(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および前記中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、前記幾何学的中心を通る中心の水平格子線および前記中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、眼鏡用レンズを通して、前記幾何学的中心が注視点に一致するように設定することと、
視線が前記幾何学的中心に注視を維持しながら頭部とともに前記眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が前記幾何学的中心に注視を維持しながら頭部とともに前記眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える前記矩形模様の画像を前記幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれをゆれ指標として求めることとを有する眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記ゆれ指標として求めることは、前記左右の垂直格子線および前記上下の水平格子線の傾きの変化をそれぞれ計算することを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項7において、前記ゆれ指標として求めることは、前記中心の垂直格子線および前記中心の水平格子線の傾きの変化をそれぞれ計算することを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項7または8において、前記ゆれ指標として求めることは、それぞれ計算された前記傾きの変化の平均または和を計算して前記ゆれ指標とすることを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記ゆれ指標として求めることは、前記左右の垂直格子線および前記上下の水平格子線の移動面積をそれぞれ計算することを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項10において、前記ゆれ指標として求めることは、前記中心の垂直格子線および前記中心の水平格子線の移動面積をそれぞれ計算することを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
請求項10または11において、前記ゆれ指標として求めることは、それぞれ計算された前記移動面積の平均または和を計算して前記ゆれ指標とすることを含む、眼鏡用レンズの性能評価方法。
【背景技術】
【0002】
累進屈折力レンズの性能を評価する方法が幾つか提案されている。特許文献1には、評価対象レンズの性能を分かりやすく表現することのできるレンズの性能評価方法として、基準レンズについて、無限遠方を含む所定位置に配置された基準平面と眼回旋中心との間の所定位置に配置し、基準平面上に配置された基準点それぞれから同レンズを通した仮想的光線が屈折して眼回旋中心に至るように同光線を設定し、同レンズ裏面から眼回旋中心に至る同光線を延長した直線が基準平面と交差する対応する投影点を求め、同各基準点と投影点とのずれを収差として取り出すシュミレーションを行い、同様に累進多焦点レンズについても同様のシュミレーションを行ない得られた対応する収差の差を算出し、同各収差差に基づいて同評価対象レンズの視野画像を表現することが記載されている。
【0003】
これにより、基準レンズとの収差差によって累進多焦点レンズの性能を表現でき、累進の度合いや分布の状態を視覚的に認識しやすくなるため、累進多焦点レンズの性能を理解するのが容易になることが特許文献1に記載されている(特許文献1段落番号0005参照)。
【0004】
特許文献2には、累進多焦点レンズ等の揺れや歪みに関係する眼鏡レンズの性能の適切な評価を可能にすることが記載されている。そのため、特許文献2には、{(dr’)/(dr)}
2=[I+Lcos{2(θ’−θ
0’)}]
−1の関係式で表される眼鏡倍率(dr’)/(dr)の描く軌跡であって、近傍物体点の方位角によって変化する結果描かれる眼鏡倍率楕円の長軸をaとし、短軸をbとして、H=(a/b)−1で規定したHを変形指標とし、この変形指標を求めるか、又は、Hn={(a/b)−1}cos
2(2θ
0’)で規定されるHnをノーマル変形指標と定義し、Hs={(a/b)−1}sin
2(2θ
0’)で規定されるHsをスキュー変形指標と定義して、これらの変形指標のいずれか又は双方を求めて評価することによって眼鏡レンズの性能を評価することが記載されている。
【0005】
特許文献2によると、上記式で定義される(dr’)/(dr)は、出射近傍光線の方位角θ’の関数であり、この関数は、レンズ面形状が平滑で、しかも全反射が起こらない光線入射角度であれば、楕円であると証明できる。この楕円は物体面上の微小円がメガネレンズを通して見えた形状と考えることができ、レンズの拡大縮小する性質と同時に変形の性質も表すことができる。メガネレンズ、特に累進屈折力レンズ上のこれらの性質の分布を解析することで、「ゆれ・歪み」に対する適切な評価が可能であることが分かったことが特許文献2に記載されている(特許文献2段落番号0007参照)。
【0006】
特許文献3には、累進多焦点レンズ等で、視線移動時に感じられるユレを定量評価可能にすることが記載されている。そのため、特許文献3には、任意の視線方向および任意の物体距離にある物体を注視した場合を想定し、そこから微小角dωだけ離れた近傍点を眼鏡を通して見たときの、像側主光線からの偏角dω’を求め、(dω’)/(dω)を眼鏡倍率Mと定義し、さらに、ある方向に沿って視線を移動させたときの眼鏡倍率Mの変化率として、(dM)/(dω)を算出し、この値に基づいてユレを定量評価することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、さらに、累進屈折力レンズの面上の各点について、視線を眼鏡の視野内で縦方向に振ったときの平均眼鏡倍率Mの変化率である縦ユレ(dM/dt)、同じく視線を眼鏡の視野内で水平方向に振ったときの平均眼鏡倍率Mの変化率である横ユレ(dM/ds)および最大ユレ(縦ユレおよび横ユレの二乗平均の平方根)を求め、その分布図を求めることによって眼鏡レンズの性能を評価することが記載されている(特許文献3段落番号0014)。
【0008】
特許文献4には、累進多焦点レンズ等の眼鏡レンズの視野内で視線を移動した時に感じられるユレを定量評価可能にすることが記載されている。そのため、特許文献4では、眼鏡レンズを通して任意の視線方向および任意の物体距離にある物体点Pまわりの微小円を観たときの眼鏡倍率楕円と、眼鏡レンズを通して物体点近傍にある近傍物体点まわりの微小円を観たときの眼鏡倍率楕円との、楕円形状の比較結果に基づき、視線移動にともなう眼鏡倍率の変化率を評価することが記載されている。
