(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872820
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】すべり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20160216BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20160216BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20160216BHJP
F16N 7/22 20060101ALI20160216BHJP
G01K 1/14 20060101ALI20160216BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C17/02 Z
F16C33/10 Z
F16N7/22
G01K1/14 M
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-183944(P2011-183944)
(22)【出願日】2011年8月25日
(65)【公開番号】特開2013-44414(P2013-44414A)
(43)【公開日】2013年3月4日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594087001
【氏名又は名称】イームル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】専徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】福田 信行
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−041800(JP,U)
【文献】
実開昭63−059299(JP,U)
【文献】
特開2004−301522(JP,A)
【文献】
特開2005−133807(JP,A)
【文献】
特開昭56−074631(JP,A)
【文献】
特開昭56−118640(JP,A)
【文献】
実公昭39−029482(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00− 41/04
F16C 17/02
F16C 33/10
F16N 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に潤滑油を供給する油供給装置と、
軸受の表面が加工されることなく軸受の表面から所定の深さに設けられた、前記回転軸を潤滑した潤滑油を導く潤滑油導入路を有する軸受と、
前記潤滑油導入路に装着された温度検出素子と、を含み、
前記温度検出素子は、前記潤滑油が供給されているときは前記回転軸を潤滑した潤滑油の温度を検知し、前記潤滑油の供給が停止したときは前記軸受の温度を検知することを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記潤滑油導入路の位置は、前記回転軸からの荷重により軸受の表面が変形しない位置で、かつ可能な限り軸受の表面に近い位置であることを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記軸受は、少なくとも軸受の表面が低熱伝達性部材で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記軸受が、低熱伝達性部材で形成された軸受材と、該軸受材を支持する台金とからなり、
前記潤滑油導入路は、前記軸受材と前記台金との境界部に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載のすべり軸受。
【請求項5】
前記軸受材が樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のすべり軸受。
【請求項6】
前記潤滑油導入路は、前記軸受の鉛直線に対し、該鉛直線から僅かに左右にずれた位置に設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載のすべり軸受。
【請求項7】
前記温度検出素子は、温度検出部が、前記潤滑油導入路の中心部に装着されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載のすべり軸受。
【請求項8】
前記油供給装置がオイルリング給油装置であり、
前記軸受は、両端部に前記回転軸を潤滑した潤滑油が流れ込む案内溝を有し、
