【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、鰹節を60℃〜100℃の熱水で抽出し、さらに遠心分離によって上澄を得る工程から成る、鰹だし由来のジペプチジルペプチダーゼIV阻害組成物に関する。
一態様において、本発明の組成物は、Ser−Glyの配列から成るペプチドを、好ましくは、当該組成物の乾燥物100g当り0.1乃至10mg含有する。
本発明の別の態様は、 Gly−Leu、Leu−Phe、Phe−Pro、Met−Pro−Phe、Leu−Pro−Leu、Met−Pro−Leu及びAla−Gly−Ala−Met−Proから成る群より選択される少なくとも1種のペプチドを含有する、鰹だし粕由来のジペプチジルペプチダーゼIV阻害組成物に関する。
好ましくは、前記組成物は、Gly−Leu、Leu−Phe、Phe−Pro、Met−Pro−Phe、Leu−Pro−Leu、Met−Pro−Leu及びAla−Gly−Ala−Met−Proから成る群より選択される少なくとも1種のペプチドを、当該組成物の乾燥物に基づき1乃至10質量%の量で含有する。
本発明のまた別の態様は、
1)鰹節を60℃〜100℃の熱水で抽出し、さらに遠心分離によって上澄を取り除き、鰹だし粕を得る工程;
2)前記鰹だし粕を、至適条件下、Aspergillus orizae属、Bacillus licheniformis属及びAsperigillus niger属からなる群より選択される少なくとも1種の菌株由来のプロテアーゼであって食品工業用途のプロテアーゼ、好ましくは中性プロテアーゼによって酵素分解し、さらに遠心分離によって清澄液を得る工程;及び
3)前記清澄液を精製する工程;
を経て得られる、鰹だし粕由来のジペプチジルペプチダーゼIV阻害組成物に関する。
好ましくは、本発明は、清澄液を精製する工程の後に、エタノール濃度10%、25%、50%及び99.5%のステップワイズグラジエントによる溶出を行う工程をさらに含む。
また、本発明は、上記組成物がα−グルコシダーゼ阻害作用を実質的に有しないことを特徴とする、組成物にも関する。
さらにまた本発明は、上記組成物が食後血糖値上昇抑制作用を有することを特徴とする、組成物に関する。
本発明のさらなる態様は、上記組成物のうちいずれかの組成物を含有することを特徴とする、医薬組成物に関する。
本発明のさらに別の態様は、
以下の工程:
1)鰹節を60℃〜100℃の熱水で抽出し、さらに遠心分離によって上澄を取り除き、鰹だし粕を得る工程;
2)前記鰹だし粕を、至適条件下、Aspergillus orizae属、Bacillus licheniformis属及びAsperigillus niger属からなる群より選択される少なくとも1種の菌株由来のプロテアーゼであって食品工業用途のプロテアーゼによって酵素分解し、さらに遠心分離によって清澄液を得る工程; 及び
3)前記清澄液を精製する工程;及び
4)エタノール濃度10%、25%、50%及び99.5%のステップワイズグラジエントによる溶出を行う工程;
を含むことを特徴とする、鰹だし粕由来のジペプチジルペプチダーゼIV阻害組成物の製造方法にも関する。
【0011】
本発明は、安全性の観点から、食材として古くから用いられ、食されている鰹だし、あるいは鰹だし粕由来の成分に着目し、研究を行った結果として、為された。
本発明において用いられる鰹節は、当業者に既知の手法により製造されたものであれば十分であり、もちろん市場に流通しているものでも構わない。
【0012】
鰹だしは、例えば、鰹節を適当に削ったものに水を加え、およそ5分間〜60分間の間、およそ50℃以上の温度に、好ましくは80℃〜100℃の温度に加熱し、熱水で抽出し、その後、遠心分離等によって、上澄として得ることが出来る。遠心分離に替え、又は遠心分離とともに、濾過を行ってもよい。また、鰹だしは、例えば,鰹節を適当に削ったものを、水を沸騰させて火を止め得られた沸騰水に入れ、鰹節が底に沈むまで1〜2分程度、そのまま置き、ふきん等で鰹節を静かに濾すことによって、得ることも出来る。
そして、鰹だしは、上述の鰹節を、水で加熱抽出して得られる水溶性タンパク質、アミノ酸、ペプチドであるということができる。
本発明においては、通常公知の方法により製造しただしを用いることも可能であり、市販品を用いることも可能である。
【0013】
医薬品又は特定保健用食品として許容され得る規格内にあれば、上述のようにして得られた鰹だしを、本発明の鰹だし由来のDPPIV阻害組成物として、そのまま用いてもよい。もちろん、必要に応じて鰹だしを精製して当該組成物を製造することもできる。
また、鰹だし由来のDPPIV阻害組成物については、だしとの混合物で用いることが可能である。
【0014】
こうして得られた鰹だし由来のDPPIV阻害組成物は、活性成分として、セリン−グリシン(Ser−Gly,SG)の配列から成るペプチドを、当該組成物の乾燥物(水分約5質量%以下)100g当り0.1乃至10mg、好ましくは、1乃至6mg含有する。当該組成物の乾燥は、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥などにより行われる。
【0015】
他方、鰹だし粕を原料として得られる本発明のDPPIV阻害組成物は、本発明の鰹だしから成るDPPIV阻害組成物と比較して、数倍のDPPIV活性を有する。
鰹だし粕は、前記遠心分離によって上澄を除去した後に沈澱物として、又は濾過によって残留物として、得ることができる。そして、鰹だし粕を、特定のプロテアーゼを用いて酵素分解することによって、分解後に得られる組成物において、DPPIV阻害活性が発現することとなる。
【0016】
そのようなプロテアーゼは、本発明においては、安全性の観点から、食品工業用途のものが選択される。特に、Aspergillus orizae属、Bacillus licheniformis属及びAsperigillus niger属からなる群より選択される菌株由来のプロテアーゼが好ましい。この中でも特に好ましいのは、
プロテアーゼM「アマノ」G(天野エンザイム社製;Aspergillus oryzae属;至適温度40℃〜60℃(50℃);至適pH4〜7(pH6))、
スミチームLP50D (新日本化学工業社製;Aspergillus oryzae属;至適温度45℃〜60℃(50℃);至適pH5〜8(pH7))、
スミチームFP(新日本化学工業社製;Aspergillus oryzae属;至適温度45℃〜55℃(50℃);至適pH4〜8(pH6))、
デナチームAP(ナガセケムテックス社製; Aspergillus oryzae属;至適温度40〜55℃;至適pH6〜8(pH7))、
プロチンSD−AC10F(天野エンザイム社製; Bacillus licheniformis属;至適温度40℃〜60℃;至適pH5.5〜9.0(pH8〜9))、
デナプシン2P( ナガセケムテックス社製;Asperigillus niger属;至適温度40℃から60℃(50℃);至適pH2〜4(pH3))
である。
これらプロテアーゼは、本発明の完成のために本発明者らによって選択されたもので、食品工業用途であって安全性が高く、且つ、鰹だし粕を酵素分解したときに、高いDPPIV阻害活性をその酵素分解組成物に付与し得る。
さらには、上記6種のプロテアーゼの中でも、より高いDPPIV阻害活性を付与し得るという観点から、中性プロテアーゼ、即ち、プロテアーゼM「アマノ」G及びスミチームLP50D が最も好ましい。
【0017】
上記プロテアーゼによる処理条件は、プロテアーゼの特性に合せて適宜選択すればよい。酵素量及び処理時間については、特に限定はないが、酵素量は0.1%〜2%対原料タンパク質である。また、反応時間は2時間から20時間が好ましい。また、反応温度は、35℃〜60℃が好ましい。
なお、プロテアーゼ処理は、加熱等により酵素を失活させることで終了させることができる。また、酵素反応後のpHは、その後の市販適用のために中和することが望ましい。
【0018】
プロテアーゼ処理で得られたプロテアーゼ分解物は、そのまま公知の手段で濾過又は遠心分離にかけて、未分解物を除去し、清澄液(上澄)を得る。そして、収率よく高活性のDPPIV阻害活性が得られる観点から、得られた清澄液を濃縮等し、さらに凍結乾燥又は噴霧乾燥することが望ましい。さらに各種の精製方法に供することで、DPPIVの阻害活性をより高めた画分を得ることもできる。樹脂精製法で精製することも好ましい。
【0019】
樹脂精製法で使用する樹脂としては、例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、多孔性樹脂、特殊樹脂(キレート樹脂、合成吸着剤、蛋白分離剤)等が挙げられるが、回収した画分の脱塩処理工程が不要であることから、合成吸着剤を用いるのが好ましい。合成吸着剤としては、例えば、芳香族(スチレン−ビニルベンゼン)系、芳香族系修飾型、アクリル(メタクリル)系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
また、樹脂精製法において、DPPIV阻害成分を含むプロテアーゼ分解物の樹脂への吸着は、公知の手法により行えばよい。
次いで、吸着したプロテアーゼ分解物の溶離には、酸、アルカリ又は種々の有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコールや、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン等のケトン類を用いることできるが、これらに限定されるものではない。又は、酸、アルカリとの混合溶媒としてもよい。なお、経済性と安全性の点からは、濃度50%以下のエタノール水溶液又は水を用いて溶離するのが好ましい。樹脂精製法は、バッチ法又はカラム法にて行うことができる。回収した画分は減圧又は限外濾過により濃縮し、さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。
【0021】
好ましくは、プロテアーゼ処理後に得られた清澄液を、精製した後、エタノール濃度10%、25%、50%及び99.5%のステップワイズグラジエントによる溶出にかける。これによって、DPPIV阻害性の有効成分である、Gly−Leu、Leu−Phe、Phe−Pro、Met−Pro−Phe、Leu−Pro−Leu、Met−Pro−Leu及びAla−Gly−Ala−Met−Proを含有する画分を効率的に得ることができる。
【0022】
なお本発明においては、メタノール、エタノール等の有機溶媒沈澱法によって、前記有機溶媒中に前記プロテアーゼ分解物を混合し、沈澱画分と上清画分を分離して、上清画分を回収することでDPPIV阻害の高い画分を得ることもできる。この場合、沈澱画分と上清画分とが分離するまでは有機溶媒混合物を静置することが好ましい。なお、静置温度は低温で行うことが好ましい。また、回収した上清画分は減圧又は限外濾過により濃縮し、さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。
【0023】
また、本発明の製造方法によって、鰹節からDPPIV阻害活性の高い組成物を、比較的簡便に且つ効率的に得ることができる。
本発明の製造方法に従い製造され市販されている鰹節若しくはそのだしを、そのまま食してもよいし、若しくは濃縮することによってDPPIV阻害活性の力価をより高めることができる。
【0024】
一方、本発明の鰹だし由来のDPPIV阻害組成物、又は鰹だし粕由来のDPPIV阻害組成物に含まれる活性成分の抽出及びその精製は、通常公知の方法を用いて行うことができる。
具体的には、例えば、鰹節の組織を粉砕した後、水洗、希塩溶液による抽出、酸あるいはアルカリ溶液による抽出、ペプシン、トリプシンやヒアルロニダーゼ等の酵素による抽出を行い、塩析や透析等の公知の精製手段を施して、活性成分を得ることができる。
【0025】
上記のとおり本発明のDPPIV阻害組成物は、安全性に優れたものであり、しかもコラゲナーゼ処理されたコラーゲン又はゼラチンの分解物に比べて、高いDPPIV阻害活性を有する。
【0026】
本発明の鰹だし粕由来のDPPIV阻害組成物は、Gly−Leu、Leu−Phe、Phe−Pro、Met−Pro−Phe、Leu−Pro−Leu、Met−Pro−Leu及びAla−Gly−Ala−Met−Proから成る群より選択される少なくとも1種のペプチドを含有する。これらペプチドは、当該組成物の乾燥物に基づき、1乃至10質量%の高濃度で含まれることを特徴とする。そのため、高いDPPIV阻害活性を有し、特定保健用食品の有効成分としてより期待される。さらに、α−グルコシダーゼ阻害作用を実質的に有しないため、摂取後の低血糖などのおそれが低い。なお、α−グルコシダーゼ阻害作用を実質的に有しないとは、α―グルコシダーゼ阻害活性(IC50)が、およそ1.5mg/mL以上であることを意味する。また、当該組成物の乾燥は、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥などにより行われる。