(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化セリウム系研磨剤及びガラス研磨屑を含有するケーキ状の研磨剤廃棄物を、酸水溶液及びアルカリ水溶液のいずれかと混合し、メディア型ミルにより解砕する解砕工程を少なくとも含むことを特徴とする酸化セリウム系研磨剤の回収方法。
【背景技術】
【0002】
コンピューター、液晶ディスプレー、携帯電話などの普及により、ガラスディスク、水晶ウエーハ、液晶パネルなどガラス材料の使用量が増大している。これらガラス材料の表面は、鏡面に研磨される。研磨には、酸化セリウム成分が主たる効果を有するが、原料鉱石に、酸化セリウムと同時に含有される酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化プラセオジムなどを含んだ粉体が酸化セリウム系研磨剤として使用されている。酸化セリウム系研磨剤は、スラリー化して使用されるが、使用しているうちに研磨剤の劣化、及び研磨されたガラス屑のスラリーへの混入により、所望の研磨速度が維持できなくなるとともに、研磨面の傷の原因となる。一定時間使用した酸化セリウム系研磨剤は、ガラス屑とともにそのほとんどが産業廃棄物として処理されているのが現状である。
【0003】
酸化セリウム系研磨剤に含有されるセリウム、ランタン、ネオジム、プラセオジムなどは、希土類金属であり、埋蔵量が少ない上に、産出場所が偏在している。例えば、これら希土類金属は、日本国内では産出しないため、日本はこれら希土類金属の入手を輸入に頼っている。
そのため、使用済みの酸化セリウム系研磨剤の回収と再利用が望まれている。
【0004】
使用済みの酸化セリウム系研磨剤の回収方法としては、例えば、ケーキ状の使用済み研磨剤粒子を水で再分散したスラリーとする工程、該再分散スラリーを酸で処理する工程、得られた酸処理スラリーを固液分離する工程、得られたケーキを乾燥し、解砕する工程からなるセリウム系研磨剤の回収方法が提案されている(特許文献1)。
しかし、この提案の技術は、工程が多く回収効率が悪いという問題がある。
【0005】
また、酸化セリウム系研磨剤を研磨に使用して生じた研磨剤廃棄物を原料とし、前記研磨剤廃棄物とアルカリ水溶液とを混合して可溶性の不純物を溶解した後、この不純物が溶解した水溶液と固形分を分離し、次いでこの分離した固形分を篩分けして、微細な研磨剤を回収する研磨剤の回収方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、この提案の技術は、研磨剤廃棄物をアルカリ水溶液と混合した際に、酸化セリウム系研磨剤の凝集物が十分にほぐれず、酸化セリウム系研磨剤の回収効率が悪いという問題がある。
【0006】
また、酸化セリウム系研磨剤と、該酸化セリウム系研磨剤の粒子径よりも小さな小径異物と、前記酸化セリウム系研磨剤の粒子径よりも大きな大径異物とが凝集し凝集物として存在している酸化セリウム系研磨剤スラリー廃液から酸化セリウム系研磨剤を回収する回収方法であって、前記酸化セリウム系研磨剤スラリー廃液の機械的な分散処理を行う分散工程と、前記分散処理された分散液を濾過処理して前記分散液から前記大径異物を除去する濾過工程と、前記濾過処理された濾過液をサイクロンによって分級処理し、該濾過液中の前記酸化セリウム系研磨剤と前記小径異物とを分級する分級工程とを備えた酸化セリウム系研磨剤スラリー廃液からの研磨剤回収方法が提案されている(特許文献3)。
しかし、この提案の技術は、研磨剤スラリー廃液を用いる研磨剤回収方法であり、ケーキ状の研磨剤廃棄物への適用は想定されていない。また、研磨剤スラリー廃液は、水が多く酸化セリウム系研磨剤の含有濃度が低いため、機械的な分散処理等において処理効率が低いという問題がある。
【0007】
したがって、簡易な工程であり、更に酸化セリウム系研磨剤の回収効率、特に酸化セリウム系研磨剤に含有される希土類酸化物の回収効率が優れる酸化セリウム系研磨剤の回収方法、及び該回収方法により得られる酸化セリウム系研磨剤を含有する回収物の提供が求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(酸化セリウム系研磨剤の回収方法、及び酸化セリウム系研磨剤を含有する回収物)
本発明の酸化セリウム系研磨剤の回収方法は、解砕工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、分離工程などのその他の工程を含む。
本発明の酸化セリウム系研磨剤を含有する回収物は、本発明の前記酸化セリウム系研磨剤の回収方法により得られる。
【0013】
<解砕工程>
前記解砕工程としては、酸化セリウム系研磨剤及びガラス研磨屑を含有するケーキ状の研磨剤廃棄物を、酸水溶液及びアルカリ水溶液のいずれかと混合し、解砕機により解砕する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記解砕とは、前記研磨剤廃棄物中の前記酸化セリウム系研磨剤の凝集状態を解きほぐすことを意味する。
前記研磨剤廃棄物中の前記酸化セリウム系研磨剤は凝集剤などにより凝集状態にあるため、前記解砕工程において前記研磨剤廃棄物を解砕しつつ酸又はアルカリにより処理することで、前記酸化セリウム系研磨剤と前記ガラス研磨剤などの他の成分とを分離し、前記酸化セリウム系研磨剤の回収が容易になる。
また、前記解砕工程においては、解砕機に前記研磨剤廃棄物を投入する際に、ケーキ状の状態で投入でき、スラリー状にする必要がないため、工程の短縮が可能であり、かつ解砕工程において使用する水の量を低減できるため、解砕工程における処理効率が高くなる。
【0014】
−研磨剤廃棄物−
前記研磨剤廃棄物は、酸化セリウム系研磨剤と、ガラス研磨屑とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、凝集剤などのその他の成分を含有する。
前記研磨剤廃棄物は、ケーキ状である。
ケーキ状の前記研磨剤廃棄物は、例えば、使用済みの酸化セリウム系研磨剤とガラス研磨屑とが混在した混合物スラリーに凝集剤を添加して酸化セリウム系研磨剤を凝集させた後に、固液分離手段などにより水分を減少又は除去して湿ケーキ状(脱水ケーキ状)又はそれを乾燥することにより得られる。前記研磨剤廃棄物の水分量は、通常、30質量%〜60質量%程度である。
ここで、「ケーキ」とは、固形分が水分を含有した状態でろ過装置による圧搾などで固まり状になったもののことをいい、「スラリー」とは、固形分が水などの液中に分散され、液状または泥状になったもののことをいう。
【0015】
前記研磨剤廃棄物の状態(大きさ)としては、特に制限はなく、解砕機に供給可能な大きさ(一般的には数cm程度以下)になっていればよい。
【0016】
−−酸化セリウム系研磨剤−−
前記酸化セリウム系研磨剤の材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記酸化セリウム系研磨剤の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化セリウムを少なくとも含有し、更に必要に応じて酸化ランタン、酸化プラセオジムなどを含有する酸化セリウム系研磨剤が挙げられる。
前記酸化セリウム系研磨剤の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.5μm〜10μmが挙げられる。ここで、平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(一例として、島津製作所製、SALD2000A)により測定することができる。
【0018】
前記酸化セリウム系研磨剤に含有されるセリウム、ランタン、プラセオジムなどの希土類元素(レアアース)は、貴重な資源であり、回収による再利用が望まれている元素である。
【0019】
−−ガラス研磨屑−−
前記ガラス研磨屑は、前記酸化セリウム系研磨剤を用いて、ガラスディスク、水晶ウエーハ、液晶パネルなどのガラス材料を研磨した際に発生する研磨屑である。
前記酸化セリウム系研磨剤を用いた前記ガラス材料の研磨は、通常の研磨剤(例えば酸化アルミニウム)を用いた研磨のように、物理的又は機械的に被研磨物を削るようなものではなく、前記酸化セリウム系研磨剤が前記ガラス材料と接触したとき、珪素成分が化学的に反応を起こし、原子レベルの大きさで剥ぎ取られ、酸化セリウムに付着することによって行われると考えられている。そのため、前記ガラス研磨屑の大きさは、前記酸化セリウム系研磨剤よりも非常に小さい。そして、前記研磨剤廃棄物において前記ガラス研磨屑は、主に前記酸化セリウム系研磨剤に付着している。
【0020】
−−凝集剤−−
前記研磨剤廃棄物は、前記のとおり、ケーキ状とする際に、凝集剤を使用することが一般的である。
前記凝集剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化鉄、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、高分子凝集剤などが挙げられる。
【0021】
−酸水溶液及びアルカリ水溶液−
−−酸水溶液−−
前記酸水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩酸、硫酸、硝酸、及びシュウ酸の少なくともいずれかを用いた酸水溶液であることが好ましい。
前記酸水溶液と前記研磨剤廃棄物とを混合した際の混合物のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH5以下が好ましく、pH1〜pH3がより好ましい。前記pHが、1未満であると、有用成分の溶解が過剰に進み、回収率が低下することがあり、3を超えると、処理に時間を要し効率が低下したり、さらに処理時間が長くなることでメディアによる粉砕が進み、回収物の粒度分布が微粒側にシフトし、研磨剤として再利用した際の研磨効率が悪化することがある。前記pHが、前記より好ましい範囲であると、回収率と時間的な処理効率の両立という観点から有利である。
【0022】
−−アルカリ水溶液−−
前記アルカリ水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液などが挙げられる。
前記水酸化ナトリウム水溶液などの前記アルカリ水溶液で前記研磨剤廃棄物中の不要成分である酸化ケイ素(SiO
2)などを溶解させることにより、有用成分である酸化セリウム等の希土類酸化物を回収することができる。
【0023】
前記酸水溶液及び前記アルカリ水溶液の少なくともいずれかと、前記研磨剤廃棄物との混合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記酸水溶液及び前記アルカリ水溶液の少なくともいずれか(A)と前記研磨剤廃棄物(B)との質量比(A:B)で、100:30〜100:2が好ましく、100:10〜100:5がより好ましい。前記質量比において、前記酸水溶液及び前記アルカリ水溶液の少なくともいずれかが、好ましい範囲未満であると、ケーキ状の前記研磨剤廃棄物の解砕が困難になる、又は解砕に時間が掛かることがあり、好ましい範囲を超えると、前記酸水溶液及び前記アルカリ水溶液の少なくともいずれかと、前記研磨剤廃棄物との混合物における水の量が多くなり、解砕の際の処理効率が低くなることがある。前記混合割合が、前記より好ましい範囲であると、解砕の際の処理効率が高い点で有利である。
【0024】
酸及びアルカリは、前記ガラス研磨屑や前記凝集剤などの酸及びアルカリに可溶な不純物を溶解し、前記解砕工程において、前記酸化セリウム系研磨剤と、前記ガラス研磨屑や前記凝集剤などの他の成分との分離を容易にする。
【0025】
−解砕−
前記解砕は、解砕機により行うことができる。
−−解砕機−−
前記解砕機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メディア型ミル、ロールミル、強撹拌型の撹拌機、ラインミキサーなどが挙げられる。
【0026】
前記メディア型ミルとしては、容器内にボール又はビーズ(以下、メディアと称することがある)を入れ、固体や液体と共に攪拌する装置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記メディア型ミルとしては、例えば、密閉容器を機械的に振盪しメディアを強力に攪拌するペイントシェイカー、密閉容器を機械的に回転させメディアを攪拌するボールミル、蓋付き容器内に攪拌子(回転軸に多数の棒を取り付けた攪拌子や回転軸に多段の円盤を取り付けた攪拌子等、機器メーカーにより様々な形状を有する)を入れて回転させ、メディアを強力に攪拌するアトライターやサンドミル、密閉容器内に多数の円盤(アジテーターディスクと称される)が取り付けられた回転軸を有し、これを回転させ、メディアを強力に攪拌するビーズミルなどが挙げられる。
前記メディア型ミルの装置の呼称は製造メーカーによって異なる場合も多々あるが、何れの装置においても、固体や液体と一緒に攪拌されるメディア同士の衝突力により、強力に解砕できることが特徴である。これらの装置は、無機物の粉砕、分散、混合等や、塗料顔料の練肉、分散等に広く用いられているものが使用できる。
前記メディアの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソーダガラス、アルミナ、ジルコニア、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
前記メディアの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、直径が、5mm〜30mmが好ましく、10mm〜20mmがより好ましい。
【0027】
前記ロールミルとしては、例えば、2本ロールミル、3本ロールミルなどが挙げられる。これらの中でも、解砕能力の点から3本ロールミルが好ましい。3本ロールミルの運転条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前ロール回転数50rpm〜200rpm、前ロール:中ロール:後ロールの各回転比が1.0:1.5:5.0〜1.0:3.0:8.0であることが好ましい。
