95、から単離されたような周知の培養収集機関から入手できるあるいはパン、醸造、ワイン、蒸留などのような伝統的処方して用いるために多数の会社で売られている市販酵母サッカロマイセス株を含む。
【0109】
サッカロマイセスの非組換え酵母細胞の遺伝的に多様な集団は酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で培養される。酵母細胞間のDNA結合は、その方法が組換え手法でないならば、少なくとも二つの酵母細胞からのDNAを結合するのに適した任意の方法によるものであってよい。酵母細胞のDNAを結合するのに適した方法の例としては接合そして細胞誘導が含まれる。ここで用いられているように、「接合」の用語は古典的遺伝学的交配方法、すなわちDirected Mating、 Mass Mating、 Rare Mating、細胞融合などによるものを含む、少なくとも二つの酵母細胞間DNAの交換と組換えの過程をいう。たとえば、古典的遺伝的交雑や細胞融合を用いて種内交雑または種間交雑を生み出すことができる。
【0110】
一実施形態において、酵母細胞は酵母細胞間で接合できるような条件下で培養される。典型的には、酵母細胞に胞子形成させて、その後発芽酵母を接合させることによって接合を起こすような条件下で酵母細胞は培養される。例えば、酵母細胞は
(a)酵母細胞に胞子形成させる;
(b)発芽酵母細胞を生み出させる;
(c)相補的接合型の発芽酵母細胞をハイブリダイズさせること
により接合されてよい。典型的には、酵母細胞は
(a)遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団をプールする
(b)プールした細胞に胞子形成させて、半数体細胞を作るために胞子を生み出させる
(c)ハイブリッド酵母細胞を作るために相補的接合型の半数体細胞をハイブリダイズさせる
ことによって接合される。胞子化、半数体の獲得、半数体交配によりハイブリッド型の酵母細胞を作る方法は当業者に知られており、例えばA.H. Rose and J. S. Harrison 編の"The Yeasts" 第1巻、 1969、Academic Pressに記載のR. R. Fowellによる、"Sporulation and Hybridisation of Yeast"第7章または EP 0 511 108 B.において述べられている。典型的には、接合は集団接合である。集団接合は少なくとも二つ、典型的な場合は数百万の異なった酵母細胞同士を相補的接合型間で接合が起こるような条件下で培養することを含む。集団接合の方法は、例えば、Higgins他 (2001)、Applied and Environmental Microbiology vol. 67、 pp. 4346-4348; Lindegren (1943)、 Journal of Bacteriology 第46巻 pp. 405-419において述べられている。
【0111】
別の実施形態では、酵母は細胞融合できるような条件下で培養される。細胞融合技術を用いた種内交雑または種間交雑を生み出す手法は、例えば、Morgan (1983) Experientia suppl. 46: 155-166; Spencer他 (1990) in、 Yeast Technology、 Spencer JFT and Spencer DM (編)、 Springer Verlag New Yorkにおいて述べられている。細胞融合手法は、例えば、Inge-Vechtomov他 (1986) Genetika 22: 2625-2636; Johnston (1990) in、 Yeast Technology、 Spencer JFT and Spencer DM (編 )、 Springer Verlag New York; Polaina et al. (1993) Current Genetics 24: 369-372において述べられている。
【0112】
生育のための唯一の炭素源としてキシロース用いて増大した生育速度を有する酵母細胞を目的として、酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。唯一の炭素源としてキシロース用いて増大した生育速度を有する酵母細胞を増やし、あるいは同定するため、酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。典型的にはキシロース含有培地上もしくは該培地中で酵母細胞を培養することによって、酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。生育のための唯一の炭素源としてキシロース用いて生育するための向上した能力を有する酵母細胞を目的として、酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。向上した能力とは、典型的には唯一の炭素源としてキシロース用いて望ましい生育速度への生育速度の向上である。生育速度の増大とは、酵母細胞間でDNAが結合できる条件下で酵母細胞を培養する前の細胞の生育速度と比べて酵母細胞の生育速度が増大することである。一実施形態において、酵母細胞は選択される。「選択される」や「選択する」といった用語は、望ましい生育速度で生育を目的として、唯一の炭素源としてキシロース用いて向上した能力を有する酵母細胞が集団のなかで優勢になっていく過程をいう。唯一の炭素源としてキシロースを用いることができる酵母細胞が炭素源としてキシロースを用いて生育する充分な時間キシロース含有培地上あるいは該培地中で培養し、その後生育した酵母細胞を集めることによって、酵母細胞は選択されてよい。ゆっくり生育する酵母が炭素源を用いて生育する充分な時間、酵母細胞を培養し、その後ゆっくりと生育する酵母細胞を含む酵母細胞を集めることによって、より速く生育する酵母細胞は集められた酵母細胞のなかでよりおおきな集団を形成し、それによって集められた酵母細胞のなかで優勢になるが、ゆっくりと生育する酵母細胞も含むことによって、酵母細胞集団の遺伝的多様性は実質的に維持されることを本発明者らは発見した。例えば、接合酵母細胞を唯一の炭素源としてキシロースを含む固形最小培地に接種することによって、唯一の炭素源としてキシロースをより速く資化できる細胞がより大きなコロニーを生み出し、結果として、それらの細胞が選択されて、望ましい遺伝子型が集団の中で優勢になる。しかしながら、より小さなコロニーを集めることによっても、工程(b)と(c)の次の反復のための集団の遺伝的多様性が実質的に維持される。このようにして、酵母細胞が炭素源としてキシロースを用いて生育する充分な時間キシロース含有培地上で酵母細胞を培養することで、キシロース上で増大した生育速度を有する酵母細胞を選択できるだけでなく、工程(b)と(c)のサイクルを繰り返すための集団の遺伝的多様性を維持することもできる。予め設定した期間内で炭素源としてのキシロースを用いて生育する酵母細胞のみが選択されるように、酵母細胞をキシロース含有培地で培養する時間を減らすことによって、高度な選択がなされてもよい。唯一の炭素源としてキシロースを用いて増大した生育速度を有する酵母細胞が炭素源としてキシロースを用いて生育する充分な時間、酵母細胞をキシロース含有培地上または中で培養し、その後生育した酵母細胞を集めることによって、このタイプの酵母細胞は選択されてもよい。このアプローチを使えば、増大した速度で生育する酵母細胞により大きな選択圧がかかるが、ゆっくりと生育する酵母細胞の一部が生育するには時間が不十分な可能性があるため、更に工程(b)と(c)を繰り返すため遺伝的多様性は幾分失われるかもしれない。
【0113】
別の実施例では、酵母細胞はスクリーニングされる。ここで用いられているように、「スクリーニングされる」や「スクリーニングする」の用語は、望ましい生育速度で生育を目的として、唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育するための向上した能力を有する酵母細胞がまず同定され、ついで実質的に単離される過程をいう。唯一の炭素源としてキシロースを用いて増大した生育速度を有する酵母細胞が炭素源としてキシロースを用いて生育する充分な時間キシロース含有培地上もしくは中で培養し、その後炭素源としてキシロースを用いて最も速く生育する酵母細胞を集めることによって、酵母細胞はスクリーニングされてよい。例えば、唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育するための向上した能力を有する酵母細胞が、より速く生育し、従って、唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育するための向上した能力を持たない酵母細胞よりも大きなコロニーを形成する細胞として、豊富なキシロースを含む培地上で同定されてもよい。プレート上に現れたより大きなコロニーは小さなコロニーよりも優先して単離され、その結果、望ましい生育速度を目的として、唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育するための向上した能力を有する酵母細胞が単離される。上記したように、典型的にキシロース含有培地上もしくは中で酵母細胞を培養することによって酵母細胞はスクリーニングまたは選択される。「キシロース含有培地」とはキシロースを含有する任意の培地であってよく、ほかの株よりもより効率的にあるいはより速く唯一の炭素源としてのキシロースを用いて速く生育するための向上した能力を有する酵母細胞に対して選択優位性を与える。ここで用いられている通り、「選択優位性」とはなんらかの特性、この場合はキシロースを用いて効率よく生育することができる能力のために、他の細胞や株よりもはるかにたくさん細胞分裂を行える細胞または株の能力を指す。このように、株に選択的優位性を与える培地は選択的優位性を与えないような培地に対する他の株と比べてその培地中その株をより速く生育させることができる。酵母は少なくとも一つの炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、微量元素、ビタミンを含む広範囲の培地で生育できることは当業者に知られている。キシロース含有培地は最小培地かあるいは複合培地であってもよい。一実施形態においては、キシロース含有培地は最小培地である。適当な最小培地は、例えば、DIFCO Yeast Nitrogen Base 法(Difco マニュアル "Dehydrated culture media and reagents for microbiology" 第10版、Difco Labs 1984参照)にキシロースを濃度0.1%から50%の間で、典型的には濃度2%から15%の間で、より典型的には濃度5%で加えたものを含んでよい。別の実施形態においては、キシロース含有培地は複合培地であってよい。複合培地におけるキシロースの濃度は0.1%から50%の間、典型的には2%から30%の間、より典型的には2%から15%の間であってよい。一実施形態において、複合培地は完全に栄養豊富な培地である。完全に栄養豊富な培地の例としては酵母抽出物を0.5%から2%、好ましくは0.5%、ペプトンを0.5%から2%、好ましくは1%、キシロースを0.5%から50%、典型的には2%から15%、より典型的には5%含む培地である。別の実施形態においては、複合培地は糖液、デンプン分解物、セルロースまたはヘミセルロースバイオマス分解物(バガス、まぐさ、木材パルプ、わら、古紙等)あるいはそれらの組み合わせからなる群から選ばれ、任意にキシロースおよび/または栄養素が添加されたものである。固形培地は上記の培地に典型的には1%から10%の寒天、より典型的には1%から5%の寒天、さらに典型的には1%から2%の寒天を添加したものであってもよいことは当業者なら理解できるだろう。
