特許第5872663号(P5872663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5872663射出装置、成形装置及び成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5872663
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】射出装置、成形装置及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/18 20060101AFI20160216BHJP
   B29C 45/46 20060101ALI20160216BHJP
   B29C 47/10 20060101ALI20160216BHJP
   B29C 47/38 20060101ALI20160216BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20160216BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20160216BHJP
【FI】
   B29C45/18
   B29C45/46
   B29C47/10
   B29C47/38
   B29B7/90
   B29K105:08
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-217690(P2014-217690)
(22)【出願日】2014年10月24日
【審査請求日】2015年7月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】東芝機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】淺 沼 伸 行
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−343526(JP,A)
【文献】 特開2006−282843(JP,A)
【文献】 特開平06−134837(JP,A)
【文献】 特開2013−173330(JP,A)
【文献】 米国特許第06444153(US,B1)
【文献】 特開2015−081262(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123824(WO,A1)
【文献】 特表2008−515682(JP,A)
【文献】 特開2013−230582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29B 7/00−7/94
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化材を供給可能な供給口を有するバレルと、
前記バレル内に収容されるスクリュと、
前記スクリュを回転駆動する駆動部と、
前記バレル内に母材を供給するホッパと、
連続繊維からなる少なくとも2種類の異なる特性の強化材を前記供給口から前記バレル内に供給可能な強化材供給装置と、
前記バレルから前記強化材が分散した成形材料が供給され、前記成形材料の計量を行うとともに金型内に前記成形材料を射出する射出機構と、
を備えることを特徴とする射出装置。
【請求項2】
前記強化材は、素材の異なる2種類以上の強化材であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記強化材は、素材は同じで特性が異なる2種類以上の強化材であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置。
【請求項4】
前記強化材は、素材と特性がともに異なる2種類以上の強化材であることを特徴とする請求項1に記載の射出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの項に記載した射出装置を備えることを特徴とする射出成形装置。
【請求項6】
ホッパから加熱されたバレルに母材を供給し、加熱された前記バレルの熱により前記母材を溶融し、
連続繊維からなる少なくとも2種類の強化材であって、特性を補完し合う異なる特性の強化材を前記バレル内に供給し、前記バレル内で前記強化材を前記母材に混合して複合材料を生成し、
前記複合材料を金型内に射出し成形品を成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項7】
前記強化材は、ピッチ系炭素繊維と、PAN系炭素繊維の組み合わせであることを特徴とする請求項6に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑化装置、射出装置、成形装置、押出機、及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形法により成形される成形品には、ガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維を母材の樹脂に混入した複合材料を材料とするものがある。複合材料を材料とすることにより、軽量化や機械的強度の強化を図ることができる。
【0003】
