(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872671
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】胆汁酸、その塩又は誘導体の新規な選択的酸化方法
(51)【国際特許分類】
C12P 33/02 20060101AFI20160216BHJP
C07J 9/00 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
C12P33/02 Z
C07J9/00
【請求項の数】19
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-501788(P2014-501788)
(86)(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公表番号】特表2014-511683(P2014-511683A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】IB2012051476
(87)【国際公開番号】WO2012131591
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年12月9日
(31)【優先権主張番号】MI2011A000534
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】513244269
【氏名又は名称】プロドゥッテイ キミチ エ アリメンタリ ソシエタ ペル アオチニ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】モンティ ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】フェランディ エリーカ エリーザ
(72)【発明者】
【氏名】リーヴァ セルジョ
(72)【発明者】
【氏名】ポレンティーニ ファウスト
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第00/15831(WO,A1)
【文献】
特表2011−526481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 33/02
C07J 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の化合物、その塩又は誘導体の位置7及び/又は12におけるレギオ選択的酵素酸化の方法であって、アセト酢酸メチルを含む補因子NAD(P)
+とNAD(P)
+-依存アルコール脱水素酵素(ADH)とを含む再生系の存在下、前記化合物をNAD(P)
+-依存ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSDH)と反応させる工程を含む方法。
【化1】
【請求項2】
前記NAD(P)+-依存HSDHの酵素活性の範囲が、0.25〜12Uである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記式の化合物(I)、(II)又は(III)、その塩又は誘導体の濃度が、0.5〜4%(質量/体積)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記式の化合物(I)、(II)又は(III)、その塩又は誘導体の濃度が、12.5〜100mMである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記補因子NAD(P)+が触媒量で0.2〜0.8mMの範囲で使用される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記補基質アセト酢酸メチルが、前記化合物(I)、(II)及び(III)のそれぞれに対して2当量と同等の量で使用される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記補基質アセト酢酸メチルが0.3〜2.4%(体積/体積)の量で使用される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記酸化が定量的で、99.5%以上である、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記方法が室温の約20℃で行われる、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記方法がpH8同等で行われる、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
好ましくはリン酸カリウム緩衝剤からなる緩衝系を更に含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記方法が水性/有機二相系で行われ、前記有機溶媒が好ましくは酢酸イソプロピルであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記緩衝系がリン酸カリウム緩衝剤であり、前記有機溶媒が酢酸イソプロピルである、請求項11又は12記載の方法。
【請求項14】
前記コール酸又はケノデオキシコール酸の塩がナトリウム塩である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸(IV)の合成方法を含むことを特徴とする、ウルソデオキシコール酸(IV)の調製方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項記載の3α,7α-ジヒドロキシ-12-ケト-5β-コラン酸(VI)の合成方法を含むことを特徴とする、ウルソデオキシコール酸(IV)の調製方法。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれか1項記載の3α-ヒドロキシ-7,12-ケト-5β-コラン酸(VII)の合成方法を含むことを特徴とする、ウルソデオキシコール酸(IV)の調製方法。