(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血中アルギニン濃度を上昇させる必要のある被験体に、1回あたりの摂取量が、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して200mg〜3gであり、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の組成比が、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算した重量比で1:2〜2:1となるように調整された経口剤を摂取させる工程を含む、経口剤を摂取させた後1時間以内に血中アルギニン濃度を上昇させるための方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
血流を促進させる必要のある被験体に、1回あたりの摂取量が、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して200mg〜3gであり、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の組成比が、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算した重量比で1:2〜2:1となるように調整された経口剤を摂取させる工程を含む、経口剤を摂取させた後40分以内に血流を促進させるための方法(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【背景技術】
【0002】
アルギニンは、一酸化窒素(NO)合成酵素の直接的な基質となるアミノ酸である。また、肝臓においては尿素回路の中間体でもあり、体内で産生したアンモニアを解毒するのに重要な役割を担っている。その生理作用としては、アルギニンの経口摂取による血管拡張(非特許文献1)、血圧上昇抑制(非特許文献2)、性的機能改善(非特許文献3)などが報告されている。
【0003】
また、アルギニンには、成長ホルモン分泌作用が知られている(非特許文献4)。成長ホルモンには、タンパク質合成、糖代謝、脂質代謝などを促進する作用があることから、アルギニンの摂取により、筋肉合成、創傷治癒作用が期待される。その他にも、アンモニア解毒(非特許文献5)、免疫賦活(非特許文献6)、インスリン分泌(非特許文献7)、ポリアミン合成作用(非特許文献8)など、動物やヒトで経口摂取されることにより発揮される効果が数多く知られている。
【0004】
このため、生体内のアルギニンレベルを高めることは、健康維持や病状改善に有用であると考えられる。実際、該効果を期待して、アルギニンを医薬品や機能性食品等の形態で摂取することが行われている。
【0005】
一方シトルリンは、生体内でタンパク質の合成原料としては使われず、遊離の状態で存在するアミノ酸の一種である。体内ではアルギニン前駆体としてアルギニン生合成や、NOの供給に関わるNOサイクルの構成因子として重要な役割を果たしている。
【0006】
シトルリンを経口摂取すると、大部分が腎臓でアルギニンに変換され、全身に効率よくアルギニンが供給されることが知られている(非特許文献9)。血中のアルギニンレベルを上昇させるには、シトルリンを摂取した方がアルギニンそのものを摂取するよりも有効であることが報告されている(非特許文献10)。また、シトルリンとアルギニンを組合せて摂取した場合、それぞれを単独摂取するよりもNO産生が増強され、抗動脈硬化作用が強化されることが報告されている(非特許文献11)。しかしながら、これらはいずれも長期間の摂取による効果である。
【0007】
一方、血中アルギニンレベルを高めることにより予防または改善が期待できる効果のうち、冷え症やむくみ、肩凝り、勃起不全など血流低下による一過性の症状や、運動後のアンモニア蓄積による筋肉疲労などにおいては、摂取後短時間で効果が現れることが望ましいと考えられる。ところが、摂取後血中のアルギニン濃度を迅速かつ効果的に高める経口剤は知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、摂取後血中のアルギニン濃度を迅速かつ効果的に高めるための経口剤および方法の提供であり、速やかにアルギニンの摂取効果が得られる経口剤および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を有効成分として経口剤に含有させることにより、経口摂取後速やかに血中のアルギニン濃度の上昇が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記の[1]〜[18]に関する。
[1]シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有する、即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤。
[2]シトルリンまたはその塩を有効成分として含有する経口剤と、アルギニンまたはその塩を有効成分として含有する経口剤を含む、キットまたはセット形態の即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤。
[3]血流促進用である、上記[1]または[2]に記載の経口剤。
[4]血流低下から生じる症状の予防または改善用である、上記[1]または[2]に記載の経口剤。
[5]血流低下から生じる症状が、肩凝り、冷え症、むくみおよび勃起不全より選ばれる少なくとも一つの症状である、上記[4]に記載の経口剤。
[6]血中アンモニア濃度の上昇抑制用である、上記[1]または[2]に記載の経口剤。
[7]血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状の予防または改善用である、上記[1]または[2]に記載の経口剤。
[8]血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状が、運動後の筋肉疲労または疲労感である、上記[7]に記載の経口剤。
[9]即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤を製造するための、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の使用。
