(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5872722
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】連通管付きイヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-81325(P2015-81325)
(22)【出願日】2015年4月12日
【審査請求日】2015年5月20日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510185354
【氏名又は名称】音茶楽株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151471
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】山岸 亮
【審査官】
松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−287674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヤーパッドを外耳道入口に挿入して用いる密閉イヤホンにおいて、
電気音響変換器を収納しているハウジングの内部の空間と外部の空間は音響的に連通しておらず、
該ハウジングの内部の空間は、区画壁ならびに該電気音響変換器によってフロントスペースとリヤスペースに分離されており、
該フロントスペースと該リヤスペースが、該両スペース間を貫通するパイプにより構成される1つの管状スペースのみによって連通していることを特徴とする密閉イヤホン。
【請求項2】
イヤーパッドを外耳道入口に挿入して用いる密閉イヤホンにおいて、
電気音響変換器を収納しているハウジングの内部の空間と外部の空間は音響的に連通しておらず、
該ハウジングの内部の空間は、区画壁ならびに電気音響変換器によってフロントスペースとリヤスペースに分離されており、
該フロントスペースと該リヤスペースが、該両スペース間の該区画壁または該電気音響変換器の外周の壁の一部に溝を形成し、該区画壁と該電気音響変換器の外周をなす壁との間に形成された孔により構成される1つの管状スペースのみによって連通していることを特徴とする密閉イヤホン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の密閉イヤホンであって、
イヤーパッドを無くして耳穴に挿入する音導管の外部形状を使用者個人の耳穴の形に合わせたものであることを特徴とする密閉イヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放音部を外耳道入口に挿入して用いる密閉イヤホンに関する。とくに遮音性能が高いことを特徴とする密閉イヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
密閉イヤホンは、発音部分の背面が密閉されており、外耳道に挿入される部分であるイヤーパッドは、弾性を有する軟質プラスチックまたはゴム等により形成されており、外耳道の内面に隙間無く密着して、全体として耳栓構造をなしている。密閉イヤホンは、イヤーパッドを外耳道に挿入して装着することができるので、外耳の入り口に確実に装着して遮音することができる。また、イヤーパッドは柔軟性を有する材料により、外耳道の形状に合わせて容易に弾性変形させることができるので、良好な装着感を得ることもできる。
【0003】
最近ではカスタムIEM(IN EAR MONITOR)と言って耳型(インプレッション)を採取して、それをベースに使用者の耳穴の形状に合わせて音導管の外部形状を作成することにより、さらに密着度や装着感が良好なイヤホンとすることもできる。
【0004】
その結果、外耳道入口に挿入して用いる密閉イヤホンは、密閉性が良く、遮音性能が高くて外部の雑音が聞こえにくいので、高い音圧感度が得られ、騒音の大きい場所でも微弱な音を聴くことが可能である。また外耳道入口に挿入して使用できるので小型軽量化が容易という利点もある。
【0005】
しかし、従来の密閉イヤホンにおいては、発音部分を取り囲む筐体の一部に外部空間と連通する開口が存在しているものがほとんどであった。例えば、放音空間における音のコモリの発生を防止するために、ドライバーユニットの外周縁に設けたスリットによって、ヘッドホンの耳孔への装着時に密閉状態となるハウジング内の放音空間を外部と通じる背面空間に連通させるものがあった。(特許文献1)
【0006】
これにより、音のコモリの発生を防止し、低音域での向上のみでなく高音域を含めた全域での周波数特性の向上を達成したと述べている。しかし、外部空間と通じる開口があり、そのために遮音性能が高いとは言えず、その場合囲の騒音により、イヤホンからの音が聞き取りにくい、あるいはイヤホンの使用者のそばに他人が近づくとシャカシャカという音が聞こえて迷惑をかけるという問題が有った。
【0007】
その問題に対応するため、音漏れを無くするため外部空間と通じる開口を一切無くしたインナーイヤー型イヤホンの提案も有る。これは、ハウジング内部でドライバーユニットの振動版の前面と背面を音響的に結合してあり、ハウジング内部と外部空間と接続するような開口を有しないものである。(特許文献2)
【0008】
一般のインナーイヤー型イヤホンを密閉状態にすると、等価回路は
図6(a)に示したようになり、
