(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
圧電効果が期待できる材料としては、様々なものが知られているが、精度が良く安定した周波数が得られる水晶が従来から好適に使用されている。そして、この水晶を利用したデバイスの1つとして、水晶振動子が知られている。
この水晶振動子は、所定の形状に形成された水晶振動板に電極膜が形成された水晶振動片と、この水晶振動片を気密状態でパッケージングする保持器と、で主に構成されており、各種電子機器内に内蔵されている。
【0003】
水晶振動片は、保持器内で実装される表面実装部品とされており、実装部材を介して実装されている。この際、水晶振動片は、実装部材によって機械的に保持されているだけでなく、実装部材を介して自身の電極膜と保持器側のインナー電極とが電気的接続されるようになっている。そのため、実装部材としては、導電性接着剤や金バンプ等が好適に用いられている。
【0004】
また、水晶振動片を実装する場合には、高い実装強度を確保して品質を維持することが重要であるが、これと同時に励起された振動に極力影響を与えずに実装を行うことが重要とされている。つまり、振動特性を低下させることなく実装することが重要である。
そのため、水晶振動片に対する実装部材の位置を、強度的な観点や振動特性に考慮した観点に基づいて決定することが必要である。
【0005】
ところで、水晶はその結晶性や圧電性によって色々な振動モードが存在しており、振動モードによって周波数を決定するパラメータが異なっている。このうち、厚みがパラメータとなる水晶振動片として、厚み滑り振動するAT振動片が知られている。
このAT振動片は、水晶をATカット(表裏の主面がX軸回りにZ軸から半時計方向に約35度15分の角度となるようにカット)した後に所定の厚さ及び矩形状に外形形成されたAT振動板(水晶振動板)と、該AT振動板の主面に形成された電極膜と、で構成された振動片であり、電極膜に電圧が印加されるとAT振動板が厚み滑り振動するものである。
【0006】
このようなAT振動片においては、その厚みを中央部から端部に向けて徐々に薄く形成すると、端部での振動変位の減衰量が大きくなり、中央部に振動エネルギーを閉じ込める効果を期待できることが知られている。この効果は、CI値やQ値等の周波数特性の向上に繋がるものである。従って、AT振動片を作製する場合にはこのような形状にすることが好ましいとされている。具体的には、AT振動板の主面を凸形曲面にしたコンベックス形状や、主面の中央部と端部との間を斜面で繋いだベベル形状等である。
【0007】
このうち、ベベル加工を施した水晶振動片を実装する場合において、上述した実装強度及び振動特性を考慮した圧電振動子が知られている(特許文献1参照)。
この圧電振動子においては、実装部材としてバンプを採用しており、その位置をベべリング円弧に沿って等高線状に複数配置している。しかも、圧電振動片の曲率に合わせてバンプの大きさを変化させて、保持する際の高さの違いを吸収している。
このように、バンプを等高線状に複数配置したうえ保持する際の高さの違いを吸収しているので、高い実装強度を確保している。また、振動特性に影響を与え難いベベル加工の部分にバンプを位置させているので、バンプによって振動が阻害され難く、振動特性に影響を与え難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、この種の圧電振動子は、近年の電子機器の小型化、コンパクト化傾向に伴って、さらなる小型化が求められている。この点は、圧電振動子の1つでもある水晶振動子に関しても同様である。
そのため、水晶振動子のサイズを決定しうる水晶振動片自体のサイズを、より小型化することが求められている。従来、水晶振動片を作製する場合、水晶から所定の切断角度で切り出された水晶板に対して機械加工で外形形成することで、水晶振動片とすることが一般的であった。しかしながら、機械加工では加工精度に限界があり、より微細で小型な水晶振動片を作製することが難しくなりつつある。そこで、現在では、水晶振動片の加工方法が、機械加工からフォトリソグラフィ技術及びエッチング加工技術を利用した方法に変化しつつあるのが現状である。
