【文献】
丸山公一,coexistence Activity Report/2010,日本,東北大学大学院環境科学研究科,2011年 3月31日,p54-p55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0021】
<耐熱合金組成>
まず、本発明の耐熱合金の組成について説明する。
【0022】
本発明の耐熱合金はMoまたはWの少なくともどちらか一方の金属元素を含む金属結合相、Mo−Si−B系金属間化合物を含む化合物相、TiCを含む硬質粒子相を有し、残部が不可避化合物と不可避不純物である。
【0023】
以下、各相について説明する。
MoまたはWは高融点、高硬度でかつ高温における強度に優れ、耐熱合金に金属としての物性をもたせるために、必須である。
【0024】
MoまたはWの含有量は後述する他の元素の割合との関係で決まるが、耐熱合金に金属としての物性を持たせるためには、少なくとも主成分、即ち最も含有量の多い元素であるのが望ましいが、さらに耐熱合金に耐摩耗性を持たせる場合には、必ずしも主成分である必要はない。
【0025】
Mo−Si−B系合金はMoに添加することにより、硬度と高温での0.2%耐力を高めることができるため、必須である。
【0026】
Mo−Si−B系合金としては、例えばMo
5SiB
2を主成分とするものが挙げられるが、必ずしもこれのみに限定されるものではない。
【0027】
また、Mo
5SiB
2を用いる場合でも、完全な成分比である必要は必ずしもなく、例えば後述する不可避化合物として、Mo
3SiやMo
2B等を含めたMo、Si、Bの少なくとも2種以上を含む化合物が存在していても、Mo
5SiB
2が主成分であれば、本願の効果を得ることが可能である。
【0028】
ただし、Mo
5SiB
2の含有量が5質量%未満の場合、室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が得られず、Mo金属結合相の場合にはMo
5SiB
2の含有量が80質量%を超える場合、W金属結合相の場合にはMo
5SiB
2の含有量が75質量%を超える場合には、MoまたはWからなる金属結合相の体積比率が小さくなりすぎるため焼結性が悪くなり十分な密度が得られず、必要な機械的強度が得られなくなる。
【0029】
そのため、Mo
5SiB
2の含有量はMo金属結合相の場合には5質量%以上80質量%以下、W金属結合相の場合には5質量%以上75質量%以下であることが望ましい。
【0030】
また、焼結体の室温硬度および0.2%耐力を高めるためには、Mo金属結合相の場合には10質量%以上、60質量%以下であるのがより望ましく、20質量%以上、50質量%以下であるのがさらに望ましい。また、W金属結合相の場合には10質量%以上30質量%以下であるのがより望ましい。
【0031】
このように、Mo
5SiB
2の含有量はMo金属結合相の場合には5質量%以上80質量%以下、W金属結合相の場合には5質量%以上75質量%以下と、添加物としては広い範囲にわたり、本願発明の優れた特性の合金が得られ、製造時のMo
5SiB
2の添加量の制御が容易な点も有利である。
【0032】
TiCは、耐熱合金に添加することにより、MoとMo−Si−B系合金の2相のみから成る耐熱合金よりも、合金の室温硬度と高温での0.2%耐力を高くすることができ、また、Ti系セラミックスの中では、合金中への添加の際の脱ガスの問題が生じ難く、さらに熱伝導度も優れているため、必須である。
【0033】
ただし、TiCの含有量がMo金属結合相の場合には1質量%未満の場合、W金属結合相の場合には0.5質量%未満の場合、室温硬度、高温での0.2%耐力を高くする効果が得られず、Mo金属結合相の場合には80質量%を超える場合、W金属結合相の場合には75質量%を超える場合には、MoまたはWからなる金属結合相の体積比率が小さくなりすぎるため焼結性が悪くなり十分な密度が得られず、必要な機械的強度が得られなくなる。
【0034】
そのため、TiCの含有量はMo金属結合相の場合には1質量%以上80質量%以下、W金属結合相の場合には0.5質量%以上75質量%以下であることが望ましい。
【0035】
また、焼結体の室温硬度および0.2%耐力を高めるためには、TiCの含有量はMo金属結合相の場合には15質量%以上、25質量%以下であるのがより望ましく、10質量%以上、25質量%以下であるのがより望ましい。また、W金属結合相の場合には5質量%以上16質量%以下であるのがより望ましい。
【0036】