図8のグラフに一点鎖線で示すように、周波数特性の低音領域は平坦で、高音域は急激に減少してしまい、高音のない低・中音だけになってしまう。そこで、この問題を解決するために特許文献2の技術では、電気音響変換器を装着したバイパスリングと(電気音響変換器の)ユニットケースの間に形成されるリング状のスリットを利用して音響通路を作り、振動板の前面と背面を音響的に結合された状態としている。
【0009】
このようにすることで、インナーイヤー型イヤホンの等価回路は
図6(c)に示したようになる。
図6(c)は、振動板の等価質量ml/スティフネスS0/音響抵抗r1とボイスコイル駆動力F、耳孔の容積によるスティフネスSc、イヤホンの背面のスティフネスS1よりなる直列共振回路を、等価質量mpと等価抵抗rpよりなる音響通路でバイパスしたものであることを示している。
【0010】
ここで、スリットの厚みをd、幅をb、長さをlとし、他の条件を一定とすると音響抵抗Rと等価質量mは以下の式で表せる。
R=k1×l/(b×d
3)
m=k2×/d
2
k1、k2は定数である。
構造的にbがdに対して相対的に大きくならざるを得ないので、提案のスリットを音響通路とする方法であると、同じ値のRとmを得るためには厚みd、すなわちバイパスリングとユニットケースの間に形成される間隙を極めて小さくする必要があるが、これは部材の製作精度からみて限界があると考えられる。
【0011】
さらに、この提案ではバイパスリングとユニットケースの間にスリットを得るために、複数の板体とリングなど複雑な形状を持った部材を組み合わせており、組立も難しいと考えられ、コスト面の問題がある。
【0012】
また、さらに、構造的にbがdに対して相対的に大きくならざるを得ないので、Rをmに対して小さくしにくい。すなわち、Rがmに対して相対的に大きいと、バイパスの音響通路のインピーダンスが低域と高域での差があまりないので、周波数特性を調整する手段とすることが難しいという問題が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許公開2005−191663号
【特許文献2】特許公開平1−101795号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
音漏れを無くするため外部空間と通じる開口を一切無くしたインナーイヤー型イヤホンにおいては、周波数特性の低音領域は平坦で、高音域は急激に減少してしまい、高音のない低・中音だけになってしまう。低・中音を維持した状態で高音領域を減少させない密閉型インナーイヤー型イヤホンを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、イヤーパッドを外耳道入口に挿入して用いる密閉イヤホンにおいて、電気音響変換器を収納しているハウジングの内部の空間と外部の空間は音響的に連通しておらず、該筐体の内部の空間は、区画壁ならびに該電気音響変換器によってフロントスペースとリヤスペースに分離されており、
該フロントスペースと該リヤスペースが1つの比較的小さな管状スペースによってのみ連通していることを特徴とする密閉イヤホンである。
【発明の効果】
【0016】
イヤーパッドは内耳の内面に隙間なく接触し、イヤーパッド先端から放出される音は外部の空間に出て行かない。また、電気音響変換器を収納しているハウジングには外部空間への開口が無いので基本的に音は外部の空間に出て行かない。結果として音漏れが少ない密閉イヤホンを実現した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による密閉イヤホンについて実施例をあげて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明による密閉イヤホン1の外形見取り図である。
図2は、側面から見て奥行方向の中央の位置における密閉イヤホン1の側面断面図である。
図3は、後部ハウジング14を取り除いた状態の背面図である。密閉イヤホン1の主要部は、電気音響変換器11、前部ハウジング13、後部ハウジング14、イヤーパッド15で構成されている。(前部ハウジング13、後部ハウジング14を併せてハウジングという)
【0020】
前部ハウジング13の内部に電気音響変換器11が収納されている。
図3に示すように、電気音響変換器11は前部ハウジング13の内側に形成された区画壁134に隙間なく嵌り込んでいる。したがって、前部ハウジング13と後部ハウジング14の間には、のちに述べる連通管による以外に音響の通路は無い。前部ハウジング13の前方(図で左方向)は導音管131をなしており、その先端部には柔軟で伸縮性のある材料で作られているイヤーパッド15が嵌め込まれている。
図2に示すように、前部ハウジング13の後部と後部ハウジング14の前部が嵌合して、両ハウジングの内外面はスムーズにつながっていて、接続部分は密閉されている。
【0021】
イヤーパッド15は、正面方向(図で左側)から見たとき、断面が円形であり、いずれの使用者でも使えるものである。しかし、特定の使用者個人の耳穴の型をとって、耳穴に挿入する音導管をそれに合わせた外部形状としたカスタムIEMによるものであっても良い。
【0022】
前部ハウジング13の導音管131と電気音響変換器11の間の位置には、螺旋管130が収納されている。螺旋管132は、発明者の別の発明であるところの、音波の経路を2つに分けて、その2つの経路の長さの差を、外耳孔の閉空間共振を発生する周波数の波長の半分の長さに等しくするための部材である。
【0023】