【0114】
酵母細胞は固形及び/または液体培地上で培養されることでスクリーニングまたは選択されてよい。一実施形態において、酵母細胞は固形培地上でスクリーニングまたは選択される。別の実施形態において、酵母細胞は液体培地中でスクリーニングまたは選択される。好ましい実施形態としては、酵母細胞は最初に固形培地で次に液体培地でスクリーニングまたは選択される。例えば、その方法は以下を含んでよい:
(a)サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を準備する;
(b)酵母細胞が接合できるような条件下で酵母細胞を培養する;
(c)キシロース含有固形培地上で酵母細胞を培養することで酵母細胞をスクリーニングまたは選択する;
(d)一つ以上の酵母細胞が生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて望ましい生育速度で生育するための能力を獲得するまで、サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を形成するスクリーニング又は選択された細胞で工程(b)と(c)を繰り返す。
典型的には、唯一の炭素源としてキシロースを含む液体培地において通常通りに生育する十分なキシロース上での生育速度を一つ以上の酵母細胞が獲得するまで、工程(b)と(c)が繰り返される。例えば、唯一の炭素源として2%から5%w/vのキシロースを含む液体最小無機物培地での生育に株が移されてよい、2%から5% w/vのキシロースを含む固形最小無機物培地上の生育速度は、典型的には少なくとも工程(b)と(c)を2回繰り返して達するだろう。より典型的には少なくとも5回の工程(b)と(c)が繰り返しである。さらに典型的には少なくとも10回の工程(b)と(c)が繰り返しである。酵母細胞が液体培地で培養されることによる酵母細胞の選択またはスクリーニングの時間は集団依存的に変化すること、および工程(b)と(c)の各反復で液体培地における集団の一部を培養することによって容易にきめられることは当業者ならわかるだろう。従って、その方法は、以下を含んでよい:
(a)サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を準備する;
(b)酵母細胞が接合できるような条件下で酵母細胞を培養する;
(c)キシロース含有液体培地で酵母細胞を培養することで、酵母細胞をスクリーニングまたは選択する;
(d)一つ以上の酵母細胞が生育のための唯一の炭素源としてキシロースを用いて望ましい生育速度で生育するための能力を獲得するまで、サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を形成するスクリーニング又は選択された細胞で工程(b)と(c)を繰り返す。
【0115】
典型的には唯一の炭素源としてキシロースを用いて生育できる酵母細胞が生育する充分な時間、酵母細胞はキシロース含有培地上若しくは中で培養される。上述したとおり、時間の長さは少なくとも、唯一の炭素源としてキシロース用いて増大した生育速度を有する酵母細胞が生育する充分な時間であろう。典型的には、時間の長さは唯一の炭素源としてキシロース用いて増大した生育速度を有さない酵母細胞が生育する充分な時間である。言い換えれば、時間の長さは実質的に全ての酵母細胞がキシロース上で生育する充分なものであろう。時間の長さは遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団に依って変わり、また使う培地の種類、工程(b)と(c)のサイクルまたは反復が何回繰り返されるかによっても変わる。各サイクルが繰り返されると、固形培地と液体培地のいずれが使われるかどうかとは関係なく、その方法は工程(b)と(c)の各反復でキシロースを用いてより速く生育する集団をスクリーニングまたは選択する時間はより短くなると考えられる。キシロース以外の糖類を含む複合培地でさえ、キシロース以外のいくつかあるいは全ての糖類は生育を通じて結局は使い果たされ、それゆえに、唯一の炭素源としてキシロース上でより速く生育する株に対して、結局はキシロースの存在が選択的優位性を与えることは当業者ならばわかるだろう。唯一の炭素源としてキシロースで最も効果的に生育する酵母細胞がキシロースでは充分に生育できない酵母細胞よりも生育する充分な時間、液体キシロース含有培地で酵母細胞は培養されるてよい。典型的には、その時間量は唯一の炭素源としてキシロースを用いて増大した生育速度を有さない酵母細胞ですら生育する充分な時間である。上述したように、より速い生育をする細胞は数のうえでより大きくなり、それゆえに選択されるだろう。このように、キシロース含有液体培地の利用は残りの酵母細胞集団より速い速度でキシロースを資化できる酵母細胞を選択するための便利な方法を提供する。典型的には、スクリーニングまたは選択された酵母細胞はより効率的にキシロースを資化するようになるので、各サイクルごとにキシロース含有液体培地での生育期間は減少する。液体キシロース含有培地での細胞の培養による酵母細胞のスクリーニングまたは選択の後、典型的にはその細胞は、液体培地から集められさらに分離や単離されることなく接合される。従って、典型的には、スクリーニングされまたは選択された酵母細胞はプールとして接合される。接合方法は固形キシロース含有培地からスクリーニングおよび選択されたあとそれと同じである。
【0116】
集団中のキシロースを資化する酵母株を選択またはスクリーニングする任意の条件下でキシロース含有培地中もしくは上で酵母細胞は培養されてよいことははわかるだろう。一例として、集団は:
(a)好気的、微好気的、嫌気的条件下でキシロース最小培地中もしくは上で培養されうる;
(b)好気的、微好気的、嫌気的条件下でキシロース豊富な培地中もしくは上で培養される。
上記培地はキシロースに加えて他の炭素源(例えばグルコース、ガラクトースのような糖類、キシリトール、グリセロールなどのポリオール、そして酢酸、アセテートのような有機酸、及びそれらの塩類など)を含んでよい。例えば、酵母細胞を適正以上または以下のpH、高又は低浸透圧、塩類からくるイオン性ストレス、エタノールやほかのアルコールの添加からくるアルコール性ストレス、フルフラールやその誘導体のような他の有機阻害物、高温、低温、キシロースの有無などのようなストレスに曝し、その後、唯一の炭素源であるキシロースを資化する間ストレスから回復する能力について選択またはスクリーニングされてもよい。異なった選択条件の組み合わせが集団に用いられることは理解される。
【0117】
酵母細胞を単離したり、工程(b)を反復する前に工程(c)を任意の回数反復してもよいことは理解される。例えば、望ましい生育速度を持った酵母細胞をさらに選択またはスクリーニングするために、液体キシロース含有培地で選択された集団を続けて新しい培地で継代してもよい。
【0118】
唯一の炭素源としてキシロース上の生育速度が一サイクルごとに徐々に速くなる非組換え酵母細胞をスクリーニングまたは選択するために、工程(b)と(c)が任意の回数くりかえされてもよいることは当業者にはわかるだろう。従って、このプロセスは唯一の炭素源としてキシロースを用いて望ましい生育速度を示す株を得るために必要な回数繰り返される。
【0119】
その後、典型的には、その方法は望ましい生育速度を有する一つ以上の酵母細胞を単離する工程を含む。典型的には、その方法は、望ましい生育速度を有するサッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団を生み出すことは当業者にはわかるだろう。従って、一実施態様において、その方法は望ましい生育速度で唯一の炭素源としてキシロースを資化して生育することができるサッカロマイセス株の集団を生み出すために用いられてよい。その集団は個々の株に分離されることなく単離されてよい。これは、例えば、その方法によって生み出されたサッカロマイセス株の集団を単純にプールすることによってなされてもよい。
【0120】
別の実施態様において、唯一の炭素源としてキシロースを資化して生育することができる個々のサッカロマイセス株は単離されてよい。これは適当なコロニーを作ったり、単一コロニー単離のために寒天プレート上に酵母を画線したりするような標準的微生物的技術、あるいは純粋培養の単離のためのほか任意の方法を用いてなされてもよい。そのような方法はCruickshank他(1975) "Medical Microbiology"、 第12版、第2巻: The practice of medical microbiology、 Churchill Livingstone出版に記述されている。
【0121】
