(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機溶媒及び水の合計含有量に対する、ジエチレングリコール及び水の合計含有量[(ジエチレングリコール及び水の合計含有量)/(有機溶媒及び水の合計含有量)]が、重量比で0.85以上である、請求項1に記載のインクジェット記録用水系インク。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、有機溶媒、及び水を含有するインクジェット記録用水系インクであって、有機溶媒としてジエチレングリコールを30〜60重量%、水を30〜60重量%含有し、20℃における静的表面張力が35〜55mN/mであり、かつ、32℃における粘度が5〜7mPa・sであることを特徴とする。
【0009】
本発明の水系インクにより、真球状のインク滴を形成することができ、真円状のドットが得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の水系インクは、20℃における静的表面張力が35〜55mN/mであり、かつ、32℃における粘度が5〜7mPa・sであるが、インクジェットプリンターのヘッドのノズルからインクが吐出される際、表面張力及び粘度がこの範囲であることで、インク流路への濡れとヘッド表面への広がりの抑制のバランスが取れ、ヘッドから与えられるエネルギーが無駄なくインクに伝わり、ノズルから適量のインクが吐出されるものと考えられる。
一方、ジエチレングリコールは、グリセリン等3価以上のポリオールに比べ、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子とのなじみもよく、逆に1価のアルコールや長鎖のジオールのようにポリマー粒子の水不溶性ポリマーを溶かすこともなく、ポリマー粒子を安定に存在させることができる。
本発明の水系インクは水の他にジエチレングリコールを30〜60重量%含むことで、ノズルから吐出されたインクは安定した真球状のインク滴を形成することができ、それによって、高速印刷においても、記録媒体に真円状のドットを形成することができるものと考えられる。
以下、本発明のインクジェット記録用水系インクに用いられる各成分、各工程について説明する。
【0010】
<顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子>
本発明のインクジェット記録用水系インクに用いられる、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は、印字濃度の観点から、40〜200nmが好ましく、50〜150nmがより好ましく、60〜120nmが更に好ましく、85〜110nmがより更に好ましい。
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は、動的光散乱法で測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
以下、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子に用いられる各成分について説明する。
【0011】
(顔料)
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子に含有される顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
【0012】
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。これらの中でも発色性の観点から、キナクリドン系顔料が好ましい。キナクリドン顔料の例としては、例えばマゼンタであれば、C.I.ピグメント・レッド122が好ましい。
また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料も好適に用いることができる。キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド122)、又はβ型、γ型等の無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロロキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組み合わせからなる固溶体顔料が好ましい。
【0013】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基、又は第4級アンモニウム基等のカチオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。ここで、「他の原子団」としては、炭素数1〜12のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。アニオン性水不溶性ポリマー粒子に用いる場合には、親水性官能基が、カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基であることが好ましい。顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法により顔料表面に化学結合させればよい。
親水性官能基の量は特に限定されないが、自己分散型顔料1g当たり100〜3,000μmolが好ましく、親水性官能基がカルボキシ基の場合は、自己分散型顔料1g当たり200〜700μmolが好ましい。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0014】
(水不溶性ポリマー)
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子には、水分散体及びインクの印字濃度向上の観点から、水不溶性ポリマーが用いられる。ここで、「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの保存安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0015】
水不溶性ビニル系ポリマーとしては、(a)イオン性モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。なかでも、更に(c)マクロマー(以下「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0016】
〔(a)イオン性モノマー〕
(a)イオン性モノマーは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0017】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、水分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0018】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマー2種類以上を使用することができるが、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリレートを併用することが好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートとスチレンを併用することがより好ましい。
【0019】
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、水不溶性ポリマー粒子のインク中での保存安定性の観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロマーの数平均分子量は1,000〜10,000が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0020】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、アニオン性水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレートとフェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートを併用することがより好ましい。
【0021】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子をインク中で安定に分散させる観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、水不溶性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量%である。
(c)成分の含有量は、水不溶性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(d)成分の含有量は、水不溶性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性及びインクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0023】
(水不溶性ポリマーの製造)
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0024】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子のインク中での分散安定性と、インクの印字濃度の観点から、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000がより好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、20,000〜200,000が更に好ましい。なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0025】
<顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の製造>
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
また、任意の工程であるが、更に工程(3)を行ってもよい。
工程(3):工程(2)で得られた水分散体と架橋剤とを混合し、架橋処理して水分散体を得る工程
【0026】
(工程(1))
工程(1)では、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、メチルエチルケトンが好ましい。水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7〜11になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度は、分散安定性の観点から、10〜300モル%であることが好ましく、20〜200モル%がより好ましく、30〜150モル%が更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0027】
工程(1)における混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましい。水不溶性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましい。水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
前記水不溶性ポリマーの量に対する顔料の量の重量比〔顔料/水不溶性ポリマー〕は、分散安定性の観点から、40/60〜90/10であることが好ましく、50/50〜80/20であることがより好ましく、50/50〜70/30であることが更に好ましい。
【0028】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散における温度は、0〜40℃が好ましく、0〜25℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を小粒径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーでは、処理圧力やパス数の制御により、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することができる。処理圧力は、60〜200MPaが好ましく、80〜200MPaがより好ましい。またパス数は3〜30が好ましく、5〜25がより好ましい。
【0029】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する水不溶性ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0030】
(工程(3))
工程(3)は、任意の工程であるが、工程(2)で得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して水分散体を得る工程である。工程(3)を行うことが、水分散体及びインクの保存安定性の観点から好ましい。
ここで、架橋剤は、水不溶性ポリマーがアニオン性基を有するアニオン性水不溶性ポリマーである場合において、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
架橋剤の使用量は、水分散体及びインクの保存安定性の観点から、〔架橋剤/アニオン性水不溶性ポリマー〕の重量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、5/100〜25/100が更に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該アニオン性水不溶性ポリマー1g当たりのアニオン性基量換算で、該ポリマーのアニオン性基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
架橋処理して得られた架橋ポリマーは、架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基を0.5mmol以上含有することが好ましい。
架橋ポリマーの架橋率は、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、架橋剤の反応性基のモル数を、ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数で除したものである。
【0031】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子、有機溶媒、及び水を含有し、有機溶媒としてジエチレングリコールを30〜60重量%、水を30〜60重量%含有し、20℃における静的表面張力が35〜55mN/mであり、32℃における粘度が5〜7mPa・sである。
本発明の水系インクに含まれるジエチレングリコールの含有量は、水系インクの吐出性を良好にし、真球状のインク滴を形成させ、真円状のドットを得る観点から、水系インク中で、30〜60重量%であり、好ましくは35〜60重量%、より好ましくは40〜55重量%、更に好ましくは40〜52重量%である。
本発明の水系インクに含まれる水の含有量は、水系インクの吐出性を良好にし、真球状のインク滴を形成させ、真円状のドットを得る観点から、水系インク中で、30〜60重量%であり、好ましくは35〜55重量%、より好ましくは35〜50重量%、更に好ましくは40〜50重量%、より更に好ましくは40〜47重量%である。
【0032】
本発明の水系インクの20℃における静的表面張力は、水系インクの吐出性を良好にし、真球状のインク滴を形成させ、真円状のドットを得る観点から、35〜55mN/mであり、好ましくは35〜50mN/m、より好ましくは38〜48mN/m、更に好ましくは43〜48mN/mである。
本発明の水系インクの20℃における密度は、良好な吐出性、特に吐出を適切に維持する観点から、好ましくは1.02〜1.15であり、より好ましくは1.05〜1.12であり、更に好ましくは1.09〜1.12である。
本発明の水系インクの32℃における粘度は、良好な吐出性、特に吐出を適切に維持する観点から、5〜7mPa・sであり、好ましくは5.5〜6.5mPa・s、より好ましくは6.0〜6.4mPa・sである。
また、本発明の水系インクに含まれる顔料の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、水系インク中で、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは3〜7重量%である。
【0033】
本発明の水系インクは、水系インクに通常用いられるジエチレングリコール以外の有機溶媒、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
【0034】
本発明の水系インク中の有機溶媒及び水の合計含有量に対する、ジエチレングリコール及び水の合計含有量[(ジエチレングリコール及び水の合計含有量)/(有機溶媒及び水の合計含有量)]は、水系インクの吐出性を良好にし、真球状のインク滴を形成させ、真円状のドットを得る観点から、好ましくは重量比で0.85以上であり、より好ましくは0.90以上、更に好ましくは0.93以上である。
また、本発明の水系インク中の水に対するジエチレングリコールの含有量[ジエチレングリコール/水]は、水系インクの吐出性を良好にし、真球状のインク滴を形成させ、真円状のドットを得る観点から、好ましくは重量比で0.60〜1.60であり、より好ましくは0.80〜1.50、更に好ましくは0.85〜1.35、更により好ましくは0.90〜1.30、更により好ましくは1.18〜1.30である。
【0035】
ジエチレングリコール以外の有機溶媒としては、静的表面張力、粘度及び密度の観点から、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール、及びジエチレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
本発明において、ジエチレングリコール以外の有機溶媒の含有量は、本発明の効果である良好な吐出性を十分に発揮させる観点から、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
本発明において、界面活性剤の含有量は、本発明の効果である良好な吐出性を十分に発揮させる観点から、5重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましく、実質的に含まないことが更に好ましい。
【0036】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録の効果は、前記のインクジェット記録用水系インクを用いれば達成されるが、更に以下の方法によることで、本発明の効果をより高めることができ、好ましい。
本発明のインクジェット記録方法は、前記のインクジェット記録用水系インクをピエゾ方式のインクジェット記録装置で記録媒体に記録することが好ましい。
ピエゾ方式は、印刷時にインクの加熱や揮発が少なく、本発明の水系インクの組成を損なうことなく印刷することが可能である。
また、記録媒体の移動速度が40〜60m/分、インクジェット記録装置のピエゾ駆動周波数が18〜22kHzという条件で前記水系インクの吐出を行うことが好ましい。
本発明の効果は記録媒体の移動速度が比較的速い場合に効果が明確になる。
【0037】
本発明のインクジェット記録方法において用いられる記録媒体は、特に制限されないが、本発明のインクを適度に浸透させることができるものであることが好ましく、紙媒体であることがより好ましい。紙媒体としては、普通紙、フォーム用紙、コート紙、写真用紙等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、水不溶性ポリマーの重量平均分子量、水分散体の固形分濃度、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径、水系インクの静的表面張力、水系インクの粘度、及び水系インクの密度の測定は、以下の方法により行った。また、実施例及び比較例で得られた水系インクについて、以下の方法により吐出性を評価した。
【0039】
(1)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレン〔東ソー株式会社製、TS−50(重量平均分子量500)、F−10(重量平均分子量96,400)、F−850(重量平均分子量8,420,000)、及び西尾工業株式会社製ポリスチレン(重量平均分子量4,000、30,000、900,000)〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ポリマー濃度0.3重量%のN,N−ジメチルホルムアミド溶液とし、注入量を100μLとした。
【0040】
(2)水分散体の固形分濃度の測定
30mLの軟膏容器にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、重量を測定した。揮発分除去後のサンプルの重量を固形分として、添加したサンプルの重量で除して固形分濃度とした。
【0041】
(3)顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社、型番:ELS−8000、キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10
-3重量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0042】
(4)水系インクの静的表面張力の測定
表面張力計(協和界面科学株式会社製、商品名:CBVP−Z)を用いて、白金プレートを5gのインクの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させ、20℃における水系インクの静的表面張力を測定した。
【0043】
(5)水系インクの粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)により、標準ローター(1°34'×R24)を用いて測定温度32℃、測定時間1分の条件で測定した。回転数は測定可能な回転数で最も大きいものとし、6mPa・s未満のサンプルについては100rpm、6mPa・s以上12mPa・s未満のサンプルについては50rpmを用いた。
【0044】
(6)水系インクの密度の測定
密度計(Anton Paar社製、商品名:DMA38)を用い、水系インクのサンプル液0.7mlをセル内に注入し、液温20℃の密度を測定した。
【0045】
(7)吐出性の評価1(吐出速度)
インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、商品名:KJ4B−HD06MHG−STDV)を装備した吐出観察装置(株式会社トライテック製、商品名:Dot−View)に実施例及び比較例で得られた水系インクを充填し、手動測定モードにおいて、ヘッド電圧26V、周波数20kHz、吐出液適量7pl、ヘッド温度32℃、吐出発数20発、負圧−4.0kPa、ノズル全ピンを設定し、設定した吐出速度を8.0m/秒とした。インクを吐出させ、インク液滴がノズル面から0.9mmから1.1mmの間を通過する時間から吐出速度を算出した。設定した吐出速度から遅くなるほど着弾位置がずれるため好ましくなく、設定した吐出速度と同じか速いものは着弾位置を正確に調整することができ良好であり、値が大きいほど、吐出性に優れる。なお、インク滴が2滴に分裂し飛翔している場合は、先頭の液滴の飛翔液滴の速度を評価結果とした。
【0046】
(8)吐出性の評価2(一滴性)
(7)吐出性の評価1(吐出速度)の評価と同様の設定でインクを吐出させ、インク液滴がノズル面から0.9mmから1.1mmの間を通過する間(評価区間)、液滴が1滴であるか、2滴に分裂しているかを目視にて観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
A:液滴が評価区間全区間で1滴を保つ
B:液滴が評価区間の初期は分裂しているが最後は1滴に合一している
C:液滴が評価区間全区間で2滴に分裂している
【0047】
(9)吐出性の評価3(印刷ドットの真円性)
インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、商品名:KJ4B−HD06MHG−STDV)を装備した印刷装置(株式会社トライテック製、商品名:One Pass Jet)に水系インクを充填し、解像度:普通、出力値:2値、多値化:ベイヤーティザ、出力サイズ:小、ヘッド電圧:26V、周波数:20kHz、ヘッド温度:32℃に設定し、記録媒体としてA4写真用紙(エプソン製、商品名:クリスピア)を用い、記録媒体を50m/分で移動させながら印刷し印刷物を得た。この印刷物のドットを目視にて観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
A:印刷ドットが真円状である
B:印刷ドットが楕円状である
C:印刷ドットが2つに分裂している
【0048】
製造例1(水不溶性ポリマー溶液の調製)
2つの滴下ロート1及び2を備えた反応容器内に、表1の「初期仕込みモノマー溶液」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
一方、表1の「滴下モノマー溶液1」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液1を得、滴下ロート1中に入れて、窒素ガス置換を行った。
また、表1の「滴下モノマー溶液2」に示すモノマー、溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤を混合して、滴下モノマー溶液2を得、滴下ロート2中に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を攪拌しながら75℃に維持し、滴下ロート1中の滴下モノマー溶液1を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。次いで滴下ロート2中の滴下モノマー溶液2を2時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の混合溶液を75℃で2時間攪拌した。次いで前記の重合開始剤2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65)2.7部をメチルエチルケトン121.5部に溶解した重合開始剤溶液を調製し、該混合溶液に加え、75℃で1時間攪拌することで熟成を行った。前記重合開始剤溶液の調製、添加及び熟成を更に6回行った。次いで反応容器内の反応溶液を85℃に2時間維持し、ポリマー溶液(固形分濃度40.84%)を得た。
得られたポリマー溶液の一部を減圧して溶媒を除去し、水不溶性ポリマーを得た。得られた水不溶性ポリマーの重量平均分子量は160,000であった。なお、表1中の数値は、有効分の重量部を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
製造例2(顔料水分散体(A)の製造)
(工程(1))
製造例1で得られたポリマー溶液(固形分濃度40.84%)326.48部を、メチルエチルケトン(MEK)31.38部と混合し、ポリマーのMEK溶液を得た。容積が3Lのディスパーに該ポリマーのMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水1107.6部、5N水酸化ナトリウム水溶液14.33部、及び25%アンモニア水溶液4.11部を添加し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。次いでカーボンブラック(キャボット社製、商品名:モナーク880)200部を加え、6000rpmで3時間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名、型式:M−140K)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、顔料水分散体1を得た。固形分濃度は19.6%であった。
【0051】
(工程(2))
前記工程(1)で得られた顔料水分散体1 6300部に、イオン交換水11340部を加え、得られた顔料水分散体2の800部を1000mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機(日立工機株式会社製、商品名:himac CR7、設定温度20℃)を用いて6000rpmで30分間、遠心分離処理を行い、上層から720部を抜き出し回収した。顔料分散体2の残分についても同様に遠心分離処理を行って、顔料水分散体3 15870部を得た。
顔料水分散体3を2Lのナスフラスコに投入し、減圧蒸留装置(ロータリーエバポレーター、東京理化器械株式会社製、商品名:N−1000S)を用いて、回転数50rpmで、32℃に調整した温浴中、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去し、その後、温浴を62℃に調整し、更に圧力を0.07MPaに下げて4時間濃縮を行い、目標の固形分濃度が23%の顔料水分散体4を得た。得られた顔料水分散体4を遠心分離した後、液層部分を5μmと1.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、商品名:Minisart)で順に濾過して、顔料水分散体5(固形分濃度実測値25.76%)を得た。
【0052】
(工程(3))
工程(2)で得られた顔料水分散体5 3500部(顔料537.1部、水不溶性ポリマー364.5部)にイオン交換水700部を添加し、70℃で2時間攪拌した。その分散液に、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量129)を17.8部添加し、70℃で1時間撹拌し、更に、エポキシ架橋剤デナコールEX321Lを17.8部添加し70℃で1時間攪拌した。25℃に冷却後、前記5μmと1.2μmのフィルターで順にろ過し、更に0.45μmのフィルターでろ過し、顔料水分散体(A)を得た。該顔料水分散体(A)の固形分濃度は22.1%、架橋率は50モル%であった。
また、得られた顔料水分散体(A)中の、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は93.9nmであった。
【0053】
製造例3(顔料水分散体(B)の製造)
(工程(1))
製造例1で得られたポリマー溶液(固形分濃度40.84%)2448.58部を、メチルエチルケトン(MEK)243.38部と混合し、ポリマーのMEK溶液を得た。容積が30Lのディスパーに該ポリマーのMEK溶液を投入し、2000rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水8287.78部、5N水酸化ナトリウム水溶液179.13部、及び25%アンモニア水溶液30.84部を添加し、20℃の水浴で冷却しながら、2000rpmで15分間撹拌した。次いでカーボンブラック(キャボット社製、商品名:モナーク880)1500部を加え、2600rpmで3時間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名、型式:MF−7115)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、顔料水分散体6を得た。固形分濃度は19.7%であった。
【0054】
(工程(2))
顔料水分散体1を顔料水分散体6に変更した以外は製造例2の工程(2)と同様にして、顔料水分散体10(固形分濃度23.88%)を得た。
【0055】
(工程(3))
顔料水分散体5を顔料水分散体10 4534部(顔料641.9部、水不溶性ポリマー440.8部)に、イオン交換水を500部に、エポキシ架橋剤を21.1部ずつ2回の添加に変更した以外は製造例2の工程(3)と同様にして、顔料水分散体(B)を得た。該顔料水分散体(B)の固形分濃度は22.23%、架橋率は50モル%であった。
また、得られた顔料水分散体(B)中の、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は96.0nmであった。
【0056】
製造例4(顔料水分散体(C)の製造)
(工程(1))
製造例1で得られたポリマー溶液(固形分濃度40.84%)142.18部を、メチルエチルケトン(MEK)338.97部と混合し、ポリマーのMEK溶液を得た。容積が3Lのディスパーに該ポリマーのMEK溶液を投入し、1400rpmの条件で撹拌しながら、イオン交換水1044.57部、5N水酸化ナトリウム水溶液10.40部、及び25%アンモニア水溶液5.97部を添加し、0℃の水浴で冷却しながら、1400rpmで15分間撹拌した。次いでC.I.ピグメント・レッド122(大日精化社製、商品名:C.F.R.6111T)200部を加え、6000rpmで3時間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名、型式:M−140K)を用いて150MPaの圧力で20パス分散処理し、顔料水分散体11を得た。固形分濃度は11.50%であった。
【0057】
(工程(2))
前記工程(1)で得られた顔料水分散体11を2Lのナスフラスコに投入し、減圧蒸留装置(ロータリーエバポレーター、東京理化器械株式会社製、商品名:N−1000S)を用いて、回転数50rpmで、32℃に調整した温浴中、0.09MPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去し、その後、温浴を62℃に調整し、更に圧力を0.07MPaに下げて4時間濃縮を行い、顔料水分散体12を得た。得られた顔料水分散体12を遠心分離した後、液層部分を5μmと1.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、商品名:Minisart)で順に濾過して、顔料水分散体13(固形分濃度23.20%)を得た。
【0058】
(工程(3))
工程(2)で得られた顔料水分散体13 870部(顔料155.4部、水不溶性ポリマー46.5部)に、エポキシ架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX321L、エポキシ当量129)を4.53部添加し、25℃で15分間攪拌した後、70℃で2時間撹拌した。25℃に冷却後、前記5μmと1.2μmのフィルターで順にろ過し、顔料水分散体(C)を得た。該顔料水分散体(C)の固形分濃度は23.77%、架橋率は50モル%であった。
また、得られた顔料水分散体(C)中の、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子の平均粒径は103.8nmであった。
【0059】
実施例1(水系インク(1)の製造)
製造例2で得られた顔料水分散体(A)27.6部(顔料3.5部、ポリマー2.6部)に対し、ジエチレングリコール51部、防錆剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水和物(シグマアルドリッチ社製)0.05部及びベンゾトリアゾール0.01部、防腐剤としてプロキセルLVS(アーチケミカルズジャパン株式会社製、商品名)0.02部、及びイオン交換水21.32部を添加、混合し、得られた混合液を0.45μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、商品名:Minisart)で濾過し、水系インク(1)を得た。評価結果を表2に示す。
【0060】
実施例2〜6及び比較例1〜5(水系インク(2)〜(11)の製造)
実施例1において、各成分の配合量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、水系インク(2)〜(11)を得た。評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2の結果から、実施例の水系インクは、比較例の水系インクに比べて、吐出性に優れることが分かる。