【実施例1】
【0018】
図1および
図2は、本実施例1のチップマウンタの概略構成図であり、
図1は正面図、
図2は上面図である。
図1および
図2に示すように、チップマウンタは、基板31が配置される架台32と、架台上に設けられビーム16を支持しY軸方向に移動させるY軸用駆動ステージ移動手段33と、ビーム16上に設けられ移動体17を支持しX軸方向に移動させるX軸用駆動ステージ移動手段10を有する。
【0019】
Y軸用駆動ステージ移動手段33は、架台上に基板を挟んで互いに平行に配置される1対のY軸用ガイドレール34と、ガイドレールに沿って摺動しビームの両端を支持するビーム支持スライダ35と、そのビーム支持スライダを駆動させるY軸用アクチュエータ36を備える。
【0020】
また、X軸用駆動ステージ移動手段10は、1対のY軸用ガイドレール間を架橋する程度に長尺なビーム16と、そのビーム16上をビーム長手方向に沿って設けられた1対のX軸用ガイドレール19と、ガイドレールに沿って摺動自在なスライダと、そのスライダに固定された移動体17と、移動体を駆動させるX軸用アクチュエータ18を備える。また、移動体17にはチップを基板上に装着するノズルを格納するマウント機構37が搭載される。
【0021】
X軸用アクチュエータ18、及びY軸用アクチュエータ36にはそれぞれリニアモータが用いられる。そして、X軸用駆動ステージ移動手段10、及びY軸用駆動ステージ移動手段33はチップマウンタの有する制御部が出力する指令信号によって制御される。なお、この制御部は後述する様々な演算,処理を行うものである。
【0022】
X軸用駆動ステージ移動手段10には、ビーム16の長手方向に沿って(別の表現としては静止側)リニアモータ固定子と後述する第1の光学系からの信号をカウントするための第1のスケール21とが配置される。一方、ビームに対して相対的に移動する移動体17(他の表現としては可動側)にはリニアモータ可動子と第1の光学系とが配置される。第1の光学系は、第1の発光素子と第1の受光素子とを有するものである。
【0023】
Y軸用駆動ステージ移動手段33の下部には、後述する第2の光学系からの信号をカウントするための第2のスケールが配置される。ビーム16には、第2の光学系が配置される。第2の光学系は、第2の発光素子と第2の受光素子とを有するものである。
【0024】
第1のスケール21、及び第1の光学系によって移動体17のX軸方向におけるマウント機構37の位置を認識することができる。また、第2のスケール、及び第2の光学系によってのY軸方向におけるマウント機構37の位置を認識することができる。つまり、第1のスケール、及び第1の光学系はX軸方向におけるマウント機構37の位置を認識するための第1の位置認識システムであり、第2のスケール、及び第2の光学系はY軸方向におけるマウント機構37の位置を認識するための第2の位置認識システムであると表現することができる。
【0025】
この第1の位置認識システムは、時間的に連続してX軸方向におけるマウント機構37の位置を認識している。よって、この位置の時刻歴応答からX軸方向における移動体17の振動(これは装置全体の振動と表現することもできる)、及びマウント機構37の振動を得ることができる。また、この第2の位置認識システムは、時間的に連続してY軸方向におけるマウント機構37の位置を認識している。よって、この位置の時刻歴応答からY軸方向における移動体17の振動、及びマウント機構37の振動を得ることができる。つまり、本実施例における第1,第2の位置認識システムは、同時に振動認識システムであると表現することができる。そして本実施例では、この位置の時刻歴応答から後述するTn
(1)とTn
(2)を求める。
【0026】
なお、本実施例では、この第1,第2の位置認識システムは、マウント機構37動作範囲内H
high−H
lowの振動を得るように配置されることが望ましい。その理由は、より正確にマウント機構37のノズル先端の残留振動を得ることができるからである。
【0027】
上述した構成によって本実施例のチップマウンタでは、X軸用駆動ステージ移動手段10、及びY軸用駆動ステージ移動手段33により、マウント機構37を架台上に配置される基板上のいずれのXY軸平面上の位置にも移動させることができ、基板上の所定の位置にチップを装着することができることになる。なお、マウント機構37は、前記基板の法線を含む方向に移動可能なものである。
【0028】
さて、ここで前述したようにマウント機構37は、X軸用駆動ステージ移動手段10、及びX軸用駆動ステージ移動手段33によって移動することになるが、この移動に伴う振動によりマウント機構37にはある種の振動が発生する。
【0029】
この振動について説明する。
【0030】
図3に駆動ステージの稼働時の動作距離dを1mmとするときの、アクチュエータの速度指令応答v、その1階微分に相当する加速度指令応答α、およびマウント機構37に発生する強制振動xの時刻tにおける時刻歴応答の例を示す。
【0031】
図3(a)は、時刻tとマウント機構37の動作距離dとの関係を表す。
図3(a)では、マウント機構37は時刻s1において距離d1だけ移動し、その後は距離d1の位置で停止していることを示している。
【0032】
図3(b)は、
図3(a)の場合での時刻tと速度指令応答vとの関係を示している。
図3(b)では、マウント機構37は、距離d1へ到達するまでの時間Tの間に、加速動作を行う段階,定速動作を行う段階,減速動作を行う段階を経て、距離d1へ到達することになる。
【0033】
図3(c)は、
図3(b)の場合での時刻tと加速度指令応答αとの関係を示している。
図3(c)では、加速動作を行う段階での加速度はa1であり、定速段階を行う段階での加速度はゼロであり、減速段階での加速度−a1である。
【0034】
図3(d)は、
図3(c)の場合での時刻tと振動による変位Δxとの関係を説明する図である。マウント機構37には、時刻速度指令が出力されている間(時間Tの間)、慣性力加振によって強制振動が発生する。一方、駆動ステージの位置決め完了後、つまり、速度指令信号の出力終了直後は、マウント機構37には固有振動に起因する残留振動が生じる。この残留振動は、マウント機構37が基板へ部品を取り付ける際の取り付け精度に影響を与えるものである。よって、この残留振動の影響を少なくすることが好ましい。
【0035】
次に、この残留振動の影響を小さくする方法について説明する。
【0036】
今、マウント機構37は、時間Tで距離d2の位置で移動するものとする(
図4(a))。
【0037】
そして、マウント機構37は、距離d2へ到達するまでの時間Tの間に、加速動作を行う段階,定速動作を行う段階,減速動作を行う段階を経て、距離d1へ到達するものとする(
図4(b))。
【0038】
ここで、例えば、マウント機構37の固有振動を1質点と1自由度バネでモデル化する(以下、1自由度モデル)。この場合、固有振動数[Hz]は式(1)の理論式で表される。なお、固有振動数Fn[Hz]は固有振動周期Tn[sec]の逆数であり、kは1自由度モデルのバネ剛性、mは1自由度モデルの質量、ωn[rad/sec]は固有角振動数を表す。
【0039】
駆動ステージの加速度指令応答を、加速度にマウント機構37の質量を乗じて、1自由度モデルの加振条件と考えると、1自由度モデルの時間tに対する振動応答の理論解x(t)は式(2)から式(5)の重ね合わせによって求められる。なお、式中のαは加速度[m/sec
2]、ζは減衰比、Taは加速時間[sec]、Tcは定速時間[sec]を表す。このような1自由度モデルでは、これらの理論解を用いて計算すると、加減速時間Taを固有振動周期Tnに一致させると(
図4(c))、マウント機構37の残留振動を最も小さくすることができる。つまり、加減速時間Taを固有振動周期Tnに一致させれば、マウント機構37の残留振動の影響を小さくすることができる(
図4(d))。
【0040】
【数1】
【0041】
【数2】
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
【数5】
【0045】
【数6】
【0046】
【数7】
【0047】
次に、残留振動について、さらに詳細に説明する。
【0048】
チップマウンタでは、駆動ステージを稼働させ、停止状態から加速動作を行う。その後、基板上の所定位置で停止するための減速動作を行う。加減速動作の間、マウント機構37には自身の質量と加速度の積に相当する慣性力が作用する。加速動作と減速動作の慣性力の作用方向はお互いに逆方向になる。マウント機構37には加減速動作にかかる時間を加振周期とする強制振動が発生する。マウント機構37は駆動ステージをX軸方向に稼働させるとX軸方向に振動し、Y軸方向に稼働させるとY軸方向に振動する。そして、駆動ステージの動作が終了しXY軸の位置決めが完了した後には、マウント機構37の固有振動に起因する残留振動が発生することになる。
【0049】
また、駆動ステージの稼働により、マウント機構37の残留振動だけでなく、装置全体が装置重心まわりに剛体回転するように振動する固有振動に起因する残留振動が発生する。マウント機構には、両者の固有振動を重ね合わせた状態の残留振動が発生する。両者の残留振動はXY軸の位置決めにずれを生じさせる原因となるため、駆動ステージの制御にとって残留振動を低減することは重要な課題である。また、装置全体が振動することから、装置を備え付けた床が大きく振動するなど、環境振動騒音にもつながることから、残留振動を低減することは重要である。
【0050】
つまり、残留振動は大きく2種類に分けられることになる。1つはマウント機構37の振動による残留振動であり、もう1つは装置全体が振動することによる残留振動である。そして、この2つの残留振動は、X軸方向,Y軸方向それぞれに発生する。
【0051】
より詳細に説明する。
【0052】
マウント機構37をX軸方向にさせる場合(これは、第1のモードと表現することもできる。)、その速度指令の加減速時間Taを、マウント機構37がX軸方向に振動する固有振動周期(以下、Tn
(1X))、または装置全体がX軸方向に振動する固有振動周期(以下、Tn
(2X))に一致させればマウント機構37の残留振動は小さくすることができる。
【0053】
また、Y軸方向にマウント機構37を稼働させる場合(これは、第2のモードと表現することもできる。)、その速度指令の加減速時間Taをマウント機構37がY軸方向に振動する固有振動周期(以下、Tn
(1Y))、または装置全体がY軸方向に振動する固有振動周期(以下、Tn
(2Y))に一致させればマウント機構37の残留振動を小さくすることができる(なお、以下では、X軸とY軸を区別しない場合、固有振動周期はTn
(1)とTn
(2)と記すものとする。)。
【0054】
しかし、マウント機構37の残留振動はTn
(1)とTn
(2)のそれぞれの周期の残留振動の重ね合わせとなっている。つまり、駆動ステージの動作距離によらず加減速時間Taを一方の固有振動周期に合せてしまうと、駆動ステージの動作距離によってはもう一方の固有振動周期に起因する残留振動を小さくできず、場合によってはチップの装着ずれを小さくできないことも考えられる。
【0055】
そこで、本実施例のチップマウンタでは、第1にマウント機構37の質量が、装置全体の質量よりも小さいことに着目した。第2に、マウント機構37の残留振動はTn
(1)とTn
(2)のそれぞれの周期の残留振動の重ね合わせと表現されるが、装置全体の残留振動の影響が支配的な場合と、マウント機構37の残留振動の影響が支配的な場合がある点に着目した。第3に、チップマウンタは比較的大きな距離を移動する粗動動作では装置全体の残留振動の影響が支配的であり、粗動動作よりも小さい距離を移動する微動動作ではマウント機構の残留振動の影響が支配的である点に着目した。
【0056】
より具体的には、1自由度モデルに基づき式(1)を用いて質量比による固有振動周期の影響を計算すると、バネ剛性を同じだと仮定する場合にはTn
(1)はTn
(2)の10分の1から4分の1となり、Tn
(1)の方がTn
(2)よりも必ず小さくなることに着目した。本実施例では、このことを利用して、駆動ステージの動作距離に応じて対象とする固有振動周期を選択する。これは、他の表現としては、装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モードでは、加減速時間を装置全体の固有振動周期に実質的に一致させ、マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モードでは、加減速時間をマウント機構37の固有振動周期に実質的に一致させると表現することができる。
【0057】
より具体的に
図5を用いて説明する。
【0058】
図5(a)は駆動ステージの動作距離d[mm]と加減速時間Taとの関係である。
図5(b)は速度指令応答の時間幅T[sec]と加減速時間Ta[sec]との関係である。
【0059】
本実施例では、例えば、Tの最小値TminをTn
(1)の2倍に設定する。そして、TがTn
(1)の2倍以上でTn
(2)の2倍未満の条件(マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モード)では、速度指令の加減速時間TaをTn
(1)に一致させる。
【0060】
そして、TがTn
(2)の2倍以上の条件(装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モード)では、速度指令の加減速時間TaをTn
(2)に一致させる。
【0061】
これは、言い換えるなら、動作距離と加減速時間の関係において動作距離によらず加減速時間が一定の区間が2箇所あると表現してもよい。なお、駆動ステージのアクチュエータの速度vと加速度αは、加減速時間Taから式(6)の最大速度vmaxと式(7)の最大加速度αmaxを超えないように設定されることが望ましい。つまり、速度vは最大速度vmax以下、加速度αは最大加速度αmax以下であることが望ましい。
【0062】
【数8】
【0063】
【数9】
【0064】
また、本実施例では、駆動ステージが定速稼働をしている間は理論解で示したように強制振動が生じないため、定速稼働時間は必ずしもゼロでなくてもよい。
【0065】
このようにすることで、装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モード,マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モード等少なくとも2つの動作モードそれぞれにおける残留振動の影響を適切に抑制することができる。
【0066】
なお、上記の加減速時間Taをどのように設定するかは作業者が任意に設定でき、様々な入力装置,出力装置を使って操作することが可能である。
【0067】
また、本実施例は
図5(a)に示したように、動作距離に応じて加減速時間Taを変えると表現することができるが、本実施例では、動作距離が比較的大きくなるのは例えば、マウント機構37へ部品を供給するための部品供給装置上へマウント機構37が移動する場合(部品供給動作)等が考えられる。また、動作距離が比較的小さくなるのは実際にマウント機構37が基板へ部品を実装する場合(部品実装動作)等が考えられる。つまり、本実施例は、上述した側面とは異なる側面として、チップマウンタの動作の種類に応じて加減速時間を変えると表現することもできる。また、チップマウンタの動作の種類に応じて、制御すべき残留振動の種類を変えると表現することもできる。
【0068】
また、本実施例は、他の表現としては、マウント機構37の固有振動数に応じて、加減速動作時間の時間幅を調整し、動作距離が変わった場合であってもマウント機構の残留振動を低減すると表現することもできる。
【0069】
また、本実施例は、X軸方向,Y軸方向それぞれについて制御すべき残留振動の種類を変えるものである。
【0070】
また、本実施例は、部品を実装する動作の前に第1,第2の位置認識システムによって、Tn
(1)とTn
(2)を実測しても良い。
【0071】
また、本実施例では、実際の部品実装動作中に第1,第2の位置認識システムの少なくとも1つが得た結果に応じて現在どの残留振動が支配的かを判断し、上述した加減速時間を決定するようにしても良い。
【実施例2】
【0072】
次に実施例2について説明する。実施例2では、実施例1と異なる部分について主に説明する。
【0073】
図5にて説明した通り、装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モード,マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モード等少なくとも2つの動作モードそれぞれにおける残留振動の影響を適切に抑制することができる。ここで、アクチュエータの性能が加減速時間Taに対して十分であれば、
図6(a)のように理想的な加減速時間は理想的となる。しかし、実施例1を否定するわけでないが、アクチュエータの性能によっては、設定された加減速時間Taに追従できない場合も考えられる。その場合は、
図6(b)のように、アクチュエータが追従できない区間が発生する。本実施例はこのように、アクチュエータが追従できない場合でも、残留振動の影響を抑制するものである。
【0074】
より具体的に説明する。本実施例では、アクチュエータが追従できない区間については、
図6(c)に示すようにステップ関数、及びランプ関数の組み合わせとする。このようにすることで、アクチュエータが追従できない場合でも、装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モード,マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モード等少なくとも2つの動作モードそれぞれにおける残留振動の影響を可能な限り抑制することができる。なお、アクチュエータが追従できない区間の波形をどのようにするかは、作業者が任意に設定でき、様々な入力装置,出力装置を使って操作することが可能である。
【0075】
以上、実施例1,2を説明してきた。限定の意図ではないが、本実施例1,2の他の効果について説明する。
【0076】
実施例1,2では、装置全体の振動も小さくできることから、装置を備え付けた床の振動低減など、環境振動騒音が改善される効果もある。
【0077】
実施例1,2では、S字駆動制御や移動平均処理を含むノッチフィルタを用いないため、指令信号に対する動作遅れが生じることがない。
【0078】
実施例1,2では、位置認識システムに振動認識システムの機能を兼用させるため、新たに位置認識しシステムを設ける必要が無くなり、指令信号応答の時間幅の調整だけで済むことから、コストを増加させずに装置の小型化や省スペース化が可能となる。
【0079】
なお、本発明は、本実施例には限定されない、装置全体の残留振動の影響が支配的な動作モード,マウント機構37の残留振動の影響が支配的な動作モード等少なくとも2つの動作モードそれぞれにおける残留振動の影響を実質的に抑制するものは本発明の思想の範囲内である。