また、生育のための唯一の炭素源としてキシロース上で増大した生育速度を有するサッカロマイセス株の派生株を作る方法が提供される。派生株が生まれるサッカロマイセス株は典型的に望ましい特性を有している。この方法は、サッカロマイセスの遺伝的に多様な非組換え酵母細胞の集団の一部分としての株を準備する工程(a)を含む。いいかえれば、その株の酵母細胞がその集団の一部分を形成する。遺伝的に多様な集団の酵母細胞は上述したような源のいずれかから由来してよい。工程(b)において、遺伝的に多様な集団の酵母細胞は、集団の酵母細胞の接合が行われるような上記した条件のいずれかの下で培養される。工程(c)において、増大した生育速度を有する派生株を目的として、酵母細胞がスクリーニングまたは選択される。増大した生育速度とは、その株の生育速度と比較して派生株の生育速度の増大をいう。典型的には、酵母細胞は上述したようなキシロース含有培地上または中で培養することによってスクリーニングまたは選択される。そのキシロース含有培地は更に派生株を選択またはスクリーニングする要素をふくんでいてもよい。例えば、その株は、抗生物質耐性マーカーのような選択マーカーまたは遺伝的に多様な酵母細胞の集団の他の酵母細胞からその株の派生株を区別し得るその他のタイプのマーカーを含んでいてもよい。これによりキシロースを唯一の炭素源としての生育速度が増大し、かつ選択マーカーを持つ酵母細胞を同時にスクリーニングまたは選択できる。適当な選択マーカーとしては、例えば、ADE2、HIS3、LEU2、URA3、LYS2、MET15、TRP1、URA4、亜硫酸塩耐性、p-フルオロ-DL-フェニルアラニン耐性が含まれる(Cebollero and Gonzalez (2004) Applied and Environmental Microbiology、 70巻: 7018- 7028)。キシロースを利用した生育を目的としたスクリーニングおよび選択方法は上記した通りである。生育速度が増大した派生株が得られるまで工程(b)と(c)は任意の回数繰り返されてもよい。一旦生育速度が高くなれば、派生株は単離される。単離方法は上述したとおりである。
【0122】
本発明の方法によって作られたサッカロマイセス株もまた本発明の範囲に含まれる。サッカロマイセス株はKurtzman (2003) FEMS Yeast Research 3: 417-432によって系統発生学的に定められたサッカロマイセスの任意の種であってよく、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.パラドキサス(S.paradoxus)、S.ミカテ(S.mikatae)、S.カリオカヌス(S.cariocanus)、S.クドリアブゼヴィ(S.kudriavzevii)、S.パストリアヌス(S.pastorianus)、およびS.バイヤヌス(S.bayanus)が含まれる。サッカロマイセス セレビシエと非セレビシエ株の株間の接合方法は、例えば、Johnston JR及び Oberman H (1979) Yeast Genetics in Industry、 in Bull MJ (編) Progress in Industrial Microbiology、 Elsevier、Amsterdam 15巻、 pp. 151-205; Pretorius IS (2000) Tailoring wine yeast for the new millenium: novel approaches to the ancient art of wine making. Yeast 16: 675-729; P.V. Attfield and P. J.L. Bell (2003) Genetics and classical genetic manipulations of industrial yeasts、 in Topics in Current Genetics 第2巻、 J. H. de Winde (編) Functional Genetics of Industrial Yeasts、 Springer-Verlag Berlin Heidelbergで述べられている。
【0123】
一旦、望ましい生育速度で生育のための唯一の炭素源としてのキシロースを資化できるサッカロマイセス株が得られれば、その株から、例えば、古典的遺伝学的交雑法、突然変異誘発法、組換え法、あるいはサッカロマイセス株を生み出すためのその他の手法を含む、株製作技術において知られているような手法を用いて派生株が得られることは、当業者ならわかるであろう。
【0124】
唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度能力がある株は、他のサッカロマイセス株、好ましくはサッカロマイセス セレビシエ以外の株と接合されてもよい。例えば、上記手法は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度能力がある複数のサッカロマイセス株を生み出してもよいことが予想される。従って、生育のための唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度能力がある第一株は生育のための唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度能力がある第二株と接合されてもよい。このタイプの接合は、例えば、唯一の炭素源としてキシロースを資化する能力がいっそう富化または向上してサッカロマイセス株を得るためになされてもよい。例えば、唯一の炭素源としてキシロースを資化して急速に生育できる異なった株は、キシロース上でさらに速く生育でき、または炭素源としてキシロースを用いたときエタノールや二酸化炭素のような産物をより効率的に生産する接合株を得るために接合されてよいと考えられる。
【0125】
唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の生育速度能力があるサッカロマイセス株は唯一の炭素源としてキシロースを利用して生育できないサッカロマイセス株と接合されてもよい。このタイプの接合は、例えば、唯一の炭素源としてキシロースを資化する向上した能力を有する株では見られない一以上の望ましい特徴を有するサッカロマイセス株に、唯一の炭素源としてキシロースを資化するための向上した能力を導入するためになされてよい。例えば、唯一の炭素源としてキシロースを利用して生育できないサッカロマイセス株がパン産業でおいて望ましい特徴を有している場合、この株を唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度で生育できるサッカロマイセス株と接合することは、キシロース上でより早く、効率的に生育し、次いでパン産業に利用できるようなパン酵母を作り出すためには有用である。同様に、蒸留、ワイン生産、酵母抽出、酵素、異種タンパク質のようなその他の産業目的あるいはそれ以外の目的に使われる酵母はキシロース上でのバイオマスまたは酵母副産物の生産を可能にするために、唯一の炭素源としてキシロース培地を利用する改良された能力をもつ株と接合されてもよい。
【0126】
サッカロマイセス株、例えば、非組換え手法により唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間に少なくとも1世代の生育速度で生育するための能力が得られたサッカロマイセス セレビシエを、一つ以上のキシロース資化遺伝子が組換え手法によって導入された組換え酵母と接合させることによって、キシロース資化においてさらに改良された株が得られることが考えられる。組換えにより導入されたキシロース資化遺伝子は非組換え手法により得られた株にすでに存在する遺伝子を単に補強するにすぎないものであることは当業者ならわかるであろう。
【0127】
キシロース利用能力は非組換え手法により得られるが、DNA組換え技術は唯一の炭素源としてキシロースを資化する株の能力を補強するために用いられてよいことは当業者ならわかるであろう。例えば、一つ以上の他の源由来のキシロース資化遺伝子はキシロース資化を補強するために株に導入されてよい。例えば、Pichia種由来のキシロースイソメラーゼはKuyper他に示されているように、単にキシロース資化を補強するためにゲノムに組み込まれてよい。Pichia stipitis由来のキシロース還元酵素(XYL1)やキシリトールデヒドロゲナーゼ(XYL2)はWahlbom他(2003)に示されているようにキシロースを資化する株の能力を補強するためにサッカロマイセスにクローン化されてよい。しかし、組換え手法によりキシロース資化のための遺伝子配列を付加することは単に唯一の炭素源としてキシロースを資化して48時間に少なくとも1世代の生育速度で生育できる株の能力を補強しているにすぎないことは当業者ならわかるであろう。
【0128】
さらなる例として、キシロース、キシリトールまたはキシルロースへの直接作用を通じるもの以外のサッカロマイセスによるキシロース資化の効率に影響する代謝活性をコードするような一つ以上の遺伝子は非組換え株に導入され、それら発現はDNA組換え技術により調節されてよい。ある遺伝子の発現を増加させることが望ましい場合もあれば、ある遺伝子の発現を減少させたり、なくしまうことが望ましい場合もあろう。発現を変化させる標的遺伝子には細胞質性、ミトコンドリア性、またはその他のオルガネラ性の代謝活性をコードする遺伝子が含まれうる。そのような遺伝子は糖輸送、栄養素輸送、解糖経路、発酵の最終工程、ペントースリン酸経路、グルコース新生、トリカルボン酸経路、グリオシキル酸回路、電子伝達系、細胞内酸化還元平衡、発酵と呼吸の間の相互作用、アミノ酸の合成、及び代謝等に関係する活性をコードしうる。組換えDNA技術によって調節される遺伝子の例としては、RPE1、RK11、TALI、TKLIあるいは唯一の炭素源としてキシロースを利用する酵母の能力を改善するようなその他の遺伝子が含まれる。
【0129】