このように、TiCの含有量はMo金属結合相の場合には1質量%以上80質量%以下、W金属結合相の場合には0.5質量%以上75質量%以下と、添加物としては広い範囲にわたり、本願発明の優れた特性の合金が得られ、製造時のTiCの添加量の制御が容易な点も有利である。
【0037】
なお、本発明に係る耐熱合金は、上記した必須の成分に加え、不可避化合物と不可避不純物とを含む場合がある。
【0038】
不可避不純物としては、Fe、Ni、Cr、Si、Bなどの金属成分や、C、N、Oがある。
【0039】
また、不可避化合物としては、Si、BおよびMoの少なくとも2種以上を含む化合物、さらにMo
2Cなどがある。具体的には、例えばMo
5SiB
2をMo-Si-B系合金の主成分とした場合、MoB、Mo
3Si、Mo
5Si
3などがある。これらは原料であるMo
5SiB
2粉末に起因し含まれることがあり得る。また、Mo
2Cは、粉末成形時の保形性のために添加する一般的な有機バインダーに起因する炭素や、原料TiC粉末中の遊離炭素等が、合金原料粉末であるMoまたはMo
5SiB
2等と反応し形成される場合がある。
【0040】
これらの不可避化合物は、例えば、Mo
5SiB
2をMo-Si-B系合金の主成分とした場合、Mo最強線ピーク(110)面強度に対し、Mo
2C(101)面ピーク強度が8.8%、Mo
3Si(211)面ピーク強度が2.0%程度であれば本願発明の作用効果である室温硬度、高温0.2%耐力に影響しない。
【0041】
<粒径>
次に、耐熱合金を構成する各相の粒径について説明する。
【0042】
[TiC]
本発明の耐熱合金中のTiCの粒径は、平均粒径0.5μm以上、10μm以下であるのが望ましい。これは、以下の理由によるものである。
【0043】
まず、平均粒径0.5μm以上とする理由について説明する。
仮に、平均粒径を0.5μmよりも小さくする場合、配合するTiC粉末の平均粒径を0.5μmより小さくする必要がある。しかし、このような微粒子の存在は一般的にも凝集し易くなる傾向があり、凝集2次粒子は焼結により顕著な粗大粒を形成し易くなり、また気孔の生成も促し易い。このような顕著な粗大粒子を形成させないためには、焼結温度の低下が必要となるが、焼結温度低下は焼結体密度の低下を引き起こしてしまう。
そのため、TiCの平均粒径は0.5μm以上であるのが望ましい。
【0044】
次に、平均粒径10μm以下とする理由について説明する。
仮に合金中のTiCの平均粒径を10μmよりも大きくする場合、粗粒のTiC粒子が焼結を阻害して焼結歩留まりが極端に悪く工業的とはいえなかった。さらに焼結できたとしても粗粒のTiC粒子が破壊の起点となって、機械的強度を低下させる問題がある。
そのため、TiCの平均粒径は10μm以下であるのが望ましい。
【0045】
また、焼結体の密度上昇と均一性の確保という観点からは、TiCの平均粒径は0.5〜7μmであることがより望ましく、0.5〜5μmであることが、さらに望ましい。
【0046】
なお、詳細は後述するが、ここでいう平均粒径とは、線インターセプト法で求めた値のことである。
【0047】
また、合金中のTiC粒は、
図1に示すように、1.5〜3.5μmの粒子の個数割合が合金中のTiC粒全体の40−60%の割合であるのが望ましい。これは、前述のように、TiCの平均粒径は0.5〜5μmであるのが望ましいが、ひとつのほぼ正規分布の粒度を示している場合、粒度分布がブロード過ぎると焼結体組織の不均一性、即ち焼結体部位に関し特性の不均一性につながる可能性があるためであり、一方、非常に均一な粒度の粉末は工業的には得られ難く、製造コストの面でデメリットがあるためである。
【0048】
さらに、TiC粒は、微粒と粗粒を織り交ぜることにより、添加の効果をより高めることができる。具体的には、
図2に示すように、合金中のTiC粒は、粒径が0.5〜2.5μmの粒子の個数割合が合金中のTiC粒全体の20−40%の割合、4.0〜6.0μmの粒子の個数割合が合金中のTiC粒全体の10−30%の割合であるのがより望ましい。このような分布とすることにより、微粒側の0.5μm〜2.5μmのTiC粒は、主としてMoまたはWの粒界に介在することにより、MoまたはWの粒界強度を高める(効果A)。一方、粗粒側の4.0〜6.0μmTiC粒は、耐熱合金のバルク全体の硬度を高める効果に寄与する(効果B)。
【0049】
なお、粒径が0.5−2.5μmの粒子の個数割合が20%より低いと、粗粒の比率が高くなるため、効果Aが得られ難く、40%より高いと、微粒の比率が高すぎ、効果Bが得られ難いため、好ましくない。
【0050】
