特許第5872831号(P5872831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5872831
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】光起電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/46 20060101AFI20160216BHJP
【FI】
   H01L31/04 152G
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-220266(P2011-220266)
(22)【出願日】2011年10月4日
(65)【公開番号】特開2012-94857(P2012-94857A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】12/910,056
(32)【優先日】2010年10月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・エー・クレンクラー
(72)【発明者】
【氏名】エイヴリー・ピー・ユエン
(72)【発明者】
【氏名】ネイサン・エム・ベイムシー
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−318725(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113606(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0207114(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42−51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電デバイスであって、
光学的に透明な基板と、
前記基板の上の光学的に透明なアノードと、
第1のメタロフタロシアニンを含む第1の半導体層と、
第2のメタロフタロシアニンおよび電子受容体を含む第2の半導体層と、
電子輸送層と、
前記電子輸送層の上のカソードとを、この順序で備え、
前記第1のメタロフタロシアニンが二価のメタロフタロシアニンであり、前記第2のメタロフタロシアニンが三価のメタロフタロシアニンである、光起電デバイス。
【請求項2】
第2の半導体層が、塩化インジウムフタロシアニンおよびC60フラーレンを含む、請求項1に記載の光起電デバイス。
【請求項3】
光起電デバイスであって、
光学的に透明な基板と、
前記基板の上のインジウムスズオキシド電極と、
鉛フタロシアニンを含む第1の半導体層と、
塩化インジウムフタロシアニンおよびC60フラーレンのブレンドを含む第2の半導体層と、
60フラーレンを含む電子輸送層と、
バトクプロインを含む正孔遮蔽層と、
前記正孔遮蔽層の上に堆積させたアルミニウム電極とをこの順序で備える、光起電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広範囲のスペクトルを有する光(例えば、日光)にさらされたときに、電流を発生させるのに有用な光起電デバイスに関する。本明細書に記載の材料は、有機太陽電池で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
光起電デバイスは、典型的には、2つの電極(すなわち、アノードおよびカソード)の間に挟まれた光活性材料の層を含む。光活性層は、放射線(例えば、日光)によって放出された光子のエネルギーを吸収することができる。この光子のエネルギーによって、励起子、すなわち、結合した電子−正孔対が生じる。材料によっては、電子および正孔は、自然発生的な再結合が起こる前に、短い距離(数ナノメートル程度)を移動することができる。励起子は、接合点まで移動することができ、接合点でこれらは分離することができ、電子は片方の電極に集められ、正孔は、他の電極に集められる。これにより、電流が外部回路に流れる。
【0003】
このような光の吸収および電荷の発生は、有機光起電デバイスに限定されている。有機半導体材料は、低コストの可能性があり、軽量であり、処理が容易であるため、関心を持たれている。しかし、有機太陽電池に典型的に用いられるこの材料は、太陽光スペクトルに最適に適合しているわけではなく、このデバイスを通る光エネルギーの大部分が失われてしまい(すなわち、電流に変換されず)、電力変換効率が低い。全太陽放射照度の半分以上が650nmを超える波長部分にあり、約650nm〜約1000nmの近赤外(NIR)範囲において、もっと長い波長の光を捕捉することが望ましい。