【0028】
前記解砕機の運転時間、即ち前記解砕の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記研磨剤廃棄物中の凝集剤含有量が多い、又は含水率が低いなどの理由によりケーキの強度が高いときには、解砕の時間を長くすることで、解砕の効果を高めることができる。前記研磨剤廃棄物の成分組成や、ケーキの性状によって解砕の適正条件は変化するが、前記解砕の時間が短い場合には、充分な解砕が行われないことで、凝集状態を保った固形物の内部に酸処理の効果が及ばず、目的とする再生品(回収物)の組成や粒度が得られないことがあり、前記解砕の時間が長い場合には、解砕後の一次粒子の粉砕が過剰に進行し、再生品(回収物)の粒度が研磨剤などのリサイクル用途の目的とそぐわないことがある。
【0029】
前記解砕工程により得られる解砕物の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.5μm〜10μmが挙げられる。ここで、平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(一例として、島津製作所製、SALD2000A)により測定することができる。
【0030】
<分離工程>
前記分離工程は、前記酸化セリウム系研磨剤と前記ガラス研磨屑とを分離する工程であり、前記解砕工程の後に行われる。
前記分離工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分級処理、固液分離処理などが挙げられる。
【0031】
−分級処理−
前記分級処理は、例えば、分級機により行うことができる。
前記分級機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、風力分級機、慣性式分級機、篩式分級機などが挙げられる。前記分級機の一例としては、例えば、微粉を除去する能力の観点から、ケーシング内に鉛直方向に配置された駆動軸を中心軸とする分級ロータと、該分級ロータと同一の駆動軸を中心軸とし、該分級ロータの外周の分級ゾーンに該分級ロータの外周とは間隔を空けて配置された不動の螺旋状案内羽根とを有する分級機が挙げられる。かかる構造を有する分級機の具体例としては、特開平11−216425号公報の
図2、特開2004−78063号公報の
図6に図示された分級機や、ホソカワミクロン社製の「TSP」シリーズ等の市販品などが挙げられる。
前記酸化セリウム系研磨剤と比較して前記ガラス研磨屑は小さいため、前記分級処理により前記酸化セリウム系研磨剤と前記ガラス研磨屑を効率よく分離することができる。
【0032】
−固液分離処理−
前記固液分離処理は、前記解砕工程により解砕された前記酸化セリウム系研磨剤と前記ガラス研磨屑を含む液分とを分離する工程である。
前記固液分離処理は、例えば、吸引濾過、加圧濾過、沈降分離、遠心分離、水洗などにより行うことができる。
前記固液分離処理では、前記酸化セリウム系研磨剤と前記ガラス研磨屑との大きさの違いを利用し、前記酸化セリウム系研磨剤を含む固体と、前記ガラス研磨屑を含む液分とを分離することができる。
【0033】
前記酸化セリウム系研磨剤を含有する回収物における全希土類酸化物(TREO)の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。前記含有量が、90質量%未満であると、前記回収物を研磨剤として再利用した際に、研磨剤としての性能に影響を及ぼすこと、又は不純物成分による研磨への影響があることがある。
ここで、前記全希土類酸化物(TREO)とは、酸化セリウム、酸化ランタン、及び酸化プラセオジムを意味し、前記全希土類酸化物(TREO)の含有量とは、酸化セリウム、酸化ランタン、及び酸化プラセオジムの合計含有量を意味する。
【0034】
前記回収物の前記全希土類酸化物における酸化セリウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70質量%以上であることが、研磨剤における有効成分としての酸化セリウムの含有量が高く、再生された材料としての機能に優れる点で好ましい。
【0035】
前記酸化セリウム系研磨剤を含有する回収物の性状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥粉体、含水ケーキ、スラリーなどが挙げられる。酸化セリウム系研磨剤を使用する工程や企業において、乾燥粉体であることが都合がよければ、前記回収方法において、脱水・乾燥を行い乾燥粉体として前記回収物を得て、前記回収物を乾燥粉体として供給することも可能であるし、研磨工程で用いられるように水に分散された状態が都合がよければ、適切なパルプ濃度のスラリー状態で前記回収物を得ることで、脱水・乾燥工程の実施を省略でき低コストで前記回収物を得ることできる。