また、粒径が4.0-6.0μmの粒子の個数割合が10%より低いと、粗粒の比率が低くなるため、効果Bが得られ難く、30%より高いと、粗粒の比率が高くなり、効果Aが得られ難いため、好ましくない。
【0051】
[Mo−Si−B系合金]
本発明の耐熱合金中のMo−Si−B系合金は、Mo
5SiB
2を主成分としており、その粒径は、平均粒径0.5μm以上、20μm以下であるのが望ましい。これは、後述する実施例のように、Mo−Si−B系合金の平均粒径が0.5μm未満または20μm以上の耐熱合金は、工業的に生産するのが困難なためである。
【0052】
<物性>
次に、耐熱合金の物性について説明する。
【0053】
本発明の耐熱合金の強度としては、20℃におけるビッカース硬度(室温硬度)が500Hv以上、かつ1200℃における0.2%耐力が550MPa以上、ビッカース硬度(室温硬度)が850Hv以上の場合は、1200℃における抗折力が600MPa以上である。
【0054】
耐熱合金をこのような物性にすることにより、耐熱合金を例えばFe系、FeCr系、Ti系合金用等の摩擦攪拌接合部材のような、高融点、高強度が要求される耐熱部材に適用することができる。
【0055】
なお、室温硬度を条件にしているのは、以下の理由によるものである。
本発明の耐熱合金を摩擦攪拌接合材料として用いる場合、工具そのものとして使用される場合もあるが、多くの場合は母材として使用され、周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる被膜が表面に被覆され工具とされる。ここで、実際に工具として使用する場合、まず室温にて工具を接合対象材料に強く押し込みながら回転させ、摩擦熱により接合対象物の温度を上昇させる。よって、回転初期の母材の変形、破壊また母材と被覆膜との剥離がないように、母材の室温硬度が高いことが必要である。
以上が耐熱合金の条件である。
【0056】
<製造方法>
次に、本発明の耐熱合金の製造方法について、
図3を参照して説明する。
【0057】
本発明の耐熱合金の製造方法については、上記した条件を満たす合金が製造できるものであれば、特に限定されるものではないが、以下のような方法を例示することができる。
【0058】
まず、原料粉末を所定の比率で混合して混合粉末を生成する(
図3のS1)。
【0059】
原料としては、MoまたはW粉末、Mo−Si−B系合金粉末およびTiC粉末が挙げられるが、以下、各粉末の条件について、簡単に説明する。
【0060】
MoまたはW粉末は純度99.99質量%以上、Fsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒度1.0〜5.0μmのものを用いるのが好ましい。
【0061】
なお、ここでいうMoまたはW粉末純度とは、JIS H 1404記載のモリブデン材料の分析方法により得たものであり、Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Si、Snの値を除いた金属純分を意味する。
【0062】
Mo−Si−B系合金粉末は、Mo
5SiB
2粉末を用いるのが望ましく、特にBET(Brunauer,Emmet and Teller)値が0.07〜1m
2/gのものを用いるのが望ましい。
【0063】
TiC粉末としては、Fsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)平均粒度が0.5〜5.0μmのものを用いるのが望ましい。
【0064】
また、粉末の混合に用いる装置や方法については特に限定されることはなく、例えば、乳鉢、V型ミキサー、ボールミルなど公知の混合機を使用することができる。
【0065】
次に、得られた混合粉末を圧縮成形し、成形体を形成する(
図3のS2)。
【0066】
圧縮成形に用いる装置は特に限定されるものではなく、一軸式プレス機やCIP(Cold Isostatic Pressing)など公知の成形機を使用すればよい。圧縮の際の条件としては、圧縮の際の温度は室温(20℃)でよい。
【0067】
一方、成形圧は1〜3ton/cm
2であるのが望ましい。これは、成形圧が1ton/cm
2未満の場合は成形体が十分な密度を得られず、また、成形圧が3ton/cm
2を超えると、圧縮装置が大型化し、コスト面で不利になるためである。
【0068】
次に、得られた成形体を加熱し、焼結する(
図3のS3)。
【0069】
具体的には、減圧雰囲気、または少なくとも水素を含む雰囲気にて1700℃以上、1850℃以下で加熱するのが望ましい。