【0010】
しかしながら、フォトリソグラフィ技術やエッチング加工を利用する場合には、水晶振動片にコンベックス形状やベベル形状を形成することは困難であり、実際上、ほぼ不可能に近い。従って、ベベル加工の部分にバンプを配置した従来の実装方法を採用することができず、これに変わる新たな実装方法が求められている。
【0011】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、エッチング加工を利用して外形形成した場合であっても、振動特性の低下を抑制しながら高い実装強度で実装を行えることができる水晶振動片を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係る水晶振動片は、ATカットされた水晶板がウェットエッチング加工により平面視矩形状に形成された水晶振動板と、該水晶振動板の表裏主面上にそれぞれ形成された一対の電極膜と、前記水晶振動板の一方の主面上における前記一対の電極膜上にそれぞれ形成され、外部電極と一対の電極膜とを導通させると共に前記水晶振動板を保持する一対の実装部材と、を備え、前記水晶振動板は、前記一方の主面に対して鈍角となる角度で傾斜した傾斜面を側面の一部に有し、前記一対の実装部材のうち少なくとも一方は、前記一方の主面上であって且つ前記傾斜面と前記一方の主面との間に形成される稜線の延長線上に位置するように形成され、前記傾斜面は、水晶結晶のZ’軸方向に沿って形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る水晶振動片においては、一対の実装部材によって保持(マウント)されていると共に、実装部材を介して電極膜が外部電極に導通された状態となっている。ここで、一対の実装部材を通じて外部電極から電圧が印加されると、水晶振動板の表裏主面上にそれぞれ形成された一対の電極膜に電圧が印加される。すると、水晶振動板が励起されて厚み滑り振動する。そのため、水晶振動片は一対の実装部材によって保持された状態で厚み滑り振動するようになっている。
【0014】
ところで、水晶振動板は、水晶をATカットすることで得られた水晶板にウェットエッチング加工を施すことで外形形成されたものである。従って、機械加工と異なり微細化、小型化に対応することが可能である。
しかも、水晶振動板の側面の一部には、実装部材が設けられている一方の主面に対して
鈍角となる角度で傾斜した傾斜面がウェットエッチング加工によって形成されている。つまり、水晶特有のエッチング異方性を利用して傾斜面が形成されている。特に、この傾斜面は一方の主面に対して鈍角に形成されているので、電極膜にて励起された振動を傾斜面にて減衰させることが可能である。つまり、稜線上又はその稜線の延長線上にて、振動を減衰させることができる。
【0015】
従って、一対の実装部材のうち少なくとも一方の実装部材をこの稜線上又は稜線の延長線上に形成することで、励起された振動を阻害し難くすることができる。よって、振動特性の低下を抑制しながら、水晶振動片の実装を行うことができる。また、従来と同様に実装部材を利用して実装を行えるので、高い実装強度に関しても確保することができる。
【0016】
(2)本発明に係る水晶振動片は、上記本発明の水晶振動片において、前記傾斜面が、水晶結晶のX軸方向に沿った前記側面の全長に亘って形成され、前記実装部材が、前記稜線上に形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る水晶振動片においては、傾斜面が側面の全長に亘って形成されているので、ウェットエッチング加工時に傾斜面を形成し易い。また、一対の実装部材のうち少なくとも一方の実装部材が稜線上に形成されているので、励起された振動をより阻害し難く、振動特性の低下をより効果的に抑制することができる。
更に、傾斜面が水晶結晶のX軸方向に沿った側面の全長に亘って形成されているので、稜線に輪郭振動が生じ難い。従って、輪郭振動によって厚みすべり振動が阻害されてしまうことを抑制でき、この点においても振動特性の低下をより効果的に抑制し易い。
【0018】
(3)本発明に係る水晶振動片は、上記本発明の水晶振動片において、前記傾斜面が、水晶結晶のZ’軸方向に沿った前記側面の全長に亘って形成され、前記実装部材が、共に前記稜線上に形成されていることを特徴とする水晶振動片。
【0019】
本発明に係る水晶振動片においては、傾斜面が側面の全長に亘って形成されているので、ウェットエッチング加工時に傾斜面を形成し易い。また、一対の実装部材の両方が稜線上に形成されているので、電極膜にて励起された振動をより阻害し難く、振動特性の低下をより効果的に抑制することができる。
ところで、励起された振動は、水晶結晶のZ’軸方向に沿った側面において位相が零に等しい。そして、この側面に沿って傾斜面が形成され、その傾斜面の稜線上に一対の実装部材を形成していることからも振動特性の低下をより効果的に抑制し易い。
【0020】
(4)本発明に係る水晶振動片は、上記本発明の水晶振動片において、前記傾斜面が、水晶結晶のX軸方向に沿った前記側面に部分的に形成され、前記実装部材が、前記一方の主面上であって且つ前記稜線の延長線上に位置するように形成されていることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る水晶振動片においては、傾斜面がX軸方向に沿った側面の全長に亘って形成されているのではなく、部分的に形成されている。そして、一対の実装部材のうち少なくとも一方の実装部材は、その傾斜面の稜線上ではなく、一方の主面上の平坦部分であって且つ稜線の延長線上に位置するように形成されている。従って、振動特性の低下を抑制しながら、平坦部分を利用して実装部材をより安定に形成することができ、実装品質をより高めることができる。
更に、傾斜面が水晶結晶のX軸方向に沿った側面に形成されているので、稜線に輪郭振動が生じ難い。従って、輪郭振動によって厚みすべり振動が阻害されてしまうことを抑制でき、振動特性の低下を抑制し易い。
【0022】
(5)本発明に係る水晶振動片は、上記本発明の水晶振動片において、前記電極膜が、前記傾斜面上にも形成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る水晶振動片においては、電極膜が傾斜面上にも形成されているので、実装時に仮に実装部材が一方の主面上の平坦部分から傾斜面側に広がってしまったとしても、電極膜との導通を確保することができる。従って、電極膜と外部電極との導通性を確実にすることができ、実装品質を向上することができると共に安定した振動特性を維持することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る水晶振動片によれば、エッチング加工を利用して外形形成されているので、微細化、小型化に対応することができるうえ、振動特性の低下を抑制しながら高い実装強度で実装を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る実施形態を説明するための図であって、厚み滑り振動片を有する表面実装型の水晶振動子の分解斜視図である。
【
図2】水晶板の切断角度及び水晶結晶の座標軸を説明するためのランバード原石の斜視図である。
【
図3】
図1に示す厚み滑り振動片を裏側から見た斜視図である。
【
図4】
図3に示す厚み滑り振動片を矢印A方向から見た平面図である。
【
図5】
図4に示す厚み滑り振動片を矢印B方向から見た側面図である。
【
図6】
図3に示す厚み滑り振動片の製造方法を説明するための一工程図であって、水晶板の表裏主面にマスクを形成した状態を示す断面図である。
【
図7】
図6に示す状態の後、水晶板の両面をウェットエッチング加工した初期段階の状態を示す断面図である。
【
図8】
図7に示す状態の後、ウェットエッチング加工が進行した状態を示す断面図である。
【
図9】
図8に示す状態の後、ウェットエッチング加工がさらに進行した状態を示す断面図である。
【
図10】
図9に示す状態の後、ウェットエッチング加工がさらに進行して傾斜面が形成された状態を示す断面図である。
【
図11】本発明に係る厚み滑り振動片の変形例を示す図であって、裏側から平面図である。
【
図12】
図11に示す厚み滑り振動片のC−C線に沿った断面図である。
【
図13】
図11に示す厚み滑り振動片を矢印D方向から見た側面図である。
【
図14】
図11に示す厚み滑り振動片の別の変形例を示す図である。
【
図15】
図14に示す厚み滑り振動片を矢印E方向から見た側面図である。
【
図16】
図11に示す厚み滑り振動片のさらに別の変形例を示す図である。
【
図17】
図11に示す厚み滑り振動片のさらに別の変形例を示す図である。
【
図18】本発明に係る厚み滑り振動片の変形例を示す図であって、裏側から平面図である。
【
図19】
図18に示す厚み滑り振動片を矢印F方向から見た側面図である。
【
図20】
図19に示す厚み滑り振動片の別の変形例を示す図である。
【
図21】
図11に示す厚み滑り振動片のさらに別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を、
図1から
図21を参照して説明する。なお、本実施形態では、厚み滑り振動片(水晶振動片)を有する表面実装型の水晶振動子を例に挙げて説明する。
【0027】
本実施形態の水晶振動子1は、
図1に示すように、ベース基板2とリッド基板3とで2層に積層された箱状に形成されており、内部のキャビティC内に厚み滑り振動片4がマウントされている。なお、
図1は、水晶振動子1の分解斜視図である。
厚み滑り振動片4は、水晶振動板10と、この水晶振動板10の表裏主面上にそれぞれ形成された一対の電極膜20と、で主に構成されている。
【0028】
水晶振動板10は、
図2に示すように、X軸、Y軸、Z軸で水晶結晶の座標軸が定義された水晶のランバード原石6をATカット(表裏主面がX軸回りにZ軸から半時計方向に約35度15分の角度となるようにカット)されることで得られた水晶板7を、その後、ウェットエッチング加工によって平面視矩形状に形成されたものである。
なお、
図2は、水晶板7の切断角度及び水晶結晶の座標軸を説明するためのランバード原石6の斜視図である。また、本実施形態においてZ’軸とは、
図1に示すように、水晶振動板10の表裏主面上においてX軸と直交する方向の結晶軸であり、Y’軸とはX軸及びZ’軸に対して直交する結晶軸をいう。
【0029】
水晶振動板10について詳細に説明する。
本実施形態の水晶振動板10は、
図3から
図5に示すように、X軸方向に沿って長辺が延在し、Z’軸方向に沿って短辺が延在するように、ウェットエッチング加工によって平面視矩形状に形成された振動板である。
水晶振動板10の表裏主面10a、10b(表側の主面(他方の主面)10a及び裏側の主面(一方の主面)10b)は、共に平坦面とされている。
【0030】
なお、
図3は、
図1に示す厚み滑り振動片4を裏側から見た斜視図である。
図4は、
図3に示す厚み滑り振動片4を矢印A方向から見た平面図である。
図5は、
図4に示す厚み滑り振動片4を矢印B方向から見た側面図である。
【0031】
また、水晶振動板10は、平面視矩形状に形成されているので4つの側面を有している。即ち、X軸方向に沿った長辺側の2つの側面と、Z’軸方向に沿った短辺側の2つの側面と、を有している。
このうち、X軸方向に沿った側面は、その全長に亘って表裏主面10a、10bに対して鈍角となる角度で傾斜した傾斜面(以下、傾斜面11と称する)とされている。この際、一方の傾斜面11は、表側の主面10aにおいてZ’軸方向の+側に設けられており、他方の傾斜面11は、裏側の主面10bにおいてZ’軸方向の−側に設けられている。なお、これら傾斜面11は、水晶結晶の自然面であるm面であり、表裏主面10a、10bとのなす角度θ(
図5参照)は、略150度程度とされている。
【0032】
上記一対の電極膜20は、
図1、
図3及び
図5に示すように、それぞれ励振電極21、引出電極22及びマウント電極23で構成されている。
このうち、励振電極21は、水晶振動板10の表裏主面10a、10bの略中央部分にそれぞれ形成され、該水晶振動板10を挟んで向かい合うように形成されている。また、水晶振動板10の表裏主面10a、10bの端部(X軸方向の−側)には、マウント電極23が短辺に沿って間隔を開けて形成されている。この際、表側の主面10aに形成されたマウント電極23と、裏側の主面10bに形成されたマウント電極23とは、傾斜面11上に形成された側面電極23aを介して電気的に接続されている。
【0033】
また、マウント電極23のうち、一方のマウント電極23は引出電極22を介して表側の主面10a上に形成された一方の励振電極21に電気的に接続され、他方のマウント電極23は引出電極22を介して裏側の主面10b上に形成された他方の励振電極21に電気的に接続されている。
なお、上述した励振電極21、引出電極22及びマウント電極23からなる電極膜20は、金等の単層膜や、クロム等の金属を下地層とした上に金等の金属層を積層した積層膜で形成されている。
【0034】
このように構成された厚み滑り振動片4は、
図3から
図5に示すバンプや導電性接着剤等の一対の実装部材25を利用して、
図1に示すようにベース基板2の上面にマウント(保持)されている。より具体的には、ベース基板2の上面に形成されたインナー電極(外部電極)30に対して、水晶振動板10の裏側の主面10bに形成された一対のマウント電極23が一対の実装部材25を介してそれぞれ接触した状態でマウントされている。
これにより、厚み滑り振動片4は、ベース基板2の上面に機械的に保持されると共に、インナー電極30とマウント電極23とがそれぞれ導通された状態となっている。
【0035】
ところで、上述した一対の実装部材25は、水晶振動板10の裏側の主面10b上における一対のマウント電極23上にそれぞれ形成されており、上記したように外部電極でもあるインナー電極30とマウント電極23とを互いに導通させると共に、水晶振動板10を機械的に保持する役割を担っている。
しかも、一対の実装部材25のうち一方の実装部材25は、水晶振動板10の裏側の主面10bと傾斜面11との間に形成される稜線E上に跨るように形成されている。なお、他方の実装部材25は、水晶振動板10の裏側の主面10b上の平坦部分に形成されている。
【0036】
ベース基板2は、例えばソーダ石灰ガラスからなる透明の基板であり、平面視矩形の板状に形成されている。リッド基板3は、ベース基板2と同様に、例えばソーダ石灰ガラスからなる透明な基板であり、ベース基板2に対して重ね合わせ可能な大きさで板状に形成されている。
また、ベース基板2の接合面(リッド基板3が接合される面)側には、厚み滑り振動片4が収まる矩形状の凹部2aが形成されている。この凹部2aは、両基板2、3が重ね合わされたときに、厚み滑り振動片4を収容するキャビティCとなるキャビティ用凹部である。
そして、ベース基板2は、この凹部2aをリッド基板3側に対向させた状態で該リッド基板3に対して陽極接合されている。なお、ベース基板2の接合面には、陽極接合用の接合膜31が凹部2aの周囲を囲むように形成されている。
【0037】
また、上述したインナー電極30は、ベース基板2を貫通する図示しないスルーホール等を利用して、ベース基板2の下面に形成された図示しない一対の外部電極に電気的に接続されている。この際、一方の外部電極は、一方のインナー電極30を介して厚み滑り振動片4の一方のマウント電極23に電気的に接続されるようになっている。また、他方の外部電極は、他方のインナー電極30を介して厚み滑り振動片4の他方のマウント電極23に電気的に接続されるようになっている。
【0038】
このように構成された水晶振動子1を作動させる場合には、ベース基板2に形成された外部電極に対して、所定の駆動電圧を印加する。これにより、実装部材25及びマウント電極23を介して厚み滑り振動片4の励振電極21に電圧を印加させることができ、実装部材25によってマウントされた状態で厚み滑り振動させることができる。
そして、この厚み滑り振動を、例えば、MHz帯の発振周波数を有する制御、通信機用の振動源等として好適に利用することができる。
【0039】
次に、上述した厚み滑り振動片4の製造方法について以下に説明する。
はじめに、水晶の原石である
図2に示すランバード原石6を用意した後、X線回析法等によりATカットを行うための角度測定を行う。次いで、測定した切断角度でランバード原石6をATカットして水晶板7を作製する。次いで、この水晶板7を適宜ラッピング加工して、所望の厚みに調整する。
【0040】
次いで、
図6に示すように、水晶板7の表裏主面7a、7bにウェットエッチング加工するためのマスクMを形成する工程を行う。