さらに、一つ以上のキシロース資化遺伝子が組換え手法を用いてその株に組み込まれてよいことは当業者ならわかるであろう。組換え酵母の作成手法は当該分野でよく知られており、例えば、Guthrie and Fink (1991) "Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology"、 Methods in Enzymology 194巻、 Academic Pressに記載されている。関心のある遺伝子や配列は酵母細胞に形質転換するのに適したベクターにクローン化されてよい。関心のある遺伝子や配列は、酵母株における発現に適切な調節領域を含む、pMA91 Dobson他(1984) EMBO Journal 3: 1115のような適切な発現ベクターにクローン化される。その他のベクターとしては、当業者に知られているエピソームベクター、動原体ベクター、インテグレーションベクター、発現調節ベクターが挙げられる(例えばGuthrie and Fink (1991) "Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology"、 Methods in Enzymology194巻、 Academic Press参照)。酵母での発現に適してよい調節領域は、例えば、MAL、PGK1、ADH1、GAL1、GAL10、CUP1、GAP、CYC1、PH05が含まれてよい。あるいは、遺伝子自身の調節領域がサッカロマイセスにおいて遺伝子を発現するために用いられる。関心のある遺伝子や配列が、例えばリボソームRNA遺伝子座のような酵母ゲノムに組み込まれてよい。この目的のために、適当なベクター(例えばpIRL9プラスミド)のリボソーム配列が販売されており、BS+ベクターに適切にクローン化されている。関心のある遺伝子や配列は適当な酵母プロモーターと終結領域に発現カセットを形成するように機能的につなげられ、その発現カセットは次にクローン化されたリボソーム配列にクローン化される。この結果、プラスミド発現カセットはリボソーム配列につなげられ、適当な制限酵素で一本の断片として放たれる。放たれた一本の断片はよく知られている手法(例えばGuthrie and Fink (1991) "Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology"、 Methods in Enzymology 194巻 Academic Press参照)を用いて酵母に形質転換されるための適当なマーカーを有する自発的複製プラスミドと同時形質転換される。プラスミドはプラスミドを選択しない条件下で細胞を培養することで細胞から後に除かれる。
【0130】
本発明のサッカロマイセス種株はサッカロマイセス属の任意の種が用いられているようなどんな利用にも用いられてよい。例えば、唯一の炭素源としてキシロースを資化できるサッカロマイセス セレビシエ株は通常のサッカロマイセス セレビシエ株が利用されているようなパン発酵、醸造、バイオマス生産、糖発酵、エタノール生産に利用されてよい。
【0131】
唯一の炭素源としてキシロース上で生育するための本発明のサッカロマイセス株の能力は48時間で少なくとも1世代生育できるサッカロマイセス株と酵母株を「マーキング(marking)」する目的ではない酵母細胞とを区別するために用いられる便利な表現型を提供する。
【0132】
ある側面において、サッカロマイセス株をマーキング(marking)する方法が提供され、該方法は以下の工程を含む:
(a)株のDNAが結合できる条件下で、望ましい株を本発明の株を培養すること;
(b)生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する望ましい株の派生株を目的として、選択またはスクリーニングすること;
(c)生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する望ましい株の派生株を単離すること。
一実施形態において、その方法は以下を含む:
(a)株のDNAが結合できる条件下で、望ましい株を第4から第14の側面までのサッカロマイセス株と接合すること;および
(b)キシロース含有固形培地上に接合細胞を接種または液体培地中で培養、あるいはその両方を組み合わせることによって、唯一の炭素源としてキシロースを利用して48時間で1世代超の速度で生育できる望ましい株の派生株を目的として、スクリーニングまたは選択すること;
(c)生育のための唯一の炭素源としてキシロースを利用して増大した生育速度を有する望ましい株の派生株を単離すること。
【0133】
キシロース含有最小培地上または中で株を培養し、生育速度を決定する、またはキシロース含有培地上または中での既知生育速度を持つ標準株の生育速度と比較することによって、マークされた株が検出されてよい。マークされた株を検出するための適当な方法は試験T1であり、それによって、マークされた株は試験T1でバイオマスが少なくとも2倍に増大する。
【0134】
べつの実施態様において、本発明のサッカロマイセス種株はエタノール、キシリトール、酢酸、その他の酵母副産物、酵素等のような化合物の生産に用いられてよい。化合物の生産方法は以下の工程を含んでよい:
(a)株が化合物を生産できる条件下で、キシロース含有培地上でサッカロマイセス株を培養する;および
(b)株により生産された化合物を回収する。
【0135】
化合物とは炭素源としてキシロースを資化したときにサッカロマイセスによって生産される1つ以上の化合物またはその混合物であってよい。例えば、化合物はエタノール、キシリトール、酢酸、二酸化炭素、あるいは酵母細胞やその代謝の任意の成分、代謝産物、副産物であってよい。酵母細胞の成分としては酵素、補共因子、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、細胞壁成分、グルカン、マンノタンパク質、膜成分、脂質、ステロール、貯蔵炭水化物、トレハロース、グリコーゲン、オリゴヌクレオチド、有機酸、コハク酸、酢酸、乳酸、グリセロールやキシリトールのようなポリオールを含んでよい。
【0136】
サッカロマイセス種株によって生産される化合物の種類は株が供される生育条件に依存してもよいことは当業者ならわかるであろう。例えば、温度、好気的または嫌気的生育、培地のpH、窒素源、キシロース以外の炭素源の存在、培地の中のその他の化合物がサッカロマイセス セレビシエ株によって生産される化合物の種類に影響を与えてもよい。しかし、任意の1つ以上の化合物の生産の正確な条件も標準的な手法を通じて当業者によって簡単に決められる。
【0137】
本発明のサッカロマイセス株はグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトトリオース、マルトース、スクロース、メリビオース、ラフィノース、キシロース、メリジトース、α―メチルグルコシド、トレハロース、イソマルトースのような糖類を資化できることは当業者なら簡単にわかるだろう。その株はまたエタノール、酢酸、グリセロール、キシリトールのような非糖炭素源を利用することができてもよい。
【0138】
典型的には、本発明の株は二酸化炭素とエタノールの生産のためのキシロースに加えて、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、マルトトリオース、マルトース、スクロース、メリビオース、ラフィノース、キシロース、メリジトース、α―メチルグルコシド、トレハロース、イソマルトースのような糖類も発酵することができる。
【0139】
キシロース含有培地中のキシロースは、酵母によって資化されうる任意の形態であってもよい。例えば、キシロースは精製されていてもよく、あるいはさとうきび、わら、とうもろこし茎葉、木工製品等のようなバイオマスの酸加水分解から得られるヘミセルロース加水分解産物のような粗形態であってもよい。バイオマスや化合物の生産では、接種されたキシロース含有培地は典型的には、2時間から4日間の間22℃から40℃の温度範囲で培養されうる。
【0140】
本発明者らは更に本発明の株を用いてキシロースからエタノールを生産するためには、その株がキシロース上で実質生育をする必要がないことを見出した。本発明者らは本発明の株をキシロース含有培地に大量接種することで2時間、典型的は4時間、更に典型的には5時間以内でエタノール生産することを見出した。そのような条件では、実質的な生育は認められない。従って、以下を含む、エタノール生産方法がまた提供される:
(a)第1から第8、第12又は第13の側面の株を培地1ml当たり少なくとも1x10
8個の酵母細胞の密度までキシロース含有培地に接種する;
(b)エタノールを生産する充分な時間、接種培地を培養する;
(c)エタノールを回収する。
【0141】
キシロース含有培地は上記したキシロース含有培地のいずれでもよい。
【0142】
酵母細胞の密度は培地1ml当たり少なくとも5x10
8、典型的には少なくとも6x10
8の酵母細胞であってよい。
【0143】
接種された培地は少なくとも2時間、典型的には少なくとも5時間培養されてよい。
【0144】
別の側面では、エタノール産生できる条件下でキシロース含有培地で非組換えサッカロマイセス株を培養し、その後エタノールを回収することを含む、エタノール生産方法が提供される。
【0145】
試験T1から試験T9の定義
【0146】
T1:唯一の炭素源としてキシロースを利用した生育
酵母株を標準的な微生物学的手法を用いて2%の寒天で固形化させたグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン培地上に画線する。摂氏30℃で72時間培養後、酵母細胞を滅菌した白金耳を用いてプレートからとり、50mlの培養液中に0.1から0.2ユニット(T
0時のOD
600)の間のOD
600(600nmの光学密度)となるように接種する。該培養液は250ml三角フラスコに蒸留水中にキシロース(5% w/v)、Difco Yeast Nitrogen Base w/o amino acids(0.67%)を含む。培養液をOD
600(T
48hrs時のOD
600)を計測する前に、48時間、220rpm(軌道直径10cm)で、30℃で振とう培養する。バイオマスの増加は以下の式によって決定される:
T48hrs時のOD600
T
0時のOD
600
【0147】
T2: 唯一の炭素源としてキシロースを利用した細胞バイオマス生産量
酵母株を標準的な微生物学的手法を用いて2%の寒天で固形化させたグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン培地上に画線する。摂氏30℃で72時間培養後、酵母細胞を滅菌した白金耳を用いてプレートからとり、50mlの培養液中に0.1から0.2ユニットの間のOD