【0070】
これは、加熱温度が1700℃未満の場合、焼結不十分となり焼結体の密度が低くなるためである。また、加熱温度が1850℃より高いと、Mo−Si−B系粉末中のSiと、TiC粉末中のTiが反応して低融点化合物を形成し焼結体が膨張することがあり、やはり焼結体の密度が低くなるためである。また、雰囲気としては、減圧雰囲気でも良いが、より好ましくは水素を少なくとも含む雰囲気である方が良い。その理由は、原料粉末が含む酸素の還元作用があるからであり、例えば水素−アルゴン混合ガスなどがある。水素を含む雰囲気の場合は大気圧で可能であるが、これに限定されず、加圧、減圧のいずれでも焼結可能である。加圧する場合には、例えば、圧力を10〜50MPaとする焼結HIPにより低温での焼結も可能である。
【0071】
次に、前記常圧または減圧焼結により得られた焼結体を不活性雰囲気にてHIP処理する(
図3のS4)。
【0072】
このような工程を必要とする理由は、焼結工程で高温処理(1850℃より高い温度で処理)すると、前述のように、TiとSiが反応し低融点化合物が形成され、これに起因した気孔が焼結体内に発生するため、焼結工程の温度を1850℃より高くすることができず、上記した温度範囲での焼結工程のみでは、得られる焼結体の相対密度が95%を満たし難く、高密度な合金が得られないためである。
【0073】
そのため、前工程の焼結工程で加熱温度を抑え、HIP工程にて前記焼結体内の高密度化を阻害している微小気孔を潰すことにより、焼結体の密度を高密度(95%以上)とすることができる。
【0074】
具体的な加圧条件としては、温度1400〜1800℃、圧力152.0〜253.3MPaの不活性雰囲気で、HIP処理を行えばよい。
【0075】
また、上記の圧縮成形(
図3のS2)、焼結(
図3のS3)、HIP(
図3のS4)に置き換えて、
図3のS5に示す加圧焼結工程(ホットプレス)で製作する場合もある。具体的には、Mo粉末に、60質量%以上のMo
5SiB
2粉末、15質量%を超えるTiC粉末を混合する場合、または、W粉末にMo
5SiB
2粉末、TiC粉末を混合して合金を製作する場合に、加圧焼結工程を用いる。
【0076】
加圧焼結工程を用いる場合、混合粉末を黒鉛製の型に充填し、加圧焼結装置内でパンチを介して粉末を加圧しながら、加熱して焼結させる。
【0077】
この際の具体的な条件としては、圧力を30〜70MPaとし、減圧雰囲気、もしくは、水素または不活性雰囲気中で加熱するのが望ましい。加熱温度は、Mo粉末に、60質量%以上のMo
5SiB
2粉末、15質量%を超えるTiC粉末を混合する場合は1600〜1900℃、W粉末にMo
5SiB
2粉末、TiC粉末を混合する場合は1700℃〜2000℃とするのが望ましい。
【0078】
なお、加圧焼結工程を必要とする理由は、Mo粉末に、60質量%以上のMo
5SiB
2粉末、15質量%を超えるTiC粉末を混合する場合は、化合物相または、硬質粒子相の体積比率が高くなると、金属結合相の体積比率が低くなり、雰囲気中の焼結のみでは、得られる焼結体の相対密度が90%未満となり、HIP処理を行っても高密度な合金が得られないためである。
【0079】
また、W粉末にMo
5SiB
2粉末、TiC粉末を混合する場合は、Wを焼結する場合は、Moを焼結する場合に比べて、高い密度の焼結体が得られにくい傾向があるが、さらにMo
5SiB
2粉末、TiC粉末を添加する場合、雰囲気中の焼結のみでは、得られる焼結体の相対密度が90%未満となり、HIP処理を行っても高密度な合金が得られないためである。
以上が本発明の耐熱合金の製造方法である。
【0080】
<耐熱合金を用いた擦攪拌接合工具>
本発明の耐熱合金は、上記の構成を有するものであるが、ここで、本発明の耐熱合金の適用例として、
図4に示す摩擦攪拌接合用工具101を例に、簡単に説明する。
【0081】
図4に示すように、摩擦攪拌接合用工具101は、接合装置の図示しない主軸と連結されるシャンク102と、接合時に接合対象物の表面と接触するショルダー部103と、接合時に接合対象物に挿入されるピン部104を有している。
【0082】
このうち、少なくともシャンク102とピン部104の母材は、本発明に係る耐熱合金で形成される。
【0083】