前記潤滑油導入路は、前記両端部の案内溝に潤滑油導入口を有し、該潤滑油導入口を結ぶように導入路が形成され、該導入路の中央部に潤滑油排出孔を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1に記載のすべり軸受。
【請求項9】
前記軸受は、前記両端部の案内溝に各々潤滑油排出孔を備え、
前記潤滑油導入路には、前記案内溝に流れ込む前記回転軸を潤滑した潤滑油の一部が導かれることを特徴とする請求項8に記載のすべり軸受。
【請求項10】
前記潤滑油排出孔は、該潤滑油排出孔を通じて返送される潤滑油が、オイルリングから離れた位置となるように設けられていることを特徴とする請求項8又は9に記載のすべり軸受。
【請求項11】
前記温度検出素子が、前記潤滑油導入路に複数本装着されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1に記載のすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり軸受に関し、特に回転軸を潤滑した潤滑油の温度又は軸受の温度を検知することができるすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水力発電所における主機の軸受は、コンパクト化が要求される傾向であり、耐高荷重、低摩擦係数、耐摩耗性を有する樹脂軸受が採用されている。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)材等からなる樹脂軸受は、従来のホワイトメタルからなる軸受と比較して、小型化・長寿命化されたものであるが、熱伝達率は、ホワイトメタルよりも悪いという材料特性がある。通常、軸受の温度検知は、軸受表面に温度検出素子を取付けることができないため、軸受材を貼付する台金(台座,裏金ともいう)に温度検出素子を挿入し行っている。このような温度検知方法は、軸受の表面温度を直接検知するものではなく、軸受材を介して温度を検知するため、実際の軸受表面温度と検知される温度との間には温度差が生じる。特に樹脂軸受のように軸受材の熱伝達率が小さい場合には、温度差が大きくなり、軸受部の異状温度を検知できないおそれもある。
【0003】
上記問題点を解決するためにこれまでにも多くの装置、方法が提案されている。例えば鋼製の裏金材の内側に樹脂材からなる軸受材を固着した軸受の温度監視装置として、裏金材及び樹脂材に貫通孔を設け、この貫通孔にスプリングで上下動自在に支持した熱伝導率の高い部材を嵌め込み、この部材の底部に熱電対を取付け、この熱伝導率の高い部材を通じて油膜温度を感知する軸受温度監視装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、すべり軸受の油膜温度を検知するために、すべり軸受のライニング材に深さを異ならせた複数の温度センサを埋め込み、温度データから温度勾配を求め、油膜温度を検知するすべり軸受監視装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。また、すべり軸受の軸受材に温度センサを埋め込むと共に、すべり軸受の摺動面と温度センサとを連通させる連通路を設け、連通路を流通する潤滑油を温度センサで測定する方法も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116312号公報
【特許文献2】特開2005−133807号公報
【特許文献3】特開2004−301522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の軸受温度監視装置は、構造が複雑であり、さらに高い加工精度が必要であり製作は容易ではない。またこの装置では、樹脂材にも貫通孔を設け、そこにスプリングで支持した状態で熱伝導率の高い部材を埋め込んでいるので、スプリングが破損し、あるいは熱伝導率の高い部材が貫通孔に引っ掛かると樹脂材の貫通孔部分に段差が生じ、回転軸が傷付いてしまう。また特許文献2に記載のすべり軸受監視装置も非常に狭い場所に複数の温度センサを埋め込む必要があり製作は容易ではない。特許文献3に記載の温度検出装置は、軸受材の摺動面に凹部を設け、そこに他の部材を埋め込む必要があるため、凹部と埋め込んだ部材との境界に段差が生じ易く、回転軸が傷付く恐れがある。以上のようにこれまでにいくつかの軸受温度監視装置が提案されているが、いずれの装置も十分とは言い難い。
【0006】
本発明の目的は、回転軸に悪影響を与えることなく、また軸受性能を低下させることなく軸受温度を適切に検知することができる実用的なすべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、回転軸に潤滑油を供給する油供給装置と、軸受の表面が加工されることなく軸受の表面から所定の深さに設けられた、前記回転軸を潤滑した潤滑油を導く潤滑油導入路を有する軸受と、前記潤滑油導入路に装着された温度検出素子と、を含み、前記温度検出素子は、前記潤滑油が供給されているときは前記回転軸を潤滑した潤滑油の温度を検知し、前記潤滑油の供給が停止したときは前記軸受の温度を検知することを特徴とするすべり軸受である。
【0008】
本発明のすべり軸受は、軸受内部に回転軸を潤滑した潤滑油を導く潤滑油導入路を備え、該潤滑油導入路に装着された温度検出素子で、潤滑油が供給されているときは回転軸を潤滑した潤滑油の温度を直接検知することができる。さらに潤滑油の供給が停止したときは軸受の温度を検知することができるので、潤滑油の供給にトラブルが発生した場合であっても、軸受の温度上昇を迅速に検知することができる。また本発明のすべり軸受は、前記潤滑油導入路が、軸受の表面が加工されることなく軸受内部に設けられているので、回転軸を傷付ける恐れがなく、軸受性能に影響を及ぼさない。
【0009】
また本発明のすべり軸受において、前記潤滑油導入路の位置は、前記回転軸からの荷重により軸受の表面が変形しない位置で、かつ可能な限り軸受の表面に近い位置であることを特徴とする。
【0010】
本発明のすべり軸受に設けられた潤滑油導入路は、軸受の表面に近い位置に設けられているので、潤滑油の供給が停止したとき、軸受の温度上昇を迅速に検知することができる。また潤滑油導入路は、回転軸からの荷重により軸受の表面が変形しない位置に設けられているので、軸受性能に影響を及ぼさない。
【0011】
また本発明のすべり軸受において、前記軸受は、少なくとも軸受の表面が低熱伝達性部材で形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のすべり軸受では、潤滑油が供給されているときは回転軸を潤滑した潤滑油の温度を直接検知することができるので、軸受の表面が低熱伝達性部材で形成されている軸受であっても、潤滑油の温度を介して軸受の表面温度を検知することができる。
【0013】
また本発明のすべり軸受において、前記軸受が、低熱伝達性部材で形成された軸受材と、該軸受材を支持する台金とからなり、前記潤滑油導入路は、前記軸受材と前記台金との境界部に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のすべり軸受において、軸受は、複層構造の軸受であってもよく、潤滑油導入路を、軸受材と台金との境界部に設ければ、軸受の表面を加工することなく容易に軸受内部に潤滑油導入路を設けることができる。
【0015】
また本発明のすべり軸受において、前記軸受材が樹脂材料で形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明のすべり軸受は、いわゆる樹脂軸受にも好適に使用することができる。
【0017】
また本発明のすべり軸受において、前記潤滑油導入路は、前記軸受の鉛直線に対し、該鉛直線から僅かに左右にずれた位置に設けられていることを特徴とする。
【0018】
軸受は、回転軸の真下部分に一番大きな荷重が加わる。そのため、回転軸の真下部分でかつ軸受の表面近傍に潤滑油導入路を設けると、軸受の表面が変形する恐れがある。本発明では、この点を考慮し回転軸の真下ではなく真下から左右にわずかにずれた位置に潤滑油導入路が設けられている。
【0019】
また本発明のすべり軸受において、前記温度検出素子は、温度検出部が、前記潤滑油導入路の中心部に装着されていることを特徴とする。
【0020】
軸受は、放熱の影響で中心部に比較し両端部は温度が低くなる。本発明のすべり軸受においては、温度検出素子の温度検出部が、潤滑油導入路の中心部に装着されているので、潤滑油の供給が停止したときであっても、軸受の表面温度に近い温度を検知することができる。
【0021】
また本発明のすべり軸受において、前記油供給装置がオイルリング給油装置であり、前記軸受は、両端部に前記回転軸を潤滑した潤滑油が流れ込む案内溝を有し、前記潤滑油導入路は、前記両端部の案内溝に潤滑油導入口を有し、該潤滑油導入口を結ぶように導入路が形成され、該導入路の中央部に潤滑油排出孔を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明のすべり軸受は、オイルリング給油装置を備えるすべり軸受に適用することができる。潤滑油導入路は、軸受の両端部の案内溝内に潤滑油導入口を有し、該潤滑油導入口を結ぶように導入路が形成され、導入路の中央部に潤滑油排出孔が設けられているので、回転軸を潤滑した潤滑油を確実に潤滑油導入路に導くことができる。
【0023】
また本発明のすべり軸受において、前記軸受は、前記両端部の案内溝に各々潤滑油排出孔を備え、前記潤滑油導入路には、前記案内溝に流れ込む前記回転軸を潤滑した潤滑油の一部が導かれることを特徴とする。
【0024】
本発明のすべり軸受は、軸受の両端の案内溝に流れ込む回転軸を潤滑した潤滑油の一部を潤滑油導入路に導き、残りの潤滑油は、案内溝に設けられた排出孔から油槽に直接戻るので、潤滑油の循環をしっかりと確保することができる。
【0025】
また本発明のすべり軸受において、前記潤滑油排出孔は、該潤滑油排出孔を通じて返送される潤滑油が、オイルリングから離れた位置となるように設けられていることを特徴とする。
【0026】
オイルリング給油装置を備えるすべり軸受において、油槽に返送する温度の高くなった潤滑油をオイルリングから離れた位置とすることで、温度の高い潤滑油が回転軸に供給されることを防止し、温度の低い潤滑油を回転軸に供給することができる。
【0027】
また本発明のすべり軸受において、前記温度検出素子が、前記潤滑油導入路に複数本装着されていることを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、潤滑油導入路に複数本の温度検出素子を装着することも可能であり、潤滑油導入路に複数本の温度検出素子を装着することで、回転軸を潤滑した潤滑油の温度、又は潤滑油の供給が停止したときは軸受の表面近傍の温度を確実に検知することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のすべり軸受は、軸受内部に回転軸を潤滑した潤滑油を導く潤滑油導入路を備え、該潤滑油導入路に装着された温度検出素子で、潤滑油が供給されているときは回転軸を潤滑した潤滑油の温度を直接検知し、潤滑油の供給が停止したときは軸受の温度を検知する。このように回転軸を潤滑した潤滑油の温度と軸受の温度、この2つの温度をいっしょに検知可能に構成することで軸受の状態を適切に把握することができる。潤滑油の供給にトラブルが発生し、軸受の温度が上昇してもこれを迅速に検知することができるので、軸受の焼損を防止することができる。また本発明のすべり軸受は、前記潤滑油導入路が、軸受の表面が加工されることなく軸受内部に設けられているので、回転軸に悪影響を与えることがなく、また軸受性能を低下させることもない。以上のように本発明のすべり軸受は、実用的なすべり軸受であり、幅広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態としてのオイルリング式すべり軸受1の概略構成を示す正面図である。
【
図2】
図1のオイルリング式すべり軸受1の側面図である。
【
図3】
図1のオイルリング式すべり軸受1の下部軸受13bを模式的に示す平面図である。
【
図4】
図1のオイルリング式すべり軸受1の下部軸受13bを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態としてのオイルリング式すべり軸受1の概略構成を示す正面図、
図2は、側面図である。
図3は、オイルリング式すべり軸受1の下部軸受13bを模式的に示す平面図、
図4は、下部軸受13bを模式的に示す断面図である。
【0032】
オイルリング式すべり軸受1は、ジャーナル軸受であり、回転軸3を回転自在に支持する軸受11と、回転軸3に潤滑油5を供給するオイルリング式給油装置41と、回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知する温度検出素子51とを備える。
【0033】
軸受11は、上部軸受13aと下部軸受13bとからなる上下に2分割構造の軸受である。上部軸受13a及び下部軸受13bとも2層構造であり、軸受材15a、15bと軸受材15a、15bを支持する台金17a、17bとからなり、金属製の台金17a、17b上にPEEK材からなる軸受材15a、15bが固着されている。ここでは軸受材15a、15bにPEEK材を使用しているが、軸受材15a、15bはPEEK材に限定されるものではなく、他の樹脂材、金属材であってもよい。台金17a、17bも特定の材質に限定されるものではない。
【0034】
オイルリング式給油装置41は、回転軸3に潤滑油を供給する2本のオイルリング43と、油槽49とを有する。オイルリング43は、回転軸3の径に比較して大きな径を有し、2本のオイルリング43は、軸受11の中央部に間隔を開け、回転軸3に吊り下げられた状態で取付けられている。オイルリングの上部45は、上部軸受13aで覆われるように上部軸受13aに設けられたオイルリング案内溝37に回転自在に嵌り込んでいる。一方、オイルリングの下部47は、回転軸3に吊り下げられた状態で、油槽49内に貯留された潤滑油5に浸漬する。