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項記載の7-ケト-リトコール酸(IX)の合成方法を含むことを特徴とする、ウルソデオキシコール酸(IV)の調製方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項記載の3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸メチルエステル(VIII)の合成方法を含むことを特徴とする、ウルソデオキシコール酸(IV)の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルソデオキシコール酸の工業生産のための新規な方法に関するもので、スキーム1に示す一般式で表される様々な胆汁酸、その塩又は誘導体で、容易に市場入手できる、コール酸(3α,7α,12α-トリヒドロキシ-5β-コラン酸(I))、コール酸メチルエステル(II)及びケノデオキシコール酸(3α,7α-ジヒドロキシ-5β-コラン酸(III))等を出発物質とする。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
ウルソデオキシコール酸は3α,7β-ジヒドロキシ-5β-コラン酸(UDCA)で、下記式(IV)(スキーム2)で表され、通常ヒトの胆汁に少量存在する化合物であり、胆汁のコレステロール溶解能を増強する。UDCAの治療特性は公知である。実際、コレステロール胆石の溶解、原発性胆汁性肝硬変及び硬化性胆管炎などの肝臓領域の機能不全の治療に使用されている。
【0004】
【化2】
【0005】
そのため、UDCAの工業生産の方法が自由になることには大きな関心がある。
現在のところ、UDCAの生産は、ウシ胆汁から抽出されたコール酸を出発物質とし、中間物質12-ケト-ケノデオキシコール酸を形成する化学合成により行われている(Hoffmann A.F., Acta Chem. Scand., 1963,
17, 173-186;Sammuelson B., Acta Chem. Scand., 1960,
14, 17-20)。
ウルソデオキシコール酸の従来からの化学合成にかわって、様々な合成方法が示唆されており、例えば、そのうちの1つは、Bovara R., Carrea G., Riva S. and Secundo F. Biotechnology letters 1996, 18, 305-308に記載されている。これらの方法では、UDCAの合成に、コール酸又はケノデオキシコール酸の様々な酸化誘導体(例えば、3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸、12-ケト-ケノデオキシコール酸及び7-ケト-リトコール酸等)を使用している。
コール酸及びケノデオキシコール酸の酸化誘導体は、化学合成、酵素による方法のいずれでも合成することができる。
化学合成方法は、通常、胆汁酸のエステル化と、酸化が不要な水酸基の選択的アセチル化と、選択された水酸基をケトンに酸化する工程とを含む。しかしながら、化学合成方法により得られる収量及び反応率は工業生産レベルの観点からは十分に満足できるものではない。
化学合成の代替案として、NAD(P)H-依存ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSDH)の酵素活性と、好適な補因子再生系とを結合させて利用した酵素による方法で、コール酸の酸化反応を行うことができる。これは、理論量というよりも触媒量で反応させることができる。
【0006】
HSDH活性は、ほぼ完全なレギオ選択性及び立体選択性を示す。そのため、化学的な酸化反応とは異なり、HSDH活性が触媒となる反応は、酸化の必要がない水酸基の予防的保護をせずに行うことができる。
HSDHが触媒作用を及ぼす酸化還元反応は可逆的であるため、酸化反応と連結している補因子再生系は、NAD(P)
+の使用量を低減するだけでなく、反応平衡を高反応率へと引き上げることにも利用できる(Kroutil W., Mang H., Edegger K., Faber K. Adv. Synth. Catal., 2004,
346, 125-142)。
アンモニア存在下のグルタメート脱水素酵素の触媒作用によるα-ケトグルタル酸の還元性アミノ化の場合のように、第2の脱水素酵素を触媒とした補基質の不可逆的還元反応に、酸化反応をカップリングさせることで定量的転化率が得られる。補因子NAD(P)
+の再生用グルタメート脱水素酵素とカップリングした胆汁酸の酸化反応の例としては、例えば、Riva S., Bovara R., Pasta P., Carrea G. J. Org. Chem., 1986,
51, 2902-2906;Bovara R., Carrea G., Riva S., Secundo F. Biotechnology letters, 1996,
18, 305-308に記載がある。それらの反応は、基質のコール酸を低濃度(12.5mM)でしか行っていない。補基質α-ケトグルタル酸が高価であることと、グルタメート脱水素酵素が工業用途では市場での入手がむずかしいことが原因で大規模に応用することができない。
酸化反応を、別の脱水酵素を触媒とした可逆的還元反応とカップリングしている場合であっても、反応平衡を所望の生成物にうまくシフトできる補基質を過剰に使用することが必要とされる。
【0007】
例えば、NADH-依存12α-HSDHを用いたコール酸の酸化反応と、NADH-依存乳酸塩脱水素酵素(LDH)を触媒とするピルビン酸から乳酸への還元のカップリング(Fossati E., Carrea G., Riva S., Polentini F., EP 1 731 618)では、定量的転化率を得るために、補基質を100%過剰で使用した。この場合、酵素を再使用するために使う補基質のピルビン酸が高価なため、工業生産規模に適用するにはこの方法では不十分である。更に、NADPH-依存LDHは入手できないので、このような補因子再生系は、NADH-依存HSDHを触媒とする酸化としかカップリングできない。
NADPH-依存12α-HSDHを触媒とするコール酸の酸化と、NADPH-依存アルコール脱水素酵素(ADH)によるアセトンの還元とのカップリングについては、Fossati E., Polentini F., Carrea G., Riva S., Biotechnol. Bioeng., 2006,