【0009】
特許文献4には、さらに、累進屈折力レンズの面上の各点について、視線を眼鏡の視野内で縦方向に振ったときの眼鏡倍率Mの変化率である縦ユレ(dM/dt)、同じく視線を眼鏡の視野内で水平方向に振ったときの眼鏡倍率Mの変化率である横ユレ(dM/ds)および最大ユレ(各方位角における眼鏡倍率Mの変化率の最大値)を求め、その分布図を求めることによって眼鏡レンズの性能を評価することが記載されている(特許文献4段落番号0015参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
眼鏡レンズの開発の際には眼鏡レンズの適切な性能評価が必要である。それにも増して、眼鏡レンズの性能評価の情報は、顧客が購入する眼鏡レンズを選択する場合に必要な情報であり、顧客にとって分かりやすく選択しやすい情報として眼鏡レンズの性能を示す情報を提供することが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、眼鏡用レンズの性能評価方法であって以下のステップを含む。
1.矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線および中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、眼鏡用レンズを通して、幾何学的中心が注視点に一致するように設定すること。
2.視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様の画像を幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれをゆれ指標(ユレ指標)として求めること(ゆれ指標を求めるステップ)。
【0013】
この性能評価方法におけるゆれ指標は頭部の動き補償する前庭動眼反射により、頭部に対して眼球(視線)が動くことによる像のゆれを示すものであり、注視点と、前庭動眼反射により眼球が動く第1の水平角度または第1の垂直角度とを決めれば、眼鏡用レンズのゆれ指標が求められる。したがって、眼鏡用レンズの性能を示す無数の値が等高線などのように分布した図を見て評価しなくても、特定の一点または主注視線に沿ったゆれ指標を見ることにより眼鏡用レンズの性能を評価できる。このため、眼鏡用レンズの評価に不慣れなユーザーであっても簡単に眼鏡用レンズの性能を評価し、ユーザーに適した性能の眼鏡用レンズを選択できる。
【0014】
ゆれ指数として求めるステップは、幾何学的なずれを座標でシミュレーションして求めてもよく、眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたときの左回旋画像および右回旋画像を作成することを含んでいてもよい。たとえば、光線追跡などの方法により画像を形成できる。ゆれ指数として求めるステップは、眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときの上回旋画像および下回旋画像を作成することを含んでいてもよい。
【0015】
第1の水平角度は、前庭動眼反射により頭部の運動に対して視線が動かない最大水平角度の範囲内であることが望ましい。最大水平角度の近傍に左右の垂直格子線が見えるように仮想面を設定してもよい。第1の垂直角度は、前庭動眼反射により頭部の運動に対して視線が動かない最大垂直角度の範囲内であることが望ましい。
【0016】
ゆれ指標として求めるステップは、左右の垂直格子線および上下の水平格子線の傾きの変化をそれぞれ計算することを含むことが有効である。水平格子線の傾きの変化は、頭を動かしたときの像の波打ち(うねり)をよく表し、垂直格子線の傾きの変化は像の揺らぎをよく表すと考えられる。
【0017】
また、ゆれ指標を求めるステップは、さらに、中央の垂直格子線および中央の水平格子線の傾きの変化をそれぞれ計算することを含むことも有効である。注視点を変えることにより、ゆれ指標をマップ化することが可能となる。
【0018】
また、ゆれ指標を求めるステップは、それぞれ計算された傾きの変化の平均または和を計算してゆれ指標とすることを含むことが望ましい。頭を動かしたときの、波打ち(うねり)および揺らぎを含めた像のゆれを総合的に評価できる。
【0019】
ゆれ指標を求めるステップは、左右の垂直格子線および上下の水平格子線の移動面積をそれぞれ計算することを含むことも有効である。頭を動かしたときの像の倍率の変化、すなわち、像の伸び縮みを含めたゆれをよく表す指標が得られる。
【0020】
ゆれ指標を求めるステップは、中央の垂直格子線および中央の水平格子線の移動面積をそれぞれ計算することを含むことも有効である。注視点を変えることにより、像の伸び縮みを含めたゆれ指標をマップ化することが可能となる。
【0021】
また、ゆれ指標を求めるステップは、それぞれ計算された移動面積の平均または和を計算してゆれ指標とすることを含むことが有効である。頭を動かしたときの、像の伸び縮みを含めた像のゆれを総合的に評価できる。
【0022】
典型的な注視点は主注視線(主子午線)に沿った点であり、さらに典型的にはフィッティングポイントである。また、第1の水平角度の典型的な値は10度である。第1の垂直角度の典型的な値は5度である。典型的には、主注視線上の幾つかの点を注視点として、または、フィッティングポイントを注視点として、第1の水平角度を10度としたときのゆれ指標を眼鏡用レンズの性能評価値として採用することにより、眼鏡用レンズの像のゆれを含めた性能評価を標準化できる。
【0023】
本発明の異なる態様の1つは、度数の異なる遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズを設計する方法である。この設計する方法は以下のステップを含む。
・眼鏡仕様に基づき遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズの物体側の面および眼球側の面を仮定すること。
・矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線および中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、仮定された物体側の面および眼球側の面を含む累進屈折力レンズを通して、前記幾何学的中心が注視点に一致するように設定すること。
・視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様の画像を幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれをゆれ指標として求めること。