例えば、自動車の分野では、ガソリン車のさらなる燃費の向上、あるいはハイブリッド車や電気自動車の走行距離の向上を目指して、部品の材料を金属から炭素繊維強化樹脂やガラス繊維強化樹脂などの複合材料に置き換え、これによる車体重量の軽量化が検討されている。
【0004】
従来、成形品の製造メーカーでは、材料メーカーが提供している、あらかじめ複合材が混入しているペレットを利用して、複合材の成形品を製造するのが一般的であった。例えば、特許文献1には、ガラス繊維や炭素繊維等の長繊維を樹脂に混入した複合材ペレットの製造方法が開示されている。
【0005】
複合材ペレット、とりわけ炭素繊維が混入されたペレットは高価である。これは、炭素繊維が高価である上に、樹脂に混ぜるコンパウンド工程、ペレットに加工するペレタイジング工程などを経るからである。このため、航空機の分野では、複合材の導入が進んでいるが、自動車部品等の量産品への導入にはコストが障害になっている。
【0006】
そこで、強化繊維入りの複合材ペレットを使用しないで、複合材料の成形品を成形する技術が開発されている。例えば、特許文献2、3では、射出ユニットの可塑化装置のバレル内で樹脂を溶融したときにガラス繊維などの強化繊維を直接混入する成形技術が提案されている。
【0007】
また、特許文献4では、可塑化装置のバレルに開口しているベント口から強化繊維を投入する成形品の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−242616号公報
【特許文献2】特開2008−515682号公報
【特許文献3】特開2007−203638号公報
【特許文献4】特開2014−166712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2乃至4に開示されているような従来の可塑化装置は、溶融された樹脂に対して、1種類のみの強化繊維を投入して混ぜ合わせるというものであり、材料選択の自由度が狭いという問題があった。炭素繊維なら1種類、ガラス繊維であれば1種類というように、バレル内に投入していくので、得られる複合材料に多様な特性を付加する点では限界がある。
【0010】
一般に、複合材料では、炭素繊維として、ピッチ系の炭素繊維と、PAN系の炭素繊維が使用されている。PAN系炭素繊維は、引張強度には優れているが曲げ剛性は高くないという特性がある。ピッチ系炭素繊維は、曲げ剛性が高いという特性がある。
【0011】
従来は、可塑化装置に1種類だけ炭素繊維を投入するのが技術常識であったため、例えば、PAN系の炭素繊維を混ぜた場合には、引張強度は強化できても、曲げ剛性は強化することができないという問題があった。他方、ピッチ系の炭素繊維を混ぜた場合には、曲げ剛性は強化できても、引張強度は向上せず、また、コストが高くなってしまうという問題があった。
【0012】
また、可塑化装置のバレルに炭素繊維を投入した場合には、1種類の炭素繊維では、分散性の悪さが問題となり、思うような物性の向上が得られないという問題もあった。
【0013】
そこで、本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、可塑化装置に投入できる強化繊維の選択自由度を広げ、多様な機械的物性を持った複合材料の成形品を低コストで成形できるようにする射出装置、成形装置、及び成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明に係る射出装置は、
強化材を供給可能な供給口を有するバレルと、
前記バレル内に収容されるスクリュと、
前記スクリュを回転駆動する駆動部と、
前記バレル内に母材を供給するホッパと、
連続繊維からなる少なくとも2種類の異なる特性の強化材を前記供給口から前記バレル内に供給可能な強化材供給装置と、
前記バレルから前記強化材が分散した成形材料が供給され、前記成形材料の計量を行うとともに金型内に前記成形材料を射出する射出機構と、
を備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明に係る成形装置は、上記した射出装置を備えることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明に係る成形品の製造方法は、
ホッパから加熱されたバレルに母材を供給し、加熱された前記バレルの熱により前記母材を溶融し、
連続繊維からなる少なくとも2種類の強化材であって、特性を補完し合う異なる特性の強化材を前記バレル内に供給し、前記バレル内で前記強化材を前記母材に混合して複合材料を生成し、
前記複合材料を金型内に射出し成形品を成形することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による可塑化装置が適用される射出成形機の一実施形態を示す側面図である。
図2図1の可塑化装置を備えた射出装置の断面図である。
図3】2種類の炭素繊維が樹脂に混合される状況を説明する図である。
図4】2種類の炭素繊維が樹脂に混合される状況を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明による射出装置、成形装置、及び成形品の製造方法の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態による可塑化装置が適用される射出成形機(成形装置)10の概要を示す図である。図1において、参照番号12は射出装置の全体を示す。参照番号14は射出成形機の型締装置(型開閉装置、開閉装置)を示している。射出成形機10は、可塑化装置30を備えた射出装置12と型締装置14とを有している。
【0022】
型締装置14では、固定ダイプレート(固定盤)15が射出装置12側の一端側にフレーム11上に固定されている。フレーム11の他端側には、リンクハウジング(受圧盤)16が設置されている。固定ダイプレート15と、リンクハウジング16の間には、移動ダイプレート(可動盤)17が移動可能にフレーム11上に配置されている。固定ダイプレート15には固定金型18が取り付けられ、移動ダイプレート17には移動金型19が取り付けられている。これらの固定金型18と移動金型19とによって成形品を成形するキャビティ20が形成されている。
【0023】
固定ダイプレート15とリンクハウジング16とは、複数の(例えば、4本の)タイバー21によって連結されている。
【0024】
この実施形態では、固定金型18に対して移動金型19を開閉する開閉機構として、トグルリンク機構22が設けられている。
【0025】
トグルリンク機構22は、クロスヘッド24と連結されている。クロスヘッド24には、ナット部25が設けられており、サーボモータ26によって駆動されるボールねじ27がナット部25に螺合するようになっている。
【0026】
図1では、トグルリンク機構22が伸びた状態が示されている。クロスヘッド24が右方に移動し、トグルリンク機構22が伸びることで、移動ダイプレート17が前進し、型閉じが行われる。そして、固定金型18に対して、移動金型19が当接して型閉じがされた後、トグルリンク機構22をさらに伸ばすことで、大きな型締め力を発生する。逆に、クロスヘッド24が図1において左方に移動すると、トグルリンク機構22が屈曲されるので、移動ダイプレート17は後退して、型開きが行われる。
【0027】
次に、射出装置12について説明する。ここで、図2は、射出装置12の構成を示す断面図である。
【0028】
この実施形態による射出装置12は、予備可塑化式の射出装置である。射出装置12は、大きく分けると、成形材料(母材、強化材、複合材料)を溶融及び混練・混合して送り出す可塑化装置(押出機、可塑化部、可塑化機構)30と、溶融した成形材料を計量するとともに金型内のキャビティ20に射出する射出部(射出機構)32とを有している。
【0029】
可塑化装置30は、例えば、単軸の押出機として構成されており、バレル33には、フライト31が螺旋状に周回しているスクリュ34が挿入されている。このバレル33には、例えば、ペレット状に加工された樹脂ペレット60(成形材料、母材)をバレル33内に供給するためのホッパ35が設けられている。バレル33の外周部には、バレル33を加熱する加熱ヒータ36が配置されている。
【0030】
参照番号37は、スクリュ34を駆動するモータ(駆動部)である。スクリュ34の後端部には、プーリ38aが取り付けられている。スクリュ駆動モータ37の回転軸には、プーリ38bが取り付けられ、プーリ38a、38bに巻き掛けられたベルト39を介して、スクリュ駆動モータ37の回転がスクリュ34に伝達される。可塑化装置30では、スクリュ駆動モータ37によりスクリュ34を回転させると、ホッパ35からバレル33内に供給された母材が溶融される。
【0031】
本実施形態による可塑化装置30では、母材となる樹脂は、例えば、ペレット60によって供給され、その樹脂に複数種類の強化繊維(強化材、成形材料)を混入し(混合し)成形材料となる複合材料を生成できるように、後述するような異種強化繊維投入装置(強化繊維投入装置、強化材投入装置、強化材供給装置)40が設けられている。複数種類の強化繊維は、バレル33に開口しているベント孔(投入口、供給口)44からバレル33内に供給されるようになっている。ベント孔44は、本来、溶融樹脂中の揮発成分を排気するための孔であるが、この実施形態では、強化繊維の供給口として利用する。
【0032】
母材の樹脂に複数種類の強化繊維が混合されながら、成形材料(複合材料)はバレル33の前方に送られる。バレル33の先端部は、射出部32を構成している射出シリンダ50と連結されている。射出シリンダ50には、射出プランジャ51が摺動自在に嵌合しており、射出プランジャ51は、駆動シリンダ52によって前進および後退するようになっている。
【0033】
可塑化装置30から射出シリンダ50に押し出された成形材料は、射出プランジャ51が後退する過程で計量される。射出シリンダ50内に溜められた成形材料(複合材料)は、射出プランジャ51を前進させることで、ノズル48から固定金型18と移動金型19によって形成されたキャビティ20に充填される。
【0034】
次に、可塑化装置30のバレル33内に強化繊維を供給するための異種強化繊維投入装置40について説明する。
【0035】
まず、本実施形態の可塑化装置30で用いられる材料について説明する。
複数種類の強化繊維を混合した複合材料の母材となる樹脂は、例えば、ナイロン系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ABS系樹脂等、各種の樹脂が用いられる。これらの任意の樹脂が、例えば、樹脂ペレット60として用いられる。
【0036】
強化繊維(強化材)には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、植物繊維等の様々な材料が用いられる。
【0037】
このように強化繊維には、多様な種類の強化繊維がある。
【0038】
材料(素材、原材料)の違いの観点から分類すると、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、植物繊維等の様々な種類の繊維があり、いずれの強化繊維も用いることができる。
【0039】
材料の観点からは同種の強化繊維に分類される強化繊維であっても、製法、化学構造等の相違により特性が異なるものがある。
【0040】
すなわち、例えば、アラミド繊維には、引張強度、耐摩耗性、耐衝撃性等の機械的強度が高いパラ系アラミド繊維と、耐熱性、防炎性の高いメタ系アラミド繊維とがある。また、炭素繊維には、引張強度に優れているPAN系炭素繊維と、曲げ剛性に優れたピッチ系炭素繊維とがある。そして、本実施形態では、このような材料の観点からは同種の強化繊維に分類される強化繊維であっても、製法、化学構造等の相違により特性が異なる強化繊維についても異種の強化繊維(異なる強化繊維、異なる強化材)として扱われる。
【0041】
強化繊維には、綿のような短繊維と、単繊維が糸のように連続する連続繊維(長繊維)があるが、本実施形態では、連続繊維の形態をなしている強化繊維が用いられている。
【0042】
炭素繊維の場合、例えば、太さが5−7μm程度の連続繊維を、数万本から十数万本を束ねた繊維束にしたものが用いられる。同様に、ガラス繊維、アラミド繊維についても、連続繊維を束ねた繊維束を、次に説明するような異種強化繊維投入装置40に装着される。
【0043】
図2に示されるように、異種強化繊維投入装置40には、強化繊維の繊維束(強化繊維巻体、強化材巻体)が着脱可能に装填される複数の、例えば、3つの強化繊維装填部(強化材装填部)41A、41B、41Cが設けられている。
【0044】
強化繊維装填部41A、41B、41Cには、例えば、異なる種類の強化繊維で構成される強化繊維巻体が着脱可能に装填される。この実施形態では、例えば、強化繊維装填部41Aにピッチ系炭素繊維巻体42が、強化繊維装填部41BにPAN系炭素繊維の巻体43が装填された例を示す。
【0045】
強化繊維装填部41A、41Bでは、ピッチ系炭素繊維の巻体42、PAN系炭素繊維の巻体43は、回転しながら繊維束42A、43Aが同時に可塑化装置30に向かって繰り出されるようになっている。
【0046】
このような異なる種類の炭素繊維の繊維束42A、43Aは、バレル33に開口しているベント孔44まで引き出され、このベント孔44からバレル33内部に同時に連続繊維のままで投入される。
【0047】
本実施形態による可塑化装置(射出装置)は、以上のように構成されるものであり、次に、成形品の製造方法との関連において、作用及び効果について説明する。
【0048】
図2において、バレル33が加熱ヒータ36によって加熱され、所定の温度になると、ホッパ35から樹脂ペレット60がバレル33に投入される。同時に、バレル33内のスクリュ34を回転させる。
【0049】
ペレット状に構成された、母材である樹脂ペレット60は、スクリュ34の回転によって、加熱ヒータ36によって加熱されたバレル33の熱により溶融されながらバレル33の先端側に向かって送られていく。
【0050】
このようにして、母材の溶融・混練が開始されると、異種強化繊維投入装置40からピッチ系炭素繊維の繊維束42Aと、PAN系炭素繊維の繊維束43Aがベント孔44からバレル33内に連続的かつ同時に供給される。
【0051】
この場合、ピッチ系炭素繊維の繊維束42AとPAN系炭素繊維の繊維束43Aが、回転しているスクリュ34のフライト31に絡みつくので、バレル33内に連続して引き込まれていく。そして、ベント孔44の位置まで送られてくる溶融状態の樹脂と混じり合う過程で、繊維束42A、43Aを構成している単繊維の各々は、フライト31とバレル33の内面の間に挟まったときに受けるせん断力により、比較的長さのあるピッチ系炭素繊維の単繊維片42BやPAN系炭素繊維の単繊維片43Bに切断される(図3参照)。そして、スクリュ34の回転によりこれらが樹脂中に均一に分散するように混練されながら、バレル33の先端部に送られる。
【0052】
このようにして可塑化装置30において、ピッチ系炭素繊維の単繊維片42BとPAN系炭素繊維の単繊維片43Bが混合された溶融樹脂、つまり複合材料は、バレル33の先端部に送られ、さらにバレル33の先端部から射出シリンダ50の内部に押し出される。
【0053】
そして、図1図2において、射出プランジャ51が後退しながら計量が行われ、射出シリンダ50内に溜められたピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が混じり合わされた樹脂、つまり、複合材料は、射出プランジャ51により、キャビティ20に射出される。
【0054】
以上のような実施形態によれば、ホッパ35からは樹脂ペレット60が供給され、異種強化繊維投入装置40によって、ピッチ系炭素繊維の連続する繊維束42Aと、PAN系炭素繊維の連続する繊維束43Aが可塑化装置30のバレル33内に同時に供給されるので、スクリュ34の回転によりそれらが混合されて、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維が母材の樹脂に分散された複合材料を生成することができる。
【0055】
この複合材料では、引張強度が高いというPAN系炭素繊維の特性を生かし、曲げ剛性に弱いという弱点を曲げ剛性の高いピッチ系炭素繊維を混ぜることで補い、引張強度と曲げ剛性がともに向上した複合材料を生成することが可能になる。なお、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維の混合割合は、繰り出し速度を調整したり、ピッチ系炭素繊維の繊維束42AとPAN系炭素繊維の繊維束43Aの単繊維の本数を変えたりすることで、所望の混合割合にすることが可能である。
【0056】
また、ホッパ35から供給する樹脂ペレット60には、あらかじめ炭素繊維の混合したコストの割高な樹脂ペレットを用いる必要がなくなるので、材料コストを大幅に低減することが可能となり、複合材料により成形された成形品の量産化の実現に資する。
【0057】
しかも、異種強化繊維投入装置40は、任意の異なる2種類以上の強化繊維をバレル33に同時に供給することができる。上述した例では、強化繊維として、ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維を組み合わせているが、これに限定されるものではない。
【0058】
ところで、炭素繊維の連続繊維は、バレル33内に供給された後、スクリュ34で混合される過程で、分散性が悪い場合がある。その場合、例えば、PAN系炭素繊維とガラス繊維とを組み合わせてバレル33内で混ぜ合わせれば、分散性の悪い炭素繊維の隙間に分散性の良好なガラス繊維が入り込むことで、全体の分散性が向上し、引張強度等を向上させる効果が期待できる。
【0059】
強化繊維の組み合わせとしては、そのほか、炭素繊維と植物繊維、ガラス繊維と植物繊維、アラミド繊維と炭素繊維、アラミド繊維とガラス繊維、アラミド繊維と植物繊維といった組合せも可能である。以上のようにして、材料の選択自由度が広がることから、これまでにないような機械的物性の向上した新しい複合材料を成形現場で直接開発することができ、しかもその複合材料による成形品の量産を実現することが可能になる。
【0060】
以上の実施形態では、バレル33に元々開口しているベント孔44を利用して強化繊維をバレル33内に供給していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ベント孔44ではなく、スクリュ34によって混練されて樹脂が溶融状態になっている位置に、強化繊維供給用の孔をバレル33に設けるようにしてもよい。
【0061】
また、強化繊維供給孔は、1つに限られずに、複数あってもよい。例えば、図4に示されるように、バレル33に3つの強化繊維供給孔(強化材供給孔)62A、62B、62Cを設けるようにしてもよい。
【0062】
例えば、最上流の位置にある強化繊維供給孔62Aからはガラス繊維の連続繊維GFが供給され、中間の強化繊維供給孔62Bからは炭素繊維の連続繊維CFが供給され、最下流の強化繊維供給孔62Cからはアラミド繊維の連続繊維AFが供給される。これによれば、最上流からガラス繊維の連続繊維GFが供給されるので、その後に混じる炭素繊維、アラミド繊維の分散性を容易に高めることができる。
【0063】
以上、本発明について、予備可塑化式の射出装置に適用した実施形態を挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、可塑化装置30と射出部が一体となったインライン式の射出装置にも適用可能である。さらに、可塑化装置30は、成形材料の溶融および混練、ペレットの成形を主目的にした押出機としても構成可能である。
【0064】
また、本実施形態では、母材をペレット状としたが、本発明はこれに限らない。例えば、本発明の母材としては、ペレット状のような大きさに細断された母材を利用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…射出成形機(成形装置)、12…射出装置、14…型締装置、15…固定ダイプレート(固定盤)、16…リンクハウジング(受圧盤)、17…移動ダイプレート(可動盤)、18…固定金型、19…移動金型、20…キャビティ、22…トグルリンク機構、30…可塑化装置、32…射出部、33…バレル、34…スクリュ、35…ホッパ、36…加熱ヒータ、40…異種強化繊維投入装置(強化繊維投入装置、強化材投入装置、強化材供給装置)、41A〜41C…強化繊維装填部(強化材装填部)、42…ピッチ系強化繊維の巻体、44…PAN系炭素繊維の巻体、42A…ピッチ系強化繊維の繊維束、43A…PAN系炭素繊維の繊維束、42B…ピッチ系強化繊維の繊維片、43B…PAN系炭素繊維の繊維片、44…ベント孔(投入孔、投入口、供給口)、50…射出シリンダ、51…射出プランジャ、60…樹脂ペレット(成形材料、樹脂、母材)
【要約】
【課題】可塑化装置に投入できる強化繊維の選択自由度を広げ、多様な機械的物性を持った複合材料の成形品を低コストで成形できるようにする。
【解決手段】この可塑化装置30は、強化材を供給可能な供給口44を有するバレル33と、バレル33内に収容されるスクリュ24と、スクリュ24を回転駆動する駆動部37と、バレル33内に母材を供給するホッパ35と、少なくとも2種類の強化材を供給口44からバレル33内に供給可能な強化材供給装置40と、を備えている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4