[10]即効性血流促進用経口剤を製造するための、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の使用。
[11]血流低下から生じる症状の即効的な予防または改善用経口剤を製造するための、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の使用。
[12]即効性血中アンモニア濃度上昇抑制用経口剤を製造するための、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の使用。
[13]血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状の即効的な予防または改善用経口剤を製造するための、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の使用。
[14]即効的に血中アルギニン濃度を上昇させるための方法であって、即効的にアルギニンの血中濃度を上昇させる必要のある被験体に、該被験体の血中アルギニン濃度を即効的に上昇させるのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む、方法。
[15]即効的に血流を促進させるための方法であって、即効的に血流を促進させる必要のある被験体に、該被験体の血流を促進させるのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む、方法。
[16]血流低下から生じる症状を即効的に予防または改善するための方法であって、即効的に該症状の予防または改善の必要な被験体に、該被験体の該症状を予防または改善するのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む、方法。
[17]即効的に血中アンモニア濃度の上昇を抑制するための方法であって、即効的に血中アンモニア濃度の上昇を抑制する必要のある被験体に、該被験体の血中アンモニア濃度上昇を抑制するのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む、方法。
[18]血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状を即効的に予防または改善するための方法であって、即効的に該症状の予防または改善の必要な被験体に、該被験体の該症状を予防または改善するのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によりアルギニンの血中濃度を迅速かつ効果的に増大させることができるので、血流低下や血中アンモニア濃度の上昇から生じる諸症状を短時間で改善することができる。また、本発明の経口剤は安全性が高いものであるため、該症状の発生が予想される前だけでなく、日常的に摂取することにより該症状の発生を効果的に予防することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を有効成分として含有する、即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤(本発明の経口剤ということもある)に関する。本発明において、「即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤」とは、ヒトまたはヒト以外の動物への経口摂取または経口投与により、血中アルギニン濃度を速やかに増大させるための経口剤をいう。
【0015】
つまり本発明の経口剤は、体内の血中アルギニン濃度を速やかに増大させることができる。本発明において「血中アルギニン濃度を増大させる」とは、アルギニンの血中濃度時間曲線下面積(AUC;area under the blood concentration-time curve)を、アルギニンもしくはその塩またはシトルリンもしくはその塩をそれぞれ単独で投与した場合と比較して増大させることを意味する。ここで「血中濃度時間曲線下面積(AUC;area under the blood concentration-time curve)」とは、薬物等の血中濃度の時間経過を表したグラフで描かれる曲線(薬物血中濃度−時間曲線)と、横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積のことであり、体内薬物量等の有用な指標である。
【0016】
本発明で用いるシトルリンおよびアルギニンとしては、L−体、D−体およびDL−体のいずれであってもよいが、L−体が好ましい。
【0017】
また、本発明で用いるシトルリンおよびアルギニン並びにこれらの塩は、これらを多く含有する動植物から単離精製する方法、化学的に合成する方法、発酵生産する方法等により取得することができる。さらにまた、例えばシグマ−アルドリッチ社等より市販品を購入することもできる。
【0018】
本発明において用い得るシトルリンおよびアルギニンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0019】
上記酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0020】
上記金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。
【0021】
上記アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。
【0022】
上記有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。
【0023】
上記アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩が挙げられる。
【0024】
なお、本発明においては、シトルリンの塩としては、リンゴ酸塩が好ましい。また、アルギニンの塩としては、塩酸塩およびアスパラギン酸塩が好ましい。
【0025】
本発明の経口剤としては、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩をそのまま摂取または投与することも可能であるが、通常各種の製剤として提供するのが望ましい。