また、耐熱合金が使用中の温度によって酸化、また接合対象物と溶着することのないように、耐熱合金の表面に周期律表IVa、Va、VIa、IIIb族元素およびC以外のIVb族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の元素、またはこれら元素群から選択される少なくとも1種以上の元素の炭化物、窒化物または炭窒化物からなる被膜が表面に被覆されるのが望ましい。被膜層の厚さは、1〜20μmが望ましい。1μm未満の場合は、前記効果が期待できない。20μm以上の場合は過大な応力が生じ膜が剥離するため、極端に製品歩留まりが悪くなる。
【0084】
このようなコーティング層としては、例えばTiC、TiN、TiCN、ZrC、ZrN、ZrCN、VC、VN、VCN、CrC、CrN、CrCN、TiAlN、TiSiN、TiCrN、並びに少なくともこれらの内1層以上を含む多層膜を有するものが挙げられる。
【0085】
コーティング層の形成方法は、特に限定されることなく、公知の方法で被膜形成できる。代表的な方法として、スパッタリングなどのPVD(Physical Vapor Deposition)処理、化学反応によりコーティングするCVD(Chemical Vapor Deposition)処理、ガス状元素をプラズマにより分解、イオン化しコーティングするプラズマCVD処理などがあるが、いずれの方法でも単層膜から多層膜まで処理可能であり、本願発明の耐熱合金を母材とした場合に、優れた密着性を発揮できる。
【0086】
このように、本発明の耐熱合金はMo金属相を含み主成分である金属結合相(第1相)、Mo−Si−B系合金相を含む化合物相(第2相)、TiC相を含む硬質粒子相(第3相)を有し、残部が不可避化合物と不可避不純物である。
【0087】
そのため、本発明の耐熱合金は従来よりも接合対象物の高融点化に対応した耐力や硬度等の物性を充足することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0089】
(実施例1)
TiC含有量の異なる耐熱合金を作製し、得られた合金の特性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0090】
<試料の作製>
まず、原料としてMo粉末、Mo
5SiB
2粉末、およびTiC粉末を用意した。
【0091】
具体的には、Mo粉末は純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒度が4.3μmのもの、W粉末は純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒度が1.2μmのものを用いた。
【0092】
また、Mo
5SiB
2粉末はBET値が0.17m
2/gのものを用いた。
【0093】
さらに、TiC粉末は、株式会社アライドマテリアル製の炭化チタン粉末・品種OR06で、Fsss法による平均粒度が0.68μmのものを用いた。
【0094】
まず、Mo粉末に、60質量%未満のMo
5SiB
2粉末、15質量%以下のTiC粉末を混合して合金を製作する場合について説明する。
【0095】
まず、成形性を促進するバインダーとしてパラフィンを用い、上記粉末全体の重量に対し2質量%を添加した。
【0096】
次に、これらの粉末を表1に示す配合比率で、乳鉢で混合して混合粉末を作製し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
3の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0097】
次に、得られた成形体を水素雰囲気下(大気圧)で温度1700℃〜1850℃(詳細は後述する表1参照)で加熱し、焼結を試みた。
【0098】
次に、(焼結できなかったものを除く)焼結体を温度1600℃、Ar雰囲気下、圧力202.7MPaでHIP処理を行い、耐熱合金を作製した。
【0099】
以上が、Mo粉末に、60質量%未満のMo
5SiB
2粉末、15質量%以下のTiC粉末を混合する場合の合金の製作方法である。
【0100】
次に、Mo粉末に、60質量%以上のMo
5SiB
2粉末、15質量%を超えるTiC粉末を混合して合金を製作する場合について説明する。
【0101】
まず、上記の原料粉末を表1に示す配合比率で、乳鉢で混合して混合粉末を作製し、混合した粉末を黒鉛製の型に充填し、一軸式プレス機能を搭載したホットプレス炉を用いて、アルゴン雰囲気中で温度1600〜1900℃、成形圧30〜70MPaの条件下で圧縮加熱し、耐熱合金を製作した。
【0102】
<相対密度測定>
次に、得られた耐熱合金の相対密度を測定した。ここでいう相対密度とは、作製した試料(バルク)について測定した密度を理論密度で除して%で表した値である。
以下、具体的な測定方法について説明する。