93, 1216-1220に記載がある。この方法は、アルコール脱水素酵素等のいずれのカップリング酵素も補基質のアセトンも極めて入手しやすいので、経済的に有利である。しかしながら、どちらの酵素反応も完全に可逆反応であるため、相当過剰なアセトンの存在下であっても、このカップリングプロセスの熱力学的平衡では、コール酸の定量的転化率は得られない。最適な条件下でも、25%(体積/体積)のアセトンを含有する反応混合物中、12-ケト-ケノデオキシコール酸におけるコール酸への転化率は92%しか得られなかった。
【0008】
近年、α-ハロ-ケトン又は1,3-ジケトン等のケトン担持電子求引基のNAD(P)H-依存アルコール脱水素酵素による、準不可逆的生体触媒系還元反応について報告がある(Bisogno F. R., Lavandera I., Kroutil W., Gotor V. J. Org. Chem., 2009,
74, 1730-1732;Lavandera I., Kern A., Resch V., Ferreira-Silva B., Glieder A., Fabian W.M.F., de Wildeman F., Kroutil W., Organic Letters, 2008,
10, 2155-2158)。これらの研究では、例えば2-オクタノール等のラセミ体2級アルコールの酵素による分割を還元反応とカップリングさせて、効率的な補因子再生系を理論量に近い量(およそ1.5当量)の補基質と一緒に使用させることが示唆されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、アルコール脱水素酵素(ADH)及び補因子NAD(P)
+再生用の補基質としてのアセト酢酸メチルの存在下での、NAD(P)
+-依存ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSDH)による、コール酸、ケノデオキシコール酸又はコール酸メチルエステル等の胆汁酸、その塩又は誘導体のレギオ選択的な酵素による酸化の新規な方法が発見された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
例えば2-オクタノール等の問題の基質の酸化と、例えばクロロアセトン等の犠牲補基質の還元との両方において、唯一のADHが反応するという前述の研究とは異なり、この新規な方法では、2つの異なる酵素活性HSDH及びADHのカップリングが行われた。
そこで、この方法に関与する両方の酵素の活性及び安定性のための最適な反応条件、ならびに、胆汁酸という基質とアセト酢酸メチルの溶解性及び化学安定性を同時に確保するための最も好適な条件とを確認する必要が示された。この点に関し、胆汁酸は、pH7.5〜8.0より高い領域ではナトリウム又はカリウム塩の形態で水溶性であり、一方、アセト酢酸メチルは、アルカリpH値において、特に温度が25〜30℃より高いと安定性が悪いことを明確にしておくことが実際のところ重要である。そこで、本願明細書に示した方法は、例えば、HSDH及びADH酵素の量、基質の胆汁酸と補基質のアセト酢酸メチルの濃度、温度、pHといった様々なパラメータの、酸化反応の転化率への影響を実験により実証することにより到達した。
とりわけ、本発明の方法で使用されるNAD(P)
+-依存HSDHは、0.25〜12Uの酵素活性を有することが好ましく、ここでの酵素活性(U)は、12.5mMのコール酸と0.2mMのNAD(P)
+と100mMのリン酸カリウム緩衝液とを含むアッセイ溶液(pH9.0)において、コール酸基質1ミクロモルを1分間で対応の生成物に変換することができる酵素7α-HSDH又は12α-HSDH(それぞれ7又は12の位置で酸化)の量を意味する。
【0011】
化合物(I)、(II)及び(III)、その塩又は誘導体は、0.5〜4%(質量/体積)の濃度、即ち、12.5〜100mMの濃度で使用することが好ましい。
補因子NAD(P)
+は、触媒量の0.2〜0.8mMの範囲の濃度で使用することが好ましい。
補基質アセト酢酸メチルは、化合物(I)、(II)又は(III)それぞれに対して2当量に相当する量で使用する。とりわけ、補基質アセト酢酸メチルは、0.3〜2.4%(体積/体積)の範囲の量で使用する。
本発明の方法は、室温、即ち約20℃で、好ましくはpH8で行うことが好ましい。
更に、文献の例では水性環境での実験のみが記載されているが、本発明の新規な方法は、緩衝剤/有機溶媒の二相反応系にも適用することができ、基質としてコール酸メチルエステル等の胆汁酸エステル類の使用も可能となる。
本発明の方法で使用する補因子再生系は、酵素と補基質にそれぞれアルコール脱水素酵素とアセト酢酸メチルという特別に高価ではないものを使用していること、また、特定のHSDH、即ち7α-HSDH、12α-HSDH又はその組合せ使用にもよるが、実験規模で、コール酸((I)、スキーム3)、コール酸メチルエステル((II)、スキーム4)及びケノデオキシコール酸((III)、スキーム5)等の胆汁酸、その塩又は誘導体から、それぞれの選択的酸化誘導体への定量的転化率99.5%以上が可能となることから、従来のものと比べて非常に経済的であり効率的である。
【0012】
スキーム3〜5において、(V)で示されている化合物は3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸、(VI)で示されている化合物は3α,7α-ジヒドロキシ-12-ケト-5β-コラン酸、(VII)で示されている化合物は3α-ヒドロキシ-7,12-ケト-5β-コラン酸、(VII)で示されている化合物は3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸メチルエステル、及び、(IX)で示されている化合物は7-ケト-リトコール酸である。これらのスキームのb)は、アセト酢酸メチルのNAD(P)H-依存アルコール脱水素酵素による還元反応を説明するもので、それぞれa)に示す酸化反応とカップリングしている。
【0016】
本発明の方法の態様によると、例えばスキーム3記載の12α-HSDH及び7α-HSDH、又は、スキーム5記載の7α-HSDH等のNAD(P)