【0035】
上部軸受13aの下端部及び下部軸受13bの上端部には、回転軸3の長手方向に所定の長さの潤滑油5を一時的に貯め、潤滑油5を分散して流下させるための案内溝19a、19b(油溜め)が設けられている。また上部軸受13a及び下部軸受13bとも両端部に回転軸3を潤滑した潤滑油5が流れ込む案内溝21a、21bが設けられ、上部軸受13aと下部軸受13bとを
突き合せた状態で、円周方向全体に案内溝が形成される。
【0036】
案内溝19a、19b、21a、21bは、台金17a、17bの該当部分に軸受材15a、15bを設けないことで形成されており、案内溝19a、19b、21a、21bの底は、台金の表面25b(25aは省略)である。案内溝19a、19b、21a、21bの形成方法は、上記方法に限定されるものではなく、軸受材15a、15b又は台金17a、17bを加工し溝を設けてもよいが、案内溝19a、19b、21a、21bの底を、台金の表面25a、25bとすれば、加工が容易である。例えば、案内溝19a、19b、21a、21bに該当する部分の部材を削除した軸受材15a、15bを台金17a、17bに貼付すればよい。軸受材15a、15bの厚さが薄い場合には、台金17a、17bの表面を加工し溝を設ければよい。
【0037】
下部軸受13bの左右両端の案内溝21bには、案内溝21bに流れ込む回転軸3を潤滑した潤滑油5を油槽49に戻す潤滑油排出孔27、29が2つ設けられている。一方の潤滑油排出孔27は、回転軸3の真下、つまり下部軸受13bの中心に設けられており、他方の潤滑油排出孔29は、潤滑油排出孔27に近接する位置に設けられている。案内溝21bに流れ込む潤滑油5は、案内溝21bの一番低い位置に集まるので、ここに潤滑油排出孔27を設けることで、潤滑油5を滞留させることなく油槽49に戻すことができる。また潤滑油排出孔27、29を通じて返送される潤滑油5は、オイルリング43から離れた位置に返送されるので、温度の高い潤滑油5が直ちに回転軸3に供給されることがなく好ましい。
【0038】
下部軸受13bには、潤滑油排出孔27、29の他、潤滑油導入路31が設けられている。潤滑油導入路31は、案内溝21bに流れ込む回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を測定するために設けられた通路であり、台金17bの内部でかつ表面25b近傍に下部軸受13bの両端部を結ぶように設けられている。潤滑油導入路31の潤滑油導入口33は、案内溝21b内の潤滑油排出孔27の隣に位置する。本実施形態では、潤滑油導入路31は、台金17bの側面より穴加工したのち止メネジ36で栓をすることで形成されているが、潤滑油導入路31は、台金17bの表面を半円状に切削した後に、台金17bの上に軸受材15bを固着し形成
してもよい。このようにして形成された潤滑油導入路31の天井面は、軸受材15bの底部である。
【0039】
潤滑油導入路31の中央部には、流れ込んだ潤滑油5を油槽49に返送するための潤滑油排出孔35が1つ設けられている。潤滑油排出孔35から排出される潤滑油5が、オイルリング43から離れた位置に返送されるように潤滑油排出孔35が設けられている。これにより温度の高い潤滑油5が直ちに回転軸3に供給されることがなく好ましい。
【0040】
潤滑油導入路31の設置深さ、つまり軸受の表面12からの深さは、軸受温度の検知性、軸受の表面12の変形、さらには潤滑油導入路31の加工の容易性を勘案し決定すべきである。本オイルリング式すべり軸受1では、潤滑油導入路31の中心部に温度検出素子51を装着し、潤滑油導入路31に導いた回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知する。同時にオイルリング式給油装置41のトラブルなどで潤滑油5の供給が停止したときは、温度検出素子51の装着部の温度、つまり軸受11の内部温度を検知する。これにより軸受11の表面温度、さらには軸受11の状態を推測することができる。潤滑油5の供給が停止すると、軸受の表面温度は上昇し、軸受11が焼損する恐れがあるため潤滑油5の供給が停止すると、素早く軸受11の表面温度を把握する必要がある。このためには温度検出素子51をできるだけ軸受の表面12に近い位置に装着することが好ましい。
【0041】