具体的には、まず水晶板7の表裏主面7a、7bにクロムを成膜してCr膜を形成した後、このCr膜上に金を成膜してAu膜を重ねて形成する。そして、これらCr膜及びAu膜をフォトリソ技術によりエッチングして、
図6に示すようにマスクMを形成する。
この際、本実施形態では、表側の主面7aに形成されるマスクMを裏側の主面7bに形成されるマスクMに対してZ’軸方向に所定量(数μm)Hだけずれるように形成する。
【0041】
次いで、水晶板7を両面からウェットエッチング加工する。すると、水晶特有のエッチング異方性によって、マスクされていない水晶板7の露出面には、
図7に示すように水晶結晶の自然面であるm面35と、その以外の結晶面36とが現れはじめる。つまり、水晶板7の表側には、Z’軸方向の+側にm面35が現れ、Z’軸方向の−側に結晶面36が現れはじめる。一方、水晶板7の裏側には、表側とは点対称に、Z’軸方向の+側に結晶面36が現れ、Z’軸方向の−側にm面35が現れはじめる。
そして、時間の経過に伴って、
図8に示すようにエッチングが進行し、さらなる進行に伴って
図9に示すようにマスクされていない部分が完全に除去され、最終的には
図10に示すように、m面35が残ることになる。これにより、このm面35を傾斜面11として利用することができる。
【0042】
この時点で水晶板7を平面視矩形状に外形形成でき、
図1に示す水晶振動板10を得ることができる。特に、X軸方向に沿った側面の全長に亘って傾斜面11を形成することができる。そして、最後に、作製した水晶振動板10の外表面上にフォトリソ技術等を利用して、励振電極21、引出電極22及びマウント電極23からなる一対の電極膜20を形成する。これにより、
図1に示す厚み滑り振動片4を得ることができる。
【0043】
上述したように、本実施形態の水晶振動板10は、水晶板7にウェットエッチング加工を施すことで外形形成されたものであるので、機械加工と異なり、微細化、小型化に対応することが可能である。
しかも、水晶振動板10のX軸方向に沿った長辺側の側面には、水晶特有のエッチング異方性を利用して傾斜面11が形成されている。特に、この傾斜面11は、表裏主面10a、10bに対して鈍角に形成されているので、励振電極21で励起された振動を傾斜面11にて減衰させることが可能である。つまり、稜線E上にて振動を減衰させることができる。
【0044】
従って、一方の実装部材25をこの稜線E上に形成することで、励起された振動を阻害し難くすることができる。よって、振動特性の低下を抑制しながら、厚み滑り振動片4の実装を行うことができる。また、従来と同様に実装部材25を利用して実装を行えるので、高い実装強度に関しても確保することができる。
【0045】
上述したように、本実施形態の厚み滑り振動片4によれば、エッチング加工を利用して外形形成されているので、微細化、小型化に対応することができるうえ、振動特性の低下を抑制しながら高い実装強度で実装を行うことができる。
更に、本実施形態では、傾斜面11がX軸方向に沿った側面の全長に亘って形成されているので、稜線Eに輪郭振動が生じ難い。従って、輪郭振動によって厚み滑り振動が阻害されてしまうことを抑制でき、この点においても振動特性の低下をより効果的に抑制し易い。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、水晶振動子1の一例として表面実装型を例に挙げて説明したが、シリンダパッケージタイプであっても構わない。
【0048】
また、上記実施形態では、X軸方向に沿った側面の両方を傾斜面11としたが、一方の側面を水晶振動板10の裏側の主面10bに対して傾斜する傾斜面11としても構わない。この場合であっても、振動特性の低下を抑制しながら高い実装強度で実装を行うことができる。但し、X軸方向に沿った側面の両方を傾斜面11とすることが、輪郭振動を効果的に抑制することができる点で好ましい。
【0049】
また、上記実施形態では、X軸方向に沿った側面の全長に亘って傾斜面11を形成したが、部分的に形成しても構わない。
例えば、
図11から
図13に示すように、水晶振動板10の裏側の主面10bに対して鈍角となる角度で傾斜した傾斜面11を、X軸方向に沿った側面の一方に部分的に形成した厚み滑り振動片(水晶振動片)40としても構わない。
この際、一方の実装部材25は、水晶振動板10の裏側の主面10b上であって、且つ、部分的に形成された傾斜面11と裏側の主面10bとの間に形成される稜線Eの延長線上に位置するように形成されている。つまり、一方の実装部材25は、傾斜面11の稜線E上ではなく、裏側の主面10bの平坦部分(実装平面部)に乗りながら稜線Eの延長線上に位置するように形成されている。
【0050】
従って、振動特性の低下を抑制しながら、平坦部分を利用して一方の実装部材25をより安定に形成することができ、実装品質を高めることができる。また、実装時の加重を一対の実装部材25の両方に対して均等に負荷させることができるので、この点においても実装品質を高めることができる。
【0051】
なお、上記のように厚み滑り振動片40を構成した場合、さらに
図14及び
図15に示すように、水晶振動板10の表側の主面10aに対して傾斜した傾斜面11に関しても、X軸方向に沿った側面に部分的に形成しても構わない。こうすることで、一対の実装部材25が形成される、X軸方向の−側の端部の表裏を共に平坦にすることができるので、水晶振動板10の機械的強度を高めることができ、実装時のマウント信頼性を向上することができる。
【0052】
ところで、通常、水晶には「旋光性」があり、結晶面の現れ方の違いによって右水晶と左水晶に分かれることが知られている。そして、右水晶からATカットされた水晶板7をウェットエッチング加工した場合には、
図16に示すように、水晶の結晶構造上、水晶振動板10の角部に切欠部41が現れてしまうことが知られている。
従って、傾斜面11を部分的に形成する場合には、この切欠部41が小さい角部を実装平面部として利用することが好ましい。
なお、左水晶からATカットされた水晶板7をウェットエッチング加工した場合には、水晶振動板10のX軸方向の−側の角部の切欠部41が小さくなる。従って、この場合には、切欠部41の位置に合わせて傾斜面11等を形成すれば良い。つまり、左水晶を利用する場合には、
図16に示すように水晶振動板10のX軸方向の−側を実装平面部とすることが好ましい。なお、右水晶の場合には、これとは逆にX軸方向の+側を実装平面部とすることが好ましい。
【0053】
また、傾斜面11を部分的に形成する場合には、
図17に示すように、傾斜面11上にもマウント電極23を形成することが好ましい。
こうすることで、実装時に仮に実装部材25が裏側の主面10bの平坦部分から傾斜面11側に広がってしまったとしても、マウント電極23との導通を確保することができる。従って、マウント電極23とインナー電極30との導通性を確実なものにすることができ、実装品質を向上することができるうえ、安定した振動特性を維持することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、X軸方向に沿った側面に傾斜面11を形成したが、Z’軸方向に沿った側面に形成しても構わない。
例えば、
図18及び
図19に示すように、Z’軸方向に沿った側面の全長に亘って傾斜面11を形成しても構わない。そして、この場合には、一対の実装部材25を傾斜面11と裏側の主面10bとの間の稜線E上に共に形成することが可能である。
このように厚み滑り振動片(水晶振動片)50を構成した場合には、一対の実装部材25の両方が稜線E上に形成されているので、励起された振動をより阻害し難く、振動特性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0055】
特に、励振電極21で励起された振動は、Z’軸方向に沿った側面において位相が零に等しいことが知られている。そのため、この側面に沿って傾斜面11を形成し、その傾斜面11の稜線E上に一対の実装部材25を形成することで、振動特性の低下をより効果的に抑制し易い。
【0056】
なお、Z’軸方向に沿った側面のうちX軸方向の+側に位置する側面に関しては、
図20に示すように垂直面にしても構わないし、
図21に示すように切妻状に形成しても構わない。いずれの場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。