+-依存ヒドロキシステロイド脱水素酵素(HSDH)を、コール酸(I)又はケノデオキシコール酸(III)のナトリウム塩水溶液に添加することによって、酸化反応は単相で行われる。この際のNAD(P)
+は触媒量で、NAD(P)H-依存アルコール脱水素酵素(ADH)を用いてアセト酢酸メチルを3-ヒドロキシ酪酸メチルに転化することにより、NAD(P)HからNAD(P)
+への再生が行われる。
使用する基質及び酵素活性によるが、反応(化合物(I)から誘導体(V)、(VI)及び(VII)への酸化、及び、化合物(VI)から誘導体(VII)への酸化(スキーム3)並びに化合物(III)から誘導体(IX)への酸化(スキーム5))は4〜16時間で行われ、基質の胆汁酸ナトリウム塩は、通常0.5〜4%(質量/体積)の濃度(即ち、12.5〜100mM))、pH8.0及び温度20℃で使用され、NAD(P)
+は触媒量の0.2〜0.8mMの濃度で使用され、アセト酢酸メチルは通常、胆汁酸塩に対して2当量相当で使用されるので、0.3〜2.4%(体積/体積)である。7α-HSDHを触媒とする、コール酸メチルエステル(II)の位置7の水酸基の酸化反応(スキーム4)は、pH8.0のリン酸カリウム緩衝剤/酢酸イソプロピルの二相系において、温度20℃で、同じ補因子再生系を用いて行われる。基質(II)は、酢酸イソプロピルに4%(質量/体積)相当(即ち100mM)の濃度で溶解し、同量のpH8.0のリン酸カリウム緩衝剤に添加する。該緩衝剤は、0.8mM同等の濃度のNAD(P)
+と、化合物(II)に対して2当量に相当する量、即ち2.4%(体積/体積)のアセト酢酸メチルを含有する。
【0017】
本願明細書に記載の新規な方法は、別の理由から前述の方法と比較して有利である。
化学的合成方法と比較すると、本発明の新規な方法は、HSDHのほぼ完全なレギオ選択性のおかげで、酸化の必要がない水酸基の保護が不要であるという点で、より簡単で経済的に有利である。更に、本方法は、穏やかな反応条件(例えば、温度は20℃で大気圧であり、pH値は8.0同等)で行うことができ、経済的で環境によい利点をもたらす。
前述の酵素による方法と比べると、通常のADHとの使用と比較して補基質過剰での使用を抑えることができるため経済的に有利である(例えば、Fossati E., Polentini F., Carrea G., Riva S., Biotechnol. Bioeng., 2006,
93, 1216-1220に記載のごとく、4%(質量/体積)のコール酸溶液の酸化反応のための補基質の使用は、25%(体積/体積)から2.4%に抑えられる)。同時に、例えばアセトン等の一般的なケトン類を補基質として使用する場合では、熱力学的理由から到達することができない99.5%以上という反応率を実現する点で、本発明の新規な方法はより効率的である。更には、本発明の再生系は、NADH-及びNADPH-依存ADHのいずれも工業規模用に開発されたものが入手でき、同じ特異性を有するHSDHとの好適なカップリングが行えるので、前述のものよりも汎用性がある。
上記の方法で使用する酵素類は以下の微生物源から得られる。
【0018】
‐ NADPH-依存7α-HSDH酵素は、例えばMcDonald I.A., Hutchinson D.M., Forrest T.P., J. Lipid Res., 1981,
22, 458-466に記載されているが、Clostridium absonum由来であり、これはE. coli内でクローン化し、発現亢進を行った(未完の原稿(manuscript in progress))。
- NADH-依存7α-HSDH酵素は、E. coli Rosetta 2(DE3)pLysSから遺伝子組み換えを行ったBacteroides fragilis由来のもので、例えば、Zhu D., Stearns J.E., Ramirez M., Hua L., Tetrahedron, 2006, 62, 4535-4539に記載されている。
- NADPH-依存12α-HSDH酵素は、Clostridium sp.由来のもので、ASA Spezialenzyme社(ドイツ)が市場に出している。
- 微生物由来のNADH-依存12α-HSDH酵素は、Genzyme Biochemicals社(英国)が市場に出している。
- NADPH-依存ADH酵素は、Thermoanaerobacter brockii由来であり、Peretz M., Bogin O., Tel-Or S., Cohen A., Li G., Chen J.-S., Burstein Y., Anaerobe, 1997,
3, 259-270に記載されている。或は、SIGMA-ALDRICH社が市場に出している微生物由来の酵素である。
- NADH-依存ADH酵素は、SIGMA-ALDRICH社が市場に出しているウマの肝臓由来の酵素である。
【0019】
本発明の方法により得られた酸化誘導体は、Giordano C., Perdoncin G., Castaldi G., Angew. Chem. Int. Ed., 1985,
24, 499-500;Magni A., Piccolo O., Ascheri A., US4,834,919;Arosio R., Rossetti V., Beratto S., Talamona A., Crisafulli E., EP0424232 A2;服部雅彦、三上一利の特開平06-002184に記載のように化学合成経路でUDCA(化合物(IV)、スキーム2)の合成に使用することができる。或は、例えば、Riva S., Bovara R., Pasta P., Carrea G. J. Org. Chem., 1986,
51, 2902-2906;Bovara R., Canzi E., Carrea G., Pilotti A., Riva S., J. Org. Chem., 1993,
58, 499-501;Bovara R., Carrea G., Riva S., Secundo F. Biotechnology letters, 1996,
18, 305-308;Pedrini P., Andreotti E., Guerrini A., Dean M., Fantin G., Giovannini P. P., Steroids, 2006,