軸受11の表面温度を迅速に把握するためには、できるだけ軸受の表面12近くに潤滑油導入路31を設けることが好ましいが、軸受の表面12に近づき過ぎると、回転軸3の荷重により軸受の表面12が変形してしまう。軸受の表面12が変形してしまうと性能に悪影響を与える。例えば軸受の表面12に凹みができると潤滑油5が滞留し、潤滑油5の循環が滞る。また軸受の表面12近傍に潤滑油導入路31を設ける場合、加工も簡単ではない。軸受の表面12を加工し、潤滑油導入路31を設けた後、軸受の表面12を塞ぐ方法は、加工法としては容易であるが、軸受の表面12に加工跡が残り易く、段差も生じ易いので、回転軸3への影響を考えれば好ましくない。
【0042】
一方、潤滑油導入路31を軸受内部の深い位置に設ければ、軸受の表面12の変形の恐れがなく、さらに加工も容易となるが、軸受11の表面温度を迅速に検知する点からは好ましくない。
【0043】
上記の留意点を考慮し、軸受材15bの材質、厚さに応じて潤滑油導入路31の位置を決定すればよい。本オイルリング式すべり軸受1では、潤滑油導入路31は、台金17bの表面近傍に、台金17bの側面より穴加工したのち止メネジで栓をすることで形成している。潤滑油導入路31は、台金17bと軸受材15bとの境界部に設けていてもよい。台金17bの表面を所定の深さに切削した後に、台金17bの上に軸受材15bを固着することで潤滑油導入路31を形成することができるので加工も容易である。さらに潤滑油導入路31を形成するに当たり、軸受材15bに加工が施されないので軸受性能に悪影響を与えることはない。
【0044】
また本実施形態において、潤滑油導入路31は、
図2〜
図4に示すように回転軸3の真下ではなく、回転軸3の真下から僅かにずれた位置に設けられている。軸受11の温度は、回転軸3の真下が一番高くなるので、温度検知のみを考えれば潤滑油導入路31は、回転軸3の真下に設けることが好ましいといえる。一方で、回転軸3の真下には一番大きな荷重が加わるため、潤滑油導入路31を軸受の表面12近傍に設けると軸受の表面12が変形する恐れがある。回転軸3の真下からずれると回転軸3から加わる荷重が低減するため、軸受の表面12が変形することをより確実に防止することができる。
【0045】
潤滑油導入路31の溝の幅、高さ又は穴径が、大きいほど潤滑油が流れ易くなるが、一方で軸受11が変形し易くなるので、この点を考慮し決定することが好ましい。また潤滑油導入路31の溝の形状は、円、半円、四角、その他の形状であってもよいが、潤滑油が流れるときの抵抗が少ないものが好ましい。軸受11の大きさ、潤滑油の供給量、潤滑油の粘度により潤滑油導入路31の溝の大きさも異なるが、潤滑油導入路31の溝の大きさを例示すれば、回転軸3の直径が200〜300mm程度の場合、直径に換算して5〜10mm程度である。前記潤滑油排出孔27、29をなくし、潤滑油5の全量を潤滑油導入路31を通じて返送する方法も考えられるが、循環量の確保のため潤滑油導入路31を大きくする必要があるため、軸受の表面12の変形などを考えれば好ましい方法とは言い難い。潤滑油導入路31を通じて返送する潤滑油5の量は全体の10%程度でよい。
【0046】
温度検出素子51は、2本の温度検出素子51が下部軸受13bに設けられた挿入孔(図示を省略)から挿入、装着されている。2本の温度検出素子51は、潤滑油導入路31の長手方向中心部、つまり軸受11の中心部に並んで、温度検出部53の位置が潤滑油導入路31になるように装着され、潤滑油導入路31を流れる潤滑油5の温度を検知する。温度検出素子51は、従来から一般的に使用されている熱電対を使用することが可能であり、径の細い熱電対を使用すれば応答が早く好ましい。ここを流れる潤滑油5の圧力は小さく、温度検出素子51に大きな荷重は加わらないので径の細い熱電対を使用することができる。温度検出素子51は、1本のみ装着してもよいことは当然であるが、断線などのトラブル、温度測定誤差等を考えれば、複数本装着することが好ましい。
【0047】
温度検出素子51は、軸受11の中心部に装着することが重要である。回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知するだけであれば、必ずしも温度検出素子51を潤滑油導入路31の中心部に装着する必要はない。さらに言えば、回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知するだけであれば、潤滑油排出孔27、29に温度検出素子51を装着してもよい。
【0048】
本オイルリング式すべり軸受1では、オイルリング式給油装置41にトラブルが発生し、潤滑油5の供給が停止したときであっても軸受11の温度を検知するために、温度検出素子51を潤滑油導入路31の長手方向中心部に装着している。温度検出素子51を潤滑油導入路31の長手方向中心部に装着することで、潤滑油5の供給が停止しても、温度検出素子51は、軸受材15b及び台金17bを通じて軸受11の表面温度を検知することができる。温度検出素子51を潤滑油導入路31の端部に装着した場合であっても、潤滑油5の供給が停止したとき、軸受材15b及び台金17bを通じて軸受11の表面温度を検知することができる。しかし、軸受11の端部は放熱により温度が低下し易いので、より正確に軸受11の表面温度を検知するためには、温度検出素子51を潤滑油導入路31の長手方向中心部に装着することが好ましい。