【0024】
この設計する方法により、眼鏡用レンズをゆれ指標という分かり易く、標準化しやすい指標により評価し、ゆれの少ない眼鏡用レンズの設計に役立てることができる。
【0025】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、度数の異なる遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズを設計する装置である。この装置は、眼鏡仕様に基づき遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズの物体側の面および眼球側の面を仮定するユニットと、仮定された物体側の面および眼球側の面を含む累進屈折力レンズのゆれを評価する評価ユニットとを有する。評価ユニットは、矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線および中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、仮定された物体側の面および眼球側の面を含む累進屈折力レンズを通して、前記幾何学的中心が注視点に一致するように設定するユニットと、視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様の画像を幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれをゆれ指標として求めるユニットとを含む。
【0026】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、度数の異なる遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズの製造方法である。この製造方法は以下のステップを含む。
・眼鏡仕様に基づく遠用部および近用部を含む累進屈折力レンズのゆれを評価すること。
・ゆれが評価された累進屈折力レンズを成型すること。
【0027】
ゆれを評価することは、さらに以下のステップを含む。
・矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線および中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、累進屈折力レンズを通して、幾何学的中心が注視点に一致するように設定すること。
・視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様の画像を幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれをゆれ指標として求めること。
【0028】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、度数の異なる遠用部および近用部を含み、ゆれ指標が求められた累進屈折力レンズである。このゆれ指標は、矩形模様であって、その幾何学的中心を通る中心の垂直格子線および中心の垂直格子線に対して左右対称な左右の垂直格子線と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線および中心の水平格子線に対し上下対称な上下の水平格子線とを備えた矩形模様を含む仮想面を、累進屈折力レンズを通して、幾何学的中心が注視点に一致するように設定し、視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の水平角度だけ左右に動かしたとき、または視線が幾何学的中心から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様の画像を幾何学的中心が一致するように重ね合わせた際の幾何学的なずれを示す値である。
【0029】
このゆれ指標を標準化することにより、メーカーおよび眼鏡仕様の異なる累進屈折力レンズの性能の評価を簡単に行うことができる。したがって、眼鏡用レンズにそれほど詳しくないユーザーであっても、自分に適した眼鏡用レンズをさらに適確に選択できるようになる。したがって、自分に適した眼鏡用レンズと、眼鏡用レンズを装着した眼鏡フレームとを有する眼鏡を、より容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、眼鏡の一例を斜視図にて示している。
図2(a)は、本発明の実施形態の1つの累進屈折力レンズの一方のレンズを平面図にて模式的に示している。
図2(b)は、その累進屈折力レンズの一方のレンズを断面図にて模式的に示している。
【0032】
本例では、使用者側(ユーザー側、着用者側、眼球側)からみて、左側を左、右側を右として説明する。この眼鏡1は、左眼用および右眼用の左右一対の眼鏡用レンズ10Lおよび10Rと、レンズ10Lおよび10Rをそれぞれ装着した眼鏡フレーム20とを有する。眼鏡用レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、累進屈折力レンズ、より具体的には、累進多焦点レンズ(累進屈折力レンズ)である。レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、基本的な形状は物体側に凸のメニスカスレンズである。したがって、レンズ10Lおよび10Rは、それぞれ、物体側の面(凸面、以下外面ともいう)19Aと、眼球側(使用者側)の面(凹面、以下内面ともいう)19Bとを含む。
【0033】
図2(a)は右眼用レンズ10Rを示している。このレンズ10Rは、上方に遠距離の物を見る(遠方視の)ための視野部である遠用部11を含み、下方に遠用部11と異なる度数(屈折力)の近距離の物を見る(近方視の)ための視野部である近用部12を含む。さらに、レンズ10Rは、これら遠用部11と近用部12とを連続的に屈折力が変化するように連結する累進部(中間視のための部、累進帯)13を含む。また、レンズ10Rは、遠方視・中間視・近方視をするときに視野の中心となるレンズ上の位置を結んだ主注視線(しばしば主子午線とも呼ばれる)14を含む。眼鏡用レンズ10Rをフレーム枠に合わせて外周を成形し枠入れする際に遠方水平正面視(第一眼位)での視線が通過するようにするレンズ上の基準点であるフィッティングポイントPeは遠用部11のほぼ下端に位置するのが通常である。以下においてはこのフィッティングポイントPeをレンズの座標原点とし、水平方向の座標をX座標、垂直方向の座標をY座標とする。主注視線14は、Y座標に対してフィッティングポイントPeを過ぎたあたりから鼻側に曲がる。
【0034】
なお、以下において眼鏡用レンズとして右眼用の眼鏡用レンズ10Rを中心に説明するが、眼鏡用レンズ、眼鏡レンズまたはレンズは左眼用の眼鏡用レンズ10Lであってもよく、左眼用の眼鏡用レンズ10Lは、左右の眼の眼鏡仕様の差を除けば基本的には右眼用の眼鏡用レンズ10Rと左右対称の構成となる。また、以下においては、右眼用および左眼用の眼鏡用レンズ10Rおよび10Lを共通して眼鏡用レンズ(またはレンズ)10と称する。
【0035】
図3(a)に、典型的な累進屈折力レンズ10の度数分布(単位はディオプター(D))を示し、
図3(b)に、非点収差分布(単位はディオプター(D))を示し、
図3(c)に、このレンズ10により正方格子を見たときの歪曲の状態を示している。累進屈折力レンズ10においては、主注視線14に沿って所定の度数が加入される。したがって、度数の加入により、中間領域(中間部、累進領域)13の側方には大きな非点収差が発生し、そこの部分では物がぼやけて見えてしまう。度数分布は近用部12では所定の量だけ度数がアップし、中間部13、遠用部11へと順次度数が減少する。
【0036】
この度数のレンズ10上の位置による違いにより、度数の大きな近用部12では遠用部11に比べ像の倍率が大きくなり、中間部13から近用部12の側方では、正方格子像はひずんで見える。これが頭を動かしたときの像のゆれ(ユレ)の原因となる。
【0037】
図4に、前庭動眼反射(Vestibulo−Ocular Reflex(VOR))の概要を示している。人はものを見ているとき頭部が動くと視界も動く。このとき、網膜上の像も動く。その頭部の動き(顔の回旋(回転)、頭部の回旋)8を相殺するような眼球3の動き(眼の回旋(回転))7があれば視線2は安定し(動かず)、網膜像は動かない。このような網膜像を安定化させる機能をもつ、反射的な眼球運動を代償性眼球運動という。その代償性眼球運動の一つが前庭動眼反射であり、頭部の回旋が刺激となり反射を生じる。水平回転(水平回旋、水平旋回)による前庭動眼反射の神経機構はある程度解明されており、頭部の回旋8を水平半規管が検知し、それからの入力が外眼筋に抑制性と興奮性の作用を与え、眼球3を動かすと考えられている。
【0038】
頭部が回旋したとき、前庭動眼反射により眼球が回旋すると網膜像は動かないが、
図4に破線および一点鎖線で示したように頭部の回旋に連動して眼鏡レンズ10が回旋する。このため、前庭動眼反射により眼鏡レンズ10を通過する視線2は相対的に眼鏡レンズ10の上を動く。したがって、前庭動眼反射により眼球3が動く範囲、すなわち、前庭動眼反射により視線2が通過する範囲で眼鏡用レンズ10の結像性能に差があると、網膜像がゆれることがある。
【0039】
図5に模式的に示すように、累進屈折力レンズで問題となるゆれ(ユレ)の感覚は、例えばパソコン画面のような矩形の観察対象物9を、視線2を固定しながら頭を動かしたときなどに、本来矩形であるはずのものが頭の動きに応じてぐにゃりと拉げて見えたり、大きさが変わったりする違和感から生まれる不快感である。以下においては、このような人の視覚の生理的特性を考慮し、眼鏡レンズ、特に累進屈折力レンズ10におけるゆれ感覚(ユレ感覚)の定量化を行う。
【0040】
図6は、視標探索時の頭位(眼位)運動を観察した一例を示している。
図6に示した幾つかのグラフは、注視点より水平方向にある角度だけ移動した視標(対象物)を認識するために、頭部がどの程度回旋するかを示している。視標(対象物)を注目させる注視の状態においては、グラフ41に示すように頭部は対象物とともに回旋する。これに対して、視標(対象物)を単に認識する程度の弁別視の状態においては、グラフ42に示すように、頭部の動きは対象物の角度(移動)に対して10度程度小さく(少なく)なる。この観察結果により、眼球の動きにより対象物を認識できる範囲の限界を約10度程度に設定できる。したがって、自然な状態で人間が頭部を動かしながら前庭動眼反射により対象物を見るときの水平方向の頭部の回旋角度は左右にそれぞれ最大10度程度(前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxm)と考えられる。
【0041】
一方、前庭動眼反射により対象物を見る時の垂直方向の頭部の最大回旋角は、累進屈折力レンズの場合は、中間部では度数の変化があるため、大きく動くと対象物の距離に対して度が合わなくなり、像がぼけてしまうことから、水平方向のものよりも小さくなることが考えられる。以上から、ゆれのシミュレーションを行う場合のパラメータとなる頭部回旋角は水平方向で左右に約10度程度、垂直方向ではそれより小さく、例えば上下に5度程度を用いるのが好ましい。
【0042】
図7に、仮想空間の仮想面59に配置された観察目標物、本例においては矩形模様50に対して頭部を回旋させたときの前庭動眼反射を加味した視覚のシミュレーションを行う様子を示している。仮想空間に眼球3の回旋中心Rcを原点として、水平正面方向にz軸を設定し、水平方向にx軸、垂直方向にy軸を設定する。y−z平面に対して角度θx、x−z平面に対して角度θyをなす方向に、距離dを隔てた仮想面59に観察目標物の矩形模様50を配置する。
【0043】
本例においては、矩形模様50は縦横に2等分された正方格子であり、幾何学的中心55を通る中心の垂直格子線51および中心の垂直格子線51に対して左右対称な左右の垂直格子線52と、幾何学的中心を通る中心の水平格子線53および中心の水平格子線53に対し上下対称な上下の水平格子線54とを含む。この正方格子の矩形模様50を、以下に示すようにピッチが眼鏡レンズ10の上に視野角で設定されるように仮想面59と眼球3との距離dを調整する。
【0044】
図8に示すように、この例では、眼鏡レンズ10を実際の装用時と同じ位置・姿勢で眼球3の前に配置し、注視点に対して前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxmの近傍、すなわち、注視点に対して±10度に左右の垂直格子線52および上下の水平格子線54がそれぞれ見えるように仮想面59を設定する。
【0045】
この正方格子の矩形模様50のサイズは視野角で規定することができ、見る対象物に合わせて設定することが可能である。例えばモバイルパソコンの画面などでは格子の視野ピッチは小さく、ディスクトップパソコンの画面のような対象物では格子の視野ピッチは大きくとることができる。
【0046】
一方、観察目標物(仮想面)59までの距離dについては、累進屈折力レンズ10の場合は、遠用部、中間部、近用部により想定される観察対象物の距離が変わるので、それを考慮して遠用部では数m以上の遠距離、近用では40cmから30cm程度の近距離、中間部は1mから50cm程度の中間距離にすることが妥当である。ただし、例えば歩行時には中間部、近用部でも2mから3mの距離のものが観察対象となるので、あまり厳密にレンズ上の遠・中・近の領域に合わせて、距離dを設定する必要はなく、そのゆれ指標計算結果に対する影響も大きくはない。
【0047】
矩形模様50を設定する典型的な方法は、たとえば、水平正面視の視線2はレンズ設計時に予め想定されたフィッティングポイントPeを通る、すなわち、フィッティングポイントPeが注視点であるときに、矩形模様50の幾何学的中心55がフィッティングポイントPe(視線2)に一致するように設定することである。レンズ屈折作用により目標対象物である矩形模様50は視野方向(θx、θy)からずれた視野角(θx‘、θy’)方向に観察される。このときの矩形模様50の観察像は通常の光線追跡法により求めることができる。
【0048】
この状態を基本として、水平方向に+α°頭部を回旋させると顔と一緒にレンズ10も+α°回旋する。このとき前庭動眼反射により眼球3は逆方向にα°、即ち−α°回旋するので、レンズ10の上では視線2は−α°移動した位置を使って目標物の矩形模様50の幾何学的中心55を見ることになる。したがって、レンズ10の視線2の透過箇所や視線2のレンズ10への入射角度が変わるので、目標対象物である矩形模様50は違った形で観察される。
【0049】
このため、頭部を左右または上下に反復回旋したときの、最大または所定の回旋角度(第1の水平角度θx1および第1の垂直角度θy1)の両端位置における観察目標物(矩形模様)50の画像を観察目標物の幾何学中心位置55で重ね合わせ、両者の形状のずれを幾何学的に計算する。第1の水平角度θx1の一例は前庭動眼反射により眼球3が動く最大水平角度θxm(約10度)であり、第1の垂直角度θy1の一例は前庭動眼反射により眼球3が動く最大垂直角度θym(約5度)である。
【0050】
ゆれ指標IDdは、水平格子線53および54、および垂直格子線51および52の傾きの変化を計算するものである。ゆれ指標IDsは水平格子線53および54、および垂直格子線51および52の移動面積を計算するものである。
【0051】
1つの具体例として、内面累進屈折力レンズであるセイコーエプソン社製累進屈折力レンズ「セイコースーパーP−1」Aタイプに眼鏡仕様として累進帯長14mm、処方度数(S)が0.00(D)、加入度数(Add)が2.00(D)を適用したレンズ10におけるゆれ指標IDdおよびIDsの計算過程およびその結果を
図9から
図14に示す。観察対象物の矩形模様50の視線方向(θx、θy)は、(4°,−30°)とし、レンズ10の上では近用部12の上部の中間部13とのほぼ境界に位置するようにした。目標対象物のピッチ、すなわち、仮想面59における矩形模様50の左右の垂直格子線52および上下の水平格子線54の間隔は視野角で10°(10度)である。
【0052】
図9は、頭部を水平方向左右に10°振ったときの振り角10°、0°、−10°での観察対象物像の矩形模様50の各格子点位置を表により示している。振り角10°、0°、−10°で得られた格子模様50の各像を、格子模様50の幾何学的中心55が一致するように重ね合わせたときの各格子位置のずれを示している。すなわち、振り角10°、0°、−10°で得られた格子模様50の各像を、格子模様50の幾何学的中心55の格子の中心位置を(0、0)として、各像の中心55を除く各格子点全8点を中心点55の位置(0、0)からの相対位置(視野角)で表している。
【0053】
図10は、注視点に対して第1の水平角度(振り角)θx1(10度)で左右に眼球3および矩形模様50を動かしたときの矩形模様50の像を示している。この状態は、水平角度(振り角)10度で左右に頭部とともに眼鏡用レンズ10を動かしたときに、矩形模様50を動かさず視線2が矩形模様50の幾何学的中心55から動かないように矩形模様50をみている状態に相当する。矩形模様50a(破線)は、振り角10°で光線追跡法により眼鏡レンズ10を介して観察される像(右回旋画像)であり、矩形模様50b(実線)は同様に振り角−10°で観察される像(左回旋画像)であり、それらの矩形模様50aおよび50bを幾何学的中心55が一致するように重ねて示している。ちなみに、振り角0°で観察される矩形模様50の像はこれらのほぼ中間に位置する。振り角を上下に設定した場合に観察される像(上回旋画像および下回旋画像)も同様に求めることができる。
【0054】
これらの画像(矩形模様)50aおよび50bは、観察目標物を、眼鏡レンズ10を通して見ながら、頭を振ったときにユーザーが実際に得られる目標対象物の像であり、これらの像50aおよび50bの差(変形)は、頭を振ったときの像の動きを表していると見なすことができる。
【0055】
図11に、ゆれ指標(ゆれ指数)IDdを示している。ゆれ指標IDdは、各格子線51〜54の傾きの変化である。
図11に示すように矩形模様50の各辺(格子線)51〜54の勾配の変化量を幾何学的に計算することにより、12個求めることができる。このうち水平方向の格子線53および54の勾配の変化量は「波打ち(うねり)」を表し、垂直方向の格子線51および52の勾配の変化量は「揺らぎ」を表していると考えられる。したがって、格子線51〜54の勾配の変化量を方向毎に合算するとそれぞれ「波打ち(うねり)感」、「揺らぎ感」としてゆれ(ユレ)を定量評価できる。
【0056】
図12および
図13に、ゆれ指標(ゆれ指数)IDsを示している。ゆれ指標IDsは、矩形模様50の全体形状の変形の大きさである。ゆれ指標IDsは、
図12および13に示すように矩形模様50の格子線51〜54のそれぞれの移動量を面積として幾何学的に計算することによって、12個の数値を得ることができる。
図12は水平方向の格子線53および54の移動量(斜線塗りつぶし部分)を表し、
図13は垂直方向の格子線51および52の移動量(斜線塗りつぶし部分)を表したものである。移動量(面積)で表わされるゆれ指標IDsは、先の勾配の変化量で表わされるゆれ指標IDdと同じ傾向を示すが、レンズ10がゆれ評価位置ふきんで大きな倍率変化を持っていた場合、例えば水平方向に伸び縮みが生ずるような変形がある場合は、それらの要素も包含した指標となる。
【0057】
これらのゆれ指標IDdおよびIDsは、水平方向成分、垂直方向成分、それらの合算値として、用途により使い分けることができる。
【0058】
図3(a)および(b)に示したように、レンズ10上の位置による違いにより、度数の大きな近用部12では遠用部11に比べ像の倍率が大きくなり、中間部13から近用部12の側方では、正方格子像はひずんで見える。これが頭を動かしたときの像のゆれ(ユレ)の原因となる。また、
図11〜13に示したようにゆれ指標IDdおよびIDsは、前庭動眼反応の範囲で眼球が動いたときの像にゆれがあることを示しており、眼鏡レンズ10を装着して頭を動かしたときに眼球3を介して得られる像にゆれが発生することを示している。
【0059】
図14に、
図9に示した矩形模様50の各点の位置から計算されたユレ指標(ゆれ指標)を示している。勾配の変化から得られるゆれ指標IDdは「振動」と表現し、格子線の移動量から得られるゆれ指標IDsを「変形量」と表現している。
【0060】
この「振動」のゆれ指標IDdの単位は、視野角座標上での各格子線の勾配の変化量であるので無次元である。一方、「変形量」のゆれ指標IDsの単位は、視野角座標上での面積であるので、度の二乗である。なお、この変形量によるゆれ指数IDsは、頭部の回旋を加える前の0度での面積で変化量の面積を割って、無次元化して、比率(たとえば、パーセント)表示することも可能である。
【0061】
振動に関する指標IDdは、中心格子線(Center Line)51および53の振動を、水平方向の格子線53のものは「水平@CL」、垂直方向の格子線51のものは「垂直@CL」とし、指標化した。また、その中心格子線53を含むすべての水平格子線53および54の振動を「水平L」、同様にすべての垂直格子線51および52の振動を「垂直L」、その両者を合算したすべての格子線の振動の総和または平均を「全L」として、指標化した。
【0062】
「水平@CL」と「垂直@CL」は計算が容易で簡便であるので、レンズ10の全面にわたって計算し、マップ化するような場合には便利である。一方、「水平L」、「垂直L」は、実際に人(ユーザー)がゆれを感じているときにはただ1つの水平あるいは垂直の線の変動だけではなく、形として捉えている対象物のアウトラインの変動が同時に知覚されているという事実からすると、よりユーザーの感覚に近い指標であると言える。
【0063】
さらに、ユーザーにおいては水平方向も垂直方向も同時に知覚されるので、それらを合算した「全L」が一番妥当な指標となる。しかしながら、ユーザーによって「波打ち(うねり)」と「揺らぎ」に対する感受性が異なる可能性や、個人の生活環境による視線の使い方が水平方向での視線移動が多く「波打ち(うねり)」を問題としたり、その逆に「揺らぎ」を問題にするケースが考えられる。したがって、各方向成分により、ゆれを指標化し、評価することも有用である。
【0064】
変形量に関する指標IDsについては、すべての水平格子線53および54の変動面積を「水平L」、すべての垂直格子線51および52の変動面積を「垂直L」、それらの合算を「全L」として指標化した。成分毎の指標化とその合算による指標化の必要性については前述の振動に関するものと同じである。変形量による指標IDsのメリットは、倍率の変化が加味される点である。特に累進屈折力レンズ10の場合は垂直方向に度数の加入がされる。このため、首を縦方向に振ってものを見た場合、度数の変化によって像が拡大・縮小されたり、前後に揺動して見えたりする現象がある。また加入度数が大きい場合も近用部の側方で倍率が落ちる現象が顕著になる。このため、像の横方向での伸び縮みが発生する。変形量による指標IDsはこれらの変化を数値化できるので、評価方法として有用である。
【0065】
ゆれ指標IDdおよびIDsの活用例(実施例)として、ほぼ同じ非点収差と等価度数分布を有する2種類の累進屈折力レンズ10aおよび10bを評価した。累進屈折力レンズ10aは、累進面が眼球側表面19Bにある一般に内面累進屈折力レンズと呼ばれるものである。累進屈折力レンズ10bは、累進面がレンズ10の物体側表面19Aにある一般に外面累進屈折力レンズと呼ばれるものである。
【0066】
図15は、内面累進屈折力レンズ10aの累進屈折面の等価平均度数(単位はディオプター(D))の分布を示す。
図16は、レンズ10aの累進屈折面の面非点収差(単位はディオプター(D))の分布を示す。
図15および16には眼鏡フレーム20にレンズ10aおよび10bが装着されたときに使用されるレンズの範囲を太実線により示している。丸いレンズ10aおよび10bの幾何学中心Peは眼鏡装用者が水平前方を見たときの視線の通過位置であり、通常フィッティングポイントと呼ばれる点である。レンズ10aおよび10bの右方向がこめかみ側、左方向が鼻側であり、図中に破線で示されているレンズ10aおよび10bの上を上下に方向に伸びる線が、累進屈折力レンズを使用するときに主に視線の移動するレンズ上の位置で主子午線14と呼ばれる線である。この累進面が設計された眼鏡仕様は、累進帯長が14mm、処方度数(Sph)が0.00(D)、加入度数(Add)が2.00(D)である。
【0067】
図17は、外面累進屈折力レンズ10bの累進屈折面の等価平均度数(単位はディオプター(D))の分布を示す。
図18は、レンズ10bの累進屈折面の面非点収差(単位はディオプター(D))の分布を示す。
【0068】
図19は、
図15および
図16に示した累進屈折面を使って設計された内面累進屈折力レンズ10aの装用状態での等価球面度数分布を示す。
図20は、内面累進屈折力レンズ10aの装用状態での非点収差分布を示す。なお、この例では、内面累進屈折力レンズ10aの物体側の面19Aは球面であり、その面屈折力はほぼ4.0Dである。
【0069】
図21は、
図17および
図18に示した累進屈折面を使って設計された外面累進屈折力レンズ10bの装用状態での等価球面度数分布を示す。
図22は、外面累進屈折力レンズ10bの装用状態での非点収差分布を示す。なお、この例では、外面累進屈折力レンズ10aの眼球側の面19Bは球面であり、その面屈折力はほぼ4.0Dである。
【0070】
これらの内面累進屈折力レンズ10aと外面累進屈折力レンズ10bは、眼鏡処方が同じであり、非点収差分布、等価球面度数の分布はほぼ同一または類似である。非点収差についてはレンズ下方の周辺部において若干違う程度である。等価球面度数については、外面累進屈折力レンズ10bの方が使用範囲内においてもやや近用度数が小さいが、その以外ではほぼ同じであることが判る。
【0071】
図23に、内面累進屈折力レンズ10aを透して正方格子を見たときの像歪曲を示している。
図24に、外面累進屈折力レンズ10bを透して正方格子を見たときの像歪曲を示している。
図23および24は全くと言ってよいほど同じで、これからレンズ10aおよび10bの像ゆれ(ユレ)の違いを推測するのは不可能である。増して、眼鏡レンズの設計に素人であるユーザーが
図23および
図24により、ユーザーに適したレンズを選択することは不可能である。
【0072】
図25に、これらのレンズ10aおよび10bについて、頭部を水平方向に振ったときの振動のゆれ指標IDdを求めた結果を示している。ゆれ指標IDdの計算方法は上述した通りである。ただし、注視点を注視線(主子午線)14に沿って5°ピッチで移動させ、それぞれの注視点におけるゆれ指標IDdを求めてグラフ化した。観察対象の矩形模様50の格子のピッチは視野角で10度であり、頭の水平振り角は10度である。
【0073】