600(600nmの光学密度)となるように接種する。該培養液は250ml三角フラスコに蒸留水中にキシロース(5% w/v)、Difco Yeast Nitrogen Base w/o amino acids(0.67%)を含む。培養液を乾燥酵母の生産量を計測する前に、72時間、220rpm(軌道直径10cm)で、30℃で振とう培養する。酵母の乾燥重量は前もって重量計測しておいたガラス試験管(W1)に5mlの酵母培養液を移して、その後22℃、10分間、3000gで遠心分離することにより測定する。酵母ペレットを乱さずに上清を除き、22℃、10分間、3000gで再遠心分離する前に、細胞を5mlの蒸留水中に再懸濁する。酵母ペレットを乱さずに上清を再度除き、22℃、10分間、3000gで再遠心分離する前に、細胞を5mlの蒸留水中に再懸濁する。酵母細胞を含むガラス試験管を105℃で24時間乾燥し、重量を計測する(W2)。乾燥酵母量はW2からW1を差し引いて計算され、得られた値に10を掛ける。試験は2回試行し、平均値を計算する。
【0148】
T3:唯一の炭素源としてキシロースを利用したエタノール生産
接種酵母を50mlの蒸留水中に(2.5gキシロース、0.5g酵母抽出物、0.5g細菌用ペプトン)を含む250ml三角フラスコ中でその株の純粋細胞を1標準白金耳量、30℃、16時間、200rpm振とうすることによって調製した。50ml培養液を7個同時に生育しておいた。培養液を22℃、3000g、5分間遠心分離することで回収した。上清を捨て、細胞ペレットを滅菌蒸留水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを再懸濁して、滅菌水1Lにつき以下を含むキシロース最小培地20mlにプールした:
50gキシロース、13.4g Difco Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.4mg硫酸銅五水和物、1mg硫酸亜鉛七水和物、2mg硫酸マンガン四水和物、1mg四酸化モリブデンナトリウム二水和物、1mg四ホウ酸ナトリウム十水和物、2mgパントテン酸塩カルシウム、2mgチアミン塩酸塩、2mg塩酸ピリドキシン、4mgイノシトール、1mgニコチン酸、および0.4mgビオチン
【0149】
Braun Biostat Bの2L発酵容器の中を前もって30℃に温め、20%に酸素を通気した同じキシロース最小培地980mlに細胞を接種した。1分間に10Lの空気を通じて、1200rpmで攪拌しながら、必要であれば水酸化カリウムやリン酸を添加することでpHを5に保ちながら酵母を生育した。24時間後、培養液300mlを除き、上記の量中アミノ酸、微量塩およびビタミンを除いた、50gキシロース、10g Difco Yeast Nitrogen Base without amino acidsを含む、新鮮なキシロース最小培地300mlで交換した。さらに7時間後、新鮮なキシロース30gを培養液に加え、空気供給を1分間に4Lに減らし、攪拌速度を200rpmに減らした。さらに20時間後にエタノール検知用のYSIメンブレン2876を取り付けたYSI 2700 Select Biochemistry Analyzer(YSI Inc. Yellow Springs、 Ohio、 USA)を用いてエタノールを目的にアッセイした。
【0150】
T4:キシロース還元酵素のアッセイ
前記したようにグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天上で酵母株を生育し、5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、および1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む、250ml三角フラスコ内の50ml培地に600nmで光学密度が0.1ユニットから0.2ユニットになるように接種した。600nmの光学密度が3ユニットから5ユニットになるまで30℃、180rpmで培養液を培養した。細胞が24時間の培養後に必要な密度に達しなかった場合でも、細胞は回収した。細胞を3000xg、4℃、5分間遠心分離して回収した。上清を廃棄し、細胞ペレットを冷却滅菌水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を廃棄し、培地の全ての微量物を除去するためにこのプロセスを繰り返した。
【0151】
細胞を溶解バッファに再懸濁し、Eliasson A.他(2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻3381-3386頁で述べられているように細胞抽出物を調製した。次いでEliasson A.他 (2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻 3381-3386頁に述べられ、参照されている方法にしたがって、キシロース還元酵素活性を目的にその細胞抽出物をアッセイした。30℃で、タンパク質1mg、1分間あたり1nmolのNAD(P)Hを還元または酸化することを1ユニット活性と定義する。Lowry OH、Rosebrough NJ、Farr AL、及び Randall RJ (1951) Journal of Biological Chemistry 193巻:265- 275に述べられている方法によって、ウシ血清アルブミン標準を用いて、タンパク質をアッセイした。
【0152】
T5:キシリトールデヒドロゲナーゼのアッセイ
前記したようにグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天上で酵母株を生育し、5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、および1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む、250ml三角フラスコ内の50ml培地に600nmで光学密度が0.1ユニットから0.2ユニットになるように接種した。600nmの光学密度が3ユニットから5ユニットになるまで30℃、180rpmで培養液を培養した。細胞が24時間の培養後に必要な密度に達しなかった場合でも、細胞は回収した。細胞を3000xg、4℃、5分間遠心分離して回収した。上清を廃棄し、細胞ペレットを冷却滅菌水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を廃棄し、培地の全ての微量物を除去するためにこのプロセスを繰り返した。
【0153】
細胞を溶解バッファに再懸濁し、Eliasson A.他(2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻3381-3386頁で述べられているように細胞抽出物を調製した。次いでEliasson A.他 (2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻 3381-3386頁に述べられ、参照されている方法にしたがって、キシリトールデヒドロゲナーゼ活性を目的に、その細胞抽出物をアッセイした。30℃で、タンパク質1mg、1分間あたり1nmolのNAD(P)Hを還元または酸化することを1ユニット活性と定義する。Lowry OH、Rosebrough NJ、Farr AL、及びRandall RJ (1951) Journal of Biological Chemistry 193巻:265- 275に述べられている方法によって、ウシ血清アルブミン標準とを用いて、タンパク質をアッセイした。
【0154】
T6:キシロースキナーゼのアッセイ
前記したようにグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天上で酵母株を生育し、5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、および1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む、250ml三角フラスコ内の50ml培地に600nmで光学密度が0.1ユニットから0.2ユニットになるように接種した。600nmの光学密度が3ユニットから5ユニットになるまで30℃、180rpmで培養液を培養した。細胞が24時間の培養後に所定の密度に達しなかった場合でも、細胞は回収した。細胞を3000xg、4℃、5分間遠心分離して回収した。上清を廃棄し、細胞ペレットを冷却滅菌水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を廃棄し、培地の全ての微量物を除去するためにこのプロセスを繰り返した
【0155】
細胞を溶解バッファに再懸濁し、Eliasson A.他(2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻3381-3386頁で述べられているように細胞抽出物を調製した。次いでEliasson A.他 (2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻3381-3386頁に述べられ、参照されている方法にしたがって、キシロースキナーゼ活性を目的に、その細胞抽出物をアッセイした。30℃で、タンパク質1mg、1分間あたり1nmolのNAD(P)Hを還元または酸化することを1ユニット活性と定義する。Lowry OH、Rosebrough NJ、Farr AL、及びRandall RJ (1951) Journal of Biological Chemistry 193巻:265- 275に述べられている方法によって、ウシ血清アルブミン標準を用いて、タンパク質をアッセイした。
【0156】
T7: 唯一の炭素源としてキシリトールを利用した生育
標準的な微生物学的技術を用いて2%の寒天で固形化させたグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン培地上に酵母株を画線する。
摂氏30℃で72時間培養後、酵母細胞を滅菌した白金耳を用いてプレートからとり、50mlの培養液中に0.1から0.2ユニット(T
0時のOD
600)の間のOD
600(600nmの光学密度)となるように接種する。該培養液は250ml三角フラスコに蒸留水中にキシリトール(5% w/v)、Difco Yeast Nitrogen Base w/o amino acids(0.67%)を含む。培養液をOD
600(T
48hrs時のOD
600)を計測する前に、48時間、220rpm(軌道直径10cm1)で、30℃で振とう培養する。バイオマスの増加は以下の式によって決定される:
T48hrs時のOD600
T
0時のOD
600
【0157】
T8:栄養過多培地中でのキシロースを利用したエタノール生産
標準的な微生物学的技術を用いて2%の寒天で固形化させたグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン培地上に酵母株を画線する。摂氏30℃で96時間培養後、酵母細胞を滅菌した白金耳を用いてプレートからとり、50mlの培養液中に1から2ユニットの間のOD
600(600nmの光学密度)となるように接種する。
該培養液は250ml三角フラスコに蒸留水中のキシロース(5% w/v)、酵母抽出物(0.5%)、細菌用ペプトン(1% w/v)を含む。培養液を、220rpm(軌道直径10cm)で、30℃で振とう培養する。培養上清サンプルをエタノール検知用YSIメンブレン2876を取り付けたYSI 2700 Select Biochemistry Analyzer(YSI Inc. Yellow Springs、 Ohio、 USA)を用いて24時間の間1時間毎にエタノールを目的にアッセイする。
エタノールレベルはg/Lで表している。
【0158】
T9:嫌気性条件下におけるキシロース最小無機物培地中でのエタノール生産
標準的な微生物学的技術を用いて2%の寒天で固形化させた、5% w/vキシロース、アミノ酸を含まない0.67% w/v Difco Yeast Nitrogen Base培地上に酵母株を画線する。30℃で96時間培養後、酵母細胞をプレートからとり、15mL容量の滅菌ポリプロピレン試験管 (Cellstar、 Greiner bio-one)内の滅菌5% w/vキシロース、アミノ酸を含まない0.67% w/v Difco Yeast Nitrogen Baseを含む10mLに600nmにおける光学密度0.1から0.4となるように直接接種する。培地を2mLの無菌ミネラルオイルで重層して酸素移動を妨げ、ネジ蓋を充分に閉めて、チューブを30℃で振とうせずに培養した。元の接種酵母の生育で形成した細胞ペレットを乱さないように、滅菌したパスツールピペットを用いてエタノール試験用のサンプルを取り出した。エタノール検知用の付属のYSIメンブレン2876を取り付けたYSI 2700 Select Biochemistry Analyzer(YSI Inc. Yellow Springs、 Ohio、 USA)を用いてエタノールをアッセイした。
【0159】
発明は以下の限定されない例のみを参照することで、その詳細が述べられる。
【実施例1】
【0160】
実施例1 サッカロマイセスは唯一の炭素源としてキシロースをして利用してゆっくり生育できる
パン酵母であるサッカロマイセス セレビシエのNL67株(Higgins他 (1999) Applied and Environmental Microbiology 65巻: 680-685)を唯一の炭素源としてキシロースを含むまたは含まない固形最小無機物培地に接種し、30℃で2ヶ月間培養した。光学顕微鏡を用いて、微小なコロニーが両方のプレート上で観察されたが、キシロース含有培地上のコロニーは炭素源を含まない培地上のそれらより明らかに大きかった。キシロースを含まない培地上の細胞は5、6世代進む一方で、キシロースを含む培地上の細胞は9、10世代まで進んだ。
【実施例2】
【0161】
実施例2 唯一の炭素源としてキシロース上で急速な生育能力のあるサッカロマイセスの多様な株を含む集団の作成
野生型由来、ワイン製造、蒸留およびビール発酵、そしてパン用由来から得られる株を含む、様々な源由来の酵母株を取得し、それらに胞子形成を誘導し、遺伝的に多様な集団を生み出すために集団接合手法を用いることによって、唯一の炭素源としてのキシロースを利用してより活発に生育することができる酵母株を充実させるための選択圧を適用することができた。キシロース最小無機物培地上に(および同時に炭素源がない同じ最小無機物培地上に)遺伝的に多様な集団を拡げ、2ヶ月間培養することで、コロニーサイズの中に不均一性が認められた。キシロースを含むプレートと含まないプレートを比較して、受け入れられてきた定説と反対に、生育は培地にキシロースを添加したことによるものであったということが観察され、それはキシロースで生育する集団内の酵母株の能力に不均一性があることを暗に示すものであった。キシロースで生育する集団を全て集めて、胞子形成させることで、キシロースでより効率的に生育する能力を与える遺伝的情報に富んだ新しい酵母集団を生むことができた。大きな集団規模(少なくとも100,000)を用い、最適に生育しない細胞を含む細胞をプールすることによって、各世代で遺伝的多様性が維持された。接合と選択のサイクル回数が増えるにつれて、コロニーサイズの不均一性は維持されたが、コロニーの最終サイズは増大した。
【0162】
寒天培地上における5から20サイクルの間の選択後に、唯一の炭素源としてキシロースを有する最小無機物培地を含む液体培地中に集団を移し、ほぼ50世代の間継代培養した。次に胞子形成させ、新しい集団を集団接合により構築した。不均一なサッカロマイセス細胞の集団を約50世代の間、キシロース最小培地中で液体培養した。
この後、一部のサンプルを保存し、一部のサンプルを胞子形成させた。選択された集団由来の発芽胞子を集団接合し、ほぼ50世代の間、液体キシロース最小培地中において選択圧下で生育するための不均一なサッカロマイセス細胞の新しい集団を作成した。この過程は望ましい生育速度に達するまで繰り返し行われた。
【0163】
キシロース最小培地上における集団の生育速度が増大しているか否か調べるために、それぞれ365日、569日、1013日、1059日、1170日、そして1377日選択後に各々得られたサンプルをキシロース最小培地に600nmにおける光学密度0.1から0.2の間で接種し、220rpm、30度で振とうした。光学密度を24時間後に再アッセイし、標準的微生物学的手法により24時間における平均倍加時間を計算するために用いた。結果をグラフ上にプロットし、
図1に示す。
【0164】
図1は、唯一の炭素源としてキシロース上で生育を目的として接合と選択の期間を通じて生育するに従って、集団の全体の生育速度の向上が飛躍的であることを示す。唯一の炭素源としてキシロース上での生育速度の向上は、キシロース上の生育速度が唯一の炭素源としてグルコース上での生育速度と同じになるまで続くと考えられる。
【実施例3】
【0165】
実施例3 非組換えサッカロマイセス株の不均一な集団によるキシロース豊富な培地上でのエタノール生産はキシロース最小無機培地上での生育速度と相関している。
キシロース最小培地中での集団の倍加時間を実施例2、
図1に記載のように測定した。1から2の間の600nmの光学密度で250mLフラスコ内の5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む50mL培地に集団のサンプルを接種することによって、エタノール産生を測定した。培養液は30℃、220rpmで培養し、エタノール生産を2日間に渡って測定した。
【0166】
得られたデータ(表1)は、キシロース最小培地上の不均一な集団の倍加時間が減るにつれて、キシロース豊富な培地中でのエタノール生産能力が増大したことを示している。両特性は接合と選択過程が適用された反復回数と時間の長さ応じて向上した。
【0167】
【表1】
【実施例4】
【0168】
実施例4 試験T1、T2に照らした、唯一の炭素源としてキシロース上で生育できる純粋な非組換えサッカロマイセス株の特徴
サッカロマイセス株単離株を標準的な微生物学的手順により実施例2のキシロース資化集団から純化し、試験T1、T2に従って、唯一の炭素源としてキシロース上での生育および生産量が試験した。株CEN.PK(Karhumaa他(2005) Yeast 22巻:259- 368)とNL67(Higgins他(1999) Applied and Environmental Microbiology 65巻: 680-685)は本明細書に記載の方法を適用する以前の存在する代表的株型に含まれた。株NM04/41257とNM04/41258(寄託)は実施例2と
図1に記載されたプロトコルが1059日継続実施したした集団から由来する。株ISO10(NM05/45177)とISO7(NM05/45178)は実施例2と
図1に記載されたプロトコルをそれぞれ1377日、1431日継続実施した集団から得られた。それぞれ単離された酵母株は、胞子化させて、次に由来した半数体を遺伝マーカーをもつサッカロマイセス セレビシエの既知の実験室株的と接合させることで、サッカロマイセス種のメンバーであることを確認した。
【0169】
【表2】
【0170】
キシロース最小培地上におけるサッカロマイセス セレビシエの純粋株のバイオマス生産量を試験T2に記載のようにアッセイした。株CEN.PKとNL67は本明細書に記載の方法を用いて作成されていない代表的株型に再び含まれた。
CEN.PK生産量=50mL培養で1mgの乾燥酵母量;NL67生産量=50mL培養で2mgの乾燥酵母量;NM04/41257生産量=50mL培養で50mgの乾燥酵母量;NM04/41258生産量=50mL培養で55mgの乾燥酵母量;ISO10生産量=50mL培養で145mgの乾燥酵母量;ISO7生産量=50mL培養で114mgの乾燥酵母量。
【0171】
上記データはそのプロトコルは唯一の炭素源としてキシロース上で早く生育しよく生産する能力を持つ株を生むことを示している。実施例例2と
図1のデータを考慮すると、そのデータはそのプロトコルがグルコース上での生育速度と生産量と同等でありうるキシロース上での最大限可能な生育速度と生産量を有する由来株に繰り返し用いることができることを示している。
【実施例5】
【0172】
実施例5 唯一の炭素源としてキシロースを用いて急速生育し及びエタノール生産できる非組換えサッカロマイセス株
その株の純粋細胞を1標準白金耳量を16時間、30℃、200rpm、250mL三角フラスコの中の50mL滅菌水(2.5gキシロース、0.5g酵母抽出物、0.5g微生物用ペプトン)で生育することでISO10株の接種源を調製した。50ml培養液を7個同時に生育した。