【0103】
(バルク密度の測定)
バルク密度はアルキメデス法により求めた。具体的には、空中と水中での重量を測定し、下記計算式を用いてバルク密度を求めた。
バルク密度=空中重量/(空中重量−水中重量)×水の密度
【0104】
(理論密度の測定)
まず、以下の手順でMo−Mo
5SiB
2合金の理論密度を求めた。
【0105】
(1)ICP−AESにより、バルク中のMo、Si、Bの質量%を測定し、その値をmol%に換算した。
【0106】
(2)
図7に示す三元系状態図上にSi、Bのmol%の組成点をプロットした(
図7の黒丸参照)。なお、バルクの組成は大部分がMoかMo
5SiB
2なので、Mo
5SiB
2の組成点とMo100%の組成点を結ぶ直線上にプロット点が乗る。
【0107】
(3)
図7に示すように、上記プロット点とMo100%の組成点の間の距離をX、Mo
5SiB
2の組成点との間の距離をYとして、XとYの比率を100%換算する。このとき、XはMo
5SiB
2のmol比率、YはMoのmol比率となる。
【0108】
(4)Moの原子量をa(=95.94g/mol)、Mo
5SiB
2の原子量をb(=105.9g/mol)とし、Moの密度をMa(=10.2g/cm
3)、理想的に組成調整されたMo
5SiB
2のバルク材の密度をMb(=8.55g/cm
3)とする。
【0109】
(5)ここでMo
5SiB
2とMoの質量比は以下のように表される。
Mo
5SiB
2:Mo=X・b:Y・a
【0110】
これより、合金全体の質量は以下のように表される。
合金全体の質量=X・b+Y・a
【0111】
また、合金全体の体積は以下のように表される。
合金全体の体積=(X・b/Mb)+(Y・a/Ma)
【0112】
よって、合金の密度は、合金全体の質量/合金全体の体積で求められ、
理論密度Mt=(X・b+Y・a)/[(X・b/Mb)+(Y・a/Ma)]となる。
【0113】
次に、以下の手順でMo−Mo
5SiB
2−TiC合金の理論密度を求めた。
(6)ICP−AESによりバルク材中のTiの質量比率(0〜1)を求め、化学分析によりCの質量比率も求め、TiCの質量比率(Zc)を算出した。
【0114】
(7)TiCの密度をMc(=4.9g/cm
3)とし、上記質量比率を体積比率に換算した。
【0115】
即ち、TiCを添加した場合のTiCの体積比率は以下のように表される。
TiCの体積比率=[Zc/Mc]/[Zc/Mc+(1-Zc)/Mt]
【0116】
また、Mo−Mo
5SiB
2の体積比率は以下のように表される。
Mo−Mo
5SiB
2の体積比=[(1-Zc)/Mt]/[Zc/Mc+(1-Zc)/Mt]
【0117】
(8)求めた体積比率に密度を乗じてバルク全体の理論密度を求めた。
最後に、バルク密度を理論密度で除して相対密度が求められた。
【0118】
<粒径測定>
次に、得られた耐熱合金中の粒径測定を、以下に示すような線インターセプト法により、測定した。
【0119】
具体的には、まず、測定箇所となる断面について倍率1000倍の拡大写真を撮り、この写真上において、
図5に示すように、任意に直線を引き、この直線が横切る対象となる結晶粒の粒子について、この直線上を横切る個々の結晶粒の粒径を測定し総和を算出した。次に、測定した粒子の径の総和と測定粒子数より平均結晶粒径を得た。なお、測定の視野は120μm×90μmとし、50個以上の粒子を測定した。
【0120】
また、観察された結晶粒がMo、Mo
5SiB
2、TiCのいずれであるかの判断はEPMAによる線分析で行った。
【0121】
<硬度測定>
耐熱合金の硬度測定は(株)アカシ製マイクロビッカース硬度計(型番:AVK)を用い、大気中20℃にて測定荷重20kgを加えることにより、ビッカース硬度を測定した。測定点数は5点とし、平均値を算出した。
【0122】
<0.2%耐力測定>
耐熱合金の0.2%耐力は、以下の手順により測定した。
【0123】
まず、耐熱合金を長さ:約25mm、幅:2.5mm、厚さ:1.0mmとなるように加工し、表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨した。
【0124】
次に、試料をピン間隔が16mmとなるように、インストロン社製高温万能試験機(型番:5867型)にセットし、Ar雰囲気下、1200℃で、クロスヘッドスピード1mm/minでヘッドを試料に押し付けて3点曲げ試験を行い、0.2%耐力を測定した。
【0125】
以上の試験条件および試験結果を表1に示す。
【表1】
【0126】