図26に、これらのレンズ10aおよび10bについて、頭部を水平方向に振ったときの変形量のゆれ指標IDsを求めた結果を示している。ゆれ指標IDsの計算方法は上述した通りである。ただし、ゆれ指標IDdと同様に、注視点を注視線(主子午線)14に沿って5°ピッチで移動させ、それぞれの注視点におけるゆれ指標IDdを求めてグラフ化した。
【0074】
図25の振動のゆれ指標IDdの結果から分かるように、水平方向に頭部を振ったときはフィッティングポイント(主子午線上 0°)から、度数の加入がほぼ終わる辺り(主子午線上 25°)までは、内面累進屈折力レンズ10aの方が像の振動が少ない。それを過ぎた近用部12では、外面累進屈折力レンズ10bの方が像の振動が少ない。この傾向は、ゆれ指標IDdのいずれにも表れているが、特に、「全L」を参照することにより、内面累進屈折力レンズ10aおよび外面累進屈折力レンズ10bにより得られる像の振動の大小関係は、眼鏡用レンズの設計者ではないユーザーであっても明確に分かる。
【0075】
なお、先に述べたように今回の外面累進屈折力レンズ10bは内面累進屈折力レンズ10aに比べて近用部12での度数が少ないのでその影響で近用部12の振動が少なくなっている可能性がある。したがって、ゆれ指標IDdの結果から、内面累進屈折力レンズ10aの方が外面累進屈折力レンズ10bと比較して像のゆれが小さく、特に、遠用部11における像のゆれは、内面累進屈折力レンズ10aの方が小さいことが分かる。
【0076】
図26の変形量のゆれ指標IDsにおいては、内面累進屈折力レンズ10aの方が外面累進屈折力レンズ10bに比べ主子午線14上のいずれの位置に置いても変形量が少ないことが判る。この傾向は、ゆれ指標IDsのいずれにも表れているが、特に、「垂直L」を参照すると、累進帯13の中間あたり(主子午線上−10°〜−15°)から変動が大きくなることが分かる。これは、像の横方向の伸び縮みの動きが大きくなっていることを示している。さらに、同じ累進屈折面を使っても外面累進屈折力レンズ10bの方が像の横方向の伸び縮みが顕著に出ていることが判る。
【0077】
このように、変形量のゆれ指標IDsを用いることにより、像の伸び縮みを含む変形が明確に分かる。さらに、
図23および24に示した図では、内面累進屈折力レンズ10aと外面累進屈折力レンズ10bの性能の評価をユーザーが行うことは不可能に近いが、
図25および
図26に示されたゆれ指標IDdおよびIDsをみれば、内面累進屈折力レンズ10aと外面累進屈折力レンズ10bの性能の評価をユーザーでも容易に行うことができる。
【0078】
これらの結果から、総合的に見て内面累進屈折力レンズ10aの方が、外面累進屈折力レンズ10bよりもゆれ(ユレ)が少なく良好であることが示された。この評価結果は、実際の市場における、内面累進屈折力レンズ10aおよび外面累進屈折力レンズ10bの使用者の感想と良く一致している。
【0079】
以上のように上記のゆれ指標IDdおよびIDsにより、従来の方法では知ることができなかった累進屈折力レンズのゆれ特性について定量化できるのみでなく、方向成分についても分析できる。このため、ゆれ指標IDdおよびIDsは累進屈折力レンズを設計するために大変有用である。
【0080】
図27および
図28に、内面累進屈折力レンズ10aおよび外面累進屈折力レンズ10bについて、頭を縦に振ったときのゆれ評価を行った結果を示している。ゆれ指標IDdおよびIDsは、視野角10°の正方格子である矩形模様50を用いて求めているが、頭の縦の振り角は5度とした。これは、経験的に頭部を縦に振ってものを見る動きは、横に振って見る動きよりも小さいことを考慮したものである。
【0081】
図27の振動のゆれ指標IDdの結果を見ると、縦に振ったときの振動はその絶対値が横振りに比べ、かなり小さいことが判る。また、内面累進屈折力レンズ10aと外面累進屈折力レンズ10bでの振動の差は明確には見られない。一方、
図28の変形量のゆれ指標IDsの結果を見ると、主子午線14上を下方に行くにしたがい、横振りと同様にゆれが大きくなることが判る。これは累進屈折力レンズが本来的にもっている、下方に向かうにしたがって増える屈折力の影響で、像の拡大縮小が起こるためである。また、
図27によると、横振りのときの振動のゆれ指標IDd(
図25)と同じように、近用部12の手前までは内面累進屈折力レンズ10aの方がゆれが小さいのに対し、近用部12では逆転していることが判る。これは先に述べた、シミュレーションの対象としたレンズでは、外面累進屈折力レンズ10bの方が近用部12の度数が小さいことの影響と考えられる。
【0082】
以上のように、ゆれ指標IDdおよびIDsによるゆれ評価方法は、横方向のゆれ評価のみならず、縦方向のゆれ評価にも適用可能である。
【0083】
図29に、ゆれ指標IDdおよびIDsを用いた眼鏡用レンズの評価、設計および製造方法を示している。ステップ81において、眼鏡仕様に基づき遠用部11および近用部12を含む累進屈折力レンズ10の物体側の面19Aおよび眼球側の面19Bを仮定する。次に、ステップ82において、矩形模様50であって、その幾何学的中心55を通る中心の垂直格子線51および中心の垂直格子線51に対して左右対称な左右の垂直格子線52と、幾何学的中心55を通る中心の水平格子線53および中心の水平格子線53に対し上下対称な上下の水平格子線54とを備えた矩形模様50を含む仮想面59を、仮定された物体側の面19Aおよび眼球側の面19Bを含む累進屈折力レンズ10を通して、注視点、たとえばフィッティングポイントPeに幾何学的中心55が一致するように設定する。この例では、前庭動眼反射により眼球が動く最大水平角度θmx(10度)の近傍に左右の垂直格子線52が見えるように仮想面59を設定し、さらに、上下の水平格子線54も同じ間隔(視野角10度)で見えるように設定している。
【0084】
ステップ83において、眼球3を注視点に対して最大水平角度θmxだけ左右に動かしたときの複数の矩形模様50の画像(左回旋画像および右回旋画像)、または最大垂直角度θmyだけ上下に動かしたときに見える複数の矩形模様50の画像(上回旋画像および下回旋画像)を作成する。ステップ83において、視線2が幾何学的中心55から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズ10を第1の水平角度(この場合は最大水平角度θmx)だけ左右に動かしたときの矩形模様50の画像(左回旋画像および右回旋画像)、または、視線2が幾何学的中心55から動かない範囲で頭部とともに眼鏡用レンズを第1の垂直角度だけ上下に動かしたときに見える矩形模様50の画像(上回旋画像および下回旋画像)を作成することができる。
【0085】
ステップ84において、それらの画像の幾何学的中心55が一致するように重ね合わせた画像を作成する。
【0086】