71, 189-198;Monti D., Ferrandi E. E., Zanellato I., Hua L., Polentini F., Carrea G., Riva S., Adv. Synth. Catal., 2009,
351, 1303-1311に記載のごとく、7β-HSDHを触媒とした位置7のケト基のレギオ選択及び立体選択的な還元による酵素的経路でのUDCA(化合物(IV)、スキーム2)の合成に使用することができる。
以下の実施例は、本発明を非制限的に説明するものとして理解すべきである。
【実施例】
【0020】
実施例1
ウマの肝臓由来のNADH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、Bacteroides fragilis由来のNADH-依存7α-HSDHを触媒とする、コール酸(I)位置7の水酸基の酸化
0.5%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(12.5mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(0.3%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coli Rosetta2(DE3)pLysSから遺伝子組み換えしたBacteroides fragilis由来である12UのNADH-依存7α-HSDH、ウマの肝臓由来の0.1UのNADH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社製)、0.8mMのNAD
+(10mMのNAD
+水溶液40μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸(V)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0021】
実施例2
ウマの肝臓由来のNADH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、NADH-依存12α-HSDH(Genzyme社)を触媒とする、コール酸(I)位置12の水酸基の酸化
0.5%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(12.5mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(0.3%(v/v))のアセト酢酸メチル、微生物由来である4UのNADH-依存12α-HSDH(Genzyme社)、ウマの肝臓由来の0.05UのNADH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社製)、0.2mMのNAD
+(10mMのNAD
+水溶液10μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α,7α-ジヒドロキシ-12-ケト-5β-コラン酸(VI)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0022】
実施例3
T.brockii由来のNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、NADPH-依存12α-HSDH(ASA社)を触媒とする、コール酸(I)位置12の水酸基の酸化
0.5%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(12.5mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(0.3%(v/v))のアセト酢酸メチル、4UのNADPH-依存-12α-HSDH(ASA社)、T.Brockii由来の10UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)、0.2mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液10μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α,7α-ジヒドロキシ-12-ケト-5β-コラン酸(VI)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0023】
実施例4
E.coliから遺伝子組み換えしたNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHを触媒とする、コール酸(I)位置7の水酸基の酸化
4%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(100mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(2.4%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum由来である0.25UのNADPH-依存7α-HSDH、E.coliから遺伝子組み換えした4UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社製)、0.8mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液40μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸(V)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0024】
実施例5
T.brockii由来NADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHを触媒とする、コール酸(I)位置7の水酸基の酸化