培養液を22℃、3000g、5分間遠心分離することで回収した。上清を捨て、細胞ペレットを滅菌蒸留水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを再懸濁して、滅菌水1Lにつき以下を含むキシロース最小培地20mlにプールした:
50gキシロース、13.4g Difco Yeast Nitrogen Base without amino acids、0.4mg硫酸銅五水和物、1mg硫酸亜鉛七水和物、2mg硫酸マンガン四水和物、1mg四酸化モリブデンナトリウム二水和物、1mg四ホウ酸ナトリウム十水和物、2mgパントテン酸塩カルシウム、2mgチアミン塩酸塩、2mg塩酸ピリドキシン、4mgイノシトール、1mgニコチン酸、および0.4mgビオチン
【0173】
Braun Biostat Bの2L発酵容器の中を前もって30℃に温め、20%に酸素を通気した同じキシロース最小培地980mlに細胞を接種した。1分間に10Lの空気を通じて、1200rpmで攪拌しながら、必要であれば水酸化カリウムやリン酸を添加することでpHを5に保ちながら酵母を生育した。
24時間後、培養液300mlを除き、上記の量中アミノ酸、微量塩およびビタミンを除いた、50gキシロース、アミノ酸を含まない10g Difco Yeast Nitrogen Baseを含む、新鮮なキシロース最小培地300mlで交換した。
これは1Lにつき4gの乾燥酵母量と同等の細胞塊の培養液を与えた。通気および撹拌は、それぞれ1分間に10L、1200rpmを維持し、pHを5に保った。このような条件下で、酵母バイオマスは10gのキシロースを消費して4gの乾燥酵母量を産生して4時間(乾燥酵母量に基づく)で倍加した。
【0174】
上記手法で酵母が1Lにつき約12g(乾燥酵母量当量)の密度に達したとき、新鮮なキシロース30gを培養液に加え、空気供給を4L/minに減らし、攪拌速度を200rpmにまで減らした。溶解酸素が検出されないこれらの条件下において、17gのキシロースを消費し、さらに20時間で1.75g/Lのエタノール、1g/Lのキシリトールと共に1gの乾燥酵母量を生産した。
【実施例6】
【0175】
実施例6 指数関数的に生育する非組換え酵母株における、キシロース還元酵素(XR)、キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)、キシルロキナーゼ(XK)の活性
試験T1で述べられたようにグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天で生育した酵母株を0.1から0.2ユニットの間の600nmの光学密度で250mL振盪フラスコ内の5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む50mL培地に接種した。培養液を600nmにおける光学密度が3から5ユニットの間に達するまで30℃、180rpmで培養した。NL67やCEN.PKのような株の場合のように、細胞が24時間の培養後に必要な濃度に達していなかった場合でも、回収しアッセイした。細胞は3000g、4℃、5分で遠心分離して回収した。上清を廃棄し、細胞ペレットを冷却滅菌水で再懸濁し、再遠心分離した。上清を廃棄し、培地の全ての微量物を除去するためにこのプロセスを繰り返した。細胞を溶解バッファに再懸濁し、Eliasson A.他 (2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻 3381-3386頁で述べられているように細胞抽出物を調製した。次いでEliasson A.他 (2000) Applied and Environmental Microbiology、 66巻3381-3386頁に述べられ、参照されている方法にしたがって、XR、XDHおよびXK活性を目的に、その細胞抽出物をアッセイした。30℃で、タンパク質1mg、1分間あたり1nmolのNAD(P)Hを還元または酸化することを1ユニット活性と定義する場合、以下の活性が見られた。
【0176】
【表3】
【0177】
これらのデータは唯一の炭素源としてのキシロース上で生育する酵母を得るため用いられた繰り返しの接合や選択方法がキシロースやキシリトールの代謝に決定的なキシロース還元酵素やキシリトールデヒドロゲナーゼの活性の向上につながることを示している。
【0178】
品種改良や選択手法に適用された選択圧のために、我々の株において、ペントースリン酸経路にかかわる酵素のような他の酵素や活性が自然に改善されてきたと思われる。
更なる選択と育種、突然変異、原形質融合、細胞誘導、あるいはXR、XDH、XKの活性を最適化したり、キシロースイソメラーゼを誘導し最適化する組換えDNA技術、あるいはキシロース、キシリトール、キシルロース代謝を向上させるために必要な他の遺伝的変化の組み合わせを用いて更なる改良のための基礎として、我々の株が明瞭に用いられうることは当業者ならわかるだろう。
【実施例7】
【0179】
実施例7 試験T7に照らした、唯一の炭素源としてキシリトール上で生育できる純粋な非組換えサッカロマイセス株の特徴
試験T1記載されているように、純粋株をグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天上で生育した。その株のコロニーを5% w/v キシリトール及びアミノ酸を含まない0.67% Difco Yeast Nitrogen Baseからなる50mLに接種し、試験T7に記載されている生育を目的とした試験を行った。
【0180】
【表4】
【0181】
これらのデータは唯一の炭素源としてのキシロース上で生育する酵母を得るため用いられた繰り返しの接合や選択方法が唯一の炭素源としてのキシリトールも資化することができるいくつかの株が得られる結果となったことを示している。
【実施例8】
【0182】
実施例8 試験T8に照らした、唯一の炭素源としてのキシロース上で生育できるサッカロマイセスの純粋な非組換え株によるキシロース豊富な培地を用いたエタノール生産
試験T1に記載の純粋株をグルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天上で生育し、1から2ユニットの間の600nmの光学密度で250mL振盪フラスコ内の5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、1% w/v細菌用ペプトン(XYP)を含む50mL培地に接種し、試験T8に記載のようにアッセイした。
【表5】
【0183】
これらのデータは唯一の炭素源としてのキシロース上での酵母の生育に基づいた選択方法がキシロースからエタノール産生することができる酵母株を生み出したことを示している。実施例3(表1)のデータと併せるとこれらのデータは、キシロースからエタノール生産する能力の向上に合わせて、唯一の炭素源としてのキシロースを用いて生育したり、細胞バイオマスを産生する能力が向上することを示している。さらに、キシロースやキシリトールを資化できるNM04/41258及びISO7のような株もエタノール生産できる。キシリトールを資化し、キシロースからエタノールを生産できるNM04/41258およびISO7(NM05/45178)株が、米国特許番号4、511、656の教示に反するという発見は、D-キシロースを資化するが、キシリトールを資化しない特定のコロニーを単離するために、株がスクリーニングされねければならないことを述べるものである。
【実施例9】
【0184】
実施例9 嫌気的条件下で唯一の炭素源としてキシロースを利用してエタノール生産することができるサッカロマイセスの純粋な非組換え株の単離と特徴
1106日の選択に供されたキシロース資化集団から単離株を純化し、試験T9に供した。50の独立した株を試験し、3週間から4ヶ月の後に試験したエタノール生産は0.24 g/Lから0.75 g/Lに及んだ。NM04/41257およびNM04/41258株もまたこれら試験に含まれた。
【表6】
【0185】
これらのデータは嫌気的条件下でキシロースを発酵させてエタノール産生することができる非組換えサッカロマイセス酵母を得ることができることを示している。NM04/41257およびNM04/41258株を表中の他の株と比較してより早く選択された集団から純化した。このデータは本明細書における反復性プロトコルは非組換え酵母によって嫌気的条件下でのエタノール産生の効率向上につながることを示している。
【実施例10】
【0186】
実施例10 好気的条件下における、最小培地への高密度で接種された非組換えサッカロマイセスによる急速エタノール生産
グルコース、酵母抽出物、細菌用ペプトン寒天(上記)上で生育したISO10株を250mL三角フラスコ内の5% w/vキシロース、0.5% w/v酵母抽出物、1% w/v細胞用ペプトン(XYP)を含む50mL培地に接種し、72時間、30℃、220rpmで培養した。20個のフラスコが同時に培養した。細胞を3000xg、22℃、10分間遠心分離により回収した。上清を廃棄し、再遠心分離前に、細胞ペレットを10mL滅菌水に再懸濁した。上清を再度廃棄し、さらに遠心分離前に、細胞ペレットを冷却滅菌水に再懸濁した。最終的には、細胞を20mLの滅菌蒸留水に再懸濁した。
【0187】
発酵培地は以下をフィルター滅菌して調製した: アミノ酸を含まない0.67% Difco Yeast Nitrogen Base含有YNB;XYNBは5%キシロース添加YNB;GXYNBは0.5%グルコース及び4.5%キシロース添加YNB。培地は125mLの円錐ガラスビーカーに入れた。培地は3mLの細胞懸濁液で接種し、220rpmの環状振とう器に、30℃で設置し、上述したように一時間間隔でエタノール生産を計測した。接種直後に600nmにおける培養液の光学密度を測り、培養液に対する細胞密度が5.7から6.1x10e8 /mLであることを測定した。
【0188】
【表7】
【0189】
数字は接種後の示された時間における培養液上清中のエタノールg/Lを示している。炭素源がないYNBに接種された細胞から生産された少量のエタノールは72時間の接種準備期間の間に合成され、蓄えられた内在性の貯蔵糖類の持ち越し分から由来したものがほとんどであろう。3時間後にYNB培養液のエタノール濃度が減少しているのは、貯槽糖類が使い果たされたかあるいは使い果たしてさらに細胞が使用しているか、エタノールが蒸発しているか、あるいはその両方によってエタノールが消費されていることを示している。
【0190】
これらのデータは唯一の炭素源としてのキシロース最小培地上で急速にキシロースを発酵してエタノール生産することができるようなサッカロマイセス非組換え株を得ることは可能であることを示している。更に、これらの株はGXYNBにおける4時間経過後に産生されるエタノールがグルコースの存在から唯一予期されたエタノールにまさったために、グルコースのような発酵性ヘキソース糖が添加された培地上でキシロースからエタノールを産生することができる。
【実施例11】
【0191】
実施例11 唯一の炭素源としてのキシロースで生育する非組換えサッカロマイセスバイオマスは広い産業上有用な特性を示す
当業者ならば酵母は様々な発酵用途(例えば、パン、エタノール(飲料用及び非飲料用)産業)に、あるいはアミノ酸、タンパク質、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、酵素(例えば、インベルターゼおよびフィターゼ)、抗酸化物質(例えば、グルタチオン)、そして細胞壁構成要素(例えば、グルカン)のような源として産業上の有用性が証明されていることは知っている。上記特性は例示であり、限定的な意図はない。
【0192】
酵母がキシロースを含む培地で生育され、様々な産業的目的に用いられるなら、それは有用である。それゆえ、例示としての株ISO10を生育とキシロースに次いで様々な特徴を目的として試験した。
【0193】
ISO10株を1L当たり50gキシロース、アミノ酸を含まない13.4g Difco Yeast Nitrogen Baseに0.4mg硫酸銅五水和物、1mg硫酸亜鉛七水和物、2mg硫酸マンガン四水和物、1mg四酸化モリブデンナトリウム二水和物、1mg四ホウ酸ナトリウム十水和物、2mgパントテン酸塩カルシウム、2mgチアミン塩酸塩、2mg塩酸ピリドキシン、4mgイノシトール、1mg硫酸、および0.4mgビオチンを添加した中で培養した。細胞は1分間に12Lの空気供与し、温度30℃、1M水酸化カリウムおよび1Mリン酸を用いてpH5に維持しながら、1200rpmで攪拌した。細胞密度がA
600 14の時、3000xg、22℃、10分で遠心分離して細胞を回収した。細胞ペレットを蒸留水で再懸濁し、再遠心分離した。この洗浄手順を三回行い、濡れたバイオマスの22%から25%が固形物になるように、バイオマスをワットマンフィルター紙No.1に置いた。
【0194】
産業的用途に通常関連する特徴を持った酵母バイオマスを得るために唯一の炭素源としてのキシロース上で非組換えサッカロマイセスを生育することは可能であることを証明するために、そのバイオマスを以下の特徴を目的にアッセイした。
【0195】
エタノール発酵力
スクロース、グルコース、フルクトースのような発酵性糖類からエタノールを生産する能力として定義される、エタノール発酵力を試験するため酵母を糖蜜基礎培地に接種した。サトウキビ糖蜜を水で希釈し、5分間、121℃で加熱することで滅菌した。22℃まで冷却し、糖蜜を4,000xg、22℃、10分で遠心分離し、固形物を除去した。上清を最終濃度18%w/wのスクロース相当まで希釈し、フィルター滅菌した0.67% w/v Difco Yeast Nitrogen Baseを添加した。この培地40mLに6.8mg相当の乾燥酵母を接種し、振とうせずに30℃で培養した。エタノール検出のための付属のYSI メンブレン2786でYSI 2700 Select Biochemistry Analyzerを使って24時間ごとにエタノールをアッセイした(YSI Inc. Yellow Springs、 Ohio、 USA)。24時間後には酵母は1L当たり16.8gのエタノールを生産し、一週間後には酵母は1L当たり59gのエタノールを生産した。
【0196】
パン生地の発酵
グルコース、フルクトース、マルトースのような糖類を発酵させ、小麦粉発酵を起こすような二酸化炭素を産生する能力として定義される、発酵力を試験するため、酵母をパン生地の混合物に加え、発酵させて膨らませたパンを産生する能力を目的に、試験した。500g全粉粒小麦大豆、亜麻仁製パン用ミックス粉(Kitchen Collection、 Christchurch)、300mL生水、10g酵母(24%固形)を含むパン生地を調製した。パン生地をBreville Bakers Oven on setting 3Bを用いて発酵し、焼成した(HWI Electrical、 Sydney Australia)。酵母はパン生地混合物を膨らませて(発酵させて)、14cmの高さのパンの塊を作った。
【0197】
グルカン含有量
Sutherland IWおよびWilkinson JF (1971) "Chemical Extraction Methods of Microbial Cells"、 in Methods in Microbiology 5B巻 (JR Norris and DW Ribbons編)、 第4章 345-383頁、 Academic Press London and New Yorkにに記載の方法に従って、59gの乾燥物に相当する量の酵母バイオマスをグル刊を目的に抽出した。Sutherland 他によると、この方法は「汚染物質を含まない細胞壁グルカン」を生産する。記載された方法を用いて、8mgの量のグルカンを乾燥した酵母初期物質から得た。
【0198】
アミノ酸/タンパク質含有量
乾燥酵母24mgに相当する量の酵母材料をガラス試験管内の1M水酸化ナトリウム2.5mL中に懸濁し、15分間沸騰水槽中に静置した。ボイル試料を22℃に冷やし、蒸留水を用いて10mL容量にした。Lowry OH、Rosebrough NJ、 Farr AL及びRandall RJ (1951) Journal of Biological Chemistry 193巻: 265-275に従い、ウシ血清アルブミン標準を用いて、アミノ酸/タンパク質をアッセイした。このアッセイは、酵母は乾燥重量あたり39%相当のアミノ酸/タンパク質を含有していることを示した。
【0199】
ヌクレオチド含有量
乾燥酵母量8.3mgに相当する量の酵母材料を4% w/vの塩酸1mLに再懸濁し、15分間、121℃で圧力加熱した。22度に冷やした上で、酵母懸濁物を3000xg、10分間、22℃で遠心分離し、Herbert D、 Phipps PJ及び Strange RE (1971) "Chemical Analysis of Microbial Cells"、 in Methods in Microbiology 5B巻 (JR Norris and DW Ribbons編)、第4章 345-383頁、 Academic Press London and New Yorkに記載の紫外線吸光光度法によって、ヌクレオチド含量を目的として、上清をアッセイした。酵母は乾燥重量当たり1.9%のヌクレオチドを含んでいた。
【0200】
グルタチオン含有量
乾燥酵母量6.82gに相当する量の酵母材料をエタノールと蒸留水が20:80の割合の溶液0.8mLに再懸濁し、渦巻状に混合し、10、000xg、2分間、22℃で遠心分離した。上清を以下の通りアッセイした:
リン酸バッファはpH7.5で250mLに3.99gのNa2HP0
4、0.43のNaH2P0
4.H
20、0.59gの2ナトリウムEDTA.2H
20を含んだ。NADPH溶液は100mLのリン酸バッファに26.6mgのNADPH 4ナトリウム塩を含んだ。
5、5"-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)は10mLのリン酸バッファに23.8mgのDTNBを秤量することによって調製した。グルタチオン標準を蒸留水にストック濃度0.1mMで調製した。Fluka Chemie AG由来のグルタチオン還元酵素ストック液は1mL当たり162.72ユニットの活性を含んだ。
【0201】
1.4mLのNADPH溶液及び200μLのDTNB容器及び10μLの試料か、GSH標準溶液か、蒸留水及び390μLの蒸留水をを含む3mLの分光光度計用キュベット中でアッセイを行った。試料を30℃で前もって温めておき、3μLのグルタチオン還元酵素を添加することで反応を開始した。キュベットを30℃、30分間培養し、シマヅUV-1201分光光度計を用いて412nmの波長で蒸留水ブランクに対して吸光度を測定した。このアッセイは、酵母は乾燥質量当たり0.36%総量のグルタチオンを含有していることを示した。
【0202】
脱リン酸化活性
13.5mgの乾燥酵母に相当する量の酵母材料をpH4.9の0.2M酢酸ナトリウムバッファ0.5mLに再懸濁した。Sigma-Aldrich Chemie GmbH製の脱リン酸化酵素基質をpH4.9の0.2M酢酸ナトリウムバッファに1mL当たり1mgで調製し、Sigma-Aldrich Chemie GmbH製脱リン酸化酵素(固形物質1mg当たり1.1単位の脱リン酸化活性を有すると提供者に定められている)をpH4.9の0.2M酢酸ナトリウムバッファに1mL当たり0.909ユニットで調製した。500μLの酢酸ナトリウムバッファ及び250μL脱リン酸化酵素基質溶液及び250μLの酵母懸濁溶液か、脱リン酸化酵素か、蒸留水を含むキュベット中でアッセイを行った。キュベットを20分間、30℃培養し、300μLの10M水酸化ナトリウムを加えた。
405nmの吸光度を蒸留水ブランクに対して計測した。酵母の脱リン酸化酵素活性は乾燥酵母重量当たり0.068ユニットだった。
【0203】
インベルターゼ活性
14.48mgの乾燥酵母に相当する量の酵母材料を1mLの蒸留水に再懸濁した。懸濁液をさらに蒸留水で100倍に希釈した。米国特許番号4、396、632および5、741、695の試験T3に述べられている比色法に従い、インベルターゼ活性を試験した。
1ユニットは30℃、pH4.9で乾燥酵母1mg、1分当たりスクロースから遊離されたグルコース1μmolと定義した場合、酵母は0.93ユニットのインベルターゼ活性を生産した。
【0204】
これらのデータは非組換えサッカロマイセス セレビシエが広範な産業用途に関連したバイオマス、代謝産物、細胞成分、あるいは酵素活性を生み出すために唯一の炭素源としてキシロースで生育される可能性を示している。当業者であればこれらの特徴のレベルや量が古典的あるいは組換え遺伝学的手法だけでなく上記に示された結果が単に指標にすぎないように、培養条件を変化させる手段を通することによってもコントロールされうることはわかるだろう。