【0004】
十分に研究されている材料群として、メタロフタロシアニン群があり、このメタロフタロシアニン群は、環状分子の中心に金属原子を含む低分子である。メタロフタロシアニンは、一般的に、吸収係数が高く(α>10cm−1)、正孔移動度が10−3cm/V・sec付近である。メタロフタロシアニンは、典型的には、赤色〜近赤外の波長にQ帯のピークを有する。しかし、メタロフタロシアニンは、吸収プロフィールも比較的狭い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
日光に存在する光エネルギーをもっと多く捕捉でき、もっと多くの電気を発生させ、デバイスの電力変換効率を高めることができる光起電デバイスを提供することが望ましいことになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の種々の実施形態において、全体的な電力変換効率(PCE)が改良された光起電デバイスが開示されている。一般的にいうと、光起電デバイスは、2つの半導体層を備えている。第1の層は、第1のメタロフタロシアニンを含んでいる。第2の層は、第2のメタロフタロシアニンと電子受容体とのブレンドを含んでいる。第1のメタロフタロシアニンと、第2のメタロフタロシアニンは、互いに異なっており、相補的な吸収プロフィールを有している。第1の層は、アノードに近い位置にあり、第2の層は、カソードに近い位置にある。
【0007】
いくつかの実施形態では、基板と、基板の上の第1の電極と、第1のメタロフタロシアニンを含む第1の半導体層と、第2のメタロフタロシアニンおよび電子受容体を含み、第1のメタロフタロシアニンと第2のメタロフタロシアニンが異なる価数を有するような、第2の半導体層と、電子輸送層と、第2の電極とを備える光起電デバイスが開示されている。第2の半導体層は、第1の半導体層と電子輸送層との間に配置されている。第1の半導体層は、第2の半導体層よりも第1の電極に近い位置に配置されている。電子輸送層は、第2の半導体層と第2の電極との間に配置されている。
【0008】
第1および第2のメタロフタロシアニンは、独立して、式(I)の構造を有していてもよく、
【化1】

式中、Mは、二価、三価、または四価の金属原子であり、Xは、ヒドロキシルまたはハロゲンであり、nは、0〜2の整数であるか、または(X)が=Oであり、それぞれのmは、フェニル環の上にあるR置換基の数をあらわし、独立して、0〜6の整数であり、それぞれのRは、独立して、ハロゲン、アルキル、置換されたアルキル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、−CN、−NOからなる群から選択され、pは、0または1である。
【0009】
いくつかの実施形態では、第1のメタロフタロシアニンは、二価のメタロフタロシアニンであり、第2のメタロフタロシアニンは、三価のメタロフタロシアニンである。特定の実施形態では、第1のメタロフタロシアニンは、亜鉛フタロシアニンであり、第2のメタロフタロシアニンは、塩化インジウムフタロシアニンである。
【0010】
第2の半導体層中、第2のメタロフタロシアニンと電子受容体との重量比は、1:99〜99:1であってもよい。
【0011】
電子受容体は、C60フラーレン、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)、C70フラーレン、[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル、またはフラーレン誘導体であってもよい。特定の実施形態では、電子輸送層は、電子受容体を含む。言い換えれば、電子輸送層は、第2の半導体層の電子受容体で使用するのと同じ材料で構成されている。
【0012】
アノードは、インジウムスズオキシド、フッ素スズオキシド、ドープされた亜鉛オキシド、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、カーボンナノチューブ、またはグラフェンを含んでいてもよい。
【0013】
カソードは、アルミニウム、銀、カルシウム、マグネシウム、またはこれらのアロイを含んでいてもよい。
【0014】
光起電デバイスは、電子輸送層とカソードとの間に配置された正孔遮蔽層をさらに含んでいてもよい。正孔遮蔽層は、バトクプロイン、フッ化リチウム、またはバソフェナントロリンを含んでいてもよい。
【0015】
光起電デバイスは、アノードと第1の半導体層との間に電子遮蔽層をさらに含んでいてもよい。電子遮蔽層は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、MoO、またはVを含んでいてもよい。
【0016】
さらに、いくつかの実施形態では、基板と、基板の上のアノードと、電子遮蔽層と、第1のメタロフタロシアニンを含む第1の半導体層と、第2のメタロフタロシアニンおよび電子受容体を含み、第1のメタロフタロシアニンと、第2のメタロフタロシアニンが互いに異なる価数を有するような、第2の半導体層と、電子輸送層と、電子輸送層の上のカソードとを、この順序で備える光起電デバイスが開示されている。
【0017】
さらに、特定の実施形態では、光学的に透明な基板と、基板の上のインジウムスズオキシド電極と、亜鉛メタロフタロシアニンを含む第1の半導体層と、塩化インジウムメタロフタロシアニンおよびC60フラーレンのブレンドを含む第2の半導体層と、C60フラーレンを含む電子輸送層と、バトクプロインを含む正孔遮蔽層と、正孔遮蔽層の上に堆積させたアルミニウム電極とをこの順序で備える光起電デバイスが開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の第1の例示的な光起電デバイスの断面図である。
図2】本開示の第2の例示的な光起電デバイスの断面図である。
図3】実施例に記載されているような本開示の単純な並列タンデム型光起電デバイスのバンド図である。
図4】2種類の比較デバイスと本開示の光起電デバイスについて、印加した電圧に対し、電流密度を示すグラフである。
図5】比較デバイスと本開示の光起電デバイスの外部量子効率を示すグラフである。
図6】亜鉛フタロシアニンおよび塩化インジウムフタロシアニンの吸収プロフィールを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に開示されている要素、プロセス、装置のもっと完全な理解は、添付の図面を参照することによって得ることができる。これらの図は、簡便に、本開発内容を示しやすくすることに基づく単なる模式図であり、したがって、デバイスまたはその要素の相対的な大きさおよび寸法を示したり、および/または例示的な実施形態の範囲を規定または限定したりすることを意図したものではない。
【0020】
明確にするために、以下の記載で特定の用語を使用するが、これらの用語は、図面で説明するために選択された実施形態の特定の構造のみを指すことを意図しており、本開示の範囲を規定したり、または限定することを意図したりしたものではない。図面および以下の記載において、同様の数字による表示は、同様の機能を有する要素を指すことを理解されたい。
【0021】
量と組み合わせて用いられる修飾語句「約」は、述べられている値を含み、その内容によって示されている意味を有する(例えば、特定の量の測定値に関連する誤差の程度を少なくとも含む)。ある範囲に関して用いられる場合、修飾語句「約」は、2つの終点値の絶対値によって定義される範囲も開示しているものと考えるべきである。例えば、「約2〜約4」の範囲は、「2〜4」の範囲も開示している。
【0022】
用語「〜を含む」は、述べられている要素の存在を必須とし、他の要素が存在してもよいものとして本明細書で用いられる。用語「〜を含む」は、用語「〜からなる」を含むものと解釈されるべきであり、用語「〜からなる」は、述べられている要素の製造によって生じ得る任意の不純物を伴い、述べられている要素のみが存在することができる。
【0023】
用語「〜の上」は、本明細書で使用される場合、第1の要素について、第2の要素に対する位置を記述しているものと解釈されるべきである。この用語は、第1の要素が第2の要素に直接的に接触している必要があると解釈されるべきではないが、この直接的な接触も、この用語を使用することで包含される。
【0024】
本開示は、2個の半導体層を含む光起電デバイスに関する。第1の半導体層は、第1のメタロフタロシアニンを含む。第2の半導体層は、第2のメタロフタロシアニンと、電子受容体とを含む。第1のメタロフタロシアニンと、第2のメタロフタロシアニンは、互いに異なっている。第1および第2のメタロフタロシアニンは、一般的に、相補的な吸収プロフィールを有するように選択される。
【0025】
図1は、例示的な光起電デバイス100の垂直断面図である。基板110が与えられている。第1の電極(例えば、アノード120)は、基板110の上に配置されている。次いで、第1の半導体層140は、アノード120の上に配置されている。第2の半導体層150は、第1の半導体層140と接している。第1の半導体層140は、第2の半導体層150よりもアノード120に近い位置に配置されている。任意要素である電子遮蔽層130は、所望な場合、アノード120と第1の半導体層140との間に配置されていてもよい。電子輸送層160は、第2の半導体層150と接している。任意要素の正孔遮蔽層170は、電子輸送層160の上に配置されている。最後に、第2の電極(例えば、カソード180)は、基板110の上、かつ正孔遮蔽層170の上に配置されている。第2の半導体層150は、第1の半導体層140よりもカソード180に近い。さらに、アノード120は、カソード180よりも基板110に近いことを注記しておくべきである。
【0026】
図2に示されるように、機能する光起電デバイスを製造するために、必須なのは、基板110、アノード120、第1の半導体層140、第2の半導体層150、電子輸送層160、カソード180のみである。しかし、効率の高い光起電デバイスを得るのに、さらなる層も役立つ。他の言い方で記載すると、第1の半導体層140および第2の半導体層150が、アノード120とカソード180との間に配置されている。さらに、電子輸送層160が、第2の半導体層150とカソード180との間に配置されている。正孔遮蔽層170が、同様に、第2の半導体層150とカソード180との間に配置されている。電子輸送層および正孔遮蔽層の両方が存在する場合、正孔遮蔽層170は、電子輸送層160とカソード180との間に配置されている。
【0027】
第1の半導体層140は、第1のメタロフタロシアニンを含有している。第2の半導体層150は、第1のメタロフタロシアニンとは異なる価数を有する第2のメタロフタロシアニンを含有している。メタロフタロシアニンは、正孔輸送分子であり、完全に共役しており、並外れた安定性と色堅牢度を有する。メタロフタロシアニンの構造によって、結合した種が面から突出し、封入構造および結晶構造を変える。メタロフタロシアニンは、一般的に、ピーク吸光度での吸収係数が高い(α>10cm−1)。また、メタロフタロシアニンは、NIR範囲で強い光電性を有し、この性質により、光起電デバイスで有用である。これらのメタロフタロシアニンは、光子受容体および電子供与体と考えることができる。メタロフタロシアニンは、ベンゼン環を3個しかもたないサブフタロシアニンを含まないことを注記しておくべきであり、一方、メタロフタロシアニンは、その構造に4個のベンゼン環を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1および第2のメタロフタロシアニンは、独立して、式(I)の構造を有しており、
【化2】

式中、Mは、二価、三価、または四価の金属原子であり、Xは、ヒドロキシルまたはハロゲンであり、nは、0〜2の整数であるか、または(X)が=Oであり(すなわち、二重結合した酸素原子であり、「オキソ」とも呼ばれる)、それぞれのmは、フェニル環の上にあるR置換基の数をあらわし、独立して、0〜6の整数であり、それぞれのRは、独立して、ハロゲン、アルキル、置換されたアルキル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、フェノキシ、フェニルチオ、アリール、置換されたアリール、ヘテロアリール、−CN、−NOからなる群から選択され、pは、0または1である。
【0029】
用語「アルキル」は、完全に炭素原子と水素原子で構成され、完全に飽和であり、式C2n+1を有する基を指す。アルキル基は、直鎖、分枝鎖、または環状であってもよい。
【0030】
用語「アルコキシ」は、酸素原子に結合したアルキル基、すなわち、−O−C2n+1を指す。
【0031】
用語「アリール」は、完全に炭素原子と水素原子で構成される芳香族基を指す。アリールが、炭素原子の数値範囲と組み合わせて記述される場合、置換された芳香族基を含むと解釈すべきではない。例えば、句「6〜10個の炭素原子を含有するアリール」は、フェニル基(6個の炭素原子)またはナフチル基(10個の炭素原子)のみを指すと解釈されるべきであり、メチルフェニル基(7個の炭素原子)を含むと解釈されるべきではない。
【0032】
用語「ヘテロアリール」は、基の炭素原子に代えて少なくとも1個のヘテロ原子を含む芳香族基を指す。ヘテロ原子は、一般的に、窒素、酸素または硫黄である。
【0033】
用語「置換された」は、述べられている基の少なくとも1つの水素原子が、別の官能基、例えば、ハロゲン、−CN、−NO、−COOH、−SOHで置換されていることを指す。例示的な置換されたアルキル基は、ペルハロアルキル基であり、この場合、アルキル基の1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、ヨウ素、臭素と置き換わっている。
【0034】
一般的に、アルキル基およびアルコキシ基は、それぞれ独立して、1〜30個の炭素原子を含有する。同様に、アリール基は、独立して、6〜30個の炭素原子を含有する。
【0035】
特定の実施形態では、二価の金属原子Mは、銅、亜鉛、マグネシウム、スズ、鉛、ニッケル、コバルト、アンチモン、鉄、またはマンガンであってもよい。三価の金属原子Mは、インジウム(III)、ガリウム(III)、アルミニウム(III)またはスズ(III)からなる群から選択されてもよい。四価の金属原子Mは、バナジウム(IV)およびチタン(IV)からなる群から選択されてもよい。
【0036】
例示的なフタロシアニンとしては、塩化インジウムフタロシアニン(ClInPc)、塩化アルミニウムフタロシアニン(ClAlPc)、塩化ガリウムフタロシアニン(ClGaPc)、バナジウムオキシドフタロシアニン(VOPc)、チタンオキシドフタロシアニン(TiOPc)、銅フタロシアニン(CuPc)が挙げられる。pが0の場合、上述の化合物は、二水素フタロシアニン(HPc)である。これらのフタロシアニンを、ここで式(1)〜(7)として示す。
【化3-1】

【化3-2】
【0037】
特定の実施形態では、第1のメタロフタロシアニンは、二価のメタロフタロシアニンであり(すなわち、二価の金属原子を含み)、第2のメタロフタロシアニンは、三価のメタロフタロシアニンである(すなわち、三価の金属原子を含む)。特定の実施形態では、第1のメタロフタロシアニンは、亜鉛メタロフタロシアニンであり、第2のメタロフタロシアニンは、塩化インジウムフタロシアニンである。
【0038】
第2の半導体層は、電子受容体も含む。電子受容体は、電子を受け入れ、別の化合物によって電子を移動させる材料または化合物である。一般的に言うと、電子受容体は、第2の第2のメタロフタロシアニンよりも電子を効率的に移動する。電子受容体として使用可能な例示的な材料としては、C60フラーレン、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)、C70フラーレン、[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル(PC[70]BM)、または任意のフラーレン誘導体が挙げられる。特定の実施形態では、電子受容体は、C60フラーレンである。第1の半導体層は、電子受容体を含まない。
【0039】
第2の半導体層において、第2のメタロフタロシアニンと電子受容体との重量比は、第2のメタロフタロシアニンおよび電子受容体の重量を基準として、1:99〜99:1である。ある実施形態では、重量比は、30:70〜70:30である。望ましくは、第2の半導体層は、第2のメタロフタロシアニンおよび電子受容体の均一なブレンドであるが、第2の層の単離された部分では、2つの要素がある程度分離していてもよい。
【0040】
上述の2種類の半導体層における第1および第2のメタロフタロシアニンの吸収プロフィールは、互いに相補的であるように選択されるべきであり、その結果、電流の発生が改良される。言い換えれば、第1のメタロフタロシアニンと第2のメタロフタロシアニンとは互いに異なっており、すなわち、異なる金属原子を含有しており、同じメタロフタロシアニンの単なる多形ではない。例えば、ZnPcは、600〜700nmの領域で光子を吸収する。ClInPcは、600〜800nmにわたるピーク吸光度が測定されている。これら2種類のメタロフタロシアニンを同じ光起電デバイスで組み合わせることによって、顕著に広がった吸収プロフィールを得ることができる。これにより、太陽光スペクトルと重なる部分が多くなるため、短絡回路電流(ISC)が大きくなる。2種類のメタロフタロシアニンを用いることの別の利点は、これらが似た正孔移動度を有しており、キャリア移動度の均衡の問題を改善するのに役立つことである。
【0041】
第1の半導体層(第1のメタロフタロシアニンを含む)は、厚みが少なくとも3ナノメートルである。薄膜(約2nm以下)の場合、膜は、単離された結晶子の中で凝集し、膜に孔が残る場合がある。このことは望ましくない。第1の半導体層は、連続した膜であることが想定されている。言い換えると、第2の半導体層は、第1の半導体層の他面の上にあるデバイスの要素と接触していない。第2の半導体層(第2のメタロフタロシアニンと電子受容体とのブレンドを含む)は、厚みが3ナノメートル〜60ナノメートルである。
【0042】
第1および第2の半導体層は、典型的には、真空物理蒸着を用いて堆積し、この方法は、産業的に一般的な薄膜製造技術である。他の堆積技術としては、液相成長(例えば、スピンコーティング、浸漬コーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、インクジェット印刷)および当該技術分野で既知の他の従来のプロセスを挙げることができる。
【0043】
所望な場合、第1の半導体層に化学処理を施し、元々の堆積したメタロフタロシアニンの多形を変えることができる。多形は、フタロシアニンの特定の結晶構造であり、フタロシアニンは、複数の結晶構造を有している場合があり、言い換えると、2種類以上の多形形態を有している場合がある。化学的に処理すると、多形が変化する異なるメタロフタロシアニンがいくつか知られている。いくつかの異なる化学処理を用い、メタロフタロシアニンをある多形から別の多形に変えることができる。方法のひとつは、溶媒処理によるものである。溶媒の蒸気(例えば、テトラヒドロフラン(THF)の蒸気)にさらすと、メタロフタロシアニンのいくつかの部分の構造および性質が変わることが示されている。同様に、いくつかのメタロフタロシアニンは、異なる多形に簡単に変換される。溶媒によってメタロフタロシアニン膜を膨潤させ、緩和させると、非常に感光性で、二種類の形態を有する構造が得られる。また、この構造により、ある多形の吸収プロフィールが、900nmを超える範囲まで広がる。別の方法は、熱処理であり、温度およびアニーリング時間を変えることによって結晶構造が変わる。第1の半導体層にメタロフタロシアニンの異なる多形が存在することは、X線回折(XRD)および当該技術分野で既知の他の手段を含む技術によって確認することができる。
【0044】
効率を上げるために調べられた有機太陽電池の構造は、ひとつには直列タンデム型電池であり、異なる吸収特性を有する層が、互いの上部に積み重ねられており、再結合層によって接続している。再結合層は、光を吸収し、反射し、1つの層で吸収するために利用可能な透過光の量を減らす。さらに、デバイス全体の短絡電流密度(JSC)は、それぞれ個々の吸収層の最も小さなJSCである。したがって、それぞれの層の短絡電流密度(JSC)は、通常は、揃うように調節される。電流が、これらの層の厚みおよび構造に大きく(電圧よりもかなり大きく)依存するため、直列タンデム型電池を製造するプロセスは、厚みまたは構造の小さな変化が、デバイスの性能をこのように大きく変動させる可能性があるため、かなり難しい。
【0045】
対照的に、本開示の並列タンデム型電池は、複雑な再結合層を必要とせず、それぞれの層のJSCを揃える必要もない。しかし、並列タンデム型電池の吸収プロフィールは、従来の直列タンデム型電池とちょうど同じ広さの太陽光スペクトルの部分を捕捉する。
【0046】
光起電デバイスの顕著な特徴は、ブレンドされた第2の半導体層が、第1の半導体層と電子輸送層との間に配置されていることである。この構造によって、第1の半導体層で発生した電子が、第2の半導体層の電子受容体に移動し、カソードへと移動することができる。これにより、第1の半導体層と第2の半導体層との間の接合点で、比較的効率よく電流が発生する。第2の半導体層中の第2のメタロフタロシアニンによって発生する電子も、第2の半導体層の電子受容体に移動し、カソードへと移動することができる。第1および第2のメタロフタロシアニンの最高被占分子軌道(HOMO)レベルが一致しているため、第2のメタロフタロシアニンで発生した正孔も、第1の半導体層に移動し、アノードへと移動することができる。光によって発生した正孔および電子が、それぞれの電極に移動するのに効果的な経路が存在するため、電流発生に対する関与が、両方のメタロフタロシアニンから生じる場合がある。本質的に、電池は、もっと多くの光を捕捉し、もっと多くの光を電気に変換することができる。
【0047】
光起電デバイスの基板110は、光起電デバイスの他の要素を支持している。また、基板は、半導体の二層を光が通過し、この層に接するように、スペクトルのNIR範囲では少なくとも光学的に透明であるべきである。いくつかの実施形態では、基板は、限定されないが、ガラスまたはプラスチックの膜またはシートを含む材料で構成される。構造的に可とう性のデバイスの場合、プラスチック基板(例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドのシードなど)を用いてもよい。基板の厚みは、約10マイクロメートルから、10ミリメートルを超えてもよく、例示的な厚みは、特に、可とう性プラスチック基板の場合、約50マイクロメートル〜約5ミリメートルであり、ガラスまたはシリコンのような剛性基板の場合、約0.5〜約10ミリメートルである。
【0048】
アノード120およびカソード180は、導電性材料で構成されている。電極に適した例示的な材料としては、アルミニウム、金、銀、クロム、ニッケル、白金、インジウムスズオキシド(ITO)、亜鉛オキシド(ZnO)などが挙げられる。電極の1つ、特にアノードは、ITOまたはZnOのような光学的に透明な材料で作られる。特定の実施形態では、アノードはITOであり、カソードはアルミニウムである。電極に典型的な厚みは、例えば、約40ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、もっと特定的な厚みは、約40〜約400ナノメートルである。
【0049】
電子遮蔽層130は、アノード120と第1の半導体層140との間に存在していてもよい。この層は、電子がアノードに移動するのを抑制することによって、アノードでの再結合を防ぐ。例示的な材料としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)、MoO、Vが挙げられる。電子遮蔽層は、厚みが約1〜約100ナノメートルであってもよい。
【0050】
電子輸送層160は、第2の半導体層150とカソード180との間に存在していてもよい。この層は、一般的に、電子を効果的に移動させることが可能な材料から作られ、ある光の波長を吸収してもよい。電子輸送層に例示的な材料としては、C60フラーレン、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM)、C70フラーレン、[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル(PC[70]BM)、または任意のフラーレン誘導体が挙げられる。電子輸送層は、厚みが約1ナノメートル〜約50ナノメートルであってもよい。特定の実施形態では、電子輸送層は、電子受容体を含む。言い換えると、第2の半導体層の電子受容体として用いられる材料は、電子輸送層を作るのに用いられるのと同じ材料である。
【0051】
また、正孔遮蔽層170は、第2の半導体層150とカソード180との間に配置されていてもよい。電子輸送層が存在する場合、正孔遮蔽層170は、電子輸送層160とカソード180との間にある。この層に例示的な正孔遮蔽材料としては、バトクプロイン(BCP)、フッ化リチウム、バソフェナントロリンが挙げられる。正孔遮蔽層は、厚みが約0.1ナノメートル〜約100ナノメートルであってもよい。
【0052】
以下の例は、本開示の方法にしたがって作られた有機光起電デバイスを示す。実施例は、単なる実例であり、実施例に記載されている材料、条件、またはプロセスパラメータに関し、本開示を限定することを意図していない。すべての部は、他に示されていない限り、重量パーセントである。
【0053】
(実施例)
(デバイス製造手順)
インジウムスズオキシド(ITO)でコーティングされたアルミノシリケートガラス基板(50mm×50mm)が与えられた。ITOは、シート抵抗15Ω/sqを達成するのに十分な量で存在し、アノードとして作用した。基板の洗浄手順は、石鹸溶液、脱イオン水、メタノール、イソプロパノールを用いた洗浄、次いで、UV−オゾンにさらすことを含んでいた。
【0054】
洗浄した後、複数のボートと、複数のマスクを備えるサーマルエバポレーターに基板を置いた。次いで、クライオポンプを用い、4×10−4Pa未満の減圧にした後、任意の層を堆積させ、エバポレーション中に5×10−4Paを超えないように圧力をモニタリングした。
【0055】
その後、3種類のデバイス構造を製造した。石英結晶モニターを用い、層の厚みを制御した。すべての層を約0.08nm/秒の速度で堆積させ、高減圧下で連続して層形成させた。デバイスが完成してしまうまで、層が空気にさらされないようにした。すべてのメタロフタロシアニンおよびC60は、3ゾーンに分かれたトレインサブリメーションで精製した。
【0056】
デバイス1は、ZnPcの第1の半導体層(厚み10nm)と、C60の第2の層(厚み30nm)とを有していた。
【0057】
デバイス2は、ClInPcとC60との1:1(wt/wt)ブレンドから作られた第1の半導体層(厚み10nm)を有していた。次いで、C60の第2の層(厚み30nm)を第1の層の上に堆積させた。
【0058】
デバイス3は、ZnPcの第1の半導体層(厚み10nm)を有していた。次いで、ClInPcとC60との1:1(wt/wt)ブレンドから作られた第2の半導体層(厚み10nm)を第1の層の上に堆積させた。次いで、C60の第3の層(厚み30nm)を、第2の層の上に堆積させた。
【0059】
すべてのデバイスは、バトクプロイン(BCP)正孔遮蔽層(厚み5nm)およびアルミニウムアノード(厚み50nm)を用いて仕上げられた。昇華グレードのBCPは、Sigma−Aldrichから購入し、さらに精製することなく使用した。
【0060】
(比較例)
完成したデバイスを、圧接を用いて外部測定回路に接続した。このデバイスに、ITO電極を介して、AM1.5Gスペクトルフィルタを備えたOriel 96000太陽光シミュレータを用いて100mW/cmの人工日光をあてた。試験中は、サンプルを、アルゴンを流した状態のチャンバ内部に置いた。Newport 818−UV/CM検出器およびNewport 1830−C光パワーメータで入力パワーをモニタリングした。Keithley 238ソース−メジャーユニットおよびPCによって、J−Vデータを集めた。有効なデバイスの面積は、シャドーマスクによって規定される7mmであった。
【0061】
外部量子効率(EQE)の測定は、Photon Technology International製の較正済モノクロメーターおよびKeithley 6485ピコ電流計を用いて行ない、短絡回路電流を入射光の波長の関数として測定した。この性質は、光に対するデバイスの電気感受性を測定するものであり、特定の波長が照射された場合に所与のデバイスで作られるであろう電流に関する情報を与える。
【0062】
単純な並列タンデム型電池(デバイス3)のバンド図を図3に示している。電流は、両半導体層によって並列で作られ、したがって、直列タンデム型電池で必要となる電流を揃える条件を必要としない。ZnPcで発生した正孔は、ITO電極を自由に流れることができ、ZnPcで発生した電子は、ブレンドされた層に存在するC60ネットワークを経て移動することができる。同様に、ブレンドされた層のClInPcで発生した正孔は、ZnPcのHOMOが、ClInPcのHOMOよりも真空準位に近い位置にあるため、ZnPcに移動することができる。また、ClInPcの電子も、ブレンドされた層のC60ネットワークを経て移動することができる。
【0063】
図4は、3種類のデバイスについて、印加した電圧に対し、電流密度を示すグラフである。電流密度は、電流を有効面積で割ることによって算出した。
【0064】
デバイス1をデバイス2と比較すると、最も多くみられる差は、開回路電圧VOC(電流がゼロのときのデバイスの電圧)である。デバイス2は、三価のメタロフタロシアニンに由来するため、非常に高いVOCを示した。これと比べ、デバイス1(二価ZnPc)は、VOCがかなり低かった。デバイス1は、デバイス2と比較して、短絡回路電流JSC(電圧がゼロのときの電流)は、ほんのわずか高かった。これにより、デバイス1は、電力変換効率(PCE)が0.86%と相対的に低かった。デバイス2は、PCEが1.34%であり、これは、ほとんどが、VOCがかなり高いことによるものであった。電力変換効率PCEは、最適負荷でデバイスによって与えられる効率である。
【0065】
デバイス2のClInPc:C60がブレンドされた層をデバイス1の2つの層の間に挿入し、デバイス3を得た。図4において、デバイス3は、デバイス1またはデバイス2のどちらよりも顕著に高いJSCを有していた。デバイス3のVOCは、デバイス1のVOCと、デバイス2のVOCの間の値であり、これはおそらく、ClInPcが存在するためにZnPcのHOMOが下がったことによるものであろう。それに加え、最適化する試みはここではまったく報告していないが、それぞれの層からの電流を加えた合計は、デバイス3のJSC測定値と近かった。言い換えると、デバイス3は、ブレンドされたさらなる層を導入したことによる再結合に起因する電流損失をほとんど受けなかった。電流が良好に増加し、電圧が良好に増加した結果として、曲線因子はほとんど変化せず、デバイス3の全体的なPCEは1.81%であり、これはデバイス1の効率の2倍よりも大きかった。デバイス3のPCEは、デバイス1およびデバイス2をあわせたPCEよりもほんのわずか低い。この性能は、直列タンデム型の構造を用いて達成可能な性能と似ているが、設計はかなり単純であり、電流を揃えることを考えることによって妨害されない。
【0066】
それぞれの層からの相対的な電流の寄与を観察するために、デバイス1および3の外部量子効率(EQE)を図5に示している。ZnPcおよびClInPcのUV吸収プロフィールを図6に示している。デバイス1のEQEは、ZnPcの吸収プロフィールの形状に非常に近い形であり、このことは、太陽光スペクトルのこの領域における電流の寄与は、ZnPc層での励起子の生成によって生じるものであることを暗示している。その結果、デバイス1は、700nmで電流の寄与が低下し、これは、ZnPcにおいて、光子の吸収が低下することと一致している。デバイス3のEQEプロフィールは、600〜700nm領域での電流の寄与がZnPc層に由来するものであることと、さらに、700nm付近での電流の寄与が非常に明確に増加していることを示している。ClInPc:C60がブレンドされた層を加えると、740nmでのEQEが相対量で5倍に増加した。このEQEピークは、ClInPcの吸収プロフィールに従うものであり、明らかに、ClInPc:C60がブレンドされた層での励起子の発生が、主に、700nmを超える波長での光電流によるものであることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6