【0049】
オイルリング式すべり軸受1の動作について説明する。油槽49に下部を浸漬するオイルリング43は、回転軸3の回転に伴い回転し、オイルリング43に付着した潤滑油5が回転軸3へ運ばれる(
図2中A)。オイルリング43に付着した潤滑油5は、回転軸3頂上付近で拭い落される(
図2中B)。拭い落された潤滑油5は、オイルリング案内溝37を経て軸受11の案内溝19a、19b(
図2中C)へ移動する。回転軸3の回転により案内溝19a、19bの潤滑油は、下部軸受13bに入りこの部分を潤滑する(
図2中D)。下部軸受13bに入り込んだ潤滑油は、回転軸3の荷重により圧力の低い端部に移動し(
図1中E)、最終的には下部軸受13bの案内溝21bに流れ込む。
【0050】
左右の案内溝21bに流れ込む、回転軸3を潤滑し温度の高くなった潤滑油5の多くは、左右各2個、計4個の潤滑油排出孔27、29から直接油槽49に戻る(
図1、2中F)。一部の潤滑油5は、潤滑油導入口33から潤滑油導入路31へ流れ込み、潤滑油導入路31に設けられた潤滑油排出孔35から油槽49に戻る。このとき潤滑油導入路31の中心部には、ここを流れる潤滑油5と直接接触するように温度検出素子51が装着されているので、回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知することができる。回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度を検知することで、軸受11の状態が分かる。
【0051】
潤滑油導入路31を流れる潤滑油5の温度を温度検出素子51で検知しているとき、オイルリング式給油装置41にトラブルが発生すると、例えばオイルリング43が引っ掛かると給油されなくなる。この状態においては、潤滑油5の温度を検知することができないが、温度検出素子51が装着された位置の軸受11の温度を検知することができる。軸受11は、軸受の表面12の温度が一番高く、台金17bに向って温度勾配が生じているので、台金17bの表面近傍に位置する潤滑油導入路31の温度を検知することで軸受11の表面温度を推定することができる。
【0052】
以上のようにオイルリング式すべり軸受1は、軸受内部に回転軸3を潤滑した潤滑油5を導く潤滑油導入路31を設け、ここに温度検出素子51を装着し、回転軸3を潤滑した潤滑油5の温度と軸受11の温度、この2つの温度をいっしょに検知可能とした点に特徴がある。温度検出の構造は単純であるが、軸受11を監視する上で非常に効果的である。このようなオイルリング式すべり軸受1は、軸受材15a、15bの材質によらず幅広いすべり軸受に使用することができるが、特に軸受材15a、15bが樹脂材など熱伝達性の悪い部材からなる場合にはより効果的である。また潤滑油導入路31が、軸受の表面12を加工することなく軸受内部に設けられているので、回転軸3に悪影響を与えることなく、また軸受性能を低下させることがない。またオイルリング式すべり軸受1は、構造が単純であるので製作も容易であり、既設のすべり軸受にも容易に適用することができる。
【0053】
本発明に係るすべり軸受は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で変更して使用することができる。上記実施形態では、軸受11が2層構造であったが、軸受11は1層であっても、3層以上の多層構造であってもよい。また上記実施形態では、潤滑油供給装置がオイルリング式給油装置であったが、潤滑油ポンプによる強制給油方式のすべり軸受にも本願発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 オイルリング式すべり軸受
3 回転軸
5 潤滑油
11 軸受
12 軸受の表面
13a 上部軸受
13b 下部軸受
15a、15b 軸受材
17a、17b 台金
19a、19b 案内溝
21a、21b 案内溝
25b 台金の表面
27 潤滑油排出孔
29 潤滑油排出孔
31 潤滑油導入路
33 潤滑油導入口
35 潤滑油排出孔
36 止メネジ
37 オイルリング案内溝
41 オイルリング式給油装置
43 オイルリング
45 オイルリングの上部
47 オイルリングの下部
49 油槽
51 温度検出素子
53 温度検出素子の温度検出部