0.5%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(12.5mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(0.3%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum由来である4UのNADPH-依存7α-HSDH、T.Brockii由来の10UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社製)、0.2mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液10μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸(V)への最終転化率、≧99.5%を4時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0025】
実施例6
E.coliから遺伝子組み換えしたNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHを触媒とする、12-ケト-ケノデオキシコール酸(VI)位置7の水酸基の酸化
4%(w/v)のpH8.0の12-ケト-ケノデオキシコール酸ナトリウム塩(100mM、pH8.0で0.2Mの12-ケト-ケノデオキシコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(2.4%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum由来である4UのNADPH-依存7α-HSDH、E.coliから遺伝子組み換えした4UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)、0.8mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液40μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
12-ケト-ケノデオキシコール酸(VI)から3α-ヒドロキシ-7,12-ジケト-5β-コラン酸(VII)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0026】
実施例7
E.coliから遺伝子組み換えしたNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHとNADPH-依存12α-HSDH(ASA社)とを触媒とする、コール酸(I)位置7及び12の水酸基の酸化
0.5%(w/v)のpH8.0のコール酸ナトリウム塩(12.5mM、pH8.0で0.2Mコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(0.6%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum由来の2UのNADPH-依存7α-HSDH、4UのNADPH-依存12α-HSDH(ASA社)、E.Coliから遺伝子組み換えした4UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)、0.8mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液40μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
コール酸(I)から3α-ヒドロキシ-7,12-ジケト-5β-コラン酸(VII)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0027】
実施例8
E.coliから遺伝子組み換えしたNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHを触媒とする、ケノデオキシコール酸(III)位置7の水酸基の酸化
2%(w/v)のpH8.0のケノデオキシコール酸ナトリウム塩(50mM、pH8.0で0.2Mケノデオキシコール酸ナトリウム塩水溶液を希釈して得た)、2当量(1.2%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum由来の4UのNADPH-依存7α-HSDH、E.Coliから遺伝子組み換えした3UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社製)、0.6mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液30μl)、50mMのリン酸カリウム緩衝剤pH8.0とを含む全体積0.5ml中、温度20℃、pH8.0にて反応を行った。
ケノデオキシコール酸(III)から7-ケト-リトコール酸(IX)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。
【0028】
実施例9
E.coliから遺伝子組み換えしたNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)の存在下、C. absonum由来NADPH-依存7α-HSDHを触媒とする、コール酸メチルエステル(II)位置7の水酸基の二相系での酸化
a)コール酸メチルエステルを含む4%酢酸イソプロピル溶液(w/v)0.5ml(100mM、20mgのコール酸メチルエステルを0.5mlの酢酸イソプロピルに溶解して得た)と、b)0.5mlの50mMリン酸カリウム緩衝剤(pH8.0)で、2当量(2.4%(v/v))のアセト酢酸メチル、E.coliから遺伝子組み換えしたC.absonum 由来の5.5UのNADPH-依存7α-HSDH、E.coliから遺伝子組み換えした4UのNADPH-依存ADH(SIGMA-ALDRICH社)、0.8mMのNADP
+(10mMのNADP
+水溶液40μl)とを含む、合計体積1ml中で、温度20℃、pH8.0、回転数1400rpmにて反応を行った。
コール酸メチルエステル(II)から3α,12α-ジヒドロキシ-7-ケト-5β-コラン酸メチルエステル(VIII)への最終転化率、≧99.5%を16時間後に得た。転化率は、溶離系としてクロロホルム/メタノール/酢酸(10:1:0.5)を使って薄層クロマトグラフィー(TLC)により評価した。