【0036】
前記回収物として得られた希土類酸化物は、研磨剤として再利用が可能である。再利用の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記回収物をそのまま研磨剤として使用すること、及び前記回収物を新品の研磨剤に混合して使用することが挙げられる。前記回収物を新品の研磨剤に混合して使用する際には、前記回収物により研磨剤の粒度分布を調整することができる。
前記回収物として得られた希土類酸化物は、希土類酸化物の工業的原料として、また希土類酸化物を含むより工業的な付加価値の高い材料、例えば化学反応触媒の原料としても活用可能である。例えば、前記回収物として得られた希土類酸化物は、組成調製のためのプロセスを付加することで、工業的に付加価値の高い石油の流動接触分解(FCC:Fluid Catalyst Cracking)プロセスで用いられるFCC触媒(流動床接触分解触媒)などの原料としても利用可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
表1に示す組成を有する酸化セリウム系研磨剤を含有するケーキ状の研磨剤廃棄物(水分量49質量%)60gを磁製ポット(ボールミル、アズワン社製、容量2,000mL)に入れた。続いて、該磁製ポットへ、1N−塩酸1.0L、及び直径10mmのジルコニアボール5,096g(磁製ポットの容量の80体積%に相当)を入れた。
この磁製ポットを回転数50rpmで2時間回転させ、解砕工程を行った。
解砕工程後の磁製ポット内の内容物(ジルコニアビーズは除く)のpHは1.2、固形分の平均粒子径は0.8μmであった。
解砕工程後の磁製ポット内の内容物からジルコニアビーズを取り除いた後、その内容物をろ紙(ADVANTEC社製、4Aタイプ)を用いてろ過し、続いてろ紙上の固形物を2Lの水を用いて水洗した後、105℃で2時間乾燥して、固形の回収物を得た。
得られた回収物について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、ZSX PrimusII)を用いて組成分析を行った。また、回収物の質量を測定して、回収率を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例1)
実施例1に用いた酸化セリウム系研磨剤を含有するケーキ状の研磨剤廃棄物と同じ研磨剤廃棄物60gを2Lガラスビーカーに入れた。続いて、該ガラスビーカーへ、1N−塩酸1.0Lを入れた。
このガラスビーカーの内容物をケミスターラー(アズワン社製、高速撹拌機ST−200)により回転数300rpmで、1時間撹拌した。
撹拌後、篩目の目開きが5mmの篩を通し、篩を通過したスラリーについて、ろ紙(ADVANTEC社製、4Aタイプ)を用いてろ過し、続いてろ紙上の固形物を2Lの水を用いて水洗した後、105℃で2時間乾燥して、固形の回収物を得た。
得られた回収物について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、ZSX PrimusII)を用いて組成分析を行った。また、回収物の質量を測定して、回収率を求めた。結果を表1に示す。
なお、篩上に残ったのは、凝集がほぐれていない研磨剤廃棄物の固形物であった。この固形物は、凝集がほぐれておらず、固形物内部の酸処理が十分ではないため、回収物としては不適であるため、回収物の質量、分析値などの評価には含めなかった。
【0040】
【表1】
ここで、表1中、蛍光X線分析結果の単位は、「質量%」である。TREOは全希土類酸化物のことであり、TREO含有率は、回収物における全希土類酸化物(希土類をCe、La、Prとした際の全希土類酸化物)の合計質量割合(質量%)を示す。Ce/TREOは、TREO(Ce+La+Pr)に占めるCeO
2(酸化セリウム)の質量割合(質量%)を示す。
【0041】
表1に示すとおり、実施例1においては、TREO(全希土類酸化物)の回収率が81.2質量%であり非常に高かった。一方、比較例1においては、固形物回収率が低い上に、TREO(全希土類酸化物)の回収率が51.0質量%と低かった。
また、実施例1においては、回収物中のTREO(全希土類酸化物)の含有率が94.5質量%であり非常に高かった。これは、回収物中のセリウム系研磨剤の純度が高い、すなわち不純物が少ないことを示す。
また、実施例1で得られた回収物の平均粒子径は0.8μmであった。ハードディスクの研磨に使用される研磨剤の平均粒子径は、一般的に、0.7μm〜1.0μm程度であることから、本発明の回収方法により得られた回収物は、そのままでも再利用可能であると考えられる。