【0026】
本発明に係る上記製剤は、有効成分としてシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を含有するが、更に任意の有効成分を含有していてもよい。また、それら製剤は、有効成分を薬理学的に許容される一種またはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0027】
本発明の経口剤の剤形としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、乳剤、シロップ剤、カプセル剤等が挙げられるが、錠剤または顆粒剤が好ましい。また、本発明の経口剤を製剤化する際には、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤、矯味剤、着香剤、着色剤等の添加剤を用いることができる。
【0028】
例えば、経口剤の剤形が錠剤、散剤、顆粒剤等の場合には、乳糖、白糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコン油等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
【0029】
経口剤の剤形がシロップ剤等の液体調製物である場合は、水、蔗糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類などを添加して製剤化することができる。
【0030】
また、本発明の経口剤においては、シトルリンまたはその塩とアルギニンまたはその塩とを、同一の経口剤に含有させて調製してもよいが、それぞれ別々に製剤化し、それらを組み合わせて、キットまたはセット形態の即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤(以下、単にキット等ともいう)として用いてもよい。
【0031】
上記のキット等に含まれる各経口剤は、それぞれ別個に存在する形態であれば、いずれの状態で存在してもよい。例えば、それぞれの経口剤が異なる剤形であってもよく、また別個に包装されていてもよいし、同一の容器内に包含されていてもよい。
【0032】
本発明の経口剤は、そのまま、または一般に飲食品に用いられる添加剤を加えて、例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態として、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等の飲食品として用いてもよい。上記添加剤としては、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が挙げられる。また、飲食品が健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等である場合には、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩が1食あたりの摂取単位量の形態で包装された形態や、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩が懸濁あるいは溶解した飲料が1食あたりの飲み切りの形態で瓶等に充填された形態などが挙げられる。
【0033】
本発明の経口剤におけるシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の含有量は、製剤の種類、当該製剤の投与または摂取により期待する効果等に応じて適宜決定されるが、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して通常は0.1〜100重量%、好ましくは0.5〜80重量%、特に好ましくは1〜70重量%である。また、本発明の経口剤におけるシトルリンまたはその塩とアルギニンまたはその塩の組成比は、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算した重量比で1:20〜20:1、好ましくは1:5〜5:1、特に好ましくは1:2〜2:1である。
【0034】
本発明の経口剤を摂取または投与する場合の投与量および投与回数は、投与形態、被投与者の年齢、体重等により異なるが、通常、成人1日当り、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して通常は50mg〜30g、好ましくは100mg〜10g、特に好ましくは200mg〜3gとなるように、1日1回ないし数回投与する。また投与期間は、特に限定されないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは1週間〜3ヶ月間である。
【0035】
なお、本発明の経口剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。非ヒト動物としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等、好ましくはほ乳類に属する非ヒト動物を挙げることができる。
【0036】
非ヒト動物に投与する場合の投与量は、動物の年齢、種類、症状の性質もしくは重篤度等により異なるが、通常、体重1kg1日当たり、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の総量として、遊離のシトルリンおよびアルギニンに換算して通常は1〜600mg、好ましくは2〜200mg、より好ましくは4〜60mgとなるように1日1回ないし数回投与する。また投与期間は、特に限定されないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは1週間〜3ヶ月間である。
【0037】
本発明の経口剤は、血流を促進するために使用することがきる。また、本発明の経口剤は、血流低下から生じる症状の予防または改善に使用することができる。血流低下から生じる症状としては、例えば肩凝り、冷え症、むくみ、勃起不全等が挙げられる。
【0038】
また、本発明の経口剤は、血中アンモニア濃度の上昇を抑制するために使用することができる。また、本発明の経口剤は、血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状の予防または改善に使用することができる。血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状としては、例えば運動後の筋肉疲労や疲労感等が挙げられる。本発明の経口剤は即効性を有することから、運動前に摂取したり、運動後に摂取することにより、筋肉疲労や疲労感等を効果的に予防したり、回復を早めることができる。
【0039】
さらに本発明においては、即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤を製造するために、シトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を使用する。即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤は、血流促進用経口剤もしくは血流低下から生じる症状の予防または改善用経口剤として、あるいは血中アンモニア濃度の上昇抑制用経口剤もしくは血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状の予防または改善用経口剤として、製造され得る。
【0040】
さらにまた本発明は、即効的にアルギニンの血中濃度を上昇させるための方法を包含する。本発明の方法は、即効的にアルギニンの血中濃度を上昇させる必要のある被験体に、該被験体の血中アルギニン濃度を即効的に上昇させるのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む。該方法は、即効的に血流を促進させるための方法、または血流低下から生じる症状を即効的に予防または改善するための方法として、血流促進あるいは該症状の予防または改善の必要な被験体に、該被験体の血流を即効的に促進し、あるいは該症状を即効的に予防または改善するのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む。さらに該方法は、即効的に血中アンモニア濃度の上昇を抑制するための方法、あるいは血中アンモニア濃度の上昇から生じる症状を即効的に予防または改善するための方法であって、血中アンモニア濃度の上昇抑制、あるいは該症状の予防または改善の必要な被験体に、該被験体の血中アンモニア濃度の上昇を即効的に抑制し、あるいは該症状を即効的に予防または改善するのに十分な量のシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩を投与する工程を含む。
【0041】
なお、上記の即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤の製造等、および即効的にアルギニンの血中濃度を上昇させるための方法等において用いられるシトルリンまたはその塩およびアルギニンまたはその塩の具体的態様や、用いる量などについては、上記したものと同様である。また上記において、「被験体」にはヒトおよび非ヒト動物が含まれる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0043】
まず、L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する即効性血中アルギニン濃度上昇型経口剤の効果を調べた試験例を示す。
【0044】
[試験例1]
15匹の9週齢雄性SDラット(日本エスエルシー株式会社)の頸静脈にカテーテルを留置し、3日間予備飼育した後、3群に分けた。非絶食下にて、一匹あたりL−シトルリンまたはL−アルギニンが2.85mmol/kgとなるように(それぞれ499.3mg/kgおよび496.5mg/kg)、それぞれ第1群、第2群のラットにゾンデにて経口投与した。さらに、一匹あたりL−シトルリンおよびL−アルギニンを1.43mmol/kgずつとなるように(それぞれ250.5mg/kgおよび249.1mg/kg)、第3群のラットにゾンデにて経口投与した。
【0045】
投与前、投与後30分、1、2および4時間に頸静脈より血液を採取した。血液は、あらかじめ1%ヘパリンを分注した1.5mLチューブに採取し、遠心分離(12000rpm,10分間, 4℃)を行うことにより血漿を得た。その後、血漿と同量の3%スルホサリチル酸を加えて混和し氷上に1時間静置し、遠心分離(12000rpm,10分間,4℃)を行うことにより、除タンパクした血漿を分析用サンプルとした。分析用サンプル中のL−アルギニンの定量は、全自動アミノ酸分析機(JOEL JLC−500/V)を用いて実施した。
【0046】
血漿中のL−アルギニン(Arg)の定量結果を
図1に示す。
図1にて、投与後30分および1時間において、第1群(L−シトルリン投与群)および第2群(L−アルギニン投与群)と比較して、第3群(L−シトルリンおよびL−アルギニン投与群)では有意な最高血中濃度(C
max)の上昇および最高血中濃度到達時間(T
max)の短縮が認められた。
【0047】
さらに、薬物などの生物学的利用能を比較するのに有用な指標である血中濃度時間曲線下面積(AUC;area under the blood concentration-time curve、血中濃度と時間で囲まれた面積)を計算した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より明らかなように、投与後30分以内および1時間以内において、第1群(L−シトルリン投与群)および第2群(L−アルギニン投与群)と比較して、第3群(L−シトルリンおよびL−アルギニン投与群)では有意な血中濃度時間曲線下面積の上昇を示していた。
【0050】
[試験例2]
14週齢雄性ニュージーランドウサギ(北山ラベス株式会社)を購入し、28日間予備飼育した後、3群(n=3または4)に分けた。16時間絶食させた後、一羽あたりL−シトルリンまたはL−アルギニンが2.85mmol/kgとなるように(それぞれ499.3mg/kgおよび496.5mg/kg)、それぞれ第1群、第2群のウサギにゾンデにて経口投与した。さらに、一羽あたりL−シトルリンおよびL−アルギニン1.43mmol/kgずつとなるように(それぞれ250.5mg/kgおよび249.1mg/kg)、第3群のウサギにゾンデにて経口投与した。
【0051】
投与前、投与後30分、1、2および4時間に耳静脈より血液を採取し、血漿中のL−アルギニン、NO代謝産物およびcGMPの定量に供した。血液は、あらかじめ1%ヘパリンを分注した1.5mLチューブ(L−アルギニン定量用)、またはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA−2Na)添加チューブ(NO代謝産物およびcGMP定量用)に採取し、遠心分離(12000rpm,10分間, 4℃)を行うことにより血漿を得た。ヘパリン血漿においては、その後、同量の3%スルホサリチル酸を加えて混和し氷上に1時間静置し、遠心分離(12000rpm,10分間, 4℃)を行うことにより、除タンパクした血漿を分析用サンプルとした。
【0052】
分析用サンプル中のL−アルギニンの定量は全自動アミノ酸分析機(JOEL JLC−500/V)を、NO代謝産物(NO
x:NO
2+NO
3)の定量は窒素酸化物測定装置(Eicom ENO10)を、cGMPの定量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Amersham Pharmacia RPN226)を用いて実施した。
【0053】
また、投与後35分から40分において、耳動脈周囲の血流量をレーザードップラー血流測定装置(Laser Doppler Perfusion Imager PIMII)を用いて測定した。耳動脈基部から3cmの部位と先端の2カ所でそれぞれ血流量を測定し、平均した。投与前の血流量を1とした場合の、各群の相対値を求め、投与前と比較した時の増加量(Δ血流量)で表した。
【0054】
血漿中のL−アルギニン(Arg)、NO代謝産物(NO
x)およびcGMPの定量結果を
図2〜
図4に、血流量の測定結果を
図5に示す。
【0055】
図2〜
図4より明らかなように、血漿中のL−アルギニン、NO代謝産物およびcGMPのいずれにおいても、投与後30分および1時間において、第1群(L−シトルリン投与群)および第2群(L−アルギニン投与群)と比較して、第3群(L−シトルリンおよびL−アルギニン投与群)では最高血中濃度(C
max)の上昇が認められた。また、血漿中のL−アルギニンおよびcGMPにおいては、最高血中濃度到達時間(T
max)の短縮も認められた。
【0056】
なお、
図2において、0.5時間後の第3群の血漿中のL−アルギニン濃度について、第1群との間でP<0.05で有意差が見られた。
図3においては、1時間後の第3群の血漿中のNO代謝産物の濃度について、第1群および第2群との間で、P<0.05でそれぞれ有意差が見られた。また
図4では、2時間後の第3群の血漿中のcGMP濃度について、第2群との間でP<0.05で有意差が見られた。
【0057】
また、
図5より明らかなように、耳動脈の血流量においても、第1群(L−シトルリン投与群)および第2群(L−アルギニン投与群)と比較して、第3群(L−シトルリンおよびL−アルギニン投与群)では増加していることが認められた。ただし、n数が少ない(n=2)ため、統計学的な有意差は認められなかった。
【0058】
さらに、血漿中のL−アルギニン、NO代謝産物およびcGMPの血中濃度時間曲線下面積を計算し、結果を表2〜表4に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表2〜表4より明らかなように、血漿中のL−アルギニン、NO代謝産物およびcGMPのいずれにおいても、投与後30分以内および1時間以内において、第1群および第2群と比較して、第3群では血中濃度時間曲線下面積の上昇を示していた。
【0063】
以下に、本発明の実施例を示す。
【0064】
[実施例1:L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する錠剤の製造]
L−シトルリン68.1kg、L−アルギニン68.1kg、微結晶セルロース36.0kg、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg、リン酸カルシウム1.2kgおよびβ-シクロデキストリン20.0kgを、コニカルブレンダーで混合する。得られる混合物をロータリー圧縮成形機で圧縮成形して錠剤を製造する。
【0065】
[実施例2:L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する腸溶錠剤の製造]
実施例1で製造する錠剤の表面をシェラック溶液でコーティングして、腸溶錠剤を製造する。
【0066】
[実施例3:L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する腸溶カプセルの製造]
L−シトルリン68.1kg、L−アルギニン68.1kg、微結晶セルロース36.0kg、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg、リン酸カルシウム1.2kgおよびβ-シクロデキストリン20.0kgを、コニカルブレンダーで混合する。得られる混合物20kgと0.2kgの二酸化ケイ素とを混合攪拌して得られた混合物をカプセル充填機に投入し、ハードカプセルに充填してハードカプセルを得る。得られるハードカプセルの表面をツェイン溶液でコーティングして腸溶カプセルを製造する。
【0067】
[実施例4:L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する飲料の製造]
L−シトルリン0.64kg、L−アルギニン0.64kg、エリスリトール3kg、クエン酸0.05kg、人工甘味料3g、香料0.06kgを液温70℃で水50Lに攪拌溶解し、クエン酸でpHを3.3に調整後、プレート殺菌を用いて滅菌して瓶に充填する。次いで、パストライザー殺菌し、飲料を製造する。
【0068】
[実施例5:L−シトルリンおよびL−アルギニンを含有する飲料の製造]
L−シトルリン1.00kg、L−アルギニン0.28kg、エリスリトール3kg、クエン酸0.05kg、人工甘味料3g、香料0.06kgを液温70℃で水50Lに攪拌溶解し、クエン酸でpHを3.3に調整した後、プレート殺菌を用いて滅菌して瓶に充填する。次いで、パストライザー殺菌し、飲料を製造する。