表1から明らかなように、Mo粉末に、Mo
5SiB
2粉末、TiC粉末を混合して合金を製作する場合には、TiC粉末の配合割合が1質量%以上、25質量%以下のものはTiC粉末を配合しなかったものと比べて0.2%耐力および室温硬度はより優れていた。即ち、TiC粉末の配合による0.2%耐力と硬度の向上が確認された。
【0127】
さらに、TiC粉末の配合割合が25質量%を超え80質量%以下のものはTiC粉末の配合割合が25質量%以下のものと比べて、室温硬度がより優れていた。即ち、TiC粉末の配合率を高めることによる硬度の向上が確認された。
【0128】
一方、TiC粉末の配合率が82質量%のものは硬度が低下し、配合率が多すぎるとMoの体積比率が低下することにより結合材としての機能が低下することがわかった。
【0129】
(実施例2)
原料としてW粉末、Mo
5SiB
2粉末、およびTiC粉末を用意した。
具体的には、W粉末は純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒度が1.2μmのものを用い、Mo
5SiB
2粉末、TiC粉末については、実施例1と同様のものを用いた。
【0130】
その他の製法については、実施例1の、Mo粉末に、60質量%以上のMo
5SiB
2粉末、15質量%を超えるTiC粉末を混合して合金を製作する場合と同様であるが、焼結温度を1900℃として耐熱合金を製作した。
【0131】
各条件での試験結果を表2に示す。
【表2】
【0132】
表2から明らかなように、W粉末に、Mo
5SiB
2粉末、TiC粉末を混合して合金を製作する場合には、TiC粉末の配合割合が0.5質量%以上のものはTiC粉末を配合しなかったものと比べて0.2%耐力または抗折力、および室温硬度はより優れていた。即ち、TiC粉末の配合による0.2%耐力または抗折力、および硬度の向上が確認された。
【0133】
一方、TiC粉末の配合率が75質量%を超えるものは硬度が低下し、配合率が多すぎるとWの体積比率が低下することにより結合材としての機能が低下することがわかった。
【0134】
また、Mo
5SiB
2粉末の配合割合が5質量%以上のものはMo
5SiB
2粉末の配合割合が5質量%未満のものと比べて0.2%耐力または抗折力、および室温硬度はより優れていた。即ち、Mo
5SiB
2粉末の配合による0.2%耐力または抗折力、および硬度の向上が確認された。
【0135】
一方、Mo
5SiB
2粉末の配合率が75質量%を超えるものは硬度が低下し、配合率が多すぎるとWの体積比率が低下することにより結合材としての機能が低下することがわかった。
【0136】
特に、Moの代わりにW粉末を用いた場合には、より高温での特性に優れる長所があり、表3に示すように、1000℃での硬度、1400℃での0.2%耐力が、Mo粉末を用いた場合を大きく上回ることがわかった。
【表3】
【0137】
(実施例3)
次に、粉末配合率を、Mo粉末が69.6質量%、Mo
5SiB
2粉末が17.4質量%、TiC粉末が13%とし、Mo
5SiB
2粉末の粒径をBET値で0.07、0.7、1.0m
2/gとしたものを用意し、他の条件は実施例1と同様にて合金の製造および試験を行った。粉末粒径および試験結果を表4に示す。なお、Mo
5SiB
2粉末はBET値0.07〜1.0の範囲外の粉末を製作することは現状では得ることが難しい。Mo
5SiB
2粉末は非常に硬度があること、および粗大粒の場合、組成制御が難しいためである。
【表4】
【0138】
表4に示すように、焼結可能であった試料の合金中のMo
5SiB
2粉末の平均粒径は0.5μm、1μmおよび20μmであった。
【0139】
この結果から、耐熱合金中のMo
5SiB
2の平均粒径が0.5μm未満、または20μmを超える耐熱合金は製造できないことが分かった。
【0140】
(実施例4)
次に、粉末配合率を、Mo粉末が69.6質量%、Mo
5SiB
2粉末が17.4質量%、TiC粉末が13%とし、異なる粉末粒径を有するTiC粉末を用意し、他の条件は実施例1と同様にて合金の製造および試験を行った。粉末粒径および試験結果を表5に示す。
【表5】
【0141】
表5に示すように、TiC粉末の平均粒径が0.5μm〜5μmの試料は焼結することができたが、平均粒径が0.5μm未満および5μmを超える場合、試料を焼結することができなかった。
また、焼結できた試料の合金中のTiCの平均粒径は0.5〜10μmであった。
【0142】
(実施例5)
次に、粉末配合率を、Mo粉末が69.6質量%、Mo
5SiB
2粉末が17.4質量%、TiC粉末が13%とし、他の条件は実施例1と同様の条件で合金を製造し、製造した合金中のTiC粒のうち、粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合と合金の特性との関係についての評価を行った。試験条件および試験結果を表6に示す。なお、1.5〜3.5μmのものの割合は、原料TiC粉末(株式会社高純度化学研究所製のTII02PB)を分級処理などで調整することにより制御した。
【表6】
【0143】
表6に示すように、合金中のTiC粒のうち、粒径が1.5〜3.5μmのものの個数割合が40%と60%のものは、30%のものと比べて室温硬度と0.2%耐力が優れていた。
【0144】
60%よりも高いものは、非常に均一な粒度の粉末であり得られ難い。また、製造コストの面でデメリットがあり、上記上下限範囲が好ましい。
【0145】
この結果から、合金中のTiC粒のうち、1.5〜3.5μmのものの個数割合が40%〜60%のものは、室温硬度と0.2%耐力に優れることが分かった。
【0146】
(実施例6)
次に、粉末配合率を、Mo粉末が69.6質量%、Mo
5SiB
2粉末が17.4質量%、TiC粉末が13%として合金を製造し、他の条件は実施例1と同様の条件で合金を製造し、合金中のTiC粒のうち、粒径が0.5〜2.5μmのものの個数割合、および4.0〜6.0μmのものの個数割合と合金の特性との関係についての評価を行った。試験条件および試験結果を表7に示す。なお、0.5〜2.5μmのものの個数割合、および4.0〜6.0μmのものの個数割合は、平均粒径1.5μmのTiC粉末と5.0μmのTiC粉末とを混合し、それら原料粉末の混合比率を変えることにより制御した。
【表7】
【0147】
表7に示すように、合金中のTiC粒のうち、粒径が0.5〜2.5μmのものの個数割合が20%と40%のものは、15%、45%のものと比べて室温硬度、0.2%耐力、および相対密度が優れていた。
【0148】
同様に、合金中のTiC粒のうち、粒径が4.0〜6.0μmのものの個数割合が10%と30%のものは、5%、35%のものと比べて室温硬度、0.2%耐力、および相対密度が優れていた。
【0149】
この結果から、合金中のTiC粒のうち、粒径が0.5〜2.5μmのものの個数割合が20%〜40%で、かつ粒径が4.0〜6.0μmのものの個数割合が10%〜30%のものは、室温硬度、0.2%耐力および相対密度に優れることが分かった。
【0150】
(実施例7)
種々の粉末配合率で、焼結温度1800℃で焼結体を製造し、その他は実施例1と同様の条件で合金を製造した。また、実施例1の常圧焼結とHIPの代わりに、温度1600℃、圧力30MPaで焼結HIPを行い、その他は実施例1と同様の条件で合金を製造した。これらの製法で得られた焼結体について、焼結後、HIP後、および焼結HIP後の合金の密度を比較した結果を表8に示す。
【表8】
【0151】
表8から明らかなように、いずれの合金も、焼結後よりもHIP後の相対密度が上昇しており、焼結とHIPを組み合わせることにより、焼結温度を抑えつつ、合金の密度を上昇させられることが分かった。また、低温の焼結HIPのみでも、常圧焼結と相対密度が同等の合金が得られることが分かった。
【0152】
(実施例8)
上記した発明品うち、粉末配合率を、Mo粉末が54.4質量%、Mo
5SiB
2粉末が44.6質量%、TiC粉末が1質量%として合金を製造したもの(実施例1参照)について、以下の条件でX線回折を行った。具体的な条件は以下の通りである。
【0153】
装置:(株)リガク製X線回折装置(型番:RAD-IIB)
管球:Cu(KαX線回折)
発散スリットおよび散乱スリットの開き角:1°
受光スリットの開き幅:0.3mm
モノクロメーター用受光スリットの開き幅:0.6mm
管電流:30mA
管電圧:40kV
スキャンスピード:1.0°/min
結果を
図6に示す。
【0154】
図6に示すように、不可避化合物であるMo
2C、Mo
3Siに起因するピークが観察され、ピーク強度はMo最強線ピーク(110)面強度に対し、Mo
2C(101)面ピーク強度が8.8%、Mo
3Si(211)面ピーク強度が2.0%程度であった。
【0155】
そのため、不可避化合物の含有量がこの程度であれば、本願発明の作用効果である室温硬度、高温0.2%耐力に影響しないことが分かった。
【0156】
なお、この発明品ではTiC配合量が微量であったため、X線回折におけるTiCのピークは、非常に低い強度となり明確には検出できなかった。