後部ハウジング14の後端部の下側には、ワイヤー通過部材16が嵌め込まれている。ワイヤー通過部材16は電気信号を電気音響変換器11に送るためのワイヤーを通すためのワイヤー通路161が形成してある。
図2ではワイヤーの図は省略してある。ワイヤー通路161とワイヤーの間の隙間は、適当な封止剤で封止されてハウジング内部と外部の空間が音響的に接続されないようにしてある。
【0024】
図2および
図3に示したように、区画壁134の一部を四角形にくり抜いて、くり抜いた跡に隙間なく嵌る直方体であるホルダー124を嵌め込んである。ホルダー124には予め細いパイプを貫通してある。このパイプは、すなわち管状スペースをなす連通管12である。細いパイプは、小さい部材であるので組み立てるとき、取扱いが面倒であるが、予めホルダー124に取り付けておけば取り扱いが容易である。
【0025】
電気音響変換器11の枠材の一部はダクト112を形成している。ダクト112の一方(図で左側)は底になっており閉じられている。当該の底の一部には細い孔113が空いており、振動版111の背面側の空間まで貫通している。
【0026】
また、電気音響変換器11の枠材、ヨーク、磁石、磁極片のそれぞれの中心部には、それぞれ孔114、孔115、孔116、孔117が空いている。それぞれの孔の位置は重なっており、振動版111の背面側中央部の空間まで貫通している。
【0027】
このような構造である密閉イヤホン1においては、電気音響変換器11の振動版111の表側(図で右側)で発生した音波は螺旋管132が形成する2つの経路を通過して音響通路133を経由して外耳孔に達する。このとき、振動版111の前面側のフロントスペースFと背面側のリヤスペースRが、連通管12によって音響的に接続されている。音波が外部の空間に出て行くような開口部は全くない。
【0028】
図7は、上に述べた密閉イヤホン1の音漏れ特性を評価した結果を示す。これは、イヤーパッド15をダミーの外耳孔に挿入して、密閉イヤホン1の発音方向(イヤーパッドが有る側)と反対の位置にマイクロホンを置いて、密閉イヤホン1を動作させて測定したものである。
【0029】
後部ハウジング14に外部の空間に通じる開口部が有る場合と、本発明である開口部が無い場合とを比較すると、2kHzから8kHzの間では8dB以上、5kHzでは最大17.4dBの音漏れの減少が実現できている。
【0030】
音響等価回路は
図6(c)で表される。これは、振動版111の前面側のフロントスペースFと背面側のリヤスペースRが、音響空間mpと音響抵抗rpで表される連通管12によってバイパスされていることを示している。連通管12は細いパイプ状であり、内径は自由に変えることができるので、音響空間mpと音響抵抗rpを所望の値に調整することが容易である。
【0031】
図8は本発明の密閉イヤホン1の周波数特性を測定した結果を実線で、連通管の無い場合のイヤホンの周波数特性を一点鎖線で、後部ハウジング14に外部の空間に通じる開口部が有る場合の周波数特性を破線で、対比して示してある。一点鎖線のグラフでは1kHzよりやや高い点から7kHz付近まで直線状に低下していて、全体として平坦でなく、一方、実線のグラフは比較的に平坦であり満足すべき特性を実現している 。また、さらに破線のグラフでは1kHz以下の特性がかなり上下に波打っているが、実線のグラフは比較的に平坦である。
【0032】
説明では、連通管12を前部ハウジング13の区画壁134を貫通して設置したが、電気音響変換器11の外周の一部に切欠きを形成して、その位置に連通管12を設置してもよい。
【実施例2】
【0033】
図4は、側面から見て奥行方向の中央の位置における第2の密閉イヤホン2の側面断面図である。
図3は、後部ハウジング14を取り除いた状態の背面図である。
【0034】
図4ならびに
図5に示したように、前部ハウジング13の区画壁134の電気音響変換器11と接する位置の壁の一部に溝が形成されている。この溝をなす壁と電気音響変換器11の壁によって細い通路が形成されている。これがフロントスペースFとリヤスペースAを音響的につなぐ管状スペースをなす連通管17である。
【0035】
これ以外の構成と作用は実施例1と同じであり、同様の効果を得ることができる。この例では、溝を前部ハウジング13の区画壁134の形成したが、電気音響変換器11の外周の一部に溝を形成してもよい。
【0036】
以上に説明したとおり、音漏れが少なく、音質的にも満足できる密閉イヤホンを簡易な構造で実現した。
【符号の説明】
【0037】
1 密閉イヤホン
11 電気音響変換器
111 振動版
112 ダクト
113 孔
114 孔
115 孔
116 孔
117 孔
12 連通管
124 ホルダー
13 前部ハウジング
131 導音管
132 螺旋管
133 音響通路
134 区画壁
14 後部ハウジング
15 イヤーパッド
16 ワイヤー通過部材
161 ワイヤー通路
17 連通管
2 密閉イヤホン
F フロントスペース
R リヤスペース
【要約】
【課題】密閉イヤホンを使用するとき、外部の騒音を削減してイヤホンからの音を聞き取り易くし、また他人に不快感を与える音漏れを減少すること。
【解決手段】音導管にイヤチップを取付けるかもしくは耳穴の形に合わせた音導管を使用して密閉度を高め、電気音響変換器を収納する筐体の内部空間と外部空間は音響的に連通しておらず、該筐体の内部空間は、区画壁ならびに該電気音響変換器によってフロントスペースとリヤスペースに分割されており、該フロントスペースと該リヤスペースは、連比較的小さな管状スペースをなす連通管によって連通している。
【選択図】
図2