さらにステップ85において、それらの画像の幾何学的中心55が一致するように重ね合わせた画像の幾何学的なずれを計算し、振動を示すゆれ指標IDdおよび変化量を示すゆれ指標IDsを求める。
【0087】
ステップ85において、ゆれ指標IDdとしては、左右の垂直格子線52および上下の水平格子線54の傾きの変化をそれぞれ計算することにより、「垂直L」および「水平L」をそれぞれ求めることができる。中央の垂直格子線51および中央の水平格子線53の傾きの変化をそれぞれ計算することにより、「垂直@CL」および「水平@CL」をそれぞれ求めることができる。さらに、「垂直L」および「水平L」の平均または和を計算することにより「全L」を求めることができる。
【0088】
また、ゆれ指標IDsとしては、左右の垂直格子線52および上下の水平格子線54の移動面積をそれぞれ計算することにより、「垂直L」および「水平L」をそれぞれ求めることができる。また、それぞれ計算された「垂直L」および「水平L」の平均または和を計算することにより「全L」を求めることができる。中央の垂直格子線51および中央の水平格子線53の移動面積をそれぞれ計算して指標を求めてもよい。
【0089】
これらの指標IDd、IDsおよびそれぞれの「垂直L」、「水平L」、「全L」は、上述したように、像のゆれを表す指標として適しており、像のゆれの大小を多くの人に明瞭に分かるように表現できる。また、像のゆれの傾向および要因、たとえば、伸び縮みなどの要因についても、指標を比較することにより、ユーザーに対しても理解しやすく表現することができる。
【0090】
ステップ86において、次の注視点について、ゆれ指標IDdおよびIDsを求めるか否かを判断する。典型的な像のゆれの評価は、たとえば、フィッティングポイントPeで行うことができる。さらに、遠用部11、近用部12および累進部13にわたるゆれの評価は、注視線(子午線)14に沿った幾つかの点でゆれ指標IDdおよびIDsを求めることにより評価できる。ゆれ指標IDdおよびIDsの一方を求めるだけでも、殆どのケースでは像のゆれを評価することができる。
【0091】
ステップ87において、求められたゆれ指標IDdおよびIDsを評価し、ステップ88において、像のゆれが相対的に小さいか、または、所望の範囲であれば、ステップ89において、ゆれが評価された眼鏡用レンズ10を成型する。眼鏡仕様により仮決定(仮定)した眼鏡用レンズのゆれ指標IDdおよびIDsが大きいか所望の範囲でなければ、ステップ81に戻って、累進面を内面に変更したり、反対側の面を非球面にするなどの設計変更を行い、再度、上記と同様の手順で像のゆれを評価する。
【0092】
このように像のゆれを予め評価することにより、度数の異なる遠用部11および近用部12を含む累進屈折力レンズ10であって、ゆれ指標IDdおよびIDsが予め求められ、評価された、ゆれの少ない累進屈折力レンズ10を製造し、ユーザーに提供できる。
【0093】
図30は、眼鏡用レンズの設計装置70の一例の概略構成を示す。この設計装置70は、第1ないし第3のユニット(機能)71〜73を含む。第1のユニット71は、眼鏡仕様に基づいて遠用部15および近用部16を含む累進屈折力レンズ10を仮決定する。第2のユニット72は、仮決定された累進屈折力レンズ10のゆれ指標IDdおよびIDsを上記の方法により求める。第3のユニット73は、求められたゆれ指標IDdおよびIDsをユーザー(装着者)が見やすい状態、たとえば、グラフ化して出力する。これにより、ユーザーはゆれの少ない累進屈折力レンズ10を自らの判断で選択することが可能となる。
【0094】
なお、上記においては、評価のための観察指標の模様として正方格子の矩形模様50を用いたが、水平方向と垂直方向での格子のピッチを変えることにより各方向での評価の精度や密度を変えたり、さらに格子の本数を増やすことにより、評価の精度・密度を変えることも可能である。
【0095】
なお、本実施形態では、眼鏡用累進多焦点(累進屈折力)レンズを例にとって説明したが、本発明は、累進屈折力レンズに限定されるものではない。本発明は、非球面を含む単焦点レンズや二重焦点(バイフォーカル)レンズ、さらに中間度数を付けた三重焦点(トライフォーカル)レンズなどにも適用可能である。
【0096】
従来のユレに関する評価方法は、眼前に眼鏡レンズを固定し、さらにその先に目標とする観察対象物を設定し、レンズを通して観察される画像を作成したり、あるいは像倍率の各視線方向(又はレンズ上の位置)での変化率を計算し分布図(マップ)化する方法であり、いずれも視線のみ各方向に回らしたときの見え方をシミュレーションしたもので、実際に頭部を動かしたときの観察対象物、眼鏡レンズ、眼球の相対的な動きを考慮したものではなかった。また、結果としての、視野画像や像倍率の変化率の分布は、それを解釈するにはレンズ設計に関するある程度の知識が必要あると同時に実際に経験する現象との間に乖離があり、一般の眼鏡レンズ使用者にとっては極めて分かりにくいものであった。
【0097】
上記にて開示した性能評価方法におけるゆれ指標は、頭部の回旋に対応し眼球が逆方向に動き注視点を目標物上に維持すること(前庭動眼反射)を考慮した人間工学に基づいた実際の像のゆれを示すものであり、評価したい視線方向(レンズ上の視線透過位置)、観察用の矩形模様(パターン、サイズ)と観察距離、頭部の水平回旋角度および垂直回旋角度が決まれば、眼鏡用レンズのゆれ指標が求められる。したがって、眼鏡用レンズの性能を示す無数の値が等高線などのように分布した図を見て解釈し評価しなくても、特定の一点または主注視線に沿ったゆれ指標を見ることにより眼鏡用レンズの性能を直接的に評価できる。このため、眼鏡用レンズの評価に不慣れなユーザーであっても簡単に眼鏡用レンズの性能を評価し、ユーザーに適した性能の眼鏡用レンズを選択できる。
【0098】
眼鏡レンズ、特に累進屈折力レンズのゆれ特性評価において、評価すべき重要な位置は主注視線(主子午線)に沿った点であり、中でもフィッティングポイントおよびそこから下方の視野角で10数度の範囲は、通常の生活での視線の使用頻度が高いこと、更に一般的な累進屈折力レンズではこの範囲の側方部に非点収差や歪曲等が集中的に発生する傾向があるため、その位置での評価は重要である。また、発明者の調査によると評価時の頭部の水平方向の振り角度および垂直方向の振り角度の典型的な値は左右約10度程度および上下約5度程度が好ましい。いずれにしても主注視線上の幾つかの点を注視点として、特に累進屈折力レンズではフィッティングポイントおよびそこから下方に視野角で10数度の範囲にいくつかの評価点を注視点として標準化し、頭部水平振り度および垂直振り角度を例えばそれぞれ10度および5度としたときのゆれ指標を眼鏡用レンズの性能評価値として採用することにより、眼鏡用レンズの像のゆれ